説明

地すべり計測装置、地すべり検出装置、地すべり計測システム、及び地すべり計測方法

【課題】従来よりも手間がかからず、かつ、簡易な構成でありながら、広範囲に渡る地表の移動の計測を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置であって、前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域に設置され、該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、音を出力する音出力手段、からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地すべり計測装置、地すべり検出装置、地すべり計測システム、及び地すべり計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地すべり災害地などにおける、地表の移動を計測する技術が知られている。例えば、従来技術として、伸縮計を用いる技術が知られている。この伸縮計を用いた従来技術では、パイプ内を通したインバー線の端部を地表に固定し、地すべりにより引き出されるインバー線の引き出し量を記録することで、地表の移動量を計測する。このような伸縮計を用いる従来技術は、インバー線を巻き取る方式であることから、計測できる地表の移動量は、数メートル程度に限られていた。また、地すべり計の本体は、地すべりが発生しない不動点に設置しなければならない。従って地表の移動が広範囲に渡る現場では、実際に地表の移動量が計測できるのは、不動点から数メートルの範囲に限られていた。つまり、上記伸縮計を用いる従来技術は、広範囲に渡って地表の移動を計測する場合には、不向きであった。
【0003】
一方、伸縮計を用いる従来技術に比べてより広範囲に渡って地表の移動を計測する技術として、地表に反射体を設置し、反射体の位置を高精度電子測距等で計測する技術(例えば、特許文献1を参照。)、マイクロ波を用いて地表層の移動を計測する技術(例えば、特許文献2を参照。)、複数の地すべり検知センサを設置し、中継局との間で超音波の送受信を行い、送受信によって検知センサの起動を行う技術(例えば、特許文献3を参照。)が知られている。また、更に広範囲に渡って地表の移動を計測する技術として、GPS(Global Positioning System)を利用した技術(例えば、特許文献4を参照)が知られ
ている。また、地表の移動を計測する技術ではないが、音波の伝播時間を演算することで例えばドームのように閉ざされた空間内の湿度等の変化を計測する技術(例えば、特許文献5を参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−71960号公報
【特許文献2】特開2008−8853号公報
【特許文献3】特開2008−102108号公報
【特許文献4】特開2008−58245号公報
【特許文献5】特開2002−54999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地すべり災害地などにおける、地表の移動を計測する技術が知られている。古くからの技術として伸縮計を用いる技術が知られているが、この技術は、広範囲に渡る地表の移動の計測には適していなかった。また、近年では、より広範囲に渡る地表の移動を計測する技術として、超音波の送受信により移動を計測する技術や、GPSを利用した技術も開発されている。しかし、これらの技術では、装置構成が複雑であり、地表の移動の計測に手間を要し、また、装置そのものが高価であることが懸念される。そして、広範囲に渡る地表の移動の計測を正確に行うためには、複数点による地表の移動の計測が要求される。つまり、複数点に装置を設置する必要があることから、地表の移動の計測の手間や経済的負担が大きくなる。また、実際に地すべりが発生した場合には、装置の回収はできないこと
も想定され、この意味でもより安価な装置の開発が望まれる。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、従来よりも手間がかからず、かつ、簡易な構成でありながら、広範囲に渡る地表の移動の計測を行うことができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、地すべり計測対象領域に設置された音を出力する音出力手段からの音を、地すべり計測対象領域から離れた領域に設けられた音取得手段で取得し、取得した音の到達時間から音出力手段と音取得手段との距離を算出し、地すべり計測対象領域の地表の移動を計測することとした。
【0008】
より詳細には、本発明は、地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置であって、前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域に設置され、該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、音を出力する音出力手段、からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、を備える。
【0009】
音出力手段は、音を出力する。音出力手段は、地すべり計測対象領域の地表に設置され、地表の移動を検出する移動検出手段に設けることができる。移動検出手段は、地表が移動すると地表と共に移動することから、音出力手段も地表の移動と共に移動する。
【0010】
音取得手段は、地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される。地すべり計測対象領域と離れた領域は、換言すると地すべりの影響がない、すなわち地表の移動がない安全な領域を意味する。音出力手段は、上記のように仮に地表に移動が起こると、地表の移動と共に移動する。従って、地すべり計測対象領域の地表が移動すると、音出力手段と音取得手段との距離、すなわち到達距離が変化する。本発明は、この到達距離の変化を音の到達時間から算出することを特徴の一つとする。
【0011】
音出力手段は、音を出力できるものであればよく、例えば既存のスピーカを用いることができる。また、音取得手段は、音を取得できるものであればよく、例えば既存のマイクロフォンを用いることができる。すなわち、従来の例えばGPSを用いた地すべり計測装置と比較して、非常に簡易な構成とすることができる。また、音の到達時間によって地表の移動を計測可能であり、複雑な処理も必要とせず、広範囲に渡る地表の移動を計測することができる。
【0012】
ここで、音は、空気を伝達媒体とするため、地すべり計測対象領域周辺の環境変化の影響を受けることが想定される。そして、環境変化は、地表の移動を計測する際に誤差を生じさせる虞がある。そこで、本発明に係る地すべり計測装置は、以下のように構成してもよい。すなわち、本発明に係る地すべり計測装置は、前記音取得手段で取得される音の到達時間に影響を与える環境情報であって、少なくとも気温に関する気温情報、風速に関する風速情報、風向に関する風向情報のうち少なくとも何れか一つを含む環境情報を取得する環境情報取得手段を更に備える。そして、前記移動計測手段は、前記環境情報取得手段で取得される環境情報に基づいて算出する前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を補正し、補正された到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する。これにより、環境変化による計測の誤差を低減、換言すると地すべり計測における精度を向上することができる。
【0013】
また、本発明に係る地すべり計測装置において、前記移動計測手段は、前記算出した到達距離の変位が予め規定された基準変位を上回るか否かを更に判断し、前記計測結果出力手段は、前記移動計測手段が、前記算出した到達距離の変位が予め規定された基準変位を上回ると判断した場合、地すべりの発生を報知するようにしてもよい。極めて少ない変位の場合にも地すべりの発生を報知すると、誤報となる虞もあり、地すべりを報知する信頼性が低下することも懸念される。少ない変位の場合、測定誤差によるものも含まれるからである。本発明によれば、基準変位に基づくことで測定精度を高め、かつ地すべり計測装置の信頼性を高めることができる。
【0014】
上記に加えて、本発明に係る地すべり計測装置において、前記音出力手段と前記音取得手段は、電気的に接続してもよい。また、前記地すべり計測装置は、前記音出力手段から出力される音を調整する音調整手段を更に備える構成とすることができる。また、前記音調整手段は、前記音取得手段で取得される音の音圧が、予め規定されている基準音圧を上回っているか否か判断し、該音取得手段で取得される音の音圧が前記基準音圧を上回っている場合、前記音出力手段から出力する音の音圧を低減し、該音取得手段で取得される音の音圧が前記基準音圧を上回っていない場合、前記音出力手段から出力する音の音圧を増加する構成とすることができる。
【0015】
電気的な接続は、無線、有線いずれでもよいが、配線等の煩雑さを考慮すると無線とすることが好ましい。音調整手段は、例えば電気信号によって音出力手段から出力される音を調整する。音の調整には、音を出力するタイミング、音の音圧、音の周波数等が例示される。例えば、上記のように音調整手段が、音圧を調整することで、過剰な音圧での出力を回避することができる。その結果、音出力手段を駆動する駆動力の低減を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る地すべり計測装置において、前記移動計測手段は、前記音取得手段で取得される音の波形の最初のピーク値を求め、該ピーク値から1/4周期戻した時間を該音取得手段が取得する音の始点として前記音の到達時間を算出し、該到達時間から、前記到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測するようにしてもよい。これにより、音の到達時間の誤差の発生を低減することができる。すなわち、地表の移動を計測する際の計測精度をより向上することができる。
【0017】
また、本発明に係る地すべり計測装置は、前記音取得手段で取得される音に含まれる雑音を除去する雑音除去手段を更に備える構成とすることができる。雑音除去手段は、既存のフィルタによって構成することができる。本発明によれば、地表の移動を計測する際の計測精度をより向上することができる。
【0018】
また、本発明に係る地すべり計測装置において、前記移動計測手段は、前記音取得手段で取得される音に雑音が含まれるか否かを判定する際の基準となる雑音判定距離基準と、該移動計測手段によって算出された前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離と、を比較して、前記到達距離が雑音を含むか否か判定し、雑音を含まないと判定した場合に、雑音を含まないと判定した到達距離に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測するようにしてもよい。これにより、雑音を含んで音の到達距離を算出したものをエラーと判定することが可能となり、このような雑音を含む音の到達距離は、地表の移動の測定に反映させないようにすることができる。その結果、地表の移動を計測する際の計測精度をより向上することができる。
【0019】
ここで、本発明に係る地すべり計測装置において、前記音取得手段は、前記計測対象領
域と離れた領域のうち、前記音取得手段とは異なる位置に配置され、前記移動計測手段による計測の際に基準となる基準音を出力する基準音出力手段、からの基準音を更に取得し、前記移動計測手段は、前記基準音出力手段の位置から前記音取得手段までの距離と、前記音取得手段で取得される基準音の到達時間に基づいて音速を算出し、算出された音速と前記音取得手段取得される音の到達時間に基づいて前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測するようにしてもよい。
【0020】
上述したように、環境情報を考慮することで、環境変化による計測の誤差を低減、換言すると地すべり計測における精度を向上することができる。但し、晴れの日、特に日中において気温が高い場合、温度情報を取得する装置の性能によっては、熱が温度情報を取得する装置の周囲にこもるなどの原因により正確な温度が取得できないことも想定される。そして、温度に誤差が生じると、最終的に算出される測定距離に誤差が生じることが想定される。そこで、本発明は、温度情報を用いずに、より正確な地表の移動の計測を実現する。具体的には、本発明では、音取得手段が、基準音を出力する基準音出力手段からの基準音を更に取得する。基準音とは、移動計測手段による計測の際に基準となる音である。換言すると、基準音とは、移動計測手段によって移動量を計測する際に用いる音速を算出する為の音である。基準音出力手段は、地すべりの影響ない、計測対象領域と離れた領域に配置される。基準音出力手段は、音出力手段と異なり地表と共に移動しないことから、予め設置位置(例えば、座標)を取得することができる。これにより、基準音出力手段の設置位置と音取得手段の位置(地すべり計測装置の位置でもよい)との間の距離を算出することが可能となる。基準音出力手段の位置は、既存の測量技術により定期的に取得するようにしてもよい。基準音出力手段の設置位置と音取得手段の位置との間の距離と基準音の到達時間より、音速を算出することが可能となる。算出された音速と音取得手段で取得される音出力手段から出力された音の到達時間によれば、音出力手段と音取得手段の到着距離を算出することが可能となる。到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて、最終的に地すべり計測対象領域の地表の移動を計測することが可能となる。
【0021】
なお、基準音を用いて地表の移動を計測する場合にも、風速情報や風向情報を考慮することで計測制度をより向上することができる。そこで、本発明に係る地すべり装置は、前記音取得手段で取得される音の到達時間に影響を与える環境情報として風速に関する風速情報及び風向に関する風向情報を含む環境情報を取得する環境情報取得手段を更に備え、前記移動計測手段は、前記環境情報取得手段で取得される環境情報に基づいて前記音速を補正し、補正された音速と前記音取得手段取得される音の到達時間に基づいて前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測するようにしてもよい。
【0022】
ここで、本発明は、上述した地すべり計測装置と共に用いられる地すべり検出装置であってもよい。すなわち、本発明は、地山の地表の移動を検出する地すべり検出装置であって、本体部と、前記本体部に設けられ、地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置に対して音を出力する音出力手段と、前記本体部に設けられ、該本体部を地山に固定する固定手段と、を備える。そして、前記地すべり計測装置は、前記音出力手段からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、を備える。また、前記地すべり検出装置は、前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域の地表に前記固定手段によって固定されることで該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、かつ前記音出力手段によって音を出力
する。
【0023】
また、本発明は、上述した地すべり計測装置及び地すべり検出装置の構成を含む、地すべり計測システムとして特定することも可能である。すなわち、本発明は、地山の地表の移動を計測する地すべり計測システムであって、本体部と、前記本体部に設けられ、地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置に対して音を出力する音出力手段と、前記本体部に設けられ、該本体部を地山に固定する固定手段と、を有する地すべり検出装置と、前記音出力手段からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、を有する地すべり計測装置と、を備える。また、地すべり計測システムは、基準音出力手段を含む構成としてもよい。
【0024】
また、本発明は、上述したいずれかの機能を実現させる方法であってもよい。すなわち、本発明は、地山の地表の移動を計測する地すべり計測方法であって、コンピュータが、前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域に設置され、該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、音を出力する音出力手段、からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段によって該音を取得する音取得ステップと、前記音取得ステップで取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測ステップと、前記移動計測ステップによる計測結果を出力する計測結果出力ステップと、を含む処理を実行する。
【0025】
なお、本発明は、上述したいずれかの機能を実現させる装置、又はプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来よりも手間がかからず、かつ、簡易な構成でありながら、広範囲に渡る地表の移動の計測を行うことができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第一実施形態に係る地すべり計測システムの設置状況を示す。
【図2】第一実施形態に係る地すべり計測システムの概略構成を示す。
【図3】センサ側制御部の機能ブロック図を示す。
【図4A】センサを地表に設置した状態を示す。
【図4B】センサの断面図を示す。
【図5A】中央突起部と錘を有する固定部の一例を示す。
【図5B】中央突起部と外側突起部と錘とを有する固定部の一例を示す。
【図5C】中央突起部と外側突起部と沈み込み防止プレートを有する固定部の一例を示す。
【図6】本体側制御部の機能ブロック図を示す。
【図7】センサにおける処理フローを示す。
【図8】計測器本体における処理フローを示す。
【図9】マイク毎の音の到達時間を示す。
【図10】センサとマイクとの関係のイメージ図を示す。
【図11】風が吹いていると仮定した場合のセンサとマイクとの位置関係を示す。
【図12】マイクで計測される音の波形が測定基準レベルを上回っているグラフを示す。
【図13】マイクで計測される音の波形が測定基準レベル以下の場合のグラフを示す。
【図14】閾値を超えてすぐに音の到達時間の算出が実行される場合のグラフを示す。
【図15】閾値を超えて暫く経ってから音の到達時間の算出が実行される場合のグラフを示す。
【図16】到達時間精度向上処理フローを示す。
【図17】到達時間精度向上処理フローの原理を図化したものを示す。
【図18】マイクで取得される雑音を含まない音の波形を示す。
【図19】マイクで取得される雑音を含む音の波形を示す。
【図20】雑音判定処理フローを示す。
【図21】雑音が含まれる音に基づいて算出された到達距離データを示す。
【図22】雑音判定処理を実行後の到達距離データを示す。
【図23A】第一実施形態に係る地すべり計測システムによる実験データ(1)を示す。
【図23B】第一実施形態に係る地すべり計測システムによる実験データ(2)を示す。
【図24】第五実施形態に係る地すべり計測システムの設置状況を示す。
【図25】第五実施形態に係る地すべり計測システムの概略構成を示す。
【図26】基準音源側制御部の機能ブロック図を示す。
【図27】第五実施形態に係る計測器本体における処理フローを示す。
【図28】風が吹いていると仮定した場合の基準音源とマイクとの位置関係を示す。
【図29】基準音源における処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係る地すべり計測システムの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0029】
<システム構成>
図1は、第一実施形態に係る地すべり計測システム100の設置状況を示す。また、図2は、第一実施形態に係る地すべり計測システム100の概略構成を示す。第一実施形態に係る地すべり計測システム100は、地山90のうち、地表の移動を計測する地すべり検知対象エリア91に設置される複数のセンサ1、地すべり検知対象エリア91から離れた領域にある地すべりの影響が無いと予測される安全エリア92に設置される複数のマイクロフォン(以下、単にマイクという。)2、マイク2と同じく安全エリア92に設置される計測器本体3、によって構成されている。なお、以下の説明では、センサ1a、1b、1c、1d、1eは、いずれも同等の機能を有しており、説明上、特に区別する必要がある場合を除いて単にセンサ1として説明する。また、マイク2a、2b、2cも、いずれも同等の機能を有しており、説明上特に区別する必要がある場合を除いて単にマイク2として説明する。
【0030】
第一実施形態に係る地すべり計測システム100では、センサ1から出力される音を、安全エリア92に設けられたマイク2で取得する。マイク2で取得された音が計測器本体3に入力され、計測器本体3において音の到達時間からマイク2とセンサ1との到達距離を算出する。マイク2とセンサ1との到達距離の算出を複数回行うことで、地表の移動が計測され、その結果地すべりの発生の有無を判断することが可能となる。以下、各構成について具体的に説明する。
【0031】
[センサ]
センサ1は、地表の移動を測定するための音を出力する。センサ1は、地表に移動が発生した場合には地表と共に移動し、かつ、地表の移動を測定するための音を出力する。これにより、地表に移動が発生した場合において、センサ1からマイク2までの距離の算出が可能となり、結果として地表の移動の測定が可能となる。本実施形態のセンサ1は、バッテリ11、スピーカ18、センサ側無線通信器13、センサ側制御部14、発信機15、増幅器16、タイマ17によって構成されている。本実施形態では、複数のセンサ1が設けられているが、設置数は単数であってもよい。
【0032】
バッテリ11は、センサ1を駆動する。本実施形態では、各センサ1にバッテリ11が設けられ、また、計測器本体3との通信も無線通信が実現されている。これにより、センサ1は、マイク2や計測器本体3等の他の機器類との配線が不要である。センサ1の設置方法については、後述するが、本実施形態に係るセンサ1は、空中からの投下による設置が可能である。従って、配線があると設置の際の手間も煩雑となるが、バッテリ11を内蔵する内蔵型とすることで、このような設置の煩雑さを解消することができる。また、本実施形態に係る地すべり計測システム100は、比較的広範囲に渡る地表の移動の計測を想定している。地表の移動を計測する対象が広範囲になればなるほど、センサ1を設置する際の手間も煩雑になる。本実施形態に係るセンサ1は、バッテリ11を内蔵することで、広範囲に渡る地表の移動の計測に好適に用いることができる。但し、例えば、共通の駆動源を用い、この共通の駆動源と各センサ1とを配線を用いて電気的に接続し、センサ1の電源を確保するにようにしてもよい。
【0033】
センサ側無線通信器13は、計測器本体3側の本体側無線通信器31との間で無線通信する。センサ側無線通信器13は、受信機能のみを有する構成でもよいが、受信機能及び送信機能を備える構成であってもよい。受信機能のみを有する構成によれば、センサ1のコストを削減することが可能となる。また、受信機能及び送信機能を備える構成とすることで、センサ1から計測器本体3に対してセンサ1の状態等を含む情報を送信することが可能となる。その結果、センサ1から出力される音のタイミング等の管理をより容易に行うことが可能となる。センサ側無線通信器13は、本体側無線通信器31から送信されるタイミング情報、すなわち各センサ1から出力する音の出力タイミングを決定するためのタイミング情報(タイミング情報には、後述する、通常の計測インターバル、ショートインターバルも含まれる。)を受信する。また、センサ側無線通信器13は、タイミング情報に関連付けて各センサ1の識別情報(以下、IDともいう。)を受信する。受信されたタイミング情報や識別情報は、センサ側制御部14へ入力される。また、センサ側無線通信器13は、センサ1を起動するための起動情報の受信も可能である。
【0034】
センサ側制御部14は、センサ1の各種制御を行い、所定のタイミング(所定のインターバル)で所定の音圧の音をスピーカ18から出力させる。具体的には、センサ側制御部14は、CPU、メモリ等を含むコンピュータとコンピュータ上で実行されるプログラムによって実現することができる。ここで、図3は、センサ側制御部14の機能ブロック図を示す。センサ側制御部14は、CPU141、メモリ142、起動部143、センサ側情報通信部144、音声信号生成部145によって構成されている。
【0035】
CPU141は、センサ1を構成する各種ハードウェアを制御すると共に、例えばメモリ142としてのROMに格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。メモリ142は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read
Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)のような書き換え可能な半導体メモリを含む。
【0036】
起動部143は、タイマ17からの信号、すなわちセンサ1のON/OFFを決定する
時間情報に基づいて、センサ1を起動し、又はセンサ1の省電力を実現するスリープ状態とする。なお、起動部143は、計測器本体3から無線通信を介して時間情報や起動情報を取得するようにしてもよい。
【0037】
センサ側情報通信部144は、センサ側無線通信器13を介してタイミング情報や識別情報を取得する。取得された各種情報は、音声信号生成部145に対して出力される。
【0038】
音声信号生成部145は、センサ側情報通信部144からの各種情報に基づいてスピーカ18から出力すべき音を構成する音声信号を生成する。すなわち、音声信号生成部145は、タイミング情報に基づいて音声信号を出力するタイミング、すなわちスピーカ18から出力される音のタイミングを決定する。例えば、緊急性の高い地すべり検知対象エリア91、換言すると地すべりの兆候が見られ、危険性が高いような地すべり検知対象エリア91では、30秒間隔で音声信号を出力する。一方、緊急性の低い地すべり検知対象エリア91、換言すると地表が長期的にゆっくりとした移動しか想定されない地すべり計測対象エリア91では、数十分間隔、又は数時間のインターバルで音声信号を出力すればよい。このような音のタイミング、換言すると計測インターバルは、地すべり検知対象エリア91に応じて変更できるよう設定できるようすることで、地すべり計測システム100の利便性をより高めることができる。また、同じ地すべり検知対象エリア91であっても、天候によって緊急性が変化することが想定される。しかしながら、計測インターバルを適宜変更できる構成とすることで、天候等に応じて計測インターバルを変更することが可能となる。そして、必要最低限の可動とすることでバッテリ11の消耗を低減することが可能となる。
【0039】
計測器本体3から出力されるタイミング情報等は、複数のセンサ1に対して出力される。従って、音声信号生成部145は、取得する識別情報の中から自己のIDに関連付けられているタイミング情報を読み込む。タイミング情報は、各センサ1のIDと関連付けられ、各センサ1から出力される音が重ならないように設定されている。これにより、各センサ1から出力される音のタイミングをずらすことが可能となる。なお、スピーカ18から出力される音の周波数帯域や音圧などは、予めセンサ毎に割り当てておくことができる。本実施形態では、スピーカ18から出力される音の周波数帯域が、3kHzから4kHzであることが好ましい。周波数帯域は、特に限定されるものではないが、例えば超音波とすると音の減衰が懸念される。いわゆる可聴波とよばれる上記帯域の周波数とすることで音の減衰を低減することができる。また、上記帯域であれば、スピーカ18としていわゆる圧電ブザーといった比較的安価であり消費電力も少ない音源を採用することが可能となる。また、スピーカ18から出力される音の周波数帯域や音圧などは、センサ毎のIDと関連付けてタイミング情報と共に計測器本体3から送信するようにしてもよい。
【0040】
発信器15は、音声信号生成部145によって制御され、所定の周波数帯域かつ音圧の音声信号を増幅器16に対して出力する。増幅器16は、発信器15からの音声信号を増幅し、スピーカ18に対して出力する。
【0041】
スピーカ18は、増幅器16で増幅された音声信号を音として出力する。スピーカ18には、圧電ブザーを用いることができる。これにより、消費電力を削減することができ、また、コストの低減を図ることもできる。なお、スピーカ18には、マグネットとコイルを用いたものを用いてもよい。これにより、より大きい音を出力することができる。従って、マグネットとコイルを用いたスピーカは、地すべり検知対象エリア91が広範囲である場合に適している。スピーカ18から出力された音は、その後計測器本体3のマイク2で受信される。
【0042】
ここで、図4Aは、センサ1を地表に設置した状態を示す。また、図4Bは、センサ1
の断面図を示す。これらの図に示すように、本実施形態に係るセンサ1は、本体部51、アンテナ52、固定部としての中央突起部53及び外側突起部54、緩衝材56によって構成されている。
【0043】
本体部51は、上述したバッテリ11、スピーカ18、センサ側制御部14を格納する基板55といったセンサ1の各部品を収容する。本実施形態に係る本体部51は、長方体の箱型形状である。但し、本体部51の形状や大きさは、限定されるものではない。本体部51は、例えば、円筒形としてもよい。
【0044】
アンテナ52は、電気信号の送受信を行う。具体的には、アンテナ52は、本体側無線通信器31から出力されるタイミング情報等を受信する。アンテナ52は、本実施形態では、棒状であり、一端が本体部51内部に設けられたセンサ側無線通信器13と接続され、他端は、本体部51の上部外側において開放している。なお、本実施形態では、アンテナ52の他端が、本体部51の外部に露出しているが、本体部51を樹脂等の電波を通す材質によって構成し、アンテナ52の全体を本体部51の内部に設けてもよい。
【0045】
本体部51の下部には、本発明の固定部に相当する、中央突起部53及び外側突起部54が設けられている。本体部51と固定部50は、着脱可能に構成してもよく、これにより、固定部50を様々なセンサに取り付けることが可能である。固定部50は、センサ1を地山90の地表に固定する。本実施形態に係る固定部は、本体部51の底面と直交する複数の棒状の突起部、すなわち、中央突起部53及び外側突起部54によって構成されている。より詳細には、本体部51の底面の中心から延びる中央突起部53が最も長く、中央突起部53は、本体部51の高さとほぼ同じ長さを有している。本体部51の底面の外側には、中央突起部53よりも短い外側突起部54が複数設けられている。
【0046】
中央突起部53や外側突起部54の長さや材質は、特に限定されるものではないが、センサ1を設置する場合の衝撃を考慮して、その長さや材質を設計することが好ましい。また、センサ1を設置する地すべり検知対象エリア91の地表の土質等を考慮することがより好ましい。例えば、地表が硬い場合には、中央突起部53や外側突起部54は、強度が高い材質によって構成することが好ましい。一方、地表が比較的柔らかい場合には、センサ1を安定的に固定するため、中央突起部53や外側突起部54の長さを長くすることが好ましい。
【0047】
なお、固定部50は、以下のように構成してもよい。ここで、図5A、図5B、5Cは、固定部の変形例を示す。具体的には、図5Aは、中央突起部53と錘55を有する固定部50の一例を示す。図5Bは、中央突起部53と外側突起部54と錘55とを有する固定部50の一例を示す。図5Cは、中央突起部53と外側突起部54と沈み込み防止プレート56を有する固定部50の一例を示す。地表面の傾斜角度が大きい場合や、地表が柔らかいような場合、センサ1の重心が高いとセンサ1が転倒してしまうことが懸念される。図5Aや図5Bに示すように、固定部50に錘55を設けることで、センサ1の転倒を抑制し、センサ1を地表に対してより安定的に固定することが可能となる。なお、本態様では、錘55が設けられた部分も地表に突き刺さりやすくするため、錘55が、錐形状に構成されている。
【0048】
また、地表が柔らかい場合や地表が水分を多く含んでいる場合、センサ1が設置された際に、センサ1が地中に潜り込んでしまうことが懸念される。図5Cに示すように、沈み込み防止プレート56を固定部50に設けることで、このような沈み込みを抑制することができる。沈み込みプレート56は、沈み込みを抑制できるよう、本体部51の外郭よりも外側に突出していればよくその形状は、特に限定されない。なお、例えば、センサ1を空中から落下させて設置する場合、沈み込みプレート56は、センサ1が落下する際に空
気抵抗を受けることが懸念され、落下の際のセンサ1の姿勢に影響を与える虞がある。従って、沈み込みプレート56は、メッシュ状のプレート部材によって構成してもよい。これにより、空気抵抗を低減することが可能となる。
【0049】
ここでセンサ1の設置方法について説明すると、本実施形態に係るセンサ1の設置方法の一態様として、空中からの投下が例示される。例えば、ラジオコントロールヘリコプタ(以下、単に、ラジコンヘリコプタという。)にセンサ1の吊り下げやセンサ1の投下を行うための装置を搭載する。そして、ラジコンヘリコプタからセンサ1を吊り下げた状態でラジコンヘリコプタをセンサ1の設置予定位置の上空まで飛行させ、センサ1を落下させる。すると、固定部を構成する中央突起部53や外側突起部54が地山の斜面に突き刺さり、センサ1が固定される。このような設置態様を採用することで、地すべり検知対象エリア91(図1参照。)に立ち入らずにセンサ1を設置することが可能となる。なお、地すべり検知対象エリア91の安全が確認できているような場合には、地すべり検知対象エリア91に侵入して設置してもよい。
【0050】
中央突起部53や外側突起部54の長さや材質は、特に限定されるものではないが、センサ1を投下によって設置する場合を考慮して、その長さや材質を設計することが好ましい。また、センサ1を設置する地すべり検知対象エリア91の地表の土質等を考慮することがより好ましい。例えば、地表が硬い場合には、中央突起部53や外側突起部54は、強度が高い材質によって構成することが好ましい。一方、地表が比較的柔らかい場合には、センサ1を安定的に固定するため、中央突起部53や外側突起部54の長さを長くすることが好ましい。
【0051】
緩衝材56は、本体部51の上面に設けられ、センサ1に作用する衝撃が本体部51内に設けられた部品に伝達することを抑制する。より詳細には、アンテナ52、センサ側無線通信器13、センサ側制御部14を格納する基板55等は、緩衝材56を介して本体部51内に設けられている。これにより、センサ1に作用する衝撃が緩衝材56で吸収され、アンテナ52等の部品の破損を抑制することができる。なお、緩衝材56は、衝撃を吸収できるものであればよく、バネを利用したもの、ゴムなどの弾力性を利用したものが例示される。本実施形態に係るセンサ1を空中からの投下によって設置する場合、設置の際の衝撃がセンサ1に作用する。しかしながら、本実施形態に係るセンサ1は、緩衝材56が設けられていることから、設置の際の衝撃によるセンサ1を構成する部品の破損を抑制することができる。
【0052】
基板55は、センサ側制御部14を構成する、CPU141やメモリ142が設けられるICチップによって構成される。スピーカ18は、本実施形態ではいわゆるホーン型スピーカが採用されており、増幅器16の出力が小さくても大きな音量が出せるように工夫されている。なお、スピーカ18の開口部を本体部51の各側面に設けることが好ましい。これにより、例えば、センサ1の水平方向における向きに左右されることなく、効果的に音をマイク2に向けて出力することができる。バッテリ11、センサ側無線通信器13については、既に説明したのでここでの説明は割愛する。
【0053】
[計測器本体]
次に計測器本体3について説明する。計測器本体3は、本体側無線通信器31、本体側増幅器16、バンドパスフィルタ(以下、BPFという)33、本体側制御部34、記憶装置35、温度センサ36a、風速センサ36c、風向センサ36d、外部出力IF37、によって構成されている。計測器本体3には、マイク2、警報器38、パーソナルコンピュータ(以下、パソコンという。)39が接続されている。なお、本体側増幅器32は、三つの本体側増幅器からなり、BPF33も三つのBPFによって構成されている。但し、三つの本体側増幅器、及び三つのBPFは、夫々同等の機能を有している。従って、
以下の説明は、特に区別する必要がある場合を除いて、単に本体側増幅器32、若しくはBPF33と称する。
【0054】
本体側無線通信器31は、センサ1に設けられているセンサ側無線通信器13との間で無線通信する。具体的には、本体側無線通信器31は、タイミング情報や識別情報などをセンサ側無線通信器13に対して出力する。なお、タイミング情報や識別情報は、記憶装置35に格納されており、本体側制御部34の制御の下、所定のタイミングで出力される。
【0055】
マイク2は、センサ1のスピーカ18から出力される音を受信し、電気信号に変換する。本実施形態では、マイク2は、三つのマイク、すなわちマイク2a、マイク2b、マイク2cによって構成されている。マイク2で受信された音は、電気信号に変換され、マイク2に接続されている本体側増幅器16に対して出力される。なお、マイク2の設置数は、限定されない。単数であっても移動の有無は計測できるが、センサ1の位置(座標)を特定する上では少なくとも三つ設置することが好ましい。これにより、三角測量の原理を利用して容易にセンサ1の座標を特定することが可能となる。
【0056】
本体側増幅器16は、マイク2から出力される電気信号を増幅する。本実施形態では、各マイク2に本体側増幅器16が設けられている。
【0057】
BPF33は、マイク2で受信された音のうち、センサ1から出力された音以外の音、すなわち雑音を除去する。雑音の除去は、スピーカ18から出力される音の周波数を予め特定し、特定した周波数帯域以外の音は雑音として除去するようにすればよい。
【0058】
本体側制御部34は、計測器本体3の各種制御を行い、地表の移動量が所定量を上回った場合、地すべりが発生すると判断し、警報器38を通じて警報を発する。ここで、図6は、本体側制御部34の機能ブロック図を示す。本体側制御部34は、CPU151、メモリ152、本体側情報通信部153、地すべり情報取得部154、判断部155、地すべり情報出力部156、によって構成されている。CPU151は、センサ1を構成する各種ハードウェアを制御すると共に、例えばメモリ152としてのROMに格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。メモリ152は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)のような書き換え可能な
半導体メモリを含む。
【0059】
本体側情報通信部153は、センサ1に対して必要な情報を送信する。具体的には、本体側情報通信部153は、センサ1から出力する音の出力タイミングを決定するためのタイミング情報、タイミング情報に関連付けられたセンサ1毎の識別情報等を送信する。本体側情報通信部153は、センサ1を起動するための起動情報を送信してもよい。更に、センサ1から出力される音の周波数や音圧に関する情報を送信してもよい。なお、これらの各種情報は、記憶装置35若しくはメモリ152に格納することができる。本体側情報通信部153が、本発明の音調整手段の機能を担う。
【0060】
地すべり情報取得部154は、地すべり情報、すなわち、地表の移動量を判断するための情報をマイク2で取得される音として取得する。具体的には、マイク2で取得された音は、電気信号に変換され、計測器側増幅器16で増幅され、更にBPF33で雑音が除去された後、地すべり情報取得部154に入力される。地すべり情報取得部154は、取得した地すべり情報を判断部155に対して出力する。地すべり情報取得部154は、本発明の音取得手段の機能を担う。
【0061】
判断部155は、本発明の移動計測手段に相当し、地すべり情報に基づいて地すべりの発生の有無を判断する。なお、判断部155には、地すべり情報に加えて、温度センサ36aからの地すべり検知対象エリア91付近の温度に関する温度情報、風速センサ36cからの地すべり検知対象エリア91付近の風速に関する風速情報、風向センサ36dからの地すべり検知対象エリア91付近の風向に関する風向情報が入力される。従って、判断部155は、これら温度情報等も考慮して地すべり発生の有無を判断することができる。なお、地すべり発生の判断処理の詳細については、後述する。
【0062】
地すべり情報出力部156は、判断部155による判断結果を出力する。具体的には、外部出力IF37に対して判断結果を出力し、パソコン39のディスプレイに表示させたり、警報器38を通じて警報する。
【0063】
温度センサ36aは、温度情報を検知する。風速センサ36cは、風速情報を検知する。風向センサ36dは、風向情報を検知する。これらの各種センサは、本体側制御部34と電気的に接続されており、各種センサで検知された情報は、本体側制御部34内の判断部155に入力される。
【0064】
外部出力IF37は、計測器本体3とパソコン39及び警報器38とを接続するインターフェースである。パソコン39は、CPU、記憶装置、表示部としてのディスプレイ、操作部としてのマウスやキーボードを備える。パソコン39を通じて本体側制御部34で用いられる各種データ(例えば、タイミング情報や識別情報)の入力を行うことができる。また、パソコン39を通じて、マイク2を通じて取得された音に関するデータや、判断部155による判断結果を確認することができる。パソコン39によれば、判断結果だけでなく、計測結果も確認することができる。一方、警報器38は、判断部155が地すべりの発生があると判断した場合に報知する。つまり、警報器38は、主として危険を知らせる機能を担う。警報器38には、音による報知を行うブザー、光による報知を行うランプが例示される。
【0065】
<処理フロー>
次に、第一実施形態に係る地すべり計測システム100における処理フローについて説明する。
【0066】
[センサにおける処理]
まず、センサ1における処理について説明する。図7は、センサにおける処理フローを示す。ステップS01では、センサ1が起動される。すなわち、タイマ17からの信号(時間情報ともいう)に基づいて、センサ1を起動する。タイマ17からの信号とは、待機時間が終了するとタイマ17から出力される信号である。なお、起動部143は、センサ側無線通信器13を介して、計測器本体3から送信されるセンサ1を起動するための起動信号(起動情報ともいう。)を受け付け、起動信号が入力されると、センサ1を起動するようにしてもよい。タイマ17からの信号に基づいて起動することで、センサ1をタイマ17以外の機能を完全に停止するスリープ状態とすることができるので、センサ1のバッテリ11の消耗を低減することができる。一方、センサ側無線通信器13を介して、計測器本体3から送信されるセンサ1を起動するための起動信号を受け付けて起動する構成とすることで、計測器本体3により、自由にセンサ1の起動を制御することができる。なお、待機時間については、ステップS07の説明において説明する。センサ1が起動されると、ステップS02へ進む。
【0067】
ステップS02では、計測開始信号が計測器本体3に対して出力される。すなわち、起動部143は、センサ1が起動され、計測が可能となると、計測が開始できることを示す
情報としての計測開始信号を、センサ側無線通信器13を介して計測器本体3に出力する。計測開始信号の出力が完了すると、ステップS03へ進む。
【0068】
ステップS03では、計測許可信号の受信の有無が判断される。計測許可信号には、上述したタイミング情報や識別情報が含まれる。また、計測許可信号には、タイマ17がカウントする待機時間に関する情報、換言すると次回にどのようなタイミングで音を出力させるかについての情報(本態様では、5分)を含めてもよい。なお、待機時間に関する情報は、後述するステップ06までに受信できればよく、計測器本体3から計測許可信号とは別に送信し、センサ1によって受信するようにしてもよい。計測許可信号が受信されるとステップS05へ進む。一方、計測許可信号が受信されないとステップS04へ進む。
【0069】
計測許可信号が受信されない場合には、ステップS04において30秒待機処理が行われる。30秒の待機処理が終了すると、再度ステップS02の処理が行われる。一方、計測許可信号が受信された場合、ステップS05においてスピーカ18から音が出力される。具体的には、スピーカ18は、3kHzから4kHzの音を出力する。音を出力する時間は、マイク2で取得可能であればよく、数波程度でよい。例えば、4kHzの音を10波出力する場合、一回の音の出力時間は、2.5mSecとなる。スピーカ18からの音の出力が完了すると、ステップS06へ進む。
【0070】
ステップS06では、起動部143により、センサ1がスリープ状態、換言すると電源OFFとされる。これにより、センサ1の消費電力を低減することができる。続いて、ステップS07では、センサ1がスリープ状態となることを契機に、タイマ17が作動する。本実施形態では、タイマ17は、待機時間として5分をカウントする。待機時間のカウントが終了、すなわち本態様では5分経過すると再度ステップS01の処理が実行される。
【0071】
なお、上述したフローは、センサ1が、受信機能及び送信機能を有するセンサ側無線通信器13を備える場合を例に説明した。但し、センサ側無線通信器13は、受信機能のみを備えるものでよい。この場合、起動部143は、まず、起動信号をタイマ17が受け付けてセンサ1を起動し、次に、計測許可信号を計測器本体3から受信し、受信した計測許可信号に基づいて、スピーカ18が、3kHzから4kHzの音を出力する。なお、センサ側無線通信器13が受信機能のみを備える構成の場合にも、起動部143は、計測器本体3から送信される起動信号を受信し、センサ1を起動するようにしてもよい。
【0072】
[計測器本体における処理]
次に、計測器本体3における処理について説明する。図8は、計測器本体における処理フローを示す。ステップS11では、受信待機処理が実行される。受信待機とは、センサ1から送信される計測開始信号の受信を待機する状態であり、受信待機処理とは、受信待機を行う処理であり、具体的には、計測開始信号の受信を監視することで実現される。なお、センサ1を初めて起動する場合には、ステップS11の処理を実行する前に、起動信号を送信する処理が行われる。
【0073】
ステップS12では、計測開始信号が受信される。すなわち、本体側情報通信部153は、本体側無線通信器31を介して、センサ1から出力される計測開始信号を受信する。計測開始信号の受信が完了するとステップS13へ進む。続いて、ステップS13では、計測許可信号が送信される。すなわち、本体側情報通信部153は、本体側無線通信器31を介して、センサ1に対して計測許可信号を出力する。計測許可信号には、上述したように、上述したタイミング情報や識別情報が含まれる。また、計測許可信号には、タイマ17がカウントする待機時間に関する情報、換言すると次回にどのようなタイミングで音を出力させるかについての情報(本態様では、5分)を含めてもよい。なお、待機時間は
、計測結果に応じてその時間を適宜変更することが好ましい。すなわち、地すべりの発生が確認された場合や地すべりの発生の可能性が高いような場合には、例えば待機時間は、1分とし、1分間隔で音を出力することが好ましい。一方、地すべりの発生が確認されない場合や地すべりの発生の可能性が低い場合には、待機時間は、5分から10分といったように、地すべりの発生が確認された場合や地すべりの発生の可能性が高い場合よりも長い時間とすることができる。地すべり発生の有無は、後述するステップS16の処理を行った後に判断されることから、待機時間に関する情報は、ステップS16以降に、計測許可信号とは別に送信するようにしてもよい。計測許可信号の出力が完了するとステップS14へ進む。
【0074】
ステップS14では、地すべり情報が取得される。すなわち、地すべり情報取得部154は、地表の移動量を算出するための情報として、マイク2で取得される音に対応する電気信号を取得する。より詳細には、本態様では、三つのマイク(マイク2a、マイク2b、マイク2c)が設けられており、各マイク2が各センサ1からの音を取得する。地すべり情報の取得が完了するとステップS15へ進む。
【0075】
ステップS15では、地すべり情報の追加情報として補正情報(本発明の環境情報に相当する。)が取得される。すなわち、地すべり情報取得部154は、地表の移動を計測する際に用いる補正情報を、温度センサ36a、風速センサ36c及び風向センサ36dから取得する。補正情報の取得が完了すると、ステップS16へ進む。なお、補正情報の取得は、ステップS14における地すべり情報の取得と共に行うようにしてもよい。
【0076】
ステップS16では、地表の移動量が算出される。ここで、地表の移動量の算出手順について図面を参照しながら具体的に説明する。まず、三つのマイク、すなわちマイク2a、マイク2b、マイク2cによりセンサ1aから出力される音を収録し、音の到達時間からマイク2a、マイク2b、マイク2cとセンサ1aとの距離を算出する。各マイクとセンサまでの距離Lは、式1により求めることができる。式1においてtは音の到達時間であり、Cは音速である。

【0077】
図9は、マイク毎の音の到達時間を示す。図9は、一例として、センサ1aとマイク2a、マイク2b、マイク2cとの関係を示す。taは、マイク2aの音の到達時間であり、tbは、マイク2bの音の到達時間であり、tcは、マイク2cの音の到達時間である。なお、図9においてトリガ電波とは、スピーカ18から出力する音のタイミングを制御する信号である。トリガ電波がセンサ1に入力されることで音が出力される。そして、例えばマイク2aについてみると、到達時間taは、スピーカ1aから出力される音波の最初の波のピーク値からマイク2aで取得される音波の最初のピーク値までの時間である。到達時間taを式1に代入することで、スピーカ1aからマイク2aまでの距離Lを算出することができる。なお、音速Cは、式2により求めることができる。式2においてTは、温度である。

【0078】
本態様では、温度が考慮されるので、より正確な距離Lを算出することができる。温度は、温度センサ36aによって取得することができる。
【0079】
センサ1aとマイク2a、マイク2b、マイク2cとの距離が算出されると、次にセンサの位置(座標)を算出する。マイク2a、マイク2b、マイク2cは、安全エリア92に設けられており、予め座標が特定されているので、センサ1aとマイク2a、マイク2
b、マイク2cとの距離からセンサ1aの座標を算出することができる。図10は、センサとマイクとの関係のイメージ図を示す。図10は、一例として、センサ1aとマイク2a、マイク2b、マイク2cとの関係を示す。図10において(X,Y,Z)は、センサ1及びマイク2の座標である。また、La、Lb、Lcは、センサ1とマイク2との距離を示す。
【0080】
なお、本実施形態では、地表の移動量を算出するに際し、温度を考慮した音速Cの補正に加えて、更に、風速や風向を考慮してもよい。具体的には、音は、空気を伝達媒体とする為、音に基づいて地表の移動量を算出する本実施形態に係る地すべり計測システム100は、風速や風向によって測定精度にばらつきが出ることが懸念される。そこで、本実施形態に係る地すべり計測システム100では、風速や風向を考慮した地表の移動の算出が可能である。
【0081】
ここで、図11は、風が吹いていると仮定した場合のセンサとマイクとの位置関係を示す。図11は、地すべり検知対象エリア91付近に一様な風が吹いていると仮定した場合におけるセンサとマイクとの位置関係を示す。図11における見かけのマイクの位置とは、風の影響を考慮した仮定のマイクの位置を示す。一様な方向(図11において風のベクトルが示す方向。)に風が吹いている場合にマイクで計測される音の到達時間は、風の影響を含んでいる。すなわち、マイクで取得される音は、風によって流された後の音である。従って、本来であれば、図11に示す見かけのマイクの位置において取得される音が流され、マイクの位置で取得されたと仮定することができる。この場合、センサからマイクまでの到達経路は、「t・C+t・w」と仮定することができる。tは、音の到達時間であり、Cは、音速であり、wは風速・風向である。換言すると、マイクの位置の位置(座標)は、予め分かっており、また、見かけの位置(座標)は、風ベクトルから算出可能である。従って、算出した見かけのマイクの位置とセンサから見かけのマイクの位置までの到達距離「t・C」とに基づいて、センサの位置を算出することが可能となる。すなわち、風の影響を考慮、換言すると風の影響をキャンセルした、センサの位置の算出が可能となる。
【0082】
なお、上述した風速や風向を考慮した地表の移動の算出は、風速及び風向が一定であると仮定して行っている。しかし、実際には、風速及び風向は一定ではない。従って、より精度を高めるため、異なる風速の条件下でセンサとマイクとの距離を複数回算出し、算出した距離の平均値を採用するようにしてもよい。なお、風速が大きい時ほど、風による影響は大きくなることから、風速の最大値を考慮することで、より精度の向上を図ることが可能となる。具体的には、風速の最大値をVmaxとした場合、マイクとセンサとの距離Lの平均値は、式3によって求められる。なお、α=1−V/Vmaxであり、Vは、風速センサで取得される風速(m/s)、Vmaxは、測定許容風速最大値である。

【0083】
上記手順を繰り返し行うことで、センサ1aの座標の変位量、換言すると地表の移動を測定することが可能となる。そして、スピーカ1aだけでなく、全てのスピーカから出力される音に基づいて上記と同様の演算を行うことでセンサ1が設置されている地すべり検知対象エリア91の地表の移動を計測することが可能となる。地表の移動の計測が完了するとステップS17へ進む。
【0084】
ステップS17では、地すべりの発生の有無が判断される。すなわち、判断部155は、算出された地表の移動量が規定値を上回っているか否かを判断する。算出された地表の
移動量が規定値を上回っている場合、ステップS18へ進む。一方、算出された地表の移動量が規定値以下である場合、ステップS19へ進む。なお、地すべりの発生の有無を判断する際の規定値は、地表の土質や地形等を考慮し、予め実験等によって求めることができる。
【0085】
ステップS18では、警報が発信される。すなわち、地すべり情報出力部156は、警報器38を介して地すべりの発生が高い旨を報知する。一方、ステップS19では、地表の移動の測定結果が記憶装置35に保存される。また、ステップS18において、警報の発信が完了すると、ステップS19へ進み、地表の移動の測定結果が記憶装置35に保存される。地表の移動の測定結果の保存が完了すると、再度ステップS11の処理が実行される。
【0086】
なお、センサ側無線通信器13が受信機能のみを備える場合、上記ステップS11及びステップS12の処理が省略され、まず、本体側情報通信部153が、本体側無線通信器31を介して、センサ1に対して計測許可信号を出力する(ステップS13)。ここで、センサ1がセンサ側無線通信器13が受信機能のみを備える場合には、センサ1に対して計測許可信号を出力しても、センサ1がスリープ状態である恐れがある。従って、センサ側無線通信器13が受信機能のみを備える場合には、本体側情報通信部153は、計測許可信号の出力を、センサ1から音が出力されるまで、断続又は継続して行えばよい。また、音を取得した時間を記憶し分析することで、計測器本体3は、センサ1の次回の起動のタイミングを予測することができる。従って、予測されるタイミングに応じて、本体側情報通信部153は、センサ1に対して計測許可信号を出力するようにすればよい。
【0087】
以上説明した、第一実施形態に係る地すべり計測システム100によれば、広範囲に渡る地表の移動を計測することができる。そして、マイクやスピーカといったGPS等を用いた従来の計測システムと比較すると非常に簡易な構成により、広範囲に渡る地表の移動の計測が可能である。また、本実施形態に係る地すべり計測システム100では、温度、風速、風向を考慮した地表の移動の計測が可能であり、計測精度の向上も実現されている。
【0088】
<第二実施形態>
マイク2により音を計測する場合、センサ1とマイク2との距離が離れるほど、マイク2で計測する音圧が小さくなる。従って、地すべり検知対象エリア91が広くなるほど、センサ1のスピーカ18から出力される音の音圧レベルを大きくする必要がある。一方で、実際に測定すると想定されていた音圧レベルよりも小さい音圧レベルで測定可能な場合もあり、このような場合に大きい音圧レベルでの測定を続けると、無駄なエネルギーを消費し、バッテリ11の寿命を短くしてしまうことが懸念される。また、過剰な音圧レベルでの測定は、地すべり計測エリア91の近隣に無駄な騒音を与えることになる。
【0089】
そこで、第二実施形態に係る地すべり計測システムでは、過剰な音圧レベルでの測定を回避するため、過去に測定した波形を基準として、次回の計測の際に発生させる音圧レベルが決定される。具体的には、スピーカ18から出力する音の音圧レベルを10段階に分けるとともに、音圧の測定基準レベルV0を予め規定する。そして、マイク2で計測された音の波形が図12に示すようにV0を上回っている場合、次回スピーカ18から出力する音の音圧レベルを一段階下げる。一方、マイク2で計測された音の波形が図13に示すようにV0以下である場合、次回スピーカ18から出力する音の音圧レベルを一段階上げる。図12は、マイクで計測される音の波形が測定基準レベルを上回っているグラフを示し、図13は、マイクで計測される音の波形が測定基準レベル以下の場合のグラフを示す。
【0090】
10段階に分けた音圧レベルのデータは、記憶装置35に予め格納することができる。過去に測定した波形は、ステップS19(図8参照)において地表の移動の計測結果を保存する際に、合わせて保存するようにすればよい。また、マイク2で計測された音の波形が図12に示すようにV0を上回っているか否かの判断は、判断部155が、ステップS13における計測許可信号を発信する前に行えばよい。そして、音圧レベルを一段階上げる若しくは下げるといった指令(音圧レベル情報ともいう。)は、計測許可信号に含めればよい。計測許可信号を受信したセンサ1内の音声信号生成部145は、計測許可信号に含まれる音圧レベル情報に基づいて、音圧レベルを調整する。以上により、上述した処理が実現可能であり、このような処理を繰り返し実行することで、スピーカ18から出力する音の音圧レベルを徐々に適切なレベルに近づけることが可能となる。なお、測定基準としては、マイク2で計測される測定波形の絶対レベルではなく、S/N比(Singnal to noise ratio)を用いてもよい。
【0091】
<第三実施形態>
判断部155が、地表の移動を計測する際、上述したように、音の到達時間を算出することで行う(図9、ステップS16参照)。そして、音の到達時間の算出は、通常、音の波形が閾値を超えた際に実行される。ここで、図14は、閾値を超えてすぐに音の到達時間の算出が実行される場合のグラフを示し、図15は、閾値を超えて暫く経ってから音の到達時間の算出が実行される場合のグラフを示す。図14、図15に示すように、音の到達時間の算出を実行するタイミング(周波数のサンプリングのタイミング)が遅れると、音の到達時間に誤差が生じる。例えば、サンプリング周波数50kHz、音速340m/sとした場合には、誤差が、6.8mmとなる。
【0092】
そこで、第三実施形態に係る地すべり計測システムでは、閾値を超えた後の最初のピーク値を求め、ピーク値から1/4周期戻した時間を音の到達時間の算出を実行するタイミングとすることとした。ここで、図16は、到達時間精度向上処理フローを示す。なお、以下の処理は、判断部155によって実行される。ステップS21では、音の波形が閾値V0を超えたか否かが判断される。音の波形が閾値V0を超えたと判断された場合、ステップS22へ進む。一方、音の波形が閾値V0を超えないと判断された場合、再度ステップS21の処理が実行される。
【0093】
ステップS22では、閾値を超えた後の最初のピーク値の前後のデータをS1、S2とし、そのときの時間がt1、t2として設定される。続いてステップS23では、t1から1山目の波形のピーク値までの時間Δt1をs1、s2のレベル(V1、V2)の比から式4と仮定する。

【0094】
次にステップ24では、音の到達時間tを式5より算出する。なお、fはスピーカ18から出力される音の周波数(Hz)である。

【0095】
ここで、図17は、到達時間精度向上処理フローの原理を図化したものを示す。同図に示すように、閾値を超えた後の最初のピーク値を求め、ピーク値から1/4周期戻した時間を音の到達時間の算出を実行するタイミングとして設定される。これにより、音の到達時間の誤差の発生を低減することができる。すなわち、地表の移動の計測精度をより向上することができる。
【0096】
<第四実施形態>
図18は、マイクで取得される雑音を含まない音の波形を示す。図19は、マイクで取得される雑音を含む音の波形を示す。マイク2が取得する音には、センサ1のスピーカ18から出力される音の他、雑音が含まれる場合がある(図19参照。)。雑音は、BPF33によってフィルタ処理されることで基本的には除去されるが、センサ1のスピーカ18から出力される音の周波数帯域に近い周波数帯域の雑音は、除去しきれないことが想定される。そして、このような除去しきれない雑音がスピーカ18から出力される音の手前に入ると、雑音に基づいて到達時間を算出することも懸念され、この場合、正確な音の到達時間を算出することができない。なお、雑音には、鳥や虫の鳴き声、木々が風で揺れる音、自動車の音、工事現場の音等が例示される。
【0097】
そこで、第四実施形態に係る地すべり計測システムでは、雑音を含んで音の到達距離を算出したものをエラーとし、地表の移動の計測に反映させないようにした。
【0098】
ここで、図20は、雑音判定処理フローを示す。以下の処理は、判断部155によって実行され、例えば、第一実施形態において説明した計測器本体における処理(図8)のうちのステップS16における処理において行うことができる。ステップS31では、算出した音の到達距離の良否判定基準となる距離基準値LBが設定される。距離基準値LBは、例えば過去10回の平均値や雑音が含まないことが確認されている正しい値を用いればよい。具体的には、距離基準値LBは、記憶装置35に保存されているデータから取得又は
算出することができる。距離基準値LBの設定が完了すると、ステップS32へ進む。
【0099】
ステップS32では、距離基準値LBとこの度算出された音の到達距離Lとを比較し、
この度算出された音の到達距離が正しいか否かが判断される。具体的には、例えば、この度算出された音の到達距離Lが、距離基準値LBのα%(例えば、5%)以内であれば、
到達距離Lは正しいと判断される。この場合、先に説明したステップS17の処理、すなわち地すべりの発生の有無が判断される。一方、到達距離Lが、距離基準値LBのα%(
例えば、5%)以内でない場合、ステップS33へ進む。
【0100】
ステップS33では、到達距離Lが、距離基準値LBのα%(例えば、5%)以内でな
い場合の理由が、地すべりが原因であるか否かが判断される。具体的には、例えば、この度算出された音の到達距離Lが、前回算出された到達距離LPのβ%(例えば、5%)以
内であれば、地すべりによるものと判断される。この場合、ステップS18の処理、すなわち地すべりの発生を報知する処理へ進む。一方、距離基準値LBのα%(例えば、5%
)以内でない場合の理由が地すべりが原因でない場合、雑音が含まれる音に基づいて算出された到達距離であって正しくないデータ(以下、NGデータともいう。)として処理される(ステップS34)。
【0101】
なお、例えば、実際には地表の移動が発生していないにもかかわらず、マイク2が、たまたま2回連続で同じタイミングで雑音を取得することも想定される。従って、このようなデータを含む距離基準値LBに基づく判断を回避するため、距離基準値LBとして、例えば過去10回の平均値を用いる場合には、過去14回のデータのうち、大きいもの2つと小さいもの2つを削除し、残った10回のデータから平均値を得るようにしてもよい。これにより、測定精度を更に向上することが可能となる。なお、図21は、雑音が含まれる音に基づいて算出された到達距離データを示し、図22は、上記雑音判定処理を実行後の到達距離データを示す。本態様では、センサとマイクとの距離を50m、100m、150m、200mと移動し、各距離毎に複数回マイクによって音を取得し、到達距離を算出したものである。図21においてエラーデータとして指定されている領域のデータは、雑音を示している。雑音判定処理を実行することで、図22に示すように、正しいデータ(図22において処理データとして示す。)のみが抽出される。
【0102】
ここで、上述した第四実施形態で説明した、雑音判定処理において、例えば通常の計測のインターバルが5分と設定されている場合、計測エラー(ステップS33において地すべりの発生ではないと判断された場合)が発生すると次回正しいデータが測定されるのが10分後となり、正しいデータ取得の間隔が空きすぎることが懸念される。また、計測エラーが頻繁に発生すると、更に長い時間正しいデータを得ることができない虞がある。また、実際に地すべりが発生し、センサが移動した場合、例えば現在の音の到達距離として過去の10回の平均値を採用すると、平均値が移動後の音の到達距離と一致するまで少なくとも10回の測定が必要となる。仮に、計測のインターバルが5分であるとすると平均値が移動後のデータとなるまでには50分以上要することになる。
【0103】
そこで、このような時間の遅れを低減するため、通常の計測インターバル(例えば5分)の他にショートインターバル(例えば10秒)を設け、エラー判定がされた場合には、ショートインターバルを採用するようにしてもよい。これにより、正しいデータの空白化を抑制することができる。なお、ステップS32において正しいと判断された場合、通常のインターバルで計測を実行すればよい。また、ステップS32において正しくないと判断され、かつステップS33において地すべりの影響によるものであると判断された場合、ショートインターバルを採用する。これにより、地すべりが発生した場合におけるデータの空白化を低減することができる。
【0104】
<第五実施形態>
上述した第一実施形態に係る地すべり計測システム100によれば、温度を考慮することで、より正確な距離Lを算出することが可能となる。ここで、図23A、図23Bは、第一実施形態に係る地すべり計測システム100による実験データを示す。図23Aは、曇りの日における、測定距離と温度センサによる測定温度と気象庁発表による温度との関係を示す。また、図23Bは、晴れの日における、測定距離と温度センサによる測定温度と気象庁発表による温度との関係を示す。図23A、図23Bに示すように、曇りの日には、温度センサ36aによる測定温度(以下、測定温度とも言う。)と地すべり計測システム100の設置箇所近くにおける気象庁発表による温度(以下、発表温度とも言う。)との差は、殆ど見られない。しかしながら、晴れの日には、特に日中において、測定温度と発表温度との間の差が、曇りの日に比べて大きくなっている。このような結果となった要因の一つして、直射日光により、温度センサ36aの周囲に熱がこもったことが考えられる。なお、各マイクとセンサまでの距離Lは、式1により求めることができる。式1においてtは音の到達時間であり、Cは音速である。
L=t×C・・・式1
【0105】
一方、音速Cは、式2により求めることができる。式2においてTは、温度である。
C=331.5+0.61T・・・式2
【0106】
従って、晴れの日、特に日中においては、温度センサ36aによる測定温度を考慮すると、温度センサ36aの性能によっては、測定距離Lに誤差が生じることが想定される。温度センサ36aの設置位置を工夫したり、より測定精度の高い温度センサを用いたり、若しくは気象庁発表の温度を用いることで、測定距離Lの誤差は低減することが可能である。第五実施形態では、上記以外の態様によって、晴れの日(特に日中)においても測定距離Lの誤差を低減する態様について説明する。
【0107】
ここで、図24は、第五実施形態に係る地すべり計測システム101の設置状況を示す。図25は、第五実施形態に係る地すべり計測システム101の概略構成を示す。第一実施形態に係る地すべり計測システム100と同様の構成については、同一符号を付すことでその説明は割愛する。
【0108】
第五実施形態に係る地すべり計測システム101は、地山90の地すべり検知対象エリア91に設置される複数のセンサ1、安全エリア92に設置される複数のマイク2、及び計測器本体3と、安全エリア92に設置される基準音源9によって構成されている。換言すると、第五実施形態に係る地すべり計測システム101は、第一実施形態に係る地すべり計測システム100の構成に加えて、更に基準音源9を備える。
【0109】
第五実施形態に係る地すべり計測システム101においても、第一実施形態に係る地すべり計測システム100と同じく、計測器本体3で、音の到達時間からマイク2とセンサ1との到達距離が算出され、マイク2とセンサ1との到達距離の算出が複数回行われることで、地表の移動が計測され、その結果地すべりの発生の有無が判断される。但し、第一実施形態に係る地すべり計測装置100では、温度が考慮されたが、第五実施形態に係る地すべり計測装置101では、温度の情報を考慮しない代わりに、基準音を用いて音速を算出し、算出された音速を用いてマイク2とセンサ1との到達距離が算出される。具体的には、基準音を出力する基準音源9は、センサ1と異なり、安全エリア92に配置される。基準音源9の座標(経度緯度)を把握し、マイク2と基準音源9との距離と基準音の到達時間t´から音速を算出し、算出された音速を用いてマイク2とセンサ1との距離Lを算出する。以下、更に詳しく説明する。
【0110】
[基準音源]
基準音源9は、本発明の基準音出力手段に相当し、音を出力する点では、センサ1と同じであるが、センサ1とマイク2との距離Lを算出する際に用いる音速を算出するための基準音を出力する。換言すると、基準音源9は、測定距離Lをより正確に測定するために基準音を出力する。なお、基準音源9は、安全エリア92に配置されることから、センサ1のように地表に移動が発生した場合に地表と共に移動することはない。従って、基準音源9については、センサ1と同じく空中からの投下による設置も可能であるが、設置箇所が安全エリア92であるため、安全エリア92に侵入して地上からの設置が可能である。
【0111】
基準音源9は、基準音源側バッテリ91、基準音源側スピーカ98、基準音源側無線通信器93、基準音源側制御部94、基準音源側発信機95、基準音源側増幅器96を備える。基準音源9は、第一実施形態に係るセンサ1と同様に構成することができる。
【0112】
基準音源側バッテリ91は、基準音源9を駆動する。基準音源9は、電力供給源と配線してもよいが、基準音源側バッテリ91を内蔵する内蔵型とすることで、設置の煩雑さを解消することができる。
【0113】
基準音源側無線通信器93は、計測器本体3側の本体側無線通信器31との間で無線通信する。基準音源側無線通信器93は、受信機能のみを有する構成でもよいが、受信機能及び送信機能を備える構成であってもよい。
【0114】
基準音源制御部94は、基準音源9の各種制御を行い、所定のタイミングで所定の音圧の基準音を基準音源側スピーカ98から出力させる。具体的には、基準音源側制御部94は、CPU、メモリ等を含むコンピュータとコンピュータ上で実行されるプログラムによって実現することができる。
【0115】
ここで、図26は、基準音源側制御部94の機能ブロック図を示す。基準音源側制御部94は、基準音源側CPU941、基準音源側メモリ942、基準音源側起動部943、基準音源側情報通信部944、基準音源側音声信号生成部945によって構成されている。
【0116】
基準音源側CPU941は、基準音源9を構成する各種ハードウェアを制御すると共に、例えば基準音源側メモリ942としてのROMに格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。基準音源側メモリ942は、揮発性のRAMと、不揮発性のROMを含む。
【0117】
基準音源側起動部943は、計測器本体3から無線通信を介して時間情報や起動情報を取得し、基準音源9を起動する。なお、基準音源側起動部943は、基準音源側タイマ97からの信号、すなわち基準音源9のON/OFFを決定する時間情報に基づいて、基準音源9を起動し、又は基準音源9の省電力を実現するスリープ状態としてもよい。
【0118】
基準音源側情報通信部944は、基準音源側無線通信器93を介してタイミング情報や識別情報を取得する。取得された各種情報は、基準音源側音声信号生成部945に対して出力される。
【0119】
基準音源側音声信号生成部945は、基準音源側情報通信部944からの各種情報に基づいて基準音源側98から出力すべき基準音を構成する音声信号を生成する。すなわち、基準音源側音声信号生成部945は、タイミング情報に基づいて音声信号を出力するタイミング、すなわち基準音源側スピーカ98から出力される基準音の出力のタイミングを決定する。
【0120】
計測器本体3から出力されるタイミング情報等は、複数のセンサ1に対しても出力される。従って、基準音源側音声信号生成部945は、取得する識別情報の中から自己のIDに関連付けられているタイミング情報を読み込む。タイミング情報は、基準音源9のIDと関連付けられている。基準音源側スピーカ98から出力される基準音の周波数帯域は、限定されるものではないが、センサ1に対して出力する音の帯域と同じく3kHzから4kHzとすることが好ましい。
【0121】
基準音源側発信器95は、基準音源側音声信号生成部945によって制御され、所定の周波数帯域かつ音圧の音声信号を基準音源側増幅器16に対して出力する。基準音源側増幅器96は、基準音源側発信器95からの音声信号を増幅し、基準音源側スピーカ98に対して出力する。
【0122】
基準音源側スピーカ98は、基準音源側増幅器96で増幅された音声信号を基準音として出力する。基準音源側スピーカ98には、圧電ブザーを用いることができる。これにより、消費電力を削減することができ、また、コストの低減を図ることもできる。なお、基準音源側スピーカ98には、マグネットとコイルを用いたものを用いてもよい。基準音源側スピーカ98から出力された音は、その後計測器本体3のマイク2で受信される。
【0123】
ここで、基準音源9は、空中投下によって設置することも可能であることから、センサ1と同様に、本体部51、アンテナ52、固定部としての中央突起部53及び外側突起部54、緩衝材56によって構成してもよい(図4A参照)。但し、基準音源9は、安全エリア92に設置されるものであり、空中投下によらなくても設置可能である。従って、中央突起部53及び外側突起部54の長さは、センサ1よりも短くしてもよい。なお、本体部51、アンテナ52、固定部としての中央突起部53及び外側突起部54、緩衝材56は、基準音源9が安全エリア92に安定的に固定できれば、その形状や配置等は、特に限定されない。空中落下によらずに基準音源9を設置する場合には、緩衝材56は、設けなくてもよい。
【0124】
[センサ・計測器本体]
センサ1は、第一実施形態のセンサ1と同様の構成である。計測器本体3も、基本的に
は第一実施形態の計測器本体3と同様の構成である。従って、以下の説明では、相違点を中心に説明する。
【0125】
本体側無線通信器31は、センサ1に設けられているセンサ側無線通信器13との間で実行する無線通信に加えて、基準音源9に設けられている基準音源側無線通信器93との間で無線通信する。具体的には、本体側無線通信器31は、タイミング情報や識別情報などをセンサ側無線通信器13及び基準音源9に対して出力する。
【0126】
マイク2は、センサ1のスピーカ18から出力される音と基準音源9の基準音源側スピーカ98から出力される基準音を受信し、電気信号に変換する。本体側増幅器16は、マイク2から出力される電気信号を増幅する。BPF33は、マイク2で受信された音のうち、センサ1から出力された音や基準音源9から出力された基準音以外の音、すなわち雑音を除去する。
【0127】
本体側制御部34は、計測器本体3の各種制御を行い、地表の移動量が所定量を上回った場合、地すべりが発生すると判断し、警報器38を通じて警報を発する。本体側情報通信部153は、センサ1及び基準音源9に対して必要な情報を送信する。具体的には、本体側情報通信部153は、センサ1や基準音源9から出力する音の出力タイミングを決定するためのタイミング情報、タイミング情報に関連付けられたセンサ1毎及び基準音源9の識別情報等を送信する。本体側情報通信部153は、センサ1や基準音源9を起動するための起動情報や、センサ1から出力される音や基準音源9から出力される基準音の周波数や音圧に関する情報を送信してもよい。
【0128】
地すべり情報取得部154は、地すべり情報、すなわち、地表の移動量を判断するための情報をマイク2で取得される音として取得する。また、地すべり情報取得部154は、基準音源9から発せられる基準音をマイク2を介して取得する。より詳細には、マイク2で取得された音や基準音は、電気信号に変換され、計測器側増幅器16で増幅され、更にBPF33で雑音が除去された後、地すべり情報取得部154に入力される。取得された地すべり情報は、判断部155に対して出力される。
【0129】
判断部155は、本発明の移動計測手段に相当し、地すべり情報に基づいて地すべりの発生の有無を判断する。判断部155には、地すべり情報や基準音源9から発せられる基準音に関する情報に加えて、基準音源9からマイク2までの距離に関する情報、風速センサ36cからの地すべり検知対象エリア91付近の風速に関する風速情報、風向センサ36dからの地すべり検知対象エリア91付近の風向に関する風向情報が入力される。従って、判断部155は、これらの各種情報も考慮して地すべり発生の有無を判断する。なお、地すべり発生の判断処理の詳細については、後述する。
【0130】
(処理フロー)
次に、第五実施形態に係る地すべり計測システム101における処理フローについて説明する。なお、センサ1における処理は、第一実施形態における処理と同様であるため、説明は割愛する。なお、同様のステップについては、同一のステップ番号を付すことでその詳細な説明は省略する。
【0131】
[計測器本体における処理]
図27は、第五実施形態に係る計測器本体における処理フローを示す。ステップS11では、受信待機処理が実行される。ステップS12では、計測開始信号が受信される。ステップS13では、計測許可信号が送信される。計測許可信号の出力が完了するとステップS14へ進む。ステップS14では、地すべり情報が取得される。地すべり情報の取得が完了するとステップS15−1へ進む。
【0132】
ステップS15−1では、地すべり情報の追加情報として補正情報(本発明の環境情報に相当する。)が取得される。第五実施形態においては、地すべり情報取得部154は、地表の移動を計測する際に用いる補正情報として、風速センサ36c及び風向センサ36dから取得する。補正情報の取得が完了すると、ステップS15−2へ進む。
【0133】
ステップS15−2では、本体側情報通信部153は、本体側無線通信器31を介して、基準音源9に対して基準音出力許可信号を出力する。なお、基準音源9を初めて起動する場合や基準音源9から基準音が出力されない場合には、本体側情報通信部153は、本体側無線通信器31を介して、基準音源9を起動させるための起動信号を基準音源9に対して出力する。基準音出力許可信号が出力されるとステップS15−3へ進む。
【0134】
ステップS15−3では、基準音源9の座標及び基準音が取得される。本態様では、三つのマイク(マイク2a、マイク2b、マイク2c)が設けられており、各マイク2が基準音源9から出力される基準音を取得する。そして、地すべり情報取得部154は、地表の移動量を算出するための情報として、マイク2で取得される基準音に対応する電気信号を取得する。基準音源の座標は、計測器本体3に接続されるパソコン39を通じて入力することができ、入力された座標は、パソコンを構成する記憶装置に記憶される。地すべり情報取得部154は、記憶装置にアクセスし、基準音源9の座標を取得する。基準音源9の座標及び基準音が取得されると、ステップS15−4へ進む。
【0135】
ステップS15−4では、音速が算出される。第一実施形態では、音速Cは、温度から算出したが、第五実施形態では、マイク2と基準音源9との距離と基準音の到達時間t´により算出される。そして、第五実施形態においても、更に風の影響が考慮される。ここで、図28は、風が吹いていると仮定した場合の基準音源とマイクとの位置関係を示す。図28は、安全エリア92及び地すべり検知対象エリア91付近に一様な風が吹いていると仮定した場合における基準音源とマイクとの位置関係を示す。図28における見かけのマイクの位置とは、風の影響を考慮した仮定のマイクの位置を示す。一様な方向(図28において風のベクトルが示す方向。)に風が吹いている場合にマイクで計測される基準音の到達時間t´は、風の影響を含んでいる。すなわち、マイクで取得される基準音は、風によって流された後の音である。従って、本来であれば、図28に示す見かけのマイクの位置において取得される基準音が流され、マイクの位置で取得されたと仮定することができる。
【0136】
そこでまず、風が吹いていない場合を考えると、風が吹いていない場合のマイクと基準音源との距離LRは、基準音の到達時間t´と音速Cの積で表される。そこで、音速Cは
、式6で表される。ここで、距離LRは、マイクの座標及び基準音源の座標から式7によ
り求められる。式6及び式7より、音速Cは、式8で表される。



【0137】
次に風を考慮する。上記のように、本来であれば、図28に示す見かけのマイクの位置において取得される基準音が流され、マイクの位置で取得されたと仮定することができる。従って、基準音源からマイクまでの到達経路は、図28に示すように「t´・C+t´
・w」と仮定することができる。wは風速・風向である。換言すると、マイクの位置(座標)は、予め分かっており、また、見かけの位置(座標)は、風ベクトルから算出可能である。そこで、風のベクトルを(Xw,Yw,Zw)とすると、基準音源からマイクに到達
する基準音は、「t´・C」と「t´・W」との合成と仮定できる。よって、見かけのマイクの位置(XM´,YM´,ZM´)と基準音源との距離LRと基準音の到達時間t´により、風を考慮した音速Cは、式9より求めらことができる。なお、XM´=XM−t´・XW、YM´=YM−t´・YW、ZM´=ZM−t´・ZWである。音速が算出されると、ステ
ップS16−1へ進む。

【0138】
なお、上述した風速や風向を考慮した音速Cの算出は、風速及び風向が一定であると仮定して行っている。しかし、実際には、風速及び風向は一定ではない。従って、より精度を高めるため、基準音の到達時間t´を複数回取得し、取得した到達時間t´の平均値を採用するようにしてもよい。
【0139】
ステップS16−1では、地表の移動量が算出される。地表の移動量の算出は、第一実施形態と同じく、三つのマイク、すなわちマイク2a、マイク2b、マイク2cによりセンサ1aから出力される音を収録し、音の到達時間からマイク2a、マイク2b、マイク2cとセンサ1aとの距離を算出することで行われる。各マイクとセンサまでの距離Lは、式1により求めることができる。式1においてtは音の到達時間であり、Cは音速である。音速Cは、ステップS15−4における式9から求められる。よって、各マイクとセンサまでの距離Lは、式10により求めることができる。地表の移動の計測が完了するとステップS17へ進む。
L=t×C・・・式1

【0140】
ステップS17では、地すべりの発生の有無が判断される。ステップS18では、警報が発信される。警報の発信が完了すると、ステップS19へ進み、地表の移動の測定結果が記憶装置35に保存される。地表の移動の測定結果の保存が完了すると、再度ステップS11の処理が実行される。
【0141】
[基準音源における処理]
次に、基準音源における処理について説明する。ここで、図29は、基準音源9における処理フローを示す。ステップS41では、基準音源9が起動される。基準音源9が初めて起動される場合や基準音源9から基準音が出力されない場合、基準音源9を起動させるための起動信号が、本体側情報通信部153から基準音源9に対して出力される。従って、基準音源側起動部943は、基準音源側無線通信器93を介して、計測器本体3から送信される基準音源9を起動するための起動信号を受け付け、この起動信号が入力されると、基準音源9を起動する。なお、基準音源側起動部943は、基準音源側タイマ97からの信号に基づいて、基準音源9を起動してもよい。なお、基準音源9が起動されると、ステップS42へ進む。
【0142】
ステップS42では、基準音出力許可信号が受信される。基準音出力許可信号には、上述したタイミング情報や識別情報が含まれる。また、基準音出力許可信号には、基準音源側タイマ97がカウントする待機時間に関する情報を含めてもよい。なお、待機時間に関する情報は、後述するステップ46までに受信できればよく、計測器本体3から基準音出
力許可信号とは別に送信し、基準音源9によって受信するようにしてもよい。基準音出力許可信号が受信されるとステップS43へ進む。
【0143】
なお、基準音源側起動部943は、上記ステップS42の処理を実行する前に、基準音源9が起動され、基準音の出力が可能となると、基準音の出力が開始できることを示す情報としての基準音出力開始信号を、基準音源側無線通信器93を介して計測器本体3に出力するようにしてもよい。また、ステップS42において、基準音出力許可信号の受信の有無を判断し、基準音出力許可信号が受信されない場合、30秒待機処理を行うようにしてもよい。この場合、30秒の待機処理が終了すると、再度ステップS42の処理を行えばよい。
【0144】
ステップS43では、基準音源側スピーカ98から基準音が出力される。具体的には、基準音源側スピーカ98は、3kHzから4kHzの基準音を出力する。基準音を出力する時間は、マイク2で取得可能であればよく、数波程度でよい。例えば、4kHzの音を10波出力する場合、一回の音の出力時間は、2.5mSecとなる。基準音源側スピーカ98からの音の出力が完了すると、再度ステップS42へ進む。
【0145】
ここで、基準音の出力後、基準音源側起動部943により、基準音源9をスリープ状態、換言すると電源OFFにしてもよい。これにより、基準音源9の消費電力を低減することができる。この場合には、基準音源9がスリープ状態となることを契機に、基準音源側タイマ97を作動させる。例えば、基準音源側タイマ97は、センサ1のタイマ17の待機時間に合わせて、待機時間として5分をカウントする。その結果、待機時間のカウントが終了、すなわち本態様では5分経過すると再度ステップS41の処理が実行される。
【0146】
以上説明した、第五実施形態に係る地すべり計測システム101によれば、第一実施形態に係る地すべり計測システム100と同じく広範囲に渡る地表の移動を計測することができる。また、マイクやスピーカといったGPS等を用いた従来の計測システムと比較すると非常に簡易な構成により、広範囲に渡る地表の移動の計測が可能である。更に、第五実施形態に係る地すべり計測システム101によれば、晴れの日、特に日中の気温変化に起因して想定される測定距離Lの算出誤差を低減することができる。
【0147】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。
【符号の説明】
【0148】
1・・・センサ
2・・・マイク
3・・・計測器本体
9・・・基準音源
11・・・バッテリ
13・・・センサ側無線通信器
14・・センサ側制御部
15・・・発信器
16・・・増幅器
17・・・タイマ
31・・・本体側無線通信器
32・・・本体側増幅器
33・・・BPF
34・・・本体側制御部
35・・・記憶装置
36a・・・温度センサ
36c・・・風速センサ
36d・・・風向センサ
37・・・外部出力IF
38・・・パソコン
39・・・警報器
90・・・地山
91・・・地すべり計測エリア
92・・・安全エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置であって、
前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域に設置され、該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、音を出力する音出力手段、からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、
前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、
前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、
を備える地すべり計測装置。
【請求項2】
前記音取得手段で取得される音の到達時間に影響を与える環境情報であって、少なくとも風速に関する風速情報、風向に関する風向情報のうち少なくとも何れか一つを含む環境情報を取得する環境情報取得手段を更に備え、
前記移動計測手段は、前記環境情報取得手段で取得される環境情報に基づいて算出する前記到達距離を補正し、補正された到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する、請求項1に記載の地すべり計測装置。
【請求項3】
前記移動計測手段は、前記算出した到達距離の変位が予め規定された基準変位を上回るか否かを更に判断し、
前記計測結果出力手段は、前記移動計測手段が、前記算出した到達距離の変位が予め規定された基準変位を上回ると判断した場合、地すべりの発生を報知する、請求項1又は2に記載の地すべり計測装置。
【請求項4】
前記音出力手段と前記音取得手段は、電気的に接続され、
前記地すべり計測装置は、前記音出力手段から出力される音を調整する音調整手段を更に備え、
前記音調整手段は、前記音取得手段で取得される音の音圧が、予め規定されている基準音圧を上回っているか否か判断し、該音取得手段で取得される音の音圧が前記基準音圧を上回っている場合、前記音出力手段から出力する音の音圧を低減し、該音取得手段で取得される音の音圧が前記基準音圧を上回っていない場合、前記音出力手段から出力する音の音圧を増加する、請求項1から3の何れか一に記載の地すべり計測装置。
【請求項5】
前記移動計測手段は、前記音取得手段で取得される音の波形の最初のピーク値を求め、該ピーク値から1/4周期戻した時間を該音取得手段が取得する音の始点として前記音の到達時間を算出し、該到達時間から、前記到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する、請求項1から4の何れか一に記載の地すべり計測装置。
【請求項6】
前記音取得手段で取得される音に含まれる雑音を除去する雑音除去手段を更に備える、請求項1から5の何れか一に記載の地すべり計測装置。
【請求項7】
前記移動計測手段は、前記音取得手段で取得される音に雑音が含まれるか否かを判定する際の基準となる雑音判定距離基準と、該移動計測手段によって算出された前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離と、を比較して、前記到達距離が雑音を含むか否か判定し、雑音を含まないと判定した場合に、雑音を含まないと判定した到達距離に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する、請求項1から6の何れか一に記載の地すべり計測装置。
【請求項8】
前記音取得手段は、前記計測対象領域と離れた領域のうち、前記音取得手段とは異なる位置に配置され、前記移動計測手段による計測の際に基準となる基準音を出力する基準音出力手段、からの基準音を更に取得し、
前記移動計測手段は、前記基準音出力手段の位置から前記音取得手段までの距離と、前記音取得手段で取得される基準音の到達時間に基づいて音速を算出し、算出された音速と前記音取得手段取得される音の到達時間に基づいて前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する、請求項1に記載の地すべり計測装置。
【請求項9】
前記音取得手段で取得される音の到達時間に影響を与える環境情報として風速に関する風速情報及び風向に関する風向情報を含む環境情報を取得する環境情報取得手段を更に備え、
前記移動計測手段は、前記環境情報取得手段で取得される環境情報に基づいて前記音速を補正し、補正された音速と前記音取得手段取得される音の到達時間に基づいて前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する、請求項8に記載の地すべり計測装置。
【請求項10】
地山の地表の移動を検出する地すべり検出装置であって、
本体部と、
前記本体部に設けられ、地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置に対して音を出力する音出力手段と、
前記本体部に設けられ、該本体部を地山に固定する固定手段と、を備え、
前記地すべり計測装置は、前記音出力手段からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、
前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、
前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、
を備え、
前記地すべり検出装置は、前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域の地表に前記固定手段によって固定されることで該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、かつ前記音出力手段によって音を出力する、地すべり検出装置。
【請求項11】
地山の地表の移動を計測する地すべり計測システムであって、
本体部と、
前記本体部に設けられ、地山の地表の移動を計測する地すべり計測装置に対して音を出力する音出力手段と、
前記本体部に設けられ、該本体部を地山に固定する固定手段と、を有する地すべり検出装置と、
前記音出力手段からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段と、
前記音取得手段で取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測手段と、
前記移動計測手段による計測結果を出力する計測結果出力手段と、を有する地すべり計測装置と、
を備える地すべり計測システム。
【請求項12】
地山の地表の移動を計測する地すべり計測方法であって、
コンピュータが、
前記地山のうち地すべりを計測する地すべり計測対象領域に設置され、該地すべり対象領域の地表の移動と共に移動し、音を出力する音出力手段、からの音を取得する音取得手段であって、該地すべり計測対象領域と離れた領域に設置される音取得手段によって該音を取得する音取得ステップと、
前記音取得ステップで取得される音の到達時間から、前記音出力手段と前記音取得手段との到達距離を複数回算出し、複数回算出した到達距離の変位に基づいて前記地すべり計測対象領域の地表の移動を計測する移動計測ステップと、
前記移動計測ステップによる計測結果を出力する計測結果出力ステップと、を含む処理を実行する地すべり計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2010−151793(P2010−151793A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196854(P2009−196854)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【Fターム(参考)】