説明

培地冷却装置

【課題】 導入が容易でランニングコストが安価なであり、広範に普及可能な培地冷却装置を提供する。
【解決手段】 培地冷却装置1は、空気及び水を通す不織布31によって形成された高設栽培用ベンチ30と、このベンチの下方に配設されて、空気は通すが高設栽培用ベンチ30内に収容された培地Bに含まれる水は透過しない性質を有した多孔質フィルムによって形成された受皿20とを有して構成される。高設栽培用ベンチ30内の培地Bは、培地Bに注がれる水の蒸発によって冷却されるとともに、注がれた水のうち不織布31を通過して受皿20に貯留する余剰水の蒸発によって冷却される。培地冷却装置1は、不織布31及び受皿20に風を吹き付ける通風ダクトを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高設栽培に用いられる培地を冷却する培地冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イチゴの栽培は、作業性の向上を目的として高設ベンチを利用した栽培が進んでいる。しかしながら、このイチゴ栽培を高温の時期に行うと、収穫量が減少するとともに、果実の品質が低下するという問題が発生する。そこで、培地の温度を低下させて収穫量の増加を可能にする冷却技術の開発が行われている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の冷却技術は、イチゴの高設栽培ベッドに鉄パイプを埋設し、この鉄パイプ内に冷水(例えば、かんがい用水)を通水することにより、培地温度を低下させて果実の収穫量を増加させるものである。
【0004】
特許文献2に記載の冷却技術は、イチゴの培地をシルバーフィルムで包み、このフィルムの外側に不織布を密着させ、栽培ベンチの側面に雨樋を設置し、この雨樋から水を供給することにより、不織布から水が蒸発する際に奪われる潜熱によって培地を冷却するものである。
【0005】
【特許文献1】平成13年度東北農業研究成果情報P.211−212
【特許文献2】2000年農気・生環合同大会発表要旨P.372−373
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の冷却技術は、鉄パイプ内を流す冷水としてかんがい用水を利用するものであるので、利用可能な場所が限られてしまう。
【0007】
また特許文献2に記載の冷却技術は、既存の設備に新たな設備を追加する必要があり、初期投資が高いという問題がある。
【0008】
このため、このような従来の冷却技術を広範に普及させるのは困難であり、導入が容易でコストが安価な培地冷却装置が要望されている。
【0009】
本発明は、このような要望に答えるためのものであり、導入が容易でランニングコストが安価なであり、広範に普及可能な培地冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するため、本発明は、高設栽培用ベンチを用いて植物を栽培する培地を冷却する培地冷却装置であって、気体及び液体を通す不織布によって高設栽培用ベンチを形成し、該高設栽培用ベンチの下方位置に気体は通すが高設栽培用ベンチ内に収容された培地に含まれる液体は透過しない性質を有した材料によって形成された受皿を配置することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、高設栽培用ベンチを気体及び液体を通す不織布によって形成し、このベンチの下方に、気体は通すが高設栽培用ベンチ内に収容された培地に含まれる液体は透過しない性質を有した材料によって形成された受皿を配置することにより、構成を簡易化することができ、既存の高設栽培用ベンチを改良して製作しても導入時のコストを安価にすることができる。
【0012】
また本発明は、高設栽培用ベンチ内の培地が、該培地に注がれる水の蒸発によって冷却されるとともに、注がれた水のうち不織布を通過して受皿に貯留する余剰水の蒸発によって冷却されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、高設栽培用ベンチ内の培地は、この培地に注がれる水の蒸発及び注がれた水のうち不織布を通過して受皿に貯留する余剰水の蒸発によって冷却されることにより、冷却用の水として灌水及び余剰水を用いるので、培地冷却装置の設置場所が限定されることはなく、ランニングコストを安価にすることができる。その結果、培地冷却装置を広範に普及させることができる。
【0014】
また本発明は、不織布及び受皿に風を吹き付ける通風ダクトを設けることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、不織布及び受皿に風を吹き付ける通風ダクトを設けることにより、培地の冷却効果をより向上させることができるとともに、植物の冷却が可能になる。その結果、高温期の植物の栽培を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係わる培地冷却装置によれば、高設栽培用ベンチを気体及び液体を通す不織布によって形成し、このベンチの下方に、気体は通すが高設栽培用ベンチ内に収容された培地に含まれる液体は透過しない性質を有した材料によって形成された受皿を配置し、高設栽培用ベンチ内の培地は、該培地に注がれる水の蒸発によって冷却されるとともに、注がれた水のうち不織布を通過して受皿に貯留する余剰水の蒸発によって冷却されることにより、導入が容易でランニングコストが安価であり広範に普及させることが可能な培地冷却装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係わる培地冷却装置の好ましい実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。培地冷却装置1は、図1(断面図)に示すように、載置台10と、この上部に取り付けられる受皿20,20'と、受皿20,20'上に載置される高設栽培用ベンチ30,30'とを有して構成される。
【0018】
載置台10は、地面Eに立設されて横方向に所定間隔を有して配置された一対の脚部11,11'と、これらの脚部11,11'間を繋ぐ連結部材13とを有してなる。脚部11,11'は円筒状であり、作業者が作業し易い所定の高さ(例えば、約70cm)を有して延びる。連結部材13は受け皿20,20'やこれに載置される高設栽培用ベンチ30,30'より下方位置に配設される。
【0019】
高設栽培用ベンチ30,30'は、植物(例えば、イチゴ)を栽培する培地Bを収容するものであり、培地Bは通さないが、気体(例えば、空気)及び液体(例えば、水)を通す不織布31,31'によって形成されている。このため、不織布31,31'に培地Bを収容すると、培地Bは不織布31,31'によって保持される。またこの培地Bに水が供給されると、水の一部は不織布3,31'を通過して下方に移動する。なお、高設栽培用ベンチ30,30'は、空気及び水を通すが、培土Bを通さないのであれば、不織布31,31'に限るものではない。
【0020】
受皿20,20'は、脚部11,11'の上部に開口した開口部11a,11'aを覆うようにハンモック状に取り付けられる。受皿20,20'は、気体(例えば、空気)は通すが高設栽培用ベンチ30,30'内に収容された培地Bに含まれる液体(例えば、水)は透過しない性質を有した多孔質フィルムによって形成されている。多孔質フィルムは、これを通して余剰水が蒸発して余剰水の潜熱を奪うことで、余剰水を冷却することができる。つまり、受皿20,20'は高設栽培用ベンチ30,30'を透過した余剰水を貯留し且つ冷却する機能を有する。なお、受皿20,20'は、気体を通し液体を通さない性質を有するのであれば、多孔質フィルムに限るものではない。
【0021】
このように構成された培地冷却装置1は、培地Bに灌水し、この注がれた水のうち培地Bから及び不織布31からの蒸発によって培地Bを冷却するとともに、注がれた水のうち不織布31,31'を通過して受皿20,20'に貯留する余剰水の蒸発によって培地Bを冷却する。つまり、冷却用の水として灌水及び余剰水が用いられる。このため、培地冷却装置1は、灌漑用水等のように特別の場所にしかないような水を利用するのではないので、設置場所が限定されることはなく、ランニングコストを安価にすることができる。
【0022】
また培地冷却装置1は、前述したように多孔質フィルムからなる受皿20,20'とこれに載置される不織布31,31'からなる高設栽培用ベンチ30,30'とを有して構成されるので、構成が簡易である。このため、既存の高設栽培装置を改良して製作しても導入時のコストを安価にすることができる。つまり、培地冷却装置1は、導入が容易でランニングコストが安価であり、設置場所が限定されることがないので、この培地冷却装置1を広範に普及させることが可能である。
【0023】
なお、図2(a)(断面図)に示すように、連結部材13上に不織布31,31'及び受皿20,20'に風を吹き付け可能な通風ダクト40を設けてもよい。通風ダクト40の周面には複数の開口部41が設けられ、これらの開口部41は、これらから吐出する空気が不織布31,31'及び受皿20,20'に吹き付けられるように開口している。このため、培地Bに含まれる水のうち不織布31,31'を通した気化あるいは培地Bの上部からの気化、及び受皿20,20'に貯留する水のうち受皿20,20'を通した気化あるいは水面からの直接の気化が促進されて、培地Bの冷却効果をより向上させることができる。なお、通風ダクト40は、図示しない送風機から送られる空気流を流して、開口部41から空気を吐出させる。
【0024】
また開口部41から吐出する空気の一部は、図2(b)(断面図)に示すように、果実(例えば、イチゴ)Sに直接に吹き付ける方向に吐出する。このため、植物P(葉や果実)の体温を低下させて、高温期の植物Pの栽培を可能にすることができる。
【0025】
なお、前述した実施例では、培地Bが2列に配置されるように構成したが、培地冷却装置1は、培地Bが1列や3列以上に配置された場合にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる培地冷却装置の断面図を示す。
【図2】通風ダクトを設けた培地冷却装置を示し、同図(a)は培地冷却装置の断面図であり、同図(b)は培地冷却装置によるイチゴの栽培を表わす断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 培地冷却装置
20 受皿
30 高設栽培用ベンチ
31 不織布
40 通風ダクト
B 培地
P 植物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高設栽培用ベンチを用いて植物を栽培する培地を冷却する培地冷却装置であって、
気体及び液体を通す不織布によって前記高設栽培用ベンチを形成し、該高設栽培用ベンチの下方位置に前記気体は通すが前記高設栽培用ベンチ内に収容された培地に含まれる液体は透過しない性質を有した材料によって形成された受皿を配置することを特徴とする培地冷却装置。
【請求項2】
前記高設栽培用ベンチ内の培地は、該培地に注がれる水の蒸発によって冷却されるとともに、注がれた水のうち前記不織布を通過して前記受皿に貯留する余剰水の蒸発によって冷却されることを特徴とする請求項1に記載の培地冷却装置。
【請求項3】
前記不織布及び前記受皿に風を吹き付ける通風ダクトを設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の培地冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−271314(P2006−271314A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98653(P2005−98653)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【Fターム(参考)】