多孔質カーボン粒子の製造方法と該粒子からなる多孔質カーボン材料
【課題】従来よりも粒径の小さな多孔質カーボンを容易に製造できる製造方法を提供すること。
【解決手段】
本発明によると、粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造する方法が提供される。この製造方法は、外殻部を形成するための炭素粒子と、炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより、前記分散媒を蒸発させて前記炭素粒子と前記ポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;加熱炉内で混合凝集体をさらに加熱することにより、混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質カーボン粒子を得ること;を包含する。
【解決手段】
本発明によると、粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造する方法が提供される。この製造方法は、外殻部を形成するための炭素粒子と、炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより、前記分散媒を蒸発させて前記炭素粒子と前記ポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;加熱炉内で混合凝集体をさらに加熱することにより、混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質カーボン粒子を得ること;を包含する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質カーボン粒子からなるカーボン材料と、該多孔質カーボン粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質カーボン粒子を構成要素とするカーボン材料(多孔質カーボン材料)は、幅広い実用性を有しており、例えば、ガス吸着、触媒、金属微粒子(例えば、燃料電池の触媒として用いられる白金その他の金属および合金)の担体などに用いられる。
【0003】
多孔質カーボン粒子(典型的には略球形状の粒子)は様々な方法で作製することができる。例えば、特許文献1に開示の技術では、樹脂粒子の表面に炭素粒子を付着させた後に、加熱処理によって樹脂粒子を除去することによって多孔質カーボン粒子を作製している。また、非特許文献1に開示の技術では、シリカ(若しくはシリカアルミナ)からなる鋳型の周辺に炭素粒子を配置させ、当該鋳型をHFエッチングで除去することによって多孔質カーボン粒子を作製している。また、多孔質カーボン粒子を作製する他の技術が特許文献2や非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−268907号公報
【特許文献2】特開平5−178665号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリー(Journal of Materials Chemistry)、14巻、2004年、pp.478−486
【非特許文献2】カーボン(CARBON)、47巻、2009年、pp.2244−2252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多孔質カーボン粒子を含むカーボン材料を上述の用途に用いる場合、多孔質カーボン粒子の平均粒径が小さい方がカーボン材料の性能が向上する。これは、多孔質カーボン粒子の平均粒径が小さくなると、カーボン材料中の多孔質カーボン粒子の表面積が大きくなるためである。
【0007】
しかしながら、従来の製造方法では平均粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造することが難しい。
例えば、上述の特許文献1に記載の方法では、樹脂粒子の表面に付着させる炭素粉末の量を調整することが難しい。このため、樹脂粒子の表面に必要以上の炭素粉末が付着してしまい、極めて小さな粒径(例えば、粒径10μm未満)の多孔質カーボン粒子を作製することが難しい。
【0008】
一方、非特許文献1に記載の方法によれば、鋳型となるシリカ(若しくはシリカアルミナ)の大きさを調整することによって、極めて小さな粒径の多孔質カーボン粒子を作製することが可能である。しかし、当該方法のようにエッチング法を用いて鋳型を除去するような方法は、樹脂粒子を除去する方法に比べて複雑な工程を要するため、多孔質カーボン粒子を大量に製造することが難しい。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造できる製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる製造方法によって提供される粒径の小さな多孔質カーボン粒子からなる多孔質カーボン材料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するべく、多孔質カーボン粒子を製造する方法が提供される。
本発明の製造目的とする多孔質カーボン粒子は、炭素で形成されている外殻部と、外殻部の内部に形成されている内部空間と、外殻部に複数形成された内部空間と連通している微細孔とを備えている。
そして本発明によって提供される製造方法は、
外殻部を形成するための炭素粒子と、炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;
分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより、分散媒を蒸発させて炭素粒子とポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;
加熱炉内で上記混合凝集体をさらに加熱することにより、上記混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質カーボン粒子を得ること;
を包含する。
【0011】
上記構成の製造方法では、噴霧された液滴から分散媒を蒸発させることによって、液滴内に存在する炭素粒子とポリマー粒子とを凝集させ、混合凝集体を形成する。そして、この混合凝集体をさらに加熱することにより、混合凝集体中のポリマー成分を除去する。このとき、ポリマー成分は、表面に付着した炭素粒子の層に形成される微細な貫通孔より混合凝集体の外部へと除去される。これによって、内部空間を有し、炭素からなる外殻部に複数の微細孔が形成された多孔質カーボン粒子(典型的にはほぼ球形状の多孔質カーボン粒子)が得られる。
上記構成の製造方法では、一つの液滴内に存在しているポリマー粒子と炭素粒子から混合凝集体が形成されるため、従来のように炭素粒子同士が必要以上に凝集することによって多孔質カーボン粒子の粒径が大きくなることを防ぐことができる。したがって、本発明の製造方法によれば、噴霧した液滴の液滴径よりも大きな多孔質カーボン粒子が形成され難く、容易に粒径の小さな多孔質カーボン粒子を製造することができる。
また、かかる製造方法では、分散媒を蒸発させた後に、ポリマー成分を除去している。このため、加熱の際に分散媒やポリマー粒子が突沸することを防止し、好ましい形状の多孔質カーボン粒子(典型的にはほぼ球形状の多孔質カーボン粒子)の製造を可能にしている。
以上のように、本発明の製造方法によれば、従来よりも粒径が小さく、且つ、好ましい形状の多孔質カーボン粒子を容易に且つ大量に製造することができる。
【0012】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記炭素粒子の平均粒径が20〜100nmである。
なお、本明細書において「平均粒径」とは、測定対象の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。かかるD50は、例えば従来公知のレーザー回折方式、光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
平均粒径が20nm以上の炭素粒子を用いることによって、混合凝集体における炭素粒子の配置が密になりすぎて、ポリマー成分が除去されにくくなり、微細孔が形成されづらくなるといった事態を防止することができる。また、平均粒径100nm以下の炭素粒子を用いることによって、製造された多孔質カーボン粒子の粒径をより小さくすることができる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有した炭素粒子を用いると、微細孔が好適に形成され、且つ、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を形成することが容易になる。
【0013】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記ポリマー粒子の平均粒径が100〜600nmである。
平均粒径100nm以上のポリマー粒子を用いることによって、ポリマー粒子の表面を覆うようにして炭素粒子が好適に凝集している混合凝集体を作製することができる。また、平均粒径600nm以下のポリマー粒子を用いることによって、平均粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に形成することができる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有したポリマー粒子を用いると、従来よりも粒径が小さく、且つ、好ましい形状の多孔質カーボン粒子を容易に製造することができる
【0014】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、前記分散液中における前記炭素粒子(C)に対する前記ポリマー粒子(P)の重量比P/Cを0.5〜12に設定する。上記重量比(P/C)が上記範囲内にあることにより、適切な割合で炭素粒子とポリマー粒子とが混合された分散液を調整することができるので、所定の粒径の微小な多孔質カーボン粒子を効率よく製造することができる。
【0015】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記分散液を平均液滴径1μm〜6μmの液滴になるように加熱炉内に噴霧する。
本態様の製造方法によれば、上記数値範囲の液滴径で分散液を噴霧することによって、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造することができる。
【0016】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、混合凝集体を形成する際の温度を100℃以上300℃以下に設定する。
かかる温度範囲まで加熱することにより、分散液の溶媒の蒸発が効率よく行われ、好適な状態の混合凝集体を得て、好ましい形状の多孔質カーボン粒子を容易に形成することができる。
【0017】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、ポリマー成分を除去する際の温度を400℃以上1100℃以下に設定する。
ポリマー成分を除去する際の温度が400℃以上あれば、混合凝集体からポリマー成分を適切に取り除くことができる。また、1100℃以下であれば、炭素粒子の酸化を防止することができる。すなわち、上記数値範囲内の温度でポリマー成分の除去を行うことにより、好適な多孔質カーボン粒子を容易に形成することができる。
【0018】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、ポリマー成分の除去を、酸化ガス雰囲気下で行う。酸化ガス雰囲気下でポリマー成分を除去するための加熱処理を行うことによって、比較的低温域(例えば400℃以上700℃以下)でもポリマー成分を効率よく除去することができる。
【0019】
また、ここで開示される好ましい他の一態様の製造方法では、ポリマー成分の除去を、不活性ガス雰囲気下で行う。不活性ガス雰囲気下でポリマー成分を除去するための加熱処理を行うことによって、比較的高温域(例えば800℃以上1100℃以下)で混合凝集体を加熱した場合であっても炭素粒子の不測の酸化を防止できる。このため、炭素粒子を酸化させず、且つ、適切にポリマー成分を除去することができる。
【0020】
また、本発明は、他の側面として多孔質カーボン粒子(典型的にはほぼ球形状の多孔質カーボン材料)からなる多孔質カーボン材料を提供する。
ここで多孔質カーボン粒子は、炭素で形成されている外殻部(典型的にはほぼ球形状の外殻部)と、外殻部の内部に形成されている内部空間と、外殻部に複数形成されており、内部空間と連通している微細孔とを備えており、平均粒径が200nm以上10μm未満である。
より好適な一態様の多孔質カーボン材料において、かかる多孔質カーボン粒子の平均粒径は500nm以上3μm以下である。
【0021】
また、ここで開示される多孔質カーボン材料の好適な他の一態様では、多孔質カーボン粒子の微細孔の平均孔径は10nm以上500nm以下である。
【0022】
上記構成の多孔質カーボン粒子は、ここで開示される製造方法によって提供することができる。かかる多孔質カーボン粒子は、従来の多孔質カーボン粒子に比べて粒径が小さい。したがって、かかる多孔質カーボン粒子を用いてカーボン材料を作製すると、従来よりも性能が向上したカーボン材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る多孔質カーボン粒子の一例を示すSEM写真。
【図2】本発明に係る多孔質カーボン粒子の一例を示すSEM写真。
【図3】本発明の多孔質カーボン粒子の製造方法を好適に実施するための装置の一例を示すブロック図。
【図4】サンプル1のSEM写真。
【図5】サンプル2のSEM写真。
【図6】サンプル3のSEM写真。
【図7】サンプル4のSEM写真。
【図8】サンプル5のSEM写真。
【図9】サンプル6のSEM写真。
【図10】サンプル7のSEM写真。
【図11】サンプル8のSEM写真。
【図12】サンプル9のSEM写真。
【図13】サンプル10のSEM写真。
【図14】サンプル11のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、分散液の調製や噴霧や加熱に用いる装置など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0025】
本発明によって提供される多孔質カーボン材料は、上述した製造方法によって製造され得る多孔質カーボン粒子を構成要素とする材料であり、その他の副成分的な構成要素により限定されるものではない。
例えば多孔質カーボン粒子のみからなる粉体材料であってもよいし、当該多孔質カーボン粒子を適当な溶媒(水性溶媒や有機溶媒)に分散させてなる分散液(スラリー状のものを包含する。)形態であってもよい。
以下、本発明によって提供される多孔質カーボン材料の主体をなす多孔質カーボン粒子とその製法について詳細に説明する。なお、図1は、本発明に係る多孔質カーボン粒子の一例を示すSEM写真であり、図2は外殻部の一部を破壊して内部空洞を露出させた多孔質カーボン粒子のSEM写真である。
【0026】
図1に示すように、ここで開示される多孔質カーボン粒子は、典型的には略球形状の外形であり、炭素で形成された外殻部を有している。また、図2に示すように、当該外殻部の内部には内部空間が形成されている。さらに、上記外殻部には内部空間と連通している微細孔が複数形成されている。
ここで開示される多孔質カーボン粒子は、平均粒径が200nm以上10μm未満であるとよく、好ましくは500nm以上3μm以下、より好ましくは550nm以上1μm以下である。上記多孔質カーボン粒子は、従来の多孔質カーボン粒子に比べて粒径が小さいため、かかる多孔質カーボン粒子を用いてカーボン材料を作製した場合、従来よりも性能の優れたカーボン材料を提供することができる。
【0027】
図1に示すように、後述する製造方法により製造される多孔質カーボン材料の外殻部の形状は典型的には略球形状である。ここで、本明細書における「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状、多角体状などを含む形状であり、その長径/短径が好ましくは2/1〜1/1、典型的には1.5/1〜1/1であり、真球(長径/短径=1/1)に近い形状をとり得る。
外殻部は、微細な炭素粒子同士が凝集して形成されたものであり、外殻部を形成する炭素(炭素粒子)は、実質的に炭素原子のみで構成され得る。外殻部を構成する炭素粒子(即ちここで開示される製造方法に用いられる炭素原料である炭素粒子)の一例としては、カーボンブラック、活性炭、活性炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンなどが挙げられる。
また、外殻部の厚みは、20nm〜1μm、好ましくは40nm〜600nm、より好ましくは40nm〜500nmである。
【0028】
図2に示すように、多孔質カーボン粒子は中空の粒子であり、その内部に内部空間が形成されている。本発明を特に限定するものではないが、この内部空間の形状は略球形状であるとよい。内部空間の形状が略球形状である場合、内部空間の径は、例えば、50〜600nm、好ましくは100〜500nm程度である。
【0029】
内部空間と連通する微細孔は外殻部に複数形成されている。多孔質カーボン粒子1個あたりの微細孔の数は特に限定されるものではないが、概ね2〜250個、典型的には10〜200個、例えば50〜100個である。また、複数形成された微細孔の平均孔径(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。以下同じ。)は、10nm〜500nm、好ましくは20nm〜400nm、より好ましくは75nm〜150nm程度である。
【0030】
次に、上記多孔質カーボン粒子を製造する方法を説明する。
まず、炭素粒子とポリマー粒子が分散媒中に分散した分散液を用意する。当該分散液を用意するにあたっては、例えば、上記材料を混合することで分散液を調製してもよいし、上記材料が予め調製されている分散液を購入してもよい。
【0031】
炭素粒子は、外殻部を形成するための材料であり、この炭素粒子が凝集することによって多孔質カーボン粒子の外殻部が形成される。ここで用いられる炭素粒子は、上述のように、実質的に炭素原子のみで構成されているものであればよく、特に限定されるものではない。また、炭素粒子の平均粒径は、20〜100nm(好ましくは20〜90nm、より好ましくは25〜80nm、例えば75±5nm)程度であるとよい。
【0032】
ポリマー粒子は、炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなる粒子である。このポリマー粒子は、加熱によって分解・蒸発するものが好ましく用いられる。ここで開示されるポリマー粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、或いはその他にポリオレフィン系高分子化合物(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)などから成る粒子を好ましく用いることができる。この種の微細なポリマー粒子としては、所定の分散媒に分散した系(ラテックス)で提供されるいわゆるラテックス粒子を好適に使用することができる。ラテックス粒子は、一般にほぼ球形状であり粒度分布が小さいため、本発明の製造方法の適用する材料(ポリマー粒子)として好ましく使用することができる。なかでも、ポリスチレンからなるラテックス粒子(ポリスチレンラテックスビーズともいう。以下、「PSL」と称する。)を好ましく用いることができる。また、使用するポリマー粒子の平均粒径は、使用する炭素粒子よりも大きい径のものが好ましく、具体的には、100〜600nm(好ましくは150〜550nm、より好ましくは200〜500nm、例えば400±50nm)程度であるとよい。
【0033】
分散媒は、炭素粒子とポリマー粒子とを適切に分散させることができるものであればよく、ポリマー粒子が溶解しないような液体が特に好ましく用いられる。ここで、分散媒の一例としては、水、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどを挙げられる。これらの中でも、上記各粒子の分散性や製造コストを考慮すると、水が特に好ましく用いられる。
【0034】
分散液を調製する際には、所定量の炭素粒子とポリマー粒子を分散媒に添加して十分に混合する混合処理が行われる。この混合処理には、液体を混合するために用いられる従来公知の装置を用いることができ、例えば、攪拌混合やポットミリングなどが用いられる。特に攪拌混合を用いた場合、粒子が均質に分散した分散液を調製できるため好ましい。
また、炭素粒子とポリマー粒子を分散媒に添加する量は、目的とする多孔質カーボン粒子の粒径や内部空洞の径、外殻部の厚みなどに応じて、適宜調整することができる。
特に限定するものではないが、分散液中における炭素粒子(C)に対して使用するポリマー粒子(P)の重量比(P/C)が0.5〜12(好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6)程度になるようにこれら粒子材料を混合することが好ましい。
【0035】
次に、分散液を霧状の液滴にして加熱炉内に噴霧する。分散液を霧状の液滴に噴霧する具体的な方法については、例えば、2流体ノズル、超音波噴霧器などを用いるとよい。これらの機器を用いることによって、分散液をサブマイクロ〜マイクロオーダーの微細な液滴を霧状に噴霧させるができる。
液滴の液滴径の一例を挙げると、0.1〜10μm、好ましくは1〜6μm、更に好ましくは2〜5μm程度である。この場合、従来の製造方法で製造した場合に比べて、さらに粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に作製することができる。
【0036】
次に、噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより、分散媒を蒸発させて混合凝集体を形成する。詳しく説明すると、このときの加熱炉内では、分散媒が蒸発し、且つ、混合凝集体中からポリマー成分が取り除かれない程度の温度域(好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは150℃以上250℃以下、例えば200℃程度)で分散液の液滴を加熱する。これによって、液滴中に分散していた炭素粒子とポリマー粒子とが凝集しながら析出する。このときに、複数の炭素粒子が凝集しながらポリマー粒子の表面に付着し、混合凝集体が形成される。
【0037】
次に、上記混合凝集体をさらに加熱することにより、ポリマー成分を除去する。ここで、かかるポリマー成分の除去の態様としては、例えば、ポリマー成分の蒸発による除去、ポリマー成分の分解による除去、加熱に伴う燃焼による除去などが例として挙げられる。なお、かかる除去の態様は上述の例に限られるものではない。
混合凝集体中からポリマー成分を除去するための加熱処理を行うと、当該ポリマー成分が気体になり、気体となったポリマー成分の圧力によってポリマー粒子の表面に付着していた炭素粒子の凝集体に微細な穴が開く。当該微細な穴を通って、気体となったポリマー成分が混合凝集体の外部へ抜け、混合凝集体におけるポリマー粒子が配置されていた部分(中心部分)が空洞化する。これによって、中空であり、微細な穴が複数形成された炭素粒子の凝集体が形成される。この炭素粒子の凝集体が外殻部になり、上記微細な穴が微細孔となり、空洞化した中心部分が内部空間になり、外殻部と微細孔と内部空間を有した多孔質カーボン粒子が形成される。
【0038】
なお、上述のポリマー成分を除去するための加熱処理は、ポリマー成分を除去(蒸発・分解など)でき、且つ、炭素粒子が酸化しないように行うことが好ましい。このように加熱処理を行うには、加熱温度や加熱環境を調整するとよい。例えば、加熱温度については、400℃以上1100℃以下、好ましくは500℃以上1050℃以下に調整する。
なお、ここでの加熱温度を比較的に高温域(800℃以上1100℃以下、好ましくは900℃以上1050℃以下)に設定した場合には、加熱処理を不活性ガス(例えば、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)の雰囲気下で行うとよい。この場合、加熱による炭素粒子の酸化を防止しながらポリマー成分を除去することができるので、炭素粒子が酸化しておらず、ポリマー成分が好適に除去されているような、品質に優れた多孔質カーボン粒子を製造することができる。
一方、加熱温度を比較的低温域(400℃以上700℃以下、好ましくは500℃以上650℃以下)に設定した場合には、加熱処理を酸化性ガス(例えば、酸素含有ガス(特に好ましくは空気))の雰囲気下で行うとよい。この場合、酸化性ガスがポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するため、比較的低温域でもポリマー成分を適切に除去することができる。加熱処理を比較的低温域で行うメリットとしては、加熱炉の耐久性低下の防止、温度上昇に要する燃料費の低減など、低コストで多孔質カーボン粒子の製造が可能になることが挙げられる。さらに、酸化性ガスとして空気を用いた場合には、キャリアーガスのコストを低減させることができるので、製造コストを更に低減させることができる。
【0039】
また、上記ポリマー成分を除去する際の加熱温度を変更すると、炭素粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)の好適な値にも影響を与える。例えば、ポリマー成分を除去する際の加熱温度を比較的高温域(例えば800℃以上1100℃以下)に設定した場合、炭素粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的少なく(0.5〜2、好ましくは1〜1.5)なるように分散液を調製するとよい。
一方、加熱温度を比較的低温域(400℃以上700℃以下)に設定した場合、炭素粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的多く(4以上10以下、好ましくは4.5以上6以下)なるように分散液を調製するとよい。
【0040】
また、上記分散液の液滴を加熱炉内で加熱する時間については、分散液1mlを加熱炉で加熱する場合、0.5〜10分、好ましくは1〜5分、より好ましくは1〜3分、例えば1.3分程度に設定する。上述の範囲内の時間で分散液の液滴を加熱すると、好適な多孔質カーボン粒子を形成することができる。このように、ここで開示される製造方法では、従来よりも大幅に短い時間であっても好適な多孔質カーボン粒子を製造することができる。
【0041】
ここで開示される多孔質カーボン粒子の用途を以下に例示する。
上記多孔質カーボン粒子は、例えば、吸着剤として用いることができる。この場合、上記多孔質カーボン粒子を多数含んだ固形(若しくはペースト状)のカーボン材料を形成し吸着剤として用いる。この場合、カーボン材料中に含まれる多孔質カーボン粒子の粒径が従来よりも小さいため、カーボン材料全体における多孔質カーボン粒子の表面積が従来に比べて増大する。したがって、上記多孔質カーボン粒子を吸着剤として用いると、当該吸着剤の吸着性能を向上させることができる。
また、上記多孔質カーボン粒子は、例えば、金属微粒子(例えば、燃料電池の触媒として用いられ得る白金および白金の合金)の担体としても用いることができる。この場合、多孔質カーボン粒子を多数含んだ固形(若しくはペースト状)のカーボン材料を形成し、当該カーボン材料を金属微粒子の担体として用いる。かかるカーボン材料の担体では、上記多孔質カーボン粒子の表面に金属微粒子が担持されるため、粒径の小さな多孔質カーボン粒子を多く含むカーボン材料では、多孔質カーボン粒子の表面積が従来よりも広くなっている。したがって、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を有するカーボン材料を金属微粒子の担体として用いると、従来よりも多くの金属微粒子を担持することができる。
このように、ここで開示される多孔質カーボン粒子は、様々な分野に使用されるカーボン材料の性能を向上させることができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。上述した多孔質カーボン粒子の製造方法は、例えば、図3で模式的に示すような装置100を用いて実施することができる。この装置100は、大まかに言って、分散液L1を噴霧する噴霧部10と、該噴霧された分散液L1の液滴L2を加熱する加熱炉20と、形成された粒子を捕集する捕集部30とから構成されている。
【0043】
噴霧部は分散液を霧状に噴霧させることのできる部材であり、図3で示す噴霧部10はキャリアーガスを高圧で吹き出すことで分散液L1を噴霧する二流体ノズル12と、当該二流体ノズル12にキャリアーガスを供給するガス供給ユニット14とから構成されている。二流体ノズル12は、従来公知の装置(いけうち社製、BIM型シリーズなど)を用いることができ、例えば、ノズル先端の径が200μm〜600μm(例えば400μm)であるものが好ましい。ガス供給ユニット14は、例えば、流速3L/min〜10L/minでキャリアーガスを供給することができるものが好ましい。また、ガス供給ユニット14から供給されるキャリアーガスは、不活性ガス(例えば、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(特に好ましくは空気))を用いることができる。
また、噴霧部10は、二流体ノズル12で噴霧された液滴L2を加熱炉20内に供給できるように加熱炉20に接続されている。
【0044】
加熱炉は、噴霧された液滴を複数の異なる温度域で加熱することができる装置であるとよい。図3に示す加熱炉20は、噴霧された液滴L2を輸送させる輸送管22と、当該輸送管22の内部を加熱するヒータ24とから構成されている。
輸送管22は、内部空洞を有した筒状の部品であり、長手方向における一端が上記二流体ノズル12に接続されており、他端が後述の電気集塵装置32に接続されている。特に限定するものではないが、輸送管22は、全体で0.4〜3L程度の容量を有しているものが適当であり、例えば0.9L程度の容量を有しているものを好ましく用いることができる。また、輸送管22の径は、5mm〜20mm程度が適当であり、13mm程度であるとより好ましい。
ヒータ24は、輸送管22の周方向を覆うように配置されており、ヒータ24が発熱することによって、輸送管22の内部空洞が加熱される。また、この装置100では、ヒータ24は複数のヒータ部24a〜24eから構成されており、ヒータ部24a〜24eは輸送管22の長手方向に沿って連続して配置されている。複数のヒータ部24a〜24eのうち、第1ヒータ部24aは加熱炉20の入口側(噴霧部10側)に配置されており、以下、加熱炉20の出口側(捕集部30側)に向かって第2ヒータ部24b、第3ヒータ部24c、第4ヒータ部24d、第5ヒータ部24eの順に連続して配置されている。上記複数のヒータ部24a〜24eには電気加熱装置などを用いることができ、それぞれのヒータ部24a〜24eが独立して加熱温度を制御できる。これによって、加熱炉20内部(輸送管22の内部)の温度を部分的に調整することができる。
【0045】
さらに、ここで開示される装置100は、加熱炉20の下流に捕集部30を設けている。捕集部30は、キャリアーガス中の多孔質カーボン粒子を捕集する電気集塵装置32と、ポリマー成分を除去(蒸発・分解など)する際に生じたガスを捕集するトラップ34とから構成されている。電気集塵装置32は、キャリアーガス中に滞留している多孔質カーボン粒子を帯電させることによって捕集する装置である。また、トラップ34は、ポリマー成分から生じたガスを含んだキャリアーガスを水中にバブリングすることによって、上記ポリマー成分由来のガスを捕集する。
【0046】
上記装置100を用いて上述の製造方法を実施する手順を説明する。まず、噴霧部10の二流体ノズル12へ分散液L1とキャリアーガスを供給する。これによって、二流体ノズル12内において、高圧のキャリアーガスに分散液L1が衝突して、分散液L1が霧状の液滴L2として噴霧される。そして、キャリアーガスによって霧状の液滴L2を加熱炉20へ供給し、液滴L2を加熱炉20の輸送管22内に噴霧する。噴霧された液滴L2は、キャリアーガスの流れに伴い、加熱炉20の上流側(即ち第1ヒータ部24a側)から下流側(即ち第5ヒータ部24e側)に向かって流動する。なお、このとき、キャリアーガスに酸化性ガスを用いていれば加熱炉20内は酸化性ガス雰囲気になり、不活性ガスを用いていれば加熱炉20内は不活性ガス雰囲気になる。
ここで、各々のヒータ部24a〜24eが輸送管22内を加熱する温度を予め定めておく。例えば、分散液L2中の分散媒が蒸発し、且つ、ポリマー成分が取り除かれない(蒸発しない)程度の温度域(例えば100℃以上300℃以下)に第1ヒータ部24aの温度を設定するとよい。そして、残りのヒータ部24b〜24eを、ポリマー成分を除去でき、且つ、炭素粒子が酸化しない程度の温度域(例えば400℃以上1100℃以下)に設定するとよい。これによって、液滴L2が第1ヒータ部24aを通過すると、液滴L2中の分散媒が蒸発し、混合凝集体Aが形成される。そして、混合凝集体Aが残りのヒータ部24b〜24eを通過すると、混合凝集体Aからポリマー成分が除去され、多孔質カーボン粒子Pが形成される。以上の工程において、加熱炉20内全体で分散液L1(混合凝集体A)が加熱される時間は、分散液1mlあたり1〜3min程度であるとよい。
形成された多孔質カーボン粒子Pは、キャリアーガス中を滞留しながら、捕集部30へ移送され、電気集塵装置32で捕集される。そして、多孔質カーボン粒子Pがキャリアーガスは排気装置34を通過して装置100の外部へ排気される。
このように、装置100を用いれば、ここで開示される多孔質カーボン粒子の製造方法を実施することができる。
【0047】
次に、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の実施例では、それぞれに異なったプロセスで作製された多孔質カーボン材料(サンプル1〜11)を作製し、各サンプルの性能を評価した。
【0048】
〈サンプル1〉
炭素粒子として平均粒径27nmのカーボンブラック粒子を用い、ポリマー粒子として平均粒径400nmのPSLを用いた。このカーボンブラック粒子とPSLとを重量比(P/C)が10.6になるように混合し、分散媒(水)と混合させて、PSLとカーボンブラック粒子の質量割合がトータルで分散液全体の1mass%となる分散液を調製した。
【0049】
次に、図3に示すような装置100の二流体ノズル12に供給するキャリアーガスを酸化ガスである空気に設定して、その流速を5L/minにした。そして、上記分散液を二流体ノズル12に供給して、液滴径が2〜5μmの霧状の液滴になるように上記分散液を噴霧し、噴霧後の液滴を加熱炉20に移送した。
【0050】
次いで、加熱炉20(輸送管22)内に噴霧された液滴を、加熱炉20の上流側から下流側に向かって流動させながら、加熱処理を実施した。この際、液滴中の分散媒を蒸発させるために第1ヒータ部24aの加熱温度を200℃に設定した。また、混合凝集体中のポリマー成分を除去するために、その他のヒータ部(第2ヒータ部24b〜第5ヒータ部24e)の加熱温度を600℃に設定した。また、噴霧された液滴L2が加熱炉20内で1mlあたり1.3分間加熱されるように、加熱炉20内でのキャリアーガスの流速を調整した。この加熱炉20内を分散液の液滴L2を輸送することによって、上記分散液の液滴L2が混合凝集体Aになり、混合凝集体Aから多孔質カーボン粒子Pが形成された。そして、形成された多孔質カーボン粒子Pを電気集塵装置32で捕集して多孔質カーボン粒子Pを得た。以下、ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル1」と称する。
【0051】
〈サンプル2〉
ここでは、炭素粒子として平均粒径75nmのカーボンブラック粒子を用いた以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル2」と称する。
【0052】
〈サンプル3〉
ここでは、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル3」と称する。
【0053】
〈サンプル4〉
ここでは、炭素粒子として平均粒径75nmのカーボンブラック粒子を用い、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル4」と称する。
【0054】
〈サンプル5〉
ここでは、キャリアーガスを不活性ガスであるN2ガス(流速5L/min)にした以外は、上記サンプル4と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル5」と称する。
【0055】
〈サンプル6〉
ここでは、P/C=2.6になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル6」と称する。
【0056】
上記サンプル1〜6の作製条件を下記の表1に纏める。
【0057】
【表1】
【0058】
〈サンプル1〜6のSEM観察〉
上記サンプル1〜6を走査型電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所、S3100H、S5000)で観察した。観察結果のSEM写真を図4〜9に示す。図4はサンプル1、図5はサンプル2、図6はサンプル3、図7はサンプル4、図8はサンプル5、図9はサンプル6のSEM写真である。
【0059】
サンプル1とサンプル3とサンプル6を比較すると、サンプル3において最も好適な形状の多孔質カーボン粒子が形成されていた(図4,図6,図9参照)。このことから、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製すると、好適な多孔質カーボン粒子が作製できると解される。
【0060】
次に、サンプル1とサンプル2(若しくはサンプル3とサンプル4)を比較すると、炭素粒子(カーボンブラック粒子)の平均粒径が75nmであるサンプル2(サンプル4)の方がより好適な微細孔が形成されていた(図4〜図7参照)。これは、平均粒径が大きいカーボンブラック粒子を用いると、ポリマー粒子の表面に付着した際にカーボンブラック粒子間に隙間が生じやすい。除去の際に気体となったポリマー粒子は、当該隙間を広げながら混合凝集体の外部に抜けて、微細孔を形成するので、好適な大きさの微細孔が形成されやすくなると解される。
【0061】
次に、サンプル4とサンプル5を比較すると、キャリアーガスに空気を用いたサンプル4の方がより好適な微細孔が形成され、キャリアーガスにN2ガスを用いたサンプル5の微細孔にはPSLが僅かに残っていた(図7及び図8参照)。これは、酸化ガス(空気)雰囲気下で加熱処理を行うと、酸素の存在が混合凝集体中のポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するためであると解される。
【0062】
以上の結果を纏めると、ポリマー成分を除去する際の温度を600℃に設定した場合、以下のような条件で多孔質カーボン粒子を製造すると、最も好適な多孔質カーボン粒子を得ることができることが分かった。
カーボンブラック粒子の平均粒径:75nm
P/C=5.3
キャリアーガス:空気
【0063】
次に、ポリマー粒子を除去する際の温度を1000℃に上げて、サンプル7〜11を作製した。以下、サンプル7〜11の作製条件を説明する。
【0064】
〈サンプル7〉
次に、P/C=21.3になるように、カーボンブラック粒子とPSLの量を調整し、分散液を調製した。そして、キャリアーガスを不活性ガスであるN2ガス(流速5L/min)にし、第2ヒータ部24b〜第5ヒータ部24eの設定温度(ポリマー成分を除去する際の温度)を1000℃に設定した。そして、上記条件を除いて、サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル7」と称する。
【0065】
〈サンプル8〉
ここでは、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル8」と称する。
【0066】
〈サンプル9〉
ここでは、P/C=2.6になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル9」と称する。
【0067】
〈サンプル10〉
ここでは、P/C=1.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル10」と称する。
【0068】
〈サンプル11〉
ここでは、P/C=1.0になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル11」と称する。
【0069】
上記サンプル7〜11の作製条件を下記の表2に纏める。
【0070】
【表2】
【0071】
〈サンプル7〜11のSEM観察〉
上記サンプル1〜5と同じ手順で観察したサンプル7〜11のSEM写真を図10〜14に示す。図10はサンプル7、図11はサンプル8、図12はサンプル9、図13はサンプル10、図14はサンプル11のSEM写真である。
【0072】
サンプル7〜11を比較すると、サンプル10において最も好適な形状の多孔質カーボン粒子が形成されていることがわかった(図10〜図14参照)。このことから、キャリアーガスにN2ガスを用い、ポリマー成分を除去する際の温度を1000℃に設定した場合には、P/C=1.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製すると、好適な多孔質カーボン粒子が作製しやすいと解される。
【0073】
また、図10〜図14に示すように、いずれのサンプルにもPSLは残存していなかった。さらに、いずれのサンプルにも外殻部のカーボンブラック粒子に酸化が見られなかった。このことから、ポリマー成分を除去する際の温度を1000℃に設定した場合には、キャリアーガスとして不活性ガスであるN2ガスを用いると、カーボンブラック粒子(炭素粒子)の酸化がなく、ポリマー成分が適切に除去された多孔質カーボン粒子を作製できると解される。
【0074】
以上の結果を纏めると、ポリマー成分を除去する際の温度を1000℃に設定した場合、以下のような条件で多孔質カーボン粒子を製造すると、最も好適な多孔質カーボン粒子を得ることができることが分かった。
P/C=1.3
キャリアーガス:N2ガス
【符号の説明】
【0075】
10 噴霧部
12 二流体ノズル
14 ガス供給ユニット
20 加熱炉
22 輸送管
24 ヒータ
24a〜24b ヒータ部
30 捕集部
32 電気集塵装置
34 排気装置
100 装置
L1 分散液
L2 液滴
A 混合凝集体
P 多孔質カーボン粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質カーボン粒子からなるカーボン材料と、該多孔質カーボン粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質カーボン粒子を構成要素とするカーボン材料(多孔質カーボン材料)は、幅広い実用性を有しており、例えば、ガス吸着、触媒、金属微粒子(例えば、燃料電池の触媒として用いられる白金その他の金属および合金)の担体などに用いられる。
【0003】
多孔質カーボン粒子(典型的には略球形状の粒子)は様々な方法で作製することができる。例えば、特許文献1に開示の技術では、樹脂粒子の表面に炭素粒子を付着させた後に、加熱処理によって樹脂粒子を除去することによって多孔質カーボン粒子を作製している。また、非特許文献1に開示の技術では、シリカ(若しくはシリカアルミナ)からなる鋳型の周辺に炭素粒子を配置させ、当該鋳型をHFエッチングで除去することによって多孔質カーボン粒子を作製している。また、多孔質カーボン粒子を作製する他の技術が特許文献2や非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−268907号公報
【特許文献2】特開平5−178665号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリー(Journal of Materials Chemistry)、14巻、2004年、pp.478−486
【非特許文献2】カーボン(CARBON)、47巻、2009年、pp.2244−2252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多孔質カーボン粒子を含むカーボン材料を上述の用途に用いる場合、多孔質カーボン粒子の平均粒径が小さい方がカーボン材料の性能が向上する。これは、多孔質カーボン粒子の平均粒径が小さくなると、カーボン材料中の多孔質カーボン粒子の表面積が大きくなるためである。
【0007】
しかしながら、従来の製造方法では平均粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造することが難しい。
例えば、上述の特許文献1に記載の方法では、樹脂粒子の表面に付着させる炭素粉末の量を調整することが難しい。このため、樹脂粒子の表面に必要以上の炭素粉末が付着してしまい、極めて小さな粒径(例えば、粒径10μm未満)の多孔質カーボン粒子を作製することが難しい。
【0008】
一方、非特許文献1に記載の方法によれば、鋳型となるシリカ(若しくはシリカアルミナ)の大きさを調整することによって、極めて小さな粒径の多孔質カーボン粒子を作製することが可能である。しかし、当該方法のようにエッチング法を用いて鋳型を除去するような方法は、樹脂粒子を除去する方法に比べて複雑な工程を要するため、多孔質カーボン粒子を大量に製造することが難しい。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造できる製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる製造方法によって提供される粒径の小さな多孔質カーボン粒子からなる多孔質カーボン材料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するべく、多孔質カーボン粒子を製造する方法が提供される。
本発明の製造目的とする多孔質カーボン粒子は、炭素で形成されている外殻部と、外殻部の内部に形成されている内部空間と、外殻部に複数形成された内部空間と連通している微細孔とを備えている。
そして本発明によって提供される製造方法は、
外殻部を形成するための炭素粒子と、炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;
分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより、分散媒を蒸発させて炭素粒子とポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;
加熱炉内で上記混合凝集体をさらに加熱することにより、上記混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質カーボン粒子を得ること;
を包含する。
【0011】
上記構成の製造方法では、噴霧された液滴から分散媒を蒸発させることによって、液滴内に存在する炭素粒子とポリマー粒子とを凝集させ、混合凝集体を形成する。そして、この混合凝集体をさらに加熱することにより、混合凝集体中のポリマー成分を除去する。このとき、ポリマー成分は、表面に付着した炭素粒子の層に形成される微細な貫通孔より混合凝集体の外部へと除去される。これによって、内部空間を有し、炭素からなる外殻部に複数の微細孔が形成された多孔質カーボン粒子(典型的にはほぼ球形状の多孔質カーボン粒子)が得られる。
上記構成の製造方法では、一つの液滴内に存在しているポリマー粒子と炭素粒子から混合凝集体が形成されるため、従来のように炭素粒子同士が必要以上に凝集することによって多孔質カーボン粒子の粒径が大きくなることを防ぐことができる。したがって、本発明の製造方法によれば、噴霧した液滴の液滴径よりも大きな多孔質カーボン粒子が形成され難く、容易に粒径の小さな多孔質カーボン粒子を製造することができる。
また、かかる製造方法では、分散媒を蒸発させた後に、ポリマー成分を除去している。このため、加熱の際に分散媒やポリマー粒子が突沸することを防止し、好ましい形状の多孔質カーボン粒子(典型的にはほぼ球形状の多孔質カーボン粒子)の製造を可能にしている。
以上のように、本発明の製造方法によれば、従来よりも粒径が小さく、且つ、好ましい形状の多孔質カーボン粒子を容易に且つ大量に製造することができる。
【0012】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記炭素粒子の平均粒径が20〜100nmである。
なお、本明細書において「平均粒径」とは、測定対象の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。かかるD50は、例えば従来公知のレーザー回折方式、光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
平均粒径が20nm以上の炭素粒子を用いることによって、混合凝集体における炭素粒子の配置が密になりすぎて、ポリマー成分が除去されにくくなり、微細孔が形成されづらくなるといった事態を防止することができる。また、平均粒径100nm以下の炭素粒子を用いることによって、製造された多孔質カーボン粒子の粒径をより小さくすることができる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有した炭素粒子を用いると、微細孔が好適に形成され、且つ、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を形成することが容易になる。
【0013】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記ポリマー粒子の平均粒径が100〜600nmである。
平均粒径100nm以上のポリマー粒子を用いることによって、ポリマー粒子の表面を覆うようにして炭素粒子が好適に凝集している混合凝集体を作製することができる。また、平均粒径600nm以下のポリマー粒子を用いることによって、平均粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に形成することができる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有したポリマー粒子を用いると、従来よりも粒径が小さく、且つ、好ましい形状の多孔質カーボン粒子を容易に製造することができる
【0014】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、前記分散液中における前記炭素粒子(C)に対する前記ポリマー粒子(P)の重量比P/Cを0.5〜12に設定する。上記重量比(P/C)が上記範囲内にあることにより、適切な割合で炭素粒子とポリマー粒子とが混合された分散液を調整することができるので、所定の粒径の微小な多孔質カーボン粒子を効率よく製造することができる。
【0015】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記分散液を平均液滴径1μm〜6μmの液滴になるように加熱炉内に噴霧する。
本態様の製造方法によれば、上記数値範囲の液滴径で分散液を噴霧することによって、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に製造することができる。
【0016】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、混合凝集体を形成する際の温度を100℃以上300℃以下に設定する。
かかる温度範囲まで加熱することにより、分散液の溶媒の蒸発が効率よく行われ、好適な状態の混合凝集体を得て、好ましい形状の多孔質カーボン粒子を容易に形成することができる。
【0017】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、ポリマー成分を除去する際の温度を400℃以上1100℃以下に設定する。
ポリマー成分を除去する際の温度が400℃以上あれば、混合凝集体からポリマー成分を適切に取り除くことができる。また、1100℃以下であれば、炭素粒子の酸化を防止することができる。すなわち、上記数値範囲内の温度でポリマー成分の除去を行うことにより、好適な多孔質カーボン粒子を容易に形成することができる。
【0018】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、ポリマー成分の除去を、酸化ガス雰囲気下で行う。酸化ガス雰囲気下でポリマー成分を除去するための加熱処理を行うことによって、比較的低温域(例えば400℃以上700℃以下)でもポリマー成分を効率よく除去することができる。
【0019】
また、ここで開示される好ましい他の一態様の製造方法では、ポリマー成分の除去を、不活性ガス雰囲気下で行う。不活性ガス雰囲気下でポリマー成分を除去するための加熱処理を行うことによって、比較的高温域(例えば800℃以上1100℃以下)で混合凝集体を加熱した場合であっても炭素粒子の不測の酸化を防止できる。このため、炭素粒子を酸化させず、且つ、適切にポリマー成分を除去することができる。
【0020】
また、本発明は、他の側面として多孔質カーボン粒子(典型的にはほぼ球形状の多孔質カーボン材料)からなる多孔質カーボン材料を提供する。
ここで多孔質カーボン粒子は、炭素で形成されている外殻部(典型的にはほぼ球形状の外殻部)と、外殻部の内部に形成されている内部空間と、外殻部に複数形成されており、内部空間と連通している微細孔とを備えており、平均粒径が200nm以上10μm未満である。
より好適な一態様の多孔質カーボン材料において、かかる多孔質カーボン粒子の平均粒径は500nm以上3μm以下である。
【0021】
また、ここで開示される多孔質カーボン材料の好適な他の一態様では、多孔質カーボン粒子の微細孔の平均孔径は10nm以上500nm以下である。
【0022】
上記構成の多孔質カーボン粒子は、ここで開示される製造方法によって提供することができる。かかる多孔質カーボン粒子は、従来の多孔質カーボン粒子に比べて粒径が小さい。したがって、かかる多孔質カーボン粒子を用いてカーボン材料を作製すると、従来よりも性能が向上したカーボン材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る多孔質カーボン粒子の一例を示すSEM写真。
【図2】本発明に係る多孔質カーボン粒子の一例を示すSEM写真。
【図3】本発明の多孔質カーボン粒子の製造方法を好適に実施するための装置の一例を示すブロック図。
【図4】サンプル1のSEM写真。
【図5】サンプル2のSEM写真。
【図6】サンプル3のSEM写真。
【図7】サンプル4のSEM写真。
【図8】サンプル5のSEM写真。
【図9】サンプル6のSEM写真。
【図10】サンプル7のSEM写真。
【図11】サンプル8のSEM写真。
【図12】サンプル9のSEM写真。
【図13】サンプル10のSEM写真。
【図14】サンプル11のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、分散液の調製や噴霧や加熱に用いる装置など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0025】
本発明によって提供される多孔質カーボン材料は、上述した製造方法によって製造され得る多孔質カーボン粒子を構成要素とする材料であり、その他の副成分的な構成要素により限定されるものではない。
例えば多孔質カーボン粒子のみからなる粉体材料であってもよいし、当該多孔質カーボン粒子を適当な溶媒(水性溶媒や有機溶媒)に分散させてなる分散液(スラリー状のものを包含する。)形態であってもよい。
以下、本発明によって提供される多孔質カーボン材料の主体をなす多孔質カーボン粒子とその製法について詳細に説明する。なお、図1は、本発明に係る多孔質カーボン粒子の一例を示すSEM写真であり、図2は外殻部の一部を破壊して内部空洞を露出させた多孔質カーボン粒子のSEM写真である。
【0026】
図1に示すように、ここで開示される多孔質カーボン粒子は、典型的には略球形状の外形であり、炭素で形成された外殻部を有している。また、図2に示すように、当該外殻部の内部には内部空間が形成されている。さらに、上記外殻部には内部空間と連通している微細孔が複数形成されている。
ここで開示される多孔質カーボン粒子は、平均粒径が200nm以上10μm未満であるとよく、好ましくは500nm以上3μm以下、より好ましくは550nm以上1μm以下である。上記多孔質カーボン粒子は、従来の多孔質カーボン粒子に比べて粒径が小さいため、かかる多孔質カーボン粒子を用いてカーボン材料を作製した場合、従来よりも性能の優れたカーボン材料を提供することができる。
【0027】
図1に示すように、後述する製造方法により製造される多孔質カーボン材料の外殻部の形状は典型的には略球形状である。ここで、本明細書における「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状、多角体状などを含む形状であり、その長径/短径が好ましくは2/1〜1/1、典型的には1.5/1〜1/1であり、真球(長径/短径=1/1)に近い形状をとり得る。
外殻部は、微細な炭素粒子同士が凝集して形成されたものであり、外殻部を形成する炭素(炭素粒子)は、実質的に炭素原子のみで構成され得る。外殻部を構成する炭素粒子(即ちここで開示される製造方法に用いられる炭素原料である炭素粒子)の一例としては、カーボンブラック、活性炭、活性炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンなどが挙げられる。
また、外殻部の厚みは、20nm〜1μm、好ましくは40nm〜600nm、より好ましくは40nm〜500nmである。
【0028】
図2に示すように、多孔質カーボン粒子は中空の粒子であり、その内部に内部空間が形成されている。本発明を特に限定するものではないが、この内部空間の形状は略球形状であるとよい。内部空間の形状が略球形状である場合、内部空間の径は、例えば、50〜600nm、好ましくは100〜500nm程度である。
【0029】
内部空間と連通する微細孔は外殻部に複数形成されている。多孔質カーボン粒子1個あたりの微細孔の数は特に限定されるものではないが、概ね2〜250個、典型的には10〜200個、例えば50〜100個である。また、複数形成された微細孔の平均孔径(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。以下同じ。)は、10nm〜500nm、好ましくは20nm〜400nm、より好ましくは75nm〜150nm程度である。
【0030】
次に、上記多孔質カーボン粒子を製造する方法を説明する。
まず、炭素粒子とポリマー粒子が分散媒中に分散した分散液を用意する。当該分散液を用意するにあたっては、例えば、上記材料を混合することで分散液を調製してもよいし、上記材料が予め調製されている分散液を購入してもよい。
【0031】
炭素粒子は、外殻部を形成するための材料であり、この炭素粒子が凝集することによって多孔質カーボン粒子の外殻部が形成される。ここで用いられる炭素粒子は、上述のように、実質的に炭素原子のみで構成されているものであればよく、特に限定されるものではない。また、炭素粒子の平均粒径は、20〜100nm(好ましくは20〜90nm、より好ましくは25〜80nm、例えば75±5nm)程度であるとよい。
【0032】
ポリマー粒子は、炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなる粒子である。このポリマー粒子は、加熱によって分解・蒸発するものが好ましく用いられる。ここで開示されるポリマー粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、或いはその他にポリオレフィン系高分子化合物(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)などから成る粒子を好ましく用いることができる。この種の微細なポリマー粒子としては、所定の分散媒に分散した系(ラテックス)で提供されるいわゆるラテックス粒子を好適に使用することができる。ラテックス粒子は、一般にほぼ球形状であり粒度分布が小さいため、本発明の製造方法の適用する材料(ポリマー粒子)として好ましく使用することができる。なかでも、ポリスチレンからなるラテックス粒子(ポリスチレンラテックスビーズともいう。以下、「PSL」と称する。)を好ましく用いることができる。また、使用するポリマー粒子の平均粒径は、使用する炭素粒子よりも大きい径のものが好ましく、具体的には、100〜600nm(好ましくは150〜550nm、より好ましくは200〜500nm、例えば400±50nm)程度であるとよい。
【0033】
分散媒は、炭素粒子とポリマー粒子とを適切に分散させることができるものであればよく、ポリマー粒子が溶解しないような液体が特に好ましく用いられる。ここで、分散媒の一例としては、水、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどを挙げられる。これらの中でも、上記各粒子の分散性や製造コストを考慮すると、水が特に好ましく用いられる。
【0034】
分散液を調製する際には、所定量の炭素粒子とポリマー粒子を分散媒に添加して十分に混合する混合処理が行われる。この混合処理には、液体を混合するために用いられる従来公知の装置を用いることができ、例えば、攪拌混合やポットミリングなどが用いられる。特に攪拌混合を用いた場合、粒子が均質に分散した分散液を調製できるため好ましい。
また、炭素粒子とポリマー粒子を分散媒に添加する量は、目的とする多孔質カーボン粒子の粒径や内部空洞の径、外殻部の厚みなどに応じて、適宜調整することができる。
特に限定するものではないが、分散液中における炭素粒子(C)に対して使用するポリマー粒子(P)の重量比(P/C)が0.5〜12(好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6)程度になるようにこれら粒子材料を混合することが好ましい。
【0035】
次に、分散液を霧状の液滴にして加熱炉内に噴霧する。分散液を霧状の液滴に噴霧する具体的な方法については、例えば、2流体ノズル、超音波噴霧器などを用いるとよい。これらの機器を用いることによって、分散液をサブマイクロ〜マイクロオーダーの微細な液滴を霧状に噴霧させるができる。
液滴の液滴径の一例を挙げると、0.1〜10μm、好ましくは1〜6μm、更に好ましくは2〜5μm程度である。この場合、従来の製造方法で製造した場合に比べて、さらに粒径の小さな多孔質カーボン粒子を容易に作製することができる。
【0036】
次に、噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより、分散媒を蒸発させて混合凝集体を形成する。詳しく説明すると、このときの加熱炉内では、分散媒が蒸発し、且つ、混合凝集体中からポリマー成分が取り除かれない程度の温度域(好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは150℃以上250℃以下、例えば200℃程度)で分散液の液滴を加熱する。これによって、液滴中に分散していた炭素粒子とポリマー粒子とが凝集しながら析出する。このときに、複数の炭素粒子が凝集しながらポリマー粒子の表面に付着し、混合凝集体が形成される。
【0037】
次に、上記混合凝集体をさらに加熱することにより、ポリマー成分を除去する。ここで、かかるポリマー成分の除去の態様としては、例えば、ポリマー成分の蒸発による除去、ポリマー成分の分解による除去、加熱に伴う燃焼による除去などが例として挙げられる。なお、かかる除去の態様は上述の例に限られるものではない。
混合凝集体中からポリマー成分を除去するための加熱処理を行うと、当該ポリマー成分が気体になり、気体となったポリマー成分の圧力によってポリマー粒子の表面に付着していた炭素粒子の凝集体に微細な穴が開く。当該微細な穴を通って、気体となったポリマー成分が混合凝集体の外部へ抜け、混合凝集体におけるポリマー粒子が配置されていた部分(中心部分)が空洞化する。これによって、中空であり、微細な穴が複数形成された炭素粒子の凝集体が形成される。この炭素粒子の凝集体が外殻部になり、上記微細な穴が微細孔となり、空洞化した中心部分が内部空間になり、外殻部と微細孔と内部空間を有した多孔質カーボン粒子が形成される。
【0038】
なお、上述のポリマー成分を除去するための加熱処理は、ポリマー成分を除去(蒸発・分解など)でき、且つ、炭素粒子が酸化しないように行うことが好ましい。このように加熱処理を行うには、加熱温度や加熱環境を調整するとよい。例えば、加熱温度については、400℃以上1100℃以下、好ましくは500℃以上1050℃以下に調整する。
なお、ここでの加熱温度を比較的に高温域(800℃以上1100℃以下、好ましくは900℃以上1050℃以下)に設定した場合には、加熱処理を不活性ガス(例えば、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)の雰囲気下で行うとよい。この場合、加熱による炭素粒子の酸化を防止しながらポリマー成分を除去することができるので、炭素粒子が酸化しておらず、ポリマー成分が好適に除去されているような、品質に優れた多孔質カーボン粒子を製造することができる。
一方、加熱温度を比較的低温域(400℃以上700℃以下、好ましくは500℃以上650℃以下)に設定した場合には、加熱処理を酸化性ガス(例えば、酸素含有ガス(特に好ましくは空気))の雰囲気下で行うとよい。この場合、酸化性ガスがポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するため、比較的低温域でもポリマー成分を適切に除去することができる。加熱処理を比較的低温域で行うメリットとしては、加熱炉の耐久性低下の防止、温度上昇に要する燃料費の低減など、低コストで多孔質カーボン粒子の製造が可能になることが挙げられる。さらに、酸化性ガスとして空気を用いた場合には、キャリアーガスのコストを低減させることができるので、製造コストを更に低減させることができる。
【0039】
また、上記ポリマー成分を除去する際の加熱温度を変更すると、炭素粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)の好適な値にも影響を与える。例えば、ポリマー成分を除去する際の加熱温度を比較的高温域(例えば800℃以上1100℃以下)に設定した場合、炭素粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的少なく(0.5〜2、好ましくは1〜1.5)なるように分散液を調製するとよい。
一方、加熱温度を比較的低温域(400℃以上700℃以下)に設定した場合、炭素粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的多く(4以上10以下、好ましくは4.5以上6以下)なるように分散液を調製するとよい。
【0040】
また、上記分散液の液滴を加熱炉内で加熱する時間については、分散液1mlを加熱炉で加熱する場合、0.5〜10分、好ましくは1〜5分、より好ましくは1〜3分、例えば1.3分程度に設定する。上述の範囲内の時間で分散液の液滴を加熱すると、好適な多孔質カーボン粒子を形成することができる。このように、ここで開示される製造方法では、従来よりも大幅に短い時間であっても好適な多孔質カーボン粒子を製造することができる。
【0041】
ここで開示される多孔質カーボン粒子の用途を以下に例示する。
上記多孔質カーボン粒子は、例えば、吸着剤として用いることができる。この場合、上記多孔質カーボン粒子を多数含んだ固形(若しくはペースト状)のカーボン材料を形成し吸着剤として用いる。この場合、カーボン材料中に含まれる多孔質カーボン粒子の粒径が従来よりも小さいため、カーボン材料全体における多孔質カーボン粒子の表面積が従来に比べて増大する。したがって、上記多孔質カーボン粒子を吸着剤として用いると、当該吸着剤の吸着性能を向上させることができる。
また、上記多孔質カーボン粒子は、例えば、金属微粒子(例えば、燃料電池の触媒として用いられ得る白金および白金の合金)の担体としても用いることができる。この場合、多孔質カーボン粒子を多数含んだ固形(若しくはペースト状)のカーボン材料を形成し、当該カーボン材料を金属微粒子の担体として用いる。かかるカーボン材料の担体では、上記多孔質カーボン粒子の表面に金属微粒子が担持されるため、粒径の小さな多孔質カーボン粒子を多く含むカーボン材料では、多孔質カーボン粒子の表面積が従来よりも広くなっている。したがって、従来よりも粒径の小さな多孔質カーボン粒子を有するカーボン材料を金属微粒子の担体として用いると、従来よりも多くの金属微粒子を担持することができる。
このように、ここで開示される多孔質カーボン粒子は、様々な分野に使用されるカーボン材料の性能を向上させることができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。上述した多孔質カーボン粒子の製造方法は、例えば、図3で模式的に示すような装置100を用いて実施することができる。この装置100は、大まかに言って、分散液L1を噴霧する噴霧部10と、該噴霧された分散液L1の液滴L2を加熱する加熱炉20と、形成された粒子を捕集する捕集部30とから構成されている。
【0043】
噴霧部は分散液を霧状に噴霧させることのできる部材であり、図3で示す噴霧部10はキャリアーガスを高圧で吹き出すことで分散液L1を噴霧する二流体ノズル12と、当該二流体ノズル12にキャリアーガスを供給するガス供給ユニット14とから構成されている。二流体ノズル12は、従来公知の装置(いけうち社製、BIM型シリーズなど)を用いることができ、例えば、ノズル先端の径が200μm〜600μm(例えば400μm)であるものが好ましい。ガス供給ユニット14は、例えば、流速3L/min〜10L/minでキャリアーガスを供給することができるものが好ましい。また、ガス供給ユニット14から供給されるキャリアーガスは、不活性ガス(例えば、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(特に好ましくは空気))を用いることができる。
また、噴霧部10は、二流体ノズル12で噴霧された液滴L2を加熱炉20内に供給できるように加熱炉20に接続されている。
【0044】
加熱炉は、噴霧された液滴を複数の異なる温度域で加熱することができる装置であるとよい。図3に示す加熱炉20は、噴霧された液滴L2を輸送させる輸送管22と、当該輸送管22の内部を加熱するヒータ24とから構成されている。
輸送管22は、内部空洞を有した筒状の部品であり、長手方向における一端が上記二流体ノズル12に接続されており、他端が後述の電気集塵装置32に接続されている。特に限定するものではないが、輸送管22は、全体で0.4〜3L程度の容量を有しているものが適当であり、例えば0.9L程度の容量を有しているものを好ましく用いることができる。また、輸送管22の径は、5mm〜20mm程度が適当であり、13mm程度であるとより好ましい。
ヒータ24は、輸送管22の周方向を覆うように配置されており、ヒータ24が発熱することによって、輸送管22の内部空洞が加熱される。また、この装置100では、ヒータ24は複数のヒータ部24a〜24eから構成されており、ヒータ部24a〜24eは輸送管22の長手方向に沿って連続して配置されている。複数のヒータ部24a〜24eのうち、第1ヒータ部24aは加熱炉20の入口側(噴霧部10側)に配置されており、以下、加熱炉20の出口側(捕集部30側)に向かって第2ヒータ部24b、第3ヒータ部24c、第4ヒータ部24d、第5ヒータ部24eの順に連続して配置されている。上記複数のヒータ部24a〜24eには電気加熱装置などを用いることができ、それぞれのヒータ部24a〜24eが独立して加熱温度を制御できる。これによって、加熱炉20内部(輸送管22の内部)の温度を部分的に調整することができる。
【0045】
さらに、ここで開示される装置100は、加熱炉20の下流に捕集部30を設けている。捕集部30は、キャリアーガス中の多孔質カーボン粒子を捕集する電気集塵装置32と、ポリマー成分を除去(蒸発・分解など)する際に生じたガスを捕集するトラップ34とから構成されている。電気集塵装置32は、キャリアーガス中に滞留している多孔質カーボン粒子を帯電させることによって捕集する装置である。また、トラップ34は、ポリマー成分から生じたガスを含んだキャリアーガスを水中にバブリングすることによって、上記ポリマー成分由来のガスを捕集する。
【0046】
上記装置100を用いて上述の製造方法を実施する手順を説明する。まず、噴霧部10の二流体ノズル12へ分散液L1とキャリアーガスを供給する。これによって、二流体ノズル12内において、高圧のキャリアーガスに分散液L1が衝突して、分散液L1が霧状の液滴L2として噴霧される。そして、キャリアーガスによって霧状の液滴L2を加熱炉20へ供給し、液滴L2を加熱炉20の輸送管22内に噴霧する。噴霧された液滴L2は、キャリアーガスの流れに伴い、加熱炉20の上流側(即ち第1ヒータ部24a側)から下流側(即ち第5ヒータ部24e側)に向かって流動する。なお、このとき、キャリアーガスに酸化性ガスを用いていれば加熱炉20内は酸化性ガス雰囲気になり、不活性ガスを用いていれば加熱炉20内は不活性ガス雰囲気になる。
ここで、各々のヒータ部24a〜24eが輸送管22内を加熱する温度を予め定めておく。例えば、分散液L2中の分散媒が蒸発し、且つ、ポリマー成分が取り除かれない(蒸発しない)程度の温度域(例えば100℃以上300℃以下)に第1ヒータ部24aの温度を設定するとよい。そして、残りのヒータ部24b〜24eを、ポリマー成分を除去でき、且つ、炭素粒子が酸化しない程度の温度域(例えば400℃以上1100℃以下)に設定するとよい。これによって、液滴L2が第1ヒータ部24aを通過すると、液滴L2中の分散媒が蒸発し、混合凝集体Aが形成される。そして、混合凝集体Aが残りのヒータ部24b〜24eを通過すると、混合凝集体Aからポリマー成分が除去され、多孔質カーボン粒子Pが形成される。以上の工程において、加熱炉20内全体で分散液L1(混合凝集体A)が加熱される時間は、分散液1mlあたり1〜3min程度であるとよい。
形成された多孔質カーボン粒子Pは、キャリアーガス中を滞留しながら、捕集部30へ移送され、電気集塵装置32で捕集される。そして、多孔質カーボン粒子Pがキャリアーガスは排気装置34を通過して装置100の外部へ排気される。
このように、装置100を用いれば、ここで開示される多孔質カーボン粒子の製造方法を実施することができる。
【0047】
次に、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の実施例では、それぞれに異なったプロセスで作製された多孔質カーボン材料(サンプル1〜11)を作製し、各サンプルの性能を評価した。
【0048】
〈サンプル1〉
炭素粒子として平均粒径27nmのカーボンブラック粒子を用い、ポリマー粒子として平均粒径400nmのPSLを用いた。このカーボンブラック粒子とPSLとを重量比(P/C)が10.6になるように混合し、分散媒(水)と混合させて、PSLとカーボンブラック粒子の質量割合がトータルで分散液全体の1mass%となる分散液を調製した。
【0049】
次に、図3に示すような装置100の二流体ノズル12に供給するキャリアーガスを酸化ガスである空気に設定して、その流速を5L/minにした。そして、上記分散液を二流体ノズル12に供給して、液滴径が2〜5μmの霧状の液滴になるように上記分散液を噴霧し、噴霧後の液滴を加熱炉20に移送した。
【0050】
次いで、加熱炉20(輸送管22)内に噴霧された液滴を、加熱炉20の上流側から下流側に向かって流動させながら、加熱処理を実施した。この際、液滴中の分散媒を蒸発させるために第1ヒータ部24aの加熱温度を200℃に設定した。また、混合凝集体中のポリマー成分を除去するために、その他のヒータ部(第2ヒータ部24b〜第5ヒータ部24e)の加熱温度を600℃に設定した。また、噴霧された液滴L2が加熱炉20内で1mlあたり1.3分間加熱されるように、加熱炉20内でのキャリアーガスの流速を調整した。この加熱炉20内を分散液の液滴L2を輸送することによって、上記分散液の液滴L2が混合凝集体Aになり、混合凝集体Aから多孔質カーボン粒子Pが形成された。そして、形成された多孔質カーボン粒子Pを電気集塵装置32で捕集して多孔質カーボン粒子Pを得た。以下、ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル1」と称する。
【0051】
〈サンプル2〉
ここでは、炭素粒子として平均粒径75nmのカーボンブラック粒子を用いた以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル2」と称する。
【0052】
〈サンプル3〉
ここでは、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル3」と称する。
【0053】
〈サンプル4〉
ここでは、炭素粒子として平均粒径75nmのカーボンブラック粒子を用い、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル4」と称する。
【0054】
〈サンプル5〉
ここでは、キャリアーガスを不活性ガスであるN2ガス(流速5L/min)にした以外は、上記サンプル4と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル5」と称する。
【0055】
〈サンプル6〉
ここでは、P/C=2.6になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル6」と称する。
【0056】
上記サンプル1〜6の作製条件を下記の表1に纏める。
【0057】
【表1】
【0058】
〈サンプル1〜6のSEM観察〉
上記サンプル1〜6を走査型電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所、S3100H、S5000)で観察した。観察結果のSEM写真を図4〜9に示す。図4はサンプル1、図5はサンプル2、図6はサンプル3、図7はサンプル4、図8はサンプル5、図9はサンプル6のSEM写真である。
【0059】
サンプル1とサンプル3とサンプル6を比較すると、サンプル3において最も好適な形状の多孔質カーボン粒子が形成されていた(図4,図6,図9参照)。このことから、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製すると、好適な多孔質カーボン粒子が作製できると解される。
【0060】
次に、サンプル1とサンプル2(若しくはサンプル3とサンプル4)を比較すると、炭素粒子(カーボンブラック粒子)の平均粒径が75nmであるサンプル2(サンプル4)の方がより好適な微細孔が形成されていた(図4〜図7参照)。これは、平均粒径が大きいカーボンブラック粒子を用いると、ポリマー粒子の表面に付着した際にカーボンブラック粒子間に隙間が生じやすい。除去の際に気体となったポリマー粒子は、当該隙間を広げながら混合凝集体の外部に抜けて、微細孔を形成するので、好適な大きさの微細孔が形成されやすくなると解される。
【0061】
次に、サンプル4とサンプル5を比較すると、キャリアーガスに空気を用いたサンプル4の方がより好適な微細孔が形成され、キャリアーガスにN2ガスを用いたサンプル5の微細孔にはPSLが僅かに残っていた(図7及び図8参照)。これは、酸化ガス(空気)雰囲気下で加熱処理を行うと、酸素の存在が混合凝集体中のポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するためであると解される。
【0062】
以上の結果を纏めると、ポリマー成分を除去する際の温度を600℃に設定した場合、以下のような条件で多孔質カーボン粒子を製造すると、最も好適な多孔質カーボン粒子を得ることができることが分かった。
カーボンブラック粒子の平均粒径:75nm
P/C=5.3
キャリアーガス:空気
【0063】
次に、ポリマー粒子を除去する際の温度を1000℃に上げて、サンプル7〜11を作製した。以下、サンプル7〜11の作製条件を説明する。
【0064】
〈サンプル7〉
次に、P/C=21.3になるように、カーボンブラック粒子とPSLの量を調整し、分散液を調製した。そして、キャリアーガスを不活性ガスであるN2ガス(流速5L/min)にし、第2ヒータ部24b〜第5ヒータ部24eの設定温度(ポリマー成分を除去する際の温度)を1000℃に設定した。そして、上記条件を除いて、サンプル1と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル7」と称する。
【0065】
〈サンプル8〉
ここでは、P/C=5.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル8」と称する。
【0066】
〈サンプル9〉
ここでは、P/C=2.6になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル9」と称する。
【0067】
〈サンプル10〉
ここでは、P/C=1.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル10」と称する。
【0068】
〈サンプル11〉
ここでは、P/C=1.0になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製した以外は、上記サンプル7と同様のプロセスを経て多孔質カーボン粒子を得た。ここで得られた多孔質カーボン粒子を「サンプル11」と称する。
【0069】
上記サンプル7〜11の作製条件を下記の表2に纏める。
【0070】
【表2】
【0071】
〈サンプル7〜11のSEM観察〉
上記サンプル1〜5と同じ手順で観察したサンプル7〜11のSEM写真を図10〜14に示す。図10はサンプル7、図11はサンプル8、図12はサンプル9、図13はサンプル10、図14はサンプル11のSEM写真である。
【0072】
サンプル7〜11を比較すると、サンプル10において最も好適な形状の多孔質カーボン粒子が形成されていることがわかった(図10〜図14参照)。このことから、キャリアーガスにN2ガスを用い、ポリマー成分を除去する際の温度を1000℃に設定した場合には、P/C=1.3になるようにPSLとカーボンブラック粒子を混合して分散液を調製すると、好適な多孔質カーボン粒子が作製しやすいと解される。
【0073】
また、図10〜図14に示すように、いずれのサンプルにもPSLは残存していなかった。さらに、いずれのサンプルにも外殻部のカーボンブラック粒子に酸化が見られなかった。このことから、ポリマー成分を除去する際の温度を1000℃に設定した場合には、キャリアーガスとして不活性ガスであるN2ガスを用いると、カーボンブラック粒子(炭素粒子)の酸化がなく、ポリマー成分が適切に除去された多孔質カーボン粒子を作製できると解される。
【0074】
以上の結果を纏めると、ポリマー成分を除去する際の温度を1000℃に設定した場合、以下のような条件で多孔質カーボン粒子を製造すると、最も好適な多孔質カーボン粒子を得ることができることが分かった。
P/C=1.3
キャリアーガス:N2ガス
【符号の説明】
【0075】
10 噴霧部
12 二流体ノズル
14 ガス供給ユニット
20 加熱炉
22 輸送管
24 ヒータ
24a〜24b ヒータ部
30 捕集部
32 電気集塵装置
34 排気装置
100 装置
L1 分散液
L2 液滴
A 混合凝集体
P 多孔質カーボン粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素で形成されている外殻部と、前記外殻部の内部に形成されている内部空間と、前記外殻部に複数形成された前記内部空間と連通している微細孔と、を備えた多孔質カーボン粒子を製造する方法であって、
前記外殻部を形成するための炭素粒子と、前記炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;
前記分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
前記噴霧された液滴を前記加熱炉内で加熱することにより、前記分散媒を蒸発させて前記炭素粒子と前記ポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;
前記加熱炉内で前記混合凝集体をさらに加熱することにより、前記混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質カーボン粒子を得ること;
を包含する製造方法。
【請求項2】
前記炭素粒子の平均粒径が20〜100nmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマー粒子の平均粒径が100〜600nmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分散液中における前記炭素粒子(C)に対する前記ポリマー粒子(P)の重量比P/Cを0.5〜12に設定する、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記分散液を平均液滴径1〜6μmの液滴になるように前記加熱炉内に噴霧する、請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合凝集体を形成する際の温度を100℃以上300℃以下に設定する、請求項1〜5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記ポリマー成分を除去する際の温度を400℃以上1100℃以下に設定する、請求項1〜6の何れかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマー成分の除去を、酸化ガス雰囲気下で行う、請求項1〜7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー成分の除去を、不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1〜7の何れかに記載の製造方法。
【請求項10】
多孔質カーボン粒子からなる多孔質カーボン材料であって、
前記多孔質カーボン粒子は、
炭素で形成されている外殻部と、
前記外殻部の内部に形成されている内部空間と、
前記外殻部に複数形成されており、前記内部空間と連通している微細孔と、
を備え、
平均粒径が200nm以上10μm未満である、多孔質カーボン材料。
【請求項11】
前記平均粒径が500nm以上3μm以下である、請求項10に記載の多孔質カーボン材料。
【請求項12】
前記多孔質カーボン粒子の微細孔の平均孔径が10nm以上500nm以下である、請求項10又は11に記載の多孔質カーボン材料。
【請求項1】
炭素で形成されている外殻部と、前記外殻部の内部に形成されている内部空間と、前記外殻部に複数形成された前記内部空間と連通している微細孔と、を備えた多孔質カーボン粒子を製造する方法であって、
前記外殻部を形成するための炭素粒子と、前記炭素粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;
前記分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
前記噴霧された液滴を前記加熱炉内で加熱することにより、前記分散媒を蒸発させて前記炭素粒子と前記ポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;
前記加熱炉内で前記混合凝集体をさらに加熱することにより、前記混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質カーボン粒子を得ること;
を包含する製造方法。
【請求項2】
前記炭素粒子の平均粒径が20〜100nmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマー粒子の平均粒径が100〜600nmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分散液中における前記炭素粒子(C)に対する前記ポリマー粒子(P)の重量比P/Cを0.5〜12に設定する、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記分散液を平均液滴径1〜6μmの液滴になるように前記加熱炉内に噴霧する、請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合凝集体を形成する際の温度を100℃以上300℃以下に設定する、請求項1〜5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記ポリマー成分を除去する際の温度を400℃以上1100℃以下に設定する、請求項1〜6の何れかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマー成分の除去を、酸化ガス雰囲気下で行う、請求項1〜7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー成分の除去を、不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1〜7の何れかに記載の製造方法。
【請求項10】
多孔質カーボン粒子からなる多孔質カーボン材料であって、
前記多孔質カーボン粒子は、
炭素で形成されている外殻部と、
前記外殻部の内部に形成されている内部空間と、
前記外殻部に複数形成されており、前記内部空間と連通している微細孔と、
を備え、
平均粒径が200nm以上10μm未満である、多孔質カーボン材料。
【請求項11】
前記平均粒径が500nm以上3μm以下である、請求項10に記載の多孔質カーボン材料。
【請求項12】
前記多孔質カーボン粒子の微細孔の平均孔径が10nm以上500nm以下である、請求項10又は11に記載の多孔質カーボン材料。
【図3】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【公開番号】特開2012−101950(P2012−101950A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249112(P2010−249112)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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