墜落阻止器具
【課題】特段の調整を行うことなしにドラムに所望の回転抵抗を付与することができ、墜落阻止及び衝撃吸収を確実に行うことが可能な墜落阻止器具を提供すること。
【解決手段】ドラム4とラチェットホイール7が中空筒22のネジ部22bを介して螺合連結されるとともに、その連結部においてドラム4とラチェットホイール7との間に衝撃吸収部材26,27が介挿されており、ロック爪8によるラチェットホイール7のロック状態において、ドラム4に命綱5の引き出し方向へのトルクが作用したときに、ドラム4がラチェットホイール7に対して軸方向に接近するとともに、衝撃吸収部材26,27が圧縮されて押し潰される。
【解決手段】ドラム4とラチェットホイール7が中空筒22のネジ部22bを介して螺合連結されるとともに、その連結部においてドラム4とラチェットホイール7との間に衝撃吸収部材26,27が介挿されており、ロック爪8によるラチェットホイール7のロック状態において、ドラム4に命綱5の引き出し方向へのトルクが作用したときに、ドラム4がラチェットホイール7に対して軸方向に接近するとともに、衝撃吸収部材26,27が圧縮されて押し潰される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築現場などの高所作業において用いられる墜落阻止器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築現場などでの高所作業において、万が一、作業者が足を踏み外したときに、その墜落を防止する器具が用いられている。例えば、特許文献1の墜落阻止器具は、ケース内に収容されて命綱を巻取るドラムと、ドラムを巻取方向に付勢するゼンマイバネと、ケース内に固定されたラチェットホイール(ラチェット内歯車)と、ドラムに設けられてラチェットホイールのラチェット歯に係合してラチェットホイールの回転をロックするロック爪とを有する。この墜落阻止器具では、通常作業中に比較的ゆっくりした速度で命綱がケースから引き出されたときにはロック爪がラチェットホイールのラチェット歯と係合せず、ドラムの回転がロックされないようになっている。しかし、作業者が高所から落下して急速に命綱が引き出された場合には、ロック爪がラチェットホイールのラチェット歯と係合してドラムの回転が速やかにロックされ、それ以上命綱が引き出されなくなって作業者の墜落が阻止される。
【0003】
ところで、上記のような墜落阻止器具において、作業者の落下時にロック爪によってドラムの回転がロックされたときに、命綱の引き出しが急に止まるために作業者に大きな衝撃が作用する。特に、命綱が伸縮性のないワイヤロープである場合には、命綱自体で衝撃を吸収できないため、作業者にそのまま衝撃が作用することから大きな問題となる。
【0004】
これに関連して、特許文献2には、照明器具等を対象とした落下防止装置ではあるが、落下時の衝撃を吸収するための構成を備えたものが開示されている。この特許文献2の装置では、ケース内にベルト(命綱に相当)を巻取るドラムが回転可能に収容されており、また、ラチェットホイール(ラチェット歯車)がケースに取り付けられる一方で、ロック爪(ラチェット爪)がドラムに設けられている。そして、照明器具等が落下してベルト(命綱に相当)が急速に引き出されて、ドラムが高速で回転したときにはロック爪がラチェットホイールに係合し、ドラムの回転がロックされるようになっている。また、ラチェットホイールにはブレーキシューが押圧されて回転抵抗が付与されている。その上で、上記のようにロック爪とラチェットホイールとの係合によってドラムの回転がロックされた状態で、ドラムに一定値以上の荷重(ベルトの引き出し方向のトルク)が作用したときには、ラチェットホイールがゆるやかに回転し、ドラムがベルトを徐々に繰り出すようになっている。これにより照明器具等に作用する衝撃が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−1951号公報
【特許文献2】実用新案登録第3033362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、ブレーキシューの押圧によってラチェットホイールに回転抵抗を付与し、一定値以上の荷重(トルク)が作用したときにのみラチェットホイールが回転するようになっている。この場合、ラチェットホイールが回転し始めるときの荷重(回転抵抗)をブレーキシューの締付けによって調整する必要があるが、設計で定められた所定値に正しく調整することが非常に難しいという問題がある。そして、調整の結果、実際にラチェットホイールに付与される回転抵抗が小さすぎると、ロック爪とラチェットホイールが係合した状態でドラムがかなり速い速度で回転してしまい、墜落を阻止できない虞がある。逆に上記回転抵抗が大きすぎると、ロック爪とラチェットホイールの係合時に大きな衝撃荷重が作用してもドラムが回らなくなる虞があり、この場合には、ベルトが全く繰り出されないために衝撃荷重を吸収できなくなる。
【0007】
本発明の目的は、特段の調整を行うことなしにドラムに所望の回転抵抗を付与することができ、墜落阻止及び衝撃吸収を確実に行うことが可能な墜落阻止器具を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
第1の発明の墜落阻止器具は、本体ケースと、前記本体ケースに内包された本体フレームと、前記本体フレームに対して固定された巻取軸と、前記本体ケース内に収容され、前記巻取軸に回転可能に取り付けられたドラムと、一端部において前記ドラムに固定された状態で前記ドラムに巻取られるとともに、前記本体ケースに形成された引き出し口から引き出される命綱と、前記ドラムを前記命綱の巻取り方向に付勢する巻取付勢手段と、複数のラチェット歯を有し、前記ドラムと連結されてこのドラムと一体回転可能に前記巻取軸に取り付けられたラチェットホイールと、前記本体ケースに設けられ、前記ドラムが所定速度以上で前記命綱の引き出し方向に回転したときに、前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯に係合して前記ラチェットホイールの回転をロックするロック爪を備え、前記ドラムと前記ラチェットホイールの連結部において、両者の間に衝撃吸収部材が介挿され、前記衝撃吸収部材は、前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムの前記ラチェットホイールに対する回転を許容しつつ、前記ドラムに回転抵抗を付与することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の墜落阻止器具において、作業者が落下して命綱が急速にドラムから引き出されたときには、ロック爪によってラチェットホイールの回転がロックされてドラムの回転も停止して、命綱の引き出しが止まるため、作業者の墜落が阻止される。さらに、上記ラチェットホイールのロック時において衝撃荷重によってドラムに命綱の引き出し方向へのトルクが作用すると、ドラムがラチェットホイールに対して回転しようとするが、その際に、ドラムとラチェットホイールとの間の衝撃吸収部材によって、ドラムに回転抵抗が付与される。これにより、ドラムがゆっくりとした速度で回転して命綱が徐々に引き出されることで、落下時の衝撃が吸収される。
【0010】
ここで、ドラムに付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材の形状や材質等によって定まる。従って、所望の回転抵抗を付与するためには、形状や材質等の条件を決定して作製した衝撃吸収部材を組み込むだけでよく、特段の調整作業が不要である。従って、調整によってドラムに付与される回転抵抗がばらつくということがなく、墜落阻止及び衝撃吸収を確実に行うことができる。
【0011】
第2の発明の墜落阻止器具は、前記第1の発明において、前記衝撃吸収部材が変形することにより、落下衝撃を吸収することを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、作業者の墜落時に、ラチェットホイールがロックされた状態で、衝撃荷重によってドラムに命綱の引き出し方向へのトルクが作用し、ドラムがラチェットホイールに対して回転しようとしたときに、両者の間に介挿されている衝撃吸収部材が変形することにより、ドラムに回転抵抗が付与される。これにより、落下衝撃が吸収される。この場合、ドラムに付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材の変形のしにくさ(曲げ剛性、あるいは、ねじり剛性)によって定まる。
【0013】
第3の発明の墜落阻止器具は、前記第1又は第2の発明において、前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムが前記ラチェットホイールに対して回転しながら軸方向に接近するとともに、前記衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、ドラムとラチェットホイールとがネジ部を介して螺合連結されていることから、ラチェットホイールがロックされた状態で、衝撃荷重によってドラムに命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、ドラムがラチェットホイールに対して回転しながら接近する。このとき、ドラムとラチェットホイールの間に介挿されている衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰されることによって、ドラムに回転抵抗が付与される。尚、この場合、ドラムに付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材の潰れにくさによって定まる。
【0015】
第4の発明の墜落阻止器具は、前記第3の発明において、前記ドラムが前記ラチェットホイールに接近して前記衝撃吸収部材が所定量押し潰されたときに、それ以上の前記ドラムの接近を規制するストッパーを有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、衝撃吸収部材がある程度押し潰されると、それ以上のドラムのラチェットホイールへの接近がストッパーによって規制されてドラムが回転しなくなるため、ロック爪によるロック後に一定以上に命綱が引き出され過ぎることを防止できる。
【0017】
第5の発明の墜落阻止器具は、前記第3又は第4の何れかの発明において、前記ドラムと前記ラチェットホイールとの間に、第1の衝撃吸収部材と第2の衝撃吸収部材がそれぞれ介挿され、前記第2の衝撃吸収部材は、前記第1の衝撃吸収部材と比べて、前記ドラム及び前記ラチェットホイールとの間に軸方向に関して大きな隙間を空けた状態で配置されていることを特徴とするものである。
【0018】
本発明において、衝撃吸収部材とドラム及びラチェットホイールとの間の、軸方向に関する「隙間」とは、衝撃吸収部材とドラムあるいはラチェットホイールとの間において、他部材が介在していない空間の幅を指す。そして、本発明では、第2の衝撃吸収部材の、ドラム及びラチェットホイールとの間の軸方向隙間が、第1の衝撃吸収部材と比べて大きくなっていることから、先に第1の衝撃吸収部材が所定量(前記隙間の分だけ)押し潰された後、第2の衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰され始め、ドラムに付与される回転抵抗が強まる。従って、第1の衝撃吸収部材だけでは衝撃吸収が十分に行われなかった場合でも、第2の衝撃吸収部材で残りの衝撃を吸収しつつ、一定以上に命綱が引き出され過ぎることを防止できる。
【0019】
第6の発明の墜落阻止器具は、前記第3〜第5の何れかの発明において、前記衝撃吸収部材は筒状に形成され、この筒状の衝撃吸収部材の内面又は外面の少なくとも一方に環状溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
筒状の衝撃吸収部材の環状溝が形成されている部分は、強度が局部的に弱くなっており、衝撃吸収部材が圧縮されたときにはこの環状溝の部分において真っ先に塑性変形(折れ曲がり)が生じる。即ち、変形を生じさせる位置が定まることから、常に同じ変形態様で押し潰すことができ、ドラムに付与される回転抵抗がばらつきにくい。
【0021】
第7の発明の墜落阻止器具は、前記第6の発明において、前記衝撃吸収部材の軸方向中央部の内面に1本の環状の内面溝が形成され、前記衝撃吸収部材の軸方向両端部の外面に、前記内面溝を軸方向において挟むように2本の環状の外面溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
衝撃吸収部材が圧縮されて一度塑性変形が生じると、衝撃吸収部材の強度が急に低下するため、ドラムに付与される回転抵抗も急激に減って、衝撃吸収効果が激減する。本発明では、筒状の衝撃吸収部材の軸方向中央部の内面に1本の内面溝が形成される一方で、この内面溝を軸方向に挟むように、両端部に2本の外面溝が形成される。そして、衝撃吸収部材が軸方向に圧縮されると、3本の溝においてそれぞれ変形が生じ、筒状の衝撃吸収部材は径方向外側へ膨らんだ形状となる。このような形状は圧縮に対しては強度を発現することになるから、溝が形成された部分において塑性変形(折れ曲がり)が生じた後の圧縮に対しても一定時間強度を維持でき、ドラムに一定の回転抵抗を付与し続けることができる。
【0023】
第8の発明の墜落阻止器具は、前記第3〜第7の何れかの発明において、前記巻取軸には、前記衝撃吸収部材が押し潰されたときの前記ラチェットホイールの軸方向の移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
ドラムとラチェットホイールとの間に存在する衝撃吸収部材が押し潰されると、その分、ラチェットホイールにガタが生じ、本体ケース側に設けられているロック爪との位置がずれて、係合が外れてしまう虞がある。本発明では、巻取軸に、ラチェットホイールの軸方向の移動を規制する規制部が設けられていることから、ラチェットホイールががたついてロック爪との係合が外れることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る墜落阻止器具の使用例を示す図である。
【図2】墜落阻止器具の分解斜視図である。
【図3】本体ケースの片側を取り外した状態の墜落阻止器具の正面図である。
【図4】墜落阻止器具の側面図である。
【図5】図4に示される、墜落阻止器具の本体ケースを除いた内部構造体の断面図である。
【図6】図5のA部詳細図であり、(a)は衝撃吸収前の状態、(b)は衝撃吸収後の状態をそれぞれ示す。
【図7】変更形態に係る衝撃吸収部材の断面図である。
【図8】別の変更形態に係る衝撃吸収部材の断面図である。
【図9】別の変更形態に係る墜落阻止器具の、図6相当の断面図である。
【図10】別の変更形態に係る墜落阻止器具の、図6相当の断面図である。
【図11】別の変更形態に係る墜落阻止器具の、図4相当の側面図である。
【図12】落下試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る墜落阻止器具の使用例を示す図である。図1に示すように、墜落阻止器具1は建築現場の構造物に掛けられて、上方から吊り下げられる。また、墜落阻止器具1はその本体ケース2の内部に命綱5を巻取るドラム4(図2および図5参照)を有し、このドラム4から引き出された命綱5の先端に取り付けられたフック10が、作業者の腰部に装着された安全帯11に固定される。この状態で作業者は高所作業を行い、架台100上の作業者の移動に応じて命綱5が本体ケース2から引き出されたり、本体ケース2内に巻取られたりする。また、万が一、作業者が架台100から踏み外して落下した場合には、本体ケース2から命綱5が急速に引き出されるものの、すぐにドラム4の回転がロックされて命綱5の引き出しが停止し、これによって作業者の墜落が阻止されるようになっている。
【0027】
次に、墜落阻止器具1の構造について詳細に説明する。図2は、墜落阻止器具1の分解斜視図である。また、図3は本体ケース2の片側(図2に示されるケース分割体12)を取り外した状態の墜落阻止器具1の正面図、図4は墜落阻止器具1の側面図である。但し、図4では、本体ケース2内の構造が分かるように、本体ケース2を断面で示している。また、図5は、図4に示される、本体ケース2を除く墜落阻止器具1の内部構造体の断面図である。
【0028】
図2〜図5に示すように、墜落阻止器具1は、本体ケース2と、ブラケット17,18(本願の本体フレームに相当する)と、巻取軸3と、ドラム4と、ワイヤロープからなる命綱5と、ゼンマイバネ6と、ラチェットホイール7と、ロック爪8等を備えている。
【0029】
図2に示すように、本体ケース2は、2つのケース分割体12,13が複数のボルトで結合された構造を有する。ケース分割体12,13の上部には穴部12a,13aがそれぞれ形成され、図1に示すように、穴部12a,13aに連結具14を介して吊り下げ用のベルト15が装着される。また、本体ケース2の下部には開口形成部材16が取り付けられ、開口形成部材16によって命綱5の引き出し口16aが形成されている。本体ケース2の2つのケース分割体12,13にはブラケット17,18がそれぞれ固定され、これら2つのブラケット17,18には巻取軸3の両端部が固定されている。即ち、巻取軸3は、本体ケース2に内包されたブラケット17,18に固定されている。尚、2つのブラケット17,18の上部にも、本体ケース2と同様に、吊り下げ用の穴部17a,18aがそれぞれ形成されている。
【0030】
図4、図5に示すように、ドラム4の幅方向両端部には2つのフランジ20,21が固定されている。また、図5に示すように、ドラム4の中心部には鍔部22aを有する中空筒22が固定され、この中空筒22に巻取軸3が挿通されることで、ドラム4と中空筒22とが一体となって巻取軸3を中心に回転可能である。尚、図2、図5に示すように、中空筒22の鍔部22aよりも先端側の部分の外周面にはネジ部22bが形成されている。また、ドラム4には命綱5の一端部が固定され、ドラム4が回転することによって2つのフランジ20,21の間に命綱5が巻取られる。また、ドラム4が巻取方向と逆方向に回転することで命綱5はドラム4から繰り出され、本体ケース2の引き出し口16aから引き出される。
【0031】
ドラム4の一方のフランジ21にはゼンマイケース23が固定されておりドラム4と一体回転可能である。ゼンマイケース23には各種バネ鋼からなるゼンマイバネ6(巻取付勢手段)が収容されている。ゼンマイバネ6は、その一端がゼンマイケース23に固定されるとともに他端が巻取軸3に固定されており、ゼンマイケース23(ドラム4)を命綱5の巻取方向へ付勢している。
【0032】
ドラム4の他方のフランジ20には、外周部に複数のラチェット歯7aを有するラチェットホイール7が設けられている。このラチェットホイール7は、その内側に配されたナット24とジョイントプレート25によって固定されており、さらに、このナット24は中空筒22のネジ部22bと螺合している。即ち、ドラム4とラチェットホイール7とは中空筒22及びナット24によって螺合連結され、一体的に回転可能である。また、ドラム4とラチェットホイール7との連結部である中空筒22の外面の、鍔部22aとナット24との間の位置には2つの筒状の衝撃吸収部材26,27が装着されている。これら2つの衝撃吸収部材26,27については後ほど説明する。
【0033】
図3〜図5に示すように、ブラケット17には、ロック爪8が回動軸28を中心に回動可能に取り付けられている。図3から分かるように、ロック爪8は回動軸28を挟む両端部にそれぞれ爪部8a,8bを有し、ロック爪8は、一方の爪部8aがラチェットホイール7に接触する方向にバネ29によって回動付勢されている。また、この一方の爪部8aは、ラチェットホイール7の外周面に接触した状態で、ラチェットホイール7が命綱5の巻取方向(図3の矢印A方向)、引き出し方向(同矢印B方向)の何れに回転しても、ラチェット歯7aとは係合しない形状になっている。一方、他方の爪部8bは、ラチェットホイール7の外周面に接触した状態で、ラチェットホイール7が命綱5の引き出し方向(矢印B方向)に回転したときには、ラチェット歯7aと係合する形状となっている。
【0034】
命綱5が比較的ゆっくりとした速度で引き出され、ドラム4の回転速度が所定速度未満である場合には、バネ29の付勢力によってロック爪8の一方の爪部8aがラチェットホイール7に押し当てられた状態でラチェットホイール7がドラム4とともに引き出し方向(矢印B方向)に回転するが、このとき、他方の爪部8bはラチェットホイール7からは離れており、ラチェットホイール7の回転はロックされない。一方、作業者が墜落したときに、命綱5が非常に速い速度で引き出され、ドラム4の引き出し方向の回転速度が所定速度以上となった場合には、高速回転するラチェットホイール7のラチェット歯7aによって一方の爪部8aが蹴り上げられ、その反動で他方の爪部8bがバネ29の付勢力に打ち勝ちラチェットホイール7に接触する。このとき、他方の爪部8bがラチェット歯7aに係合することになり、ラチェットホイール7(ドラム4)の回転が瞬時にロックされて命綱5の引き出しが停止する。
【0035】
次に、衝撃吸収部材26,27について説明する。衝撃吸収部材26,27は、作業者が墜落してラチェットホイール7の回転がロックされたときに発生する、衝撃荷重を吸収するための部材であり、ドラム4とラチェットホイール7との間に設けられている。
【0036】
図6は図5のA部詳細図であり、(a)は衝撃吸収前の状態、(b)は衝撃吸収後の状態をそれぞれ示す。図6に示すように、ドラム4に固定された中空筒22の鍔部22aと、ラチェットホイール7に固定されたナット24との間に、2つの筒状の衝撃吸収部材(第1衝撃吸収部材26、第2衝撃吸収部材27)が介挿されている。ここで、上述したように、ドラム4とラチェットホイール7は、中空筒22とナット24との螺合によって連結されていることから、作業者の墜落時にラチェットホイール7の回転がロック爪8によってロックされてから、衝撃荷重によってさらに命綱5を引き出す方向にドラム4にトルクが作用すると、ドラム4はラチェットホイール7に対して回転しながら巻取軸3に沿ってラチェットホイール7(図6(b)の矢印Rで示す方向)に接近する。このとき、ドラム4は、ラチェットホイール7との間に介挿された衝撃吸収部材26,27を圧縮して押し潰しながらラチェットホイール7に接近することになり、ドラム4に回転抵抗が付与される。
【0037】
ここで、ドラム4に付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材26,27の形状や材質等で決まる、衝撃吸収部材26,27の潰れにくさによって定まる。従って、ドラム4に所望の回転抵抗を付与するためには、衝撃吸収部材26,27の形状や材質等の条件を決めて作製した上で、これらの衝撃吸収部材26,27を組み込むだけでよく、ドラム4に所望の回転抵抗を付与するための特段の調整が不要である。
【0038】
さらに、衝撃吸収部材26,27の詳細構成について説明する。図6に示すように、2つの衝撃吸収部材26,27のうち、第1衝撃吸収部材26は、その軸方向中央部の内面に1本の環状の内面溝26aが形成されるとともに、軸方向両端部のそれぞれの外面に、内面溝26aを軸方向において挟むように2本の環状の外面溝26bが形成されている。一方、第2衝撃吸収部材27の一端部には鍔部27aが形成されている。
【0039】
そして、図6(a)に示すように、第2衝撃吸収部材27がその鍔部27aを中空筒22の鍔部22aに当接させた状態で中空筒22の外周面に装着され、さらに、この第2衝撃吸収部材27に被せられるように第1衝撃吸収部材26が装着される。尚、第1衝撃吸収部材26は、その両端面が、他の部材(第2衝撃吸収部材27の鍔部27aと、ナット24)にそれぞれ当接しているのに対して、第2衝撃吸収部材27の鍔部27aと反対側の端面と、ナット24との間に所定の隙間dが存在している。即ち、第2衝撃吸収部材27は、第1衝撃吸収部材26と比べて、ラチェットホイール7(ナット24)との間に、軸方向に関して隙間を大きく空けて配置されている。
【0040】
ロック爪8によるラチェットホイール7のロック状態で、ドラム4に命綱5の引き出し方向へのトルクが作用すると、ドラム4がラチェットホイール7に接近しつつ、第1衝撃吸収部材26が先に圧縮されて押し潰される。ここで、第1衝撃吸収部材26は、1本の内面溝26a及び2本の外面溝26bが形成されている、強度の弱い部分において真っ先に塑性変形(折れ曲がり)が生じて潰れる。つまり、環状の溝26a,26bによって変形が生じる位置が定まることから、常に同じ変形態様で押し潰すことができ、ドラム4に付与される回転抵抗がばらつきにくい。
【0041】
また、衝撃吸収部材に一度塑性変形が生じると、この衝撃吸収部材の強度が急に低下するため、ドラム4に付与される回転抵抗も急激に減って、衝撃吸収効果が激減する。しかし、本実施形態の第1衝撃吸収部材26には、中央の1本の内面溝26aと、それを挟むように2本の外面溝26bが形成されていることから、第1衝撃吸収部材26が軸方向に圧縮されたときに、3本の溝26a,26bにおいてそれぞれ変形(折れ曲がり)が生じることによって、図6(b)に示すように、第1衝撃吸収部材26は径方向外側へ膨らんだ形状となる。このような形状は圧縮に対しては強度を発現することになるから、溝26a,26bが形成された部分において塑性変形(折れ曲がり)が生じた後の圧縮に対しても一定時間強度を維持でき、ドラム4に一定の回転抵抗を付与し続けることができる。
【0042】
さらに、第1衝撃吸収部材26が、図6(a)に示す隙間dだけ圧縮され押し潰されると、第2衝撃吸収部材27の軸方向両端が中空筒22の鍔部22aとナット24に接する状態となって圧縮され始める。即ち、第1衝撃吸収部材26が一定量押し潰された後、第2衝撃吸収部材27が圧縮されて押し潰され始めることで、ドラム4に付与される回転抵抗が強まるため、第1衝撃吸収部材26だけでは衝撃吸収が十分に行われなかった場合でも、第2衝撃吸収部材27で残りの衝撃を吸収しつつ、一定以上に命綱5が引き出され過ぎることを防止できる。
【0043】
尚、先に圧縮される第1衝撃吸収部材26は、ラチェットホイール7のロック直後の大きな衝撃荷重を速やかに吸収することができるように、ロック後にすぐに潰れ始めることが必要とされることから、比較的強度が低い材料(例えば、ジュラルミン等のアルミニウム合金)で形成されることが好ましい。また、上述のように環状の溝26a,26bを形成することに加えて、ある程度肉厚を薄くすることが好ましい。一方、後に圧縮される第2衝撃吸収部材27は、第1衝撃吸収部材26によってある程度衝撃が吸収された後に、第1衝撃吸収部材26で吸収しきれなかった衝撃荷重を吸収しつつ(減衰させつつ)命綱5の引き出しを抑制していくという機能が要求されることから、潰れにくくしてより大きな回転抵抗をドラム4に付与することができるように、第1衝撃吸収部材26よりも強度の高い材料(例えば、炭素鋼やステンレス鋼等)で形成されることが好ましく、また、肉厚もやや厚めのものが好ましい。
【0044】
ところで、上述したように、ドラム4とラチェットホイール7との間に存在する衝撃吸収部材26,27が押し潰されると、その分、ラチェットホイール7に軸方向のガタが生じ、本体ケース2側に設けられているロック爪8との位置がずれて、係合が外れてしまう虞がある。そこで、本実施形態では、巻取軸3に、ラチェットホイール7の軸方向の移動を規制するための構成が設けられている。
【0045】
詳細には、図6に示すように、巻取軸3の一端部(図4の右端部)に段付き部3aが形成されている。また、この段付き部3aよりも右側の、巻取軸3の先端部の小径部分にラチェットホイール7とナット24とを固定するジョイントプレート25が装着され、ジョイントプレート25の左面が段付き部3aに当接することによってラチェットホイール7の図中左側への移動が規制されている。即ち、巻取軸3に形成された段付き部3aが、ラチェットホイール7の軸方向(左方)の移動を規制する規制部として機能することから、ラチェットホイール7ががたついてロック爪8との係合が外れることが防止される。
【0046】
尚、前記規制部は段付き部3aには限られず、この段付き部3aの代わりに、巻取軸3に径方向外側に突出する突起が設けられ、この突起がラチェットホイール7(ナット24)に図中左側から係合することによって軸方向(左方)の移動が規制される構成を採用してもよい。
【0047】
次に、本実施形態の墜落阻止器具1の動作について説明する。図1に示すように、架台100上で作業者が作業している間は、本体ケース2内のドラム4から命綱5が引き出されたり、あるいは、ドラム4に命綱5が巻取られたりする。このとき、命綱5は比較的ゆっくりとした速度で引き出されることから、ラチェット歯7aによってロック爪8が蹴り上げられて爪部8bがラチェット歯7aと係合することはなく、ラチェットホイール7の回転はロックされない。
【0048】
一方、作業者が架台100から墜落した場合には、本体ケース2から命綱5が非常に速い速度で引き出されることから、ドラム4と一体的にラチェットホイール7が高速で回転してラチェット歯7aによってロック爪8の一方の爪部8aが蹴り上げられる。これにより、ロック爪8の他方の爪部8bがラチェット歯7aと係合し、ラチェットホイール7の回転がロックされる。
【0049】
ラチェットホイール7の回転がロックされると、ドラム4の回転も停止して命綱5の引き出しが止まるため、墜落した作業者に衝撃荷重が作用する。しかし、本実施形態では、ドラム4がラチェットホイール7に接近しつつ、両者の間に介挿された第1衝撃吸収部材26を圧縮して押し潰しながら命綱5の引き出し方向に回転することから、ドラム4に回転抵抗が付与されて命綱5が徐々に引き出されることになり、衝撃が吸収される。さらに、第1衝撃吸収部材26が所定量押し潰されると、第2衝撃吸収部材27が圧縮され始めてより大きな回転抵抗がドラム4に付与されることになり、残存する衝撃荷重を吸収しつつ、命綱5が引き出されすぎてしまうことが防止される。
【0050】
尚、本実施形態の墜落阻止器具1では、巻取軸3が本体ケース2に固定され、この固定された巻取軸3に対してドラム4及びラチェットホイール7が回転可能な構成を採用している。これに対し、巻取軸3が本体ケース2に対して回転可能に枢支された上で、この巻取軸3にドラム4及びラチェットホイール7が固定された構成(巻取軸3、ドラム4、及び、ラチェットホイール7が一体回転する構成)も考えられる。しかし、本実施形態は、高所作業を行う作業者の墜落防止に用いられるものであり、命綱5は例えば十数メートルにも及ぶ、かなり長いものが使用される。そのために、上述したような巻取軸3を回転可能に枢支する構成を採用する場合には、命綱5を巻取った重量の大きな巻取軸3を安定して支持するために、巻取軸3の両端の軸受けが大きなものとなるなど、構造が大型化し、また、複雑になる。そこで、本実施形態では、巻取軸3がブラケット17,18に固定され、この巻取軸3にドラム4及びラチェットホイール7を回転可能とした構成を採用することで、ドラム4に巻取られる命綱5の長さが長くとも、器具の構造を簡素化することが可能となる。
【0051】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0052】
1]衝撃吸収部材の形状や配置等は適宜変更可能である。例えば、図7(a)に示すように、衝撃吸収部材26に環状の内面溝26aのみが形成されてもよい。尚、図7(a)のように、衝撃吸収部材26の軸方向中央部に1つの内面溝26aが形成されていると、前記実施形態と同様に、軸方向に圧縮されたときに径方向外側に膨らむように変形するため、強度を発現させることができる。また、図7(b)に示すように、外面溝26bのみが形成されてもよい。尚、内面溝26aの数、あるいは、外面溝26bの数は適宜変更可能である。さらには、図7(c)に示すように、内面溝26aと外面溝26bとが軸方向に同じ位置に形成され、衝撃吸収部材26が蛇腹状に形成されてもよい。また、図8(a)〜(d)のように、内面溝26a、あるいは、外面溝26bが断面円弧状の溝であってもよい。あるいは、図8(e)に示すように、内面及び外面の両方に溝が形成されていないものであってもよい。
【0053】
また、前記実施形態では、第2衝撃吸収部材27はその一端がドラム4(中空筒22)に当接し、他端とラチェットホイール7(ナット24)との間に隙間が存在していたが(図6参照)、これとは逆に、ラチェットホイール7(ナット24)と当接するとともに、ドラム4(中空筒22)との間に隙間が存在していてもよい。
【0054】
また、衝撃吸収部材は筒状である必要は必ずしもなく、複数の衝撃吸収部材が中空筒22の周りにおいて周方向に複数配置された構成であってもよい。
【0055】
2]前記実施形態では、2種類の衝撃吸収部材26,27が設けられていたが、第1衝撃吸収部材26のみで衝撃荷重を十分に吸収できるのであれば、第2衝撃吸収部材27を省いてもよい。
【0056】
あるいは、衝撃吸収部材が複数種類設けられる代わりに、衝撃吸収部材が所定量押し潰されたときに、それ以上のドラムの接近を規制するストッパーが設けられてもよい。例えば、前記実施形態において、筒状の第2衝撃吸収部材27の代わりに、ドラム4とラチェットホイール7の間で圧縮されても潰れない、より高強度(高剛性)の筒状のストッパーが設けられてもよい。また、ストッパーは、第2衝撃吸収部材27のように、ドラム4とラチェットホイール7の間に介挿されている必要はなく、例えば、本体ケース2やブラケット17,18などの他部材に固定されて、ドラム4がラチェットホイール7に接近してきたときにドラム4に当たってそれ以上の接近を阻止する所定の位置に設置されてもよい。このように、ストッパーが設けられることで、衝撃吸収部材がある程度押し潰されたときに、それ以上のドラム4のラチェットホイール7への接近がストッパーによって規制されてドラム4が回転しなくなるため、衝撃吸収部材が潰され続けて一定以上に命綱が引き出され過ぎることを防止できる。
【0057】
3]前記実施形態の、ドラム4とラチェットホイール7の間に介挿された衝撃吸収部材26は、ドラム4がラチェットホイール7に対して接近したときに押し潰されることによって、ドラム4に回転抵抗を付与して衝撃を吸収するものであったが、上記構成以外のものを採用することも可能である。
【0058】
例えば、ドラム4とラチェットホイール7とを連結する、中空筒22のネジ部22b及びナット24からなるネジ機構そのものによって衝撃を吸収することも可能である。即ち、図9に示すように、雄ネジであるネジ部22b、又は、ナット24の雌ネジ穴の何れか一方が、先細りのテーパー状に形成された構成とすればよい(図9にはナット24の雌ネジ穴がテーパー状である形態が開示されている)。この場合、図9(a)の状態から、ドラム4がラチェットホイール7に接近して、図9(b)のように、ネジ部22bがナット24の雌ネジ穴にねじ込まれていくに従って、ドラム4に徐々に回転抵抗が付与される。この形態では、ネジ部22b及びナット24が本願の衝撃吸収部材に相当し、ネジ部22b又はナット24の雌ネジ穴のテーパー角度によって、ドラム4に付与される回転抵抗が定まる。
【0059】
また、図10に示すように、ドラム4とラチェットホイール7がネジ部で螺合連結されているのではなく、ねじれ変形可能な衝撃吸収部材30で連結されていてもよい。この場合には、衝撃荷重によってドラム4がラチェットホイール7に対して回転したときに、衝撃吸収部材30がねじれることによってドラム4に回転抵抗が付与される。尚、この場合には、衝撃吸収部材30のねじり剛性によってドラム4に付与される回転抵抗が定まる。
【0060】
4]前記実施形態は、ドラム4と一体回転可能に連結されたラチェットホイール7が、ブラケット17(本体フレーム)側に設けられたロック爪8によってロックされる構成であったが(図3、図4参照)、これとは逆に、ロック爪8がドラム4側に設けられたドラム4と一体可能である一方で、ラチェットホイール7がブラケット17側に固定された構成においても本発明を採用できる。以下に一例を挙げる。
【0061】
図11に示すように、ラチェットホイール37はその内周側にラチェット歯37aを有し、このラチェットホイール37はブラケット17に固定されている。一方、ロック爪38はラチェットホイール37のラチェット歯37aと係合可能に、ラチェットホイール37の内側に配されている。また、ロック爪38は巻取軸3に対して回転可能なベース板31に取り付けられ、このベース板31はナット32によってドラム4側のネジ部(図示省略)と螺合連結されている。これにより、ラチェットホイール37と係合していない状態ではロック爪38はドラム4と一体的に回転可能となっている。また、ロック爪38は、前記実施形態と同様に、ドラム4の回転速度が所定速度以上となったときにラチェットホイール37のラチェット歯37aと係合する。ここで、ロック爪38が、前記実施形態と同じく、ドラム4の回転速度が大きくなったときに一方の端部が強く蹴り上げられたときに他方の端部がラチェット歯37aと係合する構成(図3参照)であってもよいが、遠心力によって外側に変位することでラチェット歯37aと係合する構成のものであってもよい。
【0062】
この構成において、ドラム4とロック爪38との連結部、即ち、ドラム4側のネジ部と、ロック爪38側のナット32との間に衝撃吸収部材(例えば、前記実施形態の衝撃吸収部材26,27(図6参照)や、先に述べた変更形態のテーパー状のネジ機構(図9参照)など)が介挿される。そして、ロック爪38がラチェットホイール37と係合してドラム4の回転がロックされた状態で、衝撃荷重によってドラム4に命綱5の引き出し方向にトルクが作用したときには、ドラム4がロック爪38(ベース板31)に対して回転しながら接近するが、その際に、ドラム4とロック爪38との間の衝撃吸収部材によって、ドラム4に回転抵抗が付与される。
【0063】
5]命綱5はワイヤロープには限られず、ワイヤロープ以外の長尺体(例えば、ベルトなど)を採用することもできる。
【0064】
(衝撃吸収効果の検証)
次に、本発明の衝撃吸収部材を備えた墜落阻止器具の衝撃吸収効果について、実験により検証した。尚、ここでは、図8(d)に示される、中央の1本の円弧状内面溝26aとその両側の2本の円弧状外面溝26bを有する衝撃吸収部材26を用いて検証した。そして、独立行政法人労働安全衛生総合研究所が発行する「安全帯構造指針」(TR−No.35)の定める試験条件に準じ、ウエイトの重量を120kgとした落下試験を実施した。その結果を図12に示す。
【0065】
安全帯構造指針では、質量85kgの落下体(ウエイト)を用いて落下試験を行ったときに、落下体を保持でき、且つ、最大衝撃荷重が8.0kNを超えず、さらに、落下距離は2.0mを超えないことが求められている。これに対して、図12に示すように、本試験では、最大衝撃荷重は約4kNであり、また、落下距離は1.1mであった。即ち、安全帯構造指針の定める試験よりも厳しい条件(本試験のウエイト:120kg>指針で定める落下体:85kg)での試験においても、安全帯構造指針の求める数値を満足しており、このことから、本発明の墜落阻止器具が非常に高い衝撃吸収効果を奏することが理解される。
【符号の説明】
【0066】
1 墜落阻止器具
2 本体ケース
3 巻取軸
3a 段付き部
4 ドラム
5 命綱
6 ゼンマイバネ
7 ラチェットホイール
7a ラチェット歯
8 ロック爪
16a 引き出し口
17,18 ブラケット
22b ネジ部
24 ナット
26 第1衝撃吸収部材
26a 内面溝
26b 外面溝
27 第2衝撃吸収部材
30 衝撃吸収部材
37 ラチェットホイール
38 ロック爪
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築現場などの高所作業において用いられる墜落阻止器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築現場などでの高所作業において、万が一、作業者が足を踏み外したときに、その墜落を防止する器具が用いられている。例えば、特許文献1の墜落阻止器具は、ケース内に収容されて命綱を巻取るドラムと、ドラムを巻取方向に付勢するゼンマイバネと、ケース内に固定されたラチェットホイール(ラチェット内歯車)と、ドラムに設けられてラチェットホイールのラチェット歯に係合してラチェットホイールの回転をロックするロック爪とを有する。この墜落阻止器具では、通常作業中に比較的ゆっくりした速度で命綱がケースから引き出されたときにはロック爪がラチェットホイールのラチェット歯と係合せず、ドラムの回転がロックされないようになっている。しかし、作業者が高所から落下して急速に命綱が引き出された場合には、ロック爪がラチェットホイールのラチェット歯と係合してドラムの回転が速やかにロックされ、それ以上命綱が引き出されなくなって作業者の墜落が阻止される。
【0003】
ところで、上記のような墜落阻止器具において、作業者の落下時にロック爪によってドラムの回転がロックされたときに、命綱の引き出しが急に止まるために作業者に大きな衝撃が作用する。特に、命綱が伸縮性のないワイヤロープである場合には、命綱自体で衝撃を吸収できないため、作業者にそのまま衝撃が作用することから大きな問題となる。
【0004】
これに関連して、特許文献2には、照明器具等を対象とした落下防止装置ではあるが、落下時の衝撃を吸収するための構成を備えたものが開示されている。この特許文献2の装置では、ケース内にベルト(命綱に相当)を巻取るドラムが回転可能に収容されており、また、ラチェットホイール(ラチェット歯車)がケースに取り付けられる一方で、ロック爪(ラチェット爪)がドラムに設けられている。そして、照明器具等が落下してベルト(命綱に相当)が急速に引き出されて、ドラムが高速で回転したときにはロック爪がラチェットホイールに係合し、ドラムの回転がロックされるようになっている。また、ラチェットホイールにはブレーキシューが押圧されて回転抵抗が付与されている。その上で、上記のようにロック爪とラチェットホイールとの係合によってドラムの回転がロックされた状態で、ドラムに一定値以上の荷重(ベルトの引き出し方向のトルク)が作用したときには、ラチェットホイールがゆるやかに回転し、ドラムがベルトを徐々に繰り出すようになっている。これにより照明器具等に作用する衝撃が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−1951号公報
【特許文献2】実用新案登録第3033362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、ブレーキシューの押圧によってラチェットホイールに回転抵抗を付与し、一定値以上の荷重(トルク)が作用したときにのみラチェットホイールが回転するようになっている。この場合、ラチェットホイールが回転し始めるときの荷重(回転抵抗)をブレーキシューの締付けによって調整する必要があるが、設計で定められた所定値に正しく調整することが非常に難しいという問題がある。そして、調整の結果、実際にラチェットホイールに付与される回転抵抗が小さすぎると、ロック爪とラチェットホイールが係合した状態でドラムがかなり速い速度で回転してしまい、墜落を阻止できない虞がある。逆に上記回転抵抗が大きすぎると、ロック爪とラチェットホイールの係合時に大きな衝撃荷重が作用してもドラムが回らなくなる虞があり、この場合には、ベルトが全く繰り出されないために衝撃荷重を吸収できなくなる。
【0007】
本発明の目的は、特段の調整を行うことなしにドラムに所望の回転抵抗を付与することができ、墜落阻止及び衝撃吸収を確実に行うことが可能な墜落阻止器具を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
第1の発明の墜落阻止器具は、本体ケースと、前記本体ケースに内包された本体フレームと、前記本体フレームに対して固定された巻取軸と、前記本体ケース内に収容され、前記巻取軸に回転可能に取り付けられたドラムと、一端部において前記ドラムに固定された状態で前記ドラムに巻取られるとともに、前記本体ケースに形成された引き出し口から引き出される命綱と、前記ドラムを前記命綱の巻取り方向に付勢する巻取付勢手段と、複数のラチェット歯を有し、前記ドラムと連結されてこのドラムと一体回転可能に前記巻取軸に取り付けられたラチェットホイールと、前記本体ケースに設けられ、前記ドラムが所定速度以上で前記命綱の引き出し方向に回転したときに、前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯に係合して前記ラチェットホイールの回転をロックするロック爪を備え、前記ドラムと前記ラチェットホイールの連結部において、両者の間に衝撃吸収部材が介挿され、前記衝撃吸収部材は、前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムの前記ラチェットホイールに対する回転を許容しつつ、前記ドラムに回転抵抗を付与することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の墜落阻止器具において、作業者が落下して命綱が急速にドラムから引き出されたときには、ロック爪によってラチェットホイールの回転がロックされてドラムの回転も停止して、命綱の引き出しが止まるため、作業者の墜落が阻止される。さらに、上記ラチェットホイールのロック時において衝撃荷重によってドラムに命綱の引き出し方向へのトルクが作用すると、ドラムがラチェットホイールに対して回転しようとするが、その際に、ドラムとラチェットホイールとの間の衝撃吸収部材によって、ドラムに回転抵抗が付与される。これにより、ドラムがゆっくりとした速度で回転して命綱が徐々に引き出されることで、落下時の衝撃が吸収される。
【0010】
ここで、ドラムに付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材の形状や材質等によって定まる。従って、所望の回転抵抗を付与するためには、形状や材質等の条件を決定して作製した衝撃吸収部材を組み込むだけでよく、特段の調整作業が不要である。従って、調整によってドラムに付与される回転抵抗がばらつくということがなく、墜落阻止及び衝撃吸収を確実に行うことができる。
【0011】
第2の発明の墜落阻止器具は、前記第1の発明において、前記衝撃吸収部材が変形することにより、落下衝撃を吸収することを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、作業者の墜落時に、ラチェットホイールがロックされた状態で、衝撃荷重によってドラムに命綱の引き出し方向へのトルクが作用し、ドラムがラチェットホイールに対して回転しようとしたときに、両者の間に介挿されている衝撃吸収部材が変形することにより、ドラムに回転抵抗が付与される。これにより、落下衝撃が吸収される。この場合、ドラムに付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材の変形のしにくさ(曲げ剛性、あるいは、ねじり剛性)によって定まる。
【0013】
第3の発明の墜落阻止器具は、前記第1又は第2の発明において、前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムが前記ラチェットホイールに対して回転しながら軸方向に接近するとともに、前記衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、ドラムとラチェットホイールとがネジ部を介して螺合連結されていることから、ラチェットホイールがロックされた状態で、衝撃荷重によってドラムに命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、ドラムがラチェットホイールに対して回転しながら接近する。このとき、ドラムとラチェットホイールの間に介挿されている衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰されることによって、ドラムに回転抵抗が付与される。尚、この場合、ドラムに付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材の潰れにくさによって定まる。
【0015】
第4の発明の墜落阻止器具は、前記第3の発明において、前記ドラムが前記ラチェットホイールに接近して前記衝撃吸収部材が所定量押し潰されたときに、それ以上の前記ドラムの接近を規制するストッパーを有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、衝撃吸収部材がある程度押し潰されると、それ以上のドラムのラチェットホイールへの接近がストッパーによって規制されてドラムが回転しなくなるため、ロック爪によるロック後に一定以上に命綱が引き出され過ぎることを防止できる。
【0017】
第5の発明の墜落阻止器具は、前記第3又は第4の何れかの発明において、前記ドラムと前記ラチェットホイールとの間に、第1の衝撃吸収部材と第2の衝撃吸収部材がそれぞれ介挿され、前記第2の衝撃吸収部材は、前記第1の衝撃吸収部材と比べて、前記ドラム及び前記ラチェットホイールとの間に軸方向に関して大きな隙間を空けた状態で配置されていることを特徴とするものである。
【0018】
本発明において、衝撃吸収部材とドラム及びラチェットホイールとの間の、軸方向に関する「隙間」とは、衝撃吸収部材とドラムあるいはラチェットホイールとの間において、他部材が介在していない空間の幅を指す。そして、本発明では、第2の衝撃吸収部材の、ドラム及びラチェットホイールとの間の軸方向隙間が、第1の衝撃吸収部材と比べて大きくなっていることから、先に第1の衝撃吸収部材が所定量(前記隙間の分だけ)押し潰された後、第2の衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰され始め、ドラムに付与される回転抵抗が強まる。従って、第1の衝撃吸収部材だけでは衝撃吸収が十分に行われなかった場合でも、第2の衝撃吸収部材で残りの衝撃を吸収しつつ、一定以上に命綱が引き出され過ぎることを防止できる。
【0019】
第6の発明の墜落阻止器具は、前記第3〜第5の何れかの発明において、前記衝撃吸収部材は筒状に形成され、この筒状の衝撃吸収部材の内面又は外面の少なくとも一方に環状溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
筒状の衝撃吸収部材の環状溝が形成されている部分は、強度が局部的に弱くなっており、衝撃吸収部材が圧縮されたときにはこの環状溝の部分において真っ先に塑性変形(折れ曲がり)が生じる。即ち、変形を生じさせる位置が定まることから、常に同じ変形態様で押し潰すことができ、ドラムに付与される回転抵抗がばらつきにくい。
【0021】
第7の発明の墜落阻止器具は、前記第6の発明において、前記衝撃吸収部材の軸方向中央部の内面に1本の環状の内面溝が形成され、前記衝撃吸収部材の軸方向両端部の外面に、前記内面溝を軸方向において挟むように2本の環状の外面溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
衝撃吸収部材が圧縮されて一度塑性変形が生じると、衝撃吸収部材の強度が急に低下するため、ドラムに付与される回転抵抗も急激に減って、衝撃吸収効果が激減する。本発明では、筒状の衝撃吸収部材の軸方向中央部の内面に1本の内面溝が形成される一方で、この内面溝を軸方向に挟むように、両端部に2本の外面溝が形成される。そして、衝撃吸収部材が軸方向に圧縮されると、3本の溝においてそれぞれ変形が生じ、筒状の衝撃吸収部材は径方向外側へ膨らんだ形状となる。このような形状は圧縮に対しては強度を発現することになるから、溝が形成された部分において塑性変形(折れ曲がり)が生じた後の圧縮に対しても一定時間強度を維持でき、ドラムに一定の回転抵抗を付与し続けることができる。
【0023】
第8の発明の墜落阻止器具は、前記第3〜第7の何れかの発明において、前記巻取軸には、前記衝撃吸収部材が押し潰されたときの前記ラチェットホイールの軸方向の移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
ドラムとラチェットホイールとの間に存在する衝撃吸収部材が押し潰されると、その分、ラチェットホイールにガタが生じ、本体ケース側に設けられているロック爪との位置がずれて、係合が外れてしまう虞がある。本発明では、巻取軸に、ラチェットホイールの軸方向の移動を規制する規制部が設けられていることから、ラチェットホイールががたついてロック爪との係合が外れることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る墜落阻止器具の使用例を示す図である。
【図2】墜落阻止器具の分解斜視図である。
【図3】本体ケースの片側を取り外した状態の墜落阻止器具の正面図である。
【図4】墜落阻止器具の側面図である。
【図5】図4に示される、墜落阻止器具の本体ケースを除いた内部構造体の断面図である。
【図6】図5のA部詳細図であり、(a)は衝撃吸収前の状態、(b)は衝撃吸収後の状態をそれぞれ示す。
【図7】変更形態に係る衝撃吸収部材の断面図である。
【図8】別の変更形態に係る衝撃吸収部材の断面図である。
【図9】別の変更形態に係る墜落阻止器具の、図6相当の断面図である。
【図10】別の変更形態に係る墜落阻止器具の、図6相当の断面図である。
【図11】別の変更形態に係る墜落阻止器具の、図4相当の側面図である。
【図12】落下試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る墜落阻止器具の使用例を示す図である。図1に示すように、墜落阻止器具1は建築現場の構造物に掛けられて、上方から吊り下げられる。また、墜落阻止器具1はその本体ケース2の内部に命綱5を巻取るドラム4(図2および図5参照)を有し、このドラム4から引き出された命綱5の先端に取り付けられたフック10が、作業者の腰部に装着された安全帯11に固定される。この状態で作業者は高所作業を行い、架台100上の作業者の移動に応じて命綱5が本体ケース2から引き出されたり、本体ケース2内に巻取られたりする。また、万が一、作業者が架台100から踏み外して落下した場合には、本体ケース2から命綱5が急速に引き出されるものの、すぐにドラム4の回転がロックされて命綱5の引き出しが停止し、これによって作業者の墜落が阻止されるようになっている。
【0027】
次に、墜落阻止器具1の構造について詳細に説明する。図2は、墜落阻止器具1の分解斜視図である。また、図3は本体ケース2の片側(図2に示されるケース分割体12)を取り外した状態の墜落阻止器具1の正面図、図4は墜落阻止器具1の側面図である。但し、図4では、本体ケース2内の構造が分かるように、本体ケース2を断面で示している。また、図5は、図4に示される、本体ケース2を除く墜落阻止器具1の内部構造体の断面図である。
【0028】
図2〜図5に示すように、墜落阻止器具1は、本体ケース2と、ブラケット17,18(本願の本体フレームに相当する)と、巻取軸3と、ドラム4と、ワイヤロープからなる命綱5と、ゼンマイバネ6と、ラチェットホイール7と、ロック爪8等を備えている。
【0029】
図2に示すように、本体ケース2は、2つのケース分割体12,13が複数のボルトで結合された構造を有する。ケース分割体12,13の上部には穴部12a,13aがそれぞれ形成され、図1に示すように、穴部12a,13aに連結具14を介して吊り下げ用のベルト15が装着される。また、本体ケース2の下部には開口形成部材16が取り付けられ、開口形成部材16によって命綱5の引き出し口16aが形成されている。本体ケース2の2つのケース分割体12,13にはブラケット17,18がそれぞれ固定され、これら2つのブラケット17,18には巻取軸3の両端部が固定されている。即ち、巻取軸3は、本体ケース2に内包されたブラケット17,18に固定されている。尚、2つのブラケット17,18の上部にも、本体ケース2と同様に、吊り下げ用の穴部17a,18aがそれぞれ形成されている。
【0030】
図4、図5に示すように、ドラム4の幅方向両端部には2つのフランジ20,21が固定されている。また、図5に示すように、ドラム4の中心部には鍔部22aを有する中空筒22が固定され、この中空筒22に巻取軸3が挿通されることで、ドラム4と中空筒22とが一体となって巻取軸3を中心に回転可能である。尚、図2、図5に示すように、中空筒22の鍔部22aよりも先端側の部分の外周面にはネジ部22bが形成されている。また、ドラム4には命綱5の一端部が固定され、ドラム4が回転することによって2つのフランジ20,21の間に命綱5が巻取られる。また、ドラム4が巻取方向と逆方向に回転することで命綱5はドラム4から繰り出され、本体ケース2の引き出し口16aから引き出される。
【0031】
ドラム4の一方のフランジ21にはゼンマイケース23が固定されておりドラム4と一体回転可能である。ゼンマイケース23には各種バネ鋼からなるゼンマイバネ6(巻取付勢手段)が収容されている。ゼンマイバネ6は、その一端がゼンマイケース23に固定されるとともに他端が巻取軸3に固定されており、ゼンマイケース23(ドラム4)を命綱5の巻取方向へ付勢している。
【0032】
ドラム4の他方のフランジ20には、外周部に複数のラチェット歯7aを有するラチェットホイール7が設けられている。このラチェットホイール7は、その内側に配されたナット24とジョイントプレート25によって固定されており、さらに、このナット24は中空筒22のネジ部22bと螺合している。即ち、ドラム4とラチェットホイール7とは中空筒22及びナット24によって螺合連結され、一体的に回転可能である。また、ドラム4とラチェットホイール7との連結部である中空筒22の外面の、鍔部22aとナット24との間の位置には2つの筒状の衝撃吸収部材26,27が装着されている。これら2つの衝撃吸収部材26,27については後ほど説明する。
【0033】
図3〜図5に示すように、ブラケット17には、ロック爪8が回動軸28を中心に回動可能に取り付けられている。図3から分かるように、ロック爪8は回動軸28を挟む両端部にそれぞれ爪部8a,8bを有し、ロック爪8は、一方の爪部8aがラチェットホイール7に接触する方向にバネ29によって回動付勢されている。また、この一方の爪部8aは、ラチェットホイール7の外周面に接触した状態で、ラチェットホイール7が命綱5の巻取方向(図3の矢印A方向)、引き出し方向(同矢印B方向)の何れに回転しても、ラチェット歯7aとは係合しない形状になっている。一方、他方の爪部8bは、ラチェットホイール7の外周面に接触した状態で、ラチェットホイール7が命綱5の引き出し方向(矢印B方向)に回転したときには、ラチェット歯7aと係合する形状となっている。
【0034】
命綱5が比較的ゆっくりとした速度で引き出され、ドラム4の回転速度が所定速度未満である場合には、バネ29の付勢力によってロック爪8の一方の爪部8aがラチェットホイール7に押し当てられた状態でラチェットホイール7がドラム4とともに引き出し方向(矢印B方向)に回転するが、このとき、他方の爪部8bはラチェットホイール7からは離れており、ラチェットホイール7の回転はロックされない。一方、作業者が墜落したときに、命綱5が非常に速い速度で引き出され、ドラム4の引き出し方向の回転速度が所定速度以上となった場合には、高速回転するラチェットホイール7のラチェット歯7aによって一方の爪部8aが蹴り上げられ、その反動で他方の爪部8bがバネ29の付勢力に打ち勝ちラチェットホイール7に接触する。このとき、他方の爪部8bがラチェット歯7aに係合することになり、ラチェットホイール7(ドラム4)の回転が瞬時にロックされて命綱5の引き出しが停止する。
【0035】
次に、衝撃吸収部材26,27について説明する。衝撃吸収部材26,27は、作業者が墜落してラチェットホイール7の回転がロックされたときに発生する、衝撃荷重を吸収するための部材であり、ドラム4とラチェットホイール7との間に設けられている。
【0036】
図6は図5のA部詳細図であり、(a)は衝撃吸収前の状態、(b)は衝撃吸収後の状態をそれぞれ示す。図6に示すように、ドラム4に固定された中空筒22の鍔部22aと、ラチェットホイール7に固定されたナット24との間に、2つの筒状の衝撃吸収部材(第1衝撃吸収部材26、第2衝撃吸収部材27)が介挿されている。ここで、上述したように、ドラム4とラチェットホイール7は、中空筒22とナット24との螺合によって連結されていることから、作業者の墜落時にラチェットホイール7の回転がロック爪8によってロックされてから、衝撃荷重によってさらに命綱5を引き出す方向にドラム4にトルクが作用すると、ドラム4はラチェットホイール7に対して回転しながら巻取軸3に沿ってラチェットホイール7(図6(b)の矢印Rで示す方向)に接近する。このとき、ドラム4は、ラチェットホイール7との間に介挿された衝撃吸収部材26,27を圧縮して押し潰しながらラチェットホイール7に接近することになり、ドラム4に回転抵抗が付与される。
【0037】
ここで、ドラム4に付与される回転抵抗は、衝撃吸収部材26,27の形状や材質等で決まる、衝撃吸収部材26,27の潰れにくさによって定まる。従って、ドラム4に所望の回転抵抗を付与するためには、衝撃吸収部材26,27の形状や材質等の条件を決めて作製した上で、これらの衝撃吸収部材26,27を組み込むだけでよく、ドラム4に所望の回転抵抗を付与するための特段の調整が不要である。
【0038】
さらに、衝撃吸収部材26,27の詳細構成について説明する。図6に示すように、2つの衝撃吸収部材26,27のうち、第1衝撃吸収部材26は、その軸方向中央部の内面に1本の環状の内面溝26aが形成されるとともに、軸方向両端部のそれぞれの外面に、内面溝26aを軸方向において挟むように2本の環状の外面溝26bが形成されている。一方、第2衝撃吸収部材27の一端部には鍔部27aが形成されている。
【0039】
そして、図6(a)に示すように、第2衝撃吸収部材27がその鍔部27aを中空筒22の鍔部22aに当接させた状態で中空筒22の外周面に装着され、さらに、この第2衝撃吸収部材27に被せられるように第1衝撃吸収部材26が装着される。尚、第1衝撃吸収部材26は、その両端面が、他の部材(第2衝撃吸収部材27の鍔部27aと、ナット24)にそれぞれ当接しているのに対して、第2衝撃吸収部材27の鍔部27aと反対側の端面と、ナット24との間に所定の隙間dが存在している。即ち、第2衝撃吸収部材27は、第1衝撃吸収部材26と比べて、ラチェットホイール7(ナット24)との間に、軸方向に関して隙間を大きく空けて配置されている。
【0040】
ロック爪8によるラチェットホイール7のロック状態で、ドラム4に命綱5の引き出し方向へのトルクが作用すると、ドラム4がラチェットホイール7に接近しつつ、第1衝撃吸収部材26が先に圧縮されて押し潰される。ここで、第1衝撃吸収部材26は、1本の内面溝26a及び2本の外面溝26bが形成されている、強度の弱い部分において真っ先に塑性変形(折れ曲がり)が生じて潰れる。つまり、環状の溝26a,26bによって変形が生じる位置が定まることから、常に同じ変形態様で押し潰すことができ、ドラム4に付与される回転抵抗がばらつきにくい。
【0041】
また、衝撃吸収部材に一度塑性変形が生じると、この衝撃吸収部材の強度が急に低下するため、ドラム4に付与される回転抵抗も急激に減って、衝撃吸収効果が激減する。しかし、本実施形態の第1衝撃吸収部材26には、中央の1本の内面溝26aと、それを挟むように2本の外面溝26bが形成されていることから、第1衝撃吸収部材26が軸方向に圧縮されたときに、3本の溝26a,26bにおいてそれぞれ変形(折れ曲がり)が生じることによって、図6(b)に示すように、第1衝撃吸収部材26は径方向外側へ膨らんだ形状となる。このような形状は圧縮に対しては強度を発現することになるから、溝26a,26bが形成された部分において塑性変形(折れ曲がり)が生じた後の圧縮に対しても一定時間強度を維持でき、ドラム4に一定の回転抵抗を付与し続けることができる。
【0042】
さらに、第1衝撃吸収部材26が、図6(a)に示す隙間dだけ圧縮され押し潰されると、第2衝撃吸収部材27の軸方向両端が中空筒22の鍔部22aとナット24に接する状態となって圧縮され始める。即ち、第1衝撃吸収部材26が一定量押し潰された後、第2衝撃吸収部材27が圧縮されて押し潰され始めることで、ドラム4に付与される回転抵抗が強まるため、第1衝撃吸収部材26だけでは衝撃吸収が十分に行われなかった場合でも、第2衝撃吸収部材27で残りの衝撃を吸収しつつ、一定以上に命綱5が引き出され過ぎることを防止できる。
【0043】
尚、先に圧縮される第1衝撃吸収部材26は、ラチェットホイール7のロック直後の大きな衝撃荷重を速やかに吸収することができるように、ロック後にすぐに潰れ始めることが必要とされることから、比較的強度が低い材料(例えば、ジュラルミン等のアルミニウム合金)で形成されることが好ましい。また、上述のように環状の溝26a,26bを形成することに加えて、ある程度肉厚を薄くすることが好ましい。一方、後に圧縮される第2衝撃吸収部材27は、第1衝撃吸収部材26によってある程度衝撃が吸収された後に、第1衝撃吸収部材26で吸収しきれなかった衝撃荷重を吸収しつつ(減衰させつつ)命綱5の引き出しを抑制していくという機能が要求されることから、潰れにくくしてより大きな回転抵抗をドラム4に付与することができるように、第1衝撃吸収部材26よりも強度の高い材料(例えば、炭素鋼やステンレス鋼等)で形成されることが好ましく、また、肉厚もやや厚めのものが好ましい。
【0044】
ところで、上述したように、ドラム4とラチェットホイール7との間に存在する衝撃吸収部材26,27が押し潰されると、その分、ラチェットホイール7に軸方向のガタが生じ、本体ケース2側に設けられているロック爪8との位置がずれて、係合が外れてしまう虞がある。そこで、本実施形態では、巻取軸3に、ラチェットホイール7の軸方向の移動を規制するための構成が設けられている。
【0045】
詳細には、図6に示すように、巻取軸3の一端部(図4の右端部)に段付き部3aが形成されている。また、この段付き部3aよりも右側の、巻取軸3の先端部の小径部分にラチェットホイール7とナット24とを固定するジョイントプレート25が装着され、ジョイントプレート25の左面が段付き部3aに当接することによってラチェットホイール7の図中左側への移動が規制されている。即ち、巻取軸3に形成された段付き部3aが、ラチェットホイール7の軸方向(左方)の移動を規制する規制部として機能することから、ラチェットホイール7ががたついてロック爪8との係合が外れることが防止される。
【0046】
尚、前記規制部は段付き部3aには限られず、この段付き部3aの代わりに、巻取軸3に径方向外側に突出する突起が設けられ、この突起がラチェットホイール7(ナット24)に図中左側から係合することによって軸方向(左方)の移動が規制される構成を採用してもよい。
【0047】
次に、本実施形態の墜落阻止器具1の動作について説明する。図1に示すように、架台100上で作業者が作業している間は、本体ケース2内のドラム4から命綱5が引き出されたり、あるいは、ドラム4に命綱5が巻取られたりする。このとき、命綱5は比較的ゆっくりとした速度で引き出されることから、ラチェット歯7aによってロック爪8が蹴り上げられて爪部8bがラチェット歯7aと係合することはなく、ラチェットホイール7の回転はロックされない。
【0048】
一方、作業者が架台100から墜落した場合には、本体ケース2から命綱5が非常に速い速度で引き出されることから、ドラム4と一体的にラチェットホイール7が高速で回転してラチェット歯7aによってロック爪8の一方の爪部8aが蹴り上げられる。これにより、ロック爪8の他方の爪部8bがラチェット歯7aと係合し、ラチェットホイール7の回転がロックされる。
【0049】
ラチェットホイール7の回転がロックされると、ドラム4の回転も停止して命綱5の引き出しが止まるため、墜落した作業者に衝撃荷重が作用する。しかし、本実施形態では、ドラム4がラチェットホイール7に接近しつつ、両者の間に介挿された第1衝撃吸収部材26を圧縮して押し潰しながら命綱5の引き出し方向に回転することから、ドラム4に回転抵抗が付与されて命綱5が徐々に引き出されることになり、衝撃が吸収される。さらに、第1衝撃吸収部材26が所定量押し潰されると、第2衝撃吸収部材27が圧縮され始めてより大きな回転抵抗がドラム4に付与されることになり、残存する衝撃荷重を吸収しつつ、命綱5が引き出されすぎてしまうことが防止される。
【0050】
尚、本実施形態の墜落阻止器具1では、巻取軸3が本体ケース2に固定され、この固定された巻取軸3に対してドラム4及びラチェットホイール7が回転可能な構成を採用している。これに対し、巻取軸3が本体ケース2に対して回転可能に枢支された上で、この巻取軸3にドラム4及びラチェットホイール7が固定された構成(巻取軸3、ドラム4、及び、ラチェットホイール7が一体回転する構成)も考えられる。しかし、本実施形態は、高所作業を行う作業者の墜落防止に用いられるものであり、命綱5は例えば十数メートルにも及ぶ、かなり長いものが使用される。そのために、上述したような巻取軸3を回転可能に枢支する構成を採用する場合には、命綱5を巻取った重量の大きな巻取軸3を安定して支持するために、巻取軸3の両端の軸受けが大きなものとなるなど、構造が大型化し、また、複雑になる。そこで、本実施形態では、巻取軸3がブラケット17,18に固定され、この巻取軸3にドラム4及びラチェットホイール7を回転可能とした構成を採用することで、ドラム4に巻取られる命綱5の長さが長くとも、器具の構造を簡素化することが可能となる。
【0051】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0052】
1]衝撃吸収部材の形状や配置等は適宜変更可能である。例えば、図7(a)に示すように、衝撃吸収部材26に環状の内面溝26aのみが形成されてもよい。尚、図7(a)のように、衝撃吸収部材26の軸方向中央部に1つの内面溝26aが形成されていると、前記実施形態と同様に、軸方向に圧縮されたときに径方向外側に膨らむように変形するため、強度を発現させることができる。また、図7(b)に示すように、外面溝26bのみが形成されてもよい。尚、内面溝26aの数、あるいは、外面溝26bの数は適宜変更可能である。さらには、図7(c)に示すように、内面溝26aと外面溝26bとが軸方向に同じ位置に形成され、衝撃吸収部材26が蛇腹状に形成されてもよい。また、図8(a)〜(d)のように、内面溝26a、あるいは、外面溝26bが断面円弧状の溝であってもよい。あるいは、図8(e)に示すように、内面及び外面の両方に溝が形成されていないものであってもよい。
【0053】
また、前記実施形態では、第2衝撃吸収部材27はその一端がドラム4(中空筒22)に当接し、他端とラチェットホイール7(ナット24)との間に隙間が存在していたが(図6参照)、これとは逆に、ラチェットホイール7(ナット24)と当接するとともに、ドラム4(中空筒22)との間に隙間が存在していてもよい。
【0054】
また、衝撃吸収部材は筒状である必要は必ずしもなく、複数の衝撃吸収部材が中空筒22の周りにおいて周方向に複数配置された構成であってもよい。
【0055】
2]前記実施形態では、2種類の衝撃吸収部材26,27が設けられていたが、第1衝撃吸収部材26のみで衝撃荷重を十分に吸収できるのであれば、第2衝撃吸収部材27を省いてもよい。
【0056】
あるいは、衝撃吸収部材が複数種類設けられる代わりに、衝撃吸収部材が所定量押し潰されたときに、それ以上のドラムの接近を規制するストッパーが設けられてもよい。例えば、前記実施形態において、筒状の第2衝撃吸収部材27の代わりに、ドラム4とラチェットホイール7の間で圧縮されても潰れない、より高強度(高剛性)の筒状のストッパーが設けられてもよい。また、ストッパーは、第2衝撃吸収部材27のように、ドラム4とラチェットホイール7の間に介挿されている必要はなく、例えば、本体ケース2やブラケット17,18などの他部材に固定されて、ドラム4がラチェットホイール7に接近してきたときにドラム4に当たってそれ以上の接近を阻止する所定の位置に設置されてもよい。このように、ストッパーが設けられることで、衝撃吸収部材がある程度押し潰されたときに、それ以上のドラム4のラチェットホイール7への接近がストッパーによって規制されてドラム4が回転しなくなるため、衝撃吸収部材が潰され続けて一定以上に命綱が引き出され過ぎることを防止できる。
【0057】
3]前記実施形態の、ドラム4とラチェットホイール7の間に介挿された衝撃吸収部材26は、ドラム4がラチェットホイール7に対して接近したときに押し潰されることによって、ドラム4に回転抵抗を付与して衝撃を吸収するものであったが、上記構成以外のものを採用することも可能である。
【0058】
例えば、ドラム4とラチェットホイール7とを連結する、中空筒22のネジ部22b及びナット24からなるネジ機構そのものによって衝撃を吸収することも可能である。即ち、図9に示すように、雄ネジであるネジ部22b、又は、ナット24の雌ネジ穴の何れか一方が、先細りのテーパー状に形成された構成とすればよい(図9にはナット24の雌ネジ穴がテーパー状である形態が開示されている)。この場合、図9(a)の状態から、ドラム4がラチェットホイール7に接近して、図9(b)のように、ネジ部22bがナット24の雌ネジ穴にねじ込まれていくに従って、ドラム4に徐々に回転抵抗が付与される。この形態では、ネジ部22b及びナット24が本願の衝撃吸収部材に相当し、ネジ部22b又はナット24の雌ネジ穴のテーパー角度によって、ドラム4に付与される回転抵抗が定まる。
【0059】
また、図10に示すように、ドラム4とラチェットホイール7がネジ部で螺合連結されているのではなく、ねじれ変形可能な衝撃吸収部材30で連結されていてもよい。この場合には、衝撃荷重によってドラム4がラチェットホイール7に対して回転したときに、衝撃吸収部材30がねじれることによってドラム4に回転抵抗が付与される。尚、この場合には、衝撃吸収部材30のねじり剛性によってドラム4に付与される回転抵抗が定まる。
【0060】
4]前記実施形態は、ドラム4と一体回転可能に連結されたラチェットホイール7が、ブラケット17(本体フレーム)側に設けられたロック爪8によってロックされる構成であったが(図3、図4参照)、これとは逆に、ロック爪8がドラム4側に設けられたドラム4と一体可能である一方で、ラチェットホイール7がブラケット17側に固定された構成においても本発明を採用できる。以下に一例を挙げる。
【0061】
図11に示すように、ラチェットホイール37はその内周側にラチェット歯37aを有し、このラチェットホイール37はブラケット17に固定されている。一方、ロック爪38はラチェットホイール37のラチェット歯37aと係合可能に、ラチェットホイール37の内側に配されている。また、ロック爪38は巻取軸3に対して回転可能なベース板31に取り付けられ、このベース板31はナット32によってドラム4側のネジ部(図示省略)と螺合連結されている。これにより、ラチェットホイール37と係合していない状態ではロック爪38はドラム4と一体的に回転可能となっている。また、ロック爪38は、前記実施形態と同様に、ドラム4の回転速度が所定速度以上となったときにラチェットホイール37のラチェット歯37aと係合する。ここで、ロック爪38が、前記実施形態と同じく、ドラム4の回転速度が大きくなったときに一方の端部が強く蹴り上げられたときに他方の端部がラチェット歯37aと係合する構成(図3参照)であってもよいが、遠心力によって外側に変位することでラチェット歯37aと係合する構成のものであってもよい。
【0062】
この構成において、ドラム4とロック爪38との連結部、即ち、ドラム4側のネジ部と、ロック爪38側のナット32との間に衝撃吸収部材(例えば、前記実施形態の衝撃吸収部材26,27(図6参照)や、先に述べた変更形態のテーパー状のネジ機構(図9参照)など)が介挿される。そして、ロック爪38がラチェットホイール37と係合してドラム4の回転がロックされた状態で、衝撃荷重によってドラム4に命綱5の引き出し方向にトルクが作用したときには、ドラム4がロック爪38(ベース板31)に対して回転しながら接近するが、その際に、ドラム4とロック爪38との間の衝撃吸収部材によって、ドラム4に回転抵抗が付与される。
【0063】
5]命綱5はワイヤロープには限られず、ワイヤロープ以外の長尺体(例えば、ベルトなど)を採用することもできる。
【0064】
(衝撃吸収効果の検証)
次に、本発明の衝撃吸収部材を備えた墜落阻止器具の衝撃吸収効果について、実験により検証した。尚、ここでは、図8(d)に示される、中央の1本の円弧状内面溝26aとその両側の2本の円弧状外面溝26bを有する衝撃吸収部材26を用いて検証した。そして、独立行政法人労働安全衛生総合研究所が発行する「安全帯構造指針」(TR−No.35)の定める試験条件に準じ、ウエイトの重量を120kgとした落下試験を実施した。その結果を図12に示す。
【0065】
安全帯構造指針では、質量85kgの落下体(ウエイト)を用いて落下試験を行ったときに、落下体を保持でき、且つ、最大衝撃荷重が8.0kNを超えず、さらに、落下距離は2.0mを超えないことが求められている。これに対して、図12に示すように、本試験では、最大衝撃荷重は約4kNであり、また、落下距離は1.1mであった。即ち、安全帯構造指針の定める試験よりも厳しい条件(本試験のウエイト:120kg>指針で定める落下体:85kg)での試験においても、安全帯構造指針の求める数値を満足しており、このことから、本発明の墜落阻止器具が非常に高い衝撃吸収効果を奏することが理解される。
【符号の説明】
【0066】
1 墜落阻止器具
2 本体ケース
3 巻取軸
3a 段付き部
4 ドラム
5 命綱
6 ゼンマイバネ
7 ラチェットホイール
7a ラチェット歯
8 ロック爪
16a 引き出し口
17,18 ブラケット
22b ネジ部
24 ナット
26 第1衝撃吸収部材
26a 内面溝
26b 外面溝
27 第2衝撃吸収部材
30 衝撃吸収部材
37 ラチェットホイール
38 ロック爪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ケースと、
前記本体ケースに内包された本体フレームと、
前記本体フレームに対して固定された巻取軸と、
前記本体ケース内に収容され、前記巻取軸に回転可能に取り付けられたドラムと、
一端部において前記ドラムに固定された状態で前記ドラムに巻取られるとともに、前記本体ケースに形成された引き出し口から引き出される命綱と、
前記ドラムを前記命綱の巻取り方向に付勢する巻取付勢手段と、
複数のラチェット歯を有し、前記ドラムと連結されてこのドラムと一体回転可能に前記巻取軸に取り付けられたラチェットホイールと、
前記本体フレームに設けられ、前記ドラムが所定速度以上で前記命綱の引き出し方向に回転したときに、前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯に係合して前記ラチェットホイールの回転をロックするロック爪を備え、
前記ドラムと前記ラチェットホイールの連結部において、両者の間に衝撃吸収部材が介挿され、
前記衝撃吸収部材は、前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムの前記ラチェットホイールに対する回転を許容しつつ、前記ドラムに回転抵抗を付与することを特徴とする墜落阻止器具。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材が変形することにより、落下衝撃を吸収することを特徴とする請求項1に記載の墜落阻止器具。
【請求項3】
前記ドラムと前記ラチェットホイールはネジ部を介して螺合連結され、
前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムが前記ラチェットホイールに対して回転しながら軸方向に接近するとともに、前記衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰されることを特徴とする請求項1又は2に記載の墜落阻止器具。
【請求項4】
前記ドラムが前記ラチェットホイールに接近して前記衝撃吸収部材が所定量押し潰されたときに、それ以上の前記ドラムの接近を規制するストッパーを有することを特徴とする請求項3に記載の墜落阻止器具。
【請求項5】
前記ドラムと前記ラチェットホイールとの間に、第1の衝撃吸収部材と第2の衝撃吸収部材がそれぞれ介挿され、
前記第2の衝撃吸収部材は、前記第1の衝撃吸収部材と比べて、前記ドラム及び前記ラチェットホイールとの間に軸方向に関して大きな隙間を空けた状態で配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の墜落阻止器具。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材は筒状に形成され、この筒状の衝撃吸収部材の内面又は外面の少なくとも一方に環状溝が形成されていることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の墜落阻止器具。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材の軸方向中央部の内面に1本の環状の内面溝が形成され、
前記衝撃吸収部材の軸方向両端部の外面に、前記内面溝を軸方向において挟むように2本の環状の外面溝が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の墜落阻止器具。
【請求項8】
前記巻取軸には、前記衝撃吸収部材が押し潰されたときの前記ラチェットホイールの軸方向の移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とする請求項3〜7の何れかに記載の墜落阻止器具。
【請求項1】
本体ケースと、
前記本体ケースに内包された本体フレームと、
前記本体フレームに対して固定された巻取軸と、
前記本体ケース内に収容され、前記巻取軸に回転可能に取り付けられたドラムと、
一端部において前記ドラムに固定された状態で前記ドラムに巻取られるとともに、前記本体ケースに形成された引き出し口から引き出される命綱と、
前記ドラムを前記命綱の巻取り方向に付勢する巻取付勢手段と、
複数のラチェット歯を有し、前記ドラムと連結されてこのドラムと一体回転可能に前記巻取軸に取り付けられたラチェットホイールと、
前記本体フレームに設けられ、前記ドラムが所定速度以上で前記命綱の引き出し方向に回転したときに、前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯に係合して前記ラチェットホイールの回転をロックするロック爪を備え、
前記ドラムと前記ラチェットホイールの連結部において、両者の間に衝撃吸収部材が介挿され、
前記衝撃吸収部材は、前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムの前記ラチェットホイールに対する回転を許容しつつ、前記ドラムに回転抵抗を付与することを特徴とする墜落阻止器具。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材が変形することにより、落下衝撃を吸収することを特徴とする請求項1に記載の墜落阻止器具。
【請求項3】
前記ドラムと前記ラチェットホイールはネジ部を介して螺合連結され、
前記ロック爪による前記ラチェットホイールのロック状態において、前記ドラムに前記命綱の引き出し方向へのトルクが作用したときに、前記ドラムが前記ラチェットホイールに対して回転しながら軸方向に接近するとともに、前記衝撃吸収部材が圧縮されて押し潰されることを特徴とする請求項1又は2に記載の墜落阻止器具。
【請求項4】
前記ドラムが前記ラチェットホイールに接近して前記衝撃吸収部材が所定量押し潰されたときに、それ以上の前記ドラムの接近を規制するストッパーを有することを特徴とする請求項3に記載の墜落阻止器具。
【請求項5】
前記ドラムと前記ラチェットホイールとの間に、第1の衝撃吸収部材と第2の衝撃吸収部材がそれぞれ介挿され、
前記第2の衝撃吸収部材は、前記第1の衝撃吸収部材と比べて、前記ドラム及び前記ラチェットホイールとの間に軸方向に関して大きな隙間を空けた状態で配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の墜落阻止器具。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材は筒状に形成され、この筒状の衝撃吸収部材の内面又は外面の少なくとも一方に環状溝が形成されていることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の墜落阻止器具。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材の軸方向中央部の内面に1本の環状の内面溝が形成され、
前記衝撃吸収部材の軸方向両端部の外面に、前記内面溝を軸方向において挟むように2本の環状の外面溝が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の墜落阻止器具。
【請求項8】
前記巻取軸には、前記衝撃吸収部材が押し潰されたときの前記ラチェットホイールの軸方向の移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とする請求項3〜7の何れかに記載の墜落阻止器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−152316(P2012−152316A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12758(P2011−12758)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【出願人】(000106287)サンコー株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【出願人】(000106287)サンコー株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
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