説明

変速機

【課題】誤動作を防止しつつ小型化が可能なパーキング機構を備える変速機を提供することを目的とする。
【解決手段】変速機1は、パーキングギヤ51に係止して駆動軸30の回転を規制する係止位置とパーキングギヤ51から離脱して駆動軸30の回転を許容する係止解除位置との間で回転移動する係止部材57と、係止部材57の回転軸から離間してケース10に設けられた支持部材63と、係止部材57が係止位置から係止解除位置に回転移動する方向に係止部材57を付勢する付勢部材61,62であって、係止部材57を基準に係止部材57の回転軸方向両側の対称位置において支持部材63にそれぞれ支持される一対の付勢部材61,62と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の停車状態を保持するパーキング機構を備えた変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの駆動源が出力する回転を変速する変速機には、車両が停止した際に停車状態を保持するパーキング機構を備えるものがある。例えば、特許文献1には、変速機の出力軸に固定されたパーキングギヤに、パーキングポールの爪部を係止することにより出力軸の回転を規制するパーキング機構が開示されている。このようなパーキング機構は、出力軸の回転を規制しないアンロック状態とするためには、パーキングギヤからパーキングポールを離間させる必要がある。そのため、特許文献1のパーキング機構では、パーキングポールを回転可能に支持する支持軸の外周にトーションスプリングを配置し、その弾性力によりパーキングポールを解除方向に付勢している。
【0003】
しかし、このような構成では、トーションスプリングによるパーキングポールの付勢位置がパーキングポールの回転軸から比較的近接した位置となるため、トーションスプリングには強い弾性力が必要とされた。そうすると、パーキング機構の組み付けの際に、トーションスプリングに抗するための負荷が大きくなり組み付け性の低下が懸念される。また、弾性力の増大に伴いトーションスプリングが大径化し、パーキング機構全体として大型化するおそれがある。そのため、例えば、特許文献2には、パーキングポールの回転軸から離間して配置されたピンによりトーションスプリングを支持するパーキング機構が開示されている。これによると、トーションスプリングがパーキングポールを付勢する位置をパーキングポールの回転軸から離間させることになるため、比較的低い弾性力のトーションスプリングを適用できるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−326438号公報
【特許文献2】特開2011−020469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、変速機は、車両への搭載性を向上させることなどを目的として、より小型化への要請がある。そのため、変速機のパーキング機構は、変速機の内部において配置される位置や寸法を制約されることがある。このような制約によって、例えば特許文献2のパーキング機構のように、パーキングポールの爪部がパーキングギヤの上方に位置するように配置される場合には、パーキングポールの自重がパーキング機構の動作に影響することがある。そうすると、パーキング機構を適正に動作させるために、トーションスプリングの弾性力を増大する必要性が生じてしまう。そうすると、上述したように、組み付け性の低下やパーキング機構の大型化などが懸念される。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、より安定した動作を確保しつつ小型化が可能なパーキング機構を備える変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明によると、ケースと、前記ケースに回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸に固定されたパーキングギヤと、前記ケースに回転可能に支持され、前記パーキングギヤに係止して前記駆動軸の回転を規制する係止位置と前記パーキングギヤから離脱して前記駆動軸の回転を許容する係止解除位置との間で回転移動する係止部材と、前記係止部材の回転軸から離間して前記ケースに設けられた支持部材と、前記係止部材が前記係止位置から前記係止解除位置に回転移動する方向に前記係止部材を付勢する付勢部材であって、前記係止部材を基準に前記係止部材の回転軸方向両側の対称位置において前記支持部材にそれぞれ支持される一対の前記付勢部材と、を備える。
【0008】
請求項2に係る発明によると、請求項1において、前記支持部材は、前記ケースの内周側に設けられたアーム部によって、一対の前記付勢部材の中間に位置する部位を支持されている。
【0009】
請求項3に係る発明によると、請求項2において、前記付勢部材は、コイル部を有するトーションスプリングであり、前記支持部材は、前記コイル部の内周側を挿通して一対の前記付勢部材を同軸上に支持する軸状部を有する。
【0010】
請求項4に係る発明によると、請求項3において、前記軸状部の外周側に設けられ、前記支持部材が前記ケースの前記アーム部に支持された状態で前記アーム部の回転軸方向一側の端面に当接し、前記支持部材の回転軸方向他側への移動を規制する規制部材と、前記軸状部の回転軸方向他側の端部に形成された環状の鍔部と、を有する。
【0011】
請求項5に係る発明によると、請求項1〜4の何れか一項において、一対の前記付勢部材は、互いに等しい弾性力に設定されている。
【0012】
請求項6に係る発明によると、請求項1〜5の何れか一項において、前記ケースの開口部を覆蓋するとともに、前記支持部材における回転軸方向の何れか一方側の端部を支持する蓋部材をさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、一対の付勢部材は、係止部材を基準に係止部材の回転軸方向両側の対称位置において支持部材に支持される。これにより、一対の付勢部材は、全体として必要な弾性力を有するように設定できる。そうすると、各付勢部材は、個々の弾性力を低く設定することができる。よって、付勢部材は、パーキング機構の動作に要する弾性力を有しながら、従来のように単数の付勢部材で必要な弾性力を賄う構成や複数箇所に付勢部材を並列に配置する構成と比較して、駆動軸における径方向に小型化が可能となる。また、パーキング機構を組み付ける際に、一対の付勢部材を個々に配置することができるので、それぞれの組み付けで必要とされる負荷が小さくなり組み付け性を向上できる。
【0014】
請求項2に係る発明によると、支持部材は、一対の付勢部材の中間に位置する部位をケースのアーム部に支持されている。従来のパーキング機構においては、付勢部材を支持する支持部材は、例えばその両端部をケースに支持される構成となっていた。そのため、ケースは、支持部材の両端部が位置する部位にボスなどを形成する必要があった。これに対して、本発明では、上記のような構成により、一対の付勢部材を配置する際に基準とした位置と、支持部材がケースに支持される位置とが回転軸方向で一致することになる。これにより、両端部をボスなどにより支持しなくても支持部材を確実に支持することができる。よって、従来のようにボスなどを形成する必要がなく、さらに省スペース化を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によると、トーションスプリングである一対の付勢部材が支持部材の軸状部に同軸上に支持される。これにより、係止部材は、一対のトーションスプリングの一端部とそれぞれ当接して、係止位置から係止解除位置に回転移動する方向に付勢されることになる。そして、このようなトーションスプリングのコイル部が同軸上に配置されるので、複数の付勢部材を並列配置する構成と比較して、より確実にパーキング機構を小型化することができる。
【0016】
請求項4に係る発明によると、支持部材は、規制部材により回転軸方向他側への移動を規制される。そして、支持部材は、軸状部の端部に鍔部が形成されている。つまり、一対の付勢部材の一方は、ケースのアーム部と鍔部の間に介在する。そして、一対の付勢部材の他方は、軸状部の回転軸方向一側の端部と規制部材との間に介在する。これにより、一対の付勢部材は、バランス良く係止部材を付勢することができるので、動作をより安定させることができる。また、アーム部が一対の付勢部材の中間に位置する部位を常に支持することができるので、より安定して支持部材をケースに設けることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、一対の付勢部材は、互いに等しい弾性力に設定される。ここで、一対の付勢部材は、係止部材を基準に係止部材の回転軸方向両側の対称位置に配置される。そのため、上記のように各付勢部材の弾性力が等しく設定されると、パーキング機構が必要とする合計弾性力を得るために、個々の付勢部材の最大寸法を小さくすることができるので、全体として小型化を図ることができる。さらに、一対の付勢部材により、バランス良く係止部材を付勢することができるので、動作をより安定させることができる。
【0018】
請求項6に係る発明によると、支持部材は、係止部材の回転軸方向一側の端部をケースの開口部を覆蓋する蓋部材により支持される。支持部材は、ケースに支持されるように設けられるが、その一側の端部を蓋部材により、例えば補助的に支持されることでケースに対してより確実に固定することができる。よって、支持部材が一対の付勢部材をより確実に支持することができるので、パーキング機構の動作をより安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態における変速機1の軸方向から見た一部のギヤを示す構成図である。
【図2】パーキング機構を示す図1の拡大図である。
【図3】図2におけるA方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の変速機を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
<実施形態>
(変速機1の構成)
本実施形態における変速機1の構成について、図1〜図3を参照して説明する。変速機1は、車両に搭載される機械式の変速機であって、回転軸に支持された複数の変速ギヤにより前進または後進の変速段を構成している。この変速機1は、図1に示すように、ケース10と、リアリテーナ12と、入力軸20と、出力軸30(本発明の「駆動軸」に相当する)と、ディファレンシャル40と、パーキング機構50を備える。
【0022】
ケース10は、複数の軸受けにより回転軸を支承するとともに、回転軸に配置された複数のギヤおよびパーキング機構50を収容している。このケース10は、アーム部11と、リアリテーナ12を有する。アーム部11は、パーキング機構50に向かって延びるようケース10の内周側に設けられている。このアーム部11は、図3に示すように、回転軸方向に貫通した貫通孔11aを形成されている。リアリテーナ12は、ケース10の開口部を覆蓋する蓋部材であって、ボルト締結されてケース10に固定される。また、このリアリテーナ12は、変速機1の内側に面する内側面に、回転軸の軸方向に延びる円筒状の凹部12aが形成されている。
【0023】
入力軸20は、軸状に形成され、軸受によりケース10に回転可能に支持された回転軸である。この入力軸20は、図示しないクラッチ機構を介して車両の駆動源であるエンジンと連結され、駆動力を入力される。また、入力軸20は、図1に示すように、複数の変速段を構成するギヤ対のうち、入力ギヤ21を含む入力側の変速ギヤを支持している。入力ギヤ21は、入力軸20の外周面に形成された外歯スプラインに圧入され、出力軸30に支持された出力側の変速ギヤと噛合することにより所定の変速段を構成している。
【0024】
出力軸30は、軸状に形成され、軸受によりケース10に回転可能に支持された回転軸である。出力軸30は、図1に示すように、複数の変速段を構成するギヤ対のうち、出力ギヤ31を含む出力側の変速ギヤを支持している。そして、出力軸30は、ディファレンシャル40を介して所定の変速段により変速された駆動力を出力する。出力ギヤ31は、出力軸30に対して相対回転可能に支持され、入力軸20に支持された入力側の変速ギヤと噛合している。そして、出力ギヤ31は、図示しないシフト機構によって、選択的に出力軸30と連結されて、入力側の変速ギヤとともに所定の変速段を構成する。
【0025】
ディファレンシャル40は、車両における差動装置である。ディファレンシャル40は、図1に示すように、最終駆動ギヤ41と、リングギヤ42を有する。最終駆動ギヤ41は、出力軸30の外周面に形成された外歯スプラインに圧入され、出力軸30に対して連結固定されている。リングギヤ42は、ケース10に対して回転可能に支持され、図示しないドライブシャフトなどを介して駆動輪に連結され、駆動輪の回転と連動する。また、このリングギヤ42は、最終駆動ギヤ41と常時噛合し、出力軸30に回転連結されている状態となっている。
【0026】
パーキング機構50は、車両が停止した際に駆動軸である出力軸30の回転を規制することにより、出力軸30に回転連結されたリングギヤと連動する駆動輪の回転を規制し、車両の停車状態を保持する機構である。パーキング機構50は、主として、パーキングギヤ51と、マニュアルシャフト52と、マニュアルバルブレバー53と、ロッド54と、カム55と、カムスプリング56と、パーキングポール57と、ポール支持シャフト58と、一対のトーションスプリング61,62と、スプリング支持シャフト63とから構成される。
【0027】
パーキングギヤ51は、外周面に複数の外歯が形成され、出力軸30の外周面に形成された外歯スプラインに圧入されて出力軸30に固定されている。マニュアルシャフト52は、図1に示すように、変速機1の上下方向に延びる軸状部材であって、ケース10に回転可能に支持されている。このマニュアルシャフト52は、車両のシフト位置に応じた角度となるように中心軸回りに回転される。マニュアルバルブレバー53は、マニュアルシャフト52の下部において、マニュアルシャフト52の中心軸に対して垂直に固定される。このような構成により、マニュアルバルブレバー53は、マニュアルシャフト52の回転に連動して一体的に回転する。
【0028】
ロッド54は、変速機1の駆動軸と平行な方向(図1,2の前後方向、図3の左右方向)に延びる軸状部材であって、その一端をマニュアルバルブレバー53に対して揺動可能に連結されている。これにより、ロッド54は、連結されたマニュアルバルブレバー53の回転に伴い、ロッド54の延伸方向に移動することになる。また、ロッド54は、図3に示すように、外周面から径方向に突起した環状のストッパ54aが形成されている。
【0029】
カム55は、ロッド54の軸方向一側に形成された大径部と、この大径部から軸方向他側に向かって徐々に外径が小さくなるように形成された小径部とを有している。また、カム55は、円筒状の内周面を形成され、当該内周面を挿通するロッド54に摺動可能に設けられている。カムスプリング56は、コイル状の圧縮ばねであって、ロッド54の外周側において、ロッド54のストッパ54aとカム55の間に介在している。このカムスプリング56は、一端部をストッパ54aに固定され、他端部をカム55に固定されている。これにより、カム55は、カムスプリング56が無負荷の状態ではカムスプリング56の自由長さによりストッパ54aとの距離を維持されている。
【0030】
パーキングポール57は、図2に示すように、ポール支持シャフト58を介してケース10に回転可能に支持され、回転軸の径方向に延びるように形成されている。また、パーキングポール57の軸方向位置は、ケース10におけるパーキングギヤ51の軸方向位置と一致するように設定されている。このパーキングポール57は、長手方向中央部の外周面において出力軸30に向かって突起し、パーキングギヤ51の外周面に形成された外歯と係止可能な係止爪57aが形成されている。
【0031】
パーキングポール57は、ポール支持シャフト58を回転軸として一方側に回転すると、係止爪57aがパーキングギヤ51に係止して駆動軸である出力軸の回転を規制する係止位置に移動する。さらに、パーキングポール57は、ポール支持シャフト58を回転軸として他方側に回転すると、係止爪57aがパーキングギヤ51から離脱して出力軸30の回転を許容する係止解除位置に移動する。このように、パーキングポール57は、ポール支持シャフト58を回転軸とした回転に伴い、上記の規制位置と係止解除位置との間で回転移動する係止部材である。ポール支持シャフト58は、ケース10に支持された軸状部材であって、外周面においてパーキングポール57を支持している。
【0032】
一対のトーションスプリング61,62は、コイル部61a,62aを形成され、このコイル部61a,62bの周方向に弾性力を有する付勢部材である。本実施形態において、トーションスプリング61とトーションスプリング62の弾性力は、互いに等しく、また全体として必要な弾性力となるように設定されている。また、トーションスプリング61,62は、一端部がパーキングポール57の先端部の下側(図2,3の下側)に当接するとともに、他端部がケース10に固定されるように配置されている。これにより、一対のトーションスプリング61,62は、パーキングポール57が係止位置から係止解除位置に回転移動する方向(図2,3の上方向)にパーキングポール57を付勢している。
【0033】
ここで、パーキングポール57は、先端部のうちトーションスプリング61,62に付勢される位置とは反対側の背面部(図2,3の上側の部位)がロッド54またはカム55の外周面に当接している。つまり、パーキングポール57は、その背面部がロッド54またはカム55の外周面のうち小径部と当接している場合には、トーションスプリング61,62の弾性力によって係止解除位置に回転移動することになる。また、パーキングポール57は、その背面部がカム55の外周面のうち大径部と当接している場合には、トーションスプリング61,62の弾性力に抗して係止位置に回転移動することになる。
【0034】
上記の一対のトーションスプリング61,62は、パーキングポール57を基準にパーキングポール57の回転軸方向(図3の左右方向)両側の対称位置においてスプリング支持シャフト63にそれぞれ支持される。このスプリング支持シャフト63は、軸状部63aと、挿入部63bと、鍔部63cと、スナップリング63dを有する。軸状部63aは、変速機1の駆動軸方向に延伸する円筒部材である。また、スプリング支持シャフト63は、図2に示すように、パーキングポール57の回転軸(ポール支持シャフト58の中心軸)から離間してケース10に設けられた支持部材である。
【0035】
より詳細には、スプリング支持シャフト63は、図3に示すように、軸状部63aがケース10の内周側に設けられたアーム部11の貫通孔11aを挿通している。これによって、スプリング支持シャフト63は、ケース10のアーム部11によって、一対のトーションスプリング61,62の中間に位置する部位を支持されている。そして、スプリング支持シャフト63は、全体形状としてパーキングポール57を基準に回転軸方向にほぼ対称形状となるように形成されている。そのため、本実施形態においては、スプリング支持シャフト63は、軸方向中央部においてケース10に支持されている。
【0036】
また、スプリング支持シャフト63の軸状部63aは、トーションスプリング61のコイル部61aおよびトーションスプリング62のコイル部62bの内周側を挿通して、トーションスプリング61,62を同軸上に支持している。また、スプリング支持シャフト63の挿入部63bは、軸状部63aの一側(図3の左側)の端部に形成された部位である。この挿入部63bは、リアリテーナ12の内側面に形成された凹部12aの内径よりも僅かに小さい外径に設定され、当該凹部12aに挿入される。これにより、リアリテーナ12は、スプリング支持シャフト63における一側の端部を支持している。
【0037】
スプリング支持シャフト63の鍔部63cは、軸状部63aの他側(図3の右側)の端部に形成され、軸状部63aの外周面から径方向に突出した環状の部位である。鍔部63cは、軸状部63aが支持するトーションスプリング62を抜け止めしている。また、スプリング支持シャフト63のスナップリング63dは、軸状部63aの軸方向中央部の近傍の外周面に形成された環状溝に嵌め込まれ、スプリング支持シャフト63の軸方向移動を規制する規制部材である。より詳細には、スナップリング63dは、スプリング支持シャフト63がケース10のアーム部11に支持された状態でアーム部11の回転軸方向一側(図3の左側)の端面に当接する。これにより、スプリング支持シャフト63の軸方向他側(図3の右側)への移動を規制している。
【0038】
このような構成により、一対のトーションスプリング61,62のうち鍔部63c側に配置されたトーションスプリング62は、ケース10のアーム部11と鍔部63cの間に介在することになる。また、一対のトーションスプリング61,62のうちリアリテーナ12側に配置されたトーションスプリング61は、挿入部63bが挿入されたリアリテーナ12とスナップリング63dの間に介在することになる。これにより、パーキングポール57は、一対のトーションスプリング61,62の各一端部により回転軸方向に対象な部位を付勢される。
【0039】
(変速機1のパーキング機構50の動作)
このような構成からなるパーキング機構50の動作について説明する。上述したように、パーキングポール57は、一対のトーションスプリング61,62によって係止位置から係止解除位置に回転移動する方向に常に付勢されている。そして、例えば、運転者により車両のシフトがPレンジに操作されると、マニュアルシャフト52が所定角度だけ回転される。そうすると、マニュアルバルブレバー53が回転し、これに伴いロッド54が連動して軸方向の一方側に移動する。そして、ロッド54の軸方向移動により、カム55がパーキングポール57の背面部を押圧する状態となる。この時、パーキングギヤ51が係止爪57aと係止可能な位相にある場合には、トーションスプリング61,62の弾性力に抗してパーキングポール57が係止位置に回転移動し、パーキングギヤ51の回転を規制する。これにより、パーキング機構50はロック状態となる。
【0040】
また、パーキングギヤ51が係止爪57aと係止できない位相にある場合には、係止爪57aがパーキングギヤ51の外歯の歯先面に当接した状態にある。そうすると、カム55にロッド54のストッパ54aが近接してカムスプリング56が圧縮される。続いて、傾斜面などの影響によって車両に前後力が加えられると駆動輪が回転し、パーキングギヤ51が係止爪57aと係止可能な位相まで回転する。そうすると、カムスプリング56により付勢されたカム55がパーキングポール57の背面部を押圧し、パーキングポール57が係止位置に回転移動する。このように、パーキング機構50は、パーキングギヤ51にパーキングポール57の係止爪57aを係止することにより、駆動軸の回転を規制するロック状態となり、車両の停車状態を維持している。
【0041】
その後に、車両のシフトがPレンジから他のレンジに操作されると、マニュアルシャフト52が所定角度だけ逆方向に回転される。そうすると、マニュアルバルブレバー53が回転し、これに伴いロッド54が連動して軸方向の他方側に移動する。そして、ロッド54の軸方向移動により、カム55がパーキングポール57の背面部を押圧しない状態となる。そうすると、トーションスプリング61,62の弾性力によってパーキングポール57が係止解除位置に回転移動し、パーキング機構50は、パーキングギヤ51および駆動軸の回転を許容するアンロック状態となる。
【0042】
(変速機1による効果)
上述した構成からなるパーキング機構50を備える変速機1によると、以下の効果を奏する。本実施形態において、一対のトーションスプリング61,62は、パーキングポール57を基準にパーキングポール57の回転軸方向両側の対称位置においてスプリング支持シャフト63に支持される。これにより、一対のトーションスプリング61,62は、全体として必要な弾性力を有するように設定できる。そうすると、各トーションスプリング61,62は、個々の弾性力を低く設定することができる。よって、トーションスプリング61,62は、パーキング機構50の動作に要する弾性力を有しながら、従来のように単数の付勢部材で必要な弾性力を賄う構成や複数箇所に付勢部材を並列に配置する構成と比較して、変速機1における駆動軸の径方向に小型化が可能となる。
【0043】
また、パーキング機構50を組み付ける際に、一対のトーションスプリング61,62を個々に配置することができるので、それぞれの組み付けで必要とされる負荷が小さくなり組み付け性を向上できる。さらに、一対のトーションスプリング61,62を支持するスプリング支持シャフト63は、パーキングポール57の回転軸から離間して設けられている。これにより、トーションスプリング61,62がパーキングポール57を付勢する位置をパーキングポール57の回転軸から離間した位置にできるので、比較的低い弾性力に設定することができる。
【0044】
また、本実施形態において、スプリング支持シャフト63は、ケース10のアーム部11によって、一対のトーションスプリング61,62の中間に位置する部位を支持される構成とした。ここで、従来のパーキング機構において、付勢部材を支持する支持部材の両端部をケースにより支持する構成では、支持部材の両端部が位置する部位にボスなどを形成する必要があった。これに対して、本発明では、上記のような構成により、一対のトーションスプリング61,62を配置する際に基準とした位置と、スプリング支持シャフト63がケース10に支持される位置とが回転軸方向で一致することになる。これにより、両端部をボスなどにより支持しなくてもスプリング支持シャフト63を確実に支持することができる。よって、従来のようにボスなどを形成する必要がなく、さらに省スペース化を図ることができる。
【0045】
さらに、パーキング機構50は、一対の付勢部材をトーションスプリング61,62とし、そのコイル部61a,62aをスプリング支持シャフト63の軸状部63aに同軸上に支持する構成とした。これにより、従来のように複数の付勢部材を並列配置する構成と比較して、より確実にパーキング機構50を小型化することができる。
【0046】
また、スプリング支持シャフト63は、鍔部63cとスナップリング63dを有する構成とした。つまり、一対のトーションスプリング61,62は、アーム部11を挟んで配置され、アーム部11とリアリテーナ12、またはアーム部11と鍔部63cの間に介在することになる。これにより、一対のトーションスプリング61,62は、バランス良くパーキングポール57を付勢することができるので、動作をより安定させることができる。また、アーム部11がトーションスプリング61,62の中間に位置する部位を常に支持することができるので、より安定してスプリング支持シャフト63をケース10に設けることができる。
【0047】
また、一対のトーションスプリング61,62は、パーキングポール57を基準にパーキングポール57の回転軸方向両側の対称位置に配置されることに加えて、互いに等しい弾性力に設定される構成とした。これにより、一対のトーションスプリング61,62は、パーキング機構50が必要とする合計弾性力を得るために、個々の最大寸法を小さくすることができるので、全体として小型化を図ることができる。さらに、一対のトーションスプリング61,62により、バランス良くパーキングポール57を付勢することができるので、動作の安定化を図ることができる。
【0048】
さらに、スプリング支持シャフト63は、パーキングポール57の回転軸方向一側の端部に形成された挿入部63bをリアリテーナ12の凹部12aに挿入して支持される構成とした。スプリング支持シャフト63は、ケース10に支持されるように設けられるが、その一側の端部をリアリテーナ12により、補助的に支持されることでケース10に対してより確実に固定することができる。よって、スプリング支持シャフト63が一対のトーションスプリング61,62をより確実に支持することができるので、パーキング機構50の動作をより安定させることができる。
【0049】
<実施形態の変形態様>
本実施形態において、一対の付勢部材は、コイル部61a,62aを有するトーションスプリング61,62とした。これに対して、弾性力をもって係止部材であるパーキングポール57を係止位置から係止解除位置に回転移動するように付勢するものであれば、例えばコイルばねや板ばねなどを適用してもよい。また、一対のトーションスプリング61,62は、互いに弾性力が等しくなるように設定されるものとした。これに対して、例えばケース10の内部においてパーキング機構50が配置可能なスペースの制約などを勘案して、不等の弾性力に設定する構成としてもよい。
【0050】
また、パーキング機構50のパーキングギヤ51は、駆動軸として出力軸30に固定されるものとした。これに対して、その他の回転軸、例えば入力軸20などに固定する構成としてもよい。さらに、変速機が複数の入力軸および複数の出力軸を選択的に切換えて変速を行うデュアルクラッチ式の場合においても、何れの回転軸にパーキングギヤ51を設ける構成としてもよい。但し、何れの回転軸にパーキングギヤ51を設ける構成としても、車両のシフトがPレンジに操作された際に、パーキングギヤ51が固定された回転軸が駆動輪の回転と連動するように回転連結されている必要がある。このような構成においても実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0051】
1:変速機、
10:ケース、 11:アーム部、 11a:貫通孔
12:リアリテーナ(蓋部材)、 12a:凹部
20:入力軸、 21:入力ギヤ
30:出力軸(駆動軸)、 31:出力ギヤ
40:ディファレンシャル、 41:最終駆動ギヤ、 42:リングギヤ
50:パーキング機構、 51:パーキングギヤ、 52:マニュアルシャフト
53:マニュアルバルブレバー、 54:ロッド、 54a:ストッパ、 55:カム
56:カムスプリング、 57:パーキングポール(係止部材)、 57a:係止爪
58:ポール支持シャフト
61,62:トーションスプリング(付勢部材)、 61a,62a:コイル部
63:スプリング支持シャフト(支持部材)、 63a:軸状部、 63b:挿入部
63c:鍔部、 63d:スナップリング(規制部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースに回転可能に支持された駆動軸と、
前記駆動軸に固定されたパーキングギヤと、
前記ケースに回転可能に支持され、前記パーキングギヤに係止して前記駆動軸の回転を規制する係止位置と前記パーキングギヤから離脱して前記駆動軸の回転を許容する係止解除位置との間で回転移動する係止部材と、
前記係止部材の回転軸から離間して前記ケースに設けられた支持部材と、
前記係止部材が前記係止位置から前記係止解除位置に回転移動する方向に前記係止部材を付勢する付勢部材であって、前記係止部材を基準に前記係止部材の回転軸方向両側の対称位置において前記支持部材にそれぞれ支持される一対の前記付勢部材と、
を備える変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記支持部材は、前記ケースの内周側に設けられたアーム部によって、一対の前記付勢部材の中間に位置する部位を支持されている変速機。
【請求項3】
請求項2において、
前記付勢部材は、コイル部を有するトーションスプリングであり、
前記支持部材は、前記コイル部の内周側を挿通して一対の前記付勢部材を同軸上に支持する軸状部を有する変速機。
【請求項4】
請求項3において、
前記軸状部の外周側に設けられ、前記支持部材が前記ケースの前記アーム部に支持された状態で前記アーム部の回転軸方向一側の端面に当接し、前記支持部材の回転軸方向他側への移動を規制する規制部材と、
前記軸状部の回転軸方向他側の端部に形成された環状の鍔部と、
を有する変速機。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
一対の前記付勢部材は、互いに等しい弾性力に設定されている変速機。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記ケースの開口部を覆蓋するとともに、前記支持部材における回転軸方向の何れか一方側の端部を支持する蓋部材をさらに備える変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60107(P2013−60107A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199823(P2011−199823)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】