説明

基板の加工方法、部品の製造方法、圧力センサ用ダイヤフラム板及び圧力センサの製造方法、並びに圧力センサ

【課題】水晶等の透明な圧電材料、ガラス材料、その他の透光性を有する基板等の材料に凹所を加工するための方法と、その加工方法を利用したセンサ、振動子等の圧電デバイス、その他の電子デバイスを構成する様々な部品を製造するための方法、及び圧力センサを提供する。
【解決手段】水晶基板31の表面に耐蝕膜32を形成しかつパターニングし、露出した水晶基板31の表面及び残存する耐蝕膜32の上にドライフィルム34を成膜し、これを水晶基板31の裏面から露光しかつ現像して耐蝕膜32の上にドライフィルム34のマスク34aをパターニングし、水晶基板31を表面側からブラスト加工して凹所35を加工し、更にウエットエッチングして所望の凹所36を形成する。ウエットエッチング加工前の水晶基板31の厚さをt0としたとき、ウエットエッチングの加工量tを0.1μm≦t<t0に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶等の透明な圧電材料、ガラス材料、その他の透光性を有する基板等の材料に凹所を加工するための方法に関し、その加工方法を利用してセンサ、振動子等の圧電デバイス、その他の電子デバイスを構成する様々な部品を製造するための方法、及び圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電振動片は応力が加わるとそれに応じて共振振動数が変化する特性を有するので、圧電振動片を感圧素子として用いた圧力センサが実用化されている。このような圧力センサとして、それぞれ凹部を有する1対の水晶ダイヤフラムを互いに結合し、一方の水晶ダイヤフラムの凹部底面に載置部を設けて双音叉振動子を固定した構造のものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この圧力センサは、両水晶ダイヤフラムが凹所に設けた力伝達用柱部で互いに連結され、一方の水晶ダイヤフラムに加わる応力が他方の水晶ダイヤフラムに伝達されるので、応力の作用方向に対応して双音叉振動子が伸張又は圧縮される。従って、双音叉振動子の共振周波数の上昇又は下降によって、作用する圧力が正圧か負圧かを判別できる。
【0003】
同様に双音叉型の圧電振動片を用いた圧力センサにおいて、ダイヤフラムの圧電振動片を固定した側とは反対側の面に突出部を設けて、部分的に厚肉化したダイヤフラムが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。ダイヤフラムの厚肉部は、圧電振動片の両端を固定する支持部の間に設けられ、高い圧力を受けたときに、薄肉のダイヤフラムが大きく変形して圧電振動片の振動部と接触し、圧電振動片の振動を妨げたり損傷する虞を解消している。
【0004】
また、ダイヤフラム上に積層された第1の電極板と、該第1の電極板に対向配置された第2の電極板との間の静電容量の変化からダイヤフラムに作用した圧力変動を検出する静電容量型の圧力センサが知られている(例えば、特許文献3を参照)。この圧力センサのダイヤフラムは、シリコン単結晶板の両面に窪みを形成したものである。
【0005】
これら圧力センサのダイヤフラムのように凹所を有する部品の加工には、一般にドライエッチングやウエットエッチング、サンドブラスト等の公知の方法が採用されている。例えば、水晶振動子や水晶フィルタのための水晶加工において、水晶片を研磨し、洗浄後にエッチング液で水晶片の厚さを調整して周波数調整する方法が広く行われている(例えば、特許文献4を参照)。
【0006】
また、振動子用パッケージケースの製造において、水晶板をサンドブラスト加工した後にウエットエッチングして、サンドブラスト加工による応力の緩和や加工変質層を除去する方法が行われている(例えば、特許文献5,6を参照)。特許文献5記載の方法は、水晶板にサンドブラスト及びウエットエッチングの各工程で使用する第1及び第2のレジスト膜を予め重ねて形成し、1回の露光でパターニングすることにより、製造工程を簡略化し、両工程間のパターンずれを防ぎ、洗浄時間を短縮している。特許文献6記載の方法では、サンドブラスト及びウエットエッチングの両工程で使用するレジスト膜を共用することにより、同様に製造工程を大幅に簡略化し、両工程間のパターンずれを防いでいる。
【0007】
更に、水晶素板の薄板振動部とその周囲を囲う厚板補強部とを一体にしたATカット水晶振動片の製造において、水晶素板に凹面をブラスト加工して薄板振動部を形成した後、その裏面全面をウェットエッチング加工する方法が知られている(例えば、特許文献7を参照)。この方法では、水晶素板の振動部凹面がウェットエッチングにおける異方性の影響を受けないので、該凹面の側面角度を振動面に対して直角に形成することができ、それにより振動部の厚さを均一にして、良好な平面度及び平行度を得ている。
【0008】
また、電子素子を搭載した回路基板を蓋体で覆う電子部品の製造において、ブラスト法を用いて蓋体に凹部を形成する方法が知られている(例えば、特許文献8を参照)。ブラスト法で形成した凹部は隅部が丸く加工されるが、特許文献8記載の方法では、ガラス基材に溝部をサンドブラスト又はウエットエッチングにより形成した後、該溝部で囲まれる領域をサンドブラスト又はウエットエッチングすることにより、凹部の隅部の曲率半径を小さくしている。
【0009】
他方、一般に水晶部品に使用されている人工水晶は、その育成中に結晶の一部に線状の格子欠陥が生成されることがよく知られている。この線状格子欠陥は、水晶基板をウエットエッチングしたときに、エッチチャンネルと呼ばれるトンネル状の穴や貫通孔を形成するという問題がある。水晶ウエハから水晶振動片を形成する際にウエットエッチングによるエッチチャンネルを抑制し又は少なくするために、人工水晶をエッチング処理する以前に、水晶のα−β転移点温度未満の温度で加熱処理する方法が提案されている(例えば、特許文献9を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−132913号公報
【特許文献2】特開2007−327922号公報
【特許文献3】特開2000−39373号公報
【特許文献4】特開平3−185905号公報
【特許文献5】特開平9−102720号公報
【特許文献6】特開平9−102721号公報
【特許文献7】特開2005−244735号公報
【特許文献8】特開2006−295246号公報
【特許文献9】特許第3722638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図6(A)は、上記特許文献1に記載されるような従来の圧力センサの典型例を概略的に示している。この圧力センサ1は、感圧素子としての双音叉水晶振動片2と、水晶からなるベース側のダイヤフラム板3及びリッド側のダイヤフラム板4とを備える。ベース側のダイヤフラム板3は、内面側に凹所5を形成することにより薄肉のダイヤフラム部6を有する。凹所5の底面には1対の支持部7,7が離隔して突設され、その上に双音叉水晶振動片2の両側基端部2a,2aが固定されている。リッド側のダイヤフラム板4も、同様に内面側に凹所を形成することにより薄肉のダイヤフラム部8を有する。両ダイヤフラム板3,4は、前記凹所を囲む厚肉の周辺部を互いに気密に接合して、その内部に双音叉水晶振動片2を真空封止している。前記両ダイヤフラム板の凹所には、ほぼ中央の対応する位置にそれぞれ支柱9,10が形成されかつ互いに連結されて、一方の前記ダイヤフラム板の変形を他方の前記ダイヤフラム板に相互に伝達し得るようにしている。
【0012】
従来技術によれば、前記ダイヤフラム板の凹所は、ドライエッチングを用いて加工することができる。この場合、ダイヤフラム板3の凹所5を高精度に加工し、図6(B)に示すように、凹所底面と肉厚周辺部の内側面、支持部7の側面、支柱9の側面との各隅部5a,7a,9aを直角に加工することができる。ダイヤフラム板4の凹所底面と肉厚周辺部の内側面との隅部も、同様に直角に加工される。ところが、このように直角に加工したダイヤフラム板3の隅部は、一般に応力集中が起こり易いという問題がある。そのため、圧力センサ1に落下等の衝撃が加わると、前記隅部への応力集中によりダイヤフラム板3,4が割れたり破損して、圧力センサの真空度を損なう虞がある。
【0013】
また、ダイヤフラム板3,4の凹所の隅部が直角に形成されると、圧力センサ1の内部を真空化する際に、空気溜まりとなる虞がある。そのために、圧力センサ1内部の真空化に通常よりも長時間を要し、又は十分に真空化することができず、生産性を低下させたり圧力センサの性能向上を図れない虞が生じる。
【0014】
このようなダイヤフラム板の凹所底面の隅部への応力集中や空気溜まりの形成は、前記各隅部を傾斜面に形成することによって解消し又は少なくすることができる。この傾斜面を形成する方法として、例えばウエットエッチングで凹所を水晶基板に形成する方法がある。この方法では、水晶のエッチング異方性によって凹所の隅部に結晶面が現れて、傾斜面を形成する。しかしながら、水晶の結晶面は、その傾斜及び大きさが水晶の結晶方位によって異なるから、全ての隅部に同じ傾斜面が形成されることはない。その結果、圧力を受けたダイヤフラム板は対称に変形せず、圧力を正確に測定できなくなる虞がある。
【0015】
更に周知のように、水晶のエッチチャンネルは、通常のエッチングの約2倍のエッチングレートで進行する。そのため、ウエットエッチングの加工量が多くなると、それだけエッチチャンネルを生じ易くなり、圧力センサ1内部に所望の真空度を実現したり維持すことが困難になる虞がある。
【0016】
傾斜面を形成する別の方法として、従来技術に関連して上述したように、水晶板にサンドブラスト加工により凹所を形成すると、その隅部を丸く傾斜させることができる。この場合、特許文献5に記載されるように、サンドブラスト加工後にウエットエッチングを行ってサンドブラスト加工による加工痕や残留応力を除去することが好ましい。図7は、そのようなサンドブラスト加工とウエットエッチングの両工程を連続して行うことにより、水晶基板に凹所を形成する加工方法を例示している。
【0017】
先ず、水晶基板11の上にブラスト加工用保護材料としてドライフィルムを固定し、パターニングしてサンドブラスト用保護膜12を形成する(図7(A))。前記保護膜から露出する水晶基板11の表面をサンドブラスト加工して、凹所13を或る深さに形成する(図7(B))。次に、保護膜12を除去した後(図7(C))、水晶基板11の表面及び凹所13の底面に、例えばCr/Au膜をスパッタリングして耐蝕膜14を形成する(図7(D))。水晶基板11表面の耐蝕膜14上にレジスト膜15をパターニングし(図7(E))、凹所13底面の耐蝕膜14をウエットエッチングして除去する(図7(F))。これにより露出した凹所13底面をウエットエッチングして、サンドブラスト加工による加工痕及び残留応力を除去しかつ所望の深さに凹所16を形成する(図7(G))。
【0018】
しかしながら、この方法では、凹所13底面がサンドブラスト加工によりひどく荒れているため、図7(D)の工程でスパッタリングしたCr原子及びAu原子が前記凹所底面の凹凸の中に入り込んでしまい、耐蝕膜14を連続した緻密な薄膜として形成することが難しい。このようなCr/Au膜をウエットエッチングしようとすると、エッチングレートが非常に小さくなる。そのため、図7(F)のエッチング工程に長時間を要することとなり、生産性が低下する。更に、ウエットエッチングの時間が長くなると、その間にレジスト膜15の下側の耐蝕膜14がサイドエッチングされ、そのマスクパターンを維持できなくなる虞がある。
【0019】
図8は、サンドブラスト加工とウエットエッチングの両工程を連続して行う別の方法を示している。最初に水晶基板21の表面に、例えばCr/Au膜をスパッタリングして耐蝕膜22を形成する。次に、耐蝕膜22上にブラスト加工用保護材料としてドライフィルムを固定し、パターニングしてサンドブラスト用保護膜23を形成する(図8(A))。保護膜23から露出する耐蝕膜22をウエットエッチングで除去した後、露出した水晶基板21の表面をサンドブラスト加工して凹所24を形成する(図8(B))。保護膜23を除去した後、凹所24をウエットエッチングして、サンドブラスト加工による加工痕及び残留応力を除去しかつ所望の深さに凹所25を形成する(図8(D))。
【0020】
しかしながら、一般にドライフィルムは、液体に対して剥離し易い性質を有する。そのため、この方法は、サンドブラスト用保護膜23が、図8(A)の工程で耐蝕膜22のウエットエッチングする際にエッチング液で剥がれてしまい、耐蝕膜22を正確にパターニングできなくなる虞がある。
【0021】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サンドブラスト加工とウエットエッチングの両工程を用いて、透光性を有する水晶等の基板に凹所を形成する加工方法において、ドライフィルム等の感光性サンドブラスト用保護材料の性質を考慮して、凹所を所望の形状に高精度に加工できるようにすることにある。
【0022】
更に本発明の目的は、前記基板として水晶基板に凹所を形成する場合に、サンドブラスト加工による加工痕や残留応力を確実に除去しつつ、エッチチャンネルの発生を防止することにある。
【0023】
また、本発明の目的は、凹所を有する部品を製造するために、基板に凹所を所望の形状に高精度に加工し得る方法を提供することにある。
【0024】
更に本発明の目的は、落下による衝撃等の外力に対して十分な強度を発揮し、かつ良好な真空度を維持し得る圧力センサ用ダイヤフラム及び圧力センサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の基板の加工方法は、例えば水晶基板である透光性を有する基板の表面に耐蝕膜を形成しかつパターニングして基板表面を露出させる過程と、露出した基板の表面及びパターニングした耐蝕膜の上に、例えばドライフィルムである感光性保護材料を成膜する過程と、感光性保護材料を基板の裏面側から露光しかつ現像して耐蝕膜の上に保護膜をパターニングする過程と、基板を表面側からブラスト加工して基板に凹所を加工する過程と、凹所をウエットエッチングする過程とからなることを特徴とする。
【0026】
図7に関連して上述した従来技術のようにブラスト加工による凹所の底面に耐蝕膜を形成しかつウエットエッチングで除去する工程を有しないので、基板表面にパターニングされた耐蝕膜がサイドエッチングされる虞はない。更に、ブラスト加工による凹所の底面と側壁との隅部は湾曲した傾斜面に形成され、ウエットエッチングされた凹所はブラスト加工された凹所を追従した形状に加工される。従って、基板に所望の形状の凹所を高精度に加工することができる。ここで、透光性を有する基板とは、透明な基板に限定されず、仮に半透明なものであっても、基板の裏面側から表面側の感光性保護材料を露光するのに十分な透光性を有するものであれば良い。
【0027】
或る実施例では、前記基板が水晶基板である場合に、ウエットエッチング過程前の凹所における基板の厚さをt としたとき、ウエットエッチング過程のエッチング加工量tを0.1μm≦t<t /2に設定することにより、ブラスト加工による加工痕及び残留応力を除去すると同時に、エッチチャンネルを防止することができる。
【0028】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明の方法を用いて透光性を有する基板に凹所を形成する過程を含む、凹所を有する部品を製造するための方法が提供される。これにより、所望の形状に高精度に加工された凹所を有する部品が得られる。
【0029】
また本発明の別の側面によれば、圧力センサの感圧素子としての圧電振動片を収容するための凹所と該圧電振動片を支持するために凹所の底面に設けた支持部とを有するダイヤフラム板を製造するために、上述した本発明の方法を用いて透光性を有する基板に凹所及び支持部を加工する過程を含む圧力センサ用ダイヤフラム板の製造方法が提供される。これにより、ブラスト加工による加工痕や残留応力が完全に除去され、所望の形状に高精度に加工された凹所を有し、衝撃に対する十分な強度を有する圧力センサ用ダイヤフラム板が実現される。特に前記基板が水晶基板や結晶中に線状欠陥を有する他の材料の場合には、エッチチャンネルによる貫通孔の無いダイヤフラム板が得られる。
【0030】
更に本発明によれば、上述した本発明の方法を用いてダイヤフラム板を加工する過程を含み、感圧素子としての圧電振動片と、該圧電振動片を支持するダイヤフラム板と、その内部に圧電振動片を搭載するべくダイヤフラム板と一体的に結合される部材とを有する圧力センサを製造する方法が提供される。これにより、落下による衝撃等の外力に対して十分な強度を発揮しかつ良好な真空度を有する圧力センサを実現することができる。特に前記基板が水晶基板や結晶中に線状欠陥を有する他の材料の場合には、圧力センサを良好な真空度に維持することができる。
【0031】
更に本発明の別の側面によれば、振動部及び該振動部の両端に設けられた一対の基部を有する感圧素子としての圧電振動片と、薄肉のダイヤフラム部を画定する凹所及び該凹所の底面に設けた一対の支持部を有し、該支持部に圧電振動片両端の各基部をそれぞれ固定して圧電振動片を支持するダイヤフラム板と、その内部に圧電振動片を搭載するべくダイヤフラム板と一体的に結合される部材とを備え、ダイヤフラム板が上述した本発明の圧力センサの製造方法を用いて形成されることにより、凹所の底面と該凹所の側壁部分及び支持部との隅部が、傾斜角度40〜50°の湾曲した傾斜面からなる圧力センサが提供される。この圧力センサは、落下による衝撃等の外力に対する十分な強度及び良好な真空度を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)〜(H)図は本発明の方法を適用して水晶基板を加工する方法を工程順に示す断面図。
【図2】図1(F)の工程で加工された凹所の隅部を示す部分拡大断面図。
【図3】図1(H)の工程で加工された凹所の底部を示す部分拡大断面図。
【図4】(A)図は本発明の加工方法を適用した圧力センサの断面図、(B)図はそのベース側ダイヤフラム板の部分拡大断面図。
【図5】(A)〜(G)図は図4のベース側ダイヤフラム板の加工を工程順に示す断面図。
【図6】(A)図は従来例の圧力センサの断面図、(B)図はそのベース側ダイヤフラム板の部分拡大断面図。
【図7】(A)〜(G)図は従来の水晶基板の加工方法を工程順に示す断面図。
【図8】(A)〜(D)図は別の従来の水晶基板の加工方法を工程順に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図1は、透光性を有する基板として水晶基板に凹所を形成するための加工方法を工程順に示している。先ず、水晶基板31の表面にCr膜とAu膜との2層構造からなる耐蝕膜32を形成する(図1(A))。前記Cr膜及びAu膜は、スパッタリング等の公知方法により成膜することができる。前記耐蝕膜は、水晶のエッチング液に対して十分な耐蝕性を有する、Cr及びAu以外の金属材料で形成することができる。耐蝕膜32の上にフォトレジスト層を例えばスピンコートにより全面に形成し、目的の凹所の平面形状に対応するパターンのレジスト膜33を形成する(図1(B))。レジスト膜33から露出する耐蝕膜32をウエットエッチングにより除去して、水晶基板の表面を露出させる(図1(C))。これにより、目的の凹所の平面形状に対応するパターンを耐蝕膜32に転写して、エッチングマスク32aを形成する。
【0034】
次に、耐蝕膜32を含む水晶基板31の表面全面に、ブラスト加工用の感光性保護材料としてドライフィルム34を固定し、該水晶基板の裏面側からエッチングマスク32aを利用してドライフィルム34を露光する(図1(D))。露光した前記ドライフィルムを現像し、耐蝕膜32の上にブラスト加工用保護膜34aを形成する(図1(E))。保護膜34aから露出する水晶基板31の表面をサンドブラスト加工して、一次的に凹所35を、目的の凹所より少し浅い深さに形成する(図1(F))。凹所35の底面と側壁との隅部は、図2に示すように、傾斜角度約40〜50°の湾曲した傾斜面35aが形成される。尚、ブラスト加工用の感光性保護材料としては、ドライフィルム以外の様々な公知の材料を用いることができる。
【0035】
次に、保護膜34aを除去した後(図1(G))、凹所35をウエットエッチングして、目的の深さを有する凹所36を形成する(図1(H))。本実施例は、図7に関連して上述した従来技術の加工方法のように凹所13底面の耐蝕膜をウエットエッチングで除去する工程を有しないので、エッチングマスク32aがサイドエッチングされる虞がない。更に、凹所36の底面と側壁との隅部は、凹所35の形状を追従して、同様に傾斜角度約40〜50°の湾曲した傾斜面36aに形成される。従って、水晶基板31に所望の形状及び寸法の凹所36を高精度に加工することができる。
【0036】
凹所35のウエットエッチングの加工量を少なくとも0.1μmとすることによって、前記サンドブラスト加工による凹所35底面の加工痕や残留応力を完全に除去できることを、本願発明者らは確認した。更に、エッチチャンネルのエッチングレートは通常の水晶のエッチングレートの2倍である。従って、図3に示すように、凹所35をウエットエッチングする際のエッチング量tは、エッチング前の凹所35における水晶基板31の厚さをt としたとき、0.1μm≦t<t /2に設定することが好ましい。また、凹所35のウエットエッチングには、水晶のエッチング液として一般に使用されている弗酸、弗化アンモニウム等を用いることができる。
【0037】
図4(A)は、上述した本発明の加工方法を用いて製造される圧力センサの構成を概略的に示している。この圧力センサ41は、感圧素子としての双音叉水晶振動片42と、水晶からなるベース側のダイヤフラム板43及びリッド側のダイヤフラム板44とを備える。ベース側のダイヤフラム板43は、内面側に凹所45を形成することにより薄肉のダイヤフラム部46を有する。凹所45の底面には1対の支持部47,47が離隔して突設され、その上に双音叉水晶振動片42の両側基端部42a,42aが導電性接着剤等で固定されている。リッド側のダイヤフラム板44も、同様に内面側に凹所48を形成することにより薄肉のダイヤフラム部49を有する。前記両ダイヤフラム板は、凹所45,48のほぼ中央の対応する位置に突設された圧力伝達用の支柱50,51を有する。
【0038】
両ダイヤフラム板43,44は、前記各凹所を囲む厚肉の周辺部を互いに気密に接合して、その内部に双音叉水晶振動片42を真空封止している。このとき、前記両ダイヤフラム板の支柱50,51は互いに連結されて、一方の前記ダイヤフラム板の変形を他方の前記ダイヤフラム板に相互に伝達し得るようにしている。
【0039】
図4(B)に示すように、ベース側のダイヤフラム板43は、凹所45の底面と前記肉厚周辺部の内側面、支持部47の側面、支柱50の側面との各隅部45a,47a,50aが、それぞれ湾曲した傾斜面に形成されている。図示しないが、リッド側のダイヤフラム板44も、凹所48の底面と前記肉厚周辺部の内側面との隅部が同様の湾曲した傾斜面で形成されている。
【0040】
これによって、両ダイヤフラム板43,44の前記各隅部は、応力集中の発生が抑制されるので、落下等の衝撃による前記ダイヤフラム板の割れや破損を防止でき、圧力センサ41の強度を改善することができる。更に、圧力センサ41内部の真空化は、両ダイヤフラム板43,44の前記各隅部が空気溜まりとならないので、長時間を要せず、首尾良く行うことができる。従って、圧力センサ41は、生産性を低下させることなく十分に真空化することができ、その性能向上を図ることができる。
【0041】
両ダイヤフラム板43,44は、図1の本発明の方法を適用して、凹所45,48を加工することができる。図5(A)〜(G)は、ベース側のダイヤフラム板43に凹所45を形成する工程を順に示している。ダイヤフラム板43は前記肉厚周辺部と支持部47との高さが異なるので、本実施例では、図5(A)に示すように、水晶基板61の表面に支持部47の高さに対応する深さの凹所62が予め形成されているものとする。
【0042】
先ず、凹所62を含む水晶基板61の表面に、Cr膜とAu膜との2層構造からなる耐蝕膜63を形成する(図5(A))。前記Cr膜及びAu膜は、スパッタリング等の公知方法により成膜される。前記耐蝕膜は、水晶のエッチング液に対して十分な耐蝕性を有する、Cr及びAu以外の金属材料で形成することができる。耐蝕膜63の上にフォトレジスト層を例えばスピンコートにより全面に形成し、目的の凹所及び支持部47の形状に対応するパターンのレジスト膜64を形成する(図5(B))。レジスト膜64から露出する耐蝕膜63をウエットエッチングにより除去して、水晶基板61の表面を露出させる。これにより、目的の凹所及び支持部47の形状に対応するエッチングマスク63aが形成される(図5(C))。残存するレジスト膜64は除去する。
【0043】
次に、エッチングマスク63aを含む水晶基板61の表面全面に、ブラスト加工用の感光性保護材料としてドライフィルム65を固定し、該ドライフィルムを水晶基板61の裏面側からエッチングマスク63aを利用して露光する(図5(D))。露光した前記ドライフィルムを現像して、エッチングマスク63a上にブラスト加工用保護膜65aを形成する(図5(E))。保護膜65aから露出する水晶基板61の表面をサンドブラスト加工して、一次的に凹所66を所定の深さに形成する(図5(F))。このとき、凹所66の底面とその肉厚周辺部及び支持部47に対応する突出部の側壁との隅部は、図2の場合と同様に、傾斜角度約40〜50°の湾曲した傾斜面に形成される。
【0044】
次に、保護膜65aを除去した後、凹所66をウエットエッチングして、目的の凹所45を形成する(図5(G))。凹所66底面に耐蝕膜を形成しかつウエットエッチングする工程を有しないので、エッチングマスク63aがサイドエッチングされる虞はない。更に、凹所45の底面と肉厚周辺部及び支持部47に対応する突出部の側壁との隅部は、凹所66の形状を追従して、傾斜角度約40〜50°の湾曲した傾斜面に形成される。従って、水晶基板61に所望の凹所45を高精度に加工することができる。
【0045】
凹所66のウエットエッチング加工量tは、エッチング前の凹所66における水晶基板61の厚さをt として、0.1μm≦t<t /2に設定する。これによって、水晶基板61の凹所45にエッチチャンネルによる貫通孔を生じることなく、前記サンドブラスト加工による凹所66底面の加工痕や残留応力は完全に除去される。
【0046】
リッド側のダイヤフラム板44も、同様の工程に従って凹所48が加工される。このようにして、圧力センサ41の両ダイヤフラム板43,44に所望の形状及び寸法を有する凹所45,48を高精度に加工することができる。本実施例に従って加工したダイヤフラム板を用いた圧力センサを高さ50cmから床に落下させる落下試験を行ったところ、破損率は0%であった。このように本発明によれば、衝撃に対する十分な強度を有し、かつ良好な真空度を確保維持し得る圧力センサを実現することができる。
【0047】
本発明は、図4の実施例と異なる構造の圧力センサについても、同様に適用することができる。例えば、双音叉水晶振動片を支持するダイヤフラム板にダイヤフラム部を有しない基台等の部材を直接又は中間部材を介して結合して、その内部に水晶振動片を封止するような構造の圧力センサがある。また、内部を真空に封止しない構造の圧力センサも含まれる。
【0048】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明は、水晶基板だけでなく、シリコン材料やガラス材料等の透明な基板について広く適用することができ、所望の凹所を高精度に加工することができる。また、透光性を有する基板は、透明な基板に限定されるものでなく、基板の裏面側から表面側の感光性保護材料を露光するのに十分な透光性を有するものであれば、半透明なものを含む様々な基板材料を使用できる。更に、水晶以外の圧電結晶材料についても、その結晶中に同様の線状欠陥を生じることが知られており、そのような圧電材料を用いて圧力センサ、その他の圧電デバイス及びその部品を製造する場合にも、本発明を適用することにより、エッチチャンネルの発生を防止することができる。また、本発明は、圧力センサのダイヤフラム板以外に、振動子、加速度センサ等の様々な水晶デバイスについてそれらを構成する部品の加工に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,41…圧力センサ、2,42…双音叉水晶振動片、2a,42a…基端部、3,4,43,44…ダイヤフラム板、5,13,16,24,25,35,36,45,48,62,66…凹所、5a,7a,9a,45a,47a,50a…隅部、6,8,46,49…ダイヤフラム部、7,47…支持部、9,10,50,51…支柱、11,21,31,61…水晶基板、12,23,34a,65a…保護膜、14,22,32,63…耐蝕膜、15,33,64…レジスト膜、32a,63a…エッチングマスク、34,65…ドライフィルム、35a,36a…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基板の表面に耐蝕膜を形成しかつパターニングして前記基板表面を露出させる過程と、露出した前記基板の表面及びパターニングした前記耐蝕膜の上に感光性保護材料を成膜する過程と、前記感光性保護材料を前記基板の裏面から露光しかつ現像して前記耐蝕膜の上に保護膜をパターニングする過程と、前記基板を表面側からブラスト加工して前記基板に凹所を加工する過程と、前記凹所をウエットエッチングする過程とからなることを特徴とする基板の加工方法。
【請求項2】
前記基板が水晶基板であることを特徴とする請求項1記載の基板の加工方法。
【請求項3】
前記ウエットエッチングのエッチング加工量tが、前記凹所をウエットエッチングする過程の前の前記凹所における前記基板の厚さをt0 としたとき、0.1μm≦t<t0 /2であることを特徴とする請求項2記載の基板の加工方法。
【請求項4】
前記感光性保護材料がドライフィルムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の基板の加工方法。
【請求項5】
凹所を有する部品を製造するために、請求項1乃至4のいずれか記載の方法を用いて透光性を有する基板に前記凹所を形成する過程を含むことを特徴とする部品の製造方法。
【請求項6】
薄肉のダイヤフラム部を画定する凹所と圧力センサの感圧素子としての圧電振動片を支持するために前記凹所の底面に設けた支持部とを有するダイヤフラム板を製造するために、請求項1乃至4のいずれか記載の方法を用いて、透光性を有する基板に前記凹所及び前記支持部を加工する過程を含むことを特徴とする圧力センサ用ダイヤフラム板の製造方法。
【請求項7】
感圧素子としての圧電振動片と、前記圧電振動片を支持するダイヤフラム板と、その内部に前記圧電振動片を搭載するべく前記ダイヤフラム板と一体的に結合される部材とを有する圧力センサを製造するために、請求項6記載の方法を用いて前記ダイヤフラム板を加工する過程を含むことを特徴とする圧力センサの製造方法。
【請求項8】
振動部及び前記振動部の両端に設けられた一対の基部を有する感圧素子としての圧電振動片と、薄肉のダイヤフラム部を画定する凹所及び前記凹所の底面に設けた一対の支持部を有し、前記支持部に前記圧電振動片両端の前記各基部をそれぞれ固定して前記圧電振動片を支持するダイヤフラム板と、その内部に前記圧電振動片を搭載するべく前記ダイヤフラム板と一体的に結合される部材とを備え、
前記ダイヤフラム板が請求項6記載の方法を用いて形成されることにより、前記凹所の底面と該凹所の側壁部分及び前記支持部との隅部が、傾斜角度40〜50°の湾曲した傾斜面からなることを特徴とする圧力センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−186824(P2010−186824A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28882(P2009−28882)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】