説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】ステージの移動に伴って生じる振動に起因する処理精度の低下を適切に抑制できる技術を提供する。
【解決手段】描画装置1は、基板Wを水平姿勢で保持するステージ10と、ステージ10に保持された基板Wに対して光を照射して基板Wにパターンを描画する光学ユニット40と、ステージ10を光学ユニット40に対して相対移動させるステージ駆動部20と、移動されるステージ10の位置の変動を計測して位置変動情報を取得する位置変動情報取得部301と、ステージ10が移動される際に生じる振動成分のうち振動数が既知である対象振動成分の位相情報を、位置変動情報から特定する位相情報特定部302と、対象振動成分の位相情報に基づいてステージ10の振動状況を予測する振動予測部303と、予測された振動状況に基づいて、光学ユニット40による光の照射位置を補正する描画位置補正部304とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、プリント基板、カラーフィルタ用基板、液晶表示装置やプラズマ表示装置に具備されるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、太陽電池用パネルなどの各種基板(以下、単に「基板」と称する)を移送しつつ、当該移送される基板に対して処理を行う場合に、移送に伴って生じる振動による処理精度の低下を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に対して定められた処理を行う基板処理装置においては、基板を移送しつつ、当該移送される基板に対して処理を行う態様が採用されることも多い。例えば、フォトレジスト等の感光材料が塗布された基板をステージに載置し、このステージを光学ヘッドに対して相対移動させつつ、光学ヘッドからステージ上の基板に対して光を照射して、基板上にパターン(回路パターン)を形成する露光装置が知られている。
【0003】
ところで、基板処理装置においては、基板上の目標位置に高精度に位置合わせされた状態で処理を施すことができる機能が求められている。例えば、上述した露光装置においては、基板上の目標位置(例えば、下層パターンの形成位置)に高精度に位置合わせされた状態で光を照射できる機能が求められている。基板に形成すべきパターンは微細化の一途をたどっているため、露光装置に要求される処理精度も年々厳しくなってきている。
【0004】
処理精度を低下させる要因は様々に存在するが、その一つに、ステージが移動される際に生じる振動が挙げられる。この点に関し、例えば特許文献1には、移動されるステージに生じる振動量を計測して、これを分析する技術が開示されている。振動量の分析結果に基づいて、ステージを振動させている原因を特定することができれば、例えばステージの駆動機構を改造等してその原因を除去することによって、除振能力の高い駆動機構を形成することができる。ステージが移動される際の振動量が小さくなれば、これに起因する処理精度の低下も抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−13266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ステージの駆動機構に手を加えてステージの振動量を小さくすることも、処理精度の低下を抑制するのに有効な手法ではある。ただし、駆動機構の改良によってステージの振動量を完全にゼロとすることは非常に困難である。また、これを実現しようとすれば膨大なコストもかかってしまう。その一方で、ステージの振動は、たとえそれがごく小さいものであっても処理精度に影響を与えてしまう。つまり、駆動機構の改良だけでは、振動に起因する処理精度の低下を適切に抑制することができなかった。
【0007】
この発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ステージの移動に伴って生じる振動に起因する処理精度の低下を適切に抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様は、基板処理装置であって、基板を水平姿勢で保持するステージと、前記ステージに保持された基板に対して定められた処理を行う処理部と、前記ステージを前記処理部に対して相対移動させるステージ駆動部と、前記ステージ駆動部により移動される前記ステージの位置の変動を計測して位置変動情報として取得する位置変動情報取得部と、移動される前記ステージの振動に含まれる振動成分のうち振動数が既知である振動成分を対象振動成分とし、前記位置変動情報から前記対象振動成分の位相情報を特定する位相情報特定部と、前記対象振動成分の位相情報に基づいて、前記ステージの位置の変動の計測を終了した後の前記ステージの振動状況を予測する振動予測部と、前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて、前記処理部が前記基板に対して処理を行う際の処理位置を補正する処理位置補正部と、を備える。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係る基板処理装置であって、前記ステージに保持された基板上の未処理領域を撮像する撮像部、を備え、前記位置変動情報取得部が、前記撮像部が取得した前記未処理領域の撮像データを画像解析することによって、前記位置変動情報を取得する。
【0010】
第3の態様は、第1または第2の態様に係る基板処理装置であって、前記処理部が、前記ステージに保持された基板に対して光を照射して、前記基板にパターンを描画する光照射部、を備え、前記処理位置補正部が、前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて、前記光照射部による前記パターンの描画位置を補正する。
【0011】
第4の態様は、第3の態様に係る基板処理装置であって、平行でない光学面を備えるプリズムを前記光照射部から出射される光の経路上に2個並べて配置した光学系と、前記2個のプリズムの離間距離を変更することにより前記光照射部から出射される光の経路をシフトさせるプリズム移動部と、を備える光路補正部、を備え、前記処理位置補正部が、前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて、前記光路補正部に前記光照射部から出射される光の経路をシフトさせて、前記描画位置を補正する。
【0012】
第5の態様は、第3または第4の態様に係る基板処理装置であって、前記処理位置補正部が、前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて前記光照射部からの光の出射タイミングを調整することによって、前記描画位置を補正する。
【0013】
第6の態様は、移動されるステージに保持された基板に対して、処理部から定められた処理を行う基板処理方法であって、a)移動される前記ステージの位置の変動を計測して位置変動情報として取得する工程と、b)移動される前記ステージの振動に含まれる振動成分のうち振動数が既知である振動成分を対象振動成分とし、前記a)工程で取得された前記位置変動情報から前記対象振動成分の位相情報を特定する工程と、c)前記対象振動成分の位相情報に基づいて、前記ステージの位置の変動の計測を終了した後の前記ステージの振動状況を予測する工程と、d)前記c)工程で予測された振動状況に基づいて、前記処理部が前記基板に対して処理を行う際の処理位置を補正する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
第1〜第6の態様によると、移動されるステージの振動に含まれる対象振動成分の位相情報を特定し、特定された位相情報に基づいてステージの振動状況を予測する。そして、当該予測された振動状況に基づいて、処理位置を補正する。この構成によると、移動されるステージの既知の振動成分の影響が排除されて、基板上の適切な位置に処理を施すことができる。したがって、ステージの振動に起因する処理精度の低下を適切に抑制できる。
【0015】
特に、第2の態様によると、基板上の未処理領域を撮像して取得された撮像データを画像解析することによってステージの位置変動情報を取得する。この構成によると、正確な位置変動情報を簡単に取得することができる。
【0016】
特に、第3の態様によると、予測された振動状況に基づいて、描画位置を補正するので、基板上の適切な位置に光を照射してパターンを描画することができる。したがって、ステージの振動に起因する描画処理精度の低下を適切に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】描画装置の側面図である。
【図2】描画装置の平面図である。
【図3】光路補正部を模式的に示す図である。
【図4】制御部のハードウエア構成を示すブロック図である。
【図5】振動影響除去機能に関する構成を示すブロック図である。
【図6】振動リストの構成例を示す図である。
【図7】位置変動情報を取得する態様を説明するための図である。
【図8】位相情報を取得する態様を説明するための図である。
【図9】予測振動を取得する態様を説明するための図である。
【図10】描画位置補正部の処理を説明するための図である。
【図11】X方向についての描画位置の補正態様を説明するための図である。
【図12】Y方向についての描画位置の補正態様を説明するための図である。
【図13】描画処理の全体の流れを示す図である。
【図14】1ストライプ分の領域単位に行われる描画処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0019】
<1.装置構成>
第1の実施の形態に係る描画装置1の構成について、図1、図2を参照しながら説明する。図1は、描画装置1の構成を模式的に示す側面図である。図2は、描画装置1の構成を模式的に示す平面図である。
【0020】
描画装置1は、レジスト等の感光材料の層が形成された基板Wの上面に光を照射して、パターン(回路パターン)を露光する露光装置である。なお、基板Wは、半導体基板、プリント基板、カラーフィルタ用基板、液晶表示装置やプラズマ表示装置に具備されるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、太陽電池用パネルなどの各種基板のいずれであってもよい。図においては、円形の半導体基板が例示されている。
【0021】
描画装置1は、本体フレーム101で構成される骨格の天井面および周囲面にカバーパネル(図示省略)が取り付けられることによって形成される本体内部と、本体フレーム101の外側である本体外部とに、各種の構成要素を配置した構成となっている。
【0022】
描画装置1の本体内部は、処理領域102と受け渡し領域103とに区分されている。処理領域102には、主として、基板Wを保持するステージ10、ステージ10を移動させるステージ駆動機構20、ステージ10の位置を計測するステージ位置計測部30、基板Wの上面に光を照射する2個の光学ユニット40、基板W上の描画予定領域を撮像する2個の先行撮像部50、および、基板W上のアライメントマークを撮像するアライメント撮像部60が配置される。一方、受け渡し領域103には、処理領域102に対する基板Wの搬出入を行う搬送装置70とプリアライメント部80とが配置される。
【0023】
描画装置1の本体外部であって、受け渡し領域103に隣接する位置には、カセットCを載置するためのカセット載置部104が配置される。受け渡し領域103に配置された搬送装置70は、カセット載置部104に載置されたカセットCに収容された未処理の基板Wを取り出して処理領域102に搬入するとともに、処理領域102から処理済みの基板Wを搬出してカセットCに収容する。カセット載置部104に対するカセットCの受け渡しは外部搬送装置(図示省略)によって行われる。
【0024】
また、描画装置1は、描画装置1が備える各部と電気的に接続されて、これら各部の動作を制御する制御部90を備える。
【0025】
以下において、描画装置1が備える各部の構成について説明する。
【0026】
<ステージ10>
ステージ10は、平板状の外形を有し、その上面に基板Wを水平姿勢に載置して保持する保持部である。ステージ10の上面には、複数の吸引孔(図示省略)が形成されており、この吸引孔に負圧(吸引圧)を形成することによって、ステージ10上に載置された基板Wをステージ10の上面に固定保持することができるようになっている。
【0027】
<ステージ駆動機構20>
ステージ駆動機構20は、ステージ10を基台105に対して移動させる機構であり、ステージ10を主走査方向(Y軸方向)、副走査方向(X軸方向)、および回転方向(Z軸周りの回転方向(θ軸方向))に移動させる。ステージ駆動機構20は、具体的には、ステージ10を回転させる回転機構21と、回転機構21を介してステージ10を支持する支持プレート22と、支持プレート22を副走査方向に移動させる副走査機構23とを備える。ステージ駆動機構20は、さらに、副走査機構23を介して支持プレート22を支持するベースプレート24と、ベースプレート24を主走査方向に移動させる主走査機構25とを備える。
【0028】
回転機構21は、ステージ10の上面(基板Wの載置面)の中心を通り、当該載置面に垂直な回転軸Aを中心としてステージ10を回転させる。回転機構21は、例えば、上端が載置面の裏面側に固着され、鉛直軸に沿って延在する回転軸部211と、回転軸部211の下端に設けられ、回転軸部211を回転させる駆動部(例えば、回転モータ)212とを含む構成とすることができる。この構成においては、駆動部212が回転軸部211を回転させることにより、ステージ10が水平面内で回転軸Aを中心として回転することになる。
【0029】
副走査機構23は、支持プレート22の下面に取り付けられた移動子とベースプレート24の上面に敷設された固定子とにより構成されたリニアモータ231とを有している。また、ベースプレート24には、副走査方向に延びる一対のガイド部材232が敷設されており、各ガイド部材232と支持プレート22との間には、ガイド部材232に摺動しながら当該ガイド部材232に沿って移動可能なボールベアリングが設置されている。つまり、支持プレート22は、当該ボールベアリングを介して一対のガイド部材232上に支持される。この構成においてリニアモータ231を動作させると、支持プレート22はガイド部材232に案内された状態で副走査方向に沿って滑らかに移動する。
【0030】
主走査機構25は、ベースプレート24の下面に取り付けられた移動子と描画装置1の基台105上に敷設された固定子とにより構成されたリニアモータ251を有している。また、基台105には、主走査方向に延びる一対のガイド部材252が敷設されており、各ガイド部材252とベースプレート24との間には例えばエアベアリングが設置されている。エアベアリングにはユーティリティ設備から常時エアが供給されており、ベースプレート24は、エアベアリングによってガイド部材252上に非接触で浮上支持される。この構成においてリニアモータ251を動作させると、ベースプレート24はガイド部材252に案内された状態で主走査方向に沿って摩擦なしで滑らかに移動する。
【0031】
<ステージ位置計測部30>
ステージ位置計測部30は、ステージ10の位置を計測する機構であり、ステージ10外からステージ10に向けてレーザ光を出射するとともにその反射光を受光し、当該反射光と出射光との干渉からステージ10の位置(具体的には、主走査方向に沿うY位置、および、回転方向に沿うθ位置)を計測する、干渉式のレーザ測長器により構成される。
【0032】
ステージ位置計測部30は、例えば、ステージ10の−Y側の側面に取り付けられるとともに、−Y側の面に主走査方向に垂直な反射面を備えるプレーンミラー31と、ステージの−Y側において基台105に対して固定される各部(具体的には、レーザ光源32、スプリッタ33、第1リニア干渉計34、第1レシーバ35、第2リニア干渉計36および第2レシーバ37)とを備える構成とすることができる。
【0033】
このステージ位置計測部30においては、レーザ光源32から出射されたレーザ光は、スプリッタ33により2分割され、一方のレーザ光の一部が第1リニア干渉計34を介してプレーンミラー31上の第1の部位に入射し、プレーンミラー31からの反射光が、第1リニア干渉計34において元のレーザ光の一部(これが参照光として利用される)と干渉して第1レシーバ35により受光される。第1レシーバ35における、反射光と参照光との干渉後の強度変化に基づいて、第1リニア干渉計34とプレーンミラー31との主走査方向における距離が特定される。この第1レシーバ35からの出力に基づいて、専門の演算回路(図示省略)にてステージ10の主走査方向における位置が求められる。
【0034】
一方、レーザ光源32から出射されてスプリッタ33により分割された他方のレーザ光の一部は、取付台38の内部を+X側から−X側へと通過し、第2リニア干渉計36を介してプレーンミラー31に入射する。ここで、第2リニア干渉計36からのレーザ光は、プレーンミラー31上の第1の部位から副走査方向に一定距離だけ離間したプレーンミラー31上の第2の部位に入射することになる。プレーンミラー31からの反射光は、第2リニア干渉計36において元のレーザ光の一部と干渉して第2レシーバ37により受光される。第2レシーバ37における、反射光と参照光との干渉後の強度変化に基づいて、第2リニア干渉計36とプレーンミラー31との主走査方向における距離が特定される。第2レシーバ37からの出力と上述した第1レシーバ35からの出力に基づいて、専門の演算回路(図示省略)にてステージ10の回転角度が求められる。
【0035】
<光学ユニット40>
光学ユニット40は、ステージ10上に保持された基板Wの上面に光を照射して基板Wにパターンを描画するための機構である。上述したとおり、描画装置1は2個の光学ユニット40,40を備える。一方の光学ユニット40は基板Wの+X側半分の露光を担当し、他方の光学ユニット40は基板Wの−X側半分の露光を担当する。これら2個の光学ユニット40,40は、ステージ10およびステージ駆動機構20を跨ぐようにして基台105上に架設されたフレーム107に、間隔をあけて固設される。なお、2個の光学ユニット40,40の間隔は必ずしも一定に固定されている必要はなく、光学ユニット40,40の一方あるいは両方の位置を変更可能とする機構を設けて、両者の間隔を調整可能としてもよい。
【0036】
2個の光学ユニット40,40はいずれも同じ構成を備える。すなわち、各光学ユニット40は、天板を形成するボックスの内部に配置されたレーザ駆動部41、レーザ発振器42および照明光学系43と、フレーム107の+Y側に取り付けられた付設ボックスの内部に収容されたヘッド部400とを備える。ヘッド部400は、空間光変調ユニット44と投影光学系45と光路補正部46とを主として備える。
【0037】
レーザ発振器42は、レーザ駆動部41からの駆動を受けて、出力ミラー(図示省略)からレーザ光を出射する。照明光学系43は、レーザ発振器42から出射された光(スポットビーム)を、強度分布が均一な線状の光(光束断面が線状の光であるラインビーム)とする。レーザ発振器42から出射され、照明光学系43にてラインビームとされた光は、ヘッド部400に入射し、パターンデータD(図5参照)に応じた空間変調を施された上で基板Wに照射される。
【0038】
ヘッド部400に入射した光は、具体的には、ミラー47を介して、定められた角度で空間光変調ユニット44に入射する。空間光変調ユニット44は、当該入射光を空間変調して、パターンの描画に寄与させる必要光と、パターンの描画に寄与させない不要光とを、互いに異なる方向に反射させる。ただし、光を空間変調させるとは、光の空間分布(振幅、位相、および偏光等)を変化させることを意味する。
【0039】
空間光変調ユニット44は、具体的には、電気的な制御によって入射光を空間変調させる空間光変調器441を備える。空間光変調器441は、その反射面の法線が、ミラー47を介して入射する入射光の光軸に対して傾斜して配置され、当該入射光を制御部90(具体的には、制御部90において実現される描画制御部300(図5参照))の制御に応じて空間変調させる。空間光変調器441は、例えば、回折格子型の空間変調器(例えば、GLV(Grating Light Valve:グレーチング・ライト・開閉弁)(シリコン・ライト・マシーンズ(サンノゼ、カリフォルニア)の登録商標)等を利用して構成される。回折格子型の空間変調器は、格子の深さを変更することができる回折格子であり、例えば、半導体装置製造技術を用いて製造される。
【0040】
空間光変調器441の構成例についてより具体的に説明する。空間光変調器441は、例えば、複数の空間光変調素子を一次元に並べた構成となっている。各空間光変調素子の動作は、電圧のオン/オフで制御される。すなわち、例えば電圧がオフされている状態においては空間光変調素子の表面は平面となっており、この状態で空間光変調素子に光が入射すると、その入射光は回折せずに正反射する。これにより、正反射光(0次回折光)が発生する。一方、例えば電圧がオンされている状態においては、空間光変調素子の表面には平行な溝が周期的に並んで複数本形成される。この状態で空間光変調素子に光が入射すると、正反射光(0次回折光)は打ち消しあって消滅し、他の次数の回折光(±1次回折光、±2次回折光、および、さらに高次の回折光)が発生する。より正確には、0次回折光の強度が最小となり、他の次数の回折光の強度が最大となる。空間光変調器441は、複数の空間光変調素子のそれぞれに対して独立に電圧を印加可能なドライバ回路ユニットを備えており、各空間光変調素子の電圧が独立して切り換え可能となっている。
【0041】
投影光学系45は、空間光変調器441にて空間変調された光のうち、パターンの描画に寄与させるべきでない不要光を遮断するとともにパターンの描画に寄与させるべき必要光のみを基板Wの表面に導いて、当該表面に結像させる。ただし、空間光変調器441にて空間変調された光には、0次回折光と、0次以外の次数の回折光(具体的には、±1次回折光、±2次回折光、および、比較的微量の±3次以上の高次回折光)とが含まれており、0次回折光がパターンの描画に寄与させるべき必要光であり、それ以外の回折光がパターンの描画に寄与させるべきでない不要光である。これら必要光と不要光とは互いに異なる方向に沿って出射される。すなわち、必要光はZ軸に沿って−Z方向に、不要光はZ軸から±X方向に僅かに傾斜した軸に沿って−Z方向に、それぞれ出射される。投影光学系45は、例えば、遮断板によって、Z軸から±X方向に僅かに傾斜した軸に沿って進行する不要光を遮断するとともに、Z軸に沿って進行する必要光のみを通過させる。投影光学系45は、この遮断板の他に、入射光の幅を広げる(あるいは狭める)ズーム部を構成する複数のレンズ、入射光を定められた倍率として基板W上に結像させる対物レンズ、等をさらに含む構成とすることができる。
【0042】
光学ユニット40に描画動作を実行させる場合、描画制御部300(図5参照)は、レーザ駆動部41を駆動してレーザ発振器42から光を出射させる。出射された光は照明光学系43にてラインビームとされ、ミラー47を介して空間光変調ユニット44の空間光変調器441に入射する。上述したとおり、空間光変調器441においては複数の空間光変調素子が副走査方向(X軸方向)に沿って並んで配置されており、入射光はその線状の光束断面を空間光変調素子の配列方向に沿わせるようにして、一列に配列された複数の空間光変調素子に入射する。描画制御部300は、パターンデータDに基づいてドライバ回路ユニットに指示を与え、ドライバ回路ユニットが指示された空間光変調素子に対して電圧を印加する。これによって、各空間光変調素子にて個々に空間変調された光が形成され、基板Wに向けて出射されることになる。空間光変調器441が備える空間光変調素子の個数を「N個」とすると、空間光変調器441からは、副走査方向に沿うN画素分の空間変調された光が出射されることになる。空間光変調器441にて空間変調された光は、必要な場合は後述する光路補正部46によりその光路を補正された上で、投影光学系45に入射する。そして、投影光学系45においては、入射光のうちの不要光が遮断されるとともに必要光のみが基板Wの表面に導かれ、定められた倍率とされて基板Wの表面に結像される。
【0043】
後に明らかになるように、光学ユニット40は、主走査方向(Y軸方向)に沿って光学ユニット40に対して相対的に移動される基板Wに対して、副走査方向に沿うN画素分の空間変調された光を断続的に照射し続ける(すなわち、基板Wの表面にパルス光を繰り返して投影し続ける)。したがって、光学ユニット40が主走査方向に沿って基板Wに対して相対移動して基板Wを横断すると、基板Wの表面に、副走査方向に沿ってN画素分の幅をもつ一本のパターン群が描画されることになる。この、N画素分の幅をもつ1本のパターン描画領域を、以下の説明では「1ストライプ分の領域」ともいう。
【0044】
光路補正部46は、ヘッド部400において、空間光変調ユニット44と投影光学系45との間に設けられ、空間光変調ユニット44で変調された光の経路を副走査方向(X方向)に沿ってシフトさせる。光路補正部46が必要に応じて光の経路をシフトさせることによって、基板Wに照射される光の位置を副走査方向に沿って微調整することが可能となる。
【0045】
光路補正部46の構成について、図3を参照しながら具体的に説明する。図3は、光路補正部46の構成を模式的に示す図である。
【0046】
光路補正部46は、1個以上の光学部品を備え、少なくとも1個の光学部品の位置(あるいは、姿勢)を変更することによって、入射光の光路をシフトさせる。
【0047】
光路補正部46は、例えば、2個のウェッジプリズム461と、一方のウェッジプリズム461を、他方のウェッジプリズム461に対して、入射光の光軸Hの方向(Z軸方向)に沿って直線的に移動させるウェッジプリズム移動機構462とから実現することができる。
【0048】
ウェッジプリズム461は、非平行な光学面M1,M2を備えることにより入射光の光路を変更できるプリズムである。2個のウェッジプリズム461は、互いに略同一の構造(例えば、頂角、屈折率がいずれも同一となる構造)を有している。2個のウェッジプリズム461は、固定ステージ4610、可動ステージ4611にそれぞれ固定され、対向する光学面M1が互いに平行となり、かつ、互いに逆向きとなるように、入射光の光軸Hの方向(Z軸方向)に沿って並んで配置される。各ウェッジプリズム461は、例えば固定バンド4612を用いて各ステージ4610,4611に固定される。
【0049】
一方のウェッジプリズム461が配置される固定ステージ4610は、ベース部4621上に固定されている。また、他方のウェッジプリズム461が配置される可動ステージ4611は、ベース部4621上に形成された一対のガイドレール4622に沿って移動可能とされている。ガイドレール4622は、ベース部4621上に、Z軸方向に沿って延在して形成されている。
【0050】
ベース部4621には、回転モータ4623によって回転させられるボールネジ4624が配設されている。ボールネジ4624は、ガイドレール4622の延在方向に沿って延在しており、可動ステージ4611のブラケット46111の雌ねじ部に螺合されている。この構成において、ボールネジ4624が回転モータ4623によって回動されることで、可動ステージ4611がガイドレール4622に沿ってZ方向に移動する。すなわち、可動ステージ4611に固定されたウェッジプリズム461がZ方向に移動する(矢印AR46)。
【0051】
つまり、可動ステージ4611、ガイドレール4622、回転モータ4623、および、ボールネジ4624により、一方のウェッジプリズム461(可動ステージ4611に固定されたウェッジプリズム461)を入射光の光軸Hの方向(Z軸方向)に沿って直線的に移動させるウェッジプリズム移動機構462が構成される。ウェッジプリズム移動機構462は、一方のウェッジプリズム461を、他方のウェッジプリズム461(固定ステージ4610に固定されたウェッジプリズム461)に対して光軸方向(Z軸方向)に沿って直線的に移動させることによって、2個のウェッジプリズム461の光軸方向に沿う離間距離を変化させる。
【0052】
上記の構成を備える光路補正部46においては、2個のウェッジプリズム461の光軸に沿う離間距離を変化させることによって、ウェッジプリズム461に入射する光の経路をX軸方向に沿ってシフトさせることができる。ただし、このシフト量Δxは、各ウェッジプリズム461の離間距離に応じて定まる。そこで、制御部90(具体的には、制御部90において実現される描画位置補正部304(図5参照))は、ウェッジプリズム移動機構462を制御して、2個のウェッジプリズム461のZ軸方向に沿う離間距離を調整することによって、空間変調部44から出射される光の経路をX軸方向に沿ってシフトさせ、副走査方向(X軸方向)に沿う描画位置(露光位置)を補正する。
【0053】
<先行撮像部50>
再び図1、図2を参照する。先行撮像部50は、ステージ10に保持された基板Wの上面の未露光領域を撮像するための機構である。上述したとおり、描画装置1は2個の先行撮像部50,50を備えている。各先行撮像部50は、いずれかの光学ユニット40と対応付けられて、対応する光学ユニット40の付近(具体的には、光学ユニット40が基板Wに対して光を照射する際に光学ユニット40が基板Wに対して相対的に移動される移動方向について、定められた距離だけ上流側(図示の例では+Y側))に配置されて、対応する光学ユニット40が描画を行う予定の基板W上の描画予定領域(未露光領域)を撮像する。すなわち、先行撮像部50は、対応する光学ユニット40から基板Wの描画予定領域に光が照射される前に、当該描画予定領域に形成されている下層パターンを撮像することができる。
【0054】
先行撮像部50は、例えばLEDにより構成される光源と、鏡筒と、対物レンズと、リニアイメージセンサ(一次元イメージセンサ)により構成されるCCDイメージセンサとから構成することができる。ただし、先行撮像部50で採用される光源としては、基板W上のレジスト等を感光させない波長の光源が採用される。上記の構成の場合、光源から出射される光が、鏡筒を介して基板Wの上面に導かれ、その反射光が、対物レンズを介してCCDイメージセンサで受光される。これによって、基板Wの上面の撮像データが取得されることになる。先行撮像部50は、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指示に応じて基板Wの上面を撮像して撮像データを取得し、取得した撮像データを制御部90に送信する。
【0055】
<アライメント撮像部60>
アライメント撮像部60は、フレーム107に固設され、基板Wの上面に形成されたアライメントマークを撮像する。アライメント撮像部60は、上述した先行撮像部50とほぼ同様の構成とすることができるが、アライメント撮像部60が備えるCCDイメージセンサは、例えばエリアイメージセンサ(二次元イメージセンサ)により構成される。また、撮像に用いられる照明光は、照明ユニット61から供給される。ただし、この照明光も、基板W上のレジスト等を感光させない波長の光源が採用される。アライメント撮像部60は、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指示に応じて基板Wの上面を撮像して撮像データを取得し、取得した撮像データを制御部90に送信する。
【0056】
<搬送装置70>
搬送装置70は、基板Wを支持するための2本のハンド71,71と、ハンド71,71を独立に移動させるハンド駆動機構72とを備える。各ハンド71は、ハンド駆動機構72によって駆動されることにより進退移動および昇降移動されて、ステージ10に対する基板Wの受け渡しを行う。
【0057】
<プリアライメント部80>
プリアライメント部80は、基板Wの回転位置を粗く補正する装置である。プリアライメント部80は、例えば、回転可能に構成された載置台と、載置台に載置された基板Wの外周縁の一部に形成された切り欠き部(例えば、ノッチ、オリエンテーションフラット等)の位置を検出するセンサと、載置台を回転させる回転機構とから構成することができる。この場合、プリアライメント部80におけるプリアライメント処理は、まず、載置台に載置された基板Wの切り欠き部の位置をセンサで検出し、続いて、回転機構が、当該切り欠き部の位置が定められた位置となるように載置台を回転させることによって行われる。
【0058】
<制御部90>
制御部90は、描画装置1が備える各部と電気的に接続されており、各種の演算処理を実行しつつ描画装置1の各部の動作を制御する。
【0059】
図4は、制御部90のハードウエア構成を示すブロック図である。制御部90は、例えば、CPU91、ROM92、RAM93、記憶装置94等がバスライン95を介して相互接続された一般的なコンピュータによって構成されている。ROM92は基本プログラム等を格納しており、RAM93はCPU91が所定の処理を行う際の作業領域として供される。記憶装置94は、フラッシュメモリ、あるいは、ハードディスク装置等の不揮発性の記憶装置によって構成されている。記憶装置94にはプログラムPが格納されており、このプログラムPに記述された手順に従って、主制御部としてのCPU91が演算処理を行うことにより、各種機能が実現されるように構成されている。プログラムPは、通常、予め記憶装置94等のメモリに格納されて使用されるものであるが、CD−ROMあるいはDVD−ROM、外部のフラッシュメモリ等の記録媒体に記録された形態(プログラムプロダクト)で提供され(あるいは、ネットワークを介した外部サーバからのダウンロードなどにより提供され)、追加的または交換的に記憶装置94等のメモリに格納されるものであってもよい。なお、制御部90において実現される一部あるいは全部の機能は、専用の論理回路等でハードウエア的に実現されてもよい。
【0060】
また、制御部90では、入力部96、表示部97、通信部98もバスライン95に接続されている。入力部96は、各種スイッチ、タッチパネル等により構成されており、オペレータから各種の入力設定指示を受け付ける。表示部97は、液晶表示装置、ランプ等により構成されており、CPU91による制御の下、各種の情報を表示する。通信部98は、LAN等を介したデータ通信機能を有する。
【0061】
制御部90においては、プログラムPに記述された手順に従って主制御部としてのCPU91が演算処理を行うことにより描画制御部300(図5)が実現される。描画制御部300は、後に明らかになるように、ステージ駆動機構20を駆動してステージ10を移動させるとともに、移動されるステージ10に載置された基板Wに対して、光学ユニット40から描画光(パターンデータDに応じた空間変調を施された光)を照射させる。ただし、「パターンデータD」は、基板Wに描画すべきパターンを記述したデータである。具体的には、パターンデータDは、例えば、CAD(computer aided design)を用いて生成されたCADデータをラスタライズしたデータであり、光を照射すべき基板W上の位置情報が画素単位で記録される。制御部90は、基板Wに対する一連の処理に先立ってパターンデータDを取得して記憶装置94に格納している。なお、パターンデータDの取得は、例えばネットワーク等を介して接続された外部端末装置から受信することにより行われてもよいし、記録媒体から読み取ることにより行われてもよい。
【0062】
<2.振動影響除去機能に関する構成>
描画装置1は、ステージ駆動機構20により移動されるステージ10の振動に起因する描画精度の低下を抑制するための機能(振動影響除去機能)を備えている。当該機能について、図5を参照しながら説明する。図5は、当該機能に関する構成を示すブロック図である。
【0063】
<2−1.振動リストL>
描画装置1は、例えば制御部90の記憶装置94に予め格納された、振動リストLを備える。ステージ10を振動させる原因には様々なものがあり、ステージ10が移動される際に生じる振動は、これら各種の要因によってそれぞれ生じる各振動成分が重ね合わされたものとなっている。ここで、要因によっては、常に同じ振動数の振動成分となることがあり、これらは既知の振動成分として把握することができる。振動リストLは、これら既知の振動成分それぞれの既知の振動数の値をリスト化したデータである。図6には、振動リストLの構成例が示されている。図示の例では、振動リストLにおいて、振動数(周波数)が「15Hz」の振動成分1(以下「振動成分V1」と示す)と、振動数が「100Hz」の振動成分2(以下「振動成分V2」と示す)とがそれぞれ登録されている。また、既知の振動成分の中には、振動数だけでなく振幅も常に一定値となるものもある。そこで、この実施の形態においては、振動リストLにおいて、既知の振動成分V1,V2それぞれの振幅(X方向についての振幅とY方向についての振幅)の値がさらに保持される。
【0064】
なお、この実施の形態においては、振動リストLに2種類の既知の振動成分V1,V2の振動数および振幅がそれぞれ格納されるとして話を進めるが、振動リストLには3種類以上の既知の振動成分の情報が格納されてもよいし、1種類のみの振動成分の情報が格納されてもよい。また、新たな振動成分についてその情報が特定された場合、オペレータは入力部96を介して当該情報を振動リストLに追加していくことができる構成としてもよい。
【0065】
<2−2.機能構成>
描画装置1は、振動リストLに登録された既知の振動成分V1,V2のそれぞれを対象振動成分とし、各対象振動成分の振動状況を予測して当該予測された振動状況に基づいて処理位置(具体的には描画位置)を補正する。これを実現するための機能構成として、描画装置1は、位置変動情報取得部301と、位相情報特定部302と、振動予測部303と、描画位置補正部304とを備える。これら各部は、例えば、制御部90において、プログラムPに記述された手順に従って、主制御部としてのCPU91が演算処理を行うことにより実現される。
【0066】
<位置変動情報取得部301>
位置変動情報取得部301は、ステージ駆動機構20により移動されるステージ10の位置の変動を計測して、位置変動情報として取得する。この実施の形態においては、位置変動情報取得部301は、先行撮像部50が基板W上の描画予定領域を撮像することによって得られた撮像データを画像解析することによって、移動される際のステージ10の位置変動情報(具体的には、X方向の位置変動情報Dx、および、Y方向の位置変動情報Dy)を取得する。
【0067】
具体的には、位置変動情報取得部301は、まず、先行撮像部50に、移動されるステージ10の上面に載置された基板Wの描画予定領域を撮像させる。先行撮像部50が、副走査方向に沿う1ラインの画像を次々と読み取ることによって、基板W上の描画予定領域を撮像した二次元の画像データ(撮像データ)が得られることになる。ここで得られる撮像データには、描画予定領域に先に形成されている下層パターンが現れている。
【0068】
続いて、位置変動情報取得部301は、当該撮像データを画像解析することによって、ここに現れている下層パターンの形状を特定し、撮像形状として取得する。
【0069】
ここで、基板W上に形成されている下層パターンの理想形状(すなわち、基板W上において下層パターンの各位置が本来あるべき理想位置)は、パターンデータDとして描画装置1に保持されている。そこで、位置変動情報取得部301は、下層パターンの撮像形状が特定されると、続いて、パターンデータDを参照して、下層パターンの撮像形状における複数の位置(サンプル位置)のそれぞれについて、その理想位置からのずれ量を特定する。
【0070】
ここで、各サンプル位置の理想位置からのずれ量は、当該サンプル位置が撮像された時刻におけるステージ10の理想位置からの位置ずれ量と推定することができる。つまり、複数のサンプル位置の理想位置からのずれ量をそれぞれ特定することによって、撮像時間内の複数の時刻(サンプル時刻)のそれぞれについて、ステージ10の理想位置からの位置ずれ量を特定することができる。そこで、位置変動情報取得部301は、当該取得された各サンプル時刻におけるステージ10の位置ずれ量を、位置変動情報として取得する。具体的には、各サンプル時刻におけるステージ10のX方向についての位置ずれ量を、位置変動情報Dxとして取得するとともに、各サンプル時刻におけるステージ10のY方向についての位置ずれ量を、位置変動情報Dyとして取得する。図7には、取得された位置変動情報Dxの一例が示されている。ステージ10の位置ずれは、ステージ10の振動、斜行等に起因するものであり、この位置ずれ量を計測した位置変動情報Dx,Dyを解析すれば、撮像時間Tにおけるステージ10の振動状況を特定することができる。
【0071】
<位相情報特定部302>
位相情報特定部302は、位置変動情報Dx,Dyに基づいて、振動リストLに登録された既知の振動成分V1,V2それぞれの、撮像時間Tにおける位相の経時変化を表す位相情報を特定する。具体的には、X方向の位置変動情報Dxに基づいて、振動成分V1のX方向についての位相情報Px(V1)と、振動成分V2のX方向についての位相情報Px(V2)とを特定するとともに、Y方向の位置変動情報Dyに基づいて、振動成分V1のY方向についての位相情報Py(V1)と、振動成分V2のY方向についての位相情報Py(V2)とを特定する。
【0072】
例えば、振動成分V1のX方向についての位相情報Px(V1)を特定する場合、位相情報特定部302は、まず位置変動情報Dx(図7)の一部(具体的には、例えば、対象となる振動成分V1の周期のn倍(nは予め定められた自然数)の時間範囲内の位置変動情報Dx)を抽出し、必要な場合は、不要な変動成分(対象となる振動成分V1に由来しないことが明らかな変動成分)をフィルタ等を用いて除去した上で、当該抽出された位置変動情報Dxの変動状況を解析して、振動成分V1の位相情報Px(V1)を特定する。具体的には、例えば、複数のサンプル時刻のそれぞれにおける位置変動情報Dxの増減幅を特定し、この増減幅から各サンプル時刻における振動成分V1の位相を特定する。これによって、撮像時間Tにおける振動成分V1の位相の経時変化が特定され、位相情報Px(V1)が取得される。図8には、図7に示される位置変動情報Dxに基づいて取得された振動成分V1の位相情報Px(V1)が例示されている。
【0073】
<振動予測部303>
振動予測部303は、撮像時間Tにおける各振動成分V1,V2の位相情報Px(V1),Py(V1),Px(V2),Py(V2)に基づいて、各振動成分V1,V2のそれぞれに起因して生じる、ステージ10の未来(撮像終了時刻より未来の各時刻)の振動状況を予測する。具体的には、振動成分V1のX方向の位相情報Px(V1)に基づいて、振動成分V1のX方向についての未来の振動状況を予測して予測振動Qx(V1)として取得する。また、振動成分V1のY方向の位相情報Py(V1)に基づいて、振動成分V1のY方向についての未来の振動状況を予測して予測振動Qy(V1)として取得する。同様に、振動成分V2のX方向の位相情報Px(V2)に基づいて、振動成分V2のX方向についての未来の振動状況を予測して予測振動Qx(V2)として取得するとともに、振動成分V2のY方向の位相情報Py(V2)に基づいて、振動成分V2のY方向についての未来の振動状況を予測して予測振動Qy(V2)として取得する。
【0074】
例えば予測振動Qx(V1)を取得する場合、振動予測部303は、まず、振動成分V1の振動数およびX方向についての振幅を振動リストLから取得するとともに、振動成分V1のX方向についての位相情報Px(V1)を位相情報特定部302から取得する。これらの各情報から、撮像時間Tの期間における振動成分V1のX方向についての振動状況が特定される(図9の実線部分f1)。ここで、ステージ10は、一旦移動開始されると次に停止されるまで連続的な位相で振動を続ける。また、振動数および振幅も変化しないと推定できる。したがって、振動予測部303は、撮像時間Tにおける振動状況から、将来の任意の時刻における振動状況を予測し(図9の鎖線部分f2)、これを予測振動Qx(V1)として取得する。振動予測部303は、予測振動Qy(V1),Qx(V2),Qy(V2)についても、これと同様の態様で取得する。
【0075】
<描画位置補正部304>
描画位置補正部304は、振動成分V1,V2の影響を排除して基板W上の適切な位置に光が照射されるように描画位置を補正する。例えば、図7に示される位置変動情報Dxのようにステージ10が位置変動している場合、描画位置を補正しなければ、各時刻において、この位置変動分だけ目標位置(例えば、下層パターンの形成位置)からずれた位置に描画が行われてしまうことになる(図10の鎖線部分f3)。ここで、各時刻のX方向の描画位置を、予測振動Qx(V1)(図9の鎖線部分f2)が示すずれ量分だけ、振動成分V1の影響を低減できる方向にずらすように補正すれば、X方向について振動成分V1の影響を排除することができる(図10の実線部分f4)。さらに、各時刻のX方向の描画位置を、予測振動Qx(V2)が示すずれ量分だけ、振動成分V2の影響を低減できる方向にずらすように補正すれば、X方向について振動成分V2の影響も排除することができる(図10の実線部分f5)。
【0076】
そこで、描画位置補正部304は、振動成分V1,V2のそれぞれに起因して生じる、ステージ10の未来の振動状況(予測振動Qx(V1),Qy(V1),Qx(V2),Qy(V2)のそれぞれにて規定される振動状況)に基づいて、光学ユニット40によるパターンの描画位置を補正する。すなわち、振動成分V1のX方向の予測振動Qx(V1)と振動成分V2のX方向の予測振動Qx(V2)とに基づいて、X方向についての各時刻の描画位置を補正するとともに、振動成分V1のY方向の予測振動Qy(V1)と振動成分V2のY方向の予測振動Qy(V2)とに基づいて、Y方向についての各時刻の描画位置を補正する。以下において、描画位置補正部304が各方向の描画位置を補正する具体的な態様について説明する。
【0077】
<X方向>
描画位置補正部304は、X方向については、基板Wに照射される描画光を光学的に移動させることによって描画位置を補正する。具体的には、描画位置補正部304は、ウェッジプリズム移動機構462を制御して2個のウェッジプリズム461のZ軸方向に沿う離間距離を調整することによって、空間変調部44から出射される光の経路を、予測振動Qx(V1),Qx(V2)のそれぞれが予測するずれ量を足し合わせた値だけシフトさせて、X方向についての各時刻の描画位置を補正する。
【0078】
例えば、図11に示されるように、ある時刻t1において描画対象となる基板W上の目標位置がx1であるとする。ここで、この時刻t1において予測振動Qx(V1)が与えるずれ量の予測値が「a」であり(図9)、予測振動Qx(V2)の与えるずれ量の予測値が「b」であるとすると、描画位置補正部304は、時刻t1において描画位置を+X方向に「a+b」だけ移動させるように補正する。基板Wを載置したステージ10は、時刻t1において、振動成分V1,V2によって+X方向に幅「a+b」だけ位置ずれを起こしている。したがって、描画位置が+X方向に「a+b」だけ移動させるように補正されることによって、基板W上の目標位置x1に正しく描画光が照射されることになる。すなわち、振動成分V1の影響を排除して基板W上の適切な位置に描画光が照射されるように描画位置が補正されることになる。
【0079】
<Y方向>
描画位置補正部304は、Y方向については、基板Wに対する描画光の照射タイミングを調整することによって、Y方向についての描画位置を補正する。具体的には、描画位置補正部304は、予測振動Qy(V1),Qy(V2)のそれぞれが予測するずれ量を足し合わせた値に応じてパターンデータDの読み出しタイミングを遅らせる(あるいは、早める)ように描画制御部300に指示を与えることによって、Y方向についての各時刻の描画位置を補正する。
【0080】
例えば、図12に示されるように、ある時刻t1において描画対象となる基板W上の目標位置がy1と規定されていたとする。ここで、この時刻t1において予測振動Qy(V1)が与えるずれ量の予測値が「c」であり、予測振動Qy(V2)の与えるずれ量の予測値が「d」であるとする。つまりこの場合、時刻t1において光学ユニット40の真下にある基板W上のY位置は「y1」ではなく「y1−(c+d)」となる。この場合、描画位置補正部304は、時刻t1においては、描画制御部300に、パターンデータDの読み出しタイミングを「c+d」に応じた時間Δtだけずらして、パターンデータDから、当該時刻t1に読み出すはずであったデータ(位置「y1」のアドレスデータと対応付けられたデータd1)に代えて、時刻(t1+Δt)に読み出すはずであったデータ(位置「y1−(c+d)」のアドレスデータと対応付けられたデータd2)を読み出させる。描画制御部300が、当該読み出されたデータに基づいて空間光変調器441に光を空間変調させると、時刻t1には、位置「y1−(c+d)」に描画すべき変調光が光学ユニット40から基板Wに向けて照射されることになる。すなわち、振動成分V1の影響を排除して基板W上の適切な位置に描画光が照射されるように描画位置が補正されることになる。
【0081】
<3.基板Wに対する処理の流れ>
<3−1.全体の流れ>
描画装置1において実行される基板Wに対する一連の処理の全体の流れについて、図13を参照しながら説明する。図13は、当該処理の流れを示す図である。以下に説明する一連の動作は、制御部90の制御下で行われる。
【0082】
まず、搬送装置70が、カセット載置部104に載置されたカセットCから未処理基板Wを取り出して描画装置1に搬入する(ステップS1)。
【0083】
続いて、搬送装置70は搬入した基板Wをプリアライメント部80に搬入し、プリアライメント部80にて当該基板Wに対するプリアライメント処理が行われる(ステップS2)。プリアライメント処理は、上述したとおり、例えば、載置台に載置された基板Wの切り欠き部の位置をセンサで検出し、当該切り欠き部の位置が定められた位置となるように載置台を回転させることによって行われる。これによって、載置台に載置された基板Wが定められた回転位置におおまかに位置合わせされた状態におかれることになる。
【0084】
続いて、搬送装置70が、プリアライメント処理済みの基板Wをプリアライメント部80から搬出してこれをステージ10に載置する(ステップS3)。ステージ10は、その上面に基板Wが載置されると、これを吸着保持する。
【0085】
基板Wがステージ10に吸着保持された状態となると、続いて、当該基板Wが適正な回転位置にくるように精密に位置合わせする処理(ファインアライメント)が行われる(ステップS4)。具体的には、まず、ステージ駆動機構20が、ステージ10を受け渡し位置からアライメント撮像部60の下方位置まで移動させる。ステージ10がアライメント撮像部60の下方に配置されると、続いて、アライメント撮像部60が、基板W上のアライメントマークを撮像して、当該撮像データを取得する。続いて、制御部90が、アライメント撮像部60により取得された撮像データを画像解析してアライメントマークの位置を検出し、その検出位置に基づいて基板Wの適正位置からのずれ量を算出する。ずれ量が算出されると、ステージ駆動機構20が当該算出されたずれ量だけステージ10を移動させて、基板Wが適正位置にくるように位置合わせする。
【0086】
基板Wが位置合わせされると、続いて、パターンの描画処理が開始される(ステップS5)。描画処理においては、描画制御部300が、ステージ駆動機構20にステージ10を主走査方向(Y軸方向)に沿って往復させる動作(主走査)と、ステージ10を副走査方向(X軸方向)に沿って移動させる動作(副走査)とを繰り返して行わせる。その一方で、描画制御部300は、ステージ10がY軸に沿って−Y方向に沿って移動される間、各光学ユニット40に描画光(パターンデータDに応じた空間変調が形成された、副走査方向に沿うN画素分の光)を生成させて、これを基板Wに向けて断続的に照射させる。したがって、Y軸に沿う1回の往復動作が終了する度に、各光学ユニット40によって基板Wの表面に1ストライプ分の描画が行われることになる。ただし、上述したとおり、描画装置1は2個の光学ユニット40を備えており、Y軸に沿う1回の往復動作において、2つのストライプ領域に対する描画が並行して行われることになる。Y軸に沿う1回の往復動作が終了すると、ステージ駆動機構20は、ステージ10をX軸に沿って、1ストライプの幅に相当する距離だけ移動させる(副走査)。副走査が終了すると、再び主走査が行われるところ、ここでも各光学ユニット40によって基板Wに対して1ストライプ分の描画が行われ、これによって先に描画されている1ストライプ分の描画領域の隣に、さらに1ストライプ分の描画が行われる。主走査と副走査とが定められた回数だけ繰り返して行われることによって、基板Wの表面の全域にパターンが描画されることになる。
【0087】
基板Wの上面の全域にパターンが描画されると、搬送装置70が処理済みの基板Wを搬出する(ステップS6)。これによって、当該基板Wに対する一連の処理が終了する。
【0088】
<3−2.各ストライプの描画>
上述したとおり、描画処理(図13のステップS5)においては、各光学ユニット40によって、基板Wに対する描画が、1ストライプ分の領域単位で行われる。ここで、1ストライプ分の領域単位に行われる描画処理の流れについて、図14を参照しながらより詳細に説明する。図14は、当該処理の流れを示す図である。なお、上述したとおり、描画装置1は2個の光学ユニット40を備えており、描画処理においては、以下に説明する一連の処理が2個の光学ユニット40のそれぞれについて並行して行われる。
【0089】
ステージ駆動機構20がステージ10をY軸に沿って−Y方向に移動開始すると、描画対象とされるストライプ領域における−Y側の端部が先行撮像部50の下方に到達する(図2参照)(ステップS11でYES)。すると、ステージ10の振動状況を予測するための一連の処理(ステップS21〜ステップS23)が開始される。
【0090】
すなわち、描画対象とされるストライプ領域における−Y側の端部が先行撮像部50の下方に到達すると、位置変動情報取得部301が、各先行撮像部50に、当該描画対象とされるストライプ領域の撮像を開始させ、得られた撮像データを画像解析することによって、移動されるステージ10のX方向の位置変動情報Dx、および、Y方向の位置変動情報Dyをそれぞれ取得する(ステップS21)。位置変動情報取得部301が画像データに基づいて位置変動情報Dx,Dyを取得する態様は上述したとおりである。ただし、ここで先行撮像部50に撮像させる基板W上の領域は位置変動情報Dx,Dyを取得するのに必要最小限のものでよい。すなわち、ここで撮像すべき領域のサイズは、対象となる振動成分V1,V2の振動数、下層パターンの密度、各振動成分V1,V2の各位相を予測するために必要なサンプル位置の個数、必要なサンプル位置の密度等に応じて規定される。例えば、振動成分V1,V2がいずれも比較的高周波の振動成分である場合は、撮像すべき領域のサイズは比較的小さくてよい。また例えば、下層パターンの密度が比較的高い場合、取得できるサンプル位置の密度も比較的高くなるので、撮像すべき領域のサイズは比較的小さくてよい。
【0091】
続いて、位相情報特定部302が、ステップS21で取得された位置変動情報Dx,Dyに基づいて、振動リストLに登録された既知の振動成分V1,V2それぞれの位相情報を特定する(ステップS22)。すなわち、位置変動情報Dxに基づいて、各振動成分V1,V2のX方向の位相情報Px(V1),Px(V2)を特定するとともに、位置変動情報Dyに基づいて、各振動成分V1,V2のY方向の位相情報Py(V1),Py(V2)を特定する。位相情報特定部302が位相情報Px(V1),Px(V2),Py(V1),Py(V2)を取得する態様は上述したとおりである。
【0092】
続いて、振動予測部303が、ステップS22で特定された各振動成分V1,V2の位相情報Px(V1),Py(V1),Px(V2),Py(V2)に基づいて、各振動成分V1,V2のそれぞれに起因して生じる、ステージ10の未来の振動状況を予測して、予測振動Qx(V1),Qy(V1),Qx(V2),Qy(V2)として取得する(ステップS23)。振動予測部303が予測振動Qx(V1),Qy(V1),Qx(V2),Qy(V2)を取得する態様は上述したとおりである。
【0093】
一方、上記の一連の処理ステップS21〜ステップS23が行われる間もステージ10は停止されることなくY軸に沿って−Y方向に移動されており、ステップS11の状態から定められた時間が経過すると、描画対象とされるストライプ領域における−Y側の端部が光学ユニット40の下方に到達する(図2参照)(ステップS12でYES)。すると、上述したとおり、描画制御部300が、光学ユニット40から、基板Wに向けて描画光を照射開始させる。このとき、描画位置補正部304が、ステップS23で取得された予測振動Qx(V1),Qy(V1),Qx(V2),Qy(V2)に基づいて、光学ユニット40による描画位置を補正する(ステップS24)。すなわち、描画位置補正部304は、光路補正部46を制御して、空間変調部44から出射された光の経路を、予測振動Qx(V1),Qx(V2)のそれぞれが予測するずれ量を足し合わせた値だけシフトさせて、X方向についての描画位置を補正する。また、描画位置補正部304は、予測振動Qy(V1),Qy(V2)のそれぞれが予測するずれ量を足し合わせた値に応じてパターンデータDの読み出しタイミングを遅らせる(あるいは、早める)ように描画制御部300に指示を与えることによって、Y方向についての描画位置を補正する。これによって、移動されるステージ10に生じている振動(既知の振動成分V1,V2に起因する振動)の影響が排除されて、基板W上の適切な位置に描画光が照射されることになる。
【0094】
なお、ステージ10の振動状況を予測するための一連の処理(ステップS21〜ステップS23)は、描画対象とされるストライプ領域における−Y側の端部が光学ユニット40の下方に到達するタイミングまでに完了していることが好ましい。すなわち、ステップS11からステップS12までの時間内に完了していることが好ましい。この時間は、先行撮像部50と光学ユニット40との主走査方向に沿う離間距離と、ステージ10の主走査方向に沿う移動速度とに応じて規定されるものであり、これらのうちの少なくとも一方を調整することによって、ストライプ領域への描画光の照射が開始される前にステップS21〜ステップS23の一連の処理が完了するように調整することができる。
【0095】
<4.効果>
上記の実施の形態においては、移動されるステージ10の振動に含まれる既知の振動成分V1,V2を対象振動成分として、各振動成分V1,V2の位相情報Px(V1),Px(V2),Py(V1),Py(V2)を特定し、特定された位相情報Px(V1),Px(V2),Py(V1),Py(V2)に基づいてステージの振動状況を予測する。そして、当該予測された振動状況(予測振動Qx(V1),Qx(V2),Qy(V1),Qy(V2))に基づいて、処理位置(上記の実施の形態においては、描画位置)を補正する。この構成によると、移動されるステージ10の既知の振動成分V1,V2の影響が排除されて、基板W上の適切な位置に処理を施すことができる。したがって、ステージ10の振動に起因する処理精度の低下を適切に抑制できる。例えば、上記の実施の形態においては、下層パターンに高精度に位置あわせされた状態でパターンを形成することができる。すなわち、重ね合わせ精度の低下を適切に抑制できる。
【0096】
例えば、駆動機構の改良によってステージ10の振動自体をゼロにしようとすると、装置の高コスト化は避けられない上、振動を完全にゼロとすることはほぼ不可能である。上記の実施の形態においては、たとえステージ10が振動しても、その影響を適切に排除することができるので、振動を低減するために膨大なコストをかける必要がない。
【0097】
また、上記の実施の形態においては、基板W上の未処理領域を撮像して取得された撮像データを画像解析することによってステージ10の位置変動情報Dx,Dyを取得する。この構成によると、正確な位置変動情報Dx,Dyを簡単に取得することができる。
【0098】
<5.変形例>
上記の実施の形態においては、既知の振動成分V1,V2の振幅は振動リストLに予め格納される構成としたが、各振動成分V1,V2の振幅は、位置変動情報取得部301が取得した位置変動情報Dx,位置変動情報Dyに基づいて特定される構成としてもよい。
【0099】
また、位置変動情報取得部301が位置変動情報Dx,Dyを取得する態様は上述したものに限らない。例えば、ステージ10上に二次元エンコーダの計測スケール(スケールパターン)を配置し、例えば光学ユニット40の付近に配置した読み取り機(エンコーダヘッド)で当該計測スケールを読み取ることによって、位置変動情報Dx,Dyを取得する構成としてもよい。
【0100】
また、位相情報特定部302が各振動成分V1,V2の位相を特定する態様は上述したものに限らない。例えば、位置変動情報Dyをフーリエ変換して各振動成分V1,V2のY方向の位相を特定するとともに、位置変動情報Dxをフーリエ変換して各振動成分V1,V2のX方向の位相を特定してもよい。
【0101】
また、描画位置補正部304が描画位置を補正する態様は上述したものに限らない。例えば、光学ユニット40の位置を微小に移動させる駆動機構を設け、これを制御して光学ユニット40の位置を予測振動に応じて移動させることによって描画位置を補正してもよい。また例えば、パターンデータDを予測振動に応じて予め補正しておくことによって描画位置を補正してもよい。また、補正対象とされる振動成分が、ステージ10の移動速度の変更によって位相が変化しないものである場合、ステージ駆動機構20によるステージ10の移動速度を調整することによってY方向についての描画位置を補正することも可能である。
【0102】
また、上記の実施の形態においては、2個の光学ユニット40のそれぞれに対応する先行撮像部50を設ける構成としたが、一方の先行撮像部50を省略する構成としてもよい。この構成の場合、1個の先行撮像部50が取得した撮像データに基づいて取得された位置変動情報Dx,Dyから特定された予測振動Qx(V1),Qx(V2),Qy(V1),Qy(V2)を、2個の光学ユニット40のそれぞれの描画位置の補正に用いればよい。
【0103】
また、上記の実施の形態においては、ステージ10がY軸に沿って往復移動される間、−Y方向に沿って移動される間においてのみ基板Wに対して描画を行う構成としたが、往路と復路の両方において基板Wに対して描画を行う構成としてもよい。この構成においては、Y軸に沿う往路と復路との間にも副走査を行う。すなわち、まず、ステージ10をY軸に沿って例えば+Y方向に沿って移動させつつ、光学ユニット40から基板Wに向けて描画光を照射させ、続いて、ステージ10をX軸に沿って1ストライプの幅に相当する距離だけ移動させた後(副走査)、今度は、ステージ10をY軸に沿って−Y方向に沿って移動させつつ、光学ユニット40から基板Wに向けて描画光を照射させる。そして、副走査を行った後に、再びステージ10をY軸に沿って+Y方向に沿って移動させつつ、光学ユニット40から基板Wに向けて描光を照射させる、といった具合で描画処理を行えばよい。ただし、この態様を採用する場合、Y方向に沿って各光学ユニット40を挟んで両側の各位置に先行撮像部50を設ける必要がある。つまり、この場合は、一個の光学ユニット40に対して2個の先行撮像部50が対応付けられることになる。
【0104】
また、上記の実施の形態において、先行撮像部50に代えてTTL(Through The Lens)方式の撮像部(光学ユニット40が有する描画用の光学系の一部を用いて基板Wを撮像する方式の撮像部)を用いてもよい。
【0105】
また、上記の実施の形態において、先行撮像部50、アライメント撮像部60の各部は、さらに、対物レンズの位置を調整する駆動部と、基板Wの上面の高さ位置(Z軸方向に沿う位置)を検出する位置検出ユニットとから構成されるオートフォーカスユニットを備えてもよい。オートフォーカスユニットにオートフォーカスを行わせる場合、制御部90は、位置検出ユニットに基板Wの上面内の撮像予定位置の高さ位置を検出させ、取得された位置情報に基づいて駆動部を制御して、対物レンズが適切な位置におかれるように調整する。
【0106】
また、上記の実施の形態において、描画位置補正部304が描画位置を補正するために必要な時間(例えば、描画位置補正部304が、ウェッジプリズム移動機構462を制御して、2個のウェッジプリズム461のZ軸方向に沿う離間距離を調整するのに要する時間が対象となる既知の振動成分V1,V2の周期に対して比較的大きい場合、この時間(遅れ時間)を考慮して描画位置の補正タイミングを調整してもよい。
【0107】
また、上記の各実施形態では、空間光変調器441として変調単位である固定リボンと可動リボンとが一次元に配設された回折格子型の空間光変調器であるGLVが用いられていたが、このような形態には限られない。例えば、GLVに限らず、ミラーのような変調単位が、一次元に配列されている空間光変調器が利用される形態であってもよい。また、例えば、DMD(Digital Micromirror Device:デジタルマイクロミラーデバイス:テキサスインスツルメンツ社の登録商標)のような変調単位であるマイクロミラーが二次元的に配列された空間光変調器が利用されてもよい。
【0108】
また、上記の実施の形態においては、変調した描画光によって基板上の感光材料を走査することにより、当該感光材料に直接パターンを露光する描画装置に本願発明が適用された場合について説明したが、本願発明は、光源とフォトマスクを用いて当該感光材料を面状に露光する露光装置に適用することもできる。この場合、描画位置補正部304は、例えばフォトマスクを予測振動Qx(V1),Qx(V2),Qy(V1),Qy(V2)に応じて移動させることによって、描画位置を補正することができる。
【0109】
また、本願発明は、基板Wに光を照射してパターンを露光する処理以外の様々な処理を行う基板処理装置に適用することができる。例えば、対象となる基板を載置したステージを、塗布ヘッドに対して移動させつつ塗布ヘッドからステージ上の基板に対して塗布液を塗布する塗布処理装置、対象となる基板を載置したステージを、検査ヘッドに対して移動させつつ検査ヘッドからステージ上の基板を例えば撮像してその表面に形成されたパターン形状等を検査する検査理装置、等に適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 描画装置
10 ステージ
20 ステージ駆動機構
40 光学ユニット
50 先行撮像部
90 制御部
301 位置変動情報取得部
302 位相情報特定部
303 振動予測部
304 描画位置補正部
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平姿勢で保持するステージと、
前記ステージに保持された基板に対して定められた処理を行う処理部と、
前記ステージを前記処理部に対して相対移動させるステージ駆動部と、
前記ステージ駆動部により移動される前記ステージの位置の変動を計測して位置変動情報として取得する位置変動情報取得部と、
移動される前記ステージの振動に含まれる振動成分のうち振動数が既知である振動成分を対象振動成分とし、前記位置変動情報から前記対象振動成分の位相情報を特定する位相情報特定部と、
前記対象振動成分の位相情報に基づいて、前記ステージの位置の変動の計測を終了した後の前記ステージの振動状況を予測する振動予測部と、
前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて、前記処理部が前記基板に対して処理を行う際の処理位置を補正する処理位置補正部と、
を備える基板処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理装置であって、
前記ステージに保持された基板上の未処理領域を撮像する撮像部、
を備え、
前記位置変動情報取得部が、
前記撮像部が取得した前記未処理領域の撮像データを画像解析することによって、前記位置変動情報を取得する、基板処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板処理装置であって、
前記処理部が、
前記ステージに保持された基板に対して光を照射して、前記基板にパターンを描画する光照射部、
を備え、
前記処理位置補正部が、
前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて、前記光照射部による前記パターンの描画位置を補正する、
基板処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の基板処理装置であって、
平行でない光学面を備えるプリズムを前記光照射部から出射される光の経路上に2個並べて配置した光学系と、前記2個のプリズムの離間距離を変更することにより前記光照射部から出射される光の経路をシフトさせるプリズム移動部と、を備える光路補正部、
を備え、
前記処理位置補正部が、
前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて、前記光路補正部に前記光照射部から出射される光の経路をシフトさせて、前記描画位置を補正する、
基板処理装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の基板処理装置であって、
前記処理位置補正部が、
前記振動予測部により予測された振動状況に基づいて前記光照射部からの光の出射タイミングを調整することによって、前記描画位置を補正する、
基板処理装置。
【請求項6】
移動されるステージに保持された基板に対して、処理部から定められた処理を行う基板処理方法であって、
a)移動される前記ステージの位置の変動を計測して位置変動情報として取得する工程と、
b)移動される前記ステージの振動に含まれる振動成分のうち振動数が既知である振動成分を対象振動成分とし、前記a)工程で取得された前記位置変動情報から前記対象振動成分の位相情報を特定する工程と、
c)前記対象振動成分の位相情報に基づいて、前記ステージの位置の変動の計測を終了した後の前記ステージの振動状況を予測する工程と、
d)前記c)工程で予測された振動状況に基づいて、前記処理部が前記基板に対して処理を行う際の処理位置を補正する工程と、
を備える基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−69850(P2013−69850A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207155(P2011−207155)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】