説明

土壌浄化方法

【課題】重油などの有機物で汚染された土壌を、浄化効率の低下を防止しつつ短期間に浄化することを可能とする方法を供給する。
【解決手段】有機物により汚染された土壌を含む汚染領域に複数の注入井戸とそれらの間に配した揚水井戸をそれぞれ地下水面よりも下方に達するように設ける工程、前記注入井戸から土壌浄化剤を注入し且つ前記揚水井戸から揚水を行う工程、および土壌の通水性維持改善工程を有することを特徴とする土壌浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物、特に油分により汚染された土壌を原位置で浄化する方法に関する。なお、本発明でいう「原位置で浄化する方法」とは、地中の汚染土壌を掘り起こさずにその場所で浄化する方法を意味する。
【背景技術】
【0002】
産業活動に伴い生じる種々の汚染物質による土壌汚染が問題となっており、健康に対する影響の懸念から、2003年2月に土壌汚染対策法が施行された。
しかし、土壌汚染対策法では、ベンゼンは規制対象となっているものの、他の石油類による土壌汚染は対象となっていない。石油類に起因する油膜や油臭がある土壌は、生活環境保全上、汚染された土壌として認識されることが多く、この場合は浄化が必要不可欠となる。なお、前記石油類の油膜や油臭に端を発する油汚染土壌の対策については、「油汚染対策ガイドライン」が環境省より2006年4月に発行された。
【0003】
石油類などの有機物により汚染された土壌を浄化する技術としては、例えば界面活性剤を含む土壌浄化剤により汚染土壌を浄化する方法がある(例えば、下記特許文献1〜3を参照。)。界面活性剤を含む土壌浄化剤は地盤に注入した際の拡散性が高く、少ない使用量でも広範囲に亘って汚染物質を効果的に浄化できる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−164844号公報
【特許文献2】特開2005−279423号公報
【特許文献3】特開2007−83169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者等は、上記特許文献1〜3に記載の方法では、汚染土壌の土粒子に付着した有機物が界面活性剤を含む土壌浄化剤により剥離されて分離するが、浄化対象となる有機物がC重油などの粘度が高い石油類の場合には、剥離分離した有機物が土粒子の間隙に詰まりさらなる浄化が困難になるという問題があることを知見した。
【0006】
本発明の目的は、上記した問題点を改善することにあり、特に土壌浄化剤を用いる汚染土壌の原位置での浄化を作業の進行に伴って起こる浄化効率の低下を防止しつつ効果的に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、有機物により汚染された土壌を含む汚染領域に複数の注入井戸とそれらの間に配した揚水井戸をそれぞれ地下水面よりも下方に達するように設ける工程、注入井戸から土壌浄化剤を注入し且つ揚水井戸から揚水を行う工程、および土壌の通水性維持改善工程を有することを特徴とする土壌浄化方法である。本発明の方法によれば、土壌浄化剤により土粒子から剥離分離した有機物がC重油などの粘度が高い石油類の場合でも、通水性維持改善工程を有するので、土壌の通水性が確保されて剥離分離した有機物を含む地下水の回収を容易に行うことができる。
【0008】
本発明の土壌浄化方法で用いる土壌の通水性維持改善工程は、用いた土壌浄化剤により分離(分解を伴った分離をも包含する。)した有機物に起因する土壌の通水性の低下を防止する工程であり、次のような手段が好ましく用いられる。
【0009】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第1の例は、汚染領域に対して振動体により振動を付与する工程である。この工程によれば、土粒子に付着している有機物に振動が付与されることにより、該有機物の剥離分離性と剥離分離した有機物の移動性が維持改善されて該有機物の回収効率が向上する。
【0010】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第2の例は、土壌浄化剤を注入井戸に注入する際に、土壌浄化剤に対して一定または間欠の圧力を付与する工程である。この工程によれば、土粒子に付着している有機物に対して一定または間欠の圧力が付与されることにより、該有機物の剥離分離性と剥離分離した有機物の移動性が維持改善されて該有機物の回収効率が向上する。
【0011】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第3の例は、攪拌混合装置により土壌浄化剤と土壌とを攪拌混合する工程である。この工程によれば、攪拌混合装置により有機物で汚染された土壌の浄化を確実に行うことができ、土粒子から剥離分離した該有機物が目詰まりを起こす恐れもない。
【0012】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第4の例は、地下水面より上方の位置まで汚染領域の土壌を掘削し、該掘削面上に板状部材または気密性シートを被覆したのち、該部材またはシートの上に盛土を施工する工程である。この工程によれば、地下水面の上方を板状部材または気密性シートで被覆しているために汚染領域から地下水や気体がもれにくく、注入井戸における水頭圧の損失を防止することができ、該圧力を遠方まで到達させることができる。
【0013】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第5の例は、地下水面より上方の位置からも土壌浄化剤を散布する工程である。この工程によれば、汚染領域に対して側方および上方の2方向から土壌浄化剤が供給されるので、汚染領域に土壌浄化剤が確実に供給され浄化効率もよい。
【0014】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第6の例は、注入井戸から土壌浄化剤を注入する前に、該汚染領域の中央部の土壌を攪拌する工程である。この工程によれば、剥離分離した有機物が粘度の高い石油類の場合でも、通水性が確保され該有機物の回収を容易かつ確実に行うことができる。
【0015】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第7の例は、汚染領域の土壌に棒状部材により水平方向の穴を設ける工程である。この工程によれば、土密度が小さくなり通水性が向上するので、剥離分離した有機物の回収を容易に行うことができる。
【0016】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第8の例は、汚染領域の土壌をスチームなどの加熱手段により加熱する工程である。この工程によれば、土粒子から剥離分離した有機物が加熱されて粘度が下がるので、該有機物が目詰まりを起こすことがなく容易に回収することができる。
【0017】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第9の例は、土壌浄化剤を注入した後に水または先に注入したものより低濃度の土壌浄化剤を注入する工程である。この工程によれば、先に注入された比較的高濃度の土壌浄化剤により土粒子から剥離分離した有機物が、後から注入された水または比較的低濃度の土壌浄化剤により押し流されるので、該有機物が目詰まりを起こすことがなく容易に回収することができる
【0018】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第10の例は、汚染領域の土壌を掘削して毛管現象により該掘削面の近傍まで上昇してきた有機物を取り除く工程である。この工程によれば、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こした場合でも、汚染領域の上方から該有機物を取り除くことができるので、目詰まりによる影響を最小限に抑えることができる
【0019】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第11の例は、汚染領域の上方および下方に遮水層を設け、該遮水層により上下を挟まれた領域にフェントン剤、界面活性剤などの薬剤を注入したのち、水または土壌浄化剤を注入する工程である。この工程によれば、汚染領域に注入した薬剤が周囲の土壌中に流出することなく汚染領域に集中的に供給されるので、汚染土壌の浄化効率が高められ、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れも低減される。
【0020】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第12の例は、汚染領域に貫入した注入管の先端部から汚染領域へ向けて土壌浄化剤を高圧で噴射する工程である。この工程によれば、汚染領域が高圧の土壌浄化剤で攪拌混合されるので、土壌中の空隙が十分に確保され、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れが少ない。
【0021】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第13の例は、注入井戸と揚水井戸との間に設けた鉛直ドレーンから有機物を回収する工程である。この工程によれば、鉛直ドレーンの数を適宜調整することにより土粒子から剥離分離した有機物が鉛直ドレーンから順次回収されるので、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れが低減される。
【0022】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第14の例は、汚染領域に大規模な振動を付与して液状化を発生させたのち、該汚染領域の地表面まで上昇してきた有機物を取り除く工程である。この工程によれば、土粒子からの有機物の剥離分離が促進されるとともに、液状化現象を利用して該有機物の回収を行うので、該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れが少ない。
【0023】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第15の例は、注入井戸の下端部まで挿入した注入管の先端部から汚染領域に向かう斜め上方へ土壌浄化剤を高圧で噴射する工程である。この工程によれば、土壌浄化剤と汚染領域との接触面積が大きくなるので、汚染土壌の浄化を効率的に行うことができ、剥離分離した有機物が目詰まりを起こす恐れも低減される。
【0024】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第16の例は、注入井戸と揚水井戸との間にその先端部が汚染領域より下方に達するようにスパージング井戸を設け、該スパージング井戸の先端部から高圧の空気を噴射する工程である。この工程によれば、高圧空気の作用により土粒子に付着している有機物の剥離分離が促進されるとともに、剥離分離した有機物が該空気に連行して容易に移動できるので、該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れが少ない。
【0025】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第17の例は、土壌浄化剤としてアルカリ性溶液を用いるか、または土壌浄化剤を注入する前に過酸化水素水などのフェントン剤を注入することにより有機物の粘度を低下させる工程である。この工程によれば、有機物がC重油などの粘度が高い石油類の場合でも、アルカリ溶液の作用によりその粘度が低減されたり、フェントン剤の作用によりその濃度が低減されたりするので、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れが少ない。
【0026】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第18の例は、土壌浄化剤としてプラスに帯電した土壌浄化剤を用い、注入井戸に陽極を配置し揚水井戸に陰極を配置して通電する工程である。この工程によれば、剥離分離した有機物がプラスに帯電した土壌浄化剤(陽イオン)に連行して容易に移動できるので、該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れが少ない。
【0027】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第19の例は、地表から汚染領域に達する吸引管を貫入して有機物を真空吸引する工程である。この工程によれば、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子間で目詰まりを起こした場合でも、該有機物を吸引管で直接吸引するので該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れがない。
【0028】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第20の例は、汚染領域を水平方向に貫通するように周面に開口部を有する水平井戸を設け、該水平井戸の注入口から土壌浄化剤を注入し、揚水井戸または水平井戸の揚水口から揚水する工程である。この工程によれば、剥離分離した有機物が土壌中を移動する距離が少なくなるので、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす可能性が低減される。
【0029】
本発明で用いるに適する通水性維持改善工程の第21の例は、汚染領域を鉛直方向に貫通するように円筒部材を設け、該円筒部材の下端部から土壌浄化剤を高圧で注入する工程である。この工程によれば、周囲を拘束された土壌中に水圧が加わるので、剥離分離した有機物が地下水とともに上方へ押し流されて、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす可能性が低減される。
【0030】
上記した第1〜第21の工程例は、必要に応じ2つ以上を組合せることも可能である。
本発明では土壌浄化剤として、界面活性剤を含有する水溶液が好ましく用いられ、特に、界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアミン化合物を含む組成物、またはジ−2−エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウム(AOT)とアリカリ土類金属塩を含む組成物が好ましく用いられる。これらを用いて本発明方法を実施することにより、浄化対象がC重油などの粘度が高い石油類の場合でも、土粒子に付着しているこれらの石油類を容易かつ確実に剥離分離して汚染土壌の浄化を行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の土壌浄化方法によれば、汚染物質がC重油などの粘度の高い油分を主体とする場合でも、浄化作業の過程で浄化効率を低下させることなく、浄化作業全体をより短期間に効率的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、重油などの有機物で汚染された土壌を含む汚染領域の地下水面よりも下方に達するように複数の注入井戸とそれらの間に配した揚水井戸を設け、各注入井戸から界面活性剤含有水溶液を典型例とする土壌浄化剤を注入し揚水井戸から揚水を行うと共に土壌の通水性維持改善操作を行う原位置浄化方法である。
【0033】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の土壌浄化方法において用いられる土壌浄化システムの好適な一例を示す説明図である。図1に示す土壌浄化システム100は、地表から順に不飽和層(非帯水層)1および飽和層(帯水層)2が存在する汚染領域において、飽和層2中に存在する汚染領域(有機物層)3を原位置で浄化するためのシステムである。
【0034】
土壌の汚染原因となる有機物は特に限定されないが、本発明は、鉱油、合成油および動植物油、ならびにこれらの廃油などの油分により汚染された土壌を浄化する方法として好適である。上記油分のうち、鉱油としては、ガソリン、灯油、軽油および重油などの燃料油、潤滑油などが挙げられる。
【0035】
土壌浄化システム100においては、汚染領域に複数の注入井戸10およびそれらの中間に位置する揚水井戸11がそれぞれ離間して設けられている。注入井戸10および揚水井戸11は、それぞれ地下水面Lよりも下方に達するように、すなわちそれらの下端が地下水面Lよりも下方に位置するように設けられており、飽和層2においては注入井戸10から揚水井戸11へ向かう地下水の動水勾配が形成されている。注入井戸10は有機物層3を囲むように複数個、たとえば3〜15個設置し、揚水井戸11は設置された注水井戸10のほぼ中心(汚染領域の中央部)に設置する。
【0036】
注入井戸10の上端には配管32を介して薬剤混合供給装置31が連結されている。これにより、土壌浄化剤(薬剤)が薬剤混合供給装置31から注入井戸10を通って飽和層2に注入される。本発明で用いうる土壌浄化剤としては、有機剥離剤、化学酸化剤および油軟化剤が例として挙げられる。
【0037】
有機剥離剤としては、炭酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどのアルカリ剤、アニオン系またはノニオン系の界面活性剤などがあり、これらは水溶液の状態で注入される。化学酸化剤としては、クエン酸、硫酸第一鉄、過酸化水素などのフェントン反応を目的とした薬剤がある。油軟化剤としては、植物系溶剤、軽質鉱物油、アルカン、シクロアルカンを主成分とした炭化水素系溶剤がある。
【0038】
本発明においては、これらの土壌浄化剤の中でも、界面活性剤の水溶液を用いることが好ましい。具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアミン化合物を含む組成物、または、ジ−2−エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウム(AOT)と硫酸マグネシウムや塩化カルシウムなどのアリカリ土類金属塩を含む組成物の使用が特に好ましい。界面活性剤は水溶液の形で用いられる。
【0039】
注入井戸10から飽和層2に注入された土壌浄化剤は、地下水の流れAに沿って飽和層2中を移動し、有機物層3に到達する。そして、土壌浄化剤により有機物層3に含まれる土粒子に付着している有機物が分解され剥離分離して、汚染土壌が浄化される。このとき、浄化対象となる有機物がC重油などの粘度が高い石油類の場合には、剥離分離した有機物が土粒子の間隙に詰まり土壌の通水性が低下するため、剥離分離した有機物の回収が困難になることがある。そこで、本発明においては、通水性維持改善工程により該有機物に起因して土壌の通水性が低下することを防止し、または前記有機物に起因して低下した土壌の通水性を改善して、剥離分離した有機物を含む地下水の回収を容易に行えるようにしている。
【0040】
揚水井戸11の上端には配管23を介して揚水ポンプ20が連結されており、この揚水ポンプ20により揚水(薬剤、水、有機物の混合液)が地上に汲み上げられる。採取された揚水は揚水ポンプ20から油水分離槽21および分留装置22へ送られ、揚水が薬剤と有機物の混合液Aおよび薬剤と水の混合液Bに分離される。分離された混合液Aは、配管27から回収される。一方、分離された混合液Bは、配管28を通って薬剤混合供給装置31へ送られて薬剤の濃度調整を行った後に再利用される。
本発明で用いられる通水性維持改善手段工程としては、以下のものがある。図2〜図13はこれらの説明図である。
【0041】
(1)振動付与
注入井戸10から飽和層2に注入された土壌浄化剤が有機物層3に到達すると、土壌浄化剤により有機物層3の土粒子に付着している有機物が分解され剥離分離するが、このとき振動ローラ41、平面バイブレータ(図示せず)、棒状バイブレータ42などの振動体により有機物層3に対して振動を付与する。有機物層3への振動付与は、注入井戸10からの土壌浄化剤の注入と同時に行い剥離分離した有機物が土粒子の間隙に詰まらないようにすることが好ましいが、注入井戸10からの土壌浄化剤の注入が完了した後で振動を付与して有機物の詰まりを解消することもできるし、土壌浄化剤の注入と振動付与を交互に繰り返し行うこともできる。これにより、土粒子に付着している有機物の剥離分離が促進されるとともに、剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こすことなく、該有機物が地下水の流れAに沿って飽和層2中を移動して円滑に回収される(図2)。
【0042】
(2)加圧注入
注入井戸10から土壌浄化剤を注入する際に、注入井戸10の上端部に接続された加圧ポンプ51により該土壌浄化剤に対して一定または間欠の圧力を付与する。土壌浄化剤への加圧は、注入井戸10からの土壌浄化剤の注入と同時に行い剥離分離した有機物が土粒子の間隙に詰まらないようにすることが好ましいが、注入井戸10からの土壌浄化剤の注入が完了した後で加圧を行い有機物の詰まりを解消することもできるし、土壌浄化剤の注入と加圧を交互に繰り返し行うこともできる。土壌浄化剤に加圧する方法としては、注入井戸10の上端部に蓋をしたのち加圧ポンプ51により加圧する方法が好ましいが、注入井戸10と揚水井戸11との水頭差により加圧力を得るようにしてもよい。このとき土壌浄化剤に加える加圧力は土壌の土質などにもよるが、1kPa〜100kPa程度である。より具体的には、注入井戸10からの土壌浄化剤の注入量を多くして注入井戸10の水位を上昇させるとともに、揚水井戸11からの揚水量を少なくして揚水井戸11の水位を下降させることにより、注入井戸10から揚水井戸11へ向かう動水勾配を大きくする方法がある。また、注入井戸10と揚水井戸11との間に井戸を設けて、最初はこの井戸から揚水を行い土粒子から剥離分離した有機物を回収し、該井戸より上流側の土壌浄化が完了した後は該井戸から土壌浄化剤の注入を行い、さらに下流側に設けた井戸から揚水を行い土粒子から剥離分離した有機物を回収するという操作を順次行うようにしてもよい。この場合には、井戸どうしの間隔を狭くすることにより、より大きな動水勾配が得られて効果的である。これにより、注入井戸10から揚水井戸11へ向かう地下水の流れAが強められるので、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こすことがなく、該有機物が地下水の流れAに沿って飽和層2中を移動して円滑に回収される(図3)。
【0043】
(3)攪拌混合
注入井戸10から飽和層2に注入された土壌浄化剤が有機物層3に到達すると、土壌浄化剤により有機物層3の土粒子に付着している有機物が分解され剥離分離するが、このときトレンチャなどの攪拌混合装置61を有機物層3に貫入して土壌浄化剤と有機物層3の土壌とを攪拌混合する。土壌の攪拌混合は、注入井戸10からの土壌浄化剤の注入が完了した後で有機物の詰まりを解消することを目的として行うことが好ましいが、土壌浄化剤の注入と同時に行い剥離分離した有機物が土粒子の間隙に詰まらないように行うこともできるし、土壌浄化剤の注入と攪拌混合を交互に繰り返し行うこともできる。これにより、有機物層3の浄化が確実に行われるとともに土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れもない(図4)。
【0044】
(4)浄化箇所密封
汚染領域の土壌を地下水面より上方の位置まで掘削し、該掘削面上に板状部材または気密性シート71を被覆したのち該部材またはシート71の上に盛土を施工して埋め戻す。そして、該汚染領域に注入井戸10と揚水井戸11を設けて、注入井戸10から土壌浄化剤を注入して揚水井戸11から揚水することにより、汚染土壌の浄化を行う。これにより、板状部材または気密性シートで被覆された汚染領域からの地下水や気体の流出が抑制されて注入井戸10における水頭圧の損失が防止されるので、注入井戸10から付与した圧力が遠方まで到達できるとともに、地下水の流れAが強められて有機物層3の浄化効率が向上する(図5)。
【0045】
(5)表面散布
汚染領域に注入井戸10と揚水井戸11を設けて、注入井戸10から土壌浄化剤を注入して揚水井戸11から揚水するとともに、地下水面より上方の位置から散布装置(散布ノズル)81により土壌浄化剤を散布することにより、汚染土壌の浄化を行う。これにより、汚染領域に対して側方および上方の2方向から土壌浄化剤が供給されるので、有機物層3の浄化効率が向上する(図6)。
【0046】
(6)汚染領域中央部のほぐし
まず、バックホウなどの掘削装置により汚染領域の中央部上方(掘削箇所)の土壌を掘削して、汚染領域(有機物層3)の上面を露出させる。次に、トレンチャなどの攪拌混合装置61により汚染領域(有機物層3)の中央部(撹拌箇所)の土壌を攪拌したのち、前記掘削した土壌を埋め戻す。最後に、汚染領域の外側に注入井戸10を設けるとともに汚染領域の中央部に揚水井戸11を設けて該注入井戸10から土壌浄化剤を注入し、汚染領域の中央部において地下水を揚水ポンプ20で吸引して揚水井戸11から汲み上げる。これにより、土粒子から剥離分離した有機物を含む地下水の通水性が向上するので、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こすことがなく確実に回収される(図7)。
【0047】
(7)通水経路の形成
汚染領域に注入井戸10と揚水井戸11を設けて、注入井戸10から土壌浄化剤を注入して揚水井戸11から揚水するとともに、汚染領域の土壌に棒状部材により水平方向の穴91をあけることにより、汚染土壌の浄化を行う。これにより、汚染領域の土壌中に水みちが形成されることとなり、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こすことがなく確実に回収される(図8)。
【0048】
(8)汚染領域加熱
スチーム注入装置45を用いてスチーム注入井戸46から有機物層3へスチームを注入するか、または事前に加熱した土壌浄化剤を注入井戸10から注入することにより、有機物層3中の地下水の温度を30℃〜80℃の範囲で加熱する。なお、スチームに代えて温水などの加熱した流体を用いることができる。また、土壌浄化剤の種類によっては高温での反応性が低い場合もあるので、このようなときにはスチームなどで加熱した地下水を適宜冷ました後で土壌浄化剤を注入する。これにより、土粒子から剥離分離した有機物が加熱されてその粘度が下がるので、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こすことがなく容易に回収される(図9)。
【0049】
(9)薬剤注入方法
最初に薬剤混合供給装置31から供給される比較的高濃度の土壌浄化剤を注入井戸10から注入し、所定時間経過後に液体供給装置47から供給される水または比較的低濃度の土壌浄化剤を注入することにより、汚染土壌の浄化を行う。そして、必要に応じてこの工程を繰り返し行う。これにより、先に注入された比較的高濃度の土壌浄化剤により土粒子から剥離分離した有機物が、後から注入された水または比較的低濃度の土壌浄化剤により押し流されるので、該有機物が目詰まりを起こすことがなく容易に回収することができる(図10)。
【0050】
(10)被覆土はぎ取り
注入井戸10から飽和層2に注入された土壌浄化剤が有機物層3に到達すると、土壌浄化剤により有機物層3の土粒子に付着している有機物が剥離分離するが、このとき土壌浄化剤と有機物との混合液が毛管現象により有機物層3より上方の土壌中を上昇する現象が見られる。そこで、有機物層3より上方の土壌を一定深さまで掘削して掘削土は汚染領域3の近傍に仮置きしておき、該掘削面に上昇してきた前記混合液を真空ポンプなどで吸引して取り除いた後、仮置きしておいた掘削土を浄化された土壌の上に埋め戻す。このとき、前記土壌を地下水面まで掘削して該地下水面に浮いている前記混合液を取り除くようにしてもよい。取り除いた処理液は油水分離槽へ送られて浄化処理に供される。これにより、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こした場合でも、有機物層3の上方から該有機物を取り除くことができるので、目詰まりによる影響を最小限に抑えることができる(図11)。
【0051】
(11)上下遮水層
有機物層3の上方および下方にセメントモルタル、ベントナイトなどの遮水材を圧入して遮水層48を設け、該遮水層により上下を挟まれた領域に注入管49によりフェントン剤、界面活性剤などの薬剤を注入してしばらく放置する。その後、注入井戸10から水または土壌浄化剤を注入して揚水井戸11から揚水することにより、前記薬剤により剥離分離された有機物を回収する。これにより、有機物層3に注入した薬剤が周囲の土壌中に流出することなく有機物層3に集中的に供給されるので、汚染土壌の浄化効率が高められ、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れも低減される(図12)。
【0052】
(12)自由推進高圧水噴射
注入井戸10の近傍で揚水井戸11よりの土壌中に注入管55を貫入して注入管55の先端部が有機物層3に到達したら、該先端部を揚水井戸11へ向かう水平方向に向けて折り曲げて該先端部に設けた高圧噴射ノズルから土壌浄化剤を高圧(ウォータージェット)で噴射する。そして、土壌浄化剤と有機物層3の土粒子に付着している有機物とが攪拌混合されてスラリー状の混合液となったら、注入井戸10から注水して揚水井戸11から揚水することにより、該混合液を回収して汚染土壌を浄化する。さらに、注入管55の先端部を折り曲げた状態のまま水平方向へ貫入させて有機物層3のまだ浄化されていない汚染領域に到達したら、高圧噴射ノズルから土壌浄化剤を高圧で噴射して上記と同様にして汚染土壌を浄化する。以下、同様の操作を繰り返すことにより、有機物層3全体の浄化を行う。これにより、汚染領域が高圧の土壌浄化剤で攪拌混合されるので、土壌中の空隙が十分に確保され、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れが少ない(図13)。
【0053】
(13)鉛直ドレーン
注入井戸10と揚水井戸11との間にペーパードレーン、グラベルドレーン、サンドドレーンなどの鉛直ドレーン56を設けた後、注入井戸10から土壌浄化剤を注入する。注入した土壌浄化剤は有機物層3の中に浸透してその作用により土粒子に付着している有機物が剥離分離し、地下水とともに鉛直ドレーン56へ流出する。この有機物と地下水との混合液を鉛直ドレーン56から汲み上げて回収して、浄化処理に供する。これにより、鉛直ドレーン56の数を適宜調整することにより土粒子から剥離分離した有機物が鉛直ドレーン56から順次回収されるので、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れが低減される(図14)。
【0054】
(14)強制液状化
注入井戸10から土壌浄化剤を注入して揚水井戸11から揚水することにより、有機物層3に土壌浄化剤を浸透させた状態でしばらく放置する。所定時間経過後、有機物層3を含む土壌に起振装置57により大規模な振動を付与する。この振動により有機物層3を含む土壌が液状化を起こして、土壌浄化剤の作用により土粒子から剥離分離した有機物が地下水とともに地表面まで上昇してくるので、該有機物を含む地下水を真空ポンプなどで吸引して取り除いて汚染土壌の浄化を行う。これにより、土粒子からの有機物の剥離分離が促進されるとともに、液状化現象を利用して該有機物の回収を行うので、該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れが少ない(図15)。
【0055】
(15)高圧水斜め上方噴射
注入井戸10に注入管58を挿入してその先端部が注入井戸10の下端部に到達したら、注入管58の先端部に設けた高圧噴射ノズルから土壌浄化剤を高圧(ウォータージェット)で噴射する。このとき、高圧噴射ノズルから噴射する土壌浄化剤の噴射方向を図15に示すように斜め上方とする。注入井戸10の下端部には、土壌浄化剤を噴射できるように開口部が設けられている。土壌中に噴射された土壌浄化剤は、土壌中を浸透して有機物層3の下面に到達して土粒子に付着している有機物を剥離分離する。これにより、土壌浄化剤と有機物層3との接触面積が大きくなるので、汚染土壌の浄化を効率的に行うことができ、剥離分離した有機物が目詰まりを起こす恐れも低減される。なお、上記したウォータージェットを用いる方法に代えて、注入井戸10の下端部から飽和層2へ土壌浄化剤を流出させて揚水井戸11から揚水することにより図16に示すような地下水流Bを発生させて、土壌浄化剤をこの地下水流Bに乗せて有機物層3の下面に到達させるようにしてもよい。(図16)。
【0056】
(16)エアスパージング
注入井戸10と揚水井戸11とのほぼ中間にその先端部が有機物層3より十分に下方へ達するようにスパージング井戸59を設けて、スパージング井戸59の先端部から高圧の空気を噴射する。該空気は土壌中を上昇して有機物層3に到達して、この空気の作用により土粒子に付着している有機物が剥離分離する。そして、注入井戸10から注水して揚水井戸11から揚水することにより、剥離分離した有機物を回収する。これにより、高圧空気の作用により土粒子に付着している有機物の剥離分離が促進されるとともに、剥離分離した有機物が該空気に連行して容易に移動できるので、該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れが少ない(図17)。
【0057】
(17)土壌アルカリ化/事前フェントン処理
薬剤混合供給装置31から注入井戸10へpH9〜10程度のアルカリ性の土壌浄化剤を注入して、有機物層3にアルカリ溶液を浸透させた状態でしばらく放置する。そして、土粒子から剥離分離した有機物の粘度がアルカリ溶液により十分に低下したら、揚水井戸11から揚水を行い剥離分離した有機物を回収して汚染土壌を浄化する。この場合には、浄化処理終了後にアルカリ化した土壌に中和剤を添加して中和処理を行う。また、アルカリ溶液に代えて過酸化水素水などのフェントン剤を用いてもよく、この場合にはフェントン剤の作用により有機物が分解されてその濃度が低減した後に、土壌浄化剤を注入して汚染土壌を浄化する。これにより、有機物がC重油などの粘度が高い石油類の場合でも、アルカリ溶液の作用によりその粘度が低減されたり、フェントン剤の作用によりその濃度が低減されたりするので、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす恐れが少ない(図18)。
【0058】
(18)電気泳動法
注入井戸10からカチオン系界面活性剤などのプラスに帯電した土壌浄化剤を注入して、有機物層3に陽イオンを浸透させた状態とする。そして、注入井戸10にはプラスの電極(陽極)75を配置し揚水井戸11にはマイナスの電極(陰極)76を配置して通電することにより、土壌浄化剤の作用で土粒子から剥離分離した有機物を抱えたプラスに帯電した土壌浄化剤(陽イオン)を注入井戸10から揚水井戸11の方向へ移動させて、揚水井戸11から揚水を行い剥離分離した有機物を回収する。これにより、剥離分離した有機物がプラスに帯電した土壌浄化剤(陽イオン)に連行して容易に移動できるので、該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れが少ない(図19)。
【0059】
(19)真空吸引
注入井戸10から土壌浄化剤を注入して揚水井戸11から揚水することにより、地下水の流れAを発生させて土壌浄化剤を有機物層3に浸透させる。そして、地表から有機物層3に達する吸引管77を貫入して真空ポンプ78で真空吸引することにより、土壌浄化剤の作用により土粒子から剥離分離した有機物を回収する。これにより、土粒子から剥離分離した有機物が土粒子間で目詰まりを起こした場合でも、該有機物を吸引管77で直接吸引するので該有機物が土壌中で目詰まりを起こす恐れがない(図20)。
【0060】
上記の撹拌混合(3)および汚染領域中央部のほぐし(6)を、注入井戸などの使用なしに行う態様(第2の態様)について以下に述べる。
図11に第2の態様を示す。この図において61は掘削機械(バックホウ)、62は混合機械(スタビライザ)である。まず、バックホウ61により汚染領域3の上方の土壌を掘削して汚染領域3を露出させる。このとき、掘削土は汚染領域3の近傍に仮置きしておく。次に、スタビライザ62に設けた薬剤散布装置により汚染領域3の露出面に薬剤を均一に散布しながら、スタビライザ62に設けた混合装置により薬剤と汚染土壌とを撹拌混合する。撹拌混合が完了したら、薬剤と有機物の混ざった処理液を真空ポンプなどで吸引して取り除いた後、仮置きしておいた掘削土を浄化された土壌の上方に埋め戻す。取り除いた処理液は油水分離槽へ送られて薬剤と有機物の混合液Aおよび薬剤と水の混合液Bに分離され、混合液Aは廃棄し、混合液Bはこれに薬剤を加えたのち前記薬剤散布装置に送られて土壌浄化剤(薬剤)として再利用される。なお、本工法に用いる混合機械としては、トレンチャ式混合機械などを用いることもできる。
【0061】
図12に第2の態様の別の例を示す。この図において63は地盤改良機械(マッドスタビライザ)、65は浄化用流体製造プラント、66は薬剤供給装置、67はエアコンプレッサ、68は発電機、69は処理杭である。
【0062】
汚染領域3の上方の地盤上における掘削位置に、地盤改良機械63の電動機に取り付けられた回転ロッド64の中心をセットして、回転ロッド64を電動機で回転させながら下降させて回転ロッド64の先端から高圧水を噴射することにより不飽和層の土壌を掘削する。このときの掘削孔の直径は、通常30cm程度である。一方、地盤上の地盤改良機械63の近傍に設けた浄化用流体製造プラント65では、薬剤供給装置66から供給された土壌浄化剤を用いて浄化用流体(薬剤)を製造する。回転ロッド64の先端が汚染領域3(飽和層)の上端部に到達したら、薬剤をポンプで圧送して回転ロッド64の内部を通して回転ロッド64の先端より少し上方に設けたノズル孔まで送り、そこから薬剤と空気を水平方向へ高圧で吐出しながら回転ロッド64をさらに螺旋状に回転させながら貫入させて汚染領域3の土壌と薬剤とを撹拌混合する。このときの撹拌混合範囲は回転ロッド64を中心として半径1m程度であり、この範囲において薬剤と有機物と水(地下水)が混合されてスラリー状になる。また、撹拌混合は隣り合う撹拌混合範囲が互いにラップするようにして、浄化もれが生じないように行う。回転ロッド64の先端が汚染領域3の下端部に到達したら、薬剤の吐出を止めて回転ロッド64を引き抜く。撹拌混合が完了したら、あらかじめ打ち込んでおいたウェルポイント井戸により、薬剤と有機物と水(地下水)の混合液を回収する。そして、上記作業を繰り返すことにより汚染領域の浄化を行う。
【0063】
この例では、薬剤の吐出を貫入時に行っているが、貫入時と引抜き時の両方で撹拌混合するようにしてもよい。また、ここでは回転ロッド64の先端から薬剤をウォータージェットにより噴射して、その噴射圧により汚染土壌と薬剤とを撹拌混合する例を示したが、ウォータージェットに換えて撹拌翼を用いて汚染土壌と薬剤とを撹拌混合する方法を用いることもできる。
【0064】
図13は、本発明の土壌浄化方法の第3の実施形態を示す説明図である。まず、汚染領域3の上方の地表面から、散布装置(散布ノズル)81を用いて土壌浄化剤を散布する。次に、汚染領域3の中央部に揚水井戸11を設けて、該揚水井戸から揚水を行って薬剤と有機物との混合液を回収する。
【0065】
図24は、本発明の土壌浄化方法の第4の実施形態を示す説明図である。この図において85は水平井戸である。有機物層3を水平方向に貫通するように水平井戸85を設けて、水平井戸85の注入口86から土壌浄化剤を注入する。水平井戸85のうち有機物層3に存在する部分には周面全体に多数の開口部が設けられており、水平井戸85に注入された土壌浄化剤はこの開口部から土壌中へ流出して土粒子に付着している有機物を剥離分離する。そして、剥離分離した有機物は前記開口部から水平井戸85の中へ取り込まれて、揚水井戸11または水平井戸12の揚水口87から揚水することにより回収される。これにより、剥離分離した有機物が土壌中を移動する距離が少なくなるので、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす可能性が低減される。
【0066】
図25は、本発明の土壌浄化方法の第5の実施形態を示す説明図である。この図において88は円筒部材、89は注入管である。有機物層3を鉛直方向に貫通するように円筒部材88を設けて、該円筒部材88の下端部から注入管89により土壌浄化剤を含む圧力水を注入する。そして、円筒部材88の内側にある土壌中を該圧力水が上昇して有機物層3を通過する際に土粒子に付着した有機物を剥離分離して、該有機物を連行してさらに円筒部材88の内側にある土壌中を上昇する。最後に、円筒部材88の上端部に位置する土壌の表面に浮いてきた有機物を真空ポンプなどにより回収して汚染土壌を浄化する。これにより、周囲を拘束された土壌中に水圧が加わるので、剥離分離した有機物が地下水とともに上方へ押し流されて、該有機物が土粒子の間隙中で目詰まりを起こす可能性が低減される。
【0067】
〔実施例〕
本発明の効果を確認するために、次のような試験を行った。
図14に示す室内試験用水槽(幅20cm×高さ18cm×長さ70cm)にC重油5%を含む4号珪砂を高さ18cmまで充填して、その上面から土壌浄化剤として薬剤a(界面活性剤水溶液:ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアミン化合物、界面活性剤濃度1%)、薬剤b(界面活性剤水溶液:AOTとアリカリ土類金属塩、界面活性剤濃度1%)を流速20ml/minで通水した。このときの通水面の高さは、約14cm、動水勾配は0.5cm、通水時間は49時間となるようにした。また、それぞれの薬剤の通水とあわせて表1に示す操作を行った。各実施例および比較例について、通水性および重油除去性を確認した結果を表2に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
この試験結果より、本発明の土壌浄化方法に係わる実施例1〜7によれば、浄化対象が粘度の大きいC重油の場合でも土壌の通水性を良好に保つことができ、C重油の回収も十分に行えることが確認できた。これに対して、何も操作を行わなかった比較例では土壌浄化剤により剥離分離したC重油が土粒子の間隙で目詰まりを起こしてしまい、ほとんど通水しない状態となりC重油の回収が行えなかった。
【0071】
本発明の方法によれば、土壌浄化剤による汚染土壌の浄化とあわせて上記A〜Iの操作を行うことにより、土壌浄化剤により剥離分離された有機物が土壌中で目詰まりを起こすことがなく容易に回収されるので、従来技術と比較して土壌浄化剤の性能を十分に発揮させることができ浄化効率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の土壌浄化方法は、製油所跡地などの油分により汚染された土壌を含む汚染領域の原位置浄化方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の方法で用いる土壌浄化システムの一例を示す説明図。
【図2】振動付与方式の説明図。
【図3】加圧注入方式の説明図。
【図4】撹拌混合方式の説明図。
【図5】浄化箇所密封方式の説明図。
【図6】表面散布方式の説明図。
【図7】汚染領域中央部のほぐし方式の説明図。
【図8】通水経路形成方式の説明図。
【図9】汚染領域加熱方式の説明図。
【図10】薬剤注入方式の説明図。
【図11】被覆土はぎ取り方式の説明図。
【図12】上下遮水層方式の説明図。
【図13】自由推進高圧水噴射方式の説明図。
【図14】鉛直ドレーン方式の説明図。
【図15】強制液状化方式の説明図。
【図16】高圧水斜め上方噴射方式の説明図。
【図17】エアスパージング方式の説明図。
【図18】土壌アルカリ化/事前フェントン処理方式の説明図。
【図19】電気泳動法方式の説明図。
【図20】真空吸引方式の説明図。
【図21】本発明の第2の態様を示す説明図。
【図22】本発明の第2の態様の別の例を示す説明図。
【図23】本発明の第3の態様を示す説明図。
【図24】本発明の第4の態様を示す説明図。
【図25】本発明の第5の態様を示す説明図。
【図26】本発明の実施例における室内試験用水槽を示す平面図および側面図。
【符号の説明】
【0074】
100 土壌浄化システム
1 不飽和層(非帯水層)
2 飽和層(帯水層)
3 汚染領域(有機物層)
10 注入井戸
11 揚水井戸
20 揚水ポンプ
21 油水分離槽
22 分留装置
23,24,25,26,27,28,32 配管
30 注入ポンプ
31 薬剤混合供給装置
41 振動ローラ
42 棒状バイブレータ
45 スチーム注入装置
46 スチーム注入井戸
47 液体供給装置
48 遮水層
49,55,58,89 注入管
51 加圧ポンプ
56 鉛直ドレーン
57 起振装置
59 スパージング井戸
61 攪拌混合装置
71 板状部材または気密性シート
75 プラスの電極(陽極)
76 マイナスの電極(陰極)
77 吸引管
78 真空ポンプ
81 散布装置(散布ノズル)
85 水平井戸
86 注入口
87 揚水口
88 円筒部材
91 穴
G 土壌
L 地下水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物により汚染された土壌を含む汚染領域に複数の注入井戸とそれらの間に配した揚水井戸をそれぞれ地下水面よりも下方に達するように設ける工程、前記注入井戸から土壌浄化剤を注入し且つ前記揚水井戸から揚水を行う工程、および土壌の通水性維持改善工程を有することを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項2】
前記有機物が、油分からなる請求項1に記載の土壌浄化方法。
【請求項3】
前記土壌浄化剤が、界面活性剤を含有する水溶液である請求項1または2に記載の土壌浄化方法。
【請求項4】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域に対して振動体により振動を付与する工程である請求項1〜3のいずれかに記載の土壌浄化方法。
【請求項5】
前記通水性維持改善工程が、前記土壌浄化剤を前記注入井戸に注入する際に、前記土壌浄化剤に対して一定または間欠の圧力を付与する工程である請求項1〜4のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項6】
前記通水性維持改善工程が、攪拌混合装置により前記土壌浄化剤と前記土壌とを攪拌混合する工程である請求項1〜5のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項7】
前記通水性維持改善工程が、地下水面より上方の位置まで前記汚染領域の土壌を掘削し、該掘削面上に板状部材または気密性シートを被覆したのち、該部材またはシートの上に盛土を施工する工程である請求項1〜5のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項8】
前記通水性維持改善工程が、地下水面より上方の位置からも前記土壌浄化剤を散布する工程である請求項1〜6のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項9】
前記通水性維持改善工程が、前記注入井戸から前記土壌浄化剤を注入する前に、該汚染領域の中央部の土壌を攪拌する工程である請求項1〜8のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項10】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域の土壌に棒状部材により水平方向の穴を設ける工程である請求項1〜9のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項11】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域の土壌をスチームなどの加熱手段により加熱する工程である請求項1〜10のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項12】
前記通水性維持改善工程が、前記土壌浄化剤を注入した後に水または先に注入したものより低濃度の前記土壌浄化剤を注入する工程である請求項1〜11のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項13】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域の土壌を掘削して毛管現象により該掘削面の近傍まで上昇してきた前記有機物を取り除く工程である請求項1〜12のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項14】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域の上方および下方に遮水層を設け、該遮水層により上下を挟まれた領域にフェントン剤、界面活性剤などの薬剤を注入したのち、水または土壌浄化剤を注入する工程である請求項1〜13のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項15】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域に貫入した注入管の先端部から前記汚染領域へ向けて土壌浄化剤を高圧で噴射する工程である請求項1〜14のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項16】
前記通水性維持改善工程が、前記注入井戸と前記揚水井戸との間に設けた鉛直ドレーンから前記有機物を回収する工程である請求項1〜15のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項17】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域に大規模な振動を付与して液状化を発生させたのち、該汚染領域の地表面まで上昇してきた前記有機物を取り除く工程である請求項1〜16のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項18】
前記通水性維持改善工程が、前記注入井戸の下端部まで挿入した注入管の先端部から前記汚染領域に向かう斜め上方へ土壌浄化剤を高圧で噴射する工程である請求項1〜17のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項19】
前記通水性維持改善工程が、前記注入井戸と前記揚水井戸との間にその先端部が前記汚染領域より下方に達するようにスパージング井戸を設け、該スパージング井戸の先端部から高圧の空気を噴射する工程である請求項1〜18のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項20】
前記通水性維持改善工程が、前記土壌浄化剤としてアルカリ性溶液を用いるか、または前記土壌浄化剤を注入する前に過酸化水素水などのフェントン剤を注入することにより前記有機物の粘度を低下させる工程である請求項1〜19のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項21】
前記通水性維持改善工程が、前記土壌浄化剤としてプラスに帯電した土壌浄化剤を用い、前記注入井戸に陽極を配置し前記揚水井戸に陰極を配置して通電する工程である請求項1〜20のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項22】
前記通水性維持改善工程が、地表から前記汚染領域に達する吸引管を貫入して前記有機物を真空吸引する工程である請求項1〜21のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項23】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域を水平方向に貫通するように周面に開口部を有する水平井戸を設け、該水平井戸の注入口から前記土壌浄化剤を注入し、前記揚水井戸または前記水平井戸の揚水口から揚水する工程である請求項1〜22のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項24】
前記通水性維持改善工程が、前記汚染領域を鉛直方向に貫通するように円筒部材を設け、該円筒部材の下端部から前記土壌浄化剤を高圧で注入する工程である請求項1〜23のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項25】
前記界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアミン化合物を含む組成物、またはジ−2−エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウム(AOT)とアリカリ土類金属塩を含む組成物からなる請求項3〜24のいずれか1項に記載の土壌浄化方法。
【請求項26】
井戸なしで行う請求項6または24に記載の方法。
【請求項27】
注入井戸なしで行う請求項8または23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−112933(P2009−112933A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288207(P2007−288207)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPOコーポレーション (130)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】