説明

多種燃料に対応可能な燃料噴射装置及び陸舶産業用内燃機関

【課題】内燃機関の排ガス性状及び燃費の制御を可能とする多種燃料に対応可能な燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】ディーゼル機関10の気筒内に燃料を噴射する燃料供給系48として、主燃料タンク52に蓄えられた主燃料を機械式燃料噴射ポンプ50により加圧して燃料噴射弁26に送る主燃料系と、副燃料タンク56に蓄えられた副燃料を加圧ポンプ58で加圧してコモンレール60に送り副燃料供給弁64を開放することにより合流部65を経て燃料噴射弁26に送る副燃料系とが設けられ、システム制御部114により、主燃料の噴射前に前記副燃料を噴射すると共に、副燃料の噴射の初期燃焼の変化に基づき副燃料供給弁64と燃料噴射弁26を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置及び陸舶産業用内燃機関に関し、特に多種の燃料に対応可能な燃料噴射装置及びこれを用いた陸舶産業用内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇、地球温暖化を背景に多種の燃料で運転可能な内燃機関およびこのような内燃機関に用いられる燃料噴射装置が求められている。例えば、より低質の石油系の燃料を用いること、バイオ燃料を用いることなどが提案されている。燃料はその種によって着火性が異なり、多種の燃料で運転可能とするためには、燃料の噴射タイミング等を調整して燃焼性を向上させる必要がある。
【0003】
例えば、ディーゼル機関の燃料噴射装置において、燃料噴射時に高圧の主噴射の前に低圧のパイロット噴射を行う構成が開示されている。このような燃料噴射装置において、主噴射用の高圧用コモンレールとパイロット噴射用の低圧用コモンレールとを備えた構成が開示されている(下記、特許文献1参照)。
【0004】
また、内燃機関の燃料噴射装置において、高圧の燃料を噴射する主噴射と、主燃料の噴射前後に主噴射より低圧で燃料を噴射するポスト噴射を行う構成が開示されている(下記、特許文献2参照)。また、燃焼室内圧力や熱発生率の変化を判定し、それらに基づいて燃料噴射量や燃料噴射時期を制御する技術が開示されている(下記、特許文献3,4,5参照)。
【0005】
また、主噴射とパイロット噴射又はアフター噴射等の副噴射とを組み合わせる際に、燃料噴射量及びエンジン回転数に基づき機関燃焼状態を間接的に把握し、当該燃焼状態に応じて制御モードを変更する技術が開示されている(下記、特許文献6参照)。また、主噴射とパイロット噴射を組み合わせて行う際に、内燃機関の気筒内の圧力Pを検出し、最高圧力Pmax及びdP/dθに基づいて燃焼状態と着火状態を把握し、その結果をパイロット燃料供給装置にフィードバックする構成が開示されている(下記、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−111404号公報
【特許文献2】特開2007−71181号公報
【特許文献3】特開2004−100566号公報
【特許文献4】特開2004−100559号公報
【特許文献5】特開2000−54889号公報
【特許文献6】特開2003−120392号公報
【特許文献7】特開平6−159182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の船舶用ディーゼル機関にこのような電気制御式の燃料噴射システムを増設し、ディーゼル機関をより高効率化すると共に排気ガス特性を改善することが考えられている。特に、環境問題対策として注目されているバイオ燃料や廃食油等の燃料に対応したディーゼル機関の高効率化や排気ガス特性の改善が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に対応した内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置は、主燃料を噴射する主燃料噴射手段と、副燃料を噴射する副燃料噴射手段と、前記主燃料の噴射前に前記副燃料を噴射すると共に、前記副燃料の噴射の初期燃焼の変化に基づき前記副燃料噴射手段を制御する制御手段と、を備える。主燃料噴射手段と副燃料噴射手段を制御することにより、排ガス中の一酸化炭素(CO)やスモークの濃度等を低減する。このとき、副燃料噴射手段は電気的に高精度に制御されることが好適である。
【0009】
請求項2に対応した燃料噴射装置は、前記制御手段は、前記初期燃焼の変化に基づいて前記副燃料の噴射条件を制御する。副燃料噴射手段は、例えば、燃料の性状、気筒内圧力、機関の負荷条件、地理的条件等の条件に基づき、副燃料の噴射タイミングや噴射量等の噴射条件、副燃料の噴射弁の開閉制御等を行うことができるが、そのうち副燃料の噴射条件を制御する。特に、排ガスの性状が変化するように、特に一酸化炭素(CO)やスモークの濃度等が変化するように副燃料の噴射条件を制御する。
【0010】
請求項3に対応した燃料噴射装置は、前記気筒内の圧力を測定する圧力測定手段を備え、前記制御部は、前記初期燃焼の変化を前記圧力測定手段によって測定された前記気筒内の圧力を基に得られた熱発生率の立ち上がり勾配に基づいて定める。例えば、内燃機関に設けられた圧力センサによって測定される最高筒内圧から熱発生率の時間的変化である勾配を算出し、その勾配が基準値より緩やかになるように副燃料噴射手段を制御する。
【0011】
請求項4に対応した燃料噴射装置は、前記制御手段は、前記主燃料の噴射前に前記副燃料を噴射するタイミングを前記主燃料の噴射時のクランク角度に対して所定範囲内とする。また、請求項5に対応した燃料噴射装置は、前記副燃料を噴射するタイミングは、前記クランク角度において、前記副燃料の着火限界から前記主燃料の噴射時までの範囲とする。請求項8に対応した燃料噴射装置は、前記所定範囲は、前記クランク角度において上死点に対して−25度から−15度までの範囲である。このように前記主燃料の噴射前に前記副燃料を噴射するタイミングを設定することによって、ノッキングを抑制し、排ガス中の窒素酸化物(NOx)等を低減することができる。
【0012】
請求項6に対応した燃料噴射装置は、前記内燃機関の運転開始の初期において、前記制御手段は、前記副燃料の噴射量の最適化処理を行う。また、請求項7に対応した燃料噴射装置は、前記内燃機関の運転開始の初期において、前記制御手段は、前記副燃料を噴射するクランク角度の最適化処理を行う。このような最適化処理を行うことによって、前記副燃料の噴射のタイミングを所定範囲に設定した際にノッキングを最大限抑制したり、排ガス中の窒素酸化物(NOx)等を最大限低減したりすることができる。
【0013】
請求項9に対応した内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置では、主燃料を噴射する主燃料噴射手段と、副燃料を噴射する副燃料噴射手段と、前記内燃機関の排ガス中の窒素酸化物の濃度を計測する窒素酸化物濃度計測手段と、前記排ガス中の窒素酸化物濃度が窒素酸化物濃度限界値以下となるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する制御手段と、を備える。窒素酸化物の濃度を低減させるためには、排ガス中の窒素酸化物の濃度を測定し、その濃度が基準値以下となるように主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御する。このとき、副燃料噴射手段を制御する場合には、主燃料の噴射開始時期以降で副燃料の噴射を行う制御とすることが好ましい。例えば、主燃料の噴射タイミング、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量のいずれかを制御する。
【0014】
請求項10に対応した内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置では、主燃料を噴射する主燃料噴射手段と、副燃料を噴射する副燃料噴射手段と、前記気筒内の圧力を計測する気筒内圧力計測手段と、前記気筒内圧力が気筒内圧力目標値となるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する制御手段と、を備える。窒素酸化物の濃度を低減させるためには、内燃機関の最高筒内圧を測定し、その値に応じて主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御する。このとき、副燃料噴射手段を制御する場合には、主燃料の噴射開始時期以降で副燃料の噴射を行う制御とすることが好ましい。例えば、主燃料の噴射タイミング、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量のいずれかを制御する。
【0015】
請求項11に対応した燃料噴射装置において、前記制御手段は、前記気筒内圧力の最高気筒内圧力を前記気筒内圧力目標値に近づけるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する。請求項12に対応した燃料噴射装置は、前記気筒内圧力と前記内燃機関のクランク角度との関係において、所定のクランク角度における前記気筒内圧力が前記気筒内圧力目標値に最も近づくように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する。請求項13に対応した燃料噴射装置は、前記所定のクランク角度は、前記気筒内圧力目標値の最高気筒内圧力値におけるクランク角度とする。例えば、主燃料の噴射タイミング、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量のいずれかを制御することによって、気筒内圧力が上記条件となるようにする。
【0016】
請求項14に対応した燃料噴射装置は、前記内燃機関の燃料消費量を計測する燃料消費量計測手段と、前記内燃機関の出力を導出する出力導出手段と、をさらに備え、前記燃料消費量と前記出力との関係に基づいて前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する。例えば、燃料消費量の上限値を設定し、出力を確保した上で、燃料消費量が上限値を超えないように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する。例えば、主燃料の噴射タイミング、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量のいずれかを制御することにより、燃料消費量が上限値を超えないようにする。また、燃料消費量と出力の比率に基づき、前記主燃料噴射手段や前記副燃料噴射手段を制御してもよい。
【0017】
請求項15に対応した燃料噴射装置は、前記内燃機関の排ガスの温度を計測する排ガス温度計測手段をさらに備え、前記排ガスの温度が最低となるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する。例えば、主燃料の噴射タイミング、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量のいずれかを制御することにより、排ガスの温度が最低となるようにする。
【0018】
請求項16に対応した燃料噴射装置は、前記主燃料噴射手段による前記主燃料の噴射以降に前記副燃料噴射手段による前記副燃料の噴射を行う。
【0019】
請求項17に対応した燃料噴射装置は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料噴射装置と、請求項9〜16のいずれか1項に記載の燃料噴射装置と、を組み合わせたものである。すなわち、主燃料の噴射、副燃料のプレ噴射及び主燃料の噴射開始時期以降での噴射の制御を組み合わせることによって、排ガスの性状及び燃費等の制御を行う。
【0020】
請求項18に対応した燃料噴射装置は、前記主燃料の噴射圧力と、前記副燃料の噴射圧力と、を異ならせたものである。請求項19に対応した燃料噴射装置は、前記主燃料及び前記副燃料は、セタン価が45以下又はCCAIが810以上の燃料である。請求項20に対応した燃料噴射装置は、前記内燃機関は、ディーゼル機関であり、前記主燃料噴射手段は、機械的制御により前記主燃料を噴射し、前記副燃料噴射手段は、加圧された燃料を蓄えるコモンレールを含む蓄圧部を有し、電気的制御により前記副燃料を噴射する。これにより、副燃料の着火性を主燃料より高め、排ガスの性状及び燃費等の制御を行う。このような構成は、特に、主燃料及び副燃料を廃食油、バイオ燃料、重油、LCO(分解軽質軽油)又はこれらの混合燃料としたときに有効である。
【0021】
請求項21に対応した陸舶産業用内燃機関は、上記燃料噴射装置を搭載したものである。なお、他の移動体、例えば鉄道車両、自動車等の内燃機関についても本発明における燃料噴射装置を適用することができる。また、ディーゼル機関以外の間欠燃焼を行う機関(直噴式のオットー機関等)についても適用することができる。さらに、陸上に設置される発電システム等においても本発明を適用することができる。
【0022】
請求項22に対応した陸舶産業用内燃機関は、前記陸舶産業用内燃機関の低負荷時に前記副燃料を噴射する。上記の燃料噴射装置は、低負荷時(最大負荷の75%未満の負荷)においてノッキングの抑制効果、排ガス中の窒素酸化物(NOx)等の低減効果が顕著となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置によれば、副燃料の噴射の初期燃焼の変化に基づき前記副燃料噴射手段を制御する制御手段を備える。これにより、排ガスの性状を制御した状態で内燃機関を運転することができる。例えば、排気ガス中の一酸化炭素(CO)やスモークの濃度を低減することができる。
【0024】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、初期燃焼の変化に基づいて副燃料の噴射条件を制御する。副燃料噴射手段の制御としては、副燃料の噴射条件、副燃料の噴射弁の開閉制御等が挙げられるが、そのうち副燃料の噴射タイミングや噴射量等の噴射条件を制御することにより排ガス中の一酸化炭素(CO)やスモークの濃度等を効果的に制御することができる。
【0025】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、熱発生率の立ち上がり勾配に基づいて副燃料の噴射条件を制御する。熱発生率の勾配は排ガス中の一酸化炭素(CO)やスモークの濃度と強い相関関係を有するので、熱発生率の勾配に基づいて副燃料の噴射条件を制御することにより排ガス中の一酸化炭素(CO)やスモークの濃度等をより効果的に制御することができる。
【0026】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、副燃料のプレ噴射の噴射タイミングを主燃料の噴射時のクランク角度に対して所定範囲内とすることにより、また、副燃料の着火限界から主燃料の噴射時までの範囲とすることにより、内燃機関のノッキングを抑制し、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やスモークの濃度を低減することができる。また、内燃機関の運転開始の初期において、副燃料の噴射量又は噴射のタイミングを調整することによって、上記効果を顕著なものとすることができる。
【0027】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、排ガス中の窒素酸化物濃度が窒素酸化物濃度限界値以下となるように主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御する制御手段を備えることにより、排ガス中の窒素酸化物の濃度を低減させることができる。また、本発明の燃料噴射装置によれば、気筒内圧力が気筒内圧力目標値となるように主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御する制御手段を備えることにより、内燃機関から排出される排ガス中の窒素酸化物濃度を制御することができる。
【0028】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、気筒内圧力の最高気筒内圧力を気筒内圧力目標値に近づけるように主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御することにより、より容易に排ガス中の窒素酸化物濃度を制御することができる。特に、気筒内圧力と内燃機関のクランク角度との関係において、所定のクランク角度における気筒内圧力が気筒内圧力目標値に最も近づくように主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御することが好適である。所定のクランク角度は、気筒内圧力目標値の最高気筒内圧力値におけるクランク角度とすることが制御的にも好適である。
【0029】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、内燃機関の燃料消費量を計測する燃料消費量計測手段と、内燃機関の出力を導出する出力導出手段をさらに備え、燃料消費量と出力との関係に基づいて主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御する。これによれば、内燃機関の燃費をより正確に制御することができる。
【0030】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、内燃機関の排ガスの温度を計測する排ガス温度計測手段をさらに備え、排ガスの温度が最低となるように主燃料噴射手段又は副燃料噴射手段を制御することにより、内燃機関の燃費をよくする制御をより速く、正確に行うことができる。
【0031】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、主燃料噴射手段による主燃料の噴射開始以降に副燃料噴射手段による前記副燃料の噴射を行うことにより、内燃機関からの排ガスの窒素酸化物の濃度を低減させつつ、燃費を向上させる制御を行うことができる。
【0032】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、上記の燃料噴射装置を組み合わせたものとすることにより、排ガスの一酸化炭素、スモーク及び窒素酸化物の濃度を低減しつつ、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0033】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、主燃料の噴射圧力と、副燃料の噴射圧力と、を異ならせることにより、きめ細かく排ガス中の窒素酸化物濃度を低減させつつ、燃費を向上できる。特に、内燃機関はディーゼル機関であり、主燃料噴射手段は、機械的制御により主燃料を噴射し、副燃料噴射手段は、加圧された燃料を蓄えるコモンレールを含む蓄圧部を有し、電気的制御により副燃料を噴射することが好適である。これにより、主燃料の噴射が機械的制御であっても、副燃料噴射手段によりディーゼル機関における燃焼を細かく制御することができ、排ガスの一酸化炭素、スモーク及び窒素酸化物の濃度を低減しつつ、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0034】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、主燃料及び副燃料は、セタン価が45以下又はCCAIが810以上の燃料とする。例えば、廃食油、バイオ燃料、重油、LCO(分解軽質軽油)又はこれらの混合燃料のいずれかとする。本発明は、このように複数の燃料を用いる内燃機関において、排ガスの一酸化炭素、スモーク及び窒素酸化物の濃度を低減しつつ、内燃機関の燃費を向上させるために好適である。特に、着火性の悪い燃料を主燃料として用いる場合等において、排ガスの一酸化炭素、スモーク及び窒素酸化物の濃度を低減しつつ、内燃機関の燃費を向上させるために好適である。
【0035】
なお、多種燃料に対応可能な燃料噴射装置は、陸舶産業用内燃機関に適用することができる。また、他の移動体、例えば鉄道車両、自動車等の内燃機関についても本発明を適用することができる。また、ディーゼル機関以外の間欠燃焼を行う機関にも適用することができる。さらに、陸上に設置される発電システム等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態のディーゼル機関の概略構成を示す断面図である。
【図2】実施形態のシリンダヘッドの構成を示す部分拡大断面図である。
【図3】実施形態の燃料供給系の構成図を示す図である。
【図4】プレ噴射と主噴射とのタイミングの関係を示す図である。
【図5】主噴射と副燃料の主噴射の噴射開始時期以降での噴射のタイミングの関係を示す図である。
【図6】実施の形態におけるディーゼル機関の制御ブロック図である。
【図7】プレ噴射の制御のフローチャートを示す図である。
【図8】主噴射又は副燃料の第2の噴射の制御のフローチャートを示す図である。
【図9】主噴射又は副燃料の第2の噴射の制御のフローチャートを示す図である。
【図10】プレ噴射による作用・効果を説明するためのクランク角度に対する筒内圧及び熱発生率の関係を示す図である。
【図11】主噴射又は副燃料の第2の噴射による作用・効果を説明するためのクランク角度に対する筒内圧、熱発生率及び燃料噴射圧の関係を示す図である。
【図12】副燃料のプレ噴射のタイミング(クランク角度)と排ガス中の窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の濃度の関係を示す図である。
【図13】副燃料のプレ噴射のクランク角度と筒内圧、燃料噴射圧及び熱発生率の関係を示す図である。
【図14】副燃料のプレ噴射のクランク角度と筒内圧、燃料噴射圧及び熱発生率の関係を示す図である。
【図15】副燃料のプレ噴射のクランク角度と筒内圧、燃料噴射圧及び熱発生率の関係を示す図である。
【図16】副燃料のプレ噴射のクランク角度と筒内圧、燃料噴射圧及び熱発生率の関係を示す図である。
【図17】副燃料のプレ噴射のクランク角度と排ガス中の窒素酸化物(NOx)及び全炭化水素(THC)の濃度の関係を示す図である。
【図18】副燃料のプレ噴射のクランク角度と排ガス中の窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の濃度の関係を示す図である。
【図19】副燃料のプレ噴射の制御のフローチャートを示す図である。
【図20】内燃機関の負荷に対する窒素酸化物(NOx)の排出濃度の変化を示す図である。
【図21】内燃機関の負荷に対するスモークの排出濃度の変化を示す図である。
【図22】内燃機関の負荷に対する一酸化炭素(CO)の排出濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を、図面に従って説明する。図1は、内燃機関、特に船舶用ディーゼル機関10の概略の断面図である。ディーゼル機関10は多気筒機関であり、図1の紙面を貫く方向に複数の気筒が直列に配置されている。ピストン12は、シリンダライナ14の円筒内周面に沿って摺動しつつ往復運動し、この往復運動が連接棒16を介してクランク軸18の回転運動に変換される。シリンダライナ14はエンジンフレーム20に支持され、シリンダライナ14とエンジンフレーム20の間には、冷却水の流れる水ジャケットが形成される。このエンジンフレーム20の、シリンダライナを囲みこれを支持する部分と、シリンダライナ14とでシリンダが構成される。エンジンフレーム20には、クランク軸18を支持する軸受が設けられているが、図1においては省略されている。
【0038】
エンジンフレーム20の上部には、シリンダヘッド22がヘッドボルトにより締結されており、これによりシリンダヘッド22がシリンダライナ14の上部の開口に当接し、密着している。ピストン12の頭頂面と、これに対向するシリンダヘッド22の下面と、シリンダライナ14の内周面により燃焼室が形成される。シリンダヘッド22の燃焼室の中央にあたる部分に燃料噴射弁26が設けられている。燃料噴射弁の配置は、噴射される燃料の噴霧の拡がり方など、燃焼状況により適切に定められればよく、中央以外の部分に設けられてもよい。シリンダヘッド22には、燃焼室に通じる吸気ポートおよび排気ポートが形成されており、さらに、これらのポートの燃焼室に対する開口を開閉するための吸気弁、排気弁が配置される。吸排気弁は、燃料噴射弁26の紙面奥側と手前側に配置されており、図1においては示されていない。吸気ポートは吸気管32に連通しており、排気ポートは排気管34に連通している。
【0039】
また、図2の部分拡大図に示すように、シリンダヘッド22には、インジケータコック(計測用コック)53が設けられる。インジケータコック53は、シリンダライナ14の内部の圧力等を計測するためにシリンダヘッド22に管路53aを形成し、管路53aの端部をシリンダヘッド22の外部まで引き出して構成される。本実施の形態では、管路53a内の圧力を計測するための圧力センサ102が設けられている。圧力センサ102は、管路53a内の圧力を検出し、後述のエンジン状態推定部110へ出力する。温度センサ53bは、排ガスの温度を測定するために設けられる。温度センサ53bで計測された排ガスの温度は後述のシステム制御部114へ出力される。
【0040】
出力センサ53c(図6に記載)は、ディーゼル機関10からの出力軸のねじれ等からディーゼル機関10の出力値(パワー値)を計測する。出力センサ53cで計測された出力値は後述のシステム制御部114へ出力される。
【0041】
シリンダの側方には、ギア、チェーンなどの伝達装置を介してクランク軸18に駆動されるカム軸36が配置される。カム軸36は、気筒の配列方向と平行に配置され、各気筒の吸気弁、排気弁に対応したカム38を備えている。カム38のカム面に接するカムフォロワ40が設けられ、さらに、カムフォロワ40に接続され、シリンダヘッド22に向けてプッシュロッド42が延びて配置される。シリンダヘッド22には、ロッカーアーム44が配置され、ロッカーアーム44の一端にはプッシュロッド42が接続し、他端は吸気弁と排気弁のステム端46に接続している。カム軸36の回転により、カム38がカムフォロワ40を揺動させ、この動きがプッシュロッド42を介してロッカーアーム44に伝達される。そして、ロッカーアーム44も揺動して吸気弁および排気弁が駆動され、吸気ポート、排気ポートの開閉が実行される。
【0042】
燃料噴射弁26には、燃料供給系48により燃料が供給される。このディーゼル機関10には、二つの燃料供給系が設けられる。一つの燃料供給系は機械式燃料噴射ポンプ50を備え、このポンプは燃料タンク52内の燃料を加圧して、逆止弁51を備えた燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に供給する。この燃料供給系を主燃料供給系と記し、燃料タンク52を主燃料タンク52、燃料供給管54を主燃料供給管54、さらに主燃料供給系で供給される燃料を主燃料として以下説明する。
【0043】
もう一つの燃料供給系を副燃料供給系と記す。副燃料供給系は、燃料噴射弁26に供給される副燃料を蓄える燃料タンク56、副燃料を加圧し送る加圧ポンプ58、加圧ポンプにより送られる加圧された燃料を蓄える蓄圧部としてのコモンレール60を含む。コモンレール60内に蓄えられた加圧燃料が、逆止弁63及び副燃料供給弁64を有する燃料供給管62を介して主燃料供給管54に送出される。主燃料供給管54に送出された燃料は、更に燃料噴射弁26に向かい、ここから燃焼室内に向けて噴射される。この副燃料タンク56から燃料噴射弁26に至る、副燃料を噴射するための系を副燃料系と記し、燃料タンク56を副燃料タンク56、燃料供給管62を副燃料供給管62として以下説明する。
【0044】
したがって、この燃料供給系48においては、主、副の燃料供給管54,62の合流部65より下流においては、主、副燃料系が構成要素(例えば燃料噴射弁26)を共有している。
【0045】
コモンレールを含む副燃料系は、自動車用のシステムを転用することができる。自動車用の需要は、船舶用のそれよりも多く、量産効果により副燃料系導入のコストを抑制することができる。また、副燃料系に軽油を用いるのであれば、自動車用のシステムを導入するための改造が少なくなり、更に導入コストの抑制が期待できる。また、自動車用のシステムが、船舶用としては容量が不足する場合には、システムを複数備え、1気筒に複数のコモンレールシステムから燃料を噴射するようにできる。また、燃料噴射量を増加するために、コモンレールの容積を増加して対応してもよい。
【0046】
図3は、燃料供給系48および燃料噴射弁26を示す図である。主燃料系においては、主燃料タンク52に蓄えられている主燃料は、機械式燃料噴射ポンプ50により加圧されて送出され、主燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に送られる。なお、逆止弁51より下流へ送り出された主燃料は、逆止弁51によって機械式燃料噴射ポンプ50側へ逆流することが防がれている。また、燃料注入により加圧される部分の容積を小さくし、燃料圧の高圧化とその応答性(加圧速度)を向上させて燃料を噴射させることができる。
【0047】
副燃料系においては、副燃料タンク56に蓄えられた副燃料は、加圧ポンプ58で加圧、送出され、圧力が高い状態でコモンレール60に蓄えられる。コモンレール60から主燃料供給管54に向かう副燃料供給管62の途中には副燃料供給弁64が設けられており、この副燃料供給弁64を開放することによって、合流部65より下流に副燃料が供給される。副燃料供給弁64は、電気的に制御される電気制御式とする。
【0048】
このように、主燃料系においては、燃料の加圧は、燃料噴射のたびにそれぞれ独立して行われるのに対し、副燃料系においては、燃料は予め加圧されて、加圧された状態で蓄えられており、燃料噴射のタイミングで予め加圧されていた燃料が供給される。主燃料系においては、燃料噴射の初期においては、圧力が低く、噴射される燃料の粒子が比較的大きい。一方、副燃料系においては、燃料は予め加圧されているので、噴射期間の初期から高い圧力で噴射することが可能であり、噴射のタイミングを制御し易く、噴射時の燃料の噴射量や噴射圧力も制御が容易となる。また、主燃料より高い噴射圧力で副燃料を噴射することにより、副燃料の粒子は主燃料より微細な状態で噴射される。これにより、副燃料の着火性や燃焼性を高めることができる。また、コモンレール内の圧力は、変更することが容易である。具体的には、例えば、加圧ポンプ58に電気式のポンプを採用した場合は、ポンプを駆動するモータの回転速度を変更して、コモンレール内圧力を調整することができる。また、加圧ポンプ58として機械式のポンプを用いる場合には、コモンレール60から副燃料タンク56に副燃料を戻すリターン経路に調圧弁を設け、この調圧弁が開放する圧力を変更して、コモンレール内圧力を調整することができる。
【0049】
なお、逆止弁63を経て合流部65へ送り出された副燃料は、逆止弁63によってコモンレール60へ逆流することが防がれている。また、逆止弁51により機械的燃料噴射ポンプ50側に流出することが防がれている。また、コモンレール60に蓄えられた燃料が、主燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に送られる。加圧ポンプ58およびコモンレール60は全気筒または複数の気筒に共通に設けられ、副燃料供給弁64が各気筒に設けられる。
【0050】
また、逆止弁63は副燃料の注入が無いときに、主燃料の逆流を防いでいる。逆止弁51は副燃料の注入の際にこの燃料が主燃料系の逆止弁51より上流に流出することを防いでいる。なお、逆止弁51は、主燃料供給管54の機械式燃料噴射ポンプ50から合流部65までの間の配管の半分の位置よりも合流部65に近い位置に配置することが好適である。また、逆止弁63は、副燃料供給管62の副燃料供給弁64から合流部65までの間の配管の半分の位置よりも合流部65に近い位置に配置することが好適である。特に、副燃料はコモンレール60(蓄圧部)によって予備的に加圧された状態で燃料供給管62,54へと導入され、燃料噴射弁26から気筒内へ主燃料よりも高い圧力で噴射されるので、逆止弁51,63の位置による圧力低下の影響を受け易い。したがって、コモンレール60のような蓄圧部を用いた燃料供給系を有する場合には、逆止弁51,63を上記のように配置することによる効果が顕著となる。また、プレ噴射(副燃料)→主噴射(主燃料)→副燃料の主燃料の噴射開始時期以降の噴射(以下、副燃料の第2の噴射又は単に第2の噴射という)のサイクルとすることにより、特に精密な制御が必要なプレ噴射に対して、管路が副燃料で満たされた状態での噴射制御が可能となる。特に、副燃料を主燃料の燃焼期間以降で噴射することにより、確実に主燃料の噴射を終えてからの副燃料の噴射が可能となり、管路を満たす副燃料の比率をさらに上げることができる。
【0051】
また、副燃料供給弁64として電気的に制御できるものを付加することにより、自動車用のコモンレールシステムの導入が容易となる。また、電気制御式とすることで、燃料噴射タイミングや、燃料噴射期間(噴射量)、燃料噴射パターン等が電気信号で制御可能となり、制御の自由度が拡大する。
【0052】
さらに、本実施の形態では、主燃料系から供給される主燃料を噴射する主噴射と、主噴射とは異なるタイミングで副燃料系から供給される副燃料を噴射する副噴射を行う。より具体的には、図4の燃料噴射のタイミングチャートに示すように、主噴射の前であって、繰り返し行われる主噴射の半周期(T/2)より短い時間だけ前に副燃料を噴射するプレ噴射を行う。プレ噴射は、パイロット噴射とも呼ばれる。なお、プレ噴射は、主噴射による燃料の供給と重なるタイミングでおこなってもよい。また、プレ噴射は、複数回行ってもよい。
【0053】
また、図5の燃料噴射のタイミングチャートに示すように、主噴射による主燃料の噴射開始時期以降であって、繰り返し行われる主噴射の半周期(T/2)より短い時間だけ後に副燃料を噴射する副燃料の第2の噴射(副噴射(a))を行う。これにより、管路を満たす副燃料の比率を上げることができる。なお、副燃料の第2の噴射は、主噴射による燃料の供給と重なるタイミング(副噴射(a),(b))以外に燃焼が終わってから行ってもよい(副噴射(c))。さらに、プレ噴射と副燃料の第2の噴射とは組み合わせて行ってもよい。また、第2の噴射は複数回行ってもよい。なお、主燃料の噴射開始時期以降には、主燃料の燃焼期間を含むものとする。
【0054】
特に、副燃料供給弁64を電気制御式とすることで、副噴射であるプレ噴射や第2の噴射のように、主噴射のタイミングに合わせて高い精度で噴射条件(燃料噴射タイミング、燃料噴射期間(噴射量)、噴射圧力、噴射パターン等)の制御を行う必要がある場合に有利である。また、副燃料供給弁64は、単なる開閉機能のみを有した構成とし、副燃料の噴射タイミングや噴射条件等は燃料噴射弁26や他の手段に委ねることもできる。
【0055】
また、燃料噴射弁26は、燃料の噴射に電気的制御を行う電気制御式燃料噴射弁としてもよい。電気制御式噴射弁は、気筒内に燃料を噴射する噴射弁として機能すると共に、主燃料及び副燃料の供給を制御する燃料制御弁としても機能する。電気制御式燃料噴射弁は、制御信号を受けて、電磁弁を備えた噴射ノズルから制御信号で示される噴射量の燃料を噴射する。噴射された燃料は、細かな粒子(液滴)となってシリンダ内を拡がり、ピストンによる圧縮で気筒内の温度が上昇すると自己着火して燃焼する。主燃料系は、カム92によるプランジャのストロークのたびに燃料が加圧される。なお、燃料噴射弁26は、一つの弁体に主燃料系と副燃料系が独立して存在し、各々機械式あるいは電気制御式、あるいはその組み合わせをもって機能する燃料噴射弁であってもよい。また燃料噴射弁26が主燃料系及び副燃料系に共通に設けられることにより、例えば、既存船の内燃機関に副燃料系を後付設置する場合に、シリンダヘッド22に取付口を別途設ける必要が無く燃料噴射弁26の交換だけで済む。また、新造船であってもシリンダヘッド22への穴あけが従来通り各気筒ごとに1か所で済み、加工が容易にできる。
【0056】
主、副燃料は、同種の燃料を用いることも、異種の燃料の組み合わせとすることもできる。主、副燃料は、廃食油、バイオ燃料、重油、軽油、LCO(分解軽質軽油)又はこれらの混合油のうち少なくとも1つを含むことが好適である。同種の燃料を用いる場合であっても、後述するように、副燃料系においては、噴射初期から高い圧力で噴射することによって、燃料粒子が微細となって、着火性や燃焼性が改善される。特に、前述の燃料噴射弁による低負荷時の着火性の悪化を改善することができる。同種の燃料を副燃料系により噴射しても、十分な着火性を得られない場合に、主、副燃料に異種の燃料を使用することもできる。この場合、副燃料に着火性の良い燃料を使用し、副燃料を火種として、着火性の悪い燃料を燃焼させるようにすることができる。ディーゼル機関における着火性は、セタン価又はCCAI(Calcurated Carbon Aromaticity Index)で評価され、この場合は、セタン価の高い燃料又はCCAIが低い燃料を副燃料として使用し、セタン価のより低い燃料又はCCAIのより高い燃料を主燃料として使用する。主燃料に着火性の悪い燃料を使用する場合、副燃料として軽油、バイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)を使用することが好適である。主燃料として重油を使用した場合、相対的に着火性のよい菜種油等を用いてもよい。セタン価は、留出油の着火性を示す指数であり、この値が大きい燃料ほど着火性が良い。CCAIは、残渣油の着火性を示す指数であり、この値が小さい燃料ほど着火性が良い。例えば、主燃料及び副燃料は、セタン価が45以下又はCCAIが810以上の着火性の悪い燃料としても、副燃料の噴射により着火性や燃焼性が改善され、良好に燃焼させることができる。この場合、主燃料と副燃料のセタン価又はCCAIの値の関係は、主燃料の方が副燃料よりも低い場合、高い場合、同じ場合、全ての場合をとり得る。また、主燃料のセタン価が45以下又はCCAIが810以上の燃料として、副燃料をセタン価が45以上又はCCAIが810以下の燃料とすると着火性はより良くなる。セタン価の値としては、例えば廃食油38、バイオ燃料の1種である菜種油34、A重油43、軽油58、LCO28等の報告がある。また、CCAIの値としては、例えば廃食油822、菜種油820、A重油836、C重油843、軽油799、LCO898等の報告がある。
【0057】
図6は、主燃料系および副燃料系の噴射条件の制御に関する制御ブロック図である。この制御ブロック図は、主、副の燃料系において燃料噴射弁、特にそのノズルが共用される構成例を対象とした制御ブロック図である。既出の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。ディーゼル機関10の運転状態を検出するために、回転センサ100、圧力センサ102および排気ガスセンサ104が備えられる。また、燃料噴射弁26に実際に供給される主燃料および副燃料の量をそれぞれ検出する主燃料流量センサ106、副燃料流量センサ108を備えてもよい。回転センサ100は、クランク軸18の回転速度を検出するセンサである。
【0058】
圧力センサ102は、上記のようにシリンダヘッド22の管路53aに設けることができる。圧力センサ102によって検出された燃焼室内の圧力はエンジン状態推定部110へ入力される。
【0059】
なお、圧力センサ102は、より簡易な方法として、後付け、または外付けのセンサとしてもよい。例えば、圧力センサ102は、燃焼室内の燃焼圧がシリンダヘッドボルトに作用する力に基づくセンサとしてもよい。より具体的には、シリンダヘッド22をエンジンフレーム20に対して締結するシリンダヘッドボルトに圧力センサ102を設けてもよい。シリンダヘッドボルトのボルトのナットとシリンダヘッドの間に、圧力センサ102であるロードワッシャを配置する。ロードワッシャには、シリンダヘッドの締め付け時に加えられる軸力と、気筒内圧を受けて発生する軸力が作用する。このロードワッシャに作用する力は、気筒内圧と良好な相関を有することが分かっており、気筒内圧を直接測定するのではなく、気筒の外部に設けたロードワッシャにより気筒内圧を測定することが可能である。
【0060】
また、圧力センサ102としての歪みゲージを用いてもよい。圧力センサ102として用いる歪みゲージは、シリンダヘッドボルトの軸部に装着することが好適である。歪みゲージは、エンジンフレーム20と、シリンダヘッド22の間の隙間に対応して装着される。しかし、シリンダヘッドボルトの延びを適切に検出できる位置であれば、どこに装着されても良く、例えばシリンダヘッド22内のボルト軸部に装着されてもよい。シリンダヘッドボルトの伸びに作用する力は、気筒内圧と良好な相関を有していることが分かっており、気筒内圧を直接測定するのではなく、気筒の外部に設けた歪みゲージより気筒内圧を測定することが可能である。ロードワッシャ型、歪みゲージ型のいずれも、気筒の外部に装着可能であるため、副燃料系としてコモンレールシステムを後付けする場合や、故障時や寿命時の取り替えがボルトの脱着だけで簡単にできる。また、ボルトの緩みや締め付けトルクが不足した場合に、異常が検出可能となる。
【0061】
圧力センサ102は、各気筒に設けることができ、また代表となる1つまたは複数の気筒に対応して設けることもできる。気筒配置がV型の機関であれば、左右のバンクにそれぞれ1つの圧力センサを設けることができる。気筒ごとに圧力センサを設けた場合、噴射条件の制御も気筒ごとに行うことができる。また、V型のバンクごとなど、いくつかの気筒ごとに圧力センサを設けた場合、バンクごと、その気筒群ごとに噴射制御を行うこともできる。圧力センサ102により検出された気筒内圧に基づき、エンジン状態推定部110において、内燃機関の運転状態を推定する。
【0062】
排気ガスセンサ104は、内燃機関の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク、粒子状物質(PM)、全炭化水素(THC)等を検出するセンサである。これらは個別に設けることも組み合わせて設けることもできる。排気ガスセンサ104は、排気管34以外に各気筒に設けることができ、また代表となる1つまたは複数の気筒に対応して設けることもできる。排気ガスセンサ104からの出力信号はエンジン状態推定部110へ送られ、エンジン状態推定部110において排気ガスの性状に応じて内燃機関の運転状態を推定する。
【0063】
エンジン状態推定部110は、排気ガスの性状、着火時期、図示平均有効圧、最高気筒内圧の少なくとも一つの情報に基づき、内燃機関における燃焼状態について推定を行う。例えば、主燃料の燃料噴射時期を変化させたときに圧力センサ102によって気筒内圧を検出することで、最高気筒内圧、図示平均有効圧を算出でき、また気筒内圧から求めた熱発生率から、着火時期を推定することができる。熱発生率から着火時期の推定を行うに当たり、あるサイクルの最大値と最低値より定められる閾値を用いて推定を行うことができる。例えば、熱発生率の最大値と最小値の差の10%を最小値に加算した値を閾値とし、あるサイクルにおいて、この値を超えたときを、そのサイクルの着火時期とすることができる。
【0064】
また、エンジン状態推定部110は、排気ガスの性状に応じて内燃機関の燃焼状態を推定する。内燃機関の負荷に対して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク及び全炭化水素(THC)の濃度が変化する。スモークは、排気ガス中の粒子状物質(PM)の量に対応する。すなわち、エンジン状態推定部110は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク及び全炭化水素(THC)の測定値の少なくとも一つを排気ガスセンサ104から受けて、受け取った測定値から内燃機関の燃焼状態を推定する。この推定された内燃機関の燃焼状態又は窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク及び全炭化水素(THC)の測定値自体に応じて、主燃料及び副燃料の噴射時期、噴射圧力、噴射量(噴射燃料比)等の噴射条件を制御する。
【0065】
エンジン状態推定部110は、このようにして得られた排気ガスの性状、着火時期、図示平均有効圧、最高気筒内圧等のパラメータ、燃料の性状、圧力センサ102の検出値及び排気ガスセンサ104の検出値等の運転条件に基づいて主燃料及び副燃料の噴射時期、噴射圧力、噴射量(噴射燃料比)等の噴射条件を制御するためのデータをシステム制御部114へ出力する。
【0066】
一方、ディーゼル機関10の運転条件は、運転操作盤120に入力された条件に基づき定められ、これに基づき前述のエンジン状態推定部110および各センサによる検出値をフィードバックしてシステム制御部114によりディーゼル機関10が制御される。
【0067】
運転操作盤120には、ディーゼル機関10の始動・停止を行う運転スイッチ122、出力レベルを制御するスロットルレバー124が備えられ、また燃料の種類や搭載量、排気ガス等に関する規制値、運転モードを入力する条件設定部126を備える。燃料の種類としては、重油、軽油、廃食油、LCO(分解軽質軽油)、バイオ燃料としての菜種油、パーム油やバイオディーゼル油、又はこれらの混合燃料やGTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等が想定されており、それぞれの代表的な性状が予め記憶されている。また、主燃料と副燃料にそれぞれにどの種類の燃料を使用するか、設定することができる。また、排気ガス規制値(NOx規制、CO規制、スモーク規制、SOx規制、CO排出量規制)等の設定をすることができる。さらに、環境を重視する設定(環境モード)とするか、燃費を重視する設定(エコモード)とするかの運転モードの選択も行うことができる。
【0068】
操作者によりこれらの操作、入力がなされ、運航条件算出部128にて、これらの条件に適した、運航条件が算出される。具体的には、主燃料及び副燃料の比率、燃料の性状(セタン価、発熱量)、排気温度目標値、効率の目標値、負荷条件等の算出を行う。
【0069】
また、GPS130を搭載し、GPS(全地球測位システム)情報、レーダ情報等に基づき現在の位置を取得し、これも合わせて運航条件を算出してもよい。GPSまたはレーダにより、陸からの距離、目的地からの方位や距離、航行時の目標物との位置関係を取得することができ、これらに応じた運航条件を算出することができる。例えば、現在位置が港湾内、陸地から近い位置であれば、排気ガス浄化を優先した運転モード(環境モード)とし、外洋であれば、燃費を優先した運転モード(エコモード)とするようにできる。
【0070】
運航条件算出部128により算出された運航条件に基づき、運転条件設定部112において、ディーゼル機関10の運転条件がシステム制御部114に設定される。この設定された条件に基づきシステム制御部114によって主燃料及び副燃料の噴射時期、噴射圧力、噴射量(噴射燃料比)等の噴射条件の制御が実行される。
【0071】
特に、本実施の形態では、主燃料の主噴射と異なるタイミングで副燃料の副噴射を行う制御を行う。すなわち、主燃料の主噴射と異なるタイミングで副燃料のプレ噴射及び第2の噴射を行う。
【0072】
以下、図7及び図8のフローチャートを参照して、燃費を優先した運転モード(エコモード)での燃料噴射の制御について説明する。すなわち、運転操作盤120から燃費を優先した運転モード(エコモード)に設定され、又は、GPS130により燃費を優先した運転モード(エコモード)に設定された場合について説明する。
【0073】
以下の処理では、第1のアシスト噴射であるプレ噴射で初期燃焼を改善し、排ガス中の一酸化炭素やスモーク濃度を低減し、その後、主噴射又は第2の噴射で窒素酸化物(NOx)排出量や燃費を制御する。
【0074】
ステップS10では、プレ噴射の制御のための初期設定が行われる。ここでは、運転操作盤120から操作者により少なくとも熱発生率の勾配の基準値及びプレ噴射の噴射量が設定される。熱発生率の勾配の基準値及びプレ噴射の噴射量は、プレ噴射による一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度の低減の指標として用いられる。また、GPS130により得られる現在位置から、その地域に対して規制上限として定められている一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度から導かれる熱発生率の勾配の基準値及びプレ噴射の噴射量を設定するものとしてもよい。この場合、条件設定部126のメモリに各地域に対する一酸化炭素(CO)及びスモークの排出量の上限値から決定される熱発生率の勾配の基準値及びプレ噴射の噴射量のマップを予め登録しておき、GPS130から得られる現在位置に相当する熱発生率の勾配の基準値を読み出せばよい。このとき、熱発生率の勾配が一定であったとしても、プレ噴射における噴射量によって一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度は増減する。そこで、一酸化炭素(CO)及びスモークの排出量が低減されるように、熱発生率の勾配の基準値と共にプレ噴射が最適な範囲内となるような噴射量も同時に設定される。
【0075】
また、プレ噴射の副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、燃料噴射量(噴射期間)及び燃料噴射タイミングの初期値を設定する。本実施の形態では、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)及び燃料噴射タイミングは固定値に設定し、燃料噴射量(噴射期間)は制御の最小値に設定される。ここでは、例えば、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)は150MPaとし、燃料噴射タイミングはクランク角度の上死点から20°前に設定することが好適である。また、燃料噴射量(噴射期間)の制御の最小値は例えば0に設定することが好適である。
【0076】
なお、主噴射の噴射条件の初期値も設定される。主噴射の噴射条件は、運航条件算出部128にて予め設定された主燃料及び副燃料の比率、燃料の性状(セタン価、発熱量)、排気温度目標値、効率の目標値、負荷条件等に基づいて設定される。例えば、主燃料及び副燃料の比率、燃料の性状(セタン価、CCAI、発熱量)、排気温度目標値、効率の目標値、負荷条件の組み合わせに対して主燃料の噴射量(噴射期間)、主燃料の噴射圧及びクランク角度に対する主噴射の噴射タイミングを予め定めた主噴射データベースを登録しておき、システム制御部114にて現在の主燃料及び副燃料の比率、燃料の性状(セタン価、CCAI、発熱量)、排気温度目標値、効率の目標値、負荷等の条件に対応する値を読み出して設定すればよい。これにより、設定された条件において主燃料の噴射が行われる。なお、これらの設定は後述の主燃料の噴射又は副燃料の第2の噴射の制御では変更してもよい。
【0077】
ステップS12では、プレ噴射の制御が行われる。プレ噴射の制御は、システム制御部114によって行われる。プレ噴射の制御としては、副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、燃料噴射量(噴射期間)及び燃料噴射タイミングの制御が挙げられる。本実施の形態では、副燃料の噴射圧力及び噴射タイミングは固定し、副燃料供給弁64を開いている期間(噴射期間)を制御し、燃料噴射量を変更するものとする。
【0078】
ここでは、システム制御部114は、副燃料の噴射量(噴射期間)を現在値より大きくする。具体的には、副燃料供給弁64を開いている期間(噴射期間)を現在値より予め定められた変更ステップ(指定変更量)分だけ大きくする等の処理とすればよい。噴射期間が短いと燃料の供給配管内の圧力が高くなるだけで実際に燃料が噴射されない状態となり、プレ噴射における一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度の低減効果が得られない。そこで、噴射期間を繰り返し大きくすることによって、燃料圧が燃料噴射弁26の開弁圧力以上になると初めて燃料が噴射され、これによって燃焼初期の熱発生率の勾配は急激に改善され、排ガス中の一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度を低減させることができる。このとき、副燃料が噴射される状態であるが、副燃料の噴射量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0079】
また、着火性の悪い燃料を使用している場合、着火が遅くなり、プレ噴射の噴射量のみの制御では十分に効果が得られない場合がある。このような場合、さらにプレ噴射の噴射タイミングを変更する制御を行うことが好適である。ここでは、システム制御部114は、噴射タイミングを現時点より早める制御を行う。具体的には、副燃料供給弁64を開くタイミングを現在値より予め定められた変更ステップ(指定クランク角度)分だけ早める等の処理とすればよい。これにより、一回のプレ噴射における副燃料の噴射による排ガス中の一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度をより低減させることができる。なお、プレ噴射の噴射タイミングを早める代りに、主噴射のタイミングを遅らせて、プレ噴射と主噴射との間隔を広げることによって同様の効果を得ることもできる。
【0080】
ステップS14では、現在のプレ噴射の制御条件下における熱発生率の勾配が取得される。熱発生率は圧力センサ102によって取得される気筒内圧から求めることができる。システム制御部114は、圧力センサ102から現在の気筒内圧を取得し、クランク角度の変化量(時間変化量)に対する熱発生率の変化量を熱発生率の勾配として算出する。
【0081】
ステップS16では、熱発生率の勾配が基準値以下であるか否かが判定される。システム制御部114は、ステップS14で算出された熱発生率の勾配がステップS10で設定された熱発生率の勾配の基準値以下であればプレ噴射の制御処理を終了し、そうでなければステップS12へ処理を戻し、ステップS12以降の処理を繰り返す。
【0082】
このようなプレ噴射の制御により、図10に示すように、内燃機関(ディーゼル機関10)の気筒内での燃焼の立ち上がりが滑らかになる。また、熱発生率の変化が緩やかになり、プレ噴射を行わない場合に比べて熱発生率の振動が低減する。これにより、一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度が低減される。特に、熱発生率の測定は排ガスの性状を測定するよりもデータの取得を迅速に行うことができ、熱発生率の勾配を用いることによりプレ噴射を迅速に制御することができる。
【0083】
なお、熱発生率の勾配を用いて制御することに代えて、排ガス中の一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度を直接監視して制御を行ってもよい。
【0084】
この場合、ステップS10では、運転操作盤120から操作者により少なくとも排ガス中の一酸化炭素(CO)及びスモークの上限値の排出量の上限値が設定される。また、GPS130により得られる現在位置から、その地域に対して規制上限として定められている一酸化炭素(CO)及びスモークの排出量の上限値を設定するものとしてもよい。この場合、条件設定部126のメモリに各地域に対する一酸化炭素(CO)及びスモークの排出量の上限値のマップを予め登録しておけばよい。ステップS14では、現在の一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度を取得する。排気中の一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度は、排気ガスセンサ104により測定され、エンジン状態推定部110を介してシステム制御部114へ入力される。ステップS16では、一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度が排出量の上限値以下であるか否かが判定される。システム制御部114は、ステップS14で取得された一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度がステップS10で設定された一酸化炭素(CO)及びスモークの排出量の上限値以下であればプレ噴射の制御処理を終了し、そうでなければステップS12へ処理を戻し、ステップS12以降の処理を繰り返す。
【0085】
また、予め燃料の着火性(例えばセタン価等)が判明している場合は、その性状に合わせて燃料噴射量や燃料噴射のタイミングを設定するようにしてもよい。例えば、着火性の良い燃料の場合はクランク角度の上死点から15°前にプレ噴射を行い、着火性がより悪い燃料の場合は上死点から25°前のプレ噴射を行う。また、主噴射のタイミングを変えてもよい。
【0086】
第1のアシスト噴射であるプレ噴射で初期燃焼の改善処理が終了すると、続いて、主燃料の噴射と副燃料の第2の噴射の制御が行われる。第2の噴射の制御は、主噴射の噴射開始時期以降であれば、主燃料の噴射による主燃料の燃焼期間で行ってもよいし、主燃料の燃焼期間後に副燃料の第2の噴射を行ってもよい。本実施の形態では、主燃料の噴射による燃焼期間中に第2の噴射を行って制御するものとして説明を行う。
【0087】
ステップS20では、初期設定が行われる。ここでは、運転操作盤120から操作者により少なくとも窒素酸化物(NOx)の排出量の上限値が設定される。また、GPS130により得られる現在位置から、その位置に対して規制上限として定められている窒素酸化物(NOx)の排出量の上限値を設定するものとしてもよい。
【0088】
ステップS22では、排気中の窒素酸化物(NOx)の濃度が取得される。排気中の窒素酸化物(NOx)の濃度は、排気ガスセンサ104により測定され、エンジン状態推定部110を介してシステム制御部114へ入力される。
【0089】
ステップS24では、窒素酸化物(NOx)の濃度が上限値を超えず、上限値に最も近づいたか否かを判定する。この判定処理は、システム制御部114において行われる。システム制御部114は、例えば、後述のステップS26において窒素酸化物(NOx)の濃度がステップS20で設定された上限値を超えたと判断され、さらにステップS28におけるプレ噴射の制御によって再び上限値以下となった場合に窒素酸化物(NOx)の濃度が上限値に最も近づいたと判定する。また、ステップS20で設定された上限値から所定の基準範囲分だけ小さい基準値を設定し、窒素酸化物(NOx)の濃度が基準値以上上限値以下となった場合に窒素酸化物(NOx)の濃度が上限値に最も近づいたと判定してもよい。
【0090】
窒素酸化物(NOx)の濃度が上限値を超えず、上限値に最も近づいたと判定された場合にはステップS32へ処理を移行させ、そうでない場合にはステップS26へ処理を移行させる。
【0091】
ステップS26では、窒素酸化物(NOx)の濃度が上限値を超えたか否かが判定される。システム制御部114は、窒素酸化物(NOx)の濃度が上限値を超えていればステップS28へ処理を移行させ、そうでなければステップS30へ処理を移行させる。
【0092】
ステップS28では、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の濃度を低減させるように主燃料の噴射の制御を行う。ここでは、システム制御部114は、主燃料の噴射タイミングを現在値より遅らせる。具体的には、燃料噴射弁26を開くタイミングを現在値より予め定められた変更ステップ(指定時間)分だけ遅くする。これにより、主燃料の噴射タイミングが遅れ、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の濃度を低減させることができる。
【0093】
ステップS30では、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の濃度を増加させるように主燃料の噴射の制御を行う。ここでは、システム制御部114は、主燃料の噴射タイミングを現在値より早める。具体的には、燃料噴射弁26を開くタイミングを現在値より予め定められた変更ステップ(指定時間)分だけ早くする。これにより、主燃料の噴射タイミングが早まり、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の濃度を増加させることができる。
【0094】
なお、主燃料の噴射タイミングの代りに、副燃料の第2の噴射の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量の少なくとも1つを制御するものとしてもよい。副燃料の第2の噴射の噴射圧(コモンレール圧)を制御する場合、ステップS28では第2の噴射の噴射圧を高くし、ステップS30では第2の噴射の噴射圧を低くする。副燃料の噴射タイミングを制御する場合、ステップS28ではタイミングを遅らせ、ステップS30ではタイミングを早める。副燃料の噴射量を制御する場合、ステップS28では副燃料の噴射量を増加し、ステップS30では副燃料の噴射量を低減させる。このとき、制御対象以外は適切な量において固定しておけばよい。
【0095】
ステップS24〜S30の処理を繰り返すことによって、上限値を超えず、上限値に最も近づいた窒素酸化物(NOx)の濃度となるように主燃料の噴射(又は副燃料の第2の噴射)が制御された状態となる。
【0096】
ステップS32では、窒素酸化物(NOx)の濃度を増加させない条件下において主燃料の噴射の制御が行われる。ここでは、システム制御部114は、主燃料の噴射タイミングを現在値より遅らせる。具体的には、燃料噴射弁26を開くタイミングを現在値より予め定められた変更ステップ(指定時間)分だけ遅くする。これにより、低負荷率でのエンジン運転等において燃費を向上させることができる可能性がある。
【0097】
ステップS34では、燃費のデータが取得される。出力センサ53cによりエンジンの出力値(パワー値)及び流量センサ106,108により燃料の噴射量(主燃料及び副燃料の噴射量)が測定され、システム制御部114へ入力される。システム制御部114は、燃料の噴射量に対するエンジンの出力値の割合(エンジンの出力値/燃料の噴射量)から熱効率を算出する。ここで、熱効率を算出する前の現在値Aを前回の熱効率の値A0に代入し、新たに算出された熱効率を現在値Aに代入する。
【0098】
ステップS36では、前回の判定時に比べて燃費(熱効率)が向上したか否かが判定される。システム制御部114は、前回の熱効率の値A0と現在の値Aとを比較し、現在値Aの方が大きければステップS32に処理を戻し、前回の熱効率の値A0の方が大きければ、前回の熱効率の値A0の状態となるように制御したうえで処理を終了する。このように、ステップS32〜S36の処理を繰り返すことにより、主燃料の噴射(又は副燃料の第2の噴射)の条件が最適化されて燃費(熱効率)が向上される。
【0099】
なお、ステップS32においても、主燃料の噴射タイミングの代りに、副燃料の第2の噴射の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量の少なくとも1つを制御するものとしてもよい。例えば、副燃料の第2の噴射の噴射圧を高くする、副燃料の噴射タイミングを遅らせる、副燃料の噴射量を増加する、のいずれかの処理を行えばよい。このとき、制御対象となる量以外は固定しておけばよい。
【0100】
このようにして、窒素酸化物(NOx)の濃度を基準値を超えない範囲で近づけた状態において燃費を最良化することができる。
【0101】
なお、ステップS20〜S30の処理において、窒素酸化物(NOx)の濃度の代りに最高筒内圧に基づいて制御を行うものとしてもよい。最高筒内圧は排ガス中の窒素酸化物(NOx)の濃度と相関関係があるので、圧力センサ102で取得できる最高筒内圧が上限値を超えず、上限値に最も近づく状態となるように主燃料の噴射(又は、副燃料の第2の噴射)を制御すればよい。例えば、排気ガスセンサ104が設けられていない場合等に有効である。また、窒素酸化物(NOx)の濃度を測定するためには時間が掛かるので、より測定に時間が掛からない最高筒内圧を用いることで制御の時間を短縮することができる。
【0102】
また、ステップS32〜S36の処理において、燃費の代りに排気温度に基づいて制御を行うものとしてもよい。排気温度は燃費と相関関係があるので、温度センサ53bで取得できる排気温度に基づいて主燃料の噴射(又は、副燃料の第2の噴射)を制御すればよい。例えば、出力センサ53cが設けられていない場合等に有効である。また、燃費を測定及び算出するためには時間が掛かるので、より測定に時間が掛からない排気温度を用いることで制御の時間を短縮することができる。
【0103】
<変形例>
上記処理におけるステップS20〜S36の代りに、以下のようにディーゼル機関10の筒内圧を目標の波形に近づける処理としてもよい。本実施の形態における変形例について図9のフローチャートを参照して説明する。
【0104】
ステップS40では、ディーゼル機関10の筒内圧の目標波形が設定される。目標波形は、ディーゼル機関10のクランク角度に対する筒内圧の変化として設定される。本変形例において、目標波形は、ディーゼル機関10の排気ガス中の窒化酸化物(NOx)を基準値以下にしつつ、燃費(燃料の噴射量/エンジンの出力値)を最良とする運転モード(エコモード)に応じて設定されるものとする。目標波形は、ディーゼル機関10が搭載される船舶等の運転状況(船舶の種類、負荷、運転地域等)に応じて予め定められ、運転条件算出部128のメモリ等に登録しておけばよい。システム制御部114は、運転状況に応じた目標波形を読み出して設定する。
【0105】
ステップS42では、所定のクランク角度におけるディーゼル機関10の現在の筒内圧を測定して取得する。ディーゼル機関10の筒内圧は、圧力センサ102により測定することができる。システム制御部114は、ディーゼル機関10の所定のクランク角度における現在のディーゼル機関10の筒内圧を圧力センサ102から取得する。
【0106】
ここで、所定のクランク角度は、主燃料の燃焼期間における任意のクランク角度であればよい。特に、所定のクランク角度は、主燃料の燃焼期間において筒内圧が最高となるクランク角度とすることが好適である。すなわち、主燃料の燃焼期間において筒内圧が最高となるクランク角度においてディーゼル機関10の筒内圧の現在値を取得することが好適である。または、少なくとも主燃料の燃焼期間に亘ってディーゼル機関10の筒内圧を測定しておき、その中から最高筒内圧を抽出してもよい。
【0107】
ステップS44では、ステップS42で測定されたディーゼル機関10の現在の筒内圧が目標波形における値から所定の基準範囲内にあるか、基準範囲より大きいか小さいかが判定される。システム制御部114は、ステップS42の所定のクランク角度における目標波形における筒内圧を中心値として、その上下に所定の圧力範囲を設定し、その範囲を所定の基準範囲とする。そして、システム制御部114は、ステップS42で測定されたディーゼル機関10の現在の筒内圧が設定した基準範囲より大きければステップS46へ処理を移行させ、小さければステップS48へ処理を移行させる。また、基準範囲内にあれば処理を終了させる。
【0108】
ステップS46では、現時点より筒内圧を低下させるように主燃料の噴射の制御が行われる。ここでは、システム制御部114は、主燃料の噴射タイミングを変更する処理が行われる。具体的には、燃料噴射弁26を開くタイミングを現在値より予め定められた変更ステップ(指定時間)分だけ遅くする。
【0109】
ステップS48では、現時点より筒内圧を増加させるように主燃料の噴射の制御が行われる。ここでは、システム制御部114は、主燃料の噴射タイミングを変更する処理が行われる。具体的には、燃料噴射弁26を開くタイミングを現在値より予め定められた変更ステップ(指定時間)分だけ進める。
【0110】
なお、主燃料の噴射タイミングの代りに、副燃料の第2の噴射の噴射圧(コモンレール圧)、副燃料の噴射タイミング及び副燃料の噴射量の少なくとも1つを制御するものとしてもよい。副燃料の第2の噴射の噴射圧(コモンレール圧)を制御する場合、ステップS46では第2の噴射の噴射圧を高くし、ステップS48では第2の噴射の噴射圧を低くする。副燃料の噴射タイミングを制御する場合、ステップS46ではタイミングを遅らせ、ステップS48ではタイミングを早める。副燃料の噴射量を制御する場合、ステップS46では副燃料の噴射量を増加し、ステップS48では副燃料の噴射量を低減させる。このとき、制御対象以外は適切な量において固定しておけばよい。
【0111】
このようにして、ステップS42において測定されたディーゼル機関10の現在の筒内圧が目標波形における値から所定の基準範囲内となるまでステップS42〜S48の処理が繰り返される。
【0112】
図11は、上記処理を行った具体例を示す。図11のスタートの波形から主噴射の噴射タイミングを変更する。このとき、目標波形が最大筒内圧となるクランク角度における筒内圧を測定し、その筒内圧が目標波形の最大筒内圧に近づくようにステップ1からステップ3へと徐々に主噴射の噴射タイミングを変更する。これにより、窒素酸化物(NOx)の濃度を基準値に近づけた状態において燃費を最良化することができる。
【0113】
なお、本実施の形態では、燃費を重視する設定(エコモード)における主燃料及び副燃料の噴射の制御について説明したが、環境を重視する設定(環境モード)においても同様に制御を行うことができる。環境を重視する設定(環境モード)では、燃費を所定値以下になるような条件で、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を最小となるように主燃料(又は副燃料の第2の噴射)を制御すればよい。また、環境を重視する設定(環境モード)に適した筒内圧の目標波形を設定し、その目標波形に近づけるように主燃料(又は副燃料の第2の噴射)を制御すればよい。
【0114】
また、副燃料をプレ噴射する際には、主燃料の噴射前に副燃料を噴射するタイミングを主燃料の噴射時のクランク角度に対して所定範囲内に設定するとよい。すなわち、副燃料をプレ噴射する際に主燃料の噴射に対応するクランク角度に対して所定範囲内に設定することによって、内燃機関のノッキングを抑制することができ、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク及び全炭化水素(THC)等の濃度を抑制することができる。これらにより、ノッキング振動の抑制による聴感的な騒音の低減やスモークの抑制による視覚的な黒煙の低減等が図れる。
【0115】
ここで、副燃料を噴射するタイミングは、副燃料の着火限界のクランク角度から主燃料の噴射時のクランク角度の範囲とするとよい。着火限界のクランク角度を超え副燃料の噴射を早く行い過ぎると筒内圧が不足して着火しなかったり、着火しても主燃料の着火前に燃え尽きたりしてしまう。一般的なディーゼル機関では、クランク角度の上死点を0°(360°)としてクランク角度が−25°から主燃料の噴射時のクランク角度までの範囲で副燃料を噴射するとさらによい。すなわち、クランク角度が上死点に到達する25°前から主燃料を噴射するまでの間に副燃料をプレ噴射するとよい。所定範囲は、例えば、クランク角度において上死点に対して−25°から−15°までの範囲である。
【0116】
図12は、副燃料のプレ噴射のタイミング(クランク角度)と窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の排出濃度との関係を解析した結果を示す。図12の横軸は上死点を0°(360°)として副燃料のプレ噴射のタイミングをクランク角度で示し、縦軸は窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の排出濃度を示す。また、図12において、棒グラフが窒素酸化物(NOx)及び折れ線グラフが一酸化炭素(CO)の排出濃度を示す。副燃料のプレ噴射のタイミングは上死点前40°(−40°と示す)から上死点前10°(−10°と示す)までの範囲とした。また、解析に使用した燃料はセタン価30とし、エンジン負荷率は25%とした。また、以下の説明では、主燃料の噴射のタイミングは上死点前10°(−10°と示す)とした。
【0117】
図12から、副燃料のプレ噴射のタイミングを上死点から−30°から−15°と−10°との間とすることが好ましいが、上死点から−25°から−15°とすることによって、窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の排出を抑制することができることがわかる。
【0118】
図13〜図16は、副燃料のプレ噴射のクランク角度に対する筒内圧、燃料噴射圧及び熱発生率の変化を示す。図13(a)及び(b)は、それぞれ副燃料のプレ噴射をしなかった場合及びクランク角度−10°でした場合の結果を示す。図14(a)及び(b)は、それぞれ副燃料のプレ噴射をクランク角度−15°及び−20°でした場合の結果を示す。図15(a)及び(b)は、それぞれ副燃料のプレ噴射をクランク角度−25°及び−30°でした場合の結果を示す。図16(a)及び(b)は、それぞれ副燃料のプレ噴射をクランク角度−35°及び−40°でした場合の結果を示す。
【0119】
副燃料のプレ噴射のクランク角度が早くなるにつれて、燃料噴射圧の上昇のタイミングも早くなる。また、副燃料のプレ噴射をクランク角度で−25°から−15°の範囲で行った場合には上死点(0°)付近において熱発生率の急激な上昇がみられない。一方、副燃料のプレ噴射を行わなかった場合、副燃料のプレ噴射をクランク角度で−10°で行った場合及び−35°と−45°で行った場合では、上死点(0°)付近において熱発生率の急激な上昇がみられた。熱発生率の急激な上昇は、これらの結果から−10°と−15°との間、また−30°を超えたクランク角度で発生するものと推定されるが、熱発生率の急激な上昇は内燃機関のノッキングを招くので、副燃料のプレ噴射はクランク角度で−25°から−15°の範囲で行うことが好ましい。
【0120】
また、図17は、燃料としてC重油を用いた場合の副燃料のプレ噴射のクランク角度と窒素酸化物(NOx)及び全炭化水素(THC)の排出濃度との関係を示す。図17の横軸は上死点を0°(360°)として副燃料のプレ噴射のタイミングをクランク角度で示し、縦軸は窒素酸化物(NOx)及び全炭化水素(THC)の排出濃度を示す。また、図17において、棒グラフが窒素酸化物(NOx)及び折れ線グラフが全炭化水素(THC)の排出濃度を示す。また、図18は、菜種油50%及びA重油50%の混合油を用いた場合の副燃料のプレ噴射のクランク角度(プレ噴射のタイミング)と窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の排出濃度との関係を示す。図18の横軸は上死点を0°(360°)として副燃料のプレ噴射のタイミングをクランク角度で示し、縦軸は窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の排出濃度を示す。また、図18において、棒グラフが窒素酸化物(NOx)及び折れ線グラフが一酸化炭素(CO)の排出濃度を示す。
【0121】
図17及び図18に示されるように、副燃料のプレ噴射をクランク角度で−25°から−10°の範囲、特に−25°から−15°の範囲において窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク及び全炭化水素(THC)等の排出濃度を抑制することができる。
【0122】
次に、図19のフローチャートに沿って内燃機関の運転開始の初期において、副燃料の噴射量及び噴射のタイミング(プレ噴射クランク角度)の最適化処理について説明する。
【0123】
ステップS50では、初期設定が行われる。初期設定は、上記ステップS10と同様に行うことができる。すなわち、運転操作盤120から操作者により少なくとも熱発生率の勾配の基準値及びプレ噴射の噴射量及び噴射タイミングの初期値が設定される。また、プレ噴射の副燃料の噴射圧(コモンレール圧)、主噴射の噴射条件の初期値も設定される。ステップS52では、副燃料のプレ噴射の噴射量の調整処理を開始する。ここでは、副燃料のプレ噴射のタイミングをクランク角度で−25°から−15°の範囲内、例えば−20°に固定し、副燃料の噴射量を所定のステップで増加させる。ステップS54では、熱発生率の勾配を取得する。これは、上記ステップS14と同様に行うことができる。ステップS56では、熱発生率の勾配が基準値以下であるか否かが判定される。システム制御部114は、ステップS54で算出された熱発生率の勾配がステップS50で設定された熱発生率の勾配の基準値以下であればプレ噴射の噴射量の調整処理を終了し、そうでなければステップS52へ処理を戻し、ステップS52以降の処理を繰り返す。このようにして、まず副燃料のプレ噴射に適した噴射量を決定する。
【0124】
ステップS58では、副燃料のプレ噴射のタイミングの調整処理を開始する。ここでは、副燃料のプレ噴射の噴射量をステップS56までの処理で決定した値に設定し、副燃料の噴射のタイミングを所定のステップで遅らせる(上死点に近づける)。このとき、副燃料のプレ噴射のタイミングは上死点から−25°から−15°の範囲で変化させる。ステップS60では、熱発生率の勾配を取得する。これは、上記ステップS14と同様に行うことができる。ステップS62では、熱発生率の勾配が基準値以下であるか否かが判定される。システム制御部114は、ステップS60で算出された熱発生率の勾配がステップS50で設定された熱発生率の勾配の基準値以下であればステップS58へ処理を戻し、ステップS58以降の処理を繰り返し、そうでなければステップS64へ処理を移行させる。ステップS64では、プレ噴射のタイミングを1つ前のステップの値に戻す。このようにして、熱発生率の勾配が基準値以下となるタイミングであって、できるだけ上死点に近い副燃料のプレ噴射のタイミングに決定する。以上のように、副燃料のプレ噴射の噴射量及び噴射のタイミングを設定することができる。
【0125】
なお、副燃料のプレ噴射の噴射量及び噴射のタイミングを決定する処理は上記処理に限定されるものでない。
【0126】
副燃料のプレ噴射は内燃機関の負荷に応じて行ったり、停止させたりしてもよい。図20は、内燃機関の負荷に対する窒素酸化物(NOx)の排出濃度の変化を示す。図21は、内燃機関の負荷に対するスモークの排出濃度の変化を示す。図22は、内燃機関の負荷に対する一酸化炭素(CO)の排出濃度の変化を示す。図20〜図22において、黒丸が副燃料のプレ噴射無し、白抜き丸が副燃料のプレ噴射有りを示す。
【0127】
なお、使用した内燃機関(エンジン)は、船用中速4ストロークディーゼル機関(3気筒、過給機付、最大出力257.4kW/420rpm、ボア×ストローク:230mm×380mm、圧縮比13:松井鉄工所製)である。また、燃料はLCO(分解軽質軽油)を用いた。副燃料のプレ噴射は上死点前20°(−20°)で行った。
【0128】
図20〜図22に示されるように、内燃機関の負荷率が75%以上となると窒素酸化物(NOx)及び一酸化炭素(CO)の排出濃度はプレ噴射を行わない方が低くなり、スモークの排出濃度はプレ噴射を行った場合とほぼ変わりがなくなる。すなわち、内燃機関の負荷率が75%未満では、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)及びスモークの排出濃度の低減効果があり、特に負荷率が50%以下では低減効果が顕著となる。そこで、内燃機関の負荷率が75%未満では副燃料のプレ噴射を実行し、それ以下ではプレ噴射を実行しないようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0129】
以上の実施形態においては、船舶用のディーゼル機関に関連して説明したが、他の移動体、例えば鉄道車両、自動車等の内燃機関についても本発明を適用することができる。また、ディーゼル機関以外の間欠燃焼を行う機関(直噴式のオットー機関等)についても適用することができる。さらに、陸上に設置される発電システム等においても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0130】
10 ディーゼル機関、26 燃料噴射弁、48 燃料供給系、50 機械式燃料噴射ポンプ、51 逆止弁、53 インジケータコック、53a 管路、102 圧力センサ、60 コモンレール、63 逆止弁、64 副燃料供給弁、65 合流部、104 排気ガスセンサ、110 エンジン状態推定部、112 運転条件設定部、114 システム制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、
主燃料を噴射する主燃料噴射手段と、
副燃料を噴射する副燃料噴射手段と、
前記主燃料の噴射前に前記副燃料を噴射すると共に、前記副燃料の噴射の初期燃焼の変化に基づき前記副燃料噴射手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射装置であって、
前記制御手段は、前記初期燃焼の変化に基づいて前記副燃料の噴射条件を制御することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料噴射装置であって、
前記気筒内の圧力を測定する圧力測定手段を備え、
前記制御手段は、前記初期燃焼の変化を前記圧力測定手段によって測定された前記気筒内の圧力を基に得られた熱発生率の立ち上がり勾配に基づいて定めることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記制御手段は、前記主燃料の噴射前に前記副燃料を噴射するタイミングを前記主燃料の噴射時のクランク角度に対して所定範囲内とすることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料噴射装置であって、
前記副燃料を噴射するタイミングは、前記クランク角度において、前記副燃料の着火限界から前記主燃料の噴射時までの範囲であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の燃料噴射装置であって、
前記内燃機関の運転開始の初期において、前記制御手段は、前記副燃料の噴射量の最適化処理を行うことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記内燃機関の運転開始の初期において、前記制御手段は、前記副燃料を噴射するクランク角度の最適化処理を行うことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記所定範囲は、前記クランク角度において上死点に対して−25度から−15度までの範囲であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項9】
内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、
主燃料を噴射する主燃料噴射手段と、
副燃料を噴射する副燃料噴射手段と、
前記内燃機関の排ガス中の窒素酸化物の濃度を計測する窒素酸化物濃度計測手段と、
前記排ガス中の窒素酸化物濃度が窒素酸化物濃度限界値以下となるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項10】
内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、
主燃料を噴射する主燃料噴射手段と、
副燃料を噴射する副燃料噴射手段と、
前記気筒内の圧力を計測する気筒内圧力計測手段と、
前記気筒内圧力が気筒内圧力目標値となるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料噴射装置であって、
前記制御手段は、前記気筒内圧力の最高気筒内圧力を前記気筒内圧力目標値に近づけるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料噴射装置であって、
前記制御手段は、前記気筒内圧力と前記内燃機関のクランク角度との関係において、所定のクランク角度における前記気筒内圧力が前記気筒内圧力目標値に最も近づくように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項13】
請求項12に記載の燃料噴射装置であって、
前記所定のクランク角度は、前記気筒内圧力目標値の最高気筒内圧力値におけるクランク角度であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記内燃機関の燃料消費量を計測する燃料消費量計測手段と、
前記内燃機関の出力を導出する出力導出手段と、
をさらに備え、
前記燃料消費量と前記出力との関係に基づいて前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記内燃機関の排ガスの温度を計測する排ガス温度計測手段と、
をさらに備え、
前記排ガスの温度が最低となるように前記主燃料噴射手段又は前記副燃料噴射手段を制御することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項16】
請求項9〜15にいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記主燃料噴射手段による前記主燃料の噴射開始以降に前記副燃料噴射手段による前記副燃料の噴射を行うことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料噴射装置と、請求項9〜16のいずれか1項に記載の燃料噴射装置と、を組み合わせたことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項18】
請求項16に記載の燃料噴射装置であって、
前記主燃料の噴射圧力と、前記副燃料の噴射圧力と、を異ならせたことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記主燃料及び前記副燃料は、セタン価が45以下又はCCAIが810以上の燃料であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記内燃機関は、ディーゼル機関であり、
前記主燃料噴射手段は、機械的制御により前記主燃料を噴射し、
前記副燃料噴射手段は、加圧された燃料を蓄えるコモンレールを含む蓄圧部を有し、電気的制御により前記副燃料を噴射することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の燃料噴射装置を搭載した陸舶産業用内燃機関。
【請求項22】
請求項21に記載の陸舶産業用内燃機関であって、
前記陸舶産業用内燃機関の低負荷時に前記副燃料を噴射することを特徴とする陸舶産業用内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−36462(P2013−36462A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153829(P2012−153829)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 『ディーゼルエンジンへのバイオ燃料利用に関するセミナー 講演集』、発行者:独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構、学校法人 明治大学、独立行政法人 海上技術安全研究所、発行日:2011年1月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 委託研究:「マルチ燃料対応舶用機関制御に関する研究」 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】