説明

変倍光学系および撮像装置

【課題】負正2群ズ−ム構成の変倍光学系において、高諸元化および低コスト化を図る。
【解決手段】第1レンズ群G1は少なくとも1枚をプラスチックレンズとし、第2レンズ群G2は互いに隣接するいずれか2枚をプラスチックレンズとし、広角側から望遠側にかけて、第1レンズ群G1が物体側から像面側に単調に移動するとともに、第2レンズ群G2が像面側から物体側に単調に移動するようにし、広角端での全系の屈折力に対する各レンズの屈折力の比率をfw/fpiとし、第1レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP1、第2レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP2としたとき、下記条件式(1)および(2)を満足するようにする。
−0.22<P1<−0.01 (1)
−0.15<P2<−0.03 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCCDやCMOS等の撮像素子を用いた車載カメラや監視カメラ等に用いられる変倍光学系に関するもので、特に監視カメラ用に好適な変倍光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
監視カメラ用バリフォ−カルレンズ等に使用される変倍光学系は、使用者側で使用環境に応じた焦点距離、被写体距離を設定できる便利さもあって、監視カメラ用として近年市場が特に拡大している。一方では、低コストかつ高性能なレンズ系の開発要請も強くなっている。
【0003】
監視が主要目的である監視カメラでは、高視野角領域から標準画角までカバ−出来、かつ室内や屋外での使用に耐える事が求められるため、比較的構成が簡易でこれらの条件にある程度適う負正2群ズ−ムが多用されている。この負正2群ズ−ムは、負群先行で画角が広く取れる他、短い焦点距離のわりにバックフォ−カスを大きく出来る等、構成の簡素さに加え利点が多いことから広く用いられている。
【0004】
前述の使用目的から上記変倍光学系のレンズ諸元は、超広角域が含まれかつ大口径で明るいレンズ系が必要となるため、ある程度の性能を維持するためには従来の球面レンズ系ではレンズ構成枚数が多くなり、また大径で高コストなレンズとなりがちであった。
【0005】
そこで、現有技術でコスト低減を図るためには、構成枚数を少なくするとともに材料費の安価なプラスチック材料を多用する事が必要となる。
【0006】
このようなプラスチックレンズを含む負正2群ズ−ムの変倍光学系としては、例えば下記特許文献1〜4に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01−303409号公報
【特許文献2】特開2008−112000号公報
【特許文献3】特開2001−281544号公報
【特許文献4】特開2006−251437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プラスチックレンズを監視カメラ分野で活用する場合には技術課題も多い。これについては、特に温度変化や湿度変化等の環境変化で結像位置や性能を変化しにくくする事が必要であったり、また光学用プラスチック材料が非常に限定的でガラス材料に比べて自由度がなくレンズ設計上の制約となる事等が挙げられる。また、レンズ枚数を削減しながら高性能化を図るためには非球面技術の導入が不可欠である。
【0009】
さらに、監視カメラ分野では100度以上の超広角域をカバ−しつつ明るさがF1.4級となるようなレンズ諸元を達成することが求められるが、このような高諸元な変倍光学系を実現することは上記の特許文献1〜3では困難であった。また、特許文献4では、目標とする高諸元を満たしているが、製造上高価なガラス非球面レンズも含まれており低コストとはいえない。
【0010】
なお、デジタルカメラやムービーカメラでは、オートフォーカス機能が内蔵されているため像位置のズレは自動的に補正出来るが、監視カメラ分野では、オートフォーカス機能を有しないカメラにも取り付けられるようレンズ系のみで補償することが好ましい。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、高諸元を満たしつつ低コストな変倍光学系およびこの変倍光学系を備えた撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
プラスチック光学材料は、線膨張係数が硝子材料に比べて1桁大きく、温度変化や湿度変化等の環境変化による形状変化や屈折率変化も硝子材料に比べて大きくなるため、レンズ系の結像位置変化や結像性能劣化につながり、環境変化に弱いとされてきた。しかしながら、製造コストは製造数量が多ければガラス球面レンズの1/3程度ですみ、レンズ系のロ−コスト化には不可欠の材料である。これまでは比較的低諸元の光学系で価格優先の場合に使用されてきたが、コスト競争の激化とともに高諸元の光学系にも導入が不可欠となった。
【0013】
プラスチック光学材料については、以前から吸湿による屈折率の経時変化や成形歪による偏光・屈折率不均一化等、結像性能を劣化させる要因を備えることから製造上問題となっていたが、技術改善により今日では吸湿性の極少ないものや歪の小さい材料を選択できるようになってきた。従って、残る課題は温度変化による形状変化と屈折率変化であるが、ともに材料の線膨張係数に依存するといってよく、温度に対する数値変化を定量化でき、さらにプラスチック鏡枠材料の位置変化と、当該レンズの光軸方向位置変化量に対する結像面の光軸方向位置変化量(以後、変動寄与率と表記)が小さいガラス材料の屈折率変化等も考慮して総合的に検討できるようになった。
【0014】
こうした開発環境下で、積極的にプラスチック材料を使用し、光学設計時にプラスチック材料の変化特性を取り込み、その結果、以下のような請求条件を見いだし、目的の仕様を満たす変倍光学系を案出できた。
【0015】
すなわち、本発明の変倍光学系は、物体側より順に、負の屈折力を持つ第1レンズ群および正の屈折力を有する第2レンズ群を有する変倍光学系であって、第1レンズ群は、物体側から順に、物体側に凸面を向けた負レンズ、両凹レンズおよび正レンズを有するとともに、これらのうち少なくとも1枚はプラスチックレンズであり、第2レンズ群は、物体側から順に、両凸レンズ、両凹レンズおよび正レンズを有するとともに、これらのうち互いに隣接するいずれか2枚はプラスチックレンズであり、広角側から望遠側にかけて、第1レンズ群が物体側から像面側に単調に移動するとともに、第2レンズ群が像面側から物体側に単調に移動し、各レンズ群におけるプラスチックレンズの順番を、各々物体側から順にi番目とした場合の各レンズの焦点距離をfpi(i=1、2、・・n:nは自然数)、全系の広角端での焦点距離をfw、広角端での全系の屈折力に対する各レンズの屈折力の比率をfw/fpiとし、第1レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP1(P1=Σ(fw/fpi):1≦i≦n1:n1は第1レンズ群のプラスチックレンズの総数)、第2レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP2(P2=Σ(fw/fpi):1≦i≦n2:n2は第2レンズ群のプラスチックレンズの総数)としたとき、下記条件式(1)および(2)を満足することを特徴とするものである。
−0.22<P1<−0.01 (1)
−0.15<P2<−0.03 (2)
【0016】
本発明の変倍光学系において、第1レンズ群は、少なくとも1枚の負プラスチックレンズを含み、第2レンズ群は、少なくとも1枚のレンズが非球面レンズであることが好ましい。
【0017】
また、第1レンズ群の合成焦点距離をfF、第2レンズ群の合成焦点距離をfBとしたとき、下記条件式(3)を満足することが好ましい。
−1.30<fB/fF<−1.10 (3)
【0018】
また、第2レンズ群中の両凸レンズの焦点距離をf4、正レンズの焦点距離をf6としたとき、下記条件式(4)を満足することが好ましい。
0.90<f6/f4< 1.20 (4)
【0019】
また、本発明の撮像装置は、上記記載の変倍光学系と、この変倍光学系によって結像された被写体の像を撮像する撮像素子とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
物体側より順に、負の屈折力を持つ第1レンズ群および正の屈折力を有する第2レンズ群を有する変倍光学系において、第1レンズ群は、物体側から順に、物体側に凸面を向けた負レンズ、両凹レンズおよび正レンズを有するとともに、これらのうち少なくとも1枚はプラスチックレンズとし、第2レンズ群は、物体側から順に、両凸レンズ、両凹レンズおよび正レンズを有するとともに、これらのうち互いに隣接するいずれか2枚はプラスチックレンズとし、広角側から望遠側にかけて、第1レンズ群が物体側から像面側に単調に移動するとともに、第2レンズ群が像面側から物体側に単調に移動し、各レンズ群におけるプラスチックレンズの順番を、各々物体側から順にi番目とした場合の各レンズの焦点距離をfpi(i=1、2、・・n:nは自然数)、全系の広角端での焦点距離をfw、広角端での全系の屈折力に対する各レンズの屈折力の比率をfw/fpiとし、第1レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP1(P1=Σ(fw/fpi):1≦i≦n1:n1は第1レンズ群のプラスチックレンズの総数)、第2レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP2(P2=Σ(fw/fpi):1≦i≦n2:n2は第2レンズ群のプラスチックレンズの総数)としたとき、条件式(1)および(2)を満足するようにしているため、高諸元を満たしつつ低コストな変倍光学系を実現することができる。
【0021】
本発明の撮像装置は、本発明の変倍光学系を備えているため、広角で精度の高い映像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図2】本発明の実施例2にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図3】本発明の実施例3にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図4】本発明の実施例4にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図5】本発明の実施例5にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図6】本発明の実施例6にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図7】本発明の実施例7にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図8】本発明の実施例8にかかる撮像レンズのレンズ構成を示す断面図
【図9】本発明の実施例1にかかる撮像レンズの各収差図
【図10】本発明の実施例2にかかる撮像レンズの各収差図
【図11】本発明の実施例3にかかる撮像レンズの各収差図
【図12】本発明の実施例4にかかる撮像レンズの各収差図
【図13】本発明の実施例5にかかる撮像レンズの各収差図
【図14】本発明の実施例6にかかる撮像レンズの各収差図
【図15】本発明の実施例7にかかる撮像レンズの各収差図
【図16】本発明の実施例8にかかる撮像レンズの各収差図
【図17】本発明の実施の形態にかかる撮像装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態にかかる変倍光学系の構成を示す断面図であり、後述の実施例1の変倍光学系に対応している。
【0025】
本発明の実施の形態にかかる変倍光学系1は、光軸Zに沿って、物体側より順に、負の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、開口絞りStと、正の屈折力を有する第2レンズ群G2とを備え、第1レンズ群G1は、物体側から順に、物体側に凸面を向けた負レンズL1、両凹レンズL2および正レンズL3から構成され、第2レンズ群G2は、物体側から順に、両凸レンズL4、両凹レンズL5および正レンズL6から構成されている。
【0026】
なお、図1に示す開口絞りStは必ずしも大きさや形状を表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。また、図1では、左側が物体側、右側が像側である。図1では、上段に広角端における無限遠合焦時のレンズ配置を示し、中段に中間画角における無限遠合焦時のレンズ配置を示し、下段に望遠端における無限遠合焦時のレンズ配置を示し、広角端から望遠端へ変倍するときの各レンズ群の概略的な移動軌跡を実線で示している。
【0027】
また、図1では像面を5として図示している。例えばこの変倍光学系を撮像装置に適用する際には、像面5に撮像素子の撮像面が位置するように配置される。
【0028】
変倍光学系を撮像装置に適用する際には、レンズを装着するカメラ側の構成に応じて、最も像側のレンズと撮像面との間にカバーガラスや、紫外線カットフィルタ、赤外線カットフィルタ、ローパスフィルタなどの各種フィルタ等を配置することが好ましく、図1では、最も像側のレンズ群と像面5との間に、これらを想定した平行平板状の光学部材PPが配置された例を示している。
【0029】
ここで、上記変倍光学系1は、第1レンズ群G1を構成するレンズのうち少なくとも1枚はプラスチックレンズであり、第2レンズ群G2を構成するレンズのうち互いに隣接するいずれか2枚はプラスチックレンズであり、広角側から望遠側にかけて、第1レンズ群が物体側から像面側に単調に移動するとともに、第2レンズ群が像面側から物体側に単調に移動するものである。
【0030】
さらに、各レンズ群におけるプラスチックレンズの順番を、各々物体側から順にi番目とした場合の各レンズの焦点距離をfpi(i=1、2、・・6)、全系の広角端での焦点距離をfw、広角端での全系の屈折力に対する各レンズの屈折力の比率をfw/fpiとし、第1レンズ群G1のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP1(P1=Σ(fw/fpi):1≦i≦3)、第2レンズ群G2のプラスチックレンズに関するfw/fpiの合計をP2(P2=Σ(fw/fpi):4≦i≦6)としたとき、下記条件式(1)および(2)を満足するものである。
−0.22<P1<−0.01 (1)
−0.15<P2<−0.03 (2)
【0031】
本発明に係る光学系は、負屈折力の第1レンズ群G1および正屈折力の第2レンズ群G2の2つのレンズ群を相互に移動させて変倍する光学系であるので、広角端と望遠端とでは、結像面に対する変動寄与率が各々異なる。本発明の目指す仕様では、おおよそ広角端では第1レンズ群G1が0.1倍、第2レンズ群G2が0.9倍、望遠端では第1レンズ群G1が0.7倍、第2レンズ群G2が0.3倍の変動寄与率がある。
【0032】
これを、固体撮像素子面を基準に考えると、コスト低減に繋がるプラスチック材を鏡枠に使用した場合に、各群の基準位置からのプラスチック鏡枠の温度に対する伸縮により、+35℃の温度上昇によって、結像位置は広角端で−0.03mm、望遠端で−0.04mm程度変化する。従って光学系にプラスチックレンズを導入する際は、これを考慮して相殺するように補正する必要がある。
【0033】
第1レンズ群G1は、物体側から2枚の負レンズと1枚の正レンズの配置をとる。これは、広角端で100度を超える超広角を達成するためには、負の歪曲収差を過剰に生じせしめる事が必要だからであり、また2枚の負レンズの屈折力配分に自由度が広がるとともに、温度による結像点位置変動を抑え易くなるからである。この第1レンズ群G1において、正レンズ1枚だけのプラスチック化は温度による結像点位置変動が過度に大きく成りすぎて得策でない。また3枚ともプラスチック材料で構成することも考えられるが、負屈折力が勝るので、温度による結像点位置変動が負に大きく外れ適用できない。従って、負レンズ1枚のみプラスチック化するか、正負レンズ1枚ずつの組み合わせをプラスチック化することが好ましい。
【0034】
第2レンズ群G2は、全体が正屈折力であるので、物体側から正レンズL4、負レンズL5、正レンズL6のトリップレットの構成にすると、性能を画面全体で良好に維持できる。また、このうち互いに隣接するいずれか2枚をプラスチックレンズとして選択すればよい。ここで、互いに隣接する2枚のレンズとしたのは、温度によるプラスチック材料の屈折率変化が大きく球面収差の劣化等の収差変動を互いに近接するプラスチックレンズ同士で相殺して極力小さくするためである。また、第2レンズ群G2では、性能確保や枚数削減効果の点から非球面レンズを含むことが好ましいが、この場合には、プラスチックレンズで構成可能なものを非球面レンズとすることも、コスト削減の点から重要である。
【0035】
また、第1レンズ群G1が広角端から望遠端への変倍時に単調に結像面側に移動することは、結像点位置変動に対する変動寄与率が変倍域で、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2ともに同符号であり、変倍の中間域での結像点位置変化が両端以上にならない事を保証している。
【0036】
また、条件式(1)は、第1レンズ群G1におけるプラスチックレンズの屈折力の総和を規定している。条件式(1)の下限値を下回ると特に望遠側での温度による結像点位置変動が負方向に大きくなりすぎ、上限を上回ると正レンズの屈折力が大きくなりすぎて、残る硝子レンズの負屈折力が過大となり、諸収差の補正が小さくまとめ難くなる。
【0037】
さらに、条件式(2)は、第2レンズ群G2におけるプラスチックレンズの屈折力の総和を規定している。条件式(2)の下限を下回ると温度による結像点位置変動が負に大きくなり温度の上昇と共に撮像素子面上からレンズ方向に結像点位置がずれ、結像性能をひどく劣化させる。また上限を上回ると第2レンズ群G2内の負屈折力の相対値が小さいため色収差を悪化させたり、像面倒れを増大させたり、全系の結像性能に悪影響を及ぼす。また0.0に近いときは、温度変化に強くなるが、+0.0を超えると結像点位置変動が正に大きくなり結像点のズレが大きくなって使用環境が高温や低温に振れるときに性能劣化をきたすようになる。
【0038】
従って、上記のように構成することにより、高諸元を満たしつつ低コストな変倍光学系を実現することができる。
【0039】
上記変倍光学系1は、第1レンズ群の合成焦点距離をfF、第2レンズ群の合成焦点距離をfBとしたとき、下記条件式(3)を満足することが好ましい。
−1.30<fB/fF<−1.10 (3)
【0040】
条件式(3)は、第1レンズ群G1および第2レンズ群G2の屈折力配分に関する条件式であり、上限を上回ると、第1レンズ群G1の負屈折力が弱くなり、100度を超える超広角化が得られなかったり、変倍時の各群の移動量が大きくなって、レンズ系が大径化するといった問題を生じる。また、下限を下回ると第1レンズ群G1の負焦点距離が短くなって、全系の焦点距離を確保するため第2レンズ群G2の移動量が更に大きくなり、像面5に対する明るさを規制する開口絞りStに対して、第2レンズ群G2が遠ざかりすぎて第2レンズ群G2が大径化したり、広角側と望遠側とで収差変動が大きくなり結像性能が劣化するといった問題を生じる。
【0041】
また、第2レンズ群中の両凸レンズの焦点距離をf4、正レンズの焦点距離をf6としたとき、下記条件式(4)を満足することが好ましい。
0.90<f6/f4< 1.20 (4)
【0042】
条件式(4)は、第2レンズ群G2内の屈折力配分に係わる条件式である。本発明に係る第2レンズ群G2は、F1.4級の明るい光学系を仕様とするとき、群内レンズの屈折力配分が重要である。物体側より順に両凸レンズL4、両凹レンズL5、正レンズL6からなる第2レンズ群G2において、条件式(3)で第2レンズ群G2の屈折力は制約される中にあって、両凸レンズL4の屈折力を大きくとれば、正レンズL6の屈折力が弱められるため軸外性能に有利であるが、条件式(4)の上限を上回ると、全系のバックフォ−カスが短くなって、鏡胴のフランジバック所要量を満たせなくなる。これを回避するために例えば両凹レンズL5の屈折力を強くする事も考えられるが、色収差に影響するため好ましくない。
【0043】
逆に両凸レンズL4の屈折力を弱めれば、正レンズL6の屈折力が強くなり、条件式(4)の下限を下回ると、開口絞りStを中心にした全系の屈折力配置の非対称性が強まり、像面湾曲、コマ収差等軸外収差を劣化させるため好ましくない。この時正レンズL6を非球面化することも出来るが、球面収差と軸外諸収差両方に強く作用して、画面全域で結像性能を良好に維持することが困難である。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の変倍光学系の数値実施例について説明する。
【0045】
<実施例1>
実施例1の変倍光学系のレンズ断面図は図1に示したものである。また、実施例1にかかる変倍光学系のレンズデータを表1に、非球面データを表2に、各種データを表3に、温度変化データを表4に示す。同様に、実施例2〜8にかかる変倍光学系のレンズデータ、非球面データ、各種データ、温度変化データを表5〜表32に示す。以下では、表中の記号の意味について、実施例1を例にとり説明するが、実施例2〜8のものについても基本的に同様である。
【0046】
表1のレンズデータにおいて、面番号は最も物体側の構成要素の面を1番目として像側に向かうに従い順次増加するものであり、面間隔は該当面から次の面までの光軸Z上の面間隔を示している。また、レンズデータにおいて、Ndは最も物体側のレンズを1番目として像側に向かうに従い順次増加するn番目(n=1、2、3、…)の光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率を示し、νdはn番目の光学要素のd線に対するアッベ数を示している。なお、基本レンズデータには、開口絞りStおよび光学部材PPも含めて示している。開口絞りStに相当する面の曲率半径の欄には(絞り)と記載している。基本レンズデータの曲率半径の符号は、物体側に凸の場合を正、像側に凸の場合を負としている。
【0047】
表1のレンズデータにおいて、変倍を行うために間隔が変化する第1レンズ群G1と開口絞りStとの間隔、開口絞りStと第2レンズ群G2との間隔、第2レンズ群G2と光学部材PPとの間隔に相当する面間隔の欄にはそれぞれ、D6(可変)、D7(可変)、D13(可変)と記載している。
【0048】
表1のレンズデータでは、非球面の面番号に*印を付しており、非球面の曲率半径として近軸の曲率半径の数値を示している。表2の非球面データには、非球面の面番号と、これら非球面に関する非球面係数を示す。非球面係数は、以下の式(A)で表される非球面式における各係数κ、A(m=4、6、8、10、12)の値である。
X=C・h/(1+(1−κ・(C・h)))1/2+A4・h
+A6・h+A8・h+A10・h10+A12・h12 (A)
ただし、
X:非球面深さ(高さhの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に
下ろした垂線の長さ)
h:高さ(光軸からのレンズ面までの距離)
C:近軸曲率半径の逆数
:非球面係数(m=4、6、8、10、12)
【0049】
表3の各種データには、広角端、中間画角、望遠端における、全系の焦点距離、全系のバックフォーカスBf´、FナンバーFNO、全画角2ωを示す。全画角2ωの単位は度である。
【0050】
表4の温度変化データは、広角端、中間画角、望遠端における、焦点深度と、基準温度25℃を中心に±30℃および±35℃変化させた場合の結像点の変位を示している。
【0051】
表1における曲率半径および面間隔の単位、非球面式における非球面深さXおよび高さh、表3における全系の焦点距離および全系のバックフォーカスBf´の単位、表4における焦点深度および結像点の変位の単位としては、「mm」を用いることができるが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることはなく、他の適当な単位を用いることもできる。
【0052】
実施例1では、プラスチックレンズはL2、L3、L4、L5の4枚を使用している。非球面レンズはL4に使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して許容範囲内であり、広角端での画角が133度と、目標に達している。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
<実施例2>
実施例2にかかる変倍光学系のレンズデータを表5に、非球面データを表6に、各種データを表7に、温度変化データを表8に示す。また、レンズ構成図を図2(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0058】
実施例2では、プラスチックレンズはL2、L4、L5の3枚を使用している。非球面レンズはL4に使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して許容範囲内であり、広角端での画角が126度と、目標に達している。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
<実施例3>
実施例3にかかる変倍光学系のレンズデータを表9に、非球面データを表10に、各種データを表11に、温度変化データを表12に示す。また、レンズ構成図を図3(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0064】
実施例3では、プラスチックレンズはL2、L4、L5の3枚を使用している。非球面レンズはL4に使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して許容範囲内であり、広角端での画角が121度と、目標に達している。
【0065】
【表9】

【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
【表12】

【0069】
<実施例4>
実施例4にかかる変倍光学系のレンズデータを表13に、非球面データを表14に、各種データを表15に、温度変化データを表16に示す。また、レンズ構成図を図4(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0070】
実施例4では、プラスチックレンズはL1、L4、L5の3枚を使用している。非球面レンズはL4に使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して許容範囲内であり、広角端での画角が127度と、目標に達している。
【0071】
【表13】

【0072】
【表14】

【0073】
【表15】

【0074】
【表16】

【0075】
<実施例5>
実施例5にかかる変倍光学系のレンズデータを表17に、非球面データを表18に、各種データを表19に、温度変化データを表20に示す。また、レンズ構成図を図5(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0076】
実施例5では、プラスチックレンズはL1、L4、L5の3枚使用している。非球面レンズはL1とL4とに使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して許容範囲内であり、広角端での画角が143度と、目標に達している。
【0077】
【表17】

【0078】
【表18】

【0079】
【表19】

【0080】
【表20】

【0081】
<実施例6>
実施例6にかかる変倍光学系のレンズデータを表21に、非球面データを表22に、各種データを表23に、温度変化データを表24に示す。また、レンズ構成図を図6(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0082】
実施例6では、プラスチックレンズはL1、L5、L6の3枚使用している。非球面レンズはL1とL5とに使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して許容範囲をやや超えているものの、広角端での画角は128度と、目標に達している。
【0083】
【表21】

【0084】
【表22】

【0085】
【表23】

【0086】
【表24】

【0087】
<実施例7>
実施例7にかかる変倍光学系のレンズデータを表25に、非球面データを表26に、各種データを表27に、温度変化データを表28に示す。また、レンズ構成図を図7(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0088】
実施例7では、プラスチックレンズはL1、L3、L5、L6の4枚を使用している。非球面レンズはL1とL5とに使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して、広角端で僅かに許容範囲を超えているものの、広角端での画角は125度と、目標に達している。
【0089】
【表25】

【0090】
【表26】

【0091】
【表27】

【0092】
【表28】

【0093】
<実施例8>
実施例8にかかる変倍光学系のレンズデータを表29に、非球面データを表30に、各種データを表31に、温度変化データを表32に示す。また、レンズ構成図を図8(各レンズ群の概略的な移動軌跡は省略)に示す。
【0094】
実施例8では、プラスチックレンズはL2、L4、L5の3枚を使用している。非球面レンズはL4に使用している。計算による結像点の変位量は、所要の温度変化±35℃に対して、望遠端で許容範囲を超えているものの、広角端での画角が123度と、目標に達している。
【0095】
【表29】

【0096】
【表30】

【0097】
【表31】

【0098】
【表32】

【0099】
上記実施例1〜8の中には、計算による結像点の変位量が一部許容範囲を超えているものもあるが、鏡胴枠材料の選択により許容できるようになる事もあり、総じて発明の効果を主張でき、監視カメラ用の高諸元および低コストな変倍光学系として提供することが可能である。
【0100】
実施例1〜8の変倍光学系における条件式(1)、(2)、(3)、(4)に対応する値を表33に示す。表33の各値は、d線(波長587.6nm)に対するものである。表33からわかるように、実施例1〜8は全て条件式(1)、(2)、(3)、(4)を満たしている。
【0101】
【表33】

【0102】
図9に実施例1の変倍光学系の広角端、中間画角、望遠端における、球面収差、非点収差、ディストーション(歪曲収差)、倍率色収差の各収差図を示す。各収差図には、d線(波長587.6nm)を基準波長とした収差を示すが、球面収差図および倍率色収差図にはg線(波長435.8nm)、c線(波長656.3nm)についての収差も示す。
【0103】
なお、歪曲収差はTVディストーションで記載してある。光軸に垂直な平面物体の光学系によって結ばれる光軸に垂直な物体像のゆがみの程度を歪曲収差として表すが、写真レンズ等は一般的な、理想像高と実像高との差を理想像高で割った数値を百分率で表したものに対して、TVレンズの分野ではこれとは異なった定義式を用い、これをTV表示として区別している。この定義によれば、TV画面における長辺の曲がり量を対象として歪曲量として扱う。
【0104】
具体的には、長辺の曲がりの深さΔhの垂直画面長2hで割って百分率であらわしたもので、下記式の通り表される。
【0105】
DTV=Δh/2h×100
歪曲収差図は、光軸からの実像高Yを光軸中心からの画面4対角方向の4点とし、これらの4点で結ばれた平面像の物体側での矩形平面物体を想定し、この像の長辺の中央部での実像高がhであり、対角上の点の光軸までの垂直高さからの差がΔhである。従って、画面の縦横比で異なる数値になるが、本図では、TV画面で一般的な3:4の比率で算出したものとなっている。
【0106】
同様に、図10〜16に、実施例2〜8の変倍光学系の広角端、中間画角および望遠端における、球面収差、非点収差、ディストーション(歪曲収差)、倍率色収差の各収差図を示す。
【0107】
以上のデータから、実施例1〜8の変倍光学系は、各収差が良好に補正され、広角端および望遠端ともに可視域において高い光学性能を有することがわかる。これらの変倍光学系は、監視カメラや、ビデオカメラ、電子スチルカメラ等の撮像装置に好適に使用することができる。
【0108】
図17に、本発明の実施形態の撮像装置の一例として、本発明の実施の形態にかかる変倍光学系1を用いて構成したビデオカメラ10の構成図を示す。なお、図17では、変倍光学系1が備える負の第1レンズ群G1、開口絞りSt、正の第2レンズ群G2を概略的に示している。
【0109】
ビデオカメラ10は、変倍光学系1と、変倍光学系1の像側に配置されたローパスフィルタおよび赤外線カットフィルタ等の機能を有するフィルタ6と、フィルタ6の像側に配置された撮像素子7と、信号処理回路8とを備えている。撮像素子7は変倍光学系1により形成される光学像を電気信号に変換するものであり、例えば、撮像素子7としては、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等を用いることができる。撮像素子7は、その撮像面が変倍光学系1の像面に一致するように配置される。
【0110】
変倍光学系1により撮像された像は撮像素子7の撮像面上に結像し、その像に関する撮像素子7からの出力信号が信号処理回路8にて演算処理され、表示装置9に像が表示される。
【0111】
なお、図17には、1つの撮像素子7を用いた、いわゆる単板方式の撮像装置を図示しているが、本発明の撮像装置としては、変倍光学系1と撮像素子7の間にR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)等の各色に分ける色分解プリズムを挿入し、各色に対応する3つの撮像素子を用いた、いわゆる3板方式のものでもよい。
【0112】
本発明の実施の形態にかかる変倍光学系は、前述した長所を有するため、本実施の形態の撮像装置においても、広角で精度の高い映像を得ることができる。
【0113】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズ成分の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数等の値は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得るものである。
【符号の説明】
【0114】
1 変倍光学系
6 フィルタ
7 撮像素子
8 信号処理回路
9 表示装置
10 撮像装置
G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
L5 第5レンズ
L6 第6レンズ
PP 光学部材
St 開口絞り
Z 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側より順に、負の屈折力を持つ第1レンズ群および正の屈折力を有する第2レンズ群を有し、
前記第1レンズ群は、物体側から順に、物体側に凸面を向けた負レンズ、両凹レンズおよび正レンズを有するとともに、これらのうち少なくとも1枚はプラスチックレンズであり、
前記第2レンズ群は、物体側から順に、両凸レンズ、両凹レンズおよび正レンズを有するとともに、これらのうち互いに隣接するいずれか2枚はプラスチックレンズであり、
広角側から望遠側にかけて、前記第1レンズ群が物体側から像面側に単調に移動するとともに、前記第2レンズ群が像面側から物体側に単調に移動し、
各レンズ群におけるプラスチックレンズの順番を、各々物体側から順にi番目とした場合の各レンズの焦点距離をfpi、全系の広角端での焦点距離をfw、広角端での全系の屈折力に対する各レンズの屈折力の比率をfw/fpiとし、前記第1レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの和の合計をP1、前記第2レンズ群のプラスチックレンズに関するfw/fpiの和の合計をP2としたとき、下記条件式(1)および(2)を満足することを特徴とする変倍光学系。
−0.22<P1<−0.01 (1)
−0.15<P2<−0.03 (2)
【請求項2】
前記第1レンズ群は、少なくとも1枚の負プラスチックレンズを含み、
前記第2レンズ群は、少なくとも1枚のレンズが非球面レンズであることを特徴とする請求項1記載の変倍光学系。
【請求項3】
前記第1レンズ群の合成焦点距離をfF、前記第2レンズ群の合成焦点距離をfBとしたとき、下記条件式(3)を満足することを特徴とする請求項1または2記載の変倍光学系。
−1.30<fB/fF<−1.10 (3)
【請求項4】
前記第2レンズ群中の前記両凸レンズの焦点距離をf4、前記正レンズの焦点距離をf6としたとき、下記条件式(4)を満足することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の変倍光学系。
0.90<f6/f4< 1.20 (4)
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の変倍光学系と、
該変倍光学系によって結像された被写体の像を撮像する撮像素子とを備えたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−170114(P2010−170114A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286246(P2009−286246)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】