説明

多孔質炭素電極基材、並びにそれを用いた膜−電極接合体及び固体高分子型燃料電池

【課題】厚さ方向の導電性が高く、かつガス透過性の高い多孔質炭素電極基材、並びにそれを用いた膜−電極接合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】炭素短繊維を樹脂炭化物で結着してなる多孔質炭素電極基材であって、前記樹脂炭化物の原料樹脂が、フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと熱硬化性樹脂Rとを含む多孔質炭素電極基材を用いる。前記フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと前記熱硬化性樹脂Rの混合比が固形分質量比でT:R=25:75〜50:50であること、又は前記原料樹脂がさらに黒鉛粉末を含むことで、導電性をより向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質炭素電極基材及びそれを用いた燃料電池等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池はプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いることを特徴としており、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化ガスを電気化学的に反応させることにより起電力を得る装置である。固体高分子型燃料電池は、自家発電装置や、自動車等の移動体用の発電装置として利用可能である。
【0003】
このような固体高分子型燃料電池は、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する高分子電解質膜を有する。また、貴金属系触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と多孔質炭素電極基材とを有するガス拡散電極が、触媒層側を内側にして、高分子電解質膜の両面に接合された構造となっている。
【0004】
このような高分子電解質膜と2枚のガス拡散電極からなる接合体は膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。またMEAの両外側には燃料ガス又は酸化ガスを供給し、かつ生成ガス及び過剰ガスを排出することを目的としたガス流路を形成したセパレーターが設置されている。
【0005】
多孔質炭素電極基材は主に次の3つの機能を持つ。第1に多孔質炭素電極基材の外側に配置されたセパレーターに形成されたガス流路より触媒層中の貴金属系触媒に均一に燃料ガス又は酸化ガスを供給する機能である。第2に触媒層で反応により生成した水を排出する機能である。第3に触媒層での反応に必要な電子又は生成される電子をセパレーターへ伝導する機能である。
【0006】
このような多孔質炭素電極基材には、炭素短繊維とポリビニルアルコール等の有機質バインダーを含む抄造媒体との混合物を抄造してシート状中間基材を得た後、その中間基材を加熱すると炭化する樹脂、例えば、熱硬化性樹脂であるレゾール型フェノール樹脂を含浸し、さらにフェノール樹脂を含浸した中間基材を加熱してフェノール樹脂を炭化することにより、炭素短繊維同士を樹脂炭化物で結着した基材が用いられる。ところが、このような方法によって製造した基材は、炭素短繊維同士を結着するフェノール樹脂が硬化時及び炭素化時に収縮して、炭素短繊維と樹脂炭化物との間に隙間が残ったり、樹脂炭化物に亀裂が入ったりするため、十分な導電性を得ることができない。
【0007】
この問題を解決するために、例えば特許文献1では、熱可塑性樹脂であるノボラック型フェノール樹脂を熱硬化性樹脂であるレゾール型フェノール樹脂に混合した混合樹脂として使用することにより、フェノール樹脂炭化物が炭素短繊維を隙間や亀裂なく結着した多孔質炭素電極基材の製造方法が開示される。しかし、一般に使用されるノボラック型フェノール樹脂の軟化温度は、一般に使用されるレゾール型フェノール樹脂の硬化温度に比べて数十℃低いため、前記混合樹脂の熱硬化前にノボラック型フェノール樹脂が炭素短繊維の間に広がりすぎて空孔を塞ぎ、ガス透過や生成水排出を阻害する問題がある。
【0008】
また、特許文献2では、樹脂炭化物の原料としてフェノール樹脂の代わりにメラミン樹脂を使用した多孔質炭素電極基材の製造方法が開示される。しかし、メラミン樹脂を使用すると、フェノール樹脂を使用した場合に比べて、曲げ強さなど機械強度は高くなるものの、導電性やガス透過性は低くなるという問題がある。
【0009】
なお、特許文献3には、トリアジン誘導体とフェノール類との共縮合物であるフェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平8−18882号公報
【特許文献2】特開平9−157052号公報
【特許文献3】国際公開第00/09579号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これら従来の技術の課題を解決するもので、厚さ方向の導電性が高く、かつガス透過性の高い多孔質炭素電極基材、並びにそれを用いた膜−電極接合体及び燃料電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は下記の構成からなる。
(1)炭素短繊維を樹脂炭化物で結着してなる多孔質炭素電極基材であって、前記樹脂炭化物の原料樹脂が、フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと熱硬化性樹脂Rとを含む多孔質炭素電極基材。
(2)前記フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと前記熱硬化性樹脂Rの混合比が、固形分質量比でT:R=25:75〜50:50である前記(1)に記載の多孔質炭素電極機材。
(3)前記原料樹脂が、さらに黒鉛粉末を含む前記(1)又は(2)に記載の多孔質炭素電極基材。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多孔質炭素電極基材を、触媒を担持した炭素粉末を主体とする触媒層を介して高分子電解質膜の片面又は両面に接合してなる膜−電極接合体。
(5)前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多孔質炭素電極基材を用いた固体高分子型燃料電池。
(6)前記(4)記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い導電性と高いガス透過性を示し、固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として好適である多孔質電極基材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られた多孔質炭素電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔炭素短繊維〕
多孔質炭素電極基材の主要構成要素たる炭素繊維の種類は特に限定されるものでなく、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、再生セルロース系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等を使用することができる。これらの炭素繊維を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。特に、圧縮強度や引張強度が高いことから、PAN系炭素繊維が好ましい。
【0016】
使用する炭素短繊維の平均直径は特に限定されないが、例えば、表面平滑性、導電性の付与のためには3〜30μm程度が好ましく、4〜20μmがより好ましく、4〜8μmがさらに好ましい。また、異なる平均直径の炭素短繊維を2種類以上用いることも、表面平滑性、導電性の両立のために好ましい。
【0017】
炭素短繊維の長さは特に限定されないが、抄紙時の分散性、及び機械的強度を高めるために、3mm以上12mm以下が好ましく、3mm以上9mm以下がより好ましい。
【0018】
〔多孔質炭素電極基材〕
本発明に係る多孔質炭素電極基材は、特定の厚みや大きさに限定されず、炭素短繊維を主要構成要素とする不織布、抄紙体、フェルト、クロス等を包含する。また、それらの製造方法は特に限定されず、例えば、ウォータージェット処理やスチームジェット処理などによって繊維を交絡してもよい。特に、複数本の炭素短繊維が集合してなる抄紙体が好ましく、表面平滑性が高く、電気的接触が良好で、かつ高分子電解質膜への突き刺さりによる短絡が低減される複数本の炭素短繊維が集合してなる抄紙体がより好ましい。
【0019】
〔樹脂炭化物〕
本発明中の樹脂炭化物は、熱可塑性樹脂であるフェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと熱硬化性樹脂Rとを含む原料樹脂を炭化処理して得られ、複数の炭素短繊維を結着する役割を果たす。前記原料樹脂は、フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。そのような熱可塑性樹脂は、炭化した段階で導電性物質として残存しやすいという観点から、ノボラック型フェノール樹脂、PAN系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂が好ましい。
【0020】
〔フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tは、例えば特許文献3に示されるような、トリアジン誘導体とフェノール類との共縮合物である公知の熱可塑性樹脂を使うことができる。
【0021】
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tは、トリアジン誘導体とフェノール類との共縮合物であり、[−NH−CH2−フェノール]結合数、[−NH−CH2−NH−]結合数、及び[フェノール−CH2−フェノール]結合数の合計に占める[−NH−CH2−フェノール]結合数の平均割合(以下、結合比という)が30〜80%であることが好ましい。また、この樹脂の数平均分子量(Mn)は300〜800であることが好ましく、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.30以下であることが好ましい。
【0022】
前記結合比は、例えば13C−NMR測定によって容易に求めることができる。13C−NMR測定による[−NH−CH2−フェノール]結合による吸収帯は41ppm付近(41.2ppm)であり、[−NH−CH2−NH−]結合による吸収帯は45ppm付近(45.5ppm)であり、[フェノール−CH2−フェノール]結合による吸収帯は2−2’が31ppm付近、2−4’が44ppm付近、4−4’が41ppm付近であるから、全CH2結合の積分値の合計に占める各CH2結合の積分値の比を求めることにより、結合比を求めることができる。
【0023】
結合比は、トリアジン誘導体−フェノール類の共縮合率を示す尺度であり、結合比が30%未満では、樹脂の耐久性、耐熱性、耐加水分解性などが相対的に低下する。結合比が80%より大きいものは製造が困難であって現実的ではない。より好ましい結合比は50〜80%であり、さらに好ましくは60〜70%である。
【0024】
前記トリアジン誘導体は、下式(I)で示される化合物であることが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
この式において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、アルキル化メチロール基、水素原子、アミノ基、アルキル基、フェニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシルアルキル基、エーテル基、エステル基、酸基、不飽和基、シアノ基及びハロゲン原子のいずれかを表している。
【0027】
前記式(I)において、R1、R2、R3のうち少なくとも2つがアルキル化メチロール基であることが好ましい。このようなトリアジン誘導体として好ましい例としては、ジ−(アルキル化メチロール)メラミン、トリ−(アルキル化メチロール)メラミン、ジ−(アルキル化メチロール)ベンゾグアナミン、ジ−(アルキル化メチロール)アセトグアナミンから選択される1種又は種以上の混合物が挙げられる。
【0028】
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tは、より好ましくは、下式(II)の骨格を有する3核体、下式(III)の骨格を有する4核体、下式(IV)の骨格を有する5核体、及び下式(V)の骨格を有する6核体の混合物から主構成されている。これらの化学式に示される水素原子は、アミノ基、アルキル基、フェニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシルアルキル基、エーテル基、エステル基、酸基、不飽和基、シアノ基、ハロゲン原子などによって置換されていてもよい。なお、主構成とは、樹脂全体の80質量%以上が前記3〜6核体で構成されていることを意味する。
【0029】
【化2】

【0030】
上記核体の他に、不可避不純物として、下式(VI)、(VII)、及び(VIII)の骨格を有する化合物、並びにストレートノボラック(トリアジン誘導体と結合していないノボラック)などが樹脂全体の20質量%以下含まれていてもよい。この中でも特にストレートノボラックの含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0031】
【化3】

【0032】
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tは、分子量分布が狭く、フェノールとメラミンの結合比が高いうえ、フェノールとメラミンが規則正しくほぼ交互に配列しているから、メラミンの変性率が高い。すなわち窒素含有率が高いので、たとえハロゲン基を有していなくても難燃性及び耐熱性が高い。また、ノボラック型であるから硬化時に有害なガスを発生しないという優れた特徴を有する。
【0033】
なお、後述するように、前記トリアジン誘導体部分の少なくとも一部、もしくはフェノールのOH基の少なくとも一部が、エポキシ基により修飾されていてもよい。そのようなエポキシ基修飾フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂によれば、硬化剤として用いるときと全く同じ効果が得られる。すなわち、メラミン変性ノボラックをエポキシ化したエポキシ樹脂と通常の硬化剤とを組み合わせた場合と、通常のエポキシ樹脂(ビスフェノールA型など)にメラミン変性ノボラックを硬化剤として用いた場合とで、同じ難燃効果が得られる利点がある。エポキシ樹脂又は化剤の一方にメラミン変性体を用いることでも十分な難燃効果は得られるが、両方にメラミン変性体を使用するとさらに難燃効果が高くなる。
【0034】
〔熱硬化性樹脂R〕
熱硬化性樹脂Rは、炭化した段階で炭素短繊維を結着し、かつ導電性物質として残存しやすい公知の樹脂から適宜選ぶことができ、レゾール型フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、コプナ樹脂、ピッチ等が好ましく、レゾール型フェノール樹脂が特に好ましい。
【0035】
〔樹脂混合比〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと熱硬化性樹脂Rの混合比は、得られる多孔質炭素電極基材の厚さ方向の導電性及びガス透過性を考慮して適宜設定することができるが、固形分質量比でT:R=25:75〜50:50の範囲が好ましい。フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tの固形分質量比を25%以上とすることで、樹脂炭化物の亀裂を防いで力学的強度や導電性が良好となり、50%以下とすることで、熱成形時に硬化が確実に進行するため精度良く厚みを制御できる。より好ましくはT:R=30:70〜40:60の範囲である。
【0036】
〔黒鉛粉末〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと熱硬化性樹脂Rからなる樹脂炭化物の原料樹脂に対し、黒鉛粉末を添加してもよい。これにより、樹脂炭化物に生じる亀裂や、炭素短繊維と樹脂炭化物の間に生じる隙間を抑制することができるため、力学的強度や導電性が良好となる。黒鉛粉末の種類としては、熱分解黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張化黒鉛、球状黒鉛などを用いることができるが、電気伝導性や熱伝導性に優れる熱分解黒鉛が特に好ましい。
【0037】
黒鉛粉末の含有比率は、樹脂炭化物の原料樹脂100質量部に対し5〜40質量部の範囲が好ましい。黒鉛粉末の含有比率を5質量部以上とすることで導電性が向上し、40質量部以下とすることで黒鉛粉末が多孔質炭素電極基材から脱落しない。黒鉛粉末の含有比率は、8〜32質量部の範囲がより好ましく、8〜16質量部の範囲がさらに好ましい。
【0038】
〔膜−電極接合体〕
本発明の多孔質炭素電極基材を、触媒を担持した炭素粉末を主体とする触媒層を介して高分子電解質膜の片面又は両面に接合して、膜−電極接合体とすることができる。本発明の多孔質炭素電極基材を接合する面はアノード側でもカソード側でもよい。
【0039】
高分子電解質膜としては、プロトン解離性の基、例えば−OH基、−OSO3H基、―COOH基、−SO3H基等が導入された高分子を用いることが好ましく、パーフルオロスルホン酸系の膜ないし芳香族スルホン酸イミド系の膜を用いることが、化学的安定性、プロトン伝導性の点よりさらに好ましい。
【0040】
触媒としては、白金、白金合金、パラジウム、マグネシウム、バナジウム等があるが、白金、白金合金を用いることが好ましい。
【0041】
〔固体高分子型燃料電池〕
固体高分子型燃料電池はカソード側において電極反応生成物としての水や高分子電解質膜を浸透した水が発生する。またアノード側では高分子電解質膜の乾燥を抑制するために加湿された燃料が供給される。このような点から、本発明に係る多孔質炭素電極基材は、ガス透過性を確保するために、撥水剤として撥水性の高分子による撥水処理がされていることが好ましい。撥水性の高分子としては、化学的に安定でかつ高い撥水性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
多孔質炭素電極基材への撥水処理の方法としては、撥水性の高分子の微粒子が分散した分散水溶液中に多孔質炭素電極基材を浸漬させるディップ法、分散水溶液を噴霧するスプレー法などを用いることができるが、面内方向、厚み方向への導入量の均一性の高いディップ法が好ましい。
【0043】
以上のような多孔質炭素電極基材又は膜−電極接合体は、固体高分子型燃料電池に好適である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
【0045】
(1)厚み
多孔質炭素電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ7321(商品名、ミツトヨ製)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
【0046】
(2)厚さ方向の比抵抗
多孔質炭素電極基材の厚さ方向の比抵抗は、試料を金メッキした銅板に挟み、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
【0047】
比抵抗(Ω・cm)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm2)/試料厚み(cm)
(3)厚さ方向の透過係数
多孔質炭素電極基材の厚さ方向の透過係数は、JIS−P8117に準拠し、ガーレー式デンソメーター(熊谷理機社製)を使用し、200mm3の空気が通過する時間を測定して透気度を求め、次式より算出した。
【0048】
透過係数(mL・mm/cm2/s/kPa)=透気度(mL/cm2/s/kPa)×試料厚み(mm)
〔実施例1〕
長さ3mmにカットした平均直径7μmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素短繊維束を水中で解繊し、この短繊維束100質量部が十分に分散したところにバインダーであるポリビニルアルコール(PVA)(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)の短繊維50質量部を均一に分散させ、標準角形シートマシンを用いて抄紙を行った。得られた炭素繊維紙は単位面積当たりの質量が28g/m2であった。
【0049】
次に、固形のフェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1(商品名:レヂトップPS−6313、群栄化学工業株式会社製)をメチルエチルケトンに溶解して、固形分60質量%の樹脂原液を得た。前記樹脂原液に対し、レゾール型フェノール樹脂R1の60質量%メタノール溶液(商品名:フェノライトJ−325、DIC株式会社製)を、固形分質量比でT1:R1=50:50となるように混合して混合樹脂液を得た。前記混合樹脂液を、樹脂固形分が8質量%となるようメタノールで希釈し、含浸溶液を得た。前記含浸溶液を前記炭素繊維紙に含浸させ、室温でメタノールとメチルエチルケトンを十分に乾燥させ、混合樹脂の不揮発分を67質量%付着させた混合樹脂含浸炭素繊維紙を得た。
【0050】
前記混合樹脂含浸炭素繊維紙を2枚重ねて180℃の温度で、10MPaの圧力を加えてバッチプレスを行い、混合樹脂を硬化させ、不活性ガス(窒素)雰囲気中で、2000℃で炭化して、炭素短繊維が樹脂炭化物で結着された抄紙体からなる多孔質炭素電極基材を得た。得られた多孔質炭素電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真を図1に示す。
【0051】
〔実施例2〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R1の固形分質量比をT1:R1=66:37としたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0052】
〔実施例3〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R1の固形分質量比をT1:R1=75:25としたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0053】
〔実施例4〕
レゾール型フェノール樹脂R1の60質量%メタノール溶液の代わりに、レゾール型フェノール樹脂R2の60質量%メタノール溶液(商品名:レヂトップPL−2211、群栄化学工業株式会社製)を用い、フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R2の固形分質量比をT1:R2=50:50としたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0054】
〔実施例5〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R2の固形分質量比をT1:R2=66:37としたこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0055】
〔実施例6〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R2の固形分質量比をT1:R2=75:25としたこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0056】
〔実施例7〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R2の固形分質量比をT1:R2=40:60としたこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0057】
〔実施例8〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R2の固形分質量比をT1:R2=33:67としたこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0058】
〔実施例9〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1とレゾール型フェノール樹脂R2の固形分質量比をT1:R2=25:75としたこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0059】
〔実施例10〕
実施例1で用いたのと同じ含浸溶液に、熱分解黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業株式会社製)を、樹脂固形分100質量部に対し8質量部となるように添加して、含浸溶液中に黒鉛粉末を十分に分散させたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0060】
〔実施例11〕
実施例1で用いたのと同じ含浸溶液に、熱分解黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業株式会社製)を、樹脂固形分100質量部に対し16質量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0061】
〔実施例12〕
含浸溶液を、樹脂固形分が8質量%となるよう混合樹脂液をメチルエチルケトンで希釈して得たこと以外は、実施例9と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0062】
〔実施例13〕
含浸溶液を、樹脂固形分が8質量%となるよう混合樹脂液をメチルエチルケトンで希釈して得たこと以外は、実施例8と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0063】
〔実施例14〕
含浸溶液を、樹脂固形分が8質量%となるよう混合樹脂液をメチルエチルケトンで希釈して得たこと以外は、実施例7と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0064】
〔実施例15〕
含浸溶液を、樹脂固形分が8質量%となるよう混合樹脂液をメチルエチルケトンで希釈して得たこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0065】
〔比較例1〕
混合樹脂液の代わりに、レゾール型フェノール樹脂R1の60質量%メタノール溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0066】
〔比較例2〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1の代わりにノボラック型フェノール樹脂N1(商品名:レヂトップP−Nov(sp:80℃)、群栄化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0067】
〔比較例3〕
混合樹脂液の代わりに、レゾール型フェノール樹脂R2の60質量%メタノール溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0068】
〔比較例4〕
フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1の代わりにノボラック型フェノール樹脂N1(商品名:レヂトップP−Nov(sp:80℃)、群栄化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0069】
〔比較例5〕
含浸溶液を、樹脂固形分が8質量%となるよう混合樹脂液をメチルエチルケトンで希釈して得たこと以外は、比較例3と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0070】
〔比較例6〕
混合樹脂液の代わりに、フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂T1をメタノールに溶解して得た固形分60質量%の樹脂原液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示すように、実施例1〜15で得られた多孔質炭素電極基材の厚さ方向の比抵抗値はいずれも0.80Ω・cm未満で、比較例1〜6で得られた多孔質炭素電極基材に比べて低くなっている。特に、実施例10及び11で得られた多孔質炭素電極基材は0.43Ω・cmと非常に低い。
【0073】
〔実施例16〕
(1)アノード用多孔質炭素電極基材の作製
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維と、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を70:30(質量比)で混合した炭素短繊維を用意した。また、カット長3mmのPVA短繊維(クラレ株式会社製、商品名:VBP105−1)と、カット長5mmのビニロン短繊維(ユニチカ株式会社製、商品名:ユニチカビニロンF)を用意した。炭素短繊維100質量部に対して、PVA短繊維及びビニロン短繊維をそれぞれ18質量部、32質量部となるように水中に均一に分散し、短網板にウェブ状にして送り出し、ドライヤー乾燥後、目付け20g/m2の炭素繊維紙を得た。
【0074】
次に、レゾール型フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ−325、DIC株式会社製)の固形分24質量%メタノール溶液が付着したローラーに、上記の炭素繊維紙を均一に片面ずつ接触させた後、連続的に熱風を吹きかけ乾燥して、32g/m2の樹脂付着炭素繊維紙を得た。次に、この樹脂付着炭素繊維紙を短網板に接していた面が外側を向くように2枚貼り合せた後、一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱プレス装置(ダブルベルトプレス装置:DBP)を用いて連続的に加熱し、表面が平滑化されたシート(シート厚み:110μm、幅30cm、長さ100m)を得た。
【0075】
その後、得られたシートを、不活性ガス(窒素)雰囲気中で、500℃の連続焼成炉中で5分間加熱して、フェノール樹脂の硬化及び前炭素化を行った。引き続き、得られたシートを窒素ガス雰囲気中、2000℃の連続焼成炉において5分間加熱し、炭素化して、長さ100mの多孔質炭素電極基材を連続的に得た。
【0076】
(2)膜−電極接合体(MEA)の作製
実施例4で得られた多孔質炭素電極基材をカソード用に、前記(1)で作製した厚さ110μmの多孔質炭素電極基材をアノード用に用意した。次に、これらをそれぞれ5cm四方にカットし、アノード用多孔質炭素電極基材のみに撥水処理を行った。撥水処理としては、市販のPTFE水溶液(三井・デュポンフロロケミカル社製)を水で20質量%まで希釈したものに多孔質電極基材を浸漬し、乾燥後360℃で焼結させた。そして、両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm2、Pt付着量:0.3mg/cm2)を形成したパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(膜厚:30μm)を、カソード用、アノード用の多孔質炭素電極基材で挟持し、これらを接合してMEAを得た。
【0077】
(3)MEAの燃料電池特性評価
前記(2)で作製したMEAを、蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
【0078】
この単セルの電流密度−電圧特性を測定することによって、燃料電池特性評価を行った。燃料ガスとしては水素ガスを用い、酸化ガスとしては空気を用いた。セル温度を80℃、燃料ガス利用率を60%、酸化ガス利用率を40%とした。また、ガス加湿は60℃のバブラーにそれぞれ燃料ガスと酸化ガスを通すことによって行った。その結果、電流密度が0.66A/cm2のときの燃料電池セル電圧が0.60V、セルの内部抵抗が8.2mΩであり、良好な特性を示した。
【0079】
〔比較例7〕
比較例1で得られた多孔質炭素電極基材をカソード用に用いたこと以外は、実施例12と同様にしてMEA及び単セルを形成し、電流密度−電圧特性を測定した。その結果、電流密度が0.66A/cm2のときの燃料電池セル電圧が0.50V、セルの内部抵抗が9.4mΩであった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る多孔質炭素電極基材は、特に燃料電池のガス拡散体として好適であるが、これに限らず、各種電池の電極基材などにも応用することができ、さらに、その応用範囲はこれらに限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素短繊維を樹脂炭化物で結着してなる多孔質炭素電極基材であって、前記樹脂炭化物の原料樹脂が、フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと熱硬化性樹脂Rとを含む多孔質炭素電極基材。
【請求項2】
前記フェノール・トリアジン誘導体共縮合樹脂Tと前記熱硬化性樹脂Rの混合比が、固形分質量比でT:R=25:75〜50:50である請求項1に記載の多孔質炭素電極基材。
【請求項3】
前記原料樹脂が、さらに黒鉛粉末を含む請求項1又は2に記載の多孔質炭素電極基材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質炭素電極基材を、触媒を担持した炭素粉末を主体とする触媒層を介して高分子電解質膜の片面又は両面に接合してなる膜−電極接合体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質炭素電極基材を用いた固体高分子型燃料電池。
【請求項6】
請求項4に記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−238748(P2009−238748A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49473(P2009−49473)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】