説明

多関節ロボットの制御方法

【課題】 複数の軸が高速で同時に動作する場合や急激な加減速を行う場合など、他の軸の動作から受ける反力を無視できないような動作態様においても、軸の回転方向以外の発生モーメントが過大になることなく、回転軸を支えている軸受の破損及び寿命低下を防止することができるような多関節ロボットの制御方法を提供する。
【解決手段】 まず軸受の回転方向のモーメントが軸受の許容モーメントを超えないように考慮した許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度を算出し、次いで軸受の回転方向以外のモーメントが軸受の許容モーメントよりも大きい場合にのみ回転方向以外のモーメントが加味された低減率を算出し、最後にこの低減率に基づいて前述の許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度を補正する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】複数の駆動軸を有する多関節ロボットの制御方法に関し、特に、動作中の多関節ロボットの各軸の軸受に加わるモーメントが他の軸の動作の影響により許容値を超えるような構造を有する多関節ロボットの制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】複数の駆動軸を有する多関節ロボットにおいては、動作中の多関節ロボットの各軸の軸受に加わるモーメントが、他の軸の動作の影響により、許容値を超えるような状況が発生する。図を参照して説明すると、図3に見られるような複数の駆動軸を有する多関節ロボットにおいて、例えば第2関節が動作Aのように動いた場合、その動作による反力が第2関節を支えている第1関節に加わり、これによって第1関節に生じた反力により第1関節を支えている軸受に対してモーメントが加わるという状況になる。そして、このモーメント(以下「反力によるモーメント」と記す)の大きさが軸受の許容モーメントを超えると、軸受の寿命が短くなったり、最悪の場合は軸受の破損を招くことになる。そのため、多関節ロボットにおける指令値軌跡の生成においては、反力によるモーメントが軸受の許容モーメントを超えないように注意する必要がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前述の反力によるモーメントについて、これは軸受の回転方向のモーメントと回転方向以外のモーメントの2つの成分を含んでいるが、このうち軸受の回転方向のモーメントが軸受の許容モーメントを超えないようにする技術については、既に幾つかの文献で開示されている。しかし、軸受の回転方向以外のモーメントについても考慮した技術については開示されておらず、よって、前述の動作Aにより軸受の回転方向以外のモーメントが大きくなるような場合は、反力によるモーメントとしては軸受の許容モーメントを超えることも考えられる。
【0004】本発明は、前述の従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、複数の軸が高速で同時に動作する場合や急激な加減速を行う場合など、他の軸の動作から受ける反力を無視できないような動作態様においても、軸の回転方向以外の発生モーメントが過大になることなく、回転軸を支えている軸受の破損及び寿命低下を防止することができるような多関節ロボットの制御方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】前述の目的を達成するために、本発明では、以下の方法により多関節ロボットを制御するようにした。
【0006】まず、多関節ロボットの各軸の回転方向の許容トルク及び質点モデルに基づいて許容最大加速度αimax0 、許容最大減速度dimax0 、及び許容最大速度vimax0 を各軸それぞれについて算出する。そして、これら許容最大加速度αimax0 、許容最大減速度dimax0 、及び許容最大速度vimax0 に基づいて、動作開始教示点θistart、動作終了教示点θiend、及びその中間位置θihalf のそれぞれについて、多関節ロボットの各軸の軸受に加わる、他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNistart、Niend、及びNihalf を算出し、さらに多関節ロボットの各軸の軸受に加わる、重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgistart、Ngiend、及びNgihalf を算出する。
【0007】次いで、前記動作開始教示点θistartにおける回転方向以外のモーメントNistartが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、この許容モーメントNimax、前記他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNistart、及び前記重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgistartより、許容加速度低減率ξistartを算出し、この許容加速度低減率ξistartを前記許容最大加速度αimax0 に乗じることにより補正された許容最大加速度αimax1 を算出する。
【0008】また、前記動作終了教示点θiendにおける回転方向以外のモーメントNiendが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、この許容モーメントNimax、前記他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNiend、及び前記重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgiendより、許容減速度低減率ξiendを算出し、この許容減速度低減率ξiendを前記許容最大減速度dimax0に乗じることにより補正された許容最大減速度dimax1 を算出する。
【0009】さらに、前記中間位置θihalf における回転方向以外のモーメントNihalf が軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、この許容モーメントNimax、前記他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNihalf 、及び前記重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgihalf より、許容速度低減率ξihalf を算出し、この許容速度低減率ξihalf の平方根を前記許容最大速度vimax0 に乗じることにより補正された許容最大速度vimax1 を算出する。
【0010】最後に、以上の処理により求められた許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 に基づいて多関節ロボットの各軸の指令値軌跡を生成する。
【0011】以下、上記の構成の補足説明を行う。前述したように、反力によるモーメントは、軸受の回転方向のモーメントと回転方向以外のモーメントの2つの成分を含んでいる。本発明では、まず軸受の回転方向のモーメントが軸受の許容モーメントを超えないように考慮した許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度を算出し、次いで軸受の回転方向以外のモーメントが軸受の許容モーメントよりも大きい場合にのみ回転方向以外のモーメントが加味された低減率を算出し、最後にこの低減率に基づいて許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度を補正するようにしている。よって、軸受の回転方向以外のモーメントが軸受の許容モーメントよりも小さい場合には、許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度は補正されない。
【0012】係る構成としたことにより、補正された許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 のそれぞれは、軸受の回転方向以外のモーメントから算出された低減率ξistart、ξiend、及びξihalf を利用して求められたことになる。そして、これら補正された許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 を多関節ロボットの各軸の指令値軌跡を生成する際に利用することにより、各軸受はその回転方向以外のモーメントが許容値以下に抑制されることになる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。図2は、本発明における多関節ロボットの制御方法を実施するためのシステムの一例を示すブロック図である。図中、1はロボット本体、2はサーボアンプ、3は指令位置発生装置、4は目標位置発生装置、5は許容値の計算装置である。目標位置発生装置4は、メモリーに記録された位置または計算により求められた位置を、ロボットが到達すべき目標位置として指令位置発生装置3へ出力する。指令位置発生装置3は、目標位置、指定速度、現在位置、及び許容値の計算装置5で算出された許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1などから、ロボットが適正に動作するための時々刻々の各軸の指令位置θi を算出し、これをサーボアンプ2へ出力する。
【0014】許容値の計算装置5は、本発明において算出される許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 の計算装置である。指令位置発生装置3の出力である指令位置θi 、各軸の角速度ωi 、減速機の許容トルクTg 、駆動軸モータの発生トルク限界Tm 、及び支持軸受の回転方向以外の許容モーメントNimaxを入力し、それらから許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 を算出し、指令位置発生装置3へ出力する。サーボアンプ2は、指令位置発生装置3からの指令位置θi の入力を受け、ロボット本体1を動作させるための動作指令を出力する。ロボット本体1には図示しない駆動軸モータ、エンコーダ、減速機等が取り付けられており、これらはサーボル−プを構成している。
【0015】図1は、前述の許容値の計算装置5において行われる、許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 の算出処理の流れを示すフローチャートである。まず、許容値の計算装置5は指令位置発生装置3からロボットが適正に動作するための各軸の指令位置θi を受け取る(ステップ11)。この指令位置θi から、軸受の回転方向のモーメントが軸受の許容モーメントを超えないように考慮した許容最大加速度αimax0 、許容最大減速度dimax0、及び許容最大速度vimax0 を算出する(ステップ12)。
【0016】そして、このステップ12において算出された許容最大加速度αimax0 、許容最大減速度dimax0 、及び許容最大速度vimax0 に基づいて、動作開始教示点θistart、動作終了教示点θiend、及びその中間位置θihalf のそれぞれについて、多関節ロボットの各軸の軸受に加わる、他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNistart、Niend、及びNihalf を算出し、さらに多関節ロボットの各軸の軸受に加わる、重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgistart、Ngiend、及びNgihalf を算出する(ステップ13〜15)。なお、これらのモーメントについては、ニュートン−オイラー法などの公知の算出方法を用いてロボット各軸の発生トルクを計算することにより容易に求めることができるが、その詳細な内容は本発明の要旨ではないので、その説明は省略する。
【0017】次に、前述の動作開始教示点θistartにおける回転方向以外のモーメントNistartが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、この許容モーメントNimax、ステップ13において求められた他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNistart、及び重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgistartより、式(1)に基づいて許容加速度低減率ξistartを算出する(ステップ16)。
【0018】
【数1】


【0019】この式(1)により求められた許容加速度低減率ξistartをステップ12において求められた許容最大加速度αimax0 に乗じることにより、補正された許容最大加速度αimax1 を算出する(ステップ19)。
【0020】また、前述の動作終了教示点θiendにおける回転方向以外のモーメントNiendが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、この許容モーメントNimax、ステップ14において求められた他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNiend、及び重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgiendより、式(2)に基づいて許容減速度低減率ξiendを算出する(ステップ17)。
【0021】
【数2】


【0022】この式(2)により求められた許容減速度低減率ξiendをステップ12において求められた許容最大減速度dimax0 に乗じることにより、補正された許容最大減速度dimax1 を算出する(ステップ20)。
【0023】さらに、前述の中間位置θihalf における回転方向以外のモーメントNihalfが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、この許容モーメントNimax、ステップ15において求められた他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNihalf 、及び重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgihalf より、式(3)に基づいて許容速度低減率ξihalf を算出する(ステップ18)。
【0024】
【数3】


【0025】この式(3)により求められた許容速度低減率ξihalf の平方根をステップ12において求められた許容最大速度vimax0 に乗じることにより、補正された許容最大速度vimax1 を算出する(ステップ21)。
【0026】最後に、ステップ19〜21において求められた許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 に基づいて、多関節ロボットの各軸の指令値軌跡を生成する(ステップ22)。具体的には、この許容値の計算装置5において算出された許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1、及び許容最大速度vimax1 の各値を、指令位置発生装置3へ出力することになる。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、補正された許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度のそれぞれは、軸受の回転方向以外のモーメントから算出された低減率を利用して求められているので、これら補正された許容最大加速度、許容最大減速度、及び許容最大速度を多関節ロボットの各軸の指令値軌跡を生成する際に利用することにより、各軸受はその回転方向以外のモーメントが許容値以下に抑制されることとなった。そのため、複数の軸が高速で同時に動作する場合や急激な加減速を行う場合など、他の軸の動作から受ける反力を無視できないような動作態様においても、軸の回転方向以外の発生モーメントが過大になることなく、回転軸を支えている軸受の破損及び寿命低下を防止することができるものとなった。また、本発明は、従来の制御方法、すなわち軸受の回転方向のモーメントが軸受の許容モーメントを超えないように制御する方法に適用されていた制御装置をそのまま利用できるので、従来の制御装置への追加や改造が容易に行えるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】許容値の計算装置5内において行われる許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 の算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図2】本発明における多関節ロボットの制御方法が適用されるシステムの一例を示すブロック図である。
【図3】複数の駆動軸を有する多関節ロボットにおける、他の軸より受ける反力について模式的に示した図である。
【符号の説明】
1 ロボット本体
2 サーボアンプ
3 指令位置発生装置
4 目標位置発生装置
5 許容値の計算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】動作中の多関節ロボットの各軸が他の軸の動作から受ける力すなわち反力の影響を受けるように構成されている多関節ロボットにおいて、多関節ロボットの各軸の回転方向の許容トルク及び質点モデルに基づいて許容最大加速度αimax0 、許容最大減速度dimax0 、及び許容最大速度vimax0 を各軸それぞれについて算出し、該許容最大加速度αimax0 、許容最大減速度dimax0 、及び許容最大速度vimax0 に基づいて、動作開始教示点θistart、動作終了教示点θiend、及びその中間位置θihalf のそれぞれについて、多関節ロボットの各軸の軸受に加わる、他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNistart、Niend、及びNihalf を算出し、さらに多関節ロボットの各軸の軸受に加わる、重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgistart、Ngiend、及びNgihalf を算出し、前記動作開始教示点θistartにおける回転方向以外のモーメントNistartが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、該許容モーメントNimax、前記他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNistart、及び前記重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgistartより、許容加速度低減率ξistartを算出し、該許容加速度低減率ξistartを前記許容最大加速度αimax0 に乗じることにより補正された許容最大加速度αimax1 を算出し、前記動作終了教示点θiendにおける回転方向以外のモーメントNiendが軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、該許容モーメントNimax、前記他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNiend、及び前記重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgiendより、許容減速度低減率ξiendを算出し、該許容減速度低減率ξiendを前記許容最大減速度dimax0 に乗じることにより補正された許容最大減速度dimax1 を算出し、前記中間位置θihalf における回転方向以外のモーメントNihalf が軸受の許容モーメントNimaxよりも大きい場合は、該許容モーメントNimax、前記他の軸の動作により生ずる回転方向以外のモーメントNihalf 、及び前記重力加速度gにより生ずる回転方向以外のモーメントNgihalf より、許容速度低減率ξihalf を算出し、該許容速度低減率ξihalf の平方根を前記許容最大速度vimax0 に乗じることにより補正された許容最大速度vimax1 を算出し、以上の処理により求められた前記補正された許容最大加速度αimax1 、許容最大減速度dimax1 、及び許容最大速度vimax1 に基づいて多関節ロボットの各軸の指令値軌跡を生成するようにしたことを特徴とする多関節ロボットの制御方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2002−59382(P2002−59382A)
【公開日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−248787(P2000−248787)
【出願日】平成12年8月18日(2000.8.18)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】