説明

培養容器

【課題】比較的温度の高い水に対しては不溶である遺伝子導入剤が内面に付着された培養容器を提供することを目的とする。
【解決手段】容器内面に核酸を含む遺伝子導入剤を付着させた培養容器であって、該遺伝子導入剤は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である。この遺伝子導入剤は、好ましくはN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるホモポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック重合させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子学の実験を行う際、細胞・微生物を培養するために用いる、培養プレート、シャーレ、フラスコなどの培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
I. 遺伝子学の実験を行うための培養容器として、特開2004−290111に、容器の培養液が接触する内面に水との接触角が10度以下の親水性の層を有し、該容器の内面の細胞が接触する部分に細胞培養に適した培養床を有する細胞培養容器が記載されている。
II. 近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
DNAを細胞中に運搬するための非ウイルス系ベクターとして、カチオン性のスター型ポリマーがWO2004/092388に記載されている。
【特許文献1】特開2004−290111
【特許文献2】WO2004/092388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記WO2004/092388では、核酸と遺伝子導入剤との核酸複合体は、水溶液中に分散しているため、培養容器の内面に付着させても、培養容器に水を供給すると溶離してしまう。
【0005】
本発明は、比較的温度の高い水に対しては不溶である遺伝子導入剤が内面に付着された培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の培養容器は、培養液が接する容器内面に遺伝子導入剤を付着させた培養容器であって、該遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料及び核酸を含んでなり、該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とするものである。なお、本発明でいうポリマーとは、モノマーの2量体などのオリゴマーも包含するものとする。
【0007】
前記ポリマー材料は、少なくともカチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体との共重合ブロックを有する重合体であることが好ましく、カチオン性モノマーと非イオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体との共重合体であっても良い。
【0008】
このカチオン性ポリマーブロックの分子量は2,000〜500,000が好ましく、非イオン性ポリマーブロックの分子量は2,000〜500,000が好ましい。
【0009】
このブロック共重合体の分子量は、3,000〜600,000であることが好ましい。
【0010】
前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることが好ましい。
【0011】
前記カチオン性ポリマーは、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対しN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体あるいはさらに非イオン性モノマーをブロック共重合させたものであることが好ましい。
【0012】
このN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。
【0013】
このビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、及びメトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明において培養容器内面に付着される遺伝子導入剤は、上記所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性であるため、これを水に溶解させて核酸と複合させ、次いで容器内面に付着させ、その後、所定温度よりも高い温度とすることにより、疎水性(水不溶性)となり、容器内面に付着する。
【0015】
本発明では、前記遺伝子導入剤と核酸の複合体を容器内面に付着させた後に、乾燥させても良い。乾燥させることで培養容器を輸送したり保管する際に無菌状態の維持や品質安定性の向上を期待することが可能となる。
【0016】
この培養容器内に供給された液の温度が所定温度よりも高い場合、遺伝子導入剤が水不溶性となるので、液中に遺伝子導入剤が溶出しない。遺伝子導入剤を乾燥させても同様である。
【0017】
この遺伝子導入剤は、有機溶媒を用いていないので、細胞や微生物の培養に際して有機溶媒の影響を排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[遺伝子導入剤]
本発明で容器内面に付着させる遺伝子導入剤は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である、分岐鎖を有する温度感応性ポリマー材料よりなる。
【0019】
上記のポリマー材料としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対し温度感応性ポリマー鎖をブロック共重合させたもの、あるいはさらに非イオン性ポリマー鎖をブロック共重合させたものが好適である。
【0020】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0021】
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0022】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
【0023】
このイニファターに重合させるカチオン性モノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等、とりわけビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CHが好ましい。
【0024】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0025】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適である。
【0026】
イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0027】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0028】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0029】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0030】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0031】
この光照射により、反応液中に分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。同様の手法で非イオン性ポリマーブロックも得ることができる。
【0032】
この分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーブロック又は非イオン性ポリマーブロックの分子量は分岐鎖の鎖数によるが、いずれも、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0033】
このようにして生成した分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて目的とする温度感応性ポリマー材料とする。このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロックは、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有し、これにより上記ポリマー材料が上記温度応答性を具備するようになる。
【0034】
N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成した分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーをメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型ポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0035】
このブロック共重合体(ポリマー材料)の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0036】
本発明の別の一態様では、上記イニファターに対し、まずN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を重合させてホモポリマーを形成し、その後、このホモポリマーに上記ビニル系モノマーなどのカチオン性モノマーをブロック共重合させて遺伝子導入剤を得るようにしてもよい。
【0037】
本発明のさらに別の一態様では、モノマーとして、カチオン性モノマーと、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体と、非イオン性モノマーとを用いる。イニファターに対する重合の順序は、任意である。即ち、1つの分岐鎖を構成するカチオン性ポリマーブロック、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロック、非イオン性ポリマーブロックの配列順序は任意である。
【0038】
非イオン性モノマーとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。
【0039】
このブロック共重合体よりなる遺伝子導入剤は、約30℃よりも高い温度で水不溶性であり、約30℃よりも低い温度で水溶性である。
【0040】
従って、約30℃よりも低い温度例えば10〜25℃程度の、核酸を複合した遺伝子導入剤の水溶液(濃度は好ましくは、3〜150mg/mL程度)を容器内面に付着させ、必要に応じ乾燥させて培養容器とする。この培養容器に30℃よりも高い温度の水系液体を供給すると、容器内面の遺伝子導入剤が水不溶性となる。そのため、核酸複合遺伝子導入剤が容器内面に長期にわたって定置されることになり、培養容器内の液に対し長期にわたって核酸が供給されることになる。
【0041】
本発明では、カチオン性ポリマーよりなる遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0042】
カチオン性ポリマーと核酸とを複合させるには、このカチオン性ポリマーの濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対してカチオン性ポリマーを過剰量添加し、カチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0043】
[核酸]
本発明で使用する核酸は、細胞工学、遺伝子工学、分子生物学などの分野で、InVitroの系で使用させるものであればよい。核酸の好ましい例としては、レポータージーンアッセイで広く使用されるルシフェラーゼをコードするプラスミド、β−ガラクトシダーゼ(LacZ)をコードするプラスミド、緑蛍光タンパク(GFP)をコードするプラスミドなどのDNAや各種siRNAが挙げられる。
【0044】
かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0045】
核酸含有複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、核酸含有複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれがある。
【0046】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。あるいは、遺伝子発現のみならず、細胞内のmRNAを破壊するRNA干渉をsiRNAで行うことも本発明では有用である。
【0047】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0048】
[容器]
容器としては、シャーレ、フラスコ、培養プレート(マルチウェルプレート)などが例示される。その材質は、ガラス、金属、合成樹脂などのいずれでもよい。
【0049】
[本発明の多孔体の使用方法]
培養容器の遺伝子導入剤の付着量は、0.5ng/mm2〜10μg/mm2程度が好ましい。
【0050】
この遺伝子導入剤を付着させるには、ピペッティング後に容器を温和に上下左右に転倒させて容器内面に全体に流延して塗着し、次いで30〜40℃で10〜100分程度インキュベートするのが好ましく、あるいはインキュベートしたてから又はしないで、そのまま、好ましくは無菌雰囲気下に放置して乾燥させても良い。
【0051】
また、付着させるにあたっては、本発明の実施形態によって適宜使い分けが必要である。例えば、24Wellや96Wellの培養容器であれば、各Wellで条件を変更する可能性が高いので、Wellの全体に均質に付着させることが好ましい。また、例えば、100mmディッシュの片面のみに遺伝子導入剤を付着させた場合は、遺伝子導入された細胞と遺伝子導入されていない細胞を同一培養容器で培養することも可能である。
【実施例】
【0052】
実施例1
<温度感応性ブロック共重合体よりなる遺伝子導入剤の合成>
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0053】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて液液抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0054】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0055】
【化1】

【0056】
ii)光重合による4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0057】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)5.0gを加えて混合し、全量をクロロホルムで50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を20分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより16,000と測定された。
【0058】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0059】
【化2】

【0060】
iii)カチオン性ホモポリマーへのN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合による温度感応性ポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)の合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ−(N−イソプロピルアクリルアミド)−ブロック−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAm−b−pNIPAMと記すことがある。)の合成を行った。
【0061】
即ち、上記ii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを1リットルフラスコへ移し、約800mLのジエチルエーテルを投入して再沈殿させ、デカンテーションによりジエチルエーテルを除去した。ここへ約50mLのトルエンを加えポリマー成分を溶解し、再度ジエチルエーテルを投入してポリマー成分を再沈殿した。この操作を3回繰り返した。ポリマー成分を約20mLのメタノールへ溶解し、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)0.1gを混合して全量をメタノールで60mLに調整した。ii)と同様の条件で光照射重合を行って、4分岐型pDMAPAAmとポリN−イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)とのブロックポリマーよりなるポリマー材料pDMAPAAm−b−pNIPAMを得た。分子量はGPCにより19,000と測定された。
以上により、遺伝子導入剤が得られた。
【0062】
【化3】

【0063】
<培養プレートの作成>
培養プレートの作成は環境温度20〜25℃に制御されたクリーンベンチ内で行った。この作成に使用した緩衝溶液、生理食塩水などすべての溶液も20〜25℃に温調した。DNAはホタルルシフェラーゼをコードするプラスミド(プロメガ社、pGL3コントロールベクター)を使用した。
【0064】
培養プレートとしては、図1に示すようにA行〜F行、1列〜6列のA1〜F6までの36ウェルのものを用いた。
【0065】
DNAの溶媒は×2TEバッファーを使用し、4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマーは生理食塩水に溶解した。
【0066】
A行へコーティングする溶液は、DNA濃度を6.66ng/μLに固定し、混合する4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマーの濃度を0.025μg/μL、0.05μg/μL、0.15μg/μL、0.25μg/μL、0.50μg/μLまたは0.75μg/μLとして、DNA溶液を90μL、4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマー溶液を60.3μLの比率で混合して6種類のポリプレックス溶液を調製し、それぞれA1,A2,A3,A4,A5,A6の各ウェルへ25μLずつ分注してウェル内に均質に引き延ばした。
【0067】
B行へコーティングする溶液のDNA濃度はすべて13.33ng/μLに固定し、4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマーに関してはA行と同様の濃度系列で6種類のポリプレックス溶液を調製し、同様にB1〜B6の各ウェルへコーティングした。
【0068】
同様の要領で、残りの各行についても、DNA濃度を固定し、4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマー濃度に濃度系列を持たせて36ウェル培養プレートのすべてのウェルをコーティングした。各行のDNA濃度は、C行は0.020μg/μL、D行は0.033μg/μL、E行は0.067μg/μL、F行は0.10μg/μLで固定した。
【0069】
このプレートを37℃で30分間インキュベートしそのまま水分を蒸発させて本発明の遺伝子導入条件を簡便に設定できる培養プレートを得た。
【0070】
COS−1細胞を細胞密度2×10EA/mLで浮遊液を調製し、先に作成した36ウェルプレートの各ウェルへ1mLずつ分注し、培養した。同様に細胞密度6×10EA/mL、10×10EA/mL及び16×10EA/mLの3種類の浮遊液も調製し、それぞれ別個の36ウェルプレートの各ウェルへ1mLずつ分注入し、培養した。細胞の状態は数時間の間隔で確認し、形態変化や死細胞の比率などを観察した。
【0071】
培養48時間後にレポータージーンアッセイを行い、各ウェルの遺伝子発現性を評価した。その結果、細胞密度6×10EA/mLの培養プレートにおけるD3及びD4のウェルにおいて他のウェルと比較して高い遺伝子発現効率が確認され、1行及び2行においてはほとんど遺伝子発現が確認されなかった。また、いずれの培養プレートにおいても5行及び6行においては非常に強い細胞毒性が確認された。
【0072】
以上の結果から、COS細胞への遺伝子導入においては、細胞播種密度は6×10EA/mL、DNA量は各ウェル当たりに0.5μg程度、カチオン性ポリマーとDNAの比率(C/A比またはP/N比)は約5〜10程度が好ましいと約3日間の実験で条件を設定することができた。以上のように遺伝子導入実験を行う研究者は、本発明の培養プレートへ細胞密度の異なる細胞浮遊液を1mLずつ分注することで細胞への遺伝子導入の条件を知ることが可能である。
【0073】
比較例
上記実施例の合成プロセスii)にて合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを使用し、実施例と同様に濃度系列を持つ36ウェル培養プレートへコーティングして同様の手法で遺伝子導入活性を評価したが、遺伝子発現効率に関して、DNA濃度、C/A比の系列に対して相関性や傾向が確認されなかった。これは37℃の培養条件温度下においても水溶性の高い4分岐型pDMAPAAmホモポリマーとDNAからなるポリプレックスが培養プレートから培地へ溶出、拡散し各ウェル間での条件が均一にならず、傾向不明になったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】培養プレートの平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液が接する容器内面に遺伝子導入剤を付着させた培養容器であって、
該遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料及び核酸を含んでなり、
該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とする培養容器。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリマー材料は、少なくともカチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体との共重合ブロックを有することを特徴とする培養容器。
【請求項3】
請求項2において、カチオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする培養容器。
【請求項4】
請求項2又は3において、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする培養容器。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体と非イオン性モノマーとの共重合ブロックを有し、非イオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする培養容器。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、該ブロック共重合体の分子量が3,000〜600,000であることを特徴とする培養容器。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることを特徴とする培養容器。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項において、前記ブロック共重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対しN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させたものであることを特徴とする培養容器。
【請求項9】
請求項8において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする培養容器。
【請求項10】
請求項8又は9において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、及びメトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする培養容器。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記、培養液が接する容器内面に付着された遺伝子導入剤が乾燥されていることを特徴とする培養容器。

【図1】
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