説明

多段刈茶の適化加工システム

【課題】 摘採時及び製品加工段階における適切化を図り、もって仕上茶全体の品質向上を図り、更には市場動向に合わせた適切な営業手法をも採り得る多段刈茶の新規な適化加工システムを提供する。
【解決手段】 本発明は、摘採時には、生茶葉Aを上芽Auと下芽Adとに分断して摘採するとともに、この分断状態のまま製茶工場まで搬入し、また製茶加工時には、上芽Auと下芽Adとに、その性状の相違に対応した適化加工を施すとともに、少なくとも下芽加工ラインLdでは、より込み装置を適用し、上芽Auよりも、より込みを強くした加工を施すものであり、また商品形態としては、加工済もしくは加工途中の上芽Auと下芽Adとを合わせるか、もしくは全く別々に製茶加工したものを各々別個に提供するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摘採できる状態までに伸長した生茶葉を、伸長方向の部位に応じて分断して摘採するとともに、それぞれの部位に適した製茶加工を行い、全体として高品位な製品茶(荒茶)が得られるようにした新規な多段刈茶の適化加工システムに係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般に製茶加工は、茶園で摘採した生茶葉を速やかに製茶工場に搬入し、これに順次、蒸し加工、揉み加工、乾燥加工を施し、荒茶(製品茶)に仕上げるものである。
この製茶加工を品質の視点から見ると、いわゆる一心二葉の葉先部を原料とすれば、より高品質な茶が得られることが知られている。しかしながら、これでは当然、茶は少量しか生産できず、仮に市場価格が評価されたとしても、生産段階での経済的、経営的観点からは現実性が乏しく、このため一心二葉の葉先部のみを摘み、これを製茶加工することは、通常、一番茶の時期(いわゆる新茶の時期)、一部産地のみに限定されているのが実情である。
このため実際には、現実の営農状況を考慮して、一心二葉以上の一定長さ、例えば15〜20cm程度(産地によっては40cm程度)までに伸長した状態で茶芽を摘採し、生茶葉の収穫量を確保することが多く行われている。
【0003】
しかしながら、このような生茶葉の場合、先側の上芽と元側の下芽とでは、性状が大きく異なってくる。具体的には、上芽は水分が多く葉も柔らかいが、下芽は茎部の木質化が進んだ部位を含むため水分が低く葉も強張った状態となる。このため、これらを一緒に加工するとなると、少なくとも加工条件は、摘芽全体が所望品質に加工できるような環境に設定されるが、これを摘芽の各部ごとに見た場合には、必ずしも最適な加工条件とは言い難い。すなわち、全体的に柔らかく且つしなやかな上芽は、本来、優しく揉まなければならないが、下芽も考慮した揉みでは、上芽にとっては揉圧が強く、質的に一番高品位な先端部が粉茶になってしまうことがあった。一方、全体的に硬い下芽は、本来、良く揉み込む必要があるが、上芽を考慮した揉みでは、下芽にとっては、揉み込みが不足する場合があった。このため摘芽全体としては、あるレベル以上の品質に加工できても、各部位毎に見れば、これが必ずしも適切な加工とは言い難いことがあった。
【0004】
もとより、このような問題点の認識から、摘採した生茶葉に対して、各部位ごとに適した加工を施すことについては、既に知られたものがある(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献1は、摘採後に製茶工場等で収穫茶葉を、上芽側と下芽側とに切断するカッティング工程を別途設けるものであって、現実には、一旦、一緒に摘採された茶葉の集合体から、都合よく上芽と下芽に分けることは極めて困難であり、現実的な手法とは言えなかった。
もちろん、摘採した茶葉に対し生育部位毎に応じた適化製茶加工を能率的に行うには、その前の摘採の段階で、上芽と下芽に分ける刈り取り自体を正確且つ高精度に行うとともに、この分離状態のまま、それぞれの部位に適した製茶加工に供することが理想である。
しかしながら、現実には、上芽と下芽とを一挙に刈り取る、いわゆる二段刈摘採機を使用しても、例えば下芽の摘採長さを均一化すること等は容易でなく、このため製茶加工の適切化のみならず摘採時から適切な刈り取りを行い、トータルで、より多大な能率化や荒茶の高品質化等を達成する、より現実的な手法が求められていた。
【特許文献1】特許第2945435号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、摘採時における適切化及び、製品加工段階における適切化を図り、もって仕上茶全体の品質向上を図り、更には市場動向に合わせた適切な営業手法をも採り得る新規なシステムを提案することを目的とした新規な多段刈茶の適化加工システムである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の多段刈茶の適化加工システムは、茶園で摘採した生茶葉を製茶工場に搬入し、この生茶葉を市場動向に対応した商品形態に加工する一連のシステムであって、前記生茶葉は、茶園で摘採される段階において、上芽と下芽とが分断状態で摘採されるとともに、この分断状態を維持したまま製茶工場まで搬入されるものであり、また生茶葉の製茶加工にあたっては、上芽と下芽とを、その性状の相違に対応して各々適化した製茶加工を施すとともに、少なくとも下芽の製茶工程では、より込み装置を適用し、下芽に対しては、上芽よりも、より込みを強くした加工を施すものであり、更にまた、商品形態としては、加工済もしくは加工途中の上芽と下芽とを合わせるか、もしくは全く別々に製茶加工したものを各々別個に提供するようにしたことを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項2記載の多段刈茶の適化加工システムは、前記請求項1記載の要件に加え、前記より込み装置は、より込み専用機、揉圧促進構造を具備した蒸機、揉圧促進構造を具備した粗揉機、揉圧促進構造を具備した揉捻機のうちの一つまたは複数であることを特徴として成るものである。
【0008】
更にまた請求項3記載の多段刈茶の適化加工システムは、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記上芽と下芽とを合わせる場合には、少なくとも別個の蒸熱工程を終了した後に合わせるようにしたことを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項4記載の多段刈茶の適化加工システムは、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記茶園における生茶葉の摘採にあたっては、摘採した下芽の寸法バラツキが摘採基準芽長の±10%以内に収まることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項5記載の多段刈茶の適化加工システムは、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加え、前記茶園における生茶葉の摘採にあたっては、乗用型多段刈摘採機により行われるものであり、且つ上芽摘採に続く下芽摘採は、進行方向25cm以内の間隔で行われるものであることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0011】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。すなわち本発明によれば、複数段刈りにより、生茶葉を生育部位(高さ)に応じて分断状態に摘採し、この分断状態のまま、それぞれの性状に見合った製茶加工に供するものである。このため摘採から加工までが適切且つ能率的に行え、これによって仕上茶の全体的な品質向上に大きく寄与する。なお、生茶葉の分断摘採を行うにあたっては、本出願人が開発し、既に特許出願に及んでいる多段刈摘採機を使用すれば、摘採が能率的且つ精度良く行え、製茶加工がより能率的に行え、仕上茶の品質としてもより一層向上できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の最良の形態は、以下の実施例に述べるとおりである。
【実施例】
【0013】
本発明は、例えば生茶葉Aを、茎の先端側(頂部)に生育する上芽Auと、これよりも下側に生育する下芽Adとに分けて摘採し(いわゆる二段刈り)、この分断状態のまま製茶工場まで搬入し、上芽Auと下芽Adとに、各々の性状に応じた製茶加工を施すものである。このため、摘採機としては、いわゆる二段刈摘採機の使用が好ましく、特に本出願人が既に特許出願に及んでいる特願2004−235170に開示された摘採機が好適である。なお、この摘採機については後述する。
【0014】
まず上芽Auと下芽Adについて説明する。上芽Auは、一例として図3に示すように、茎の先端側に生育する若い新芽部位であり、葉としては展開して間もないため葉厚も薄く柔らかい新葉である。従って、上芽Auは、比較的含水率が高く、また総繊維量も少なく、全体的にしなやかである。
一方、下芽Adは、やや硬化した葉(こわ葉)や木質化した茎部を含む部位であり、このため比較的含水率が低く、総繊維量も多い。また、こわ葉は、展開してから比較的長い時間が経過しているため葉厚が厚く、比較的強張った状態(ハード)である。なお、本明細書では、これら上芽Auと下芽Adとを、まとめて生茶葉Aと総称する。
このように、本来、生茶葉Aは、その部位によって性状が異なり、それぞれの性状に応じた条件や環境等で製茶加工されることが望ましく、本発明は、これを能率的に行うため、生茶葉Aを分断して摘採するとともに、この分断状態のまま製茶工場まで搬入し、上芽Auと下芽Adとを別々に加工するようにしたものである。
【0015】
ここで、上芽Auと下芽Adの適化加工の説明に先立ち、まず生茶葉Aの一般的な製茶加工ラインLすなわち茶園において摘採した生茶葉Aを荒茶に加工する製茶手法について説明する。
茶園で収穫された生茶葉Aは、製茶工場に搬入された後、例えば図4〜6に示すように、蒸熱工程、揉み工程、乾燥工程を順次経て荒茶に加工される(図中符号A1は加工途中の加工茶葉を示し、符号A2は上記各工程によって加工された荒茶を示している)。なお、揉み工程中の加工茶葉A1は、揉み込みと同時に熱風等に晒され乾燥を受けるのが一般的であるため、揉み工程と乾燥工程とをまとめて揉乾工程と称することもある。
【0016】
なお上記図4に示した製茶加工ラインLでは、蒸熱工程は蒸機1と冷却機2とを具えて成り、揉み工程は葉打機3、粗揉機4、揉捻機5、中揉み機6、中揉機7とを具えて成り、乾燥工程は精揉機8、乾燥機9とを具えて成るものである。また本図中、符号10は製茶工場に搬入した生茶葉Aを一時的に保管する生葉管理コンテナを示し、更に符号11は各製茶加工装置等を制御する制御装置を示し、また符号12は各製茶加工装置間において加工茶葉A1の移送を担う移送手段を示している。
以下、蒸熱工程、揉み工程、乾燥工程について概略的に説明する。
【0017】
まず蒸熱工程について説明する。蒸熱工程では、生葉管理コンテナ10から取り出した生茶葉Aを、まず蒸機1において蒸気で蒸しあげるものであり、これにより生茶葉A中の酸化酵素の働きを止め、カテキンや緑茶特有の水色(すいしょく)を保持するものである。その後、蒸しあげた加工茶葉A1を冷却機2に送り、葉の表面の水分を急速に取り除きながら室温程度まで冷やす。
【0018】
次に揉み工程について説明する。揉み工程では、蒸しあげた加工茶葉A1を葉打機3によって葉振るいして短時間に加工茶葉A1の表面水分を蒸発させるものである。
その後、この加工茶葉A1を粗揉機4に送り、撹拌したり揉みながら熱風で乾かすものである。なお煎茶特有の色調・風味はここで作られる。
その後、加工茶葉A1を揉捻機5に送り、形を整えながら葉に力を加えて揉み込むものであり、ここで加工茶葉A1は、揉み不足が補われるとともに、水分の均一化が図られる。なお、この揉捻工程は、製茶工程の中で唯一、加工茶葉A1に熱を加えない工程である。
その後、加工茶葉A1を中揉み機6に送り、揉み込みながら葉の表面水分を速やかに蒸散させ、茶(荒茶A2)の形状を徐々に作って行く。
その後、加工茶葉A1を中揉機7に送り、再び揉みながら熱風で乾かし、整形しやすい水分率や形状等に近づけて行くものである。
【0019】
次に乾燥工程について説明する。乾燥工程では、まず精揉機8により、加工茶葉A1に熱と力を加えて形を整えながら乾かすものである。なお精揉工程を終えた加工茶葉A1は、約13%前後の水分を含み、これを後段の乾燥機9によって乾燥させ、保存しやすい水分量(約4%程度)にするものである。
【0020】
生茶葉Aは、上述した加工工程を経て、荒茶A2に加工されるものであるが、この荒茶A2を更に仕上茶に加工するにあたっては、荒茶A2を総合仕上機により、ふるい分け及び切断して形を綺麗に整え、その後、火入機により充分に乾燥し、更に選別機によって木茎や細い茎などを取り除く。その後、合組機により製品の調整、配合、均一化を図り、これによって仕上茶となる。なお、仕上茶は適宜茶箱や袋等に詰められ、販売店や問屋等に輸送される。
【0021】
以下、上芽Auと下芽Adとに施す各々の適化加工について説明する。ここで上芽Auの製茶加工ラインを上芽加工ラインLu、下芽Adの製茶加工ラインを下芽加工ラインLdとする。なお上芽加工ラインLuと下芽加工ラインLdとは、基本的に上述した製茶加工ラインLを踏襲するものであるため、上芽Auと下芽Adとの両加工ラインを総称して製茶加工ラインLとする。
本発明では、下芽加工ラインLdは、下芽Adの性状(硬質、総繊維量が多いなど)に因み、上芽Auよりも「より込み」を多くかけるようにするものであり、これを本明細書では「より込み構造」もしくは「より込み装置」と称している。ここで「より込み」とは、下芽Adを圧縮したり、蒸しを深くしたり、よく揉み込んだりする加工手法の総称である。
【0022】
以下、上記より込み構造について更に詳細に説明する。より込み構造は、例えば上述した蒸機1に組み込むことが可能である。
蒸機1は、一例として図1、5に示すように、蒸し胴101を主要部材として成るものであり、この蒸し胴101は、例えば鉄板製の外胴102内に、円筒形の金網でできた内胴103を配して成るものである。ここで外胴102は、蒸機1のフレーム部材等に固定されて成り、内胴103のみが回転するように構成される。また内胴103の内側、例えば円弧中心部位には、撹拌羽根105を複数有した撹拌軸104が設けられる。これは生茶葉A(加工茶葉A1)を撹拌し、均一に蒸気と接触させる作用を担っている。そして内胴103には、外周側から内側に向かって蒸気が供給されるようになっており、この蒸気潜熱によって内胴103内に投入された生茶葉Aが蒸されるものである。なお蒸機1における加工茶葉A1の移送は、内胴103の回転と、排出口側への下り傾斜、並びに撹拌軸104の回転等による。
【0023】
そして下芽加工ラインLdの蒸機1については、例えば図1に併せて示すように、撹拌羽根105の数を増加させたり、あるいは撹拌軸104の回転数をアップさせたりして、生茶葉Aの蒸気接触を促進させることができ、これが上述した、より込み構造に該当する(より込み装置としては、揉圧促進構造を具備した蒸機1となる)。なお、図1に示す下芽加工ラインLdの蒸機1は、撹拌羽根105の数を蒸機1の断面方向において増加させるように図示したが、撹拌羽根105の数は、必ずしも断面方向のみならず撹拌軸104の長手方向に増やすことも可能である。
【0024】
また、より込み構造は、上述した粗揉機4に組み込むことが可能である。
粗揉機4は、上述したように、葉打ち後の加工茶葉A1に加熱した空気を導き、平均的に加工茶葉A1を加熱空気にさらしながら、適度の圧迫と摩擦とを加え、葉の組織を柔らかにするとともに水分を蒸散させる装置である。この粗揉機4は、一例として図1、5に示すように、機枠に対して固定状態に設けられる半円筒状の揉胴402の上方に拡散胴403を連接して揉乾胴401を構成し、更に、この拡散胴403の後ろ上方に熱風発生装置を設け、ここから揉胴402内に下向きの熱風を供給するものである。また揉胴402には、内面にダク板404が張設されるとともに、揉胴402のほぼ円弧中心には、長手方向に沿って回転軸405が横臥状態に設けられ、ここに揉手406と葉浚い407が適宜の間隔で複数設けられる。
【0025】
揉手406は、揉手腕410の先端に揉手バネ411を介してヘラ412を具え、揉手バネ411によってヘラ412を揉胴402の内面(ダク板404)に付勢するように構成され、これが加工茶葉A1に付与する揉圧となる。
一方、葉浚い407は、葉浚い腕420の先端部に複数本の爪421を外方に向けるように具えて成り、全体的にはフォーク状の外観を呈する。そして加工茶葉A1は、この葉浚い407によって浚いあげられては散らされ、手揉みでいう露切りに相当する操作(撹拌)を受けるものである。
【0026】
そして下芽加工ラインLdの粗揉機4については、揉手406のバネ圧を強化したり、揉手406(ヘラ412)とダク板404との隙間を狭めたり、あるいは揉手腕410の本数を増加させる等して揉圧を促進強化することができ、これが上述した、より込み構造に該当する(より込み装置としては、揉圧促進構造を具備した粗揉機4となる)。
また、この粗揉機4については、葉浚い407とダク板404との隙間を狭めたり、葉浚い407一本当たりの爪421の数を増やしたり、あるいは葉浚い腕420の数を増加させることもでき、これも上述した、より込み構造となり得る。
なお、図1では下芽加工ラインLdの粗揉機4として、揉手腕410と葉浚い腕420を双方ともに増加させたものを図示した。
因みに、このような揉圧促進構造(よりこみ構造)は、必ずしも粗揉機4に限定されるものではなく、揉胴を有する他の製茶装置、例えば葉打機3、中揉み機6、中揉機7等にも適用することが可能である。
【0027】
更にまた、より込み構造は、上述した揉捻機5に組み込むことが可能である。
揉捻機5は、上述したように、加工茶葉A1をまとめて揉圧しながら混合し、粗揉工程の揉み不足を補うと同時に、加工茶葉A1の各部の水分を均一化するものである。この揉捻機5は、一例として図1、6に示すように、加工茶葉A1を収容しながら回転する容器状の揉鉢501と、揉鉢501内に投入された加工茶葉A1を加圧する揉圧盤502と、加圧された加工茶葉A1を受ける揉盤503とを主要部材として成る。ここで揉鉢501は、揉盤503上をほぼ一定の間隙を維持しながら水平に旋回するように構成される。また揉盤503は、加工茶葉A1を受ける中央部分が凹陥状に形成され、その表面にヒル504と呼ばれる紐状体が放射螺旋状に形成される。このヒル504は、加工茶葉A1の旋転を担うとともに、加工茶葉A1が揉枠となる揉盤503から逸脱するのを防止するものである。
そして下芽加工ラインLdの揉捻機5については、ヒル504の本数を増加させたり、揉盤503からのヒル504の突出寸法を多くさせたりして、揉圧を促進強化させることができ、これが上述した、より込み構造に該当する(より込み装置としては、揉圧促進構造を具備した揉捻機5となる)。なお、図1では下芽加工ラインLdの揉捻機5として、ヒル504の本数を増加させたものを図示した。
【0028】
また、より込み装置としては、このように一般的な製茶加工装置に、より込み構造を付加したものに限らず、より込み作業のみを専門的に行う形態も可能である(これを「より込み専用機15」とする)。より込み専用機15としては、一般に知られているチョッパーの適用が可能であり、これは主に下芽Ad(加工茶葉A1)を切断するというよりは、むしろ圧縮するものであり、これによって茶としての浸出性を高めるものである。具体的には、図2に示すように、ケーシング16と、その内部に設けられるスクリュー17と、排出側に設けられる抵抗板(プレート)18とを主要部材として成るものであり、抵抗板18は、排出側に向かって下芽Adを通過させる面積が小さくなるように形成される。そして、スクリュー17によって下芽Adを抵抗板18側に押し込みながら、ここを通過させることによって下芽Adを互いに押し付け合わせ、下芽Adの圧縮を図るものである。
なお図1では、より込み専用機15を、粗揉機4と揉捻機5の間に設け、加工途中の下芽Adに、より込みを多く掛けるようにしたが、より込み専用機15の配置は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば蒸機1の前段に設け、製茶加工を受ける前の下芽Adを処理することも可能である。また、このようなより込み専用機15は、多段状に設けることも可能である。
【0029】
以上述べたように、より込み装置としては、下芽Adの性状に特化した製茶加工を行うものであって、揉圧促進構造を備えた蒸機1、揉圧促進構造を備えた粗揉機4、揉圧促進構造を備えた揉捻機5、より込み専用機15(一段もしくは多段)等、種々の装置の適用が可能であり、このような各装置は、これらのうち一基(一種)もしくは複数組み合わせて下芽加工ラインLdに適用することが可能である。具体的には、図1に示すように、下芽加工ラインLdのほぼ全工程に、各より込み装置を組み込み、より込みを強化することが可能であるし、あるいは下芽加工ラインLdの蒸熱工程にのみ、より込み装置(揉圧促進構造を備えた蒸機1)を適用し、蒸しあげた下芽Adを、蒸熱工程後の上芽Auと混合し、それ以降の揉乾工程は、上芽Auと一緒に行わせることも可能である(図1の想像線参照)。
【0030】
なお上記図1に示す実施例では、下芽加工ラインLdを、上芽加工ラインLuに対してバイパス状に形成したものを図示した。すなわち図1では、製茶加工を終了し、荒茶A2となった上芽Auと下芽Adとをブレンドする形態、もしくは製茶加工中の上芽Auと下芽Adを混合する形態等、基本的に上芽Auと下芽Adを合わせるものを図示したが、市場動向や茶そのものの出来等によっては、このようなブレンドや混合を一切行わず、荒茶A2となった上芽Auと下芽Adとを全く別々に、後工程(市場)に供給することも可能である。この場合、例えば上芽Auは最終的に最上質の煎茶として市場に提供され得るものであり、下芽Adはペットボトルや缶等のドリンク用として利用され得るものである。なお、製茶加工中もしくは製茶加工後の上芽Auと下芽Adとを合わせるにあたっては、同じ茶園で摘採した上芽Auと下芽Adとを混合するのが好ましい。
【0031】
本発明の多段刈茶の適化加工システムは、以上のような基本構造を有するものであるが、上芽Auと下芽Adとに各々適化した製茶加工を施すには、まず上芽Auと下芽Adとの分断摘採を正確且つ能率的に行うことが望ましい。このような適化摘採が行える摘採機としては、本出願人が既に特許出願に及んでいる特願2004−235170「茶枝葉の移送方法並びにその移送装置並びにこれを具えた茶刈機」が挙げられる。この摘採機20は、例えば図7に示すように、刈刃25の背面側から移送風Wを上向きに送り込むことによって、摘採機前方側に設けられる上段刈刃25uと、後方側に設けられる下段刈刃25dとの前後離反距離を短くでき、茶畝地の凹凸面を摘採面に表出させ難くしたものである。このため、例えば下芽Adの摘採長を揃えることができる等、正確且つ均一な摘採が行えるものである。なお、上記図7に示す符号21は、茶畝を跨ぐように走行する走行機体を示し、符号22は、この走行機体21によって茶畝上面に位置するように支持される摘採機体を示し、符号23は、摘採機体22の後方に設けられ摘採した生茶葉Aを収容する収容部を示し、符号24は、摘採した生茶葉Aを摘採機体22から収容部23まで移送する移送装置を示している。因みに上述した刈刃25は摘採機体22の一構成部材であり、上段刈刃25uと下段刈刃25dとを総称するものである。
【0032】
また、前記特願2004−235170の摘採機20によれば、上段刈刃25uと下段刈刃25dとの前後距離が25cm以内、すなわち上芽Au摘採に続く下芽Ad摘採が進行方向25cm以内の間隔で行え、摘採した下芽Adの寸法バラツキが基準摘採芽長の±10%以内に収まることが本出願人によって確認されている(例えば下芽Adを10cmの長さで摘採するように設定した場合、実際に摘採される下芽Adの長さは9〜11cmの範囲に収まる)。
【0033】
また本実施例では、いわゆる二段刈摘採を行い生茶葉Aを上芽Auと下芽Adの2グループに分けて別々に製茶加工を施す場合を基本に説明したが、例えば三段刈用の摘採機を使用した場合には、生茶葉Aは、先端側から頂部(上部)、中位部、下部(元側)との3グループに分けられ、これらを別々に製茶加工することも可能である。つまり生茶葉Aは、摘採機に取り付けられた刈刃の基数に応じて複数のグループに分けることができ、このグループ毎に異なった製茶加工を施すことが可能である。これに因み、前記請求項1に記載した、「下芽」とは、上芽Au以外の摘芽を総称するものであり、例えば三段刈りの場合には、摘採した生茶葉Aのうち頂部のものが上芽Auとなり、中位部と下部のものが下芽Adに相当する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】製茶工程のほぼ全工程に、より込み装置を組み込むようにした、本発明の多段刈茶の適化加工システムの一例を骨格的に示す説明図である。
【図2】より込み専用機の一例を骨格的に示す説明図である。
【図3】上芽と下芽の一例を示す説明図である。
【図4】製茶加工の一連の工程を骨格的に示す模式図である。
【図5】蒸機、冷却機、葉打機、粗揉機による製茶加工状況を骨格的に示す斜視図である。
【図6】揉捻機、中揉み機、中揉機、精揉機、乾燥機による製茶加工状況を骨格的に示す斜視図である。
【図7】本発明に好適な摘採機の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 蒸機
2 冷却機
3 葉打機
4 粗揉機
5 揉捻機
6 中揉み機
7 中揉機
8 精揉機
9 乾燥機
10 生葉管理コンテナ
11 制御装置
12 移送手段
15 より込み専用機
16 ケーシング
17 スクリュー
18 抵抗板(プレート)
20 摘採機
21 走行機体
22 摘採機体
23 収容部
24 移送装置
25 刈刃
25u 上段刈刃
25d 下段刈刃
101 蒸し胴
102 外胴
103 内胴
104 撹拌軸
105 撹拌羽根
401 揉乾胴
402 揉胴
403 拡散胴
404 ダク板
405 回転軸
406 揉手
407 葉浚い
410 揉手腕
411 揉手バネ
412 ヘラ
420 葉浚い腕
421 爪
501 揉鉢
502 揉圧盤
503 揉盤
504 ヒル
A 生茶葉
A1 加工茶葉
A2 荒茶
Au 上芽
Ad 下芽
L 製茶加工ライン
Lu 上芽加工ライン
Ld 下芽加工ライン
W 移送風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶園で摘採した生茶葉を製茶工場に搬入し、この生茶葉を市場動向に対応した商品形態に加工する一連のシステムであって、
前記生茶葉は、茶園で摘採される段階において、上芽と下芽とが分断状態で摘採されるとともに、この分断状態を維持したまま製茶工場まで搬入されるものであり、
また生茶葉の製茶加工にあたっては、上芽と下芽とを、その性状の相違に対応して各々適化した製茶加工を施すとともに、少なくとも下芽の製茶工程では、より込み装置を適用し、下芽に対しては、上芽よりも、より込みを強くした加工を施すものであり、
更にまた、商品形態としては、加工済もしくは加工途中の上芽と下芽とを合わせるか、もしくは全く別々に製茶加工したものを各々別個に提供するようにしたことを特徴とする多段刈茶の適化加工システム。
【請求項2】
前記より込み装置は、より込み専用機、揉圧促進構造を具備した蒸機、揉圧促進構造を具備した粗揉機、揉圧促進構造を具備した揉捻機のうちの一つまたは複数であることを特徴とする請求項1記載の多段刈茶の適化加工システム。
【請求項3】
前記上芽と下芽とを合わせる場合には、少なくとも別個の蒸熱工程を終了した後に合わせるようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の多段刈茶の適化加工システム。
【請求項4】
前記茶園における生茶葉の摘採にあたっては、摘採した下芽の寸法バラツキが摘採基準芽長の±10%以内に収まることを特徴とする請求項1、2または3記載の多段刈茶の適化加工システム。
【請求項5】
前記茶園における生茶葉の摘採にあたっては、乗用型多段刈摘採機により行われるものであり、且つ上芽摘採に続く下芽摘採は、進行方向25cm以内の間隔で行われるものであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の多段刈茶の適化加工システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−149291(P2006−149291A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345298(P2004−345298)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000104375)カワサキ機工株式会社 (30)
【Fターム(参考)】