圧電素子を使用した回転駆動装置
【課題】ノードラインの設計位置が不用意に変化し難い回転駆動装置を提供する。
【解決手段】圧電板12に通電層14,16を設けた圧電素子20を具備する振動板10が、該振動板の板面に直交する方向に屈曲して振動板の平面的重心位置Oから放射状に延伸するノードラインN1,N2を発生させる板曲げ振動により、振動板の板面上に設けられた駆動凸部40により、対面する被駆動体50に対して摩擦力を作用させつつ、前記平面的重心位置を通って振動板に直交する中心軸線周りに被駆動体を回転させる回転駆動装置であって、振動板はその外郭形状が多角形であるよう構成する。
【解決手段】圧電板12に通電層14,16を設けた圧電素子20を具備する振動板10が、該振動板の板面に直交する方向に屈曲して振動板の平面的重心位置Oから放射状に延伸するノードラインN1,N2を発生させる板曲げ振動により、振動板の板面上に設けられた駆動凸部40により、対面する被駆動体50に対して摩擦力を作用させつつ、前記平面的重心位置を通って振動板に直交する中心軸線周りに被駆動体を回転させる回転駆動装置であって、振動板はその外郭形状が多角形であるよう構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を使用した回転駆動装置に関し、所謂、超音波モータ等に利用できる。
【背景技術】
【0002】
振動子の広がり面上に駆動爪を設けて被駆動体(ロータ)を回動させる構造の超音波モータ等において、振動子の平面的重心位置(中心)から放射状に延伸する板曲げ振動の際のノードライン(不動ライン)の安定性は重要である。即ち、振動子の広がり面上に駆動爪を設けることで、ノードラインは駆動爪を設けていない状態での設計位置からずれる。こうしたずれが生じると、板曲げ振動時に振動子に設けた駆動爪の作用する被駆動体に対する摩擦駆動力が変化し、ひどい場合には、駆動爪の位置との関係から被駆動体が逆方向に回動することもあり得る。このように、回転駆動装置として不安定になる。こうした不安定性を解消すべく本出願人等が下記特許文献1において、バランス用ダミー爪を設けた構造を開示している。
【特許文献1】特開2003−324981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然しながら、上記特許文献1では、振動子の広がり面にバランス用ダミー爪を設ける必要があり、現実の構造では、このダミー爪が被駆動体に力を作用しないように正確な高さに設定し、また、駆動爪に対してノードラインを境に正確に対称性を有するように設ける必要があるが、高さの相違があるため完全な対称性は無理であり、仮に高精度に形成したとしても、振動子の材料不均一さ等に起因するノードラインの不安定さは残る。
依って解決しようとする課題は、ノードラインの設計位置が不用意に変化し難い回転駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題に鑑みて第1の発明は、圧電板に通電層を設けた圧電素子を具備する振動板が、該振動板の板面に直交する方向に屈曲して振動板の平面的重心位置から放射状に延伸するノードラインを発生させる板曲げ振動により、振動板の板面上に設けられた駆動凸部により、対面する被駆動体に対して摩擦力を作用させつつ、前記平面的重心位置を通って振動板に直交する中心軸線周りに被駆動体を回転させる回転駆動装置であって、前記振動板はその外郭形状が多角形であるか、又は外郭形状が円形であって、前記平面的重心位置の周りに外周が多角形である凹部、貫通孔又は凸部領域を設けていることを特徴とする圧電素子を使用した回転駆動装置を提供する。
振動板の平面的重心位置とは、平たく言えば中心であり、被駆動体の回転(回動)の中心軸線上にある。本願の多角形という用語は広い意味で使用しており、例えば、四角形の各角部を直線や円弧で除去カットしているものも含む。また、星形も多角形に含み、この星形状の角部を除去カットしているものも含む。
【0005】
第2の発明は、2つの板状の圧電素子の面同士を貼り合わせており、当該貼り合わせで対面している通電層領域はこの領域全体を導電接続状態(ショート状態)とし、各圧電素子の圧電板は夫々の広がり面において分極方向の異なる複数の領域を有しており、一方の圧電板の各領域は他方の圧電板の各領域と夫々上下に相対する位置にあり、夫々の圧電板の中で隣接領域同士は分極方向が互いに逆方向になっており、更には、両圧電板の対応領域同士でも分極方向が互いに逆方向になっているように第1発明の振動板を構成する。
また、本願では上記のように互いに逆方向の分極状態をパラレル分極ということにする。逆に、次の第3発明のように同じ方向の分極状態をシリーズ分極という。
【0006】
第3の発明は、2つの板状の圧電素子の夫々は、夫々の圧電板の裏面には分断されていない通電層を設け、表面には複数領域に分断された分断通電層を設けており、一方の圧電素子の分断通電層の一つの領域と、他方の圧電素子の分断通電層の一つの領域とを導電接続させる対応関係が夫々の圧電素子の各領域毎にあり、対応関係にある各領域同士が上下に相対する位置になるように、夫々の圧電素子の裏面同士を貼り合わせて振動子を構成し、各圧電素子の前記各領域において圧電板は全て同じ方向に分極していると共に、該貼り合わせた状態においても各圧電板同士の分極方向が互いに同じ方向であるように第1発明の振動板を構成する。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明では、振動板の外郭形状が多角形である場合は、振動板の中心から外郭までの長さが中心周りに漸次変化する、即ち、振動板の板曲げの抵抗値が漸次変化するので、振動板の中心を通る放射状のノードラインはこの中心周りに不用意には変化できない。言い換えると、外郭形状が円形ではなくて多角形であることは、ノードラインの前記中心周りの変動に対する機械的な規制手段になっている。外郭形状が円形であっても、振動板の表面か裏面に外周が多角形の凹部を設けたり、表面から裏面に貫通した多角形の孔を設けたり、又は多角形の凸部領域を設けている場合も同様である。
【0008】
第2の発明では、第1の発明の振動板が圧電素子を貼着するための基盤金属板や基盤ガラス板等の、圧電素子以外の基盤材を有しておらず、このため圧電歪みをそのまま十分に効率的に取り出せると共に、薄型化、小型化、量産時の低コスト化が可能になる。そうした中でも、当該第2発明のように、隣接領域毎に分極方向が交互に変更されている場合は交番電圧発生器への接続が簡便になる。即ち、貼り合わせた状態の振動板全体としての表面と裏面とを導電接続(ショート)させる必要がないと共に、該表面においても裏面においても、夫々、分極方向毎に対応している通電層の個々の領域を区別することなく全てを導電接続状態にさせるが、この状態の振動子の表面と裏面とを交番電圧発生器の夫々の端子と接続するだけで済み、電気接続作業が非常に簡便になる。
【0009】
第3の発明では、第2の発明と同様に、振動板が圧電素子を貼着するための基盤金属板や基盤ガラス板等の、圧電素子以外の基盤材を有しておらず、圧電歪みを十分に効率的に取り出せると共に、薄型化、小型化、量産時の低コスト化が可能になる。但し、当該発明は分極方向が全て同じ(シリーズ分極)であり、分極作業は簡便であるが、貼り合わせた状態の振動板全体の、対応する領域毎に表裏面間を導電接続する必要があり、電気接続自体は第2発明の方が簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を添付図面を用いて更に詳細に説明する。図1は本発明に係る回転駆動装置の一実施形態例を示す。(a)は上面図、(b)は(a)のラインN2−N2に沿う断面図、(c)は下面図である。図2はその電気配線図である。ほぼ正方形の板状の圧電体、即ち圧電板12の表裏面には通電層14,16が形成されており、表面の通電層14だけは図示のように縦横2本の分割溝22によって均等に4分割され、ほぼ正方形の領域A,B,C,Dが区画形成されて圧電素子20が形成されている。
【0011】
この圧電素子の平面的重心位置、即ち、中心Oを、ほぼ正方形の基盤板30の中心と合わせて接着固定し、振動板10を構成している。振動板に後述の電気配線を行って回転駆動装置となす。基盤板30の材質としては、ステンレス等の金属板の他、パイレックス(登録商標)ガラス等でもよい。この基盤板の裏面側には適宜な位置に駆動凸部40が、この例では4個固定されているが、2個でもよい。基盤板が金属の場合は溶接等により、また、ガラス等の場合には基盤板成形時に一体形成することができる。本願の圧電素子の分割溝ラインは中心Oを通る放射状ラインである。
【0012】
既述の中心Oを通る直線N1−N1とN2−N2は分割溝の幅中心であって、振動板の板曲げ振動時の節(ノード)ラインである。振動板10を裏面から見た図1(C)によれば、4個の駆動凸部40は、各ノードラインから時計周り方向に夫々同じ角度θだけ離隔した角度位置に設けられている。この場合、圧電素子20が4つの領域A,B,C,Dを有し、ノードラインN1−N1とN2−N2との間の領域角度は90度である。従って、角度θはこうした領域角度の1/4である22.5度が好ましく、この例でもその角度としている。
【0013】
また、中心Oと駆動凸部40とを通る放射ラインが振動板の外郭線と交差する位置までの中心Oからの放射ライン長さの35〜40パーセントの位置に、駆動凸部の中心を位置させることが好ましい。
【0014】
圧電板12の分極方向を各領域A,B,C,D共に同じ方向にした場合、領域AとCを電気的に接続し、領域BとDを電気的に接続し、夫々を自励式発振器等の交番電圧発生器60の各端子に接続させる。これにより、領域AとCは互いに同位相の振動となり、領域BとDも互いに同位相の振動になるが、領域AとCの振動とは逆位相となる。従って、領域A(とC)が表側に凸な場合は、領域B(とD)は凹となる。振動の結果、被駆動体であるロータ50は、振動板10を裏面から見た図1(C)の方向視において、中心Oの周りに矢印方向(反時計回り方向)に駆動される。各駆動凸部が、近接しているノードラインに対して図(c)の位置とは対称な位置に設けられていれば、ロータの回転は逆方向となる。
【0015】
上記の如く、ノードラインの位置と駆動凸部との位置関係は、ロータに対する駆動力や駆動方向の点において重要であり、ノードラインは設計通りの位置に無くては不都合となる。この形態例でのノードラインは、中心Oを通過して振動板10又は基盤板30の各辺の中央を通る放射状ラインである。放射状ノードラインが各辺中央位置から幾分かずれたとした場合、ノードラインの横切る振動板上のライン長さは明らかに長くなる。即ち、基盤板30の板厚は実質一定であるので、この長くなったラインによって左右に分断された各領域は、ずれる前の元の領域に比べて板曲げ振動に対する抵抗(曲げ剛性)が大きく変化する。従って、駆動凸部40の影響以外に、基盤板30の材料不均一性があったとしても、上記の振動抵抗の大きな変化を起こさせる程のものではないため、ノードラインの位置は設計位置に対して実質的に変化しない。
【0016】
仮に、基盤板30の外郭形状が円形であっても、図1(C)に2点鎖線30Mで描くような、外郭が適宜な多角形であって、中心を既述の中心Oに一致させた凹部(や貫通孔)を設けていれば、ノードラインの位置が変化したとすれば、ノードラインに沿った板厚変化の相違を生じ、この相違に応じて上記と同様に振動に対する機械的抵抗が大きく変化することになる。こうした変化は起こり難い。従って、振動板にこうした多角形が存在することによってもノードラインの設計位置からの変化を規制できる。
【0017】
図3は図1と図2に示す形態例の変形例の図2に対応する図といえる。圧電素子20の表面の通電層を図3の如く、分割溝ラインが中心Oと各角とを通るように4つの直角三角形領域A,B,C,Dに分割している。圧電板の分極方向を各領域A,B,C,D共に同じ方向にした場合、図示のように領域AとCを電気的に接続し、領域BとDを電気的に接続し、夫々を省略図示した自励式発振器等の交番電圧発生器の各端子に接続させる。これにより、領域AとCは互いに同位相の振動となり、領域BとDも互いに同位相の振動になるが、領域AとCの振動とは逆位相となる。この場合のノードラインは振動板10の対角線のラインN1−N1,N2−N2となる。
【0018】
振動板の外郭形状が正方形以外の偶数正多角形の場合も、ノードラインは対角線に位置する場合と、各辺の中央位置にくる場合とがある。図4は振動板10(又は基盤板30)が正六角形であり、圧電素子30が円形の場合の形態例である。圧電素子の表面の通電層は中心Oを通る放射状ラインで60度毎に均等な扇状の6個の領域に分割されている。夫々の分割溝ラインは外郭各辺の中央位置を通る。各領域において圧電板の分極方向が同じとし、円周方向に飛び飛びの領域A,C,Eを電気的に接続し、また、残り領域B,D,Fを電気的に接続し、夫々を図示省略した交番電圧発生器に接続する。この場合、ノードラインは中心Oと各辺の中央を通る。領域A,C,Eと領域B,D,Fとは互いに逆の凹、凸を呈する振動になる。
【0019】
図5は振動板10(又は基盤板30)が正八角形であり、圧電素子30が円形の場合の形態例である。圧電素子の表面の通電層は中心Oを通る放射状ラインで45度毎に均等な扇状の8個の領域に分割されている。夫々の分割溝ラインは各角を通る。各領域において圧電板の分極方向が同じとし、円周方向に飛び飛びの領域A,C,E,Gを電気的に接続し、また、残り領域B,D,F,Hを電気的に接続し、夫々を図示省略した交番電圧発生器に接続する。この場合、ノードラインは中心Oと各角を通る放射状である。領域A,C,E,Gと領域B,D,F,Hとは互いに逆の凹、凸を呈する振動になる。
【0020】
図4、図5共に、振動板10の中央に円形の孔Hを設けている。これは、図示しないロータの回転軸を挿通させるために設けている。
以上の形態例では、振動板10の外郭形状は偶数の正多角形であるが、偶数多角形であれば正多角形でなくても被駆動体を回動させることができる。効率よく回動させるには正多角形がよい。また、奇数多角形であっても効率は悪いが回動させることは可能である。また、圧電板12の分極方向を各領域間で同じとしたが、互いに隣接する領域毎に分極方向を変え(パラレル分極にし)てもよく、手数を要する分極作業が終われば、その後の電気配線が簡単になる。
【0021】
また、例えば、外郭形状が正方形の場合でも、実際の製品では、正方形の角部をカットすると現実の振動が安定し、好ましい。このカットの量は、正方形の一辺の長さを20とすると、各辺の各端部のカット量は夫々3程度(2〜4、即ち、辺長の10〜20%)である。従って、正方形を基本形状としてはいても、八角形ともいえる。また、カットは直線とは限らず、丸めることもある。六角形等の他の任意の多角形でも同様であり、各角部をカットすると振動が安定し易い。この任意の多角形には、星形のように外郭形状が凹凸状の多角形も含まれる。
【0022】
以下では奇数多角形の例として、正三角形と正五角形の例を説明する。図6は正三角形の場合であり、振動板中心と各頂点を通る3つのラインで通電層を6個の同じ直角三角形に分割する。圧電板は各領域とも同じ方向に分極させ、通電層の領域A,C,Eを電気的に連結ショートさせ、残り同士も連結ショートさせ、夫々を交番電圧発生器の各端子と接続させる。
図7は正五角形の場合であり、振動板中心と各頂点を通る5つのラインで通電層を10個の同じ直角三角形に分割する。圧電板は各領域とも同じ方向に分極させ、通電層の領域A,C,E,G,Iを電気的に連結ショートさせ、残り同士も連結ショートさせ、夫々を交番電圧発生器の各端子と接続させる。
【0023】
更には、例えば、図5の形態において圧電板の分極方向が全て同じである場合、領域AとB、CとD、EとF、GとHを電気的に導電接続し、隣接2領域づつを夫々電気的に一体化させ、同一形状の4つの個別領域として扱うこともできる。また、駆動凸部が領域B,D,F,Hの円周角の中央角度位置に位置していれば、即ち、ラインN2−N2とラインN3−N3の中間角度位置と、ラインN1−N1とラインN4−N4の中間角度位置とに設けられていて、前者の場合とは一領域づつずらせ、領域BとC、DとE、FとG、HとAを夫々一体化させた場合は、前者の場合とは逆の方向に回転駆動することができる。即ち、前者では、駆動凸部はノードラインN3−N3とN1−N1に近いため、駆動凸部が図5の平面上(図の手前側)に突出して設けられているとすれば、被駆動体を図5の方向視において時計周り方向に回動させる。また、後者では、駆動凸部がノードラインN2−N2とN4−N4に近いため、反時計回り方向に駆動力を作用させる。
【0024】
また、図2と図3の圧電素子20,20を基盤板30の表と裏に使用し、駆動凸部を図1(c)のθを22.5度に設置しておけば、表裏の圧電素子への通電をスイッチで切り替えると、夫々の振動時のノードラインが図1のN1,N2から図3のN1,N2に変わる。即ち、各駆動凸部に隣接するノードラインが該各駆動凸部に対して反対側に移動変化するので、駆動方向を反転させることができる。
【0025】
以下では、振動板10を形成するのに、圧電体以外の金属板やガラス板等の別部材基盤板を使用するのではなく、2枚の圧電素子20,20’を貼り合わせて振動板を形成した構造の形態例につき説明する。図8はその平面視の図であるが、分割溝ライン22は、以下説明する図9の形態と図11の形態の内の図9の場合では上面側に見えるわけではなく、この場合は透視図と考える。図9と図11は振動板10のC領域とD領域についての断面図であるが、残り領域についても同様である。上側の圧電素子20の通電層の4分割に対応して領域A,B,C,Dがある。一方、下側の圧電素子20’の対応する4つの各領域をA’,B’,C’,D’とし、夫々「’」を無くすれば同じ記号同士となる領域同士は上下の位置関係にある。
【0026】
図9の形態例は、圧電素子20の圧電板12の各領域の分極方向を隣接領域毎に異なる方向としたパラレル分極としている。また、下側の圧電素子20’の圧電板12’も同様にパラレル分極にしていると共に、上下に対応する領域毎(例えば、CとC’)では互いに逆方向の分極となる向きに構成している。更には、上側の圧電素子20の分割された表面通電層14と、下側圧電素子20’の分割されていない裏面通電層16’とを合わせた対向する通電層全体が電気的に導電するように接合されている。その接合に使用する導電性接着剤の一例として、日本エイブルスティック株式会社のエイブルボンド(商標名)84−1LMI等がある。
【0027】
図10の模式的回路図となるように、この振動板10の表裏面16,14’に、夫々、交番電圧発生器60の各端子を接続させる。圧電板の各領域を平行な2本の線で表現し、矢印で分極方向を示している。具体的には、交番電圧発生器60の一端(のクリップ)を図9の上面通電層16に(押圧)接続し、4つの領域を互いに導電接続させた振動板の下面の分断通電層14’と他端(のクリップ)を(押圧)接続させるだけでよい。従って、図9の構造の振動板を形成した後の電気配線自体は非常に簡便であって、量産に向いている。
【0028】
図10の回路図から分かるように、実際には、図9の通電層14と14’とは、分割溝ライン22は不要であり、両通電層共に、夫々、各隣接領域同士が導電接続状態、即ち、通電層16や16’のように一体のものでよい。
【0029】
図9に示す構造の振動板10を製造するには、まず、振動子複数個分(現実的には多数個分)の大きさの素材板としての圧電板の表裏面に通電層を形成する。その一面(表面)は、分割溝ライン22を有しつつ各分断通電層輪郭と個別振動子として後で切断すべき振動子外郭形状ライン等を入れた複数個分のパターンを、スクリーン印刷等によって焼き付け印刷形成する。それを分極処理する。その圧電素子20を形成する素材板と圧電素子20’を形成する他の素材板とは分極方向が互いに逆になる位置関係で導電接続状態に貼り合わせる。その後、ダイヤソー等にて切断して図9の形態の振動板10を複数個形成する。
その後、通電層14’の各領域を導電接続し、交番電圧発生器の各端子に接続したクリップ状の端子を振動板の表面16と裏面14’に当接させればよく、配線も簡便であり、低コストで量産できる。
【0030】
更には、回路図の図10から明らかであるが、圧電素子20’の分断通電層14の各領域A’,B’,C’,D’同士はショート状態にさせるため、導電部材で作られる場合の駆動凸部40を、図9の上面通電層16の上でも下面通電層14’の上でも自由に設けることができ、制約がない。上面通電層16上であって、図8の角度位置に設ける(図8の左右方向分割溝ライン22から反時計回り方向に22.5度の位置の領域Bに設け、他はこれと90度間隔とする)と、領域AとCが伸びて該領域AとC(及び領域A’とC’)が上に凸となる場合、領域B’とD’が伸びて領域B’とD’(及び領域BとD)が下に凸となる振動であり、図8の視認方向(図9の上面視)で、矢印の如く被駆動体を時計回り方向に駆動できる。
【0031】
図11の形態例は、圧電素子20の圧電板12の各領域の分極方向を全ての領域共に同じ方向としている。また、下側の圧電素子20’の圧電板12’も同様に分極にしていると共に、上側の圧電素子と同じ分極方向となるように接合されている。この例では電気的に導電するように接合されており、この場合の配線が図12に図示されている。また、このシリーズ分極の場合は、2枚の圧電素子の接合は絶縁されていても振動板を構成できる。
【0032】
図11の構造の振動板10を製造する1つの方法は、まず、振動子複数個分(現実的には多数個分)の大きさの素材板としての圧電板の表裏面に分断されていない通電層を形成し、素材板の全体に亘って同じ方向に分極させる。それを2枚準備し、分極方向が同じになる向きで貼り合わせる。その後、分割溝ライン22を形成しつつ各分断通電層輪郭を形成させる他、振動子外郭形状ラインに沿ってダイヤソー等にて切断して図11の形態の振動板10を複数個形成する。
その後、振動子10の表裏面同士において、対応する各領域同士(領域Cと領域C’等の全ての組み合わせ同士)を導電接続させ、図12の回路図にする。
【0033】
他の方法としては、振動子複数個分(現実的には多数個分)の大きさの素材板としての圧電板の表裏面に通電層を形成する。その一面(表面)は、分割溝ライン22を有して各分断通電層輪郭と個別振動子として後で切断すべき振動子外郭形状ライン等を入れた複数個分のパターンを、スクリーン印刷等によって焼き付け印刷形成する。それを分極処理するが、上側の圧電素子20になる素材板と下側の圧電素子20’になる素材板とでは、各分割された通電層14,14’の面から見て逆方向に分極させる。夫々の素材板を通電層が分割されていない一体通電層16,16’同士を接合させる。その後、振動子外郭形状ラインに沿ってダイヤソー等にて切断して図11の形態の振動板10を複数個形成する。
【0034】
振動板10を形成した後の電気配線では、図12に示すように配線する必要があり、圧電素子20の通電層14の各領域と圧電素子20’の通電層14’の各領域との上下に対応した各領域同士の通電層を導電接続する必要がある。この接続は印刷パターンで行うのも、コード線で接続するのも面倒である。
図8〜図12によって説明した事項は、振動板10が概略正方形の場合以外の種々の多角形でも同様であり、特に小型振動板については、1辺が10mm前後の正方形のものにおいて、辺の中央と中心とを通る分割溝ラインで通電層を2分割したタイプの量産性が良い。
【0035】
被駆動体を反対方向にも回転駆動可能にさせる振動板として、図13の形態のものを図14の如く電気接続したものがある。詳しくは、平面視が図13の形態の圧電素子20と、その下側に上面視において同じ形状の圧電素子20’とを、図11の場合と同様にシリーズ分極させて接合する。圧電素子20’の領域は図示していないが、圧電素子20の領域の記号に「’」を付した記号で表現される。対角線N1’−N1’と、辺の中央を通る辺中央線N1−N1との成す角度45度を2等分する直線を、領域A又はD(A’又はD’)と領域B又はE(B’又はE’)との境界線とし、領域A,D(A’,D’)は、対角線N1’−N1’に対して対称な形状とする。また、領域B,E(B’,E’)は対角線N1−N1に対して対称な形状とする。
【0036】
上側圧電素子20の領域C,Fと、下側圧電素子20’の領域C’,F’は、使用時において常に通電される。上側圧電素子20は領域A,Dを使用し、下側圧電素子20’は領域B’,E’が使用されるものとする。夫々に対応して上下に対応位置する領域も使用される。スイッチ70切り替えによって、所定時には領域A,D(A’,D’)の側に交番電圧発生器60を通電印加させると、2つの辺中央線N1−N1,N2−N2をノードラインとした振動が生じる。一方、下側圧電素子の領域B’,E’(B,E)の側に通電印加させると、2つの対角線N1’−N1’,N2’−N2’をノードラインとした振動が生じる。駆動凸部40が図示の如き領域A,Dの一方の輪郭線(既述の境界線)の位置にあれば、スイッチ70による接続切り替えにより、この駆動凸部に対して近接したノードラインが互いに反対側に位置することになるため、被駆動体に対する回転駆動方向が反転する。
【0037】
外郭形状が正六角形や正八角形の場合の振動板も、図13と図14で説明した構成に準じれば反転駆動が可能となる。図15は正六角形の場合の分割を図示している。領域A,B,Cを単位(円周角が120度分)として3組で構成している。領域AとBは、振動板の放射状ラインに対して対称な形状である。図13の正方形形態の説明でも明らかであるが、領域の分割溝ライン22とノードラインは必ずしも一致しない。
【0038】
図16と図17は、本発明に係る回転駆動装置の振動板10を使用したモータの例であり、モータ全体を薄く構成することに特徴を有する。図17は図16の被駆動体50の断面要部拡大図である。モータの平面図は描いていないが、円形であり、ケーシング100は薄い円筒形である。振動板10はスポンジ材等のダンパー部材80を介してケーシング100に支持されている。この振動板に設けた駆動凸部40によって、回転中心軸線Oの周りに回転駆動される被駆動体50は回転自在なボール90を介してケーシング100の下蓋部材に押圧支持されている。部材58は被駆動体50に取り付けられた駆動力取出材であり、ケーシングの周壁面を通して引き出されている。ここでは、被駆動体の回動角度は360度よりも小さく、例えば、90度である。この角度範囲内で正負の両方向に回転駆動され、ロボットアーム等の駆動に利用できる。
【0039】
被駆動体50は、基板56に緩衝材54を介して摺動板52を接合して形成されている。緩衝材としては両面テープ等があり、摺動板としてはガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させたガラス繊維強化合成樹脂(ガラスエポキシ樹脂)等がある。また、被駆動体をテフロン(登録商標)で構成してもよい。中心部の部分球形の溝50Hはボール90を受容するためである。緩衝材54の存在で、駆動凸部40が被駆動体50を叩く振動音の吸収であり、上記ダンパー部材80の存在は、これによって振動板10がケーシングを叩く振動音を吸収して静音化できる。
【0040】
図18は本発明に係る回転駆動装置の振動板10を使用したモータの他の形態例であり、回転軸59が通常のモータのように被駆動体50の中心軸線Oと同軸に延設されている。図19は図18の要部部品の平面図である。モータの平面図は描いていないが、円形であり、ケーシング100は円筒形である。振動板10はスポンジ材等のダンパー部材80を介してケーシング100に支持されている。被駆動体50は、板ばね部材によって形成された支持ばね板110とその周辺部が固定されており、振動板の方向に押圧され、振動板の下面に設けられた駆動凸部40に対してその上面が押し付けられている。支持ばね板110の中心部にはボール90を受容する孔50Hが設けられており、その外側領域周方向には適宜数の孔が設けられ、支持ばね板の変形の自由度を高めている。この支持ばね板の中央部には回転軸59が固定立設されている。
【0041】
回転軸の適宜位置には軸受120が配設されている。支持ばね板110は、被駆動体を押圧する役目(予圧役目)と、回転軸59のぐらつきを解消する役目とを有する。また、軸受120は回転軸の上部におけるふらつきを防止する。ダンパー部材80の役目は前記形態例と同様である。予圧には、磁石を使用して被駆動体を振動板の側に吸引させることもでき、板ばね部材と併用してもよい。
【0042】
モータの変形形態例として、被駆動体の両面側に振動板10を設けて、両振動板の駆動力を同時に付与することもでき、この場合、駆動力が増大する。この場合、自励発振器等の交番電圧発生器への接続は、直列電気接続でも並列電気接続でもよい。
チタン材を基盤部材として、その表面に圧電体材料を、所謂、水熱合成法で成膜させる製法では、特に、基盤部材の表面が曲面の場合でも成膜が可能であり、曲面以外の形態も含め、高精度で小さなマイクロアクチュエータ類の量産化に適する。
【0043】
また、一個の振動板の表面と裏面とに夫々駆動凸部を設け、振動板の両側に配設され、夫々の駆動凸部に対面する各被駆動体を回転駆動させてもよい。この場合、2つの被駆動体を同一方向に回転させてもよく、また、通電制御によって夫々を異なる方向に回転させてもよい。
更には、円筒や角筒の底壁の外側に本発明に係る振動子を装着し、筒内の被駆動体を回転させて流量制御を行ってもよい。
駆動凸部の高さを高く形成すれば被駆動体を早く回転させられ、低く形成すれば遅く回転させることができるが、使用中の被駆動体の回転数の制御は間欠通電で行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、超音波モータ、ロボットアームの駆動、各種の計測器関連機器等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明に係る回転駆動装置の一実施形態例を示す図である。
【図2】図2は図1の装置の電気配線図である。
【図3】図3は図1の形態例の変形形態例の配線図である。
【図4】図4は振動板が正六角形で圧電素子が円形の場合の形態例である。
【図5】図5は振動板が正八角形で圧電素子が円形の場合の形態例である。
【図6】図6は振動板と圧電素子が正三角形の場合の形態例である。
【図7】図7は振動板と圧電素子が正五角形の場合の形態例である。
【図8】図8は他の形態の回転駆動装置の平面図である。
【図9】図9は図8の一形態の断面図である。
【図10】図10は図9の形態に対応する電気配線回路図である。
【図11】図11は図8の他の一形態の断面図である。
【図12】図12は図11の形態に対応する電気配線回路図である。
【図13】図13は図8の変形形態例の平面図である。
【図14】図14は図13の形態の電気配線回路図である。
【図15】図15は図8の他の変形形態例の平面図である。
【図16】図16は本願回転駆動装置の適用例としてのモータの断面図である。
【図17】図17は図16のモータ使用の部品の部分拡大図である。
【図18】図18は本願回転駆動装置の適用例としての他のモータの断面図である。
【図19】図19は図18のモータ使用の部品の平面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 振動板
12 圧電板
14,16 通電層
20,20’ 圧電素子
22 圧電板を複数領域に分割した分割溝ライン
30 基盤板
40 駆動凸部
50 被駆動体
A,B,C,D,A’,B’,C’,D’ 分割通電層や圧電板の領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を使用した回転駆動装置に関し、所謂、超音波モータ等に利用できる。
【背景技術】
【0002】
振動子の広がり面上に駆動爪を設けて被駆動体(ロータ)を回動させる構造の超音波モータ等において、振動子の平面的重心位置(中心)から放射状に延伸する板曲げ振動の際のノードライン(不動ライン)の安定性は重要である。即ち、振動子の広がり面上に駆動爪を設けることで、ノードラインは駆動爪を設けていない状態での設計位置からずれる。こうしたずれが生じると、板曲げ振動時に振動子に設けた駆動爪の作用する被駆動体に対する摩擦駆動力が変化し、ひどい場合には、駆動爪の位置との関係から被駆動体が逆方向に回動することもあり得る。このように、回転駆動装置として不安定になる。こうした不安定性を解消すべく本出願人等が下記特許文献1において、バランス用ダミー爪を設けた構造を開示している。
【特許文献1】特開2003−324981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然しながら、上記特許文献1では、振動子の広がり面にバランス用ダミー爪を設ける必要があり、現実の構造では、このダミー爪が被駆動体に力を作用しないように正確な高さに設定し、また、駆動爪に対してノードラインを境に正確に対称性を有するように設ける必要があるが、高さの相違があるため完全な対称性は無理であり、仮に高精度に形成したとしても、振動子の材料不均一さ等に起因するノードラインの不安定さは残る。
依って解決しようとする課題は、ノードラインの設計位置が不用意に変化し難い回転駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題に鑑みて第1の発明は、圧電板に通電層を設けた圧電素子を具備する振動板が、該振動板の板面に直交する方向に屈曲して振動板の平面的重心位置から放射状に延伸するノードラインを発生させる板曲げ振動により、振動板の板面上に設けられた駆動凸部により、対面する被駆動体に対して摩擦力を作用させつつ、前記平面的重心位置を通って振動板に直交する中心軸線周りに被駆動体を回転させる回転駆動装置であって、前記振動板はその外郭形状が多角形であるか、又は外郭形状が円形であって、前記平面的重心位置の周りに外周が多角形である凹部、貫通孔又は凸部領域を設けていることを特徴とする圧電素子を使用した回転駆動装置を提供する。
振動板の平面的重心位置とは、平たく言えば中心であり、被駆動体の回転(回動)の中心軸線上にある。本願の多角形という用語は広い意味で使用しており、例えば、四角形の各角部を直線や円弧で除去カットしているものも含む。また、星形も多角形に含み、この星形状の角部を除去カットしているものも含む。
【0005】
第2の発明は、2つの板状の圧電素子の面同士を貼り合わせており、当該貼り合わせで対面している通電層領域はこの領域全体を導電接続状態(ショート状態)とし、各圧電素子の圧電板は夫々の広がり面において分極方向の異なる複数の領域を有しており、一方の圧電板の各領域は他方の圧電板の各領域と夫々上下に相対する位置にあり、夫々の圧電板の中で隣接領域同士は分極方向が互いに逆方向になっており、更には、両圧電板の対応領域同士でも分極方向が互いに逆方向になっているように第1発明の振動板を構成する。
また、本願では上記のように互いに逆方向の分極状態をパラレル分極ということにする。逆に、次の第3発明のように同じ方向の分極状態をシリーズ分極という。
【0006】
第3の発明は、2つの板状の圧電素子の夫々は、夫々の圧電板の裏面には分断されていない通電層を設け、表面には複数領域に分断された分断通電層を設けており、一方の圧電素子の分断通電層の一つの領域と、他方の圧電素子の分断通電層の一つの領域とを導電接続させる対応関係が夫々の圧電素子の各領域毎にあり、対応関係にある各領域同士が上下に相対する位置になるように、夫々の圧電素子の裏面同士を貼り合わせて振動子を構成し、各圧電素子の前記各領域において圧電板は全て同じ方向に分極していると共に、該貼り合わせた状態においても各圧電板同士の分極方向が互いに同じ方向であるように第1発明の振動板を構成する。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明では、振動板の外郭形状が多角形である場合は、振動板の中心から外郭までの長さが中心周りに漸次変化する、即ち、振動板の板曲げの抵抗値が漸次変化するので、振動板の中心を通る放射状のノードラインはこの中心周りに不用意には変化できない。言い換えると、外郭形状が円形ではなくて多角形であることは、ノードラインの前記中心周りの変動に対する機械的な規制手段になっている。外郭形状が円形であっても、振動板の表面か裏面に外周が多角形の凹部を設けたり、表面から裏面に貫通した多角形の孔を設けたり、又は多角形の凸部領域を設けている場合も同様である。
【0008】
第2の発明では、第1の発明の振動板が圧電素子を貼着するための基盤金属板や基盤ガラス板等の、圧電素子以外の基盤材を有しておらず、このため圧電歪みをそのまま十分に効率的に取り出せると共に、薄型化、小型化、量産時の低コスト化が可能になる。そうした中でも、当該第2発明のように、隣接領域毎に分極方向が交互に変更されている場合は交番電圧発生器への接続が簡便になる。即ち、貼り合わせた状態の振動板全体としての表面と裏面とを導電接続(ショート)させる必要がないと共に、該表面においても裏面においても、夫々、分極方向毎に対応している通電層の個々の領域を区別することなく全てを導電接続状態にさせるが、この状態の振動子の表面と裏面とを交番電圧発生器の夫々の端子と接続するだけで済み、電気接続作業が非常に簡便になる。
【0009】
第3の発明では、第2の発明と同様に、振動板が圧電素子を貼着するための基盤金属板や基盤ガラス板等の、圧電素子以外の基盤材を有しておらず、圧電歪みを十分に効率的に取り出せると共に、薄型化、小型化、量産時の低コスト化が可能になる。但し、当該発明は分極方向が全て同じ(シリーズ分極)であり、分極作業は簡便であるが、貼り合わせた状態の振動板全体の、対応する領域毎に表裏面間を導電接続する必要があり、電気接続自体は第2発明の方が簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を添付図面を用いて更に詳細に説明する。図1は本発明に係る回転駆動装置の一実施形態例を示す。(a)は上面図、(b)は(a)のラインN2−N2に沿う断面図、(c)は下面図である。図2はその電気配線図である。ほぼ正方形の板状の圧電体、即ち圧電板12の表裏面には通電層14,16が形成されており、表面の通電層14だけは図示のように縦横2本の分割溝22によって均等に4分割され、ほぼ正方形の領域A,B,C,Dが区画形成されて圧電素子20が形成されている。
【0011】
この圧電素子の平面的重心位置、即ち、中心Oを、ほぼ正方形の基盤板30の中心と合わせて接着固定し、振動板10を構成している。振動板に後述の電気配線を行って回転駆動装置となす。基盤板30の材質としては、ステンレス等の金属板の他、パイレックス(登録商標)ガラス等でもよい。この基盤板の裏面側には適宜な位置に駆動凸部40が、この例では4個固定されているが、2個でもよい。基盤板が金属の場合は溶接等により、また、ガラス等の場合には基盤板成形時に一体形成することができる。本願の圧電素子の分割溝ラインは中心Oを通る放射状ラインである。
【0012】
既述の中心Oを通る直線N1−N1とN2−N2は分割溝の幅中心であって、振動板の板曲げ振動時の節(ノード)ラインである。振動板10を裏面から見た図1(C)によれば、4個の駆動凸部40は、各ノードラインから時計周り方向に夫々同じ角度θだけ離隔した角度位置に設けられている。この場合、圧電素子20が4つの領域A,B,C,Dを有し、ノードラインN1−N1とN2−N2との間の領域角度は90度である。従って、角度θはこうした領域角度の1/4である22.5度が好ましく、この例でもその角度としている。
【0013】
また、中心Oと駆動凸部40とを通る放射ラインが振動板の外郭線と交差する位置までの中心Oからの放射ライン長さの35〜40パーセントの位置に、駆動凸部の中心を位置させることが好ましい。
【0014】
圧電板12の分極方向を各領域A,B,C,D共に同じ方向にした場合、領域AとCを電気的に接続し、領域BとDを電気的に接続し、夫々を自励式発振器等の交番電圧発生器60の各端子に接続させる。これにより、領域AとCは互いに同位相の振動となり、領域BとDも互いに同位相の振動になるが、領域AとCの振動とは逆位相となる。従って、領域A(とC)が表側に凸な場合は、領域B(とD)は凹となる。振動の結果、被駆動体であるロータ50は、振動板10を裏面から見た図1(C)の方向視において、中心Oの周りに矢印方向(反時計回り方向)に駆動される。各駆動凸部が、近接しているノードラインに対して図(c)の位置とは対称な位置に設けられていれば、ロータの回転は逆方向となる。
【0015】
上記の如く、ノードラインの位置と駆動凸部との位置関係は、ロータに対する駆動力や駆動方向の点において重要であり、ノードラインは設計通りの位置に無くては不都合となる。この形態例でのノードラインは、中心Oを通過して振動板10又は基盤板30の各辺の中央を通る放射状ラインである。放射状ノードラインが各辺中央位置から幾分かずれたとした場合、ノードラインの横切る振動板上のライン長さは明らかに長くなる。即ち、基盤板30の板厚は実質一定であるので、この長くなったラインによって左右に分断された各領域は、ずれる前の元の領域に比べて板曲げ振動に対する抵抗(曲げ剛性)が大きく変化する。従って、駆動凸部40の影響以外に、基盤板30の材料不均一性があったとしても、上記の振動抵抗の大きな変化を起こさせる程のものではないため、ノードラインの位置は設計位置に対して実質的に変化しない。
【0016】
仮に、基盤板30の外郭形状が円形であっても、図1(C)に2点鎖線30Mで描くような、外郭が適宜な多角形であって、中心を既述の中心Oに一致させた凹部(や貫通孔)を設けていれば、ノードラインの位置が変化したとすれば、ノードラインに沿った板厚変化の相違を生じ、この相違に応じて上記と同様に振動に対する機械的抵抗が大きく変化することになる。こうした変化は起こり難い。従って、振動板にこうした多角形が存在することによってもノードラインの設計位置からの変化を規制できる。
【0017】
図3は図1と図2に示す形態例の変形例の図2に対応する図といえる。圧電素子20の表面の通電層を図3の如く、分割溝ラインが中心Oと各角とを通るように4つの直角三角形領域A,B,C,Dに分割している。圧電板の分極方向を各領域A,B,C,D共に同じ方向にした場合、図示のように領域AとCを電気的に接続し、領域BとDを電気的に接続し、夫々を省略図示した自励式発振器等の交番電圧発生器の各端子に接続させる。これにより、領域AとCは互いに同位相の振動となり、領域BとDも互いに同位相の振動になるが、領域AとCの振動とは逆位相となる。この場合のノードラインは振動板10の対角線のラインN1−N1,N2−N2となる。
【0018】
振動板の外郭形状が正方形以外の偶数正多角形の場合も、ノードラインは対角線に位置する場合と、各辺の中央位置にくる場合とがある。図4は振動板10(又は基盤板30)が正六角形であり、圧電素子30が円形の場合の形態例である。圧電素子の表面の通電層は中心Oを通る放射状ラインで60度毎に均等な扇状の6個の領域に分割されている。夫々の分割溝ラインは外郭各辺の中央位置を通る。各領域において圧電板の分極方向が同じとし、円周方向に飛び飛びの領域A,C,Eを電気的に接続し、また、残り領域B,D,Fを電気的に接続し、夫々を図示省略した交番電圧発生器に接続する。この場合、ノードラインは中心Oと各辺の中央を通る。領域A,C,Eと領域B,D,Fとは互いに逆の凹、凸を呈する振動になる。
【0019】
図5は振動板10(又は基盤板30)が正八角形であり、圧電素子30が円形の場合の形態例である。圧電素子の表面の通電層は中心Oを通る放射状ラインで45度毎に均等な扇状の8個の領域に分割されている。夫々の分割溝ラインは各角を通る。各領域において圧電板の分極方向が同じとし、円周方向に飛び飛びの領域A,C,E,Gを電気的に接続し、また、残り領域B,D,F,Hを電気的に接続し、夫々を図示省略した交番電圧発生器に接続する。この場合、ノードラインは中心Oと各角を通る放射状である。領域A,C,E,Gと領域B,D,F,Hとは互いに逆の凹、凸を呈する振動になる。
【0020】
図4、図5共に、振動板10の中央に円形の孔Hを設けている。これは、図示しないロータの回転軸を挿通させるために設けている。
以上の形態例では、振動板10の外郭形状は偶数の正多角形であるが、偶数多角形であれば正多角形でなくても被駆動体を回動させることができる。効率よく回動させるには正多角形がよい。また、奇数多角形であっても効率は悪いが回動させることは可能である。また、圧電板12の分極方向を各領域間で同じとしたが、互いに隣接する領域毎に分極方向を変え(パラレル分極にし)てもよく、手数を要する分極作業が終われば、その後の電気配線が簡単になる。
【0021】
また、例えば、外郭形状が正方形の場合でも、実際の製品では、正方形の角部をカットすると現実の振動が安定し、好ましい。このカットの量は、正方形の一辺の長さを20とすると、各辺の各端部のカット量は夫々3程度(2〜4、即ち、辺長の10〜20%)である。従って、正方形を基本形状としてはいても、八角形ともいえる。また、カットは直線とは限らず、丸めることもある。六角形等の他の任意の多角形でも同様であり、各角部をカットすると振動が安定し易い。この任意の多角形には、星形のように外郭形状が凹凸状の多角形も含まれる。
【0022】
以下では奇数多角形の例として、正三角形と正五角形の例を説明する。図6は正三角形の場合であり、振動板中心と各頂点を通る3つのラインで通電層を6個の同じ直角三角形に分割する。圧電板は各領域とも同じ方向に分極させ、通電層の領域A,C,Eを電気的に連結ショートさせ、残り同士も連結ショートさせ、夫々を交番電圧発生器の各端子と接続させる。
図7は正五角形の場合であり、振動板中心と各頂点を通る5つのラインで通電層を10個の同じ直角三角形に分割する。圧電板は各領域とも同じ方向に分極させ、通電層の領域A,C,E,G,Iを電気的に連結ショートさせ、残り同士も連結ショートさせ、夫々を交番電圧発生器の各端子と接続させる。
【0023】
更には、例えば、図5の形態において圧電板の分極方向が全て同じである場合、領域AとB、CとD、EとF、GとHを電気的に導電接続し、隣接2領域づつを夫々電気的に一体化させ、同一形状の4つの個別領域として扱うこともできる。また、駆動凸部が領域B,D,F,Hの円周角の中央角度位置に位置していれば、即ち、ラインN2−N2とラインN3−N3の中間角度位置と、ラインN1−N1とラインN4−N4の中間角度位置とに設けられていて、前者の場合とは一領域づつずらせ、領域BとC、DとE、FとG、HとAを夫々一体化させた場合は、前者の場合とは逆の方向に回転駆動することができる。即ち、前者では、駆動凸部はノードラインN3−N3とN1−N1に近いため、駆動凸部が図5の平面上(図の手前側)に突出して設けられているとすれば、被駆動体を図5の方向視において時計周り方向に回動させる。また、後者では、駆動凸部がノードラインN2−N2とN4−N4に近いため、反時計回り方向に駆動力を作用させる。
【0024】
また、図2と図3の圧電素子20,20を基盤板30の表と裏に使用し、駆動凸部を図1(c)のθを22.5度に設置しておけば、表裏の圧電素子への通電をスイッチで切り替えると、夫々の振動時のノードラインが図1のN1,N2から図3のN1,N2に変わる。即ち、各駆動凸部に隣接するノードラインが該各駆動凸部に対して反対側に移動変化するので、駆動方向を反転させることができる。
【0025】
以下では、振動板10を形成するのに、圧電体以外の金属板やガラス板等の別部材基盤板を使用するのではなく、2枚の圧電素子20,20’を貼り合わせて振動板を形成した構造の形態例につき説明する。図8はその平面視の図であるが、分割溝ライン22は、以下説明する図9の形態と図11の形態の内の図9の場合では上面側に見えるわけではなく、この場合は透視図と考える。図9と図11は振動板10のC領域とD領域についての断面図であるが、残り領域についても同様である。上側の圧電素子20の通電層の4分割に対応して領域A,B,C,Dがある。一方、下側の圧電素子20’の対応する4つの各領域をA’,B’,C’,D’とし、夫々「’」を無くすれば同じ記号同士となる領域同士は上下の位置関係にある。
【0026】
図9の形態例は、圧電素子20の圧電板12の各領域の分極方向を隣接領域毎に異なる方向としたパラレル分極としている。また、下側の圧電素子20’の圧電板12’も同様にパラレル分極にしていると共に、上下に対応する領域毎(例えば、CとC’)では互いに逆方向の分極となる向きに構成している。更には、上側の圧電素子20の分割された表面通電層14と、下側圧電素子20’の分割されていない裏面通電層16’とを合わせた対向する通電層全体が電気的に導電するように接合されている。その接合に使用する導電性接着剤の一例として、日本エイブルスティック株式会社のエイブルボンド(商標名)84−1LMI等がある。
【0027】
図10の模式的回路図となるように、この振動板10の表裏面16,14’に、夫々、交番電圧発生器60の各端子を接続させる。圧電板の各領域を平行な2本の線で表現し、矢印で分極方向を示している。具体的には、交番電圧発生器60の一端(のクリップ)を図9の上面通電層16に(押圧)接続し、4つの領域を互いに導電接続させた振動板の下面の分断通電層14’と他端(のクリップ)を(押圧)接続させるだけでよい。従って、図9の構造の振動板を形成した後の電気配線自体は非常に簡便であって、量産に向いている。
【0028】
図10の回路図から分かるように、実際には、図9の通電層14と14’とは、分割溝ライン22は不要であり、両通電層共に、夫々、各隣接領域同士が導電接続状態、即ち、通電層16や16’のように一体のものでよい。
【0029】
図9に示す構造の振動板10を製造するには、まず、振動子複数個分(現実的には多数個分)の大きさの素材板としての圧電板の表裏面に通電層を形成する。その一面(表面)は、分割溝ライン22を有しつつ各分断通電層輪郭と個別振動子として後で切断すべき振動子外郭形状ライン等を入れた複数個分のパターンを、スクリーン印刷等によって焼き付け印刷形成する。それを分極処理する。その圧電素子20を形成する素材板と圧電素子20’を形成する他の素材板とは分極方向が互いに逆になる位置関係で導電接続状態に貼り合わせる。その後、ダイヤソー等にて切断して図9の形態の振動板10を複数個形成する。
その後、通電層14’の各領域を導電接続し、交番電圧発生器の各端子に接続したクリップ状の端子を振動板の表面16と裏面14’に当接させればよく、配線も簡便であり、低コストで量産できる。
【0030】
更には、回路図の図10から明らかであるが、圧電素子20’の分断通電層14の各領域A’,B’,C’,D’同士はショート状態にさせるため、導電部材で作られる場合の駆動凸部40を、図9の上面通電層16の上でも下面通電層14’の上でも自由に設けることができ、制約がない。上面通電層16上であって、図8の角度位置に設ける(図8の左右方向分割溝ライン22から反時計回り方向に22.5度の位置の領域Bに設け、他はこれと90度間隔とする)と、領域AとCが伸びて該領域AとC(及び領域A’とC’)が上に凸となる場合、領域B’とD’が伸びて領域B’とD’(及び領域BとD)が下に凸となる振動であり、図8の視認方向(図9の上面視)で、矢印の如く被駆動体を時計回り方向に駆動できる。
【0031】
図11の形態例は、圧電素子20の圧電板12の各領域の分極方向を全ての領域共に同じ方向としている。また、下側の圧電素子20’の圧電板12’も同様に分極にしていると共に、上側の圧電素子と同じ分極方向となるように接合されている。この例では電気的に導電するように接合されており、この場合の配線が図12に図示されている。また、このシリーズ分極の場合は、2枚の圧電素子の接合は絶縁されていても振動板を構成できる。
【0032】
図11の構造の振動板10を製造する1つの方法は、まず、振動子複数個分(現実的には多数個分)の大きさの素材板としての圧電板の表裏面に分断されていない通電層を形成し、素材板の全体に亘って同じ方向に分極させる。それを2枚準備し、分極方向が同じになる向きで貼り合わせる。その後、分割溝ライン22を形成しつつ各分断通電層輪郭を形成させる他、振動子外郭形状ラインに沿ってダイヤソー等にて切断して図11の形態の振動板10を複数個形成する。
その後、振動子10の表裏面同士において、対応する各領域同士(領域Cと領域C’等の全ての組み合わせ同士)を導電接続させ、図12の回路図にする。
【0033】
他の方法としては、振動子複数個分(現実的には多数個分)の大きさの素材板としての圧電板の表裏面に通電層を形成する。その一面(表面)は、分割溝ライン22を有して各分断通電層輪郭と個別振動子として後で切断すべき振動子外郭形状ライン等を入れた複数個分のパターンを、スクリーン印刷等によって焼き付け印刷形成する。それを分極処理するが、上側の圧電素子20になる素材板と下側の圧電素子20’になる素材板とでは、各分割された通電層14,14’の面から見て逆方向に分極させる。夫々の素材板を通電層が分割されていない一体通電層16,16’同士を接合させる。その後、振動子外郭形状ラインに沿ってダイヤソー等にて切断して図11の形態の振動板10を複数個形成する。
【0034】
振動板10を形成した後の電気配線では、図12に示すように配線する必要があり、圧電素子20の通電層14の各領域と圧電素子20’の通電層14’の各領域との上下に対応した各領域同士の通電層を導電接続する必要がある。この接続は印刷パターンで行うのも、コード線で接続するのも面倒である。
図8〜図12によって説明した事項は、振動板10が概略正方形の場合以外の種々の多角形でも同様であり、特に小型振動板については、1辺が10mm前後の正方形のものにおいて、辺の中央と中心とを通る分割溝ラインで通電層を2分割したタイプの量産性が良い。
【0035】
被駆動体を反対方向にも回転駆動可能にさせる振動板として、図13の形態のものを図14の如く電気接続したものがある。詳しくは、平面視が図13の形態の圧電素子20と、その下側に上面視において同じ形状の圧電素子20’とを、図11の場合と同様にシリーズ分極させて接合する。圧電素子20’の領域は図示していないが、圧電素子20の領域の記号に「’」を付した記号で表現される。対角線N1’−N1’と、辺の中央を通る辺中央線N1−N1との成す角度45度を2等分する直線を、領域A又はD(A’又はD’)と領域B又はE(B’又はE’)との境界線とし、領域A,D(A’,D’)は、対角線N1’−N1’に対して対称な形状とする。また、領域B,E(B’,E’)は対角線N1−N1に対して対称な形状とする。
【0036】
上側圧電素子20の領域C,Fと、下側圧電素子20’の領域C’,F’は、使用時において常に通電される。上側圧電素子20は領域A,Dを使用し、下側圧電素子20’は領域B’,E’が使用されるものとする。夫々に対応して上下に対応位置する領域も使用される。スイッチ70切り替えによって、所定時には領域A,D(A’,D’)の側に交番電圧発生器60を通電印加させると、2つの辺中央線N1−N1,N2−N2をノードラインとした振動が生じる。一方、下側圧電素子の領域B’,E’(B,E)の側に通電印加させると、2つの対角線N1’−N1’,N2’−N2’をノードラインとした振動が生じる。駆動凸部40が図示の如き領域A,Dの一方の輪郭線(既述の境界線)の位置にあれば、スイッチ70による接続切り替えにより、この駆動凸部に対して近接したノードラインが互いに反対側に位置することになるため、被駆動体に対する回転駆動方向が反転する。
【0037】
外郭形状が正六角形や正八角形の場合の振動板も、図13と図14で説明した構成に準じれば反転駆動が可能となる。図15は正六角形の場合の分割を図示している。領域A,B,Cを単位(円周角が120度分)として3組で構成している。領域AとBは、振動板の放射状ラインに対して対称な形状である。図13の正方形形態の説明でも明らかであるが、領域の分割溝ライン22とノードラインは必ずしも一致しない。
【0038】
図16と図17は、本発明に係る回転駆動装置の振動板10を使用したモータの例であり、モータ全体を薄く構成することに特徴を有する。図17は図16の被駆動体50の断面要部拡大図である。モータの平面図は描いていないが、円形であり、ケーシング100は薄い円筒形である。振動板10はスポンジ材等のダンパー部材80を介してケーシング100に支持されている。この振動板に設けた駆動凸部40によって、回転中心軸線Oの周りに回転駆動される被駆動体50は回転自在なボール90を介してケーシング100の下蓋部材に押圧支持されている。部材58は被駆動体50に取り付けられた駆動力取出材であり、ケーシングの周壁面を通して引き出されている。ここでは、被駆動体の回動角度は360度よりも小さく、例えば、90度である。この角度範囲内で正負の両方向に回転駆動され、ロボットアーム等の駆動に利用できる。
【0039】
被駆動体50は、基板56に緩衝材54を介して摺動板52を接合して形成されている。緩衝材としては両面テープ等があり、摺動板としてはガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させたガラス繊維強化合成樹脂(ガラスエポキシ樹脂)等がある。また、被駆動体をテフロン(登録商標)で構成してもよい。中心部の部分球形の溝50Hはボール90を受容するためである。緩衝材54の存在で、駆動凸部40が被駆動体50を叩く振動音の吸収であり、上記ダンパー部材80の存在は、これによって振動板10がケーシングを叩く振動音を吸収して静音化できる。
【0040】
図18は本発明に係る回転駆動装置の振動板10を使用したモータの他の形態例であり、回転軸59が通常のモータのように被駆動体50の中心軸線Oと同軸に延設されている。図19は図18の要部部品の平面図である。モータの平面図は描いていないが、円形であり、ケーシング100は円筒形である。振動板10はスポンジ材等のダンパー部材80を介してケーシング100に支持されている。被駆動体50は、板ばね部材によって形成された支持ばね板110とその周辺部が固定されており、振動板の方向に押圧され、振動板の下面に設けられた駆動凸部40に対してその上面が押し付けられている。支持ばね板110の中心部にはボール90を受容する孔50Hが設けられており、その外側領域周方向には適宜数の孔が設けられ、支持ばね板の変形の自由度を高めている。この支持ばね板の中央部には回転軸59が固定立設されている。
【0041】
回転軸の適宜位置には軸受120が配設されている。支持ばね板110は、被駆動体を押圧する役目(予圧役目)と、回転軸59のぐらつきを解消する役目とを有する。また、軸受120は回転軸の上部におけるふらつきを防止する。ダンパー部材80の役目は前記形態例と同様である。予圧には、磁石を使用して被駆動体を振動板の側に吸引させることもでき、板ばね部材と併用してもよい。
【0042】
モータの変形形態例として、被駆動体の両面側に振動板10を設けて、両振動板の駆動力を同時に付与することもでき、この場合、駆動力が増大する。この場合、自励発振器等の交番電圧発生器への接続は、直列電気接続でも並列電気接続でもよい。
チタン材を基盤部材として、その表面に圧電体材料を、所謂、水熱合成法で成膜させる製法では、特に、基盤部材の表面が曲面の場合でも成膜が可能であり、曲面以外の形態も含め、高精度で小さなマイクロアクチュエータ類の量産化に適する。
【0043】
また、一個の振動板の表面と裏面とに夫々駆動凸部を設け、振動板の両側に配設され、夫々の駆動凸部に対面する各被駆動体を回転駆動させてもよい。この場合、2つの被駆動体を同一方向に回転させてもよく、また、通電制御によって夫々を異なる方向に回転させてもよい。
更には、円筒や角筒の底壁の外側に本発明に係る振動子を装着し、筒内の被駆動体を回転させて流量制御を行ってもよい。
駆動凸部の高さを高く形成すれば被駆動体を早く回転させられ、低く形成すれば遅く回転させることができるが、使用中の被駆動体の回転数の制御は間欠通電で行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、超音波モータ、ロボットアームの駆動、各種の計測器関連機器等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明に係る回転駆動装置の一実施形態例を示す図である。
【図2】図2は図1の装置の電気配線図である。
【図3】図3は図1の形態例の変形形態例の配線図である。
【図4】図4は振動板が正六角形で圧電素子が円形の場合の形態例である。
【図5】図5は振動板が正八角形で圧電素子が円形の場合の形態例である。
【図6】図6は振動板と圧電素子が正三角形の場合の形態例である。
【図7】図7は振動板と圧電素子が正五角形の場合の形態例である。
【図8】図8は他の形態の回転駆動装置の平面図である。
【図9】図9は図8の一形態の断面図である。
【図10】図10は図9の形態に対応する電気配線回路図である。
【図11】図11は図8の他の一形態の断面図である。
【図12】図12は図11の形態に対応する電気配線回路図である。
【図13】図13は図8の変形形態例の平面図である。
【図14】図14は図13の形態の電気配線回路図である。
【図15】図15は図8の他の変形形態例の平面図である。
【図16】図16は本願回転駆動装置の適用例としてのモータの断面図である。
【図17】図17は図16のモータ使用の部品の部分拡大図である。
【図18】図18は本願回転駆動装置の適用例としての他のモータの断面図である。
【図19】図19は図18のモータ使用の部品の平面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 振動板
12 圧電板
14,16 通電層
20,20’ 圧電素子
22 圧電板を複数領域に分割した分割溝ライン
30 基盤板
40 駆動凸部
50 被駆動体
A,B,C,D,A’,B’,C’,D’ 分割通電層や圧電板の領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電板に通電層を設けた圧電素子を具備する振動板が、該振動板の板面に直交する方向に屈曲して振動板の平面的重心位置から放射状に延伸するノードラインを発生させる板曲げ振動により、振動板の板面上に設けられた駆動凸部により、対面する被駆動体に対して摩擦力を作用させつつ、前記平面的重心位置を通って振動板に直交する中心軸線周りに被駆動体を回転させる回転駆動装置であって、
前記振動板はその外郭形状が多角形であるか、又は外郭形状が円形であって、前記平面的重心位置の周りに外周が多角形である凹部、貫通孔又は凸部領域を設けている
ことを特徴とする圧電素子を使用した回転駆動装置。
【請求項2】
2つの板状の圧電素子の面同士を貼り合わせており、当該貼り合わせで対面している通電層領域はこの領域全体を導電接続状態とし、各圧電素子の圧電板は夫々の広がり面において分極方向の異なる複数の領域を有しており、一方の圧電板の各領域は他方の圧電板の各領域と夫々上下に相対する位置にあり、夫々の圧電板の中で隣接領域同士は分極方向が互いに逆方向になっており、更には、両圧電板の対応領域同士でも分極方向が互いに逆方向になっている請求項1記載の圧電素子を使用した回転駆動装置。
【請求項3】
2つの板状の圧電素子の夫々は、夫々の圧電板の裏面には分断されていない通電層を設け、表面には複数領域に分断された分断通電層を設けており、一方の圧電素子の分断通電層の一つの領域と、他方の圧電素子の分断通電層の一つの領域とを導電接続させる対応関係が夫々の圧電素子の各領域毎にあり、対応関係にある各領域同士が上下に相対する位置になるように、夫々の圧電素子の裏面同士を貼り合わせて振動子を構成し、各圧電素子の前記各領域において圧電板は全て同じ方向に分極していると共に、該貼り合わせた状態においても各圧電板同士の分極方向が互いに同じ方向である請求項1記載の圧電素子を使用した回転駆動装置。
【請求項1】
圧電板に通電層を設けた圧電素子を具備する振動板が、該振動板の板面に直交する方向に屈曲して振動板の平面的重心位置から放射状に延伸するノードラインを発生させる板曲げ振動により、振動板の板面上に設けられた駆動凸部により、対面する被駆動体に対して摩擦力を作用させつつ、前記平面的重心位置を通って振動板に直交する中心軸線周りに被駆動体を回転させる回転駆動装置であって、
前記振動板はその外郭形状が多角形であるか、又は外郭形状が円形であって、前記平面的重心位置の周りに外周が多角形である凹部、貫通孔又は凸部領域を設けている
ことを特徴とする圧電素子を使用した回転駆動装置。
【請求項2】
2つの板状の圧電素子の面同士を貼り合わせており、当該貼り合わせで対面している通電層領域はこの領域全体を導電接続状態とし、各圧電素子の圧電板は夫々の広がり面において分極方向の異なる複数の領域を有しており、一方の圧電板の各領域は他方の圧電板の各領域と夫々上下に相対する位置にあり、夫々の圧電板の中で隣接領域同士は分極方向が互いに逆方向になっており、更には、両圧電板の対応領域同士でも分極方向が互いに逆方向になっている請求項1記載の圧電素子を使用した回転駆動装置。
【請求項3】
2つの板状の圧電素子の夫々は、夫々の圧電板の裏面には分断されていない通電層を設け、表面には複数領域に分断された分断通電層を設けており、一方の圧電素子の分断通電層の一つの領域と、他方の圧電素子の分断通電層の一つの領域とを導電接続させる対応関係が夫々の圧電素子の各領域毎にあり、対応関係にある各領域同士が上下に相対する位置になるように、夫々の圧電素子の裏面同士を貼り合わせて振動子を構成し、各圧電素子の前記各領域において圧電板は全て同じ方向に分極していると共に、該貼り合わせた状態においても各圧電板同士の分極方向が互いに同じ方向である請求項1記載の圧電素子を使用した回転駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−246249(P2010−246249A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91635(P2009−91635)
【出願日】平成21年4月5日(2009.4.5)
【出願人】(595153125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月5日(2009.4.5)
【出願人】(595153125)
【Fターム(参考)】
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