説明

増圧シリンダ装置

【課題】第1シリンダと第2シリンダの連結部分でシリンダーチューブにひび割れを起こさず、且つ第1シリンダの増圧率を大きくすることが可能な増圧シリンダ装置を提供する。
【解決手段】本増圧シリンダ装置1は、第1シリンダ部2と第2シリンダ部3とを直列に連結した油圧式の増圧シリンダである。第1シリンダ部2に供給された油体に対し第2シリンダ部3の第2ピストンロッド32を圧入することにより第1シリンダ部2側の油体の圧力を高め第1ピストンロッド22の出力を増圧させる構成とする。そして、第1シリンダ部2と第2シリンダ部3のシリンダーチューブ10が一本化され、該シリンダーチューブ10内には第1ピストン21と第2ピストン31との間に第2ピストンロッド32を密に貫通する仕切壁11が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1シリンダと第2シリンダとを直列に接続した油圧式の増圧シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、この種の油圧式増圧シリンダ装置100は、プレス機の駆動源等に用いられ、その構成は、親シリンダ102の後部に子シリンダ103を接合ネジ105により連結して、親シリンダ102内の油体に対し子シリンダ103のピストンロッド132を圧入し、親シリンダ102のピストンロッド122の出力を増圧させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−330291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記増圧シリンダ装置100では、親シリンダ102(第1シリンダ)と子シリンダ103(第2シリンダ)を連結した接合ネジ105のネジ部付近からシリンダーチューブ112,113やフランジ部136等にひび割れB(図3参照)が生じて油漏れすることがあった。こうなると、もはや増圧出力を出すことができず、シリンダ装置100としての機能も失われる。
また、子シリンダ103は、ネジ接合用のフランジ136を設ける都合上、そのシリンダーチューブ113を親シリンダ102のシリンダーチューブ112よりも小径にする必要があった。そのため、子シリンダ103は、ピストン131の受圧面積が小さく、ピストンロッド132を細くせざるを得ず、それゆえ、親シリンダ102内の油体の圧力を大きく増圧するのが困難であり、また、増圧をした超高圧状態での親シリンダ102のピストンロッド122のストロークを大きくするのが困難であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、第1シリンダと第2シリンダの連結部分でシリンダーチューブにひび割れを起こさず、且つ第1シリンダの増圧率を大きくすることが可能な増圧シリンダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る増圧シリンダ装置は、
第1シリンダと第2シリンダとを直列に連結した油圧式の増圧シリンダ装置であって、
第1シリンダに供給された油体に対し第2シリンダの第2ピストンロッドを圧入することにより第1シリンダ側の油体の圧力を高め第1ピストンロッドの出力を増圧させる構成とし、
第1シリンダと第2シリンダのシリンダーチューブが一体化され、
該シリンダーチューブ内には第1ピストンと第2ピストンとの間に第2ピストンロッドを密に貫通する仕切壁が設けられている。
これにより、シリンダーチューブを一体化することで第1シリンダと第2シリンダとを連結する接合ネジを無くすことができ、シリンダーチューブの剛性を高くすることができる。従って、長期間使用しても、図3の増圧シリンダ装置のように接合ネジのネジ部付近からシリンダーチューブにひび割れが生じて油漏れを起こすといったことがない。
また、一体化したシリンダーチューブで第1シリンダと第2シリンダとを形成できるので、第2シリンダ側は、第2ピストンの受圧面積を大きくし第2ピストンロッドを太くすることができる。従って、第1シリンダ側の油体の増圧率を大きくすることができ、例えば、第1シリンダ内(第1ピストンのヘッド側)の油体の圧力を5〜10倍に増圧することができる。さらに、増圧をした超高圧状態での第1シリンダのピストンロッドのストロークを大きくすることができる。
【0007】
上記シリンダーチューブの内径は、第2シリンダ側が第1シリンダ側に対して同径又は大径に形成されているのが望ましい。
これにより、第2シリンダ側は、第2ピストンの受圧面積を一層大きくし第2ピストンロッドを太くすることができ、第1シリンダ側の油体の増圧率を大きくすることができる。しかも、第2ピストンの小さいストロークでもって第1ピストンのストロークを大きく動かすことができる。従って、第1ピストンロッドの最終伸長位置での増圧出力を一層強力にすることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明に係る増圧シリンダ装置によれば、第1シリンダと第2シリンダのシリンダーチューブを一体化して接合ネジを無くすことで長期間使用してもシリンダーチューブにひび割れを起こすことが無い。しかも、増圧をした超高圧状態での第1シリンダのピストンロッドのストロークを大きくすることができる。従って、長期にわたって安定した増圧出力を出し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態による増圧シリンダ装置及び油圧回路の構成を示す断面図である。
【図2】実施形態による増圧シリンダ装置の各ピストンが前進限位置へ移動した状態を示す断面図である。
【図3】前提技術の増圧シリンダ装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明による実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1、図2に示すように、実施形態による油圧式の増圧シリンダ装置1は、例えば、プレス機の駆動源として用いられるものであって、第1シリンダ部2と第2シリンダ部3とを直列に配設している。そして、この増圧シリンダ装置1は、第1シリンダ部2に供給された油体に対し第2シリンダ部3の第2ピストンロッド32を圧入して第1シリンダ部2の油体の圧力を高めて第1ピストン21に接続する第1ピストンロッド22の出力を増圧させる構成としている。
【0011】
増圧シリンダ装置1は、第1シリンダ部2と第2シリンダ部3のシリンダーチューブ10が一体化されている。すなわち、シリンダーチューブ10内は、このシリンダーチューブ10に一体形成された仕切壁11により区画され、区画された一方側が第1シリンダ部2の第1シリンダ室23を構成し、他方側が第2シリンダ部3の第2シリンダ室33を構成している。
【0012】
第1シリンダ室23内には、第1ピストン21がシール部材S1を介して摺動自在に配設されている。第1ピストン21には、外部出力軸となる第1ピストンロッド22が延設されている。また、第1ピストン21の背面には、凹所26が設けられている。第1ピストンロッド22は、第1シリンダ室23の開口端に嵌合された閉塞部材24の貫通孔25から外部へ突出されている。閉塞部材24は、シリンダーチューブ10との間がシール部材S2により密接され、また、第1ピストンロッド22は、閉塞部材24の貫通孔25に対してシール部材S3を介して摺動可能に密接されている。なお、第1ピストンロッド22の先端には、プレス機においてワークWを加工するための可動側の金型Kが連結されている。また、金型K側には、第1ピストンロッド22が所定ストロークまで伸びると金型Kに接触して位置検出するリミットスイッチLSが設けられている。なお、このような接触式のリミットスイッチに代えて、非接触式のセンサ等の位置検出手段を用いてもよい。
【0013】
第2シリンダ室33内には、第2ピストン31がシール部材S4を介して摺動自在に配設されている。第2ピストン31には、第2ピストンロッド32が延設されている。この第2ピストンロッド32は、仕切壁11の挿通孔12に挿通されて第1シリンダ部2におけるヘッド側の第1シリンダ室23内の油体に圧入される。第2ピストンロッド32は、仕切壁11の挿通孔12に対してシール部材S5を介して摺動可能に密接されている。第2シリンダ室33の開口端には、蓋部材34が取り付けられている。
【0014】
シリンダーチューブ10には、第1シリンダ部2側においては第1ピストン21のヘッド側のポートP1とロッド側のポートP2とが設けられ、第2シリンダ部3側においては第2ピストン31のヘッド側のポートP3とロッド側のポートP4とが設けられている。そして、この増圧シリンダ装置1の油圧回路において、第1シリンダ部2のポートP1,P2及び第2シリンダ部3のポートP4が方向制御弁6を介してモータや油圧ポンプ等を備えた油圧源4に接続され、また、第2シリンダ部3のポートP3が方向制御弁5を介して油圧源4に接続されている。第1シリンダ部2のロッド側のポートP2と、第2シリンダ部3のロッド側のポートP4とは、方向制御弁6に延設された同じ管路から分岐して接続されている。従って、ポートP2,P4には、同時に油体が供給されて第1ピストン21と第2ピストン31とが同じタイミングで後退移動される。各方向制御弁5,6は、第1シリンダ室23及び第2シリンダ室33から排出される作動油を回収するタンクTとも接続されている。また、方向制御弁6と第1シリンダ部2のヘッド側のポートP1とを接続する管路には、パイロットチェック弁7、圧力メータ8、圧力スイッチ9が設けられており、また、油圧源4から各方向制御弁5,6へ延設される主管路には、チェック弁41及び圧力メータ42が設けられている。
【0015】
次に、増圧シリンダ装置1の動作を説明する。
油圧源4を駆動して、増圧シリンダ装置1を伸長させる際は、まず、方向制御弁6のポートP1を接続する側を開弁して、第1シリンダ室23のヘッド側に油体を供給する。すると、第1シリンダ部2の第1ピストン21が前進移動し第1ピストンロッド22が伸長して金型KがワークWに接する付近でリミットスイッチLSがオンされる。そして、リミットスイッチLSがオンすることにより、方向制御弁5を開弁してポートP3より第2シリンダ室33のヘッド側に油体を供給する。すると、第2シリンダ部3の第2ピストン21が前進移動し第2ピストンロッド32が第1シリンダ室23内のヘッド側に圧入される(図2の状態)。これにより、第1シリンダ室23内のヘッド側の油体の圧力が増圧され、第1ピストンロッド22が更に伸長し、また同時に、第1ピストンロッド22の最終伸長位置での増圧出力が強力になる。なお、ポートP1と接続する管路にはパイロットチェック弁7が設けられているので、第2ピストンロッド32が第1シリンダ室23内に圧入されても第1シリンダ室23内から油体が流出されることはない。
【0016】
次いで、第1シリンダ室23内のヘッド側の油圧が設定圧力値に達して圧力スイッチ9がオンすると、方向制御弁6(ポートP1の接続側)及び方向制御弁5のそれぞれの弁方向を切り替えるとともに、方向制御弁6のポートP2,P4を接続する側を開弁して、第1シリンダ室23のロッド側及び第2シリンダ室33のロッド側に油体を同時に供給する。すると、パイロットチェック弁7にパイロット圧が作用してチェック状態を解除し、第1シリンダ部2の第1ピストン21及び第2シリンダ部3の第2ピストン31が後退移動して第1ピストンロッド22が縮小し、また、第2ピストンロッド32が第1シリンダ室23から脱出する(図1の状態)。
以上の動作を繰り返すことで増圧シリンダ装置1の伸縮動作が行われる。
【0017】
以上のように、本実施形態による増圧シリンダ装置1によれば、第1シリンダ部2と第2シリンダ部3のシリンダーチューブ10を一体化するので、図3に示す増圧シリンダ装置100のような第1シリンダ102と第2シリンダ103を連結する接合ネジ105を無くすことができ、シリンダーチューブ10の剛性を高くすることができる。従って、長期間使用しても、図3の増圧シリンダ装置100のように第1シリンダ102と第2シリンダ103の接合ネジ105のネジ部付近からシリンダーチューブ112にひび割れBを起こして油漏れを起こすといった不具合が生じない。すなわち、実施形態の増圧シリンダ装置1で言えば、第1シリンダ部2において第2ピストンロッド32の圧入で増圧されるシリンダーチューブ10の構成壁部分、言い換えれば、第1シリンダ部2のヘッド側(仕切壁11付近)のシリンダーチューブ10の構成壁部分にひび割れ、亀裂等が生じることはない。従って、この増圧シリンダ装置1によれば、長期にわたって安定した増圧出力を出し続けることができる。
【0018】
また、第1シリンダ部2と第2シリンダ部3のシリンダーチューブ10を一体化することで、第2シリンダ部3側のシリンダーチューブ内径を第1シリンダ部2側に対して同径か(図1、図2)又は大径に形成することができる。これにより、第2シリンダ部3側は、第2ピストン31の受圧面積を大きくし第2ピストンロッド32の外径を太くすることができる。従って、第1シリンダ部2側への油体の増圧率を大きくすることができ、例えば、第1シリンダ部2内(第1ピストン21のヘッド側)の油体の圧力を5〜10倍に増圧することができる。しかも、第2ピストン31の小さいストロークでもって第1ピストン21のストロークを大きく動かすことができ、増圧をした超高圧状態での第1シリンダ部2の第1ピストンロッド22のストロークを大きくすることができる。従って、第1ピストンロッド22の最終伸長位置での増圧出力を一層強力にすることができる。また、第2シリンダ部3を短くコンパクトに形成することができる。
【0019】
なお、上記第1ピストン21は、背面に凹所26を設けるが、上述のとおり第2シリンダ3側の増圧率を大きくできるから、第1ピストン21には凹所26を設けることなく平坦に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 増圧シリンダ装置
2 第1シリンダ部
3 第2シリンダ部
10 シリンダーチューブ
11 仕切壁
12 挿通孔
21 第1ピストン
22 第1ピストンロッド
26 凹所
31 第2ピストン
32 第2ピストンロッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シリンダと第2シリンダとを直列に連結した油圧式の増圧シリンダ装置であって、
第1シリンダに供給された油体に対し第2シリンダの第2ピストンロッドを圧入することにより第1シリンダ側の油体の圧力を高め第1ピストンロッドの出力を増圧させる構成とし、
第1シリンダと第2シリンダのシリンダーチューブが一体化され、
該シリンダーチューブ内には第1ピストンと第2ピストンとの間に第2ピストンロッドを密に貫通する仕切壁が設けられている増圧シリンダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の増圧シリンダ装置において、
上記シリンダーチューブの内径は、第2シリンダ側が第1シリンダ側に対して同径又は大径に形成されている増圧シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−137106(P2012−137106A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287734(P2010−287734)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】