姿勢矯正具
【課題】脇ベルトによって胸を反らした適切な矯正力を発揮するとともに、脇ベルトが脇下に強く食い込むことを防止・抑制して、装着感に優れた姿勢矯正具を提供する。
【解決手段】人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルト2と、人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されてベースベルト2の装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルト3,4と、上端部を各脇ベルト3,4のうち人体の脇下近傍の部分に接続し且つ下端部をベースベルト2に接続した状態において各脇ベルト3,4を人体の脇下から離す方向に引っ張る左右一対の引っ張り部6,7とを備えた姿勢矯正具1にした。
【解決手段】人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルト2と、人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されてベースベルト2の装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルト3,4と、上端部を各脇ベルト3,4のうち人体の脇下近傍の部分に接続し且つ下端部をベースベルト2に接続した状態において各脇ベルト3,4を人体の脇下から離す方向に引っ張る左右一対の引っ張り部6,7とを備えた姿勢矯正具1にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着することによって姿勢を矯正する際に用いる姿勢矯正具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、猫背や前屈み姿勢を矯正する種々の姿勢矯正具(姿勢矯正ベルトとも称される)が知られている。姿勢矯正具は、背中側から両肩及び両脇にそれぞれ亘って掛けられた左右の脇ベルト(肩ベルトとも称される)が背中側に引っ張られることによって胸を反らせた姿勢に矯正するものであり、各脇ベルトを背中側に引っ張る具体的な構造は種々考えられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−62245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、胸を反らすために脇ベルトを背中側へ引っ張る力を強く設定すれば、その引っ張り力に応じて脇ベルトが脇にきつく食い込み易くなり、着用者に違和感や痛みを与え、長時間の使用に適さない姿勢矯正具になってしまう。特許文献1には、脇ベルトの素材より柔らかい素材からなる脇パッドを脇ベルトに設けた態様が開示されているが、脇パッド自体が脇に強く接触する事態は生じ得るため、根本的な解決策とはなっていない。
【0005】
このような事情に鑑みて、本発明は、脇ベルトによって胸を反らした適切な矯正力を発揮するとともに、脇ベルトが脇下に強く食い込むことを防止・抑制して、装着感に優れた姿勢矯正具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る姿勢矯正具は、少なくとも人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルトと、人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されてベースベルトの装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルトと、一端部を脇ベルトのうち人体の脇下近傍の部分に接続し且つ他端部をベースベルトに接続した状態において脇ベルトを人体の脇下から離す方向に引っ張る引っ張り部とを備えていることを特徴としている。
【0007】
ここで、ベースベルトは、腰回りから胸周りの何れかの部分を周回する環状(腹巻状)のものであってもよいし、分離されている2つのベルトの自由端同士を例えば腹側で脱着可能に固定するものであってもよく、何れであっても人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なものであればよい。本発明の姿勢矯正具は、このベースベルトの装着状態において、ベースベルトによって脇ベルトを背中側へ引っ張る態様、又はベースベルト以外の部材によって脇ベルトを背中側へ引っ張る態様の何れも包含するものである。また、ベースベルト及び脇ベルトは、相互に直接接続したものであってもよいし、引っ張り部を介して間接的に接続したものであってもよい。本発明の姿勢矯正具では、ベースベルト及び脇ベルトを同一素材で構成したり、異なる素材で構成することもでき、各ベルト(ベースベルト、脇ベルト)のベルト幅(帯幅)も同一に設定したり、相互に異ならせた寸法に設定することができる。
【0008】
本発明における「引っ張り部」は、ベースベルト又は脇ベルトと同一素材であってもよいし、異なる素材からなるものであってもよく、形状も帯状やベルト状の他、紐状など、適宜の形状を選択することができる。さらには、ベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部は、相互に連続する共通の生地から構成したものであってもよく、それぞれ別々の生地から構成したものであってもよい。引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに接続する態様としては、縫合や接着、溶着(熱溶着、高周波溶着、超音波溶着)などによる着脱不能に接続(固定)する態様や、ファスナ材(面ファスナやベルベットファスナ)やフック、或いはチャックやボタンなどの係合部材を用いて着脱可能に接続する態様、或いは相互に連続する共通の生地から構成して接続する態様を挙げることができる。
【0009】
このような姿勢矯正具を装着すれば、脇ベルトが人体の背中側に引っ張られることによって、猫背や前屈みになった姿勢ではなく、胸を張った正しい姿勢に矯正した状態を維持することができ、背筋の曲がりを防止したり、曲がった背筋を伸ばすことが期待できるとともに、引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離す方向に引っ張ることによって、脇ベルトが脇下に食い込もうとする力を低減又は分散することができ、着用時に脇ベルトが脇下に食い込んで着用者に不快感を与える事態を防止・抑制することができ、良好な装着感を与えることができる。特に、本発明では、着用者の体型に応じてフィットした状態で装着されるベースベルトに引っ張り部の他端部を接続しているため、引っ張り部のテンションによって、脇ベルトではなくベースベルトが上方へずれ上がる事態を防止して、引っ張り部がベースベルトとの接続箇所を足場として脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張る良好なテンション付与状態を維持することができる。
【0010】
本発明に係る姿勢矯正具の引っ張り部による脇ベルトの引っ張り方向としては、真下方向、斜め下後方を挙げることができるが、より確実に脇ベルトを脇下から離間させることができるようにするには、引っ張り部による脇ベルトの引っ張り方向を、人体の脇下から人体の腹側に向かう斜め下前方に設定した態様が好ましい。
【0011】
本発明の姿勢矯正具は、両肩及び両脇にそれぞれ左右の脇ベルトを掛けて、ベースベルトを着用者の体型に応じて腰乃至胸にフィットさせた装着状態で、ベースベルトの一部が人体の背中側で脇ベルトに接続している態様も包含するものであり、このような態様において、上述の装着状態で引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張る良好な引っ張り力を簡単な構成で得るためには、引っ張り部の一端部を脇ベルトに接続した箇所から引っ張りベルトの他端部をベースベルトに接続した箇所までの距離を、ベースベルトのうち人体の背中側で脇ベルトに接続した箇所から引っ張り部が接続された箇所までの距離よりも短く設定すればよい。
【0012】
また、本発明に係る姿勢矯正具では、引っ張り部の一端部を脇ベルトに固定するとともに、引っ張り部の他端部をベースベルトに固定することができる。このような姿勢矯正具であれば、引っ張り部の両端部をそれぞれ脇ベルトやベースベルトに固定しているため、両肩及び両脇にそれぞれ左右の脇ベルトを掛けるとともに、ベースベルトを着用者の体型に応じて腰乃至胸にフィットさせて装着した状態で、さらに引っ張り部の端部を脇ベルトやベースベルトに接続して取り付ける作業や、装着した姿勢矯正具を脱ぎ外す際に引っ張り部の端部の取付状態を解除する作業を着用者或いは着用者の介助者が行う必要がなく、取り扱い性にも優れたものになる。
【0013】
特に、脇ベルト同士を人体の背中側で交差させた姿勢矯正具である場合、単純に脇ベルト同士を交差させただけでは、着用者の体型や動きに応じて脇ベルトが相対移動した場合に、交差領域に撓みが生じたり、脇ベルト同士が折り重なって皺が生じ、着用者に違和感を与え得る。そこで、共通のリング部材に各脇ベルトを挿入して交差させたり、袋状をなす共通の背当て部の内部に各脇ベルトを挿入して交差させることで、脇ベルト同士の交差状態を維持する態様も考えられる。しかしながら、専用のリング部材や背当て部が必要であるため、部品点数の増加及びコストアップを招来するとともに、リング部材又は背当て部といった脇ベルトとは異なる部材が人体に直接または間接的に接触することが着用者に違和感を与える要因にもなり得る。このような不具合を解消するには、各脇ベルトをそれぞれ二枚の布地を重ねた二重構造にして、人体の背中側で脇ベルト同士を交差させた交差領域で、各脇ベルトの布地を交互に互い違いに積層し且つ脇ベルト毎における布地同士を固定していない非固定領域で脇ベルト同士を相対移動可能に構成することが好ましい。このような構成であれば、専用のリング部材や背当て部が不要であり、部品点数の削減及びコストダウンを図れるとともに、交差領域においても脇ベルトが人体に直接または間接的に接触することになり、着用者に交差領域を意識させるような違和感を与える事態を防止・抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の姿勢矯正具によれば、引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張る構成を採用したことにより、脇ベルトが脇下に食い込む事態を防止・抑制することができ、痛みや違和感を装着者に与えることなく、背中側に引っ張られる脇ベルトによって胸を反らした姿勢に矯正した状態を確保することができ、装着感に優れ、良好な姿勢矯正を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る姿勢矯正具を装着した状態の正面模式図。
【図2】図1の装着状態にある姿勢矯正具を背中側から見た図。
【図3】図2の一部(中央交差領域)を拡大して模式的に示す図。
【図4】図3のx−x線断面模式図。
【図5】図3のy−y線断面模式図。
【図6】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図7】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図8】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図9】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図10】同実施形態に係る姿勢矯正具を人体に装着する前の状態の正面模式図。
【図11】図1の装着状態に姿勢矯正具を左脇側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る姿勢矯正具1は、図1及び図2に示すように、少なくとも人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルト2と、人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されてベースベルト2の装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルト(着用者の左肩及び左脇に装着する左脇ベルト3、着用者の右肩及び右脇に装着する右脇ベルト4)とを備えたものである。
【0017】
本実施形態の姿勢矯正具1においてベースベルト2は、左右一対のベースベルト要素(左脇腹付近を通る左ベースベルト要素21、右側腹付近を通る右ベースベルト要素22)同士を人体の腹側で着脱自在に留めることによって、着用者の体型に応じてフィットした状態で固定可能なものとして構成している。各ベースベルト要素(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)のうち装着状態において人体の腹前に位置付けられる一端部にはそれぞれ面ファスナ23,24を設けている。本実施形態では、左ベースベルト要素21の一端部の上(前方側)に右ベースベルト要素22の一端部を重ねた状態で着脱自在に固定できるように、左ベースベルト要素21の一端部における前面側に面ファスナ23を縫合するとともに、右ベースベルト要素22の一端部における背面側に面ファスナ24を縫合している。なお、右ベースベルト要素22の一端部の上(前方側)に左ベースベルト要素21の一端部を重ねた状態で着脱自在に固定できるように構成することも可能であり、この場合、右ベースベルト要素22の一端部における前面側に面ファスナ23,24を縫合するとともに、左ベースベルト要素21の一端部における背面側に面ファスナ23,24を縫合すればよい。
【0018】
また、本実施形態の姿勢矯正具1では、人体の背中側において左ベースベルト要素21の他端部を右脇ベルト4に接続するとともに、右ベースベルト要素22の他端部を左脇ベルト3に接続している(図2参照)。したがって、着用者が、左右の脇ベルト3,4を両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着した状態で、各ベースベルト要素(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)の一端部同士を腹前で引っ張った状態で面ファスナ23,24により係着させると、各脇ベルト3,4を人体の背中側に引っ張ることができる。すなわち、本実施形態では、ベースベルト2が左右の脇ベルト3,4を人体の背中側に引っ張る機能を有する。
【0019】
左ベースベルト要素21は、図2に示すように、他端部を人体の背中側において右脇ベルト4と接続し、この接続箇所から左脇ベルト3に近付く方向、具体的には斜め下方に延伸し、途中で左脇ベルト3と交差している。右ベースベルト要素22も同様に、他端部を人体の背中側において左脇ベルト3と接続し、この接続箇所から右脇ベルト4に近付く方向、具体的には斜め下方に延伸し、途中で右脇ベルト4と交差している。
【0020】
本実施形態の姿勢矯正具1では、各脇ベルト3,4及び各ベースベルト要素21,22をそれぞれ二重の布地を重ねた二重構造にしている。そして、人体の背中側で脇ベルト3,4同士を交差させた領域(中央交差領域C1)、人体の左脇腹付近で左脇ベルト3と左ベースベルト要素21とを交差させた領域(左交差領域C2)、及び人体の右脇腹付近で右脇ベルト4と右ベースベルト要素22とを交差させた領域(右交差領域C3)では、各脇ベルト3,4及び各ベースベルト要素21,22の二重布地構造を利用して、交差するベルト同士(中央交差領域C1であれば左右の脇ベルト3,4であり、左交差領域C2であれば左脇ベルト3と左ベースベルト要素21であり、右交差領域C3であれば右脇ベルト4と右ベースベルト要素22である)の交差状態を維持したまま相互に所定距離内で相対移動可能な可動領域に設定している。
【0021】
すなわち、中央交差領域C1では、図3乃至図5(図3は中央交差領域C1を人体の背中側から見た模式図であり、図4は図3のx−x線断面模式図であり、図5は図3のy−y線断面模式図である。)に示すように、左脇ベルト3の下層側布地3a、右脇ベルト4の下層側布4a、左脇ベルト3の上層側布地3b、右脇ベルト4の上層側布地4bの順番で、各布地(下層側布3a、下層側布地4a、上層側布地3b、上層側布地4b)を交互に互い違いに積層している。そして、図4、図6及び図7に示すように、左脇ベルト3において下層側布地3aと上層側布地3bとを相互に固定していない非固定領域3S内で右脇ベルト4を左脇ベルト3に対して移動可能に構成するとともに、図5、図8及び図9に示すように、右脇ベルト4において下層側布4aと上層側布地4bとを相互に固定していない非固定領域4Sで左脇ベルト3を右脇ベルト4に対して移動可能に構成している。
【0022】
本実施形態の姿勢矯正具1は、左脇ベルト3の下層側布地3a及び上層側布地3bを縫合で固定するとともに、右脇ベルト4の下層側布地4a及び上層側布地4bを縫合で固定している。本実施形態では、例えば千鳥掛け(千鳥縫い)によって左脇ベルト3の布地(下層側布地3a、上層側布地3b)同士、右脇ベルト4の布地(下層側布地4a、上層側布地4b)同士をそれぞれ縫合している。なお、図1乃至図9では、縫合箇所(固定領域)をジグザグ状の線(千鳥掛け状の線)で示している。図1乃至9では、目視可能な縫合箇所は相対的に太いジグザグ状の線で示し、装着状態において目視不能な縫合箇所は相対的に細いジグザグ状の線で示している。ここで、交差領域C1及びその周囲部分に着目すると、交差領域C1と各脇ベルト3,4がそれぞれ単独で存在する領域との境界部分には2枚の布地を積層状態で固定した固定領域(縫合箇所)が形成され、交差領域C1における各脇ベルト3,4の可動領域は、各ベルト3,4において長手方向に隣り合う固定領域同士の間である非固定領域3S,4Sの範囲と一致する。したがって、用途や要求される可動範囲に応じて、脇ベルト3,4毎における布地同士を固定する固定領域を姿勢矯正具1の設計時や製造時に適宜変更したり、調整すれば、交差領域C1における各脇ベルト3,4の可動範囲を簡単に変更したり、調整することができる。
【0023】
また、本実施形態では、左脇ベルト3と左ベースベルト要素21との交差領域(左交差領域C2)、及び右脇ベルト4と右ベースベルト要素22との交差領域(右交差領域C3)を上述の中央交差領域C1に準じた構成にしている。
【0024】
具体的に、左交差領域C2では、左ベースベルト要素21の下層側布地21a、左脇ベルト3の下層側布地3a、左ベースベルト要素21の上層側布地21b、左脇ベルト3の上層側布地3bの順番で、各布地(下層側布地21a、下層側布地3a、上層側布地21b、上層側布地3b)を交互に互い違いに積層している。そして、左ベースベルト要素21において下層側布地21aと上層側布地21bとを相互に固定していない非固定領域内で左脇ベルト3を左ベースベルト要素21に対して移動可能に構成するとともに、左脇ベルト3において下層側布地3aと上層側布地3bとを相互に固定していない非固定領域で左ベースベルト要素21を左脇ベルト3に対して移動可能に構成している。
【0025】
右交差領域C3では、右ベースベルト要素22の下層側布地22a、右脇ベルト4の下層側布4a、右ベースベルト要素22の上層側布地22b、右脇ベルト4の上層側布地4bの順番で、各布地(下層側布地22a、下層側布4a、上層側布地22b、上層側布地4b)を交互に互い違いに積層している。そして、右ベースベルト要素22において下層側布地22aと上層側布地22bとを相互に固定していない非固定領域内で右脇ベルト4を右ベースベルト要素22に対して移動可能に構成するとともに、右脇ベルト4において下層側布4aと上層側布地4bとを相互に固定していない非固定領域で右ベースベルト要素22を右脇ベルト4に対して移動可能に構成している。
【0026】
本実施形態では、左ベースベルト要素21の下層側布地21a及び上層側布地21bを縫合(例えば千鳥縫い)で固定するとともに、右ベースベルト要素22の下層側布地22a及び上層側布地22bを縫合(例えば千鳥縫い)で固定している。なお、左ベースベルト要素21や右ベースベルト要素22に対する上述の面ファスナ23,24の固定にも縫合(例えば千鳥縫い)を用いている。
【0027】
また、本実施形態の姿勢矯正具1は、各脇ベルト3,4及び各ベースベルト要素21,22をそれぞれ構成する二重の布地のうち、下層側布地3a,4a,21a,22aを上層側布地3b,4b,21b,22bよりも幅寸法をそれぞれ大きく設定している。これによって、各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)が人体に直接、または肌着などの衣服を介して間接的に接触する面は幅広の下層側布地3a,4a,21a,22aのみとなり、幅広の布地を上層側に設定した場合と比較して、人体に接触する面に段差が生じず、着用者に良好な装着感を与えることができる。また、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)には、交差するベルト同士(中央交差領域C1であれば左右の脇ベルト3,4であり、左交差領域C2であれば左脇ベルト3と左ベースベルト要素21であり、右交差領域C3であれば右脇ベルト4と右ベースベルト要素22である)が重なる部分には、4枚の布地が重なった4重層領域が形成されるとともに、この4重層領域の周囲には交差するベルトの下層側布地同士と何れか一方のベルトの上層側布地が3重に重なった3重層領域や、交差するベルトの下層側布地同士だけが重なった2重層領域が形成されることになる。
【0028】
ここで、仮に各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)において4重層領域しか存在しない態様や殆ど4重層領域しか存在しない態様、つまり下層側布地及び上層側布地を同じ幅寸法の布地で構成し、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)には両方の布地が相互にずれることなく綺麗に重なり合った領域しか存在しない態様であれば、ベルト同士が交差している部分と交差していない部分(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22単体の部分)との境界部分は全て4重層領域から各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)へ一様に切り替わり、この切替部分が着用者に違和感を与える要因となり得る。
【0029】
これに対して、本実施形態の姿勢矯正具1は、上述したように、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)において4重層領域の周囲に3重層領域や2重層領域が形成されるように設定しているため、ベルト同士が交差している部分と交差していない部分(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22単体の部分)との境界部分は全て3重層領域又は2重層領域から各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)に切り替わるため、4重層領域から各ベルトに急に切り替わる態様よりも、布地の積層数を緩やかに変化させることで、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)と各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)との境界部分が着用者に違和感を与える事態を防止したり、抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態では、図10に示すように、1本の連続するベルト(以下、「共通ベルトB」と称する)を用いて姿勢矯正具1を構成している。具体的には、共通ベルトBの始端を例えば左ベースベルト要素21の一端部(面ファスナ23を装着した端部)とし、共通ベルトBの終端を例えば右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ24を装着した端部)とすると、この共通ベルトBは、始端から左交差領域C2に向かって延伸し、この左交差領域C2を通過して中央交差領域C1の手前(中央交差領域C1よりも左交差領域C2寄りに僅かに変位した部分)まで直線状に延伸する部分によって左ベースベルト要素21を形成し、中央交差領域C1の手前から中央交差領域C1を通過してそのまま上方から下方へ右回りに周回して右交差領域C3まで延伸する部分によって右脇ベルト4を形成している。さらに、本実施形態の共通ベルトBは、右交差領域C3から左交差領域C2まで直線状に延びる部分によって右脇ベルト4及び左脇ベルト3の下端部同士を接続する脇ベルト接続部5を形成し、左交差領域C2から上方に向かって右回りに周回して中央交差領域C1を少し越えた部分(中央交差領域C1よりも右交差領域C3寄りに僅かに変位した部分)まで延伸する部分によって左脇ベルト3を形成し、中央交差領域C1を少し超えた部分から右交差領域C3を通過してそのまま終端に向かって直線状に延伸する部分によって右ベースベルト要素22を形成している。なお、共通ベルトBにおける各交差領域(中央交差領域C1、左交差領域C2、右交差領域C3)を各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)の接続部分(境界部分)として捉えることもできるが、説明の便宜上、上述の部分を各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)の接続部分(境界部分)とする。
【0031】
本実施形態の姿勢矯正具1はさらに、図1、図10及び図11に示すように、一端部を左右の脇ベルト3,4のうち人体の脇下近傍の部分に接続するとともに、他端部をベースベルト2に接続して、各脇ベルト3,4を人体の脇下から離す方向に引っ張る左右の引っ張り部6,7を備えている。左引っ張り部6は、一端部を左脇ベルト3のうち左交差領域C2よりも人体の腹前側の箇所、具体的には左脇下の箇所に縫合で固定し、他端部を左ベースベルト要素21の一端部(面ファスナ装着端部)に接続したものである。また、右引っ張り部7は、一端部を右脇ベルト4のうち右交差領域C3よりも人体の腹前側の箇所、具体的には右脇下の箇所に縫合で固定し、他端部を右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)に接続したものである。本実施形態では、左引っ張り部6及び右引っ張り部7を、脇ベルト3,4やベースベルト21,22と共に1本のベルト(共通ベルトB)を用いて構成している。なお図10では、縫合による固定箇所を示すジグザグ状の線を省略している。
【0032】
具体的には、共通ベルトBの始端が、左ベースベルト要素21の一端部よりもさらに左交差領域C2から離間する方向に延出した位置になるように共通ベルトBの長さを設定しておき、この共通ベルトBを左ベースベルト要素21の一端部付近で左脇ベルト3に向かって折り返し、共通ベルトBの始端を左脇ベルト3のうち人体の左脇下となる位置に固定する。本実施形態では、例えば千鳥掛けなどの縫合処理によって共通ベルトBの始端を左脇ベルト3に固定している。また、共通ベルトBにおいて左ベースベルト要素21の一端部と左引っ張り部6の他端部とが相互に折り重なる箇所は縫合によって折り重なった状態を固定している。以上により、一端部(上端部)を左脇ベルト3に脱着不能に固定し、他端部(下端部)を左ベースベルト要素21に脱着不能に固定した左引っ張り部6を形成することができる。なお、本実施形態では、折り重なった左ベースベルト要素21の一端部及び左引っ張り部6の他端部よりも前面側(人体から離間する側)に面ファスナ23をさらに重ねて縫合で固定している(図10参照)。
【0033】
一方、共通ベルトBの終端が、右ベースベルト要素22の一端部よりもさらに右交差領域C3から離間する方向に延出した位置になるように共通ベルトBの長さを設定しておき、この共通ベルトBを右ベースベルト要素22の一端部付近で右脇ベルト4に向かって折り返し、共通ベルトBの終端を右脇ベルト4のうち人体の右脇下となる位置に固定する。本実施形態では、例えば千鳥掛けなどの縫合処理によって共通ベルトBの終端を右脇ベルト4に固定している。また、共通ベルトBにおいて右ベースベルト要素22の一端部と右引っ張り部7の他端部とが相互に折り重なる箇所は縫合によって固定している。以上により、一端部(上端部)を右脇ベルト4に脱着不能に固定し、他端部(下端部)を右ベースベルト要素22に脱着不能に固定した右引っ張り部7を形成することができる。なお、本実施形態では、折り重なった右ベースベルト要素22の一端部及び右引っ張り部7の他端部よりも背面側(人体に近い側)に面ファスナ24をさらに重ねて縫合で固定しており、この面ファスナ24は正面からは目視不能である(図10参照)。
【0034】
このような左引っ張り部6及び右引っ張り部7は、それぞれ帯状をなす形状であることから左引っ張りベルトや右引っ張りベルトと称することもできる。
【0035】
本実施形態の姿勢矯正具1は、左引っ張り部6及び右引っ張り部7として、左右の脇ベルト3,4や左右のベースベルト要素21,22と同様に布地を二重にした二重構造体を適用している。したがって、左右の脇ベルト3,4やベースベルト要素(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)と連続する共通のベルトBを折り返して(裏返して)形成した左右の引っ張り部6,7は、幅広の布地が上層側になり、幅狭の布地が下層側になる。
【0036】
本実施形態では、熱融着性繊維を用いて生地端のほつれ等を生じさせ難くする織物・編物(言い換えれば切断後の処理が不要である)所謂フリーカット生地(マルチカット生地とも称される)によってベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)、左右の脇ベルト3,4及び左右の引っ張り部6,7を構成している。フリーカット生地としては、例えばレーヨン、ナイロンやポリウレタン等の素材(再生繊維、合成繊維等)を適宜の割合で混成したものを挙げることができる。特に伸縮性を有するフリーカット生地が好ましい。本実施形態では、長手方向には弾力的に伸縮しやすく、幅方向にはあまり伸縮しない生地を用いることが好ましい。特に、本実施形態では布地を二重にして長手方向に縫合してあることから、実質的には幅方向に殆ど伸縮しないものになっている。また、このフリーカット生地に適宜のパターンで通気穴を形成しても構わない。さらに本実施形態では、例えば厚み0.数mm程度の極めて薄い生地(布地)を2重に重ねてベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)、左右の脇ベルト3,4及び左右の引っ張り部6,7を構成しているため、装着時においてこれら各部2,3,4,6,7が装着者に違和感を与える程度に嵩張ったり、ごわつくことを防止・抑制することができるとともに、1枚ずつの布地は薄くても全体として強力な引っ張り力や締付力を得ることができる。
【0037】
本実施形態の姿勢矯正具1は、図11に示すように、左引っ張り部6の一端部(上端部)と他端部(下端部)との距離を、左ベースベルト要素21のうち左脇ベルト3との接続箇所である左交差領域C2から一端部(面ファスナ装着端部)までの距離よりも短く設定している。同様に、右引っ張り部7の一端部(上端部)と他端部(下端部)との距離を、右ベースベルト要素22のうち右脇ベルト4との接続箇所である右交差領域C3から一端部(面ファスナ装着端部)までの距離よりも短く設定している。したがって、本実施形態の姿勢矯正具1は、身体に装着する前の状態では、左右の引っ張り部6,7は直線形状となる一方、ベースベルト2を構成する左右のベースベルト要素21,22は大きく撓んだ形状になる(図10参照)。
【0038】
このような構成を有する姿勢矯正具1は、左肩及び左脇に亘って左脇ベルト3を掛けるとともに、右肩及び右脇に亘って右脇ベルト4を掛けて、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)同士を腹前に引っ張って、面ファスナ23,24同士を係合させて固定することによって身体に装着することができる。この装着状態では、人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてベースベルト2がフィットした状態にあり、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)を腹前に引っ張ることによって、左ベースベルト要素21の他端部(上端部)に接続している右脇ベルト4と、右ベースベルト要素22の他端部(上端部)に接続している左脇ベルト3が背中側に引っ張られる。その結果、着用者は、人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正した状態となる。
【0039】
そして、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、着用者が装着した状態において、左引っ張りベルト6が左ベースベルト要素21との縫合箇所を足場として左脇ベルト3を人体の左脇下から腹前に向かう斜め下前方に引っ張るとともに、右引っ張りベルト7が右ベースベルト要素22との縫合箇所を足場として右脇ベルト4を人体の右脇下から腹前に向かう斜め下前方に引っ張る。この引っ張りベルト6,7の引っ張り力によって左脇ベルト3及び右脇ベルト4がそれぞれ脇下から腹前に向かう斜め下前方に引っ張られた状態になる。つまり、本実施形態の姿勢矯正具1は、左肩及び左脇に亘って左脇ベルト3を掛けるとともに、右肩及び右脇に亘って右脇ベルト4を掛けて、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)をそれぞれ腹前に引っ張ることによって、同時に左引っ張りベルト6及び右引っ張りベルト7を人体の脇下から腹前に向かって斜め下前方に引っ張ることができ、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)同士を係合させて固定する作業によって、同時に左引っ張りベルト6及び右引っ張りベルト7が左脇ベルト3及び右脇ベルト4を脇下から離す方向に引っ張る良好なテンション付与状態を維持することができる。
【0040】
したがって、本実施形態の姿勢矯正具1は、簡単な装着方法でありながら、装着した状態では各脇ベルト3,4が背中側に引っ張られて人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正しつつ、各脇ベルト3,4が脇下に食い込もうとする力は左右の引っ張り部6,7の引っ張り力によって分散されたり、低減される。
【0041】
このように、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、ベースベルト2を着用者の体型に応じてフィットさせて固定した装着状態において、左右の脇ベルト3,4が背中側に引っ張られることで、胸を反らす方向に姿勢を矯正することができるとともに、左右の引っ張り部6,7の引っ張り力によって左右の脇ベルト3,4が脇下に食い込む事態を防止・抑制することができ、着用者に、脇ベルト3,4が脇下に食い込むことに起因する痛みや違和感を与えることがないか、少なくとも従来品よりははるかに違和感や痛みを軽減することができ、良好な装着感を与えて、長時間の使用にも適するものとなる。さらに、本実施形態の姿勢矯正具1は、着用者の体型に応じてフィットした状態で装着されるベースベルト2に左右の引っ張り部6,7の他端部を接続しているため、左右の引っ張り部6,7の引っ張り力によって、脇ベルト3,4ではなくベースベルト2が上方へずれ上がる事態を防止して、左右の引っ張り部6,7がベースベルト2との固定箇所を足場として左右の脇ベルト3,4を脇下から離間する方向に引っ張る良好なテンション付与状態を維持することができる。
【0042】
特に、本実施形態の姿勢矯正具1は、左右の引っ張り部6,7による左右の脇ベルト3,4の引っ張り方向を人体の脇下から人体の腹側に向かう斜め下前方に設定しているため、この引っ張り力が脇下に食い込もうとする左右の脇ベルト3,4の力に対向して効果的に打ち消す力となり、脇ベルト3,4が脇下に食い込む力を効果的に軽減することができる。
【0043】
さらに、本実施形態の姿勢矯正具1は、左引っ張り部6の上端部(左脇ベルト3に接続した端部)から下端部(ベースベルト2に接続した端部)までの距離を、ベースベルト2のうち人体の背中側で左脇ベルト3に接続した箇所(左交差領域C2)から左引っ張り部6が接続された箇所(左ベースベルト要素21の一端部であり、左折り返し領域とも言える)までの距離よりも短く設定するとともに、右引っ張り部7の上端部(右脇ベルト4に接続した端部)から下端部(ベースベルト2に接続した端部)までの距離を、ベースベルト2のうち人体の背中側で右脇ベルト4に接続した箇所(右交差領域C3)から右引っ張り部7が接続された箇所(右ベースベルト要素22の一端部であり、右折り返し領域とも言える)までの距離よりも短く設定するという簡単な構成によって、装着状態において各引っ張り部6,7による有効な引っ張り力を得ることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、布製の引っ張り部6,7の上端部をそれぞれ脇ベルト3,4に縫合によって固定するとともに、引っ張り部6,7の下端部をそれぞれベースベルト2(具体的には左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)に縫合によって固定しているため、例えば、各引っ張り部の下端部を自由端に設定し、ベースベルトを装着した状態で左右の引っ張り部を所定の位置まで引っ張って自由端を所定の位置に取り付けることによって引っ張り部にテンションを付与して左右の脇ベルトを脇下から離す方向に引っ張る態様と比較して、ベースベルト2を装着するだけで、左右の引っ張り部6,7に自ずとテンションを付与することができ、装着作業の簡便化を図りつつ左右の脇ベルト3,4が脇下に食い込む事態を防止したり、抑制することができる。
【0045】
特に、本実施形態の姿勢矯正具1は、左脇ベルト3及び右脇ベルト4をそれぞれ二枚の布地(下層側布地3a,4aと上層側布地3b,4b)を重ねた二重構造にして、人体の背中側で左右の脇ベルト3,4同士を交差させた交差領域(中央交差領域C1)で、各脇ベルト3,4の布地を交互に互い違いに積層し且つ左右の脇ベルト3,4毎における布地同士を固定していない非固定領域(下層側布地3aと上層側布地3bとを相互に固定していない領域3S、下層側布4aと上層側布地4bとを相互に固定していない領域4S)で左右の脇ベルト3,4同士を相対移動可能に構成しているため、専用のリング部材や背当て部を用いずに左右の脇ベルト3,4同士を交差させた状態で着用者の体型や動きに応じて相対移動可能に保持することができ、部品点数の削減及びコストダウンを図れるとともに、交差領域(中央交差領域C1)では脇ベルト(左脇ベルト3又は右脇ベルト4)が人体に直接または間接的に接触することになり、着用者に交差領域(中央交差領域C1)を意識させるような違和感を与える事態を防止・抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の姿勢矯正具1は、ベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)も二重布地構造にし、左脇ベルト3とベースベルト2との交差領域(左交差領域C2)や、右脇ベルト4とベースベルト2との交差領域(右交差領域C3)も、中央交差領域C1に準じた構成にしているため、上述とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、連続する1本のベルト(共通ベルトB)から左右の脇ベルト3,4、ベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)及び左右の引っ張り部6,7を構成しているため、各部材をそれぞれ別体の生地から構成する場合と比較して、各部材同士を縫合などによって接続する箇所を低減することができ、製作工程の簡素化及び製作効率の向上を図ることができる。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、脇ベルト、ベースベルト、及び引っ張り部を、全て別々の生地(素材の同一は問わず)から構成することも可能である。また、脇ベルトとベースベルトを一体に形成し、これらとは別体の引っ張り部を脇ベルトやベースベルトに適宜の手段で固定したり、脇ベルトと引っ張り部を一体に形成し、これらとは別体のベースベルトを脇ベルトや引っ張り部に適宜の手段で固定したり、或いはベースベルトと引っ張り部を一体に形成し、これらとは別体の脇ベルトをベースベルトや引っ張り部に適宜の手段で固定してもよい。
【0049】
また、ベースベルトとして、複数のベースベルト要素から構成したものに代えて、腰回り乃至胸周りを周回する分離不能な環状(腹巻状)のものを適用することもできる。この場合、環状のベースベルトを頭側から被るようにしたり、又は足側から履くようにして腰乃至胸のあたりまで移動させた位置で着用者の体型に応じてフィットした状態で装着できればよい。ベースベルトを複数のベースベルト要素から構成する場合、ベースベルト要素同士を着脱自在に固定する手段として、面ファスナやベルベットファスナに代えて、または加えて、ボタンやチャック、或いはフック部材などを用いた固定手段を採用しても構わない。
【0050】
また、上述した実施形態では、ベースベルトの装着状態において、ベースベルトによって脇ベルトを背中側へ引っ張る態様を例示したが、ベースベルト以外の適宜の部材、例えば脇ベルト同士を人体の背中側で相互に近付ける方向に引っ張る部材などによって脇ベルトを背中側へ引っ張るように構成することもできる。この場合、ベースベルト及び脇ベルトは相互に直接接続されている必要はなく、引っ張り部を介して間接的に接続したものであればよい。
【0051】
引っ張り部として、脇ベルトを脇下から離す方向に引っ張る適切な引っ張り力を確保できる要件を満たせば、帯状(ベルト状)ではなく、紐状のものや線状のものを適用することもできる。また、各ベルトに複数の引っ張り部を付帯させる(接続させる)ことでより一層強力な引っ張り力を得ることができるように構成してもよい。或いは、引っ張り部として、例えばY字状のものを適用し、二股状に分かれている左右一対の上端部をそれぞれ左右の脇ベルトに接続し、1つだけの下端部をベースベルトに接続することによって、各脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張るように構成することも可能である。
【0052】
さらには、ベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部をそれぞれ異なる素材で構成したり、あるいはこれらのうち選択した2つの部材を同一素材で構成し、他の1の部材を異なる素材から構成しても構わない。また、各ベルト(ベースベルト、脇ベルト、引っ張り部)のベルト幅(帯幅)は、同一であってもよいし、相互に異ならせた寸法に設定してもよい。
【0053】
また、引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに接続する態様として、接着や溶着(熱溶着、高周波溶着、超音波溶着)などで着脱不能に接続(固定)する態様や、ファスナ材(面ファスナやベルベットファスナなど)やフック部材、或いはチャックやボタンなどの係合部材を用いて着脱可能に接続する態様、また、引っ張り部及び脇ベルトを相互に連続する共通の生地から構成して接続する態様を採用することができる。引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに着脱自在に接続する構成を採用した場合には、着用者自身が引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに接続する箇所を変更したり、適宜選択することによって引っ張り部による脇ベルトの引っ張り力を調整することができ、好適である。
【0054】
引っ張り部による脇ベルトの引っ張り方向を、真下方向に設定したり、斜め下後方に設定してもよい。
【0055】
また、フリーカット素材ではない生地(布地)によって姿勢矯正具の各部を形成したり、通気性に優れたメッシュ素材によって姿勢矯正具の各部を形成することもできる。
【0056】
また、脇ベルトやベースベルトを構成する生地よりも伸縮性に乏しい素材によって引っ張り部を形成し、装着状態において脇ベルトやベースベルトよりも伸び難い引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張り込むように構成した姿勢矯正具であっても構わない。
【0057】
ベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部の全部または一部を1枚の布地(複数層に重ねていない布地)で形成することも可能である。この場合、各交差領域では、適宜の保持部材を用いて交差するベルト同士の交差状態を維持しつつベルト同士の相対移動を許容する構成にすればよい。2枚の布地を重ねてベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部の全部または一部を形成する場合は、布地同士を千鳥縫い以外の縫合で固定したり、接着、溶着(熱溶着、高周波溶着、超音波溶着)で固定しても構わない。なお、2枚の布地を重ねてベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部の全部または一部を形成する場合、2枚の布地の素材や種類を相互に異ならせることもできる。
【0058】
また、人体の背中に接触し得る背当て部を備え、脇ベルト又はベースベルトの少なくとも何れか一方或いは両方を背当て部に接続した姿勢矯正具にすることもできる。この場合、装着状態において背当て部自体が脇ベルトを人体の背中側に引っ張る機能を発揮するように構成することもできる。また、上端部を左右の脇ベルトの上端部または上端部近傍に接続し、背当て部の背面側(人体の背中に接触しない側)で、又は背当て部を袋状に形成している場合にはその内部空間内で、相互に交差させ、下端部をベースベルトに接続した左右一対の脇ベルト引っ張り用ベルトを備えた姿勢矯正具とし、装着状態において脇引っ張り用ベルトが背当て部と協働して又は単独で脇ベルトを背中側へ引っ張るように構成することもできる。
【0059】
また、引っ張り部の形状や素材、或いはベースベルトや脇ベルトに対する引っ張り部の接続箇所など、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…姿勢矯正具
2…ベースベルト
3…左脇ベルト
4…右脇ベルト
6…左引っ張り部
7…右引っ張り部
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着することによって姿勢を矯正する際に用いる姿勢矯正具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、猫背や前屈み姿勢を矯正する種々の姿勢矯正具(姿勢矯正ベルトとも称される)が知られている。姿勢矯正具は、背中側から両肩及び両脇にそれぞれ亘って掛けられた左右の脇ベルト(肩ベルトとも称される)が背中側に引っ張られることによって胸を反らせた姿勢に矯正するものであり、各脇ベルトを背中側に引っ張る具体的な構造は種々考えられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−62245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、胸を反らすために脇ベルトを背中側へ引っ張る力を強く設定すれば、その引っ張り力に応じて脇ベルトが脇にきつく食い込み易くなり、着用者に違和感や痛みを与え、長時間の使用に適さない姿勢矯正具になってしまう。特許文献1には、脇ベルトの素材より柔らかい素材からなる脇パッドを脇ベルトに設けた態様が開示されているが、脇パッド自体が脇に強く接触する事態は生じ得るため、根本的な解決策とはなっていない。
【0005】
このような事情に鑑みて、本発明は、脇ベルトによって胸を反らした適切な矯正力を発揮するとともに、脇ベルトが脇下に強く食い込むことを防止・抑制して、装着感に優れた姿勢矯正具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る姿勢矯正具は、少なくとも人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルトと、人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されてベースベルトの装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルトと、一端部を脇ベルトのうち人体の脇下近傍の部分に接続し且つ他端部をベースベルトに接続した状態において脇ベルトを人体の脇下から離す方向に引っ張る引っ張り部とを備えていることを特徴としている。
【0007】
ここで、ベースベルトは、腰回りから胸周りの何れかの部分を周回する環状(腹巻状)のものであってもよいし、分離されている2つのベルトの自由端同士を例えば腹側で脱着可能に固定するものであってもよく、何れであっても人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なものであればよい。本発明の姿勢矯正具は、このベースベルトの装着状態において、ベースベルトによって脇ベルトを背中側へ引っ張る態様、又はベースベルト以外の部材によって脇ベルトを背中側へ引っ張る態様の何れも包含するものである。また、ベースベルト及び脇ベルトは、相互に直接接続したものであってもよいし、引っ張り部を介して間接的に接続したものであってもよい。本発明の姿勢矯正具では、ベースベルト及び脇ベルトを同一素材で構成したり、異なる素材で構成することもでき、各ベルト(ベースベルト、脇ベルト)のベルト幅(帯幅)も同一に設定したり、相互に異ならせた寸法に設定することができる。
【0008】
本発明における「引っ張り部」は、ベースベルト又は脇ベルトと同一素材であってもよいし、異なる素材からなるものであってもよく、形状も帯状やベルト状の他、紐状など、適宜の形状を選択することができる。さらには、ベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部は、相互に連続する共通の生地から構成したものであってもよく、それぞれ別々の生地から構成したものであってもよい。引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに接続する態様としては、縫合や接着、溶着(熱溶着、高周波溶着、超音波溶着)などによる着脱不能に接続(固定)する態様や、ファスナ材(面ファスナやベルベットファスナ)やフック、或いはチャックやボタンなどの係合部材を用いて着脱可能に接続する態様、或いは相互に連続する共通の生地から構成して接続する態様を挙げることができる。
【0009】
このような姿勢矯正具を装着すれば、脇ベルトが人体の背中側に引っ張られることによって、猫背や前屈みになった姿勢ではなく、胸を張った正しい姿勢に矯正した状態を維持することができ、背筋の曲がりを防止したり、曲がった背筋を伸ばすことが期待できるとともに、引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離す方向に引っ張ることによって、脇ベルトが脇下に食い込もうとする力を低減又は分散することができ、着用時に脇ベルトが脇下に食い込んで着用者に不快感を与える事態を防止・抑制することができ、良好な装着感を与えることができる。特に、本発明では、着用者の体型に応じてフィットした状態で装着されるベースベルトに引っ張り部の他端部を接続しているため、引っ張り部のテンションによって、脇ベルトではなくベースベルトが上方へずれ上がる事態を防止して、引っ張り部がベースベルトとの接続箇所を足場として脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張る良好なテンション付与状態を維持することができる。
【0010】
本発明に係る姿勢矯正具の引っ張り部による脇ベルトの引っ張り方向としては、真下方向、斜め下後方を挙げることができるが、より確実に脇ベルトを脇下から離間させることができるようにするには、引っ張り部による脇ベルトの引っ張り方向を、人体の脇下から人体の腹側に向かう斜め下前方に設定した態様が好ましい。
【0011】
本発明の姿勢矯正具は、両肩及び両脇にそれぞれ左右の脇ベルトを掛けて、ベースベルトを着用者の体型に応じて腰乃至胸にフィットさせた装着状態で、ベースベルトの一部が人体の背中側で脇ベルトに接続している態様も包含するものであり、このような態様において、上述の装着状態で引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張る良好な引っ張り力を簡単な構成で得るためには、引っ張り部の一端部を脇ベルトに接続した箇所から引っ張りベルトの他端部をベースベルトに接続した箇所までの距離を、ベースベルトのうち人体の背中側で脇ベルトに接続した箇所から引っ張り部が接続された箇所までの距離よりも短く設定すればよい。
【0012】
また、本発明に係る姿勢矯正具では、引っ張り部の一端部を脇ベルトに固定するとともに、引っ張り部の他端部をベースベルトに固定することができる。このような姿勢矯正具であれば、引っ張り部の両端部をそれぞれ脇ベルトやベースベルトに固定しているため、両肩及び両脇にそれぞれ左右の脇ベルトを掛けるとともに、ベースベルトを着用者の体型に応じて腰乃至胸にフィットさせて装着した状態で、さらに引っ張り部の端部を脇ベルトやベースベルトに接続して取り付ける作業や、装着した姿勢矯正具を脱ぎ外す際に引っ張り部の端部の取付状態を解除する作業を着用者或いは着用者の介助者が行う必要がなく、取り扱い性にも優れたものになる。
【0013】
特に、脇ベルト同士を人体の背中側で交差させた姿勢矯正具である場合、単純に脇ベルト同士を交差させただけでは、着用者の体型や動きに応じて脇ベルトが相対移動した場合に、交差領域に撓みが生じたり、脇ベルト同士が折り重なって皺が生じ、着用者に違和感を与え得る。そこで、共通のリング部材に各脇ベルトを挿入して交差させたり、袋状をなす共通の背当て部の内部に各脇ベルトを挿入して交差させることで、脇ベルト同士の交差状態を維持する態様も考えられる。しかしながら、専用のリング部材や背当て部が必要であるため、部品点数の増加及びコストアップを招来するとともに、リング部材又は背当て部といった脇ベルトとは異なる部材が人体に直接または間接的に接触することが着用者に違和感を与える要因にもなり得る。このような不具合を解消するには、各脇ベルトをそれぞれ二枚の布地を重ねた二重構造にして、人体の背中側で脇ベルト同士を交差させた交差領域で、各脇ベルトの布地を交互に互い違いに積層し且つ脇ベルト毎における布地同士を固定していない非固定領域で脇ベルト同士を相対移動可能に構成することが好ましい。このような構成であれば、専用のリング部材や背当て部が不要であり、部品点数の削減及びコストダウンを図れるとともに、交差領域においても脇ベルトが人体に直接または間接的に接触することになり、着用者に交差領域を意識させるような違和感を与える事態を防止・抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の姿勢矯正具によれば、引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張る構成を採用したことにより、脇ベルトが脇下に食い込む事態を防止・抑制することができ、痛みや違和感を装着者に与えることなく、背中側に引っ張られる脇ベルトによって胸を反らした姿勢に矯正した状態を確保することができ、装着感に優れ、良好な姿勢矯正を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る姿勢矯正具を装着した状態の正面模式図。
【図2】図1の装着状態にある姿勢矯正具を背中側から見た図。
【図3】図2の一部(中央交差領域)を拡大して模式的に示す図。
【図4】図3のx−x線断面模式図。
【図5】図3のy−y線断面模式図。
【図6】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図7】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図8】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図9】同実施形態における中央交差領域の作用説明図。
【図10】同実施形態に係る姿勢矯正具を人体に装着する前の状態の正面模式図。
【図11】図1の装着状態に姿勢矯正具を左脇側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る姿勢矯正具1は、図1及び図2に示すように、少なくとも人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルト2と、人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されてベースベルト2の装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルト(着用者の左肩及び左脇に装着する左脇ベルト3、着用者の右肩及び右脇に装着する右脇ベルト4)とを備えたものである。
【0017】
本実施形態の姿勢矯正具1においてベースベルト2は、左右一対のベースベルト要素(左脇腹付近を通る左ベースベルト要素21、右側腹付近を通る右ベースベルト要素22)同士を人体の腹側で着脱自在に留めることによって、着用者の体型に応じてフィットした状態で固定可能なものとして構成している。各ベースベルト要素(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)のうち装着状態において人体の腹前に位置付けられる一端部にはそれぞれ面ファスナ23,24を設けている。本実施形態では、左ベースベルト要素21の一端部の上(前方側)に右ベースベルト要素22の一端部を重ねた状態で着脱自在に固定できるように、左ベースベルト要素21の一端部における前面側に面ファスナ23を縫合するとともに、右ベースベルト要素22の一端部における背面側に面ファスナ24を縫合している。なお、右ベースベルト要素22の一端部の上(前方側)に左ベースベルト要素21の一端部を重ねた状態で着脱自在に固定できるように構成することも可能であり、この場合、右ベースベルト要素22の一端部における前面側に面ファスナ23,24を縫合するとともに、左ベースベルト要素21の一端部における背面側に面ファスナ23,24を縫合すればよい。
【0018】
また、本実施形態の姿勢矯正具1では、人体の背中側において左ベースベルト要素21の他端部を右脇ベルト4に接続するとともに、右ベースベルト要素22の他端部を左脇ベルト3に接続している(図2参照)。したがって、着用者が、左右の脇ベルト3,4を両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着した状態で、各ベースベルト要素(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)の一端部同士を腹前で引っ張った状態で面ファスナ23,24により係着させると、各脇ベルト3,4を人体の背中側に引っ張ることができる。すなわち、本実施形態では、ベースベルト2が左右の脇ベルト3,4を人体の背中側に引っ張る機能を有する。
【0019】
左ベースベルト要素21は、図2に示すように、他端部を人体の背中側において右脇ベルト4と接続し、この接続箇所から左脇ベルト3に近付く方向、具体的には斜め下方に延伸し、途中で左脇ベルト3と交差している。右ベースベルト要素22も同様に、他端部を人体の背中側において左脇ベルト3と接続し、この接続箇所から右脇ベルト4に近付く方向、具体的には斜め下方に延伸し、途中で右脇ベルト4と交差している。
【0020】
本実施形態の姿勢矯正具1では、各脇ベルト3,4及び各ベースベルト要素21,22をそれぞれ二重の布地を重ねた二重構造にしている。そして、人体の背中側で脇ベルト3,4同士を交差させた領域(中央交差領域C1)、人体の左脇腹付近で左脇ベルト3と左ベースベルト要素21とを交差させた領域(左交差領域C2)、及び人体の右脇腹付近で右脇ベルト4と右ベースベルト要素22とを交差させた領域(右交差領域C3)では、各脇ベルト3,4及び各ベースベルト要素21,22の二重布地構造を利用して、交差するベルト同士(中央交差領域C1であれば左右の脇ベルト3,4であり、左交差領域C2であれば左脇ベルト3と左ベースベルト要素21であり、右交差領域C3であれば右脇ベルト4と右ベースベルト要素22である)の交差状態を維持したまま相互に所定距離内で相対移動可能な可動領域に設定している。
【0021】
すなわち、中央交差領域C1では、図3乃至図5(図3は中央交差領域C1を人体の背中側から見た模式図であり、図4は図3のx−x線断面模式図であり、図5は図3のy−y線断面模式図である。)に示すように、左脇ベルト3の下層側布地3a、右脇ベルト4の下層側布4a、左脇ベルト3の上層側布地3b、右脇ベルト4の上層側布地4bの順番で、各布地(下層側布3a、下層側布地4a、上層側布地3b、上層側布地4b)を交互に互い違いに積層している。そして、図4、図6及び図7に示すように、左脇ベルト3において下層側布地3aと上層側布地3bとを相互に固定していない非固定領域3S内で右脇ベルト4を左脇ベルト3に対して移動可能に構成するとともに、図5、図8及び図9に示すように、右脇ベルト4において下層側布4aと上層側布地4bとを相互に固定していない非固定領域4Sで左脇ベルト3を右脇ベルト4に対して移動可能に構成している。
【0022】
本実施形態の姿勢矯正具1は、左脇ベルト3の下層側布地3a及び上層側布地3bを縫合で固定するとともに、右脇ベルト4の下層側布地4a及び上層側布地4bを縫合で固定している。本実施形態では、例えば千鳥掛け(千鳥縫い)によって左脇ベルト3の布地(下層側布地3a、上層側布地3b)同士、右脇ベルト4の布地(下層側布地4a、上層側布地4b)同士をそれぞれ縫合している。なお、図1乃至図9では、縫合箇所(固定領域)をジグザグ状の線(千鳥掛け状の線)で示している。図1乃至9では、目視可能な縫合箇所は相対的に太いジグザグ状の線で示し、装着状態において目視不能な縫合箇所は相対的に細いジグザグ状の線で示している。ここで、交差領域C1及びその周囲部分に着目すると、交差領域C1と各脇ベルト3,4がそれぞれ単独で存在する領域との境界部分には2枚の布地を積層状態で固定した固定領域(縫合箇所)が形成され、交差領域C1における各脇ベルト3,4の可動領域は、各ベルト3,4において長手方向に隣り合う固定領域同士の間である非固定領域3S,4Sの範囲と一致する。したがって、用途や要求される可動範囲に応じて、脇ベルト3,4毎における布地同士を固定する固定領域を姿勢矯正具1の設計時や製造時に適宜変更したり、調整すれば、交差領域C1における各脇ベルト3,4の可動範囲を簡単に変更したり、調整することができる。
【0023】
また、本実施形態では、左脇ベルト3と左ベースベルト要素21との交差領域(左交差領域C2)、及び右脇ベルト4と右ベースベルト要素22との交差領域(右交差領域C3)を上述の中央交差領域C1に準じた構成にしている。
【0024】
具体的に、左交差領域C2では、左ベースベルト要素21の下層側布地21a、左脇ベルト3の下層側布地3a、左ベースベルト要素21の上層側布地21b、左脇ベルト3の上層側布地3bの順番で、各布地(下層側布地21a、下層側布地3a、上層側布地21b、上層側布地3b)を交互に互い違いに積層している。そして、左ベースベルト要素21において下層側布地21aと上層側布地21bとを相互に固定していない非固定領域内で左脇ベルト3を左ベースベルト要素21に対して移動可能に構成するとともに、左脇ベルト3において下層側布地3aと上層側布地3bとを相互に固定していない非固定領域で左ベースベルト要素21を左脇ベルト3に対して移動可能に構成している。
【0025】
右交差領域C3では、右ベースベルト要素22の下層側布地22a、右脇ベルト4の下層側布4a、右ベースベルト要素22の上層側布地22b、右脇ベルト4の上層側布地4bの順番で、各布地(下層側布地22a、下層側布4a、上層側布地22b、上層側布地4b)を交互に互い違いに積層している。そして、右ベースベルト要素22において下層側布地22aと上層側布地22bとを相互に固定していない非固定領域内で右脇ベルト4を右ベースベルト要素22に対して移動可能に構成するとともに、右脇ベルト4において下層側布4aと上層側布地4bとを相互に固定していない非固定領域で右ベースベルト要素22を右脇ベルト4に対して移動可能に構成している。
【0026】
本実施形態では、左ベースベルト要素21の下層側布地21a及び上層側布地21bを縫合(例えば千鳥縫い)で固定するとともに、右ベースベルト要素22の下層側布地22a及び上層側布地22bを縫合(例えば千鳥縫い)で固定している。なお、左ベースベルト要素21や右ベースベルト要素22に対する上述の面ファスナ23,24の固定にも縫合(例えば千鳥縫い)を用いている。
【0027】
また、本実施形態の姿勢矯正具1は、各脇ベルト3,4及び各ベースベルト要素21,22をそれぞれ構成する二重の布地のうち、下層側布地3a,4a,21a,22aを上層側布地3b,4b,21b,22bよりも幅寸法をそれぞれ大きく設定している。これによって、各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)が人体に直接、または肌着などの衣服を介して間接的に接触する面は幅広の下層側布地3a,4a,21a,22aのみとなり、幅広の布地を上層側に設定した場合と比較して、人体に接触する面に段差が生じず、着用者に良好な装着感を与えることができる。また、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)には、交差するベルト同士(中央交差領域C1であれば左右の脇ベルト3,4であり、左交差領域C2であれば左脇ベルト3と左ベースベルト要素21であり、右交差領域C3であれば右脇ベルト4と右ベースベルト要素22である)が重なる部分には、4枚の布地が重なった4重層領域が形成されるとともに、この4重層領域の周囲には交差するベルトの下層側布地同士と何れか一方のベルトの上層側布地が3重に重なった3重層領域や、交差するベルトの下層側布地同士だけが重なった2重層領域が形成されることになる。
【0028】
ここで、仮に各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)において4重層領域しか存在しない態様や殆ど4重層領域しか存在しない態様、つまり下層側布地及び上層側布地を同じ幅寸法の布地で構成し、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)には両方の布地が相互にずれることなく綺麗に重なり合った領域しか存在しない態様であれば、ベルト同士が交差している部分と交差していない部分(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22単体の部分)との境界部分は全て4重層領域から各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)へ一様に切り替わり、この切替部分が着用者に違和感を与える要因となり得る。
【0029】
これに対して、本実施形態の姿勢矯正具1は、上述したように、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)において4重層領域の周囲に3重層領域や2重層領域が形成されるように設定しているため、ベルト同士が交差している部分と交差していない部分(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22単体の部分)との境界部分は全て3重層領域又は2重層領域から各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)に切り替わるため、4重層領域から各ベルトに急に切り替わる態様よりも、布地の積層数を緩やかに変化させることで、各交差領域(左交差領域C2、右交差領域C3、中央交差領域C1)と各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)との境界部分が着用者に違和感を与える事態を防止したり、抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態では、図10に示すように、1本の連続するベルト(以下、「共通ベルトB」と称する)を用いて姿勢矯正具1を構成している。具体的には、共通ベルトBの始端を例えば左ベースベルト要素21の一端部(面ファスナ23を装着した端部)とし、共通ベルトBの終端を例えば右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ24を装着した端部)とすると、この共通ベルトBは、始端から左交差領域C2に向かって延伸し、この左交差領域C2を通過して中央交差領域C1の手前(中央交差領域C1よりも左交差領域C2寄りに僅かに変位した部分)まで直線状に延伸する部分によって左ベースベルト要素21を形成し、中央交差領域C1の手前から中央交差領域C1を通過してそのまま上方から下方へ右回りに周回して右交差領域C3まで延伸する部分によって右脇ベルト4を形成している。さらに、本実施形態の共通ベルトBは、右交差領域C3から左交差領域C2まで直線状に延びる部分によって右脇ベルト4及び左脇ベルト3の下端部同士を接続する脇ベルト接続部5を形成し、左交差領域C2から上方に向かって右回りに周回して中央交差領域C1を少し越えた部分(中央交差領域C1よりも右交差領域C3寄りに僅かに変位した部分)まで延伸する部分によって左脇ベルト3を形成し、中央交差領域C1を少し超えた部分から右交差領域C3を通過してそのまま終端に向かって直線状に延伸する部分によって右ベースベルト要素22を形成している。なお、共通ベルトBにおける各交差領域(中央交差領域C1、左交差領域C2、右交差領域C3)を各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)の接続部分(境界部分)として捉えることもできるが、説明の便宜上、上述の部分を各ベルト(左脇ベルト3、右脇ベルト4、左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)の接続部分(境界部分)とする。
【0031】
本実施形態の姿勢矯正具1はさらに、図1、図10及び図11に示すように、一端部を左右の脇ベルト3,4のうち人体の脇下近傍の部分に接続するとともに、他端部をベースベルト2に接続して、各脇ベルト3,4を人体の脇下から離す方向に引っ張る左右の引っ張り部6,7を備えている。左引っ張り部6は、一端部を左脇ベルト3のうち左交差領域C2よりも人体の腹前側の箇所、具体的には左脇下の箇所に縫合で固定し、他端部を左ベースベルト要素21の一端部(面ファスナ装着端部)に接続したものである。また、右引っ張り部7は、一端部を右脇ベルト4のうち右交差領域C3よりも人体の腹前側の箇所、具体的には右脇下の箇所に縫合で固定し、他端部を右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)に接続したものである。本実施形態では、左引っ張り部6及び右引っ張り部7を、脇ベルト3,4やベースベルト21,22と共に1本のベルト(共通ベルトB)を用いて構成している。なお図10では、縫合による固定箇所を示すジグザグ状の線を省略している。
【0032】
具体的には、共通ベルトBの始端が、左ベースベルト要素21の一端部よりもさらに左交差領域C2から離間する方向に延出した位置になるように共通ベルトBの長さを設定しておき、この共通ベルトBを左ベースベルト要素21の一端部付近で左脇ベルト3に向かって折り返し、共通ベルトBの始端を左脇ベルト3のうち人体の左脇下となる位置に固定する。本実施形態では、例えば千鳥掛けなどの縫合処理によって共通ベルトBの始端を左脇ベルト3に固定している。また、共通ベルトBにおいて左ベースベルト要素21の一端部と左引っ張り部6の他端部とが相互に折り重なる箇所は縫合によって折り重なった状態を固定している。以上により、一端部(上端部)を左脇ベルト3に脱着不能に固定し、他端部(下端部)を左ベースベルト要素21に脱着不能に固定した左引っ張り部6を形成することができる。なお、本実施形態では、折り重なった左ベースベルト要素21の一端部及び左引っ張り部6の他端部よりも前面側(人体から離間する側)に面ファスナ23をさらに重ねて縫合で固定している(図10参照)。
【0033】
一方、共通ベルトBの終端が、右ベースベルト要素22の一端部よりもさらに右交差領域C3から離間する方向に延出した位置になるように共通ベルトBの長さを設定しておき、この共通ベルトBを右ベースベルト要素22の一端部付近で右脇ベルト4に向かって折り返し、共通ベルトBの終端を右脇ベルト4のうち人体の右脇下となる位置に固定する。本実施形態では、例えば千鳥掛けなどの縫合処理によって共通ベルトBの終端を右脇ベルト4に固定している。また、共通ベルトBにおいて右ベースベルト要素22の一端部と右引っ張り部7の他端部とが相互に折り重なる箇所は縫合によって固定している。以上により、一端部(上端部)を右脇ベルト4に脱着不能に固定し、他端部(下端部)を右ベースベルト要素22に脱着不能に固定した右引っ張り部7を形成することができる。なお、本実施形態では、折り重なった右ベースベルト要素22の一端部及び右引っ張り部7の他端部よりも背面側(人体に近い側)に面ファスナ24をさらに重ねて縫合で固定しており、この面ファスナ24は正面からは目視不能である(図10参照)。
【0034】
このような左引っ張り部6及び右引っ張り部7は、それぞれ帯状をなす形状であることから左引っ張りベルトや右引っ張りベルトと称することもできる。
【0035】
本実施形態の姿勢矯正具1は、左引っ張り部6及び右引っ張り部7として、左右の脇ベルト3,4や左右のベースベルト要素21,22と同様に布地を二重にした二重構造体を適用している。したがって、左右の脇ベルト3,4やベースベルト要素(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)と連続する共通のベルトBを折り返して(裏返して)形成した左右の引っ張り部6,7は、幅広の布地が上層側になり、幅狭の布地が下層側になる。
【0036】
本実施形態では、熱融着性繊維を用いて生地端のほつれ等を生じさせ難くする織物・編物(言い換えれば切断後の処理が不要である)所謂フリーカット生地(マルチカット生地とも称される)によってベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)、左右の脇ベルト3,4及び左右の引っ張り部6,7を構成している。フリーカット生地としては、例えばレーヨン、ナイロンやポリウレタン等の素材(再生繊維、合成繊維等)を適宜の割合で混成したものを挙げることができる。特に伸縮性を有するフリーカット生地が好ましい。本実施形態では、長手方向には弾力的に伸縮しやすく、幅方向にはあまり伸縮しない生地を用いることが好ましい。特に、本実施形態では布地を二重にして長手方向に縫合してあることから、実質的には幅方向に殆ど伸縮しないものになっている。また、このフリーカット生地に適宜のパターンで通気穴を形成しても構わない。さらに本実施形態では、例えば厚み0.数mm程度の極めて薄い生地(布地)を2重に重ねてベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)、左右の脇ベルト3,4及び左右の引っ張り部6,7を構成しているため、装着時においてこれら各部2,3,4,6,7が装着者に違和感を与える程度に嵩張ったり、ごわつくことを防止・抑制することができるとともに、1枚ずつの布地は薄くても全体として強力な引っ張り力や締付力を得ることができる。
【0037】
本実施形態の姿勢矯正具1は、図11に示すように、左引っ張り部6の一端部(上端部)と他端部(下端部)との距離を、左ベースベルト要素21のうち左脇ベルト3との接続箇所である左交差領域C2から一端部(面ファスナ装着端部)までの距離よりも短く設定している。同様に、右引っ張り部7の一端部(上端部)と他端部(下端部)との距離を、右ベースベルト要素22のうち右脇ベルト4との接続箇所である右交差領域C3から一端部(面ファスナ装着端部)までの距離よりも短く設定している。したがって、本実施形態の姿勢矯正具1は、身体に装着する前の状態では、左右の引っ張り部6,7は直線形状となる一方、ベースベルト2を構成する左右のベースベルト要素21,22は大きく撓んだ形状になる(図10参照)。
【0038】
このような構成を有する姿勢矯正具1は、左肩及び左脇に亘って左脇ベルト3を掛けるとともに、右肩及び右脇に亘って右脇ベルト4を掛けて、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)同士を腹前に引っ張って、面ファスナ23,24同士を係合させて固定することによって身体に装着することができる。この装着状態では、人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてベースベルト2がフィットした状態にあり、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)を腹前に引っ張ることによって、左ベースベルト要素21の他端部(上端部)に接続している右脇ベルト4と、右ベースベルト要素22の他端部(上端部)に接続している左脇ベルト3が背中側に引っ張られる。その結果、着用者は、人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正した状態となる。
【0039】
そして、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、着用者が装着した状態において、左引っ張りベルト6が左ベースベルト要素21との縫合箇所を足場として左脇ベルト3を人体の左脇下から腹前に向かう斜め下前方に引っ張るとともに、右引っ張りベルト7が右ベースベルト要素22との縫合箇所を足場として右脇ベルト4を人体の右脇下から腹前に向かう斜め下前方に引っ張る。この引っ張りベルト6,7の引っ張り力によって左脇ベルト3及び右脇ベルト4がそれぞれ脇下から腹前に向かう斜め下前方に引っ張られた状態になる。つまり、本実施形態の姿勢矯正具1は、左肩及び左脇に亘って左脇ベルト3を掛けるとともに、右肩及び右脇に亘って右脇ベルト4を掛けて、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)をそれぞれ腹前に引っ張ることによって、同時に左引っ張りベルト6及び右引っ張りベルト7を人体の脇下から腹前に向かって斜め下前方に引っ張ることができ、左ベースベルト要素21及び右ベースベルト要素22の一端部(面ファスナ装着端部)同士を係合させて固定する作業によって、同時に左引っ張りベルト6及び右引っ張りベルト7が左脇ベルト3及び右脇ベルト4を脇下から離す方向に引っ張る良好なテンション付与状態を維持することができる。
【0040】
したがって、本実施形態の姿勢矯正具1は、簡単な装着方法でありながら、装着した状態では各脇ベルト3,4が背中側に引っ張られて人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正しつつ、各脇ベルト3,4が脇下に食い込もうとする力は左右の引っ張り部6,7の引っ張り力によって分散されたり、低減される。
【0041】
このように、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、ベースベルト2を着用者の体型に応じてフィットさせて固定した装着状態において、左右の脇ベルト3,4が背中側に引っ張られることで、胸を反らす方向に姿勢を矯正することができるとともに、左右の引っ張り部6,7の引っ張り力によって左右の脇ベルト3,4が脇下に食い込む事態を防止・抑制することができ、着用者に、脇ベルト3,4が脇下に食い込むことに起因する痛みや違和感を与えることがないか、少なくとも従来品よりははるかに違和感や痛みを軽減することができ、良好な装着感を与えて、長時間の使用にも適するものとなる。さらに、本実施形態の姿勢矯正具1は、着用者の体型に応じてフィットした状態で装着されるベースベルト2に左右の引っ張り部6,7の他端部を接続しているため、左右の引っ張り部6,7の引っ張り力によって、脇ベルト3,4ではなくベースベルト2が上方へずれ上がる事態を防止して、左右の引っ張り部6,7がベースベルト2との固定箇所を足場として左右の脇ベルト3,4を脇下から離間する方向に引っ張る良好なテンション付与状態を維持することができる。
【0042】
特に、本実施形態の姿勢矯正具1は、左右の引っ張り部6,7による左右の脇ベルト3,4の引っ張り方向を人体の脇下から人体の腹側に向かう斜め下前方に設定しているため、この引っ張り力が脇下に食い込もうとする左右の脇ベルト3,4の力に対向して効果的に打ち消す力となり、脇ベルト3,4が脇下に食い込む力を効果的に軽減することができる。
【0043】
さらに、本実施形態の姿勢矯正具1は、左引っ張り部6の上端部(左脇ベルト3に接続した端部)から下端部(ベースベルト2に接続した端部)までの距離を、ベースベルト2のうち人体の背中側で左脇ベルト3に接続した箇所(左交差領域C2)から左引っ張り部6が接続された箇所(左ベースベルト要素21の一端部であり、左折り返し領域とも言える)までの距離よりも短く設定するとともに、右引っ張り部7の上端部(右脇ベルト4に接続した端部)から下端部(ベースベルト2に接続した端部)までの距離を、ベースベルト2のうち人体の背中側で右脇ベルト4に接続した箇所(右交差領域C3)から右引っ張り部7が接続された箇所(右ベースベルト要素22の一端部であり、右折り返し領域とも言える)までの距離よりも短く設定するという簡単な構成によって、装着状態において各引っ張り部6,7による有効な引っ張り力を得ることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、布製の引っ張り部6,7の上端部をそれぞれ脇ベルト3,4に縫合によって固定するとともに、引っ張り部6,7の下端部をそれぞれベースベルト2(具体的には左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)に縫合によって固定しているため、例えば、各引っ張り部の下端部を自由端に設定し、ベースベルトを装着した状態で左右の引っ張り部を所定の位置まで引っ張って自由端を所定の位置に取り付けることによって引っ張り部にテンションを付与して左右の脇ベルトを脇下から離す方向に引っ張る態様と比較して、ベースベルト2を装着するだけで、左右の引っ張り部6,7に自ずとテンションを付与することができ、装着作業の簡便化を図りつつ左右の脇ベルト3,4が脇下に食い込む事態を防止したり、抑制することができる。
【0045】
特に、本実施形態の姿勢矯正具1は、左脇ベルト3及び右脇ベルト4をそれぞれ二枚の布地(下層側布地3a,4aと上層側布地3b,4b)を重ねた二重構造にして、人体の背中側で左右の脇ベルト3,4同士を交差させた交差領域(中央交差領域C1)で、各脇ベルト3,4の布地を交互に互い違いに積層し且つ左右の脇ベルト3,4毎における布地同士を固定していない非固定領域(下層側布地3aと上層側布地3bとを相互に固定していない領域3S、下層側布4aと上層側布地4bとを相互に固定していない領域4S)で左右の脇ベルト3,4同士を相対移動可能に構成しているため、専用のリング部材や背当て部を用いずに左右の脇ベルト3,4同士を交差させた状態で着用者の体型や動きに応じて相対移動可能に保持することができ、部品点数の削減及びコストダウンを図れるとともに、交差領域(中央交差領域C1)では脇ベルト(左脇ベルト3又は右脇ベルト4)が人体に直接または間接的に接触することになり、着用者に交差領域(中央交差領域C1)を意識させるような違和感を与える事態を防止・抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の姿勢矯正具1は、ベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)も二重布地構造にし、左脇ベルト3とベースベルト2との交差領域(左交差領域C2)や、右脇ベルト4とベースベルト2との交差領域(右交差領域C3)も、中央交差領域C1に準じた構成にしているため、上述とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る姿勢矯正具1は、連続する1本のベルト(共通ベルトB)から左右の脇ベルト3,4、ベースベルト2(左ベースベルト要素21、右ベースベルト要素22)及び左右の引っ張り部6,7を構成しているため、各部材をそれぞれ別体の生地から構成する場合と比較して、各部材同士を縫合などによって接続する箇所を低減することができ、製作工程の簡素化及び製作効率の向上を図ることができる。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、脇ベルト、ベースベルト、及び引っ張り部を、全て別々の生地(素材の同一は問わず)から構成することも可能である。また、脇ベルトとベースベルトを一体に形成し、これらとは別体の引っ張り部を脇ベルトやベースベルトに適宜の手段で固定したり、脇ベルトと引っ張り部を一体に形成し、これらとは別体のベースベルトを脇ベルトや引っ張り部に適宜の手段で固定したり、或いはベースベルトと引っ張り部を一体に形成し、これらとは別体の脇ベルトをベースベルトや引っ張り部に適宜の手段で固定してもよい。
【0049】
また、ベースベルトとして、複数のベースベルト要素から構成したものに代えて、腰回り乃至胸周りを周回する分離不能な環状(腹巻状)のものを適用することもできる。この場合、環状のベースベルトを頭側から被るようにしたり、又は足側から履くようにして腰乃至胸のあたりまで移動させた位置で着用者の体型に応じてフィットした状態で装着できればよい。ベースベルトを複数のベースベルト要素から構成する場合、ベースベルト要素同士を着脱自在に固定する手段として、面ファスナやベルベットファスナに代えて、または加えて、ボタンやチャック、或いはフック部材などを用いた固定手段を採用しても構わない。
【0050】
また、上述した実施形態では、ベースベルトの装着状態において、ベースベルトによって脇ベルトを背中側へ引っ張る態様を例示したが、ベースベルト以外の適宜の部材、例えば脇ベルト同士を人体の背中側で相互に近付ける方向に引っ張る部材などによって脇ベルトを背中側へ引っ張るように構成することもできる。この場合、ベースベルト及び脇ベルトは相互に直接接続されている必要はなく、引っ張り部を介して間接的に接続したものであればよい。
【0051】
引っ張り部として、脇ベルトを脇下から離す方向に引っ張る適切な引っ張り力を確保できる要件を満たせば、帯状(ベルト状)ではなく、紐状のものや線状のものを適用することもできる。また、各ベルトに複数の引っ張り部を付帯させる(接続させる)ことでより一層強力な引っ張り力を得ることができるように構成してもよい。或いは、引っ張り部として、例えばY字状のものを適用し、二股状に分かれている左右一対の上端部をそれぞれ左右の脇ベルトに接続し、1つだけの下端部をベースベルトに接続することによって、各脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張るように構成することも可能である。
【0052】
さらには、ベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部をそれぞれ異なる素材で構成したり、あるいはこれらのうち選択した2つの部材を同一素材で構成し、他の1の部材を異なる素材から構成しても構わない。また、各ベルト(ベースベルト、脇ベルト、引っ張り部)のベルト幅(帯幅)は、同一であってもよいし、相互に異ならせた寸法に設定してもよい。
【0053】
また、引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに接続する態様として、接着や溶着(熱溶着、高周波溶着、超音波溶着)などで着脱不能に接続(固定)する態様や、ファスナ材(面ファスナやベルベットファスナなど)やフック部材、或いはチャックやボタンなどの係合部材を用いて着脱可能に接続する態様、また、引っ張り部及び脇ベルトを相互に連続する共通の生地から構成して接続する態様を採用することができる。引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに着脱自在に接続する構成を採用した場合には、着用者自身が引っ張り部の端部を脇ベルト又はベースベルトに接続する箇所を変更したり、適宜選択することによって引っ張り部による脇ベルトの引っ張り力を調整することができ、好適である。
【0054】
引っ張り部による脇ベルトの引っ張り方向を、真下方向に設定したり、斜め下後方に設定してもよい。
【0055】
また、フリーカット素材ではない生地(布地)によって姿勢矯正具の各部を形成したり、通気性に優れたメッシュ素材によって姿勢矯正具の各部を形成することもできる。
【0056】
また、脇ベルトやベースベルトを構成する生地よりも伸縮性に乏しい素材によって引っ張り部を形成し、装着状態において脇ベルトやベースベルトよりも伸び難い引っ張り部によって脇ベルトを脇下から離間する方向に引っ張り込むように構成した姿勢矯正具であっても構わない。
【0057】
ベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部の全部または一部を1枚の布地(複数層に重ねていない布地)で形成することも可能である。この場合、各交差領域では、適宜の保持部材を用いて交差するベルト同士の交差状態を維持しつつベルト同士の相対移動を許容する構成にすればよい。2枚の布地を重ねてベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部の全部または一部を形成する場合は、布地同士を千鳥縫い以外の縫合で固定したり、接着、溶着(熱溶着、高周波溶着、超音波溶着)で固定しても構わない。なお、2枚の布地を重ねてベースベルト、脇ベルト及び引っ張り部の全部または一部を形成する場合、2枚の布地の素材や種類を相互に異ならせることもできる。
【0058】
また、人体の背中に接触し得る背当て部を備え、脇ベルト又はベースベルトの少なくとも何れか一方或いは両方を背当て部に接続した姿勢矯正具にすることもできる。この場合、装着状態において背当て部自体が脇ベルトを人体の背中側に引っ張る機能を発揮するように構成することもできる。また、上端部を左右の脇ベルトの上端部または上端部近傍に接続し、背当て部の背面側(人体の背中に接触しない側)で、又は背当て部を袋状に形成している場合にはその内部空間内で、相互に交差させ、下端部をベースベルトに接続した左右一対の脇ベルト引っ張り用ベルトを備えた姿勢矯正具とし、装着状態において脇引っ張り用ベルトが背当て部と協働して又は単独で脇ベルトを背中側へ引っ張るように構成することもできる。
【0059】
また、引っ張り部の形状や素材、或いはベースベルトや脇ベルトに対する引っ張り部の接続箇所など、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…姿勢矯正具
2…ベースベルト
3…左脇ベルト
4…右脇ベルト
6…左引っ張り部
7…右引っ張り部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルトと、
人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されて前記ベースベルトの装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルトと、
一端部を前記脇ベルトのうち人体の脇下近傍の部分に接続し且つ他端部を前記ベースベルトに接続した状態において前記脇ベルトを人体の脇下から離す方向に引っ張る引っ張り部とを備えていることを特徴とする姿勢矯正具。
【請求項2】
前記引っ張り部による前記脇ベルトの引っ張り方向が人体の脇下から人体の腹側に向かう斜め下前方である請求項1に記載の姿勢矯正具。
【請求項3】
前記引っ張り部の前記一端部を前記脇ベルトに接続した箇所から前記他端部を前記ベースベルトに接続した箇所までの距離を、前記ベースベルトのうち人体の背中側で前記脇ベルトに接続した箇所から前記引っ張り部が接続された箇所までの距離よりも短く設定している請求項1又は2に記載の姿勢矯正具。
【請求項4】
前記引っ張り部の前記一端部を前記脇ベルトに固定するとともに、前記他端部を前記ベースベルトに固定している請求項1乃至3の何れかに記載の姿勢矯正具。
【請求項5】
前記各脇ベルトがそれぞれ二枚の布地を重ねた二重構造であり、人体の背中側で前記脇ベルト同士を交差させた交差領域において、前記各脇ベルトの布地を交互に互い違いに積層し且つ前記脇ベルト毎における布地同士を固定していない非固定領域で前記脇ベルト同士を相対移動可能に構成している請求項1乃至4の何れかに記載の姿勢矯正具。
【請求項1】
少なくとも人体の腹側の腰乃至胸に着用者の体型に応じてフィットさせた状態で装着可能なベースベルトと、
人体の両肩及び両脇に亘ってそれぞれ装着されて前記ベースベルトの装着状態において人体の背中側に引っ張られることによって人体の胸を反らす方向に姿勢を矯正する左右一対の脇ベルトと、
一端部を前記脇ベルトのうち人体の脇下近傍の部分に接続し且つ他端部を前記ベースベルトに接続した状態において前記脇ベルトを人体の脇下から離す方向に引っ張る引っ張り部とを備えていることを特徴とする姿勢矯正具。
【請求項2】
前記引っ張り部による前記脇ベルトの引っ張り方向が人体の脇下から人体の腹側に向かう斜め下前方である請求項1に記載の姿勢矯正具。
【請求項3】
前記引っ張り部の前記一端部を前記脇ベルトに接続した箇所から前記他端部を前記ベースベルトに接続した箇所までの距離を、前記ベースベルトのうち人体の背中側で前記脇ベルトに接続した箇所から前記引っ張り部が接続された箇所までの距離よりも短く設定している請求項1又は2に記載の姿勢矯正具。
【請求項4】
前記引っ張り部の前記一端部を前記脇ベルトに固定するとともに、前記他端部を前記ベースベルトに固定している請求項1乃至3の何れかに記載の姿勢矯正具。
【請求項5】
前記各脇ベルトがそれぞれ二枚の布地を重ねた二重構造であり、人体の背中側で前記脇ベルト同士を交差させた交差領域において、前記各脇ベルトの布地を交互に互い違いに積層し且つ前記脇ベルト毎における布地同士を固定していない非固定領域で前記脇ベルト同士を相対移動可能に構成している請求項1乃至4の何れかに記載の姿勢矯正具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−85696(P2013−85696A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228733(P2011−228733)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(502412732)株式会社セルヴァン (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(502412732)株式会社セルヴァン (3)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]