説明

姿勢補助用フレキシブルバー

【課題】心身障害児が筋緊張を起こすことなく座位姿勢等様々な正姿勢をとることをサポートし、高い生活の質を実現すると共に、その姿勢を学習しながらリラックスすることができる介護補助具を提供する。
【解決手段】可撓性を有しかつ曲がった形状を維持できる可撓性芯材と、その可撓性芯材の周囲を覆うスポンジ状被覆体と、そのスポンジ状被覆体の外形断面が長方形をしていることと、からなる姿勢補助用フレキシブルバー10が提供される。姿勢補助用フレキシブルバー10を障害児の骨盤を包み込むように腰を支えることにより脊椎が伸ばされ体幹が安定する。小さな姿勢補助用フレキシブルバー20を首の回りに巻き首が固定される。障害児は腰から首にかけて安定した姿勢を探そうとリラックスしながら学習する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心身障害児等の体幹の姿勢を補助する介護補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
重症心身障害児の生活行動は、食事、入浴以外は睡眠時のように寝た姿勢で過ごすのが殆どである。寝た姿勢の中で仰臥位(あおむけ)、伏臥位(うつぶせ)、側臥位(横向き)と体位変換してもらいながらの生活が、高い生活の質(クオリティオブライフ(QOL))を配慮されたものと評価されている。さらに、関節や体幹の変形を見ると体幹を支えた姿勢、即ち、座位姿勢が生活行動としてあれば、関節等の変形や筋肉の拘縮が緩和されより高いQOLが得られると考えられている。
【0003】
心身障害児の場合、自分で姿勢を作ることが困難なため、多くが筋緊張を配慮した座位保持椅子で座位姿勢の学習を始める。座位保持椅子とは、特開2004−242839号公報の図1にも記載されているように、体幹を支える背もたれ部の両側や、臀部から下肢を固定する座面部の凹凸をクッションで着座者の身体形状に合わせて形成したものである。
また、出願人は、特開2005−74191号公報で患者の姿勢を保持する姿勢保持具を提案した。これは可撓性芯材の周囲をスポンジ状被覆体で覆ったもので断面が円形の棒形状をしている部材である。これを患者の支持しようとする部位の周りに巻き付け、姿勢を保持しようとするのである。しかし、この姿勢保持具で座位保持をしようとすると断面が円形のため障害児との接触面積が小さく、障害児が不安を感じ筋緊張を起こしやすいという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−242839号公報
【特許文献2】特開2005−74191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、座位保持椅子は高価であるにも関わらず障害児が成長すると体型にあったものに買い換えなければならない。
ただでさえ動きを制限されている障害児が、椅子に姿勢を保つクッションで固定されてしまえば他者の手を借りても動きは制限されてしまう。このように動きがとれないということは障害児にとって精神的に負担であり、学習面においても学習範囲を狭くしてしまう。正しい姿勢を学習することはとても大事なことであるが、その姿勢を導く動作も同様に学習することが重要である。たとえば、高齢者の方で腰痛のある人が寝起きに手を使わずに起き上がろうとすると、筋力が低下しているため腰に負担が掛かってしまう。そこで、手を使い、手で体を支えながら起き上がるという動作を一度学習すると次からは手を使って起き上がるようにするであろう。このように、健常者にとって動作の学習は自然に行われている。
【0006】
しかし、障害児の場合、他者に正しい姿勢を誘導してもらうため学習すべき過程が抜けてしまうのである。そのため、無理にでも正姿勢を取ろうとして筋緊張を引き起こしてしまうというように逆の作用につなげてしまうことも少なくない。正姿勢だけではなく正姿勢を導く動作も学習しなければならず、また、固定するだけでは学習につながらない理由である。筋緊張は、体を支える支持面が減る、気持ちが不安定なとき等にも起き、障害児の気持ちがリラックスしていないときに起きやすい。また、正常な姿勢というのは楽に効率よくできるようになっている。つまり、身体的な側面からだけではなく、精神的にもリラックスすると云うことは自然な学習を促す上で非常に重要なことなのである。障害児も健常児と同様に良い動作、悪い動作を含む全ての動作を学習している。そこで学習しながらリラックスすることができる介護補助具が望まれる。
【0007】
従来の座位保持椅子や姿勢保持具は身体的側面にのみ着目したものであり、障害児の精神的側面学習的側面に配慮したものではなかった。そこで本発明は、体幹を支える姿勢すなわち座位姿勢から高いQOLの実現を図ると共に、精神的なゆとりを持つことができ学習しながらリラックスすることができる介護補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明では、可撓性を有しかつ曲がった形状を維持できる可撓性芯材と、その可撓性芯材の周囲を覆うスポンジ状被覆体と、そのスポンジ状被覆体の外形断面が長方形をしていることと、を備えることを特徴とする姿勢補助用フレキシブルバーが提供される。
また、前記可撓性芯材が、球形状部と球受け部が連続した合成樹脂部品を次々に連結して芯材としたものであることを特徴とすることができる。
さらに、前記スポンジ状被覆体の外側に、布製のカバーが被せられていることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
体幹を自分で支えることができない座位の困難な障害児に対しては、床に座っている状態で、前記姿勢補助用フレキシブルバーで骨盤を包み込むようにして腰部から腹部へ沿わせる。すると、姿勢補助用フレキシブルバーはあたかも母親の両手のように障害児の腰を支える。障害児の意識は姿勢補助用フレキシブルバーとの接触部に働き、自然に脊椎が伸ばされ体幹が安定し、座位の確保がしやすくなる。座位の確保を補助することは自分で安定した姿勢を探すことから動きの学習につながる。
【0010】
障害児のリラックスした姿勢には、お母さんにだっこされている時やお父さんのあぐらに乗っている時などがあり、これらの姿勢は安定感や安心感、安堵感も得られると考えられる。姿勢補助用フレキシブルバーではこれらの姿勢をできるだけ再現できるようにしたものである。姿勢補助用フレキシブルバーはフレキシブルに動くバーであって、柔らかく厚みのあるスポンジ状被覆体により肌触りが柔らかくなる。そして、その外形断面を長方形としたことで長辺が形成する表面の面積が大きくなり肌との接触面を増やし床面への支持面を大きくすることができるので障害児の身体に密着させることで障害児に強い安心感、安定感を与えることができる。また、外形断面が長方形であるのでねじることが可能になり肌との接触面を調節することが可能になった。
【0011】
姿勢補助用フレキシブルバーは、座位姿勢だけではなく、その可撓性から側臥位とか車椅子に座った姿勢とかの障害児の種々の姿勢を補助することができ、長方形断面からくる広い支持面から安心感、安定感を与えることができる。それ故、障害児教育においてバランス感覚など感覚機能の発達を促すことができる。さらに、姿勢補助用フレキシブルバーは、曲げたり伸ばしたりひねったりして任意の形状にできるので、クッション、背もたれ、枕などその時々に応じて使い分けることができ、汎用性が高い。
【0012】
また、可撓性芯材として、球形状部と球受け部が連続した合成樹脂部品を次々に連結して芯材としたものは、芯材をどの方向にも屈曲することができると共にどの屈曲位置においても球形状部と球受け部の摩擦力により一定の姿勢維持力を発揮するので芯材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明に係る姿勢補助用フレキシブルバー10を破断して示す斜視図である。姿勢補助用フレキシブルバー10は、例えば、長さが150cm、幅が13cm、厚さが6cmの外形断面が長方形をした直方体の柔らかい補助具である。中心に合成樹脂で形成された可撓性芯材11が配置される。可撓性芯材11は、直径が15mm程度で、可撓性を有しかつ曲がった形状をある程度の力で維持できる部材である。可撓性芯材11の周囲を発泡ウレタンからなるスポンジ状被覆体12が覆っている。スポンジ状被覆体12は外形断面が長方形をし、その中心に可撓性芯材11が埋設される。スポンジ状被覆体12の外側には布製のカバー13が被覆され、肌触りを良くしている。
【0014】
図2は、合成樹脂で構成された可撓性芯材11を示す分解斜視図である。可撓性芯材11は、球形状部15と玉受け部16が連続した合成樹脂部品17を次々に連結して長い芯材としたものである。球形状部15はその外形面が球状をなすように形成されている。玉受け部16はその内周面16Aが球面状に作られている。球形状部15が隣接する合成樹脂部品17の玉受け部16の内周面16Aに填り込んで、合成樹脂部品17が線状に多数連結される。球形状部15と玉受け部16との連結が球面の嵌合によるものであるから、隣接する合成樹脂部品17の間で任意の方向に角度を付けることができる。すなわち、合成樹脂部品17を連結してできた芯材は可撓性を有する。そして、連結された球形状部15と玉受け部16の内周面16Aとの摩擦により、適度の姿勢維持力を発揮する。可撓性芯材11がこのように構成されているから、姿勢補助用フレキシブルバー10を曲げたりねじったりして任意の形状にし、障害児の体を支えることができる。以下、使用例について説明する。
【0015】
〔使用例1〕体幹を自分で支えることができない座位の困難な障害児に対して。
図3に示すように、体幹を自分で支えることができない座位の困難な障害児に対しては、床に座っている状態で、姿勢補助用フレキシブルバー10で骨盤を包み込むようにして腰部から腹部へ沿わせる。すると、姿勢補助用フレキシブルバー10はあたかも母親の両手のように障害児の腰を支える。障害児の意識は姿勢補助用フレキシブルバー10との接触部に働き、自然に脊椎が伸ばされ体幹が安定し、座位の確保がしやすくなる。座位の確保を補助することは自分で安定した姿勢を探すことから動きの学習につながる。また、同時にお母さんの両手が空き、障害児を常に支えていなくても良くなる。両手が空くことは食事介助を楽にし、本を読んであげたりすることもでき、障害児とのコミュニケーションの幅を広げることにつながる。
【0016】
〔使用例2〕首が据わらない障害児に対して。
図4に示すように、小型の(長さが50cm程度の)姿勢補助用フレキシブルバー20を首の回りに巻き付ける。するとクッション材で首だけを覆うので首が固定される。図4のように、車椅子での使用の場合にも、頭自体を固定するわけではないのでその時々に応じて使用を変えられる。また、大型の姿勢補助用フレキシブルバー10で骨盤を包み込み、骨盤の支承と首の支承を併用すると、障害児はより一層、腰から首にかけての安定した姿勢を探そうとし学習するので好適である。
【0017】
〔使用例3〕寝たきりの姿勢で自分で体を動かせない障害児に対して。
図5に示すように、障害児を側臥位にし、大型の姿勢補助用フレキシブルバー10を背中からお尻を通り、股に挟んで腹部に沿わせるようにする。小型の姿勢補助用フレキシブルバー20は枕として使用する。大型の姿勢補助用フレキシブルバー10は接触面積が大きいので簡易な背もたれと前もたれができる。これは、側臥位の姿勢を維持し、側臥位から仰臥位や伏臥位になるのを予防する。そして、仰臥位から伏臥位へ、伏臥位から仰臥位へ体位変換する動作に必要な側臥位を学習するのに好適である。従来のように、側臥位を保つためにいくつものクッションを用いて隙間を埋めるようにしなくても簡単に体に合わせて姿勢補助用フレキシブルバー10を沿わせることができる。
【0018】
〔使用例4〕伏臥位の際に気道確保が困難な障害児に対して。
図6に示すように、姿勢補助用フレキシブルバー10を両腕の下を通すようにし、姿勢補助用フレキシブルバー10であごを支える。このとき、あごの高さの調節は姿勢補助用フレキシブルバー10のねじれを利用する。従来は伏臥位にした場合、気道の確保をするためにいくつものクッションを使用して高さを調整し、首が安定するように首の置き場を作っていたが、姿勢補助用フレキシブルバー10を用いれば簡単に気道確保ができる。
【0019】
〔使用例5〕車椅子での首の固定と横ずれ防止。
図7に示すように、姿勢補助用フレキシブルバー10の中心が首の後ろに来るようにして、肩、脇下、腰側面の順に沿わせて下向きU字状に使用する。両先端は体に沿わせるようにするか体に巻き付けるように折り曲げる。姿勢補助用フレキシブルバー10は首を後ろから支承すると共に、体の両側方を支承する。これにより、首が固定され気道が確保されると共に、体の横へのずれが防止される。
【0020】
〔使用例6〕車椅子での座位の安定感の向上。
図8に示すように、姿勢補助用フレキシブルバー10の中心を膝の下に入れ、腰側面、両脇下まで沿わせてU字状に使用する。場合によっては残った先端を曲げて前方に出し腕を乗せるようにする。姿勢補助用フレキシブルバー10は体の両側方を支承する。姿勢補助用フレキシブルバー10上に膝が乗り、膝が持ち上げられることで座骨が下がるので前へのずり落ちが防止でき、座位の安定感がアップする。
【0021】
〔使用例7〕座位の安定感の向上。
図9に示すように、姿勢補助用フレキシブルバー10を膝の下を通し、ひねって後方に延伸させ骨盤の周りを抱えるように支承する。骨盤が支えられることにより脊椎が伸び、障害児の姿勢が良くなる。また、姿勢補助用フレキシブルバー10上に膝が乗り、膝が持ち上げられることで座骨が下がるので座位の安定感がアップする。障害児はあたかもお父さんのあぐらに乗っている時のような感じとなり、強い安定感、安心感を与えることができる。
【0022】
〔使用例8〕座位時に体幹が安定しない障害児に対して。
複数の姿勢補助用フレキシブルバーを上下に積み重ね、マジックテープ等で固定することにより簡便な背もたれができ、体に沿わせることができるので障害児の上体を支えることができる。また、横に倒れてしまう障害児には、サイズを調整して肩の部分を覆うようにすれば横倒れが防止できる。
【0023】
〔使用例9〕褥瘡のある障害児に対して。
姿勢補助用フレキシブルバーの可撓性芯材の中にひもを通して環状のクッションを作る。中心が空間になった環状のクッションになるので患部を保護することができる。腕などに褥瘡があり動きのある障害児だと、一部分を浮かしていても動けば患部を床等につけてしまう。そこで、患部近くの腕に姿勢補助用フレキシブルバーを巻き付けて、動かしても患部が床につかないようにすることができる。
【0024】
〔使用例10〕胸部の圧迫を嫌う障害児に対して。
仰臥位の状態で胸の上に隙間を作る形で、姿勢補助用フレキシブルバーでアーチを作り、アーチの上から布団を掛ける。姿勢補助用フレキシブルバーと障害児の胸の間に隙間が確保できるので胸が圧迫されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】姿勢補助用フレキシブルバーを破断して示す斜視図である。
【図2】合成樹脂で構成された可撓性芯材を示す分解斜視図である。
【図3】体幹を自分で支えることができない座位の困難な障害児に対しての姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す正面図である。
【図4】首が据わらない障害児に対しての姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す正面図である。
【図5】寝たきりの姿勢で自分で体を動かせない障害児に対しての姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す平面図である。
【図6】伏臥位の際に気道確保が困難な障害児に対しての姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す正面図である。
【図7】車椅子での首の固定と横ずれ防止を図った姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す斜視図である。
【図8】車椅子での座位の安定感の向上を図った姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す正面図である。
【図9】座位の安定感の向上を図った姿勢補助用フレキシブルバーの使用例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 姿勢補助用フレキシブルバー
11 可撓性芯材
12 スポンジ状被覆体
13 カバー
15 球形状部
16 玉受け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有しかつ曲がった形状を維持できる可撓性芯材と、
その可撓性芯材の周囲を覆うスポンジ状被覆体と、
そのスポンジ状被覆体の外形断面が長方形をしていることと、
を備えることを特徴とする姿勢補助用フレキシブルバー。
【請求項2】
前記可撓性芯材が、球形状部と球受け部が連続した合成樹脂部品を次々に連結して芯材としたものであることを特徴とする請求項1に記載の姿勢補助用フレキシブルバー。
【請求項3】
前記スポンジ状被覆体の外側に、布製のカバーが被せられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の姿勢補助用フレキシブルバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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