説明

太陽光励起のレーザー発振装置

【課題】太陽光によって動作する高効率・小型の固体レーザー発振装置を提供する。
【解決手段】太陽光励起用レーザー発振装置は、太陽光Sを集光するレンズ1、並びに太陽光を導光する光ガイド2、さらにレーザーキャビティ3で構成されていること特徴とする。これらの構成要素が具備する耐候性、耐光性、高反射性、高透過性、高集光性等の特性を生かして各構成要素の形状を設計し、組み合わせることによって従来技術では実現できなかったCO発生が非常に少なく、高効率・小型の太陽光励起のレーザー発振装置の実現が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属やプラスチックなどの加工、或いは酸化物材料を高温に加熱して還元することによって金属を精製するために利用するものである。
【背景技術】
【0002】
YAG(YAl12)単結晶にNd3+イオンを1at.%程度添加したレーザー媒質(Nd:YAG)でレーザー光を発生する固体のYAGレーザーは、産業界においては必要不可欠になっている。このYAGレーザーの励起光源には、KrアークランプやXeフラッシュランプなどのランプ光源、或いは半導体レーザー(LD)が使用されている。このYAGレーザーで数百W以上の高出力を得るための励起効率は、ランプ光源による場合は最大で5%程度、LDでは共鳴吸収を利用しているために高効率ではあるが、最大で30%程度である。したがって、YAGレーザーから出力1kWを発生させるためにはランプへの電気入力は20kW、LDにたいしては3.3kWが必要となる。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような励起法によってYAGレーザーを発振させるには、大入力の電気エネルギーを必要とする。地球環境問題を解決するためには、電気を使わない自然エネルギーによってレーザー発振を達成するのが理想的である。
【0004】
本発明はこのような問題点を解決しようとするもので、自然エネルギーの代表である太陽光励起によって発振する固体のYAGレーザーの発振装置を提供するものである。太陽光のエネルギーは1kW/m2であり、国内における平均日照時間は約4時間/日であるが、世界を見渡すと日照時間8時間/日の地域は広範囲にわたっている。このため、太陽光を励起光源とするレーザーの実用化は非常に有望視されている。レーザー出力1kWを発生させるには、励起効率を25%と仮定した場合には4kWの太陽光が必要となる。そこで集光用のフレネルレンズの面積は4mを必要とするので、大面積のフレネルレンズの製作技術が課題となる。また、太陽光のスペクトルは300nm〜近赤外の波長域までと広範囲な波長域にわたっており、Nd:YAGレーザーの発光源であるNdイオンの吸収域は500〜850nmであり、この波長域のスペクトル強度は非常に大きいので励起用光源としては優れているが、Ndイオンの吸収に余り寄与しない波長域400〜550nmの光を有効に活用する課題が残されている。さらに、フレネルレンズで集光した太陽光を高効率でレーザーキャビティへガイドする方法も課題として残されている。レーザー媒質に関しても、励起用の太陽光によるレーザー媒質の加熱によって生じる熱レンズ効果や熱複屈折の問題点も残されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係わる発明は、プラスチック、またはガラス材料で製作されたフレネルレンズで太陽光を集光して、YAGレーザーを発振させることを特徴とし、請求項2に係わる発明は、太陽光集光用のフレネルレンズの両面に、斜入射光に対しても反射損失の少ない反射防止膜をコーティングし、レーザー媒質へ入射する太陽光が最大となることを特徴とし、請求項3に係わる発明は、フレネルレンズの加工面を深紫外光によって表面処理し、入射する太陽光の散乱損失を最小とすることを特徴とし、請求項4に係わる発明は、分割方式のフレネルレンズによって大口径のレンズを形成し、大出力の太陽光を集光することを特徴とするものである。
【0006】
請求項5は、レンズ材料に波長400〜550nmの太陽光を吸収して、Ndイオンの吸収波長域570〜600nmで発光する色素―ローダミン6G、或いは400〜700nmの波長域の太陽光を吸収して、Ndイオンの吸収波長域790〜820nmで発光する色素―DOTCIを添加してレーザーの発振効率を高めることを特徴とし、請求項6に係わる発明は、フレネルレンズで集光された太陽光を高効率でレーザーキャビティへガイドするための光ガイドを有することを特徴とし、請求項7に係わる発明は、レーザー光の出力に応じて軸方向と側面の2方向励起、または面方向励起を可能とするキャビティ構造であることを特徴とし、請求項8に係わる発明は、太陽光の吸収によるレーザー媒質の熱レンズ効果や熱複屈折を軽減するために溝付きのロッド、溝付きのスラブ、或いは楔付きスラブをレーザー媒質とすることを特徴とするものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
太陽光励起のレーザー発振器は図1で示しているように、太陽光Sを集光するフレネルレンズ1、集光された太陽光を高効率でレーザーキャビティへガイドする光ガイド2、及びレーザーキャビティ3によって構成されている。
【0008】
フレネルレンズは、レンズホルダーへのレンズ装着を考慮して四角の形状としている。1枚構成のレンズの最大寸法は、製作上の困難性やコストが制限要因となり1m程度であるため、本発明は分割方式によって大口径のフレネルレンズを形成したことを特徴としている。
【0009】
図2は、1m四方のレンズを4枚組み合わせて構成した四分割方式のフレネルレンズを示す。このフレネルレンズの面積は4mであるため、4kWの太陽光のパワーをレーザーの励起に使える。フレネルレンズは、屈折方式で太陽光を集光するので、プラスチックの片面に図2で示すような溝を形成する。従って、この溝が入射面に形成されている場合は、最大の入射角は75°程度となって反射損失が大きくなる。一方、出射面に溝を形成した場合は、最大出射角は45°程度であるため、反射損失は幾分かはよくなる。少なくとも、フレネルレンズを透過する太陽光は、反射損失、散乱損失、吸収損失によって30%程度もパワーが減少する。反射損失に関しては、共同発明者―吉田國雄による特許(名称:光学薄膜の形成方法、特許番号:第3905035号)の技術を用いて反射率を数%以下にし、散乱損失は深紫外波長域で発光するエキシマランプを用いてフレネルレンズの表面処理を行って損失を数%以下にする。
【0010】
本発明は、これらの方法でフレネルレンズを透過する太陽光の全損失を少なくとも10%以下にすることを特徴としている。
本発明は、フレネルレンズの材料であるプラスチックが太陽光に含まれている紫外波長域の光によって劣化していくのを防止し、かつこの紫外光を可視波長域の有効な励起光に変換してレーザー発振効率を向上させるように、色素、例えばローダミン6GやDOTCIを添加したプラスチックでフレネルレンズを製作していることを特徴とする。
【0011】
以上のように、分割方式によるフレネルレンズの製作、表面処理によるレンズ透過率の大幅な増加、フレネルレンズ材料であるプラスチックへの色素添加によるレーザー発振効率の増加、およびレンズの長寿命化、などによって従来技術によるフレネルレンズよりも格段に優れた集光レンズが実現する。
【0012】
本発明は、フレネルレンズからの太陽光をレーザーキャビティへガイドするための光ガイドを備えていることを特徴とする。フレネルレンズで集光された太陽光の集光径は、焦点付近で50mmΦ程度もあるため、光ガイドの設置が必要不可欠となる。光ガイドは、フレネルレンズの集光点近くに設置し、フレネルレンズで集光された太陽光を高効率でレーザーキャビティへとガイドする役目がある。図3(a)には角錐型4、同図(b)には円錐型5の光ガイドを示す。これ以外には、楕円錐型の光ガイドも使用する。入射面の口径は約50mmΦで、出射面の寸法はレーザー媒質の寸法・形状に依存する。光ガイドの長さは4〜20cmである。光ガイドに入射した太陽光は図4で示したように、フレネルレンズへ入射した成分のうちで平行光として集光された領域aの成分、および空気中を進行する間に散乱されて発散角が大きい成分が集光された領域bの2成分に大別される。そのため、領域bの太陽光は、最大3回程度も光ガイドの内面で反射されてレーザーキャビティへ入射する。反射による損失を防ぐために、光ガイドの内面には高反射の誘電体多層膜をコーティング、耐水性薄膜付きのAlやAg鏡、或いはAlやAg膜の上に誘電体多層膜をコーティングした反射鏡を用いる。光ガイドの材料には、金属、プラスチック、ガラス、およびセラミックなどを使用する。以上の他に、図5で示すウイング型の光ガイドを発明した。図5(a)は、レーザー媒質の幅が狭く、厚い場合に、図5(b)は、レーザー媒質の幅が広く、厚さが薄い場合に用いる。プリズム形状のガイド7は、レーザー媒質とほぼ同じ屈折率の透明な光学材料を用いる。レーザー媒質がYAGの場合は、発光元素を添加していないアンドープYAG結晶、セラミックYAG,ガラスを使用する。ガイドとレーザー媒質は、光学的接合、または紫外〜近赤外波長域で吸収の少ない接着剤によって接合する。入射面には、反射防止膜を蒸着し、反射損失を防ぐと同時に、ガイド水による腐食も防止する。また、レーザー媒質の幅が広い場合は、図5(b)のように反射鏡8を用いてレーザー媒質の下部から励起する。本装置は、集光性の悪い太陽光や半導体レーザーを用いてレーザー媒質を励起するのに非常に有利である。図6はレーザーキャビティを構成するレーザーハウジングを示す。光ガイドからの太陽光は入射窓9を通ってレーザーハウジングへと導かれ、レーザー媒質を励起する。レーザー媒質6は、冷却した純水8(温度:18〜26℃)で冷却する。レーザーハウジングの内面には高反射体(アルミニュウム金属や金属反射鏡など)、または吸収の少ない散乱体を使用する。ハウジングに取り付けたレーザー媒質は、側面から励起される。レーザー媒質は図7に示したように、ロッド型10、スラブ型、さらにはレーザー媒質の励起光による熱的影響(熱レンズや熱複屈折)を減少させるために溝付きのロッド11、溝付きスラブ12を用いたり、楔付きスラブ13などを使用する。この励起方式は、大出力のレーザー発振器に向いている。図8は太陽光を軸方向から入射させ、軸方向14及び側面励起15の両方の励起をするレーザーキャビティを示す。この励起方式は、小出力のレーザー発振器に向いている。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0014】
図8の太陽光励起のレーザー発振装置で発振実験を行った。フレネルレンズは、寸法1400×1050mm、焦点距離1.2mのプラスチックレンズを使用した。レーザーガイド及びレーザー媒質は、軸方向及び側面励起の両方向励起方式にした。レーザー媒質の寸法は9Φ×100lmmで、NdとCrを添加したYAGロッドを使い、入射側のロッド面には高反射膜を、出射面には反射防止膜を蒸着した。出射側の反射鏡の反射率と曲率半径は可変とし、最大の出力が得られる反射鏡の反射率と曲率半径を実験で求めた。この実験では、図9四角で示したように、868kWの太陽光入力によって、24.4Wのレーザー出力を達成できた。このときの出力側反射鏡の反射率は95%、曲率半径は38cmであった。励起効率(レーザー出力 / 太陽光入力)は 2.8%に達し、今まで発表されているデータとしては、最もよい結果を得た。
【0015】
図8の太陽光励起のレーザー発振装置で発振実験を行った。フレネルレンズはプラスチック製で、扇形の四分の1分割寸法1mx1mレンズ4枚を図2のように組み合わせた2mx2m、焦点距離2mのレンズを用いた。レーザーガイドとレーザー媒質の配置は、図8の通りである。レーザー媒質には9Φx100lmmのNdとCrを添加したYAGロッドを使用した。ロッドの入射面には高反射膜を、出射面には反射防止膜を蒸着した。出射側の反射鏡の反射率と曲率半径は可変とし、最大の出力が得られる反射鏡の反射率と曲率半径を実験で求めた。この実験では、図9三角で示したように、1835kWの太陽光入力によって、79Wのレーザー出力を達成できた。このときの出力側反射鏡の反射率は95%、曲率半径は300cmであった。励起効率(レーザー出力 / 太陽光入力)は 4.3%に達し、今まで発表されているデータとしては、最も高い効率と最大出力を達成できた。本発明は、太陽光を利用したレーザー発振が非常に有望であることを証明した。
図10にこれまでに報告されている各種太陽励起励起レーザーの太陽光集光面積当りのレーザー出力の比較を示す。太陽励起レーザー装置の性能のうち、太陽光を集める面積に対して出力したレーザーパワーが大きいほどシステム利用効率が高く、この指標は重要である。1〜3の従来の太陽励起レーザー技術に比べて装置の面積利用効率は三倍から十倍程度向上しており、本特許の有効性を示している。

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フレネルレンズと光ガイドを用いた太陽光レーザー励起装置の図
【図2】分割式フレネルレンズの図(四分割の例を示す)
【図3】太陽光をガイドする光ガイドの図:(a)角錐型の例、(b)円錐型の例
【図4】フレネルレンズで集光された太陽光のパターン:領域a−平行光の集光 領域b−散乱光の集光
【図5】ウイング型光ガイドの図:(a)厚くて、幅の狭いレーザー媒質用、(b)薄く、幅の広いレーザー媒質用
【図6】レーザーハウジングの図
【図7】レーザー媒質形状図:(a)ロッド型、(b)溝付きロッド、(c)溝付きスラブ (d)楔付きスラブ
【図8】軸方向及び側面励起装置のレーザーキャビティ図
【図9】1400mm×1050mmのフレネルレンズで集光した場合のレーザー出力特性(◆印)および2000×2000mmのフレネルレンズで集光した場合のレーザー出力特性(▲印)
【図10】太陽光集光面積利用効率による従来技術と本特許技術の性能比較
【符号の説明】
【0017】
S;太陽光
1;フレネルレンズ
2;光ガイド
3;レーザーキャビティ
4;角錐型光ガイド
5;円錐型光ガイド
6;レーザー媒質
7:プリズム型光ガイド
8;冷却水出入口
9;太陽光入射窓
10;ロッド型レーザー媒質
11;溝入りロッド型レーザー媒質
12;溝入スラブ型レーザー媒質
13;楔付きスラブ型レーザー媒質
14;軸方向励起の太陽光
15;側面励起の太陽光



【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック、またはガラス材料で製作されたフレネルレンズを太陽光の集光に使用することを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項2】
フレネルレンズの両面には太陽光の反射を防止する反射防止膜をコーティングし、レーザー媒質へ入射する太陽光を最大とすることを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項3】
フレネルレンズの加工面は、エキシマランプなどの深紫外光(波長 170から210nm)によって表面改質し、加工表面での散乱損失を最小とすることを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項4】
分割(2〜6分割)したものを組み合わせて1枚のフレネルレンズを形成して太陽光を集光することを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項5】
レンズ材料には、レーザー媒質に添加されてレーザー光を放出する3価のNdイオンに殆ど吸収されない波長域400〜550nmの太陽光を吸収して、Ndイオンの吸収波長域570〜600nmで発光する色素ローダミン6G、或いは400〜700nmの波長域の太陽光を吸収して、Ndイオンの吸収波長域790〜820nmで発光する色素DOTCIを添加することによってレーザーの発振効率を約2倍にすることを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項6】
レーザーキャビティへは、集光用レンズで集光された太陽光を高効率でレーザーキャビティへ導くための光ガイドを有することを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項7】
レーザーキャビティの構造は、レーザー光の出力に応じて軸方向と側面の2方向励起、または面方向励起を可能とすることを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。
【請求項8】
レーザー媒質は、太陽光の吸収によるレーザー媒質の熱レンズ効果や熱複屈折を軽減するために溝付きロッド、或いは溝付きスラブを用いることを特徴とする太陽光励起のレーザー発振装置。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−23377(P2011−23377A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107782(P2008−107782)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(507025847)
【出願人】(503109020)
【Fターム(参考)】