説明

壁紙用フィルム及び壁装材

【課題】防汚性及び消臭性に優れ、押出成形によって良好に製造される壁紙用フィルムを提供する。また、該壁紙用フィルムを有する壁装材を提供する。
【解決手段】表面側となるA層と、壁紙側となるB層とを有する壁紙用フィルムであって、前記A層は、粒子状吸着剤(I)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、前記B層は、粒子状吸着剤(II)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、前記粒子状吸着剤(I)及び前記粒子状吸着剤(II)のうちのいずれか一方が、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤であり、かつ、前記粒子状吸着剤(I)及び前記粒子状吸着剤(II)のうちの他方が、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤である壁紙用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性及び消臭性に優れ、押出成形によって良好に製造される壁紙用フィルムに関する。また、本発明は、該壁紙用フィルムを有する壁装材に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の壁やクローゼット、家具等に貼り付けて使用される壁紙としては、諸物性に優れ、成形加工性もよく安価であるという理由から塩化ビニル層を含む塩化ビニル壁紙が多用されている。しかし、塩化ビニル壁紙は汚れやすく、また、一度汚れるとその汚れが落ちにくいという問題があった。また、塩化ビニル壁紙は、一般に可塑剤が配合されているため、その可塑剤が表面にブリードして空気中の浮遊物が付着することにより汚れが生じやすいという問題もあった。
【0003】
塩化ビニル壁紙に防汚性を付与する手段の一つとして、防汚性を有する樹脂からなる基材層を有する防汚フィルムを、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に積層し、接着する方法が知られている。従来、このような基材層としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)やアクリル系フィルムが使用されており、特にEVOHフィルムが広く使用されている。また、例えば、特許文献1には、基材層として透明2軸延伸ポリエステルフィルムを用いた防汚フィルムが開示されており、また、特許文献2には、基材層として共重合ポリエステルフィルムを用いた防汚フィルムが開示されている。
【0004】
一方、生活者の清潔志向が進み、壁紙には、体臭、食品臭、ペット、生ゴミ等の生活臭等の不快感を醸し出す悪臭の消臭機能が求められている。また、壁紙等の建材から発生する微量の揮発性有機化合物が生活者の目、鼻、喉等の粘膜に影響を及ぼす、いわゆるシックハウス症候群の問題も重要視されている。
【0005】
このような生活環境の汚染を低減するために、消臭性に優れた壁紙の開発が行われている。
例えば、特許文献3には、ポリアミンを担持した多孔質二酸化ケイ素、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト化合物又はハイドロタルサイト焼成物の少なくとも1種類を壁紙に含有させた消臭性壁紙が開示されている。また、例えば、特許文献4には、基材層と表面層からなる壁紙において、表面層の上側に、多孔質無機物質とアミン化合物と金属酸化物からなる消臭剤が、バインダー樹脂により浸透剤とともに固着されている消臭性壁紙が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−232415号公報
【特許文献2】特開平07−290667号公報
【特許文献3】特開平11−286899号公報
【特許文献4】特開2006−348430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、防汚性及び消臭性に優れ、押出成形によって良好に製造される壁紙用フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、該壁紙用フィルムを有する壁装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面側となるA層と、壁紙側となるB層とを有する壁紙用フィルムであって、前記A層は、粒子状吸着剤(I)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、前記B層は、粒子状吸着剤(II)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、前記粒子状吸着剤(I)及び前記粒子状吸着剤(II)のうちのいずれか一方が、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤であり、かつ、前記粒子状吸着剤(I)及び前記粒子状吸着剤(II)のうちの他方が、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤である壁紙用フィルムである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、壁紙に防汚性と消臭性との両方を付与することを目的として、防汚性を有する樹脂からなる防汚層に、消臭性を有する粒子状吸着剤を添加することを検討した。その結果、本発明者は、粒子状吸着剤の種類によって除去することのできる悪臭の種類が異なっており、例えば、特にアセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭を除去するためには、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤が有効であり、特にアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン等の悪臭を除去するためには、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤が有効であることを見出した。
しかしながら、生産性の観点からは押出成形により防汚層を製造することが好ましいのに対し、1つの層に、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤とアミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤との両方を添加した場合には、これらの粒子状吸着剤が互いに影響し合うために押出成形による製膜を良好に行うことができないという新たな問題が生じた。
【0010】
この問題に対し、本発明者は、粒子状吸着剤と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有する表面側となるA層に、粒子状吸着剤と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有するB層を積層することを検討した。本発明者は、A層及びB層のうちのいずれか一方に、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤を、A層及びB層のうちの他方に、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤を用いることにより、防汚性に優れるとともに幅広い種類の悪臭に対して消臭性に優れた壁紙用フィルムを押出成形によって良好に製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の壁紙用フィルムは、表面側となるA層と、壁紙側となるB層とを有する。
上記A層は、粒子状吸着剤(I)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、上記B層は、粒子状吸着剤(II)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有する。
上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)は消臭性を有することから、上記A層が上記粒子状吸着剤(I)を含有し、上記B層が上記粒子状吸着剤(II)を含有することより、上記A層と上記B層とはいずれも消臭効果を発揮することができ、本発明の壁紙用フィルムは消臭性に優れたものとなる。
【0012】
上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)の平均粒子径としては特に限定されないが、好ましい下限が0.5μm、好ましい上限が20μmである。上記平均粒子径が上記範囲を外れると、上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)の結晶性ポリプロピレン系樹脂に対する分散性が低下して凝集が生じることがあり、製膜できなかったり消臭性を均一に有する層が得られなかったりすることがある。上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)の平均粒子径のより好ましい下限は1μm、より好ましい上限は10μmである。
なお、本明細書中、平均粒子径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置(LA−500、堀場製作所社製)等を用いて測定した粒度分布より得られる、最頻粒子径を意味する。
【0013】
上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)の比表面積としては特に限定されないが、好ましい下限が100m/g、好ましい上限が900m/gである。上記比表面積がこの範囲にあると、上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)は良好な消臭性能を示すことができる。
【0014】
上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)を構成する基材粒子状吸着剤としては、結晶性ポリプロピレン系樹脂に対する分散性が特に良いことから、リン酸塩、ケイ酸塩、金属酸化物及び金属フタロシアニン錯体からなる群より選択される少なくとも1つを含有することが好ましく、リン酸塩及び/又はケイ酸塩を含有することがより好ましい。
これら以外の基材粒子状吸着剤を用いる場合には、上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)の結晶性ポリプロピレン系樹脂に対する分散性が低下して凝集が生じることがあり、製膜できなかったり消臭性を均一に有する層が得られなかったりすることがある。
【0015】
本明細書中、基材粒子状吸着剤とは、粒子状吸着剤(I)及び粒子状吸着剤(II)のベースとなる粒子状吸着剤を意味する。上記基材粒子状吸着剤にアミノ基を有する化合物を担持させたり金属を担持させたりすることにより、粒子状吸着剤(I)又は粒子状吸着剤(II)とすることができる。また、基材粒子状吸着剤をそのまま粒子状吸着剤(I)又は粒子状吸着剤(II)として用いてもよい。
【0016】
上記リン酸塩としては特に限定されないが、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム等が挙げられる。なかでも、結晶性ポリプロピレン系樹脂に対する分散性が向上し、上記A層及び上記B層の消臭性が向上することから、リン酸ジルコニウムが好ましい。
上記ケイ酸塩としては特に限定されないが、例えば、ゼオライト等が挙げられる。
【0017】
上記金属酸化物としては特に限定されないが、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂に対する分散性が向上することから、酸化アルミナ、酸化ベリリウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛等が好ましい。
上記金属フタロシアニン錯体としては、例えば、コバルト−フタロシアニン化合物、鉄−フタロシアニン化合物等が挙げられる。
【0018】
上記粒子状吸着剤(I)及び上記粒子状吸着剤(II)は、いずれか一方が、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤であり、かつ、他方が、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤である。
このような粒子状吸着剤を含有することにより、上記A層及び上記B層は押出成形によって良好に製造される。なお、1つの層が、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤とアミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤との両方を含有すると、これらの粒子状吸着剤が互いに影響し合うために押出成形による製膜を良好に行うことができない。
また、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤は、特にアセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭を除去するために有効であり、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤は、特にアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン等の悪臭を除去するために有効である。このように除去することのできる悪臭の種類が異なる粒子状吸着剤を含有することにより、本発明の壁紙用フィルムは幅広い種類の悪臭に対して消臭性に優れたものとなる。
【0019】
本明細書中、アミノ基を有する化合物を担持する(又は担持しない)粒子状吸着剤とは、上述したような基材粒子状吸着剤にアミノ基を有する化合物を担持する(又は担持しない)粒子状吸着剤を意味する。
上記アミノ基を有する化合物としては、分子内にアミノ基を1個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミン等が挙げられる。なかでも、分子内に第1級アミノ基を1個以上有する化合物が好ましい。
【0020】
上記基材粒子状吸着剤に上記アミノ基を有する化合物を担持させる方法としては特に限定されず、例えば、上記アミノ基を有する化合物を水等で希釈した液を上記基材粒子状吸着剤と混合して、上記アミノ基を有する化合物を均一に担持した粒子状吸着剤を得る方法が挙げられる。このような方法においては、通常、基材粒子状吸着剤に対して過剰量のアミノ基を有する化合物を用いるため、混合後は純水で洗浄し、得られた粒子状吸着剤の表面に付着した過剰のアミノ基を有する化合物を除去した後、50〜120℃で乾燥を行う。
【0021】
上記アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤としては、例えば、酸化ケイ素を上記アミノ基を有する化合物で処理した酸化ケイ素等が好ましい。
【0022】
上記アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤は、粒子状吸着剤の内部に金属を担持していてもよい。
上記金属としては特に限定されず、金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン又はバリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等が挙げられる。また、上記金属としては、例えば、鉄、銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、ジルコニウム、チタン、スズ、セリウム、ハフニウム等も挙げられる。例えば、アンモニウムイオンとのイオン交換により、上記基材粒子状吸着剤に上記金属を担持させることができる。なかでも、ジルコニウム、チタン、銀、銅又は亜鉛が好ましい。
【0023】
上記アミノ基を有する化合物を担持せず、かつ、金属を担持する粒子状吸着剤としては、例えば、銀又は銅を担持するリン酸ジルコニウム、銀を担持するゼオライト、金属フタロシアニン錯体を担持するゼオライト等が挙げられる。
【0024】
上記A層又は上記B層中の上記粒子状吸着剤(I)又は上記粒子状吸着剤(II)の含有量の好ましい下限は3重量%、好ましい上限は15重量%である。上記粒子状吸着剤(I)又は上記粒子状吸着剤(II)の含有量が3重量%未満であると、上記A層又は上記B層の消臭性が低下することがある。上記粒子状吸着剤(I)又は上記粒子状吸着剤(II)の含有量が15重量%を超えると、上記A層の防汚性が低下したり、上記A層又は上記B層のエンボス追従性が低下したりすることがある。また、上記粒子状吸着剤(I)又は上記粒子状吸着剤(II)の含有量が15重量%を超えると、上記A層又は上記B層を押出成形によって良好に製造できないことがある。上記A層又は上記B層中の上記粒子状吸着剤(I)又は上記粒子状吸着剤(II)の含有量のより好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0025】
上記結晶性ポリプロピレン系樹脂は防汚性に優れることから、表面側となる上記A層が上記結晶性ポリプロピレン系樹脂を含有することにより、本発明の壁紙用フィルムは防汚性に優れたものとなる。また、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂は、低密度であり悪臭の透過性に優れることから、上記A層及び上記B層は消臭性に優れたものとなる。更に、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂は押出成形に適した融点を有することから、上記A層及び上記B層は押出成形によって良好に製造される。
【0026】
また、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂はエンボス追従性にも優れているため、発泡した塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に対してであっても、本発明の壁紙用フィルムを強固に接着させることができる。なお、本明細書中、エンボス追従性とは、壁紙のデザインである凹凸等に壁紙用フィルムが追従することである。エンボス追従性がない壁紙用フィルムを壁紙の表面に接着した場合は、部分的に色が白く見えたり、表面の凹凸等がシャープではなくなったりする。
【0027】
上記結晶性ポリプロピレン系樹脂としては特に限定されず、例えば、ホモのポリプロピレン樹脂、プロピレンと共重合可能なモノマー1種以上とプロピレンとの共重合体等が挙げられる。上記プロピレンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサドデセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。これらの結晶性ポリプロピレン系樹脂のなかでも、悪臭の透過性により優れ、上記A層及び上記B層の消臭性が向上することから、プロピレンと共重合可能なモノマー1種以上とプロピレンとの共重合体が好ましく、プロピレン−エチレンブロック共重合体がより好ましい。なお、非晶性ポリプロピレンを用いた場合には、上記A層の油性の汚れに対する防汚性が不充分となる。
なお、本明細書中、「結晶性」とは、原料ペレット又はフィルムを示差走査熱量測定(DSC)した際に、明確な融点ピークが観測されることをいう。
【0028】
上記A層及び上記B層は、本発明の壁紙用フィルムの特性を阻害しない範囲で、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。
上記他の樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂等が挙げられる。上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の極性基を有しないポリエチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の極性基を有するポリエチレン系樹脂等が挙げられる。
上記ポリエチレン系樹脂のなかでも、上記A層に用いられる場合には、上記A層の防汚性を損なわないために、極性基を有しないポリエチレン系樹脂が好ましく、上記A層が短時間で消臭効果を発揮できることから、低密度ポリエチレン(LDPE)がより好ましい。
【0029】
上記A層又は上記B層が上記ポリエチレン系樹脂を含有する場合、上記A層又は上記B層中の上記ポリエチレン系樹脂の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。上記ポリエチレン系樹脂の含有量が10重量%未満であると、壁紙用フィルムは、悪臭を除去するまでに時間がかかることがある。上記ポリエチレン系樹脂の含有量が50重量%を超えると、壁紙用フィルムの防汚性が低下したり耐熱性が低下したりすることがある。
【0030】
上記A層及び上記B層は、本発明の壁紙用フィルムの特性を阻害しない範囲で、難燃剤、防カビ剤、抗菌剤、防湿剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、滑剤、充填剤、着色剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0031】
上記A層及び上記B層の厚さは特に限定されず、壁紙用フィルムの性能、価格等を考慮して適宜決定されるが、それぞれの厚さの好ましい下限が1μm、好ましい上限が50μmである。厚さが1μm未満であると、壁紙用フィルムは外部からの衝撃により、容易に破損することがあり、また、充分な防汚性を発揮することができないことがある。厚さが50μmを超えると、製造コストの高騰を招くとともに、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に表された図柄等の意匠が隠蔽されたり、壁紙用フィルムの可撓性が低下したりすることがある。
【0032】
本発明の壁紙用フィルムは、後述する接着層と上記B層とをより強固に接着させるために、上記B層上に他の層を有していてもよい。このような他の層を、本明細書中、C層ともいう。
上記C層は、上記A層及び上記B層と同様に、上述したような結晶性ポリプロピレン系樹脂を含有することが好ましい。また、上記C層は、後述する接着層との接着性に影響しない範囲で、上記A層及び上記B層と同様に、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂以外の他の樹脂を含有していてもよく、また、コロナ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0033】
上記C層の厚さとしては特に限定されないが、好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。厚さが上記範囲を外れると、壁紙用フィルムは、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に対する接着性が低下することがある。
【0034】
本発明の壁紙用フィルムは、上記A層とは反対側の表面に、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面と接着するための接着層を有していてもよい。
上記接着層は、ポリエステルポリオール−アクリル共重合体とイソシアナートとを含有することが好ましい。上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体は、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層に対する接着性を確保する役割を果たす。上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体としては、例えば、公知のポリエステルポリオール系化合物とアクリロイル基含有ヒドロキシ化合物とを主原料として製造されるもの等が挙げられる。
【0035】
上記接着層中の上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は95重量%である。上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体の含有量が10重量%未満であると、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に対する強固な接着性が得られないことがある。上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体の含有量が95重量%を超えると、上記接着層のアンチブロッキング性が低下することがある。
上記接着層中の上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体の含有量のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は60重量%である。
【0036】
上記イソシアナートは、上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体を架橋させる架橋剤として機能する。上記イソシアナートとしては、例えば、ウレタン樹脂を製造する際に用いられる公知の有機イソシアナートが挙げられる。また、上記イソシアナートは、加熱によりイソシアナートを活性化させるブロック化剤によりブロック化されたブロックイソシアナートであることが好ましい。
上記ブロック化剤としては特に限定されず、例えば、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム等のオキシム系;ε−カプロラクタム等のアミド系;マロン酸ジメチル、アセト酢酸メチル等の活性メチレン系;3,5−ジメチルピラゾール等のピラゾール系化合物が挙げられる。その他、フェノール系、アルコール系、イミダゾール系、尿素系等のブロック化剤を使用することもできる。これらのブロック化剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記接着層中の上記イソシアナートの含有量としては特に限定されないが、上記イソシアナートのNCO含有率が12%である場合、上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体(固形分100%)100重量部に対して、好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は30重量部であり、より好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は20重量部である。上記イソシアナートの含有量が0.5重量部未満であると、上記ポリエステルポリオール−アクリル共重合体の軟化点が下がらず、また、架橋も充分しないことから、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に対する低温での強固な接着性が得られないことがある。上記イソシアナートの含有量が30重量部を超えると、イソシアナートの配合量が多くなりすぎ、軟化点が室温近くになって粘着剤化し、ブロッキングが強くなることがある。
【0038】
なお、上記ポリエステルポリオール系化合物、アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物及びイソシアナートは、それぞれ単体として市販されているものを使用してもよく、また、2以上の組み合わせで共重合体として市販されているものを使用してもよい。
【0039】
上記接着層は、上記接着層としての特性を阻害しない範囲であれば、更に、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、滑剤、充填剤、着色剤等の添加物を含有していてもよいし、目的に応じて他の樹脂を含有していてもよい。
上記他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、エチレンとアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等のモノマーとからなる2元共重合体、3元共重合体等が挙げられる。
【0040】
上記接着層の厚さとしては特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は20μmである。厚さが0.1μm未満であると、壁紙用フィルムの塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に対する接着力が不充分となることがあり、また、その接着力にばらつきが生じやすくなる。厚さが20μmを超えると、製造コストの高騰を招くとともに、壁紙用フィルムに反りが生じたり、塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層の表面に表された図柄等の意匠が隠蔽されたり、壁紙用フィルムの可撓性が低下したりすることがある。
【0041】
本発明の壁紙用フィルムを製造する方法としては、上記A層、上記B層及び必要に応じて上記C層を共押出法により同時に成形した後、必要に応じて接着剤液を塗工し、乾燥する方法が好ましい。例えば、Tダイによる共押出を行う場合、積層の方法としては、例えば、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式、又は、これらを併用した方法等が挙げられる。
上記A層、上記B層及び必要に応じて上記C層を共押出法により同時に成形する方法としては、例えば、各層を構成する樹脂又は樹脂ペレットをそれぞれ押出機に投入し、多層ダイスによりシート状に押出し、引取ロールにて冷却固定化した後、必要に応じて1軸又は2軸に延伸する方法等を用いることができる。
上記各層を構成する樹脂ペレットを作製する方法としては、例えば、上記結晶性ポリプロピレン系樹脂に上記粒子状吸着剤(I)又は上記粒子状吸着剤(II)を練り込んで樹脂ペレットとする方法等が挙げられる。
【0042】
本発明の壁紙用フィルムに塩化ビニル壁紙を積層することで、壁装材とすることができる。このような壁装材もまた本発明の1つである。
【0043】
上記塩化ビニル壁紙の塩化ビニル層としては、公知の塩化ビニル壁紙に使用されるいかなるものも挙げることができ、発泡体であっても非発泡体であってもよい。特に本発明の壁装材においては、高沸点の可塑剤を含有する塩化ビニル壁紙であっても好適に用いることができるため、使用可能な壁紙の種類が大幅に広がる。
また、本発明の壁紙用フィルムを積層した後に上記塩化ビニル層を発泡させてもよい。なお、上記塩化ビニル層に印刷を施す場合、印刷インキは、通常用いられるインキでよい。例えば、アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系、ウレタン系、セルロース系の樹脂に顔料、染料等の着色剤、分散剤、溶剤等を混合し溶解させたもの等が挙げられる。また、上記印刷は公知の方法により行うことができる。
【0044】
本発明の壁装材を製造する際、本発明の壁紙用フィルムを上記塩化ビニル層の表面に接着する方法としては特に限定されないが、熱圧着法により接着することが好ましい。熱圧着法は有機溶剤を用いないので、有機溶剤に起因する弊害、例えば、自然環境への影響、火災の危険性、作業者の健康面への影響及び資源の浪費等の問題を解決することができる。
【0045】
また、上記熱圧着法により本発明の壁紙用フィルムを塩化ビニル層の表面に接着する場合の処理条件としては特に限定されず、接着層を構成する材料、及び、その配合等より適宜決定される。また、塩化ビニル壁紙にエンボス加工を施す場合、該エンボス加工は、本発明の壁紙用フィルムと塩化ビニル層との熱圧着と同時に行ってもよく、後工程で行ってもよい。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、防汚性及び消臭性に優れ、押出成形によって良好に製造される壁紙用フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該壁紙用フィルムを有する壁装材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0048】
実施例及び比較例で使用した粒子状吸着剤及び樹脂を以下に示した。
(1)粒子状吸着剤
(1−1)アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤
・銀担持ゼオライト(平均粒子径2μm)
・ジルコニウムリン酸塩(平均粒子径1μm)
・銅担持ジルコニウムリン酸塩(平均粒子径4μm)
(1−2)アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤
・アミン化合物含有シリカ(平均粒子径8μm)
【0049】
(2)使用樹脂
(2−1)結晶性ポリプロピレン系樹脂
・プロピレン−エチレンブロック共重合体(b−PP)(三井化学社製:F707V、MFR=7.0g/10分、密度0.9g/cm、融点163℃)
(2−2)他の樹脂
・低密度ポリエチレン(LDPE)(日本ポリエチレン社製:カーネル KS430、MFR=5.0g/10分、密度0.87g/cm、融点45℃)
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポンポリケミカル社製:エバフレックスV523、MFR=14g/10分、密度0.96g/cm、融点105℃)
・タルク含有プロピレンホモ重合体(竹原化学社製:MAX6070TAL、MFR=1.0g/10分、密度1.67g/cm
【0050】
(実施例1)
(A層用樹脂ペレットの製造)
二軸混練押出機を用いて、プロピレン−エチレンブロック共重合体(b−PP)90重量%と粒子状吸着剤(I)(銀担持ゼオライト、平均粒子径2μm)10重量%とを200℃で溶融混練して、ストランド状に押出、冷却固化した後、カットしてA層用樹脂ペレットを得た。
【0051】
(B層用樹脂ペレットの製造)
二軸混練押出機を用いて、プロピレン−エチレンブロック共重合体(b−PP)56重量%とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)20重量%とタルク含有プロピレンホモ重合体14重量%と粒子状吸着剤(II)(アミン化合物含有シリカ、平均粒子径8μm)10重量%とを200℃で溶融混練して、ストランド状に押出、冷却固化した後、カットしてB層用樹脂ペレットを得た。
【0052】
(壁紙用フィルムの製造)
得られたA層用樹脂ペレット、B層用樹脂ペレット、及び、C層用の樹脂としてプロピレン−エチレンブロック共重合体(b−PP)を、夫々の押出機に投入し、押出温度190℃、多層Tダイスの温度190℃、キャストロール温度60℃、引取速度20m/minの条件で共押出を行い、A層(7μm)/B層(13μm)/C層(5μm)の三層構造からなる厚さ25μmのフィルムを得た。
メチルエチルケトン30重量部に対してポリエステルポリオールとアクリルとの共重合体(日本ポリウレタン工業社製:SH538A(固形分40%))30重量部を溶解した溶液にブロックイソシアナートであるポリイソシアナート(日本ポリウレタン工業社製:コロネート2507)2重量部を添加し、室温にて均一に分散させることにより接着剤液を調製した。得られた接着剤液を上記で得られたフィルムのC層上に乾燥後の厚さが2μmとなるように塗工した後、乾燥することにより、壁紙用フィルムを得た。
【0053】
(実施例2〜7及び比較例1〜2)
使用した樹脂及び粒子状吸着剤の種類及び配合量を、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、壁紙用フィルムを得た。
【0054】
<評価>
実施例及び比較例で得られた壁紙用フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0055】
(1)溶融押出
共押出により三層構造からなるフィルムを得たとき、押出温度にかかわらず製膜可能であった場合を○、押出温度の調整により製膜可能であった場合を△、押出温度にかかわらず製膜できなかった場合を×とした。
【0056】
(2)粒子状吸着剤の分散性
壁紙用フィルムのA層及びB層を目視にて観察した。粒子状吸着剤の凝集がほとんど見られなかった場合を○、粒子状吸着剤の分散状態があまり良好ではなかった場合を△、完全な分散不良であった場合を×とした。
【0057】
(3)防汚性
日本ビニル工業会の汚れ防汚商品性能評価規定に準じた方法により、得られた壁紙用フィルムのA層に醤油又はクレヨンを塗布し、24時間放置した。次いで、布に水を含ませて醤油を丁寧に拭き取り、又は、布に洗剤を含ませてクレヨンを丁寧に拭き取り、A層の表面を目視により以下の基準により評価した。
最も防汚性に優れていた場合(ほとんど汚れが観察できない状態)を5、最も防汚性に劣っていた場合(汚れが全く拭き取られない状態)を1とする5段階評価を行った。
【0058】
(4)消臭効果
2Lのテドラーバッグにレギュレーター排圧0.12MPa、流量計2.0L/min、30秒の条件で1Lの圧縮空気を封入し、アンモニア溶液10μL、トリメチルアミン溶液5μL、メチルメルカプタン溶液5μL、及び、アセトアルデヒド溶液5μLを、それぞれ、アンモニア200ppm、トリメチルアミン70ppm、メチルメルカプタン40ppm、又は、アセトアルデヒド30ppmとなるように投入した後、常温で1.5時間以上放置した。次いで、このテドラーバッグに、縦10cm×横10cm×厚み32μmの大きさに切断した、壁紙用フィルムを投入し、壁紙用フィルムの投入直後及び24時間後のアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、又は、アセトアルデヒドの濃度を測定した。初発濃度を100%としたときの24時間後の除去率(%)を求めた。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、防汚性及び消臭性に優れ、押出成形によって良好に製造される壁紙用フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該壁紙用フィルムを有する壁装材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側となるA層と、壁紙側となるB層とを有する壁紙用フィルムであって、
前記A層は、粒子状吸着剤(I)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、
前記B層は、粒子状吸着剤(II)と結晶性ポリプロピレン系樹脂とを含有し、
前記粒子状吸着剤(I)及び前記粒子状吸着剤(II)のうちのいずれか一方が、アミノ基を有する化合物を担持する粒子状吸着剤であり、かつ、前記粒子状吸着剤(I)及び前記粒子状吸着剤(II)のうちの他方が、アミノ基を有する化合物を担持しない粒子状吸着剤である
ことを特徴とする壁紙用フィルム。
【請求項2】
粒子状吸着剤(I)及び粒子状吸着剤(II)を構成する基材粒子状吸着剤は、リン酸塩、ケイ酸塩、金属酸化物及び金属フタロシアニン錯体からなる群より選択される少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1記載の壁紙用フィルム。
【請求項3】
A層中の粒子状吸着剤(I)の含有量が3〜15重量%、B層中の粒子状吸着剤(II)の含有量が3〜15重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の壁紙用フィルム。
【請求項4】
A層及びB層は、更に、ポリエチレン系樹脂10〜50重量%を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の壁紙用フィルム。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の壁紙用フィルムと塩化ビニル壁紙とを有することを特徴とする壁装材。

【公開番号】特開2012−210718(P2012−210718A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76540(P2011−76540)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】