説明

多段式加熱装置

【課題】複数枚の鋼板を同時加熱可能であり、加熱された鋼板を個別に取出すことができ、加熱温度の厳密な管理が可能であって鋼板の高温加熱にも使用でき、装置の設置面積を小さくでき、均一加熱によって高品質の製品を製造できる多段式加熱装置を提供する。
【解決手段】内部に加熱室3が形成されたボックス状の装置本体2と、加熱室の内部雰囲気を約900℃に加熱する熱源とを備え、加熱室内で多段に配置された複数枚の鋼板Pを同時に加熱できる多段式加熱装置1であり、装置本体の前方壁6には、鋼板を出し入れする複数段の開口部10が上下方向に沿って設けられ、各段の開口部には、これを開閉するための扉11が設けられ、装置本体の外側には、各段の扉を装置本体の前後方向に沿って搬送する扉搬送駆動機構12が設けられ、装置本体の内側には、鋼板を支持するための支持手段13が各段の開口部と対応する位置で水平に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイクエンチ工法(熱間プレス工法)などにおいて、鋼板等をプレス成形前に加熱するための多段式加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両部品等の分野で高強度部品の製作の工法として、ダイクエンチ工法(熱間プレス工法)が知られている。このダイクエンチ工法は、高張力鋼鈑を約900℃の温度まで予め加熱し、その鋼板を成形用プレス機に搬送して高温状態のまま鋼板を相対的に低温のプレス金型に設置し、該プレス金型でプレス成形すると同時に急冷させ、製品に焼きを入れる工法であり、成形性や引張強度等に優れた部品を製造する工法である。
【0003】
このようなダイクエンチ工法では、鋼鈑の温度を約900℃まで上昇させるのに約3〜5分ほど掛かることから、連続加熱炉が使用されている。この連続加熱炉では、多くの手持ちが必要となるため、加熱炉の設置面積が大きくなってしまう。
【0004】
例えば、現状の連続加熱炉として、ウォーキングビーム方式、ローラーハース方式、回転炉などが挙げられるが、どの加熱炉も設置面積が大きくなっている。すなわち、現在のウォーキングビーム方式、ローラーハース方式等の連続加熱炉にあっては、上述したように、成形用プレス機による熱間プレスのサイクルタイムとの関係で、非常に大きな設置面積が必要になるという不具合があった。
【0005】
ところで、大型基板を加熱する加熱炉として、多段加熱炉が提案されている(例えば、特許文献1)。この多段加熱炉では、高いクリーン度の雰囲気において、大型基板を高い温度精度で加熱することによって、設置面積を最小に抑え、省スペース化を図っている。そのため、この加熱炉においては、炉内を100〜250℃の低温領域の温度雰囲気とし、液晶表示板等の大型基板を乾燥することを目的としており、被乾燥物である大型基板を炉の内外に搬送するための機構を有していない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−317872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した多段加熱炉を考えた場合、該加熱炉からの鋼板の取出し方法に種々の問題がある。すなわち、段積みしただけの構造である加熱炉の場合、上方に位置する扉を閉めない限り、下方の鋼板を取出すことができないという不具合を有している。この不具合の解消を考慮して、鋼板の入口と出口を別個にすると、入口専用及び出口専用の搬送ロボットがそれぞれ必要となり、設備費が嵩むという新たな問題を生じることになる。それに加えて、加熱炉が吹き抜け構造になってしまうので、昇温効率が悪くなり、ランニングコスト高を招くと共に、鋼板の温度にムラが発生し、高品質の製品が得られないという問題を有している。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数枚の鋼板を同時加熱可能であると共に、加熱された鋼板を個別に取出すことができ、加熱温度の厳密な管理が可能であって鋼板の高温加熱にも使用でき、装置の設置面積を小さくすることができる上、鋼板全体を均一かつ効率的に加熱することによって高品質の製品を製造し、コストダウンを図ることが可能な多段式加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、内部に加熱室が形成されたボックス状の装置本体と、前記加熱室の内部雰囲気を850〜950℃の高温領域に加熱する熱源とを備え、前記加熱室内で多段に配置された複数枚の鋼板を同時に加熱することが可能な多段式加熱装置であって、前記装置本体の前方壁には、加熱対象物の鋼板を出し入れする複数段の開口部が上下方向に沿って設けられ、前記各段の開口部には、その開口部を開閉するための扉がそれぞれ設けられていると共に、前記装置本体の外側には、前記各段の扉を前記装置本体の前後方向に沿って搬送する扉搬送駆動機構が設けられ、前記装置本体の内側には、加熱対象物の鋼板を支持するための支持手段が前記各段の開口部と対応する位置で水平に設けられている。
【0010】
本発明の多段式加熱装置において、特に、次のように構成することが好ましい。
(1)前記装置本体にはタイマー又は温度検出手段が設置されており、該タイマー又は温度検出手段により鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度を計測し、所定の鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度に到達した段の扉が前記扉搬送駆動機構により駆動されて前記段の開口部が開口するように構成されている。
(2)前記装置本体は左右一対備えており、これら左右一対の装置本体が並んで配設されている。
(3)前記支持手段は前記各段の扉の内側に設けられ、前記支持手段と前記各段の扉とは一体的に連結されている。
(4)前記支持手段は、前記装置本体の前後方向に沿って互いに平行に延在して配設される左右一対の支持縦棒と、該支持縦棒の間に架設され、前記装置本体の前後方向に沿って間隔を置いて配設される複数本の支持横棒とを備え、該支持横棒に加熱対象物の鋼板が載置されるように構成されている。
(5)前記加熱室は、1つ1つが周囲の壁によって別体に区画された複数段の室に形成され、これら各段の加熱室は、前記各段の開口部と対応して設けられている。
【0011】
[作用]
本発明の多段式加熱装置では、扉搬送駆動機構により扉を搬送しながら装置本体の前方壁から引き出して開口部を開き、支持手段の上に加熱対象物の鋼板を載せ、その後、扉搬送駆動機構により扉を後退させて開口部を閉じ、鋼板を加熱室内に配置すると、当該鋼板は、熱源によって加熱された加熱室内の高温雰囲気中に所定時間留まることで所定温度の約900℃まで加熱されることになる。そして加熱完了後、再び扉搬送駆動機構により扉を装置本体の前方壁から引き出すことで、加熱済の鋼板を取出せば、ダイクエンチ工法を行う次工程の成形用プレス機への搬送が可能となる。
【0012】
したがって、本発明の多段式加熱装置によれば、装置本体の前方壁における複数段の開口部を介して装置本体内部の加熱室に対し、各段ごとに個別に搬入しかつ個別に搬出することが可能となり、複数枚の鋼板を同時に加熱できるのみならず、所定温度に加熱された鋼板を、熱間プレスのサイクルタイムに合わせながら加熱室から一枚ずつ取出すことが可能となり、装置の設置面積を比較的小さくでき、車両部品等の製品の生産性向上を図ることが可能な加熱装置を提供できる。しかも、各段の扉に対応する扉搬送駆動機構は、装置本体の外側に設けられ、雰囲気温度が約900℃と非常に高温の加熱室内に設けられていない。このため、扉搬送駆動機構として、耐熱性等に配慮した装置を用いる必要はなく、比較的安価な汎用の駆動機構である駆動シリンダやモータを採用することが可能である。
【0013】
また、本発明の多段式加熱装置によれば、タイマー又は温度検出手段により鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度を計測し、所定の鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度に到達した段の扉を駆動して到達した段の開口部を開口しているため、鋼板に対する加熱温度の管理が可能であり、鋼板の高温加熱処理にも使用可能であり、生産性向上及び品質向上を図ることが可能となる。特に、このような装置本体を左右一対設置した場合には、扉の開閉動作を効率的に行い、より一層生産性を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上述の如く、本発明に係る多段式加熱装置は、内部に加熱室が形成されたボックス状の装置本体と、前記加熱室の内部雰囲気を850〜950℃の高温領域に加熱する熱源とを備え、前記加熱室内で多段に配置された複数枚の鋼板を同時に加熱することが可能なものであって、前記装置本体の前方壁には、加熱対象物の鋼板を出し入れする複数段の開口部が上下方向に沿って設けられ、前記各段の開口部には、その開口部を開閉するための扉がそれぞれ設けられていると共に、前記装置本体の外側には、前記各段の扉を前記装置本体の前後方向に沿って搬送する扉搬送駆動機構が設けられ、前記装置本体の内側には、加熱対象物の鋼板を支持するための支持手段が前記各段の開口部と対応する位置で水平に設けられているので、複数枚の鋼板を同時に加熱可能であると共に、加熱された鋼板を個別に取出すことができ、従来の連続加熱炉に代わる鋼板の加熱装置として利用できる。また、従来の連続加熱炉と比べて装置の設置面積を小さくして省スペース化が見込め、扉搬送駆動機構として比較的安価な汎用の駆動機構を用いることが可能であり、設備費を低減させることができる。
【0015】
また、本発明において、前記装置本体にはタイマー又は温度検出手段が設置されており、該タイマー又は温度検出手段により鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度を計測し、所定の鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度に到達した段の扉が前記扉搬送駆動機構により駆動されて前記段の開口部が開口するように構成されていれば、加熱温度を厳密に管理することが可能であり、鋼板の高温加熱にも使用でき、鋼板全体を均一かつ効率的に加熱することによって高品質の製品を製造し、生産性の向上及びコストダウンを図ることができる。
【0016】
さらに、本発明において、前記装置本体は左右一対備えており、これら左右一対の装置本体が並んで配設されていれば、より多くの枚数の鋼板を同時に加熱することができ、次工程の熱間プレスのサイクルタイムに合わせながら加熱鋼板を加熱室から効率よく搬出でき、より生産性を高めることができる。
【0017】
しかも、本発明において、前記支持手段は前記各段の扉の内側に設けられ、前記支持手段と前記各段の扉とは一体的に連結されていれば、扉の開閉動作に伴って加熱対象物の鋼板を円滑に搬出入できると共に、加熱室に通じる開口部のシール性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明において、前記支持手段は、前記装置本体の前後方向に沿って互いに平行に延在して配設される左右一対の支持縦棒と、該支持縦棒の間に架設され、前記装置本体の前後方向に沿って間隔を置いて配設される複数本の支持横棒とを備え、該支持横棒に加熱対象物の鋼板が載置されるように構成されていれば、装置本体の内部を1つの加熱室として使用することができ、装置を比較的安価に製造することができる。
【0019】
さらに、本発明において、前記加熱室は、1つ1つが周囲の壁によって別体に区画された複数段の室に形成され、これら各段の加熱室は、前記各段の開口部と対応して設けられていれば、扉の開閉動作による温度ムラを小さくでき、各段の加熱室に搬入された鋼板をより均一に加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る多段式加熱装置について、図面を参照しながら、その実施形態に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る多段式加熱装置の斜視図、図2は図1の加熱装置の正面図、図3は図1の加熱装置の一部側面図である。
【0021】
図1〜図3に示すように、本発明の実施形態に係る多段式加熱装置1は、所定の間隔を置いて左右両側に並んで配設される左右一対の装置本体2と、該装置本体2の内部に形成された加熱室3の内部雰囲気を850〜950℃の高温領域に加熱する熱源4とを備え、加熱室3内で多段に配置された複数枚の鋼板P(例えば、長尺な亜鉛メッキ鋼板)を同時に加熱することが可能に構成されている。これら装置本体2は、左右で同一の構造を有しており、周囲の底壁5、前方壁6、後方壁7、左右側壁8及び天井壁9によって、それぞれが前後方向及び上下方向に長い略直方体のボックス形状に形成されている。
【0022】
本実施形態に係る装置本体2の前方壁6には、加熱対象物の鋼板Pを出し入れする複数段の開口部10が上下方向に沿って一定の間隔を置いて並んで設けられている。これらの開口部10は、加熱室3と外部とを連通する鋼板Pの出入口であって、その間口はできる限り小さく形成されており、加熱室3の熱が開口部10を介して逃げ難くなるように構成されている。本実施形態の多段式加熱装置1では、上下に5段の開口部10が設定されており、5段式の加熱装置となっている。そして、各段の開口部10には、その開口部を開閉するための扉11がそれぞれ設けられていると共に、装置本体2の外側には、各段の扉11を装置本体2の前後方向に沿って搬送する各段の扉搬送駆動機構12が設けられている。これら扉11は、金属製の外側枠、耐火レンガ等の断熱材及び耐熱セラミックボード等の耐熱シール材を重ね合わせた構造の断熱扉となっており、各段の扉11が閉じられたときに、扉搬送駆動機構12との協働作用によって加熱室3内の熱気が外部に漏れるのを防ぐ機能を有している。
【0023】
各段の扉搬送駆動機構12は、図1〜図3に示すように、その段に対応する開口部10の中間高さにおいて左右一対の装置本体2の外側に位置し、互いに対向する片方の側壁8にそれぞれ設けられた駆動シリンダによって構成されている。これら駆動シリンダは、それぞれの作動ロッド12aが水平方向へ延在するように各側壁8の外面に取付けられており、各作動ロッド12aの先端部は、ほぼ直角に折り曲げられて駆動シリンダの取付側と反対側の側壁8へ向かって延び、対応する扉11の前面に連結されている。すなわち、各段の扉11は、扉搬送駆動機構12を構成する駆動シリンダの作動ロッド12aによって、装置本体2の前後方向に沿って水平移動可能に支持されている。したがって、作動ロッド12aがガイドレール(図示せず)などを介して駆動シリンダ本体内に没入(後退)することにより、扉11が装置本体2の前方壁6に当接し、その扉11に対応する開口部10が閉じられることになる。また、作動ロッド12aがガイドレール(図示せず)などを介して駆動シリンダ本体内から突出(前進)することにより、扉11が装置本体2の前方壁6から水平方向の前方側に離間し、その扉11に対応する開口部10が開かれることになる。
【0024】
一方、装置本体2の内側には、図1に示すように、加熱対象物の鋼板Pを支持するための支持手段13が各段の開口部10と対応する位置でそれぞれ水平に設けられている。これら支持手段13は、各段の扉11の内側に設けられ、支持手段13と各段の扉11とは一体的に設けられており、引き出し式になっている。そして、各支持手段13は、装置本体2の前後方向に沿って互いに平行に延在して配設される左右一対の支持縦棒13aと、これら支持縦棒13aの間に架設され、装置本体2の前後方向に沿って間隔を置いて配設される複数本の支持横棒13bとを備えており、該支持横棒13bには、装置本体2の前後方向へ長尺の加熱対象物である鋼板Pが載置されるように構成され、鋼板Pが重ならないような構造となっている。これら支持棒13a,13bは、耐熱性セラミックスなどで形成されている。
このような構成の支持手段13によって、装置本体2の内部が1つの加熱炉、すなわち加熱室3となり、加熱室3の大きさなどに応じて、例えば1つの熱源4で加熱室3の内部雰囲気を所定の高温領域に加熱することが可能となっている。なお、加熱室3内には、必要に応じて、モータなどで駆動されるシロッコファンなどの送風手段(図示せず)が設けられており、該送風手段により熱源4の熱を対流させて加熱室3の内部雰囲気がより均一な温度となるように構成することも可能である。
【0025】
本実施形態の熱源4は、各段に配置された鋼板Pを約900℃に加熱するために、少なくとも装置本体2を形成する天井壁9の内壁面に設けられており、当該熱源としては電気コイルヒータが使用されている。しかし、このような熱源4は、加熱室3内の各鋼板Pをより均一かつ迅速に加熱すべく、天井壁9の内壁面以外に設けることは可能であり、熱源4aとして、各段の開口部10の上下中間高さの位置で、左右両側壁8の内壁面にそれぞれ設けられていてもよい。なお、この電気コイルヒータに代えて、ガスバーナーやラジアントチューブが熱源4,4aとして用いられてもよい。
【0026】
また、本実施形態の装置本体2には、図2に示すように、タイマー14又は温度検出手段(熱電対など)15の少なくとも一方が設置されている。タイマー14は、各段の開口部10に対応させて、装置本体2の片側側壁8などにそれぞれ取付けられており、各段に配置された鋼板Pの加熱時間を計測するために設けられている。この鋼板Pの加熱時間は、経験則などから各段の加熱室3の内部雰囲気温度が850〜950℃の高温領域となるように設定されている(例えば、約2〜5分)。一方、温度検出手段15は、各段の開口部10に対応させて、装置本体2の後方壁7の内壁面にそれぞれ取付けられており、加熱室3の内部雰囲気温度より各段に配置された鋼板Pが所望の加熱温度(約900℃)となっているかどうかを検出するために設けられている。
これら熱源4、扉搬送駆動機構12、タイマー14及び温度検出手段15は、図示しない制御装置に電気的に接続されている。この制御装置は、タイマー14及び温度検出手段15によって計測及び検出された各段の所定鋼板加熱時間及び所定鋼板加熱温度に基づいて熱源4の発熱量を制御して加熱室3の内部雰囲気温度を所望の温度に保持するのみならず、所定の鋼板加熱時間及び鋼板加熱温度に到達した段の扉11を扉搬送駆動機構12により駆動すべく制御するものであり、これによって本実施形態の多段式加熱装置1は、各段の開口部10が開口するように構成されている。
【0027】
次に、本発明の実施形態の多段式加熱装置1を使用して鋼板Pを加熱する方法について説明する。
先ず、扉搬送駆動機構12を作動させ、その作動ロッド12aを前方に突出させることにより、扉11を装置本体2の前方壁6から水平方向へ前進させて離間させる(図1の最下段参照)。すると、その扉11に対応する開口部10が開かれると共に、当該扉11の内側に設けられた支持手段13が扉11に追従して加熱室3の外側に露出されることになるから、当該支持手段13の上に加熱対象物の鋼板Pを載せる。この状態では、長尺の鋼板Pは支持横棒13bの上で水平に支持されることになる。
【0028】
次いで、支持手段13への鋼板Pの載置が完了したら、扉搬送駆動機構12の作動ロッド12aを後方に没入させることにより、扉11を後退させて装置本体2の前方壁6に当接させる。すると、その扉11に対応する開口部10が閉じられると共に、支持手段13の上の鋼板Pが加熱室3内に搬入されて配置されることになる。
しかる後、熱源4によって約900℃に加熱された加熱室3内の高温雰囲気中に鋼板Pをタイマー14や温度検出手段15で計測及び検出された所定時間及び所定温度にわたり留まらせれば、鋼板Pは、加熱室3内の雰囲気温度とほぼ同じ温度(約900℃)に加熱されることになる。そして、鋼板Pの加熱処理が完了したら、再び扉搬送駆動機構12の作動ロッド12aによって扉11を装置本体2の前方壁6から水平方向へ前進させて離間させると、当該扉11の支持手段13が加熱室3の外側に配置され、加熱処理後の鋼板Pを取出し、次工程の熱間プレスに搬出することが可能となる。なお、加熱処理後の鋼板Pを取出し終了後は、同様の操作で、直ちに新たな加熱対象物の鋼板Pを搬入して扉11を閉じ、加熱室3から熱気が漏れないようにする。
【0029】
このように、本発明の実施形態の多段式加熱装置1によれば、装置本体2の複数段の開口部10を介して加熱室3に搬入することで複数枚の鋼板Pを同時に加熱できると共に、加熱室3に対して加熱対象物である鋼板Pを個別に搬入し、かつ個別に取出すことができる。したがって、本実施形態の多段式加熱装置1によれば、各段の鋼板Pを熱間プレス加工のサイクルタイムと同じ時間間隔で順次搬入し、鋼板Pが約900℃の目標温度に到達するまでの加熱時間(例えば、3分)に達したら、その段の扉11を駆動させて開口部10を開き、加熱処理後の鋼板Pを各段から同じ時間間隔で順次取出して搬出することが可能となり、従来の連続加熱炉に代わる鋼板Pの加熱装置として利用できる。
【0030】
また、本実施形態の多段式加熱装置1では、加熱室3への出入口となる開口部10が上下方向に沿って複数段設けられ、鋼板Pを支持する支持手段13が各段の開口部10と対応して設けられているため、装置本体2の内部の加熱室3において複数枚の鋼板Pを上下方向に多段配置することができ、従来のウォーキングビーム方式又はローラーハース方式の連続加熱炉と比べて、加熱装置1の設置面積を非常に小さくでき、省スペース化を図ることができる。しかも、本実施形態の多段式加熱装置1では、左右一対の装置本体2が並んで設けられているため、より一層生産性を高めることができる。そしてまた、本実施形態の多段式加熱装置1では、扉搬送駆動機構12が装置本体2の外側に配置され、高温領域の加熱室3内に設けられていないため、比較的安価な汎用の駆動機構を採用でき、設備費を低減させることができると共に、熱歪み等に起因する動作不良のおそれも無く、メンテナンス性に優れている。
【0031】
さらに、本実施形態の多段式加熱装置1は、タイマー14や温度検出手段15により鋼板加熱時間や加熱温度を計測しているため、鋼板Pに対する加熱温度を厳密に管理することが可能になり、亜鉛メッキ鋼板のような防錆鋼板を加熱する場合でも、亜鉛メッキ層を消失させることなく、亜鉛メッキ鋼板を約900℃の高温まで加熱することができる。
【0032】
図4は、本発明の他の実施形態に係る多段式加熱装置の一部正面断面図である。
この実施形態における装置本体2の内部には、複数の加熱室30が上下方向に沿って間隔を置いて設けられており、その1つ1つが周囲の壁によって別体に区画された複数段の室に形成されている。各段の加熱室30は、各段の開口部10と対応して設けられており、各段の加熱室30の天井壁の内壁面には、熱源4としての電気コイルヒータが設置されている。
また、各段の加熱室30の内部には、セラミックス製の仕切り板31が設けられている。この仕切り板31は、熱源4と支持手段13上の鋼板Pとの上下間に位置し、左右両側壁間に架設されており、加熱された鋼板Pが上方へ反っても仕切り板31に接触し、熱源4に接触するのを防ぎ、熱源4がショートして加熱室30が使用不能となるのを防止する構造となっている。その他の構成は上記実施形態と同様であり、これと同一の部位は同一の符号で示されている。
【0033】
このような本発明の他の実施形態によれば、鋼板Pを搬入する加熱室30が1つ1つの別体の箱となっているため、扉11の開閉動作による加熱室30や鋼板Pの温度ムラを小さくすることができる。したがって、この実施形態においては、各段の加熱室30に搬入された鋼板Pをより均一かつ迅速に加熱することが可能となり、優れた品質の製品を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【0035】
例えば、既述の実施形態の多段式加熱装置1では、段数を5段としたが、熱間プレスのサイクルタイムに合わせて適宜選択することにより、2段〜4段又は6段以上の複数段とすることも可能である。また、既述の実施形態の多段式加熱装置1では、左右一対の装置本体2を設置しているが、1列又は3列以上の装置本体2を設置しても良い。さらに、支持手段13に載せる鋼板Pの枚数は、加熱室3,30の寸法で自由自在に決めることが可能である。また、扉搬送駆動機構12として駆動シリンダに代えて、モータなどの駆動機構を使用しても良い。また、既述の実施形態では、鋼板Pとして亜鉛メッキ鋼板を例示して説明したが、本発明の多段式加熱装置は、メッキ等の表面コーティングを施していない鋼板や、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板等の表面コーティングを施した鋼板に対して適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る多段式加熱装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る多段式加熱装置を示す正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る多段式加熱装置の一部を示す側面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る多段式加熱装置の一部を正面から見て示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 多段式加熱装置
2 装置本体
3,30 加熱室
4,4a 熱源
6 前方壁
10 開口部
11 扉
12 扉搬送駆動機構
13 支持手段
14 タイマー
15 温度検出手段
P 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に加熱室が形成されたボックス状の装置本体と、前記加熱室の内部雰囲気を850〜950℃の高温領域に加熱する熱源とを備え、前記加熱室内で多段に配置された複数枚の鋼板を同時に加熱することが可能な多段式加熱装置であって、
前記装置本体の前方壁には、加熱対象物の鋼板を出し入れする複数段の開口部が上下方向に沿って設けられ、前記各段の開口部には、その開口部を開閉するための扉がそれぞれ設けられていると共に、前記装置本体の外側には、前記各段の扉を前記装置本体の前後方向に沿って搬送する扉搬送駆動機構が設けられ、前記装置本体の内側には、加熱対象物の鋼板を支持するための支持手段が前記各段の開口部と対応する位置で水平に設けられていることを特徴とする多段式加熱装置。
【請求項2】
前記装置本体にはタイマー又は温度検出手段が設置されており、該タイマー又は温度検出手段により鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度を計測し、所定の鋼板加熱時間又は鋼板加熱温度に到達した段の扉が前記扉搬送駆動機構により駆動されて前記段の開口部が開口するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の多段式加熱装置。
【請求項3】
前記装置本体は左右一対備えており、これら左右一対の装置本体が並んで配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の多段式加熱装置。
【請求項4】
前記支持手段は前記各段の扉の内側に設けられ、前記支持手段と前記各段の扉とは一体的に連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多段式加熱装置。
【請求項5】
前記支持手段は、前記装置本体の前後方向に沿って互いに平行に延在して配設される左右一対の支持縦棒と、該支持縦棒の間に架設され、前記装置本体の前後方向に沿って間隔を置いて配設される複数本の支持横棒とを備え、該支持横棒に加熱対象物の鋼板が載置されるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多段式加熱装置。
【請求項6】
前記加熱室は、1つ1つが周囲の壁によって別体に区画された複数段の室に形成され、これら各段の加熱室は、前記各段の開口部と対応して設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多段式加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−291284(P2008−291284A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135261(P2007−135261)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】