説明

増感手段の発現の有無を記録原理とする光記録方法及び再生方法

【課題】低エネルギーの記録光により記録を行った場合でも、2光子吸収を利用して媒体からの蛍光の有無を検出することで、高密度な再生を行うことができる光記録媒体の記録方法を提供すること。
【解決手段】多光子吸収材料と、異方性を持つプラズモン増強場により、前記多光子吸収材料の多光子吸収過程を増強する増感効果を有する微粒子とを含む光記録媒体に情報を記録する光記録媒体の記録方法であって、前記微粒子のうちの一部を変形させて当該微粒子の増感効果を失活させる失活工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の記録方法、光記録媒体の再生方法、及び光記録媒体、並びに3次元光記録媒体に関するものであり、特に、増感手段の発現の有無を記録原理とする光記録方法及び再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小開口型の超解像技術に対し、記録層を構成する記録材料そのものに非線形な光学特性を有する材料を用いることで、読み出しスポット径よりも小さなスポット径を用いている場合と同等の効果を得ようとする技術がある。このような技術の一例として、2光子吸収過程(1光子吸収過程の半分のエネルギーを持った光子2個を同時に吸収することで1光子吸収過程と同じ効果が生じる現象)を用いた記録技術がある。2光子吸収過程の起こる確率は、光の強度の2乗に比例する(2乗効果)。即ち、光軸中心付近の高光強度部のみで2光子吸収が起こるため、実質的により小さなスポット径の光を当てたのと同等の効果が得られる。先に述べたように、2光子吸収過程の起こる確率は光強度の2乗に比例するため、集光スポット近傍のみで吸収が起こる確率が高い。そのため、1光子過程を用いた記録再生技術に比較して平面方向だけではなく深さ方向にも高い分解能を持っている。つまり、集光スポット以外の記録層の吸収は小さく、深さ方向に記録層を積層する場合においても所望の記録層のみで2光子吸収反応を起こすことが可能である。これを書き込み手段として用いた2光子記録技術が開示されている(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
この2光子記録技術を用いて、数十層を超える記録層を有する光記録媒体(三次元光記録媒体)の開発が試みられている。
具体的には、2光子吸収材料の2光子吸収を利用して記録(書込み)を行った後、記録箇所の屈折率変化による反射率変化を検出することにより再生(読出し)を行う記録再生方法が提案されている。この方法は、フォトクロミック材料(光を吸収することにより吸収スペクトルが変化する材料)を記録層に用いることにより、CDやDVDと同様に反射率の変化を検出するものである。しかし、この場合、記録時は2光子でも、再生時は1光子(線形)過程であるため、スポットサイズ以下の解像を得ることができない。さらに、数十層を超える多層化をした場合には、一層あたりの反射率が1%前後となり、読出しのS/N比を確保することが困難となる。
そこで、再生においても、2光子吸収を利用する方法、すなわち媒体からの蛍光の有無を検出する方法が考えられている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−348377号公報
【特許文献2】特開2006−330683号公報
【非特許文献1】A.Toriumi et.al., Opt.Lett.23,1924(1998)
【非特許文献2】M.S.Akselrod et.ai.,MC4,International Symposium on Optical Memory and Optical Data Storage 2005
【非特許文献3】R.H.Hamer et.al.,MC1, International Symposium on Optical Memory and Optical Data Storage 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献2に記載の2光子吸収に係る技術では、媒体からの蛍光の有無を検出して再生するためには、記録時に、部分的に高エネルギーの光を照射して、照射箇所の2光子吸収材料を熱破壊する必要がある。このため、記録光のエネルギーを高くしなければならず、フェムト秒パルスレーザーのような大規模なレーザー光源の使用を余儀なくされていた。
【0006】
そこで本発明は、半導体レーザーのような低エネルギーの記録光により記録を行った場合でも、2光子吸収を利用して媒体からの蛍光の有無を検出することで、高密度な再生を行うことができる光記録媒体の記録方法および再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る光記録媒体の記録方法、光記録媒体の再生方法、及び光記録媒体、並びに3次元光記録媒体は、具体的には下記(1)〜(11)に記載の技術的特徴を有する。
【0008】
(1):多光子吸収材料と、異方性を持つプラズモン増強場により、前記多光子吸収材料の多光子吸収過程を増強する増感効果を有する微粒子とを含む光記録媒体に情報を記録する光記録媒体の記録方法であって、前記微粒子のうちの一部を変形させて当該微粒子の増感効果を失活させる失活工程を備えることを特徴とする光記録媒体の記録方法である。
【0009】
ここで、前記異方性を持つ微粒子の変形はいかなる方法を用いても良いが、記録ピットに相当する領域中の前記微粒子のみを選択的に変形させる必要があるため、記録用光源の吸収による熱変形が最も好ましい。前記微粒子は、記録光の波長よりも小さな微粒子であるので、そもそも表面エネルギーが大きく、小さな熱エネルギーで容易に変形が起こる。変形後は、最も安定な球形に近づく。即ち、アスペクト比が小さくなり、プラズモン増強場による増強効果は小さくなる。前記微粒子の熱変形を起こす閾値エネルギーをコントロールするために、微粒子表面にSiO2等被覆を設けてもよい。また、形状異方性を持つ部位とプラズモン増強の効果を持つ部位の、複数の部位よりなる複合粒子、例えば、形状異方性を持つ微粒子の表面を、プラズモン増強場を発生させる金属で少なくとも一部を被覆したものでも良い。
【0010】
上記(1)に記載の構成によれば、光プローブのもたらす情報は、1光子吸収過程を利用した場合、光プローブが通過する全領域の情報の重ね合わせであるのに対し、多光子吸収の場合は、例えば、2光子吸収の場合には光強度の2乗に比例する吸収過程であるので、光プローブの集光点のみの情報をもたらす。即ち、光プローブの集光点のみの増強効果の活性度が情報としていられる。より高次の多光子吸収過程を用いることで、さらにピンポイントの活性度を得ることが可能となり、高分解能の再生が可能となる。
【0011】
(2):上記(1)に記載の光記録媒体の記録方法において、前記失活工程は、パルス光を照射して前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする
【0012】
記録時には、微粒子を変形するための光と同一光でトラッキングサーボ・フォーカスサーボを行うためには、記録しない部分にもサーボ用の光を照射する必要がある。ここで、記録光として連続光を照射すると、連続光は平均パワーが比較的高いため、記録しない部分にも、サーボのために照射した連続光により微粒子が熱変形するおそれがある。これに対し、上記(2)に記載の構成によれば、記録光をパルス光とすることで、連続光に比べ、微粒子に作用する平均パワーを低くすることが可能となるため、記録しない部分の微粒子を誤って変形させることがない。
【0013】
(3):上記(2)に記載の光記録媒体の記録方法において、前記失活工程は、前記パルス光の強度を変化させることにより前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法である。
【0014】
上記(3)に記載の構成によれば、従来の光ディスクの記録変調方式の延長型であるため実装が容易となる。
【0015】
(4):上記(2)に記載の光記録媒体の記録方法において、前記失活工程は、前記パルス光のパルス幅を変化させることにより前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法である。
【0016】
多光子吸収過程を励起するためには、大きな光パワー密度が必要であるが、CW光でこのようなパワーを導入すれば、吸収した光が熱に変わる緩和過程で、容易に異方性微粒子の変形が起こってしまい必要とする光パワー密度を投入することは困難である。そのために、上記(4)に記載の構成によれば、パルス光とし平均パワーは低くとも、ピークパワーの高い光とすることで多光子励起時には、大きなピークパワーが作用し、異方性粒子には低い平均パワーが作用するという状況を作ることが出来る。このような状況では、再生耐性を確保することも容易である。逆に、光プローブのスキャンのスピードから見ると、CW光とみなせる程度にパルス幅を長くすることで、平均パワーは同じでも異方性微粒子の変形を起こすことが可能となる。即ち、パルス幅の変調により、書き込みの制御が可能となった。
【0017】
(5):上記(2)に記載の光記録媒体の記録方法において、前記失活工程は、前記パルス光の強度及びパルス幅を変化させることにより前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法である。
【0018】
上記(5)に記載の構成によれば、書き込みに必要なパルス幅が短くなり、より高速な書き込みに対応可能となる。
【0019】
(6):上記(1)〜(5)のいずれか1に記載の光記録媒体の記録方法において、前記微粒子が、金ナノロッドであることを特徴とする光記録媒体の記録方法である。
【0020】
上記(6)の構成によれば、金ナノロッドは、アスペクト比の揃ったそれ自身がプラズモン増強効果を持つ異方性金属微粒子であり、また、大量生産が可能な溶液成長方法が見出されており、化学的安定性と量産コストに優れている。
【0021】
(7):上記(1)〜(6)のいずれか1に記載の光記録媒体の記録方法により記録された光記録媒体に再生光を照射して再生する光記録媒体の再生方法であって、再生光を照射して、未失活の前記微粒子の増感効果により多光子吸収した前記多光子吸収材料から蛍光を生じさせることで、蛍光の強弱を検出し、再生を行う検出再生工程を備えることを特徴とする光記録媒体の再生方法である。
【0022】
(8):上記(7)に記載の光記録媒体の再生方法において、前記検出再生工程は、当該未失活の微粒子が有する増感効果により多光子吸収させた多光子吸収材料からの蛍光のみを検出して再生することを特徴とする光記録媒体の再生方法である。
【0023】
上記(7)〜(8)に記載の構成によれば、記録後の部位は、熱変形等により増強場を発生させる微粒子が変形(球状化)した部分とそのままのアスペクト比を保った部分が混在した状況にある。アスペクト比がそのままの部位は、大きな増強効果を持つ近接場領域を持つが、球状の部位の増強効果は桁違いに小さい。よって、外部から光プローブにより増強効果の有無、若しくは大小を観測することにより、熱変形を受けた部位かそのままのアスペクト比の部位かを知ることができ、記録された情報の再生が可能となる。光プローブにより観測する現象は、特に制限はないが、蛍光検出等の可逆的な現象(光の吸収と蛍光としての緩和という意味で)であることが再生耐性の確保から望ましい。そして、蛍光は励起光より長波長であるため、フィルターにより容易に散乱や他の層の界面反射による迷光を取り除くことができる。さらに、蛍光のみを検出することにより、信号光のみを良好なS/Nで検出することができる。
【0024】
(9):上記(7)または(8)に記載の光記録媒体の再生方法において、前記再生光は、パルス光であることを特徴とする光記録媒体の再生方法である。
【0025】
上記(9)に記載の構成によれば、再生時には、再生光をパルス光とすることで、多光子吸収材料に作用するピークパワーが高くなるため、多光子吸収の効率を高めることができる。また、記録時と同様に、再生光により微粒子を誤って変形させることがない。
【0026】
(10):上記(1)〜(6)のいずれか1に記載の光記録媒体の記録方法を用いて記録可能な光記録媒体である。
【0027】
上記(10)に記載の方法を用いて記録を行えば、面方向および深さ方向の双方において超解像効果が発揮され、高密度な情報の記録・再生が可能となる。
【0028】
(11):上記(10)に記載された光記録媒体において、前記多光子吸収材料および前記微粒子を含む記録層を、多数積層した光記録媒体である。
【0029】
上記(11)に記載の構成によれば、3次元化することにより、超解像効果に加え、深さ方向に記録層が多重化された分大容量化が可能なさらに高密度な情報の記録・再生が可能となる。ここで述べる深さ方向の多重化は、中間層により物理的に分離された記録層の重ね合わせのみならず、(均一な)バルク型メディアにおいても、光学的に各層を分離再生可能であれば良いことはいうまでもない。
【発明の効果】
【0030】
本発明の光記録媒体の記録方法、光記録媒体の再生方法、及び光記録媒体、並びに3次元光記録媒体によれば、低エネルギーの記録光により記録を行った場合でも、2光子吸収を利用して媒体からの蛍光の有無を検出することで、高密度な再生を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の増感手段の発現の有無を記録原理とする光記録媒体の記録方法及び再生方法に関して以下に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は本発明の好適な実施の形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限りこれらの態様に限られるものではない。
【0032】
(本発明の記録材料の構成例)
本発明を構成する記録材料は、金ナノロッドをプラズモン増強場の発生源として含有している。
金ナノロッドそのものは、光還元法、電解還元法などが採用可能であり、プラズモン増強場の発生源として動作可能な形態が得られれば特に制限はない。
また、2光子吸収により発現させる現象も、蛍光に限らず様々なものが利用可能であることはいうまでもない。
【0033】
2光子吸収材料としての実装方法は、例えば特開2006-330683に開示された方法が利用可能である。即ち、本発明の記録層を構成する多光子吸収機能材料は、多光子吸収色素等よりなる多光子吸収材料と、表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部を被覆された微粒子の分散体よりなるものとする。また、金ナノロッドにSiO2等の無機保護膜を設けることにより、再生耐性を向上することが可能となる。また、前記無機保護膜の膜厚を必要最小限とすることにより、記録時の金ナノロッドの変形によるプラズモン増強場の失活の閾値が下がり、高感度化との両立も可能となる。
【0034】
金ナノロッドの変形によるプラズモン増強場の失活とは、記録光の照射により微粒子が変形(球状化)した部分を形成することである。これに対して、金ナノロッドの変形によるプラズモン増強場の未失活とは、微粒子が記録光照射前と同程度のアスペクト比を保った部分とする(変化を生じさせない)ことである。失活工程において、記録光の照射により選択的に微粒子を変形させることで、失活した微粒子と未失活の微粒子とを混在させることができる。ここで、微粒子は、記録・再生光の波長よりも小さなものであり、表面エネルギーが大きく、小さな熱エネルギーで容易に変形が起こるものである。変形後は、最も安定な球形に近づく、つまりアスペクト比が小さくなり、プラズモン増強場による増感効果は桁違いに小さくなる。
【0035】
従って、低エネルギーの記録光の照射により、微粒子がそのままのアスペクト比を保ち増強効果が大きい部分と、微粒子が変形し増強効果が小さくなった部分とを混在させることができる。その結果、再生光を照射した際に、微粒子がそのままのアスペクト比を保った部分は、その大きい増強効果により、強い蛍光が検出されるが、微粒子が変形した部分は、その小さい増強効果のため、弱い蛍光しか検出されなくなる(あるいは、蛍光が全く検出されない)。そのため、蛍光の強弱(有無)を検出することで、微粒子がそのままのアスペクト比を保った部分か、微粒子が変形した部分かを知ることができ、記録された情報の再生が可能となる。
【0036】
(本発明の多層記録媒体および記録再生システムの構成例)
本発明の多(二)光子吸収機能材料を用いた光記録媒体は、多(二)光子吸収機能材料を、スピンコーター、ロールコーター、又はバーコーター等を用いて、所定の基板(基材)上に直接塗布したり、あるいはフィルムとしてキャストしたりすることによって基本的な構成を形成できるものである。
【0037】
上記基板(基材)は、任意の天然、又は合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シート、又は板形態のものをいずれも適用できる。
具体的な材料としては、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、火炎又は静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等が挙げられる。
【0038】
また、最終的に目的とする記録媒体の態様に応じて、予め所定のトラッキング用の案内溝やアドレス情報を形成してもよい。
なお、塗布法による場合、使用した溶媒は、乾燥時に蒸発除去するものとする。溶媒の蒸発除去は、加熱法、減圧法のいずれによって行ってもよい。
【0039】
更に、上述したように塗布法やキャスト法によって形成した多(二)光子吸収光記録材料の上に、酸素遮断や層間クロストーク防止のための所定の保護層(中間層)を形成してもよい。
【0040】
保護層(中間層)は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、またはセロファンフィルム等のプラスチック製のフィルム、または板を静電的な密着、押し出し機を使った積層等により貼合わせるか、前記ポリマーの溶液を塗布することによって形成することができる。また、ガラス板を貼り合わせることによって形成することもできる。
更に、層間の気密性を高めるために粘着剤または液状物質を存在させてもよい。
また更に、最終的に目的とする記録媒体の態様に応じて、上記保護層(中間層)にも、予め、所定のトラッキング用の案内溝やアドレス情報を付加してもよい。
【0041】
上述した三次元多層構造で多光子吸収機能材料を用いた記録媒体の、任意の層に焦点を合わせて記録及び/又は再生を行う。
また本発明の光記録媒体によれば、層間を保護層(中間層)で区切っていない構成としても、多(二)光子吸収機能材料の特性から深さ方向の三次元記録を行うことも可能である。
【0042】
次に、本発明の多光子吸収機能材料を用いた三次元記録媒体の具体的な例として、三次元多層光メモリの好ましい実施形態について説明する。
なお、本発明は下記の実施形態により何ら限定されるものではなく、三次元記録(平面及び膜厚方向に記録)が可能な構造であれば、他の構造であってもよい。
【0043】
本発明に係る三次元光記録媒体の概略断面図の一例を図1に示す。
図1に示す三次元光記録媒体10においては、平らな支持体(基板11a)に、多(二)光子吸収化合物および金ナノロッドを用いた例えば50層(図示では5層)の記録層13aと、クロストーク防止用の例えば49層(図示では4層)の中間層(保護層)14aとが、交互に積層されてなり、さらにこの上に後述する基板12aまたは反射層12a’が積層された構成を有しており、各層はスピンコート法により成膜されているものとする。
尚、本発明に係る三次元光記録媒体は上記した基板11a及び基板12a(反射層12a’)と、記録層13aとが接するような構成に限られるものではない。即ち、基板11a及び/または基板12a(反射層12a’)と記録層13aとの間に、中間層14aが介在する構成であっても良い。
【0044】
記録層13aの膜厚は、それぞれ0.01〜0.5μmとし、中間層14aの膜厚は、それぞれ0.5μm〜5μmが好適である。
上述したような構造によれば、従来公知のCD、DVDと同様のディスクサイズで、テラバイト級の超高密度光記録が実現できる。
【0045】
更に、データの再生方法(透過/或いは反射型)に従い、記録層13aを介在させた反対側に、基板11aと同様の基板12a(保護層)か、高反射率材料からなる反射層12a’が形成されているものとする。
【0046】
記録層13a中における記録ビット16aの形成時には、単一ビーム(図中、レーザー光15a)を用い、フェムト秒オーダーの超短パルス光を利用する。
また再生時には、データ記録に使用するビームとは異なる波長、或いは低出力の同波長の光を用いてもよい。
記録及び再生は、ビット単位/ページ単位のいずれにおいても実行可能であり、面光源や二次元検出器等を利用する並行記録/再生は、転送レートの高速化に有効である。
【0047】
なお、本発明に従い同様に形成される三次元多層光メモリの形態としては、カード状、プレート状、テープ状、ドラム状等が考えられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、各実施例は、本発明の構成の1例であり、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕
0.18mol/l臭化セチルトリメチルアンモニウム水溶液を70ml、シクロヘキサン0.36ml、アセトン1ml、0.1mol/l硝酸銀水溶液を1.3ml混合して撹拌する。これに0.24mol/l塩化金酸水溶液を0.3ml加えた後、0.1mol/lアスコルビン酸水溶液を0.3ml加えて塩化金酸溶液の色が消失したことを確認する。その後、この液をシャーレに移して低圧水銀灯による波長254nmの紫外線を20分照射することで、吸収波長に約830nmにある金ナノロッド分散液が得られた。この分散液を遠心分離器を用いて金ナノロッド成分を沈降させる。この上澄み液を除いて、さらに水を加えて遠心分離器にかけるという工程を複数回繰り返して、余剰の分散剤臭化セチルトリメチルアンモニウムを除いた。この金ナノロッド分散液1gを1重量%ポリエチレンイミン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに5重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR−75(三菱レーヨン製)のDMF溶液2gを混合する。さらに、下記化学式1に示す2光子蛍光色素0.7mgを加え攪拌した。これを減圧することで数mlまで濃縮した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、金ナノロッド・2光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が厚さ50μmで完成した。
【0050】
【化1】

【0051】
〔実施例2〕
実施例1で得られた金ナノロッド分散液5mlに、(3−アミノプロピル)エチルジエトキシシランのアセトン溶液1vol%,10mlを加え、80℃で2時間加熱処理し、金ナノロッド表面にSiO2皮膜を作成した。この工程により、SiO2皮膜つきの金ナノロッドが完成した。さらに、シクロヘキサン5mlを加え、攪拌することにより皮膜付金ナノロッドのシクロヘキサン分散液が完成した。油性溶媒の選択については適宜選択可能であることは言うまでもなく、また、微粒子の分散方法も、チオール基を持つ物を含め、さまざまな界面活性剤を、油性溶媒の種類、分散特性を考慮し採用可能である。この分散液を遠心分離器を用いてSiO2被覆した金ナノロッド成分を沈降させる。この上澄み液を除いて得られた分散液1gを1重量%ポリエチレンイミン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに5重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR−75(三菱レーヨン製)のDMF溶液2gを混合する。さらに、上記化学式1に示す2光子蛍光色素0.7mgを加え攪拌した。これを減圧することで数mlまで濃縮した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、SiO2被覆した金ナノロッド・2光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が厚さ50μmで完成した。
【0052】
〔実施例3〕
実施例1で得られた金ナノロッド分散液1gを1重量%ポリエチレンイミンン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに5重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR−75(三菱レーヨン製)のDMF溶液2gを混合する。さらに、上記化学式1に示す2光子蛍光色素0.7mgを加え攪拌した。これを減圧することで数mlまで濃縮した。これを減圧することで数mlまで濃縮した。この混合溶液を、ガラス基板上に膜厚が0.5μmとなるようスピンコートにより膜を形成した。このうえに5重量%PVA水溶液を膜厚5μmとなるようスピンコートした。その後、PVA水溶液のスピンコート膜(膜厚5μm)と前記金ナノロッド2光子蛍光色素混合溶液を交互にスピンコートして、5層の金ナノロッド・2光子蛍光色素分散アクリル樹脂層とPVA層を交互に積層した積層構造が完成した。
【0053】
〔実施例4〕
実施例1で得られた金ナノロッド分散液5mlに、(3−アミノプロピル)エチルジエトキシシランのアセトン溶液1vol%,10mlを加え、80℃で2時間加熱処理し、金ナノロッド表面にSiO2皮膜を作成した。この工程により、SiO2皮膜つきの金ナノロッドが完成した。さらに、シクロヘキサン5mlを加え、攪拌することにより皮膜付金ナノロッドのシクロヘキサン分散液が完成した。油性溶媒の選択に付いては適宜選択可能であることは言うまでもなく、また、微粒子の分散方法も、チオール基をもつ物を含め、さまざまな界面活性剤を、油性溶媒の種類、分散特性を考慮し採用可能である。更に、得られたシクロヘキサン分散液5mlに、硝酸銀のアセトン溶液0.01mol/lを0.05ml加え、更にアスコルビン酸のアセトン溶液0.01mol/lを攪拌しながら0.005mlずつ、10回に分けて総量として0.05mlを加え、化学還元により還元した。還元により生じた金属銀は、溶液中に分散した微粒子表面をSiO2皮膜上から被覆した。硝酸銀の添加量により目標とする膜厚の設定が可能となる。以上の工程により、金ナノロッドをコアとする複合ナノ粒子分散液が完成した。この分散液を遠心分離器を用いて金ナノロッドをコアとする複合ナノ粒子成分を沈降させる。この上澄み液を除いて得られた分散液1gを1重量%ポリエチレンイミン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに5重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR−75(三菱レーヨン製)のDMF溶液2gを混合する。さらに、上記化学式1に示す2光子蛍光色素0.7mgを加え攪拌した。これを減圧することで数mlまで濃縮した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、金ナノロッドをコアとする複合ナノ粒子・2光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が厚さ50μmで完成した。
【0054】
〔比較例1〕
5重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR−75(三菱レーヨン製)のDMF溶液2gを作成する。上記化学式1に示す2光子蛍光色素0.7mgを加え攪拌した。色素の溶解後、この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、2光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が厚さ50μmで完成した。
【0055】
(測定方法)
図2に示す、顕微鏡型評価装置を用い試料の評価・測定を行った。装置図を用い評価装置の説明をする。書き込み読み出し兼用の光源として、波長780nmの半導体レーザー307を用いている。半導体レーザー307の駆動には、図には示していないが高速変調パルス電源を用いた。コリメーターレンズ308により平行光とし、変更ビームスプリッター309により光路を変え、ダイクロイックミラー310を経て、2軸のガルバノミラー311で偏向されることにより、視野内を操作可能となる。さらに、1/4波長板312で円偏光に変換後、N.A. 1.4油浸対物レンズ313でマッチングオイル314を通して収束され、基板316上に配置された試料315に焦点を結ぶ。焦点からの反射光は、円偏光の方向が逆になり、逆の経路をたどり、1/4波長板で偏光方向が直交する直線偏光に変換される。さらに、ダイクロイックミラー310の同じ経路を通って偏向ビームスプリッター309で、読み取り光源と分離され、集光レンズ306、ピンホール305およびリレーレンズ304よりなる共焦点系を経て検出器303で検出される。また、試料の焦点より発せられる蛍光は、対物レンズ314で集められ、1/4波長板312、2軸のガルバノミラー311を経てダイクロイックミラーで書き込み読み出し光と分離され、集光レンズ302により検出器301に焦点を結び検出される。図には記入されていないが、検出光のカットのため、適宜ダイクロイックミラー310と検出器301の間に780nmの書き込み読み出し兼用光をカットするカットフィルターを入れることが出来ることは言うまでもない。
【0056】
(評価結果)
評価結果1
試料には、実施例1に示した金ナノロッド・2光子吸収色素分散アクリル樹脂バルク体、実施例2に示したSiO2被覆した金ナノロッド・2光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体および実施例4に示した金ナノロッドをコアとする複合ナノ粒子・2光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体を用い、比較例1と比較した。
【0057】
書き込みシーケンスを、下記書き込みシーケンス1〜3に示すように様々に変化させ、1スキャンを行った後、読み出し光のパルス列として、パルス幅が2ns、繰り返し周波数が50MHz、対物レンズからの出射光量が1mW(ピークパワー10mW)を照射し、蛍光像を観察した。このとき得られた蛍光の変調度から書き込みの評価を行った。
ここで、下記表1〜3に記載の書き込みの評価は、蛍光の変調度に従って以下に示す基準で表されている。
【0058】
《評価基準》
60%以上 :◎
40%以上60%未満:○
10%以上40%未満:△
10%未満:×
【0059】
ここで、微粒子を変形させる部分には、変調度60%以上である◎の条件の記録光での書き込みを行えば良い。また、微粒子を変形させない部分には、変調度10%未満の×の条件の記録光での書き込みを行えば良い。つまり、記録光について◎の条件と×の条件とを交互に繰り返しながら、記録が行われる。このように◎の条件と×の条件を用いることで、蛍光の変調度の差が大きくなるため、蛍光の強弱(微粒子の変形の有無)を容易に検出することができ、良好に再生を行うことができる。もちろん、〇や△の条件でも、蛍光の変調度の差は少なくなるが、実施可能である。
【0060】
〔書き込みシーケンス1〕
パルス幅2ns,繰り返し周波数50MHzを固定し、平均出射光量をのみを変更。
【0061】
【表1】

【0062】
比較例1の増感材料の配合されていないものは、色素を熱で破壊する以外に変調の手立てが無く、20倍にパワーを上げただけでは変調は認められなかった。増感材料を配合した試料はピークパワーを変えることで、変調が可能であることが確認された。
【0063】
〔書き込みシーケンス2〕
パルス幅と繰り返し周波数を変更するが、デューティー比(10%)と平均出射光量(1mW)を固定。
【0064】
【表2】

【0065】
比較例1の増感材料の配合されていないものは、色素を熱で破壊する以外に変調の手立てが無く、パルス幅を広げただけでは変調は認められなかった。増感材料を配合した試料はピークパワーを変えなくとも、パルス幅を変えることで変調が可能であることが確認された。
【0066】
〔書き込みシーケンス3〕
パルス幅を10nsに、デューティー比(50%)に固定し、平均出射パワーを変更(ピークパワーが変わっている)。
【0067】
【表3】

【0068】
比較例1の増感材料の配合されていないものは、色素を熱で破壊する以外に変調の手立てが無く、変調は認められなかった。増感材料を配合した試料はデューティー比を変えることでより閾値が下がった。
【0069】
評価結果2
試料には、実施例3に示した金ナノロッド・2光子吸収色素分散アクリル樹脂層とPVA層とを交互に積相した積層構造を評価した。書き込みシーケンスは、シーケンス3の平均出射パワー5mWを採用し、各層に異なるピッチのパターンを書き込み、各層とも60%以上の変調率と層間クロストークの無いことを確認した。
【0070】
上記実施例1〜4および比較例1によれば、低エネルギーの記録光により記録を行った場合でも、2光子吸収を利用して媒体からの蛍光の有無を検出することで、高密度な再生を行うことができる光記録媒体の記録方法、再生方法、及び光記録媒体、並びに3次元光記録媒体が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る三次元光記録媒体の構成を示す概略図である。
【図2】記録媒体評価装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0072】
301 蛍光検出器
302 集光レンズ
303 反射光検出器
304 リレーレンズ
305 ピンホール
306 集光レンズ
307 偏光ビームスプリッター
308 コリメーターレンズ
309 半導体レーザー
310 ダイクロイックミラー
311 2軸ガルバノミラー
312 1/4波長板
313 油浸対物レンズ(N.A. 1.4)
314 マッチングオイル
315 記録媒体
316 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多光子吸収材料と、異方性を持つプラズモン増強場により、前記多光子吸収材料の多光子吸収過程を増強する増感効果を有する微粒子とを含む光記録媒体に情報を記録する光記録媒体の記録方法であって、
前記微粒子のうちの一部を変形させて当該微粒子の増感効果を失活させる失活工程を備えることを特徴とする光記録媒体の記録方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光記録媒体の記録方法において、
前記失活工程は、パルス光を照射して前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法。
【請求項3】
請求項2に記載の光記録媒体の記録方法において、
前記失活工程は、前記パルス光の強度を変化させることにより前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法。
【請求項4】
請求項2に記載の光記録媒体の記録方法において、
前記失活工程は、前記パルス光のパルス幅を変化させることにより前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法。
【請求項5】
請求項2に記載の光記録媒体の記録方法において、
前記失活工程は、前記パルス光の強度及びパルス幅を変化させることにより前記微粒子のうちの一部を変形して失活させることで行われることを特徴とする光記録媒体の記録方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1に記載の光記録媒体の記録方法において、
前記微粒子が、金ナノロッドであることを特徴とする光記録媒体の記録方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の光記録媒体の記録方法により記録された光記録媒体に再生光を照射して再生する光記録媒体の再生方法であって、
再生光を照射して、未失活の前記微粒子の増感効果により多光子吸収した前記多光子吸収材料から蛍光を生じさせることで、蛍光の強弱を検出し、再生を行う検出再生工程を備えることを特徴とする光記録媒体の再生方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光記録媒体の再生方法において、
前記検出再生工程は、当該未失活の微粒子が有する増感効果により多光子吸収させた多光子吸収材料からの蛍光のみを検出して再生することを特徴とする光記録媒体の再生方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光記録媒体の再生方法において、
前記再生光は、パルス光であることを特徴とする光記録媒体の再生方法。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の光記録媒体の記録方法を用いて記録した光記録媒体。
【請求項11】
請求項10に記載された光記録媒体において、前記多光子吸収材料および前記微粒子を含む記録層を、多数積層した光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−87522(P2009−87522A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232935(P2008−232935)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】