説明

官能特性改善のための方法およびマイクロカプセル

本発明は、コアセルベーション法によって得られたマイクロカプセルに関する。前記マイクロカプセルは、熱処理された動物性油脂をカプセル化し、驚くべきことに、食品、例えば、食肉、ドッグフード、および動物の飼料の口当たり特性および多汁性を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物性油脂を含む、熱処理された組成物がカプセル化された、コアセルベーション法によって得られたマイクロカプセルに関する。本発明は、さらにはマイクロカプセルの製造方法、マイクロカプセルを含む食品、および食べ物の官能特性の改善方法に関する。
【0002】
本発明の背景及び解決されるべき課題
香味産業の普遍の課題は、飲食をよりよい体験にすることであり、従って明確な量の均衡のとれた香味組成物の食品への添加が快い体験を提供し、食品全体の価値を高める。この目的を達成するため、新規の香味体験を提供する、さらに新しい香味分子を見つけるため、新規の香味組成物を創造するため、天然の原材料から香味を分離するため、および香味組成物を合成する新規のやり方を見つけるための、たゆまぬ努力がなされている。
【0003】
一般に、カプセル化の系は特定の香味が、予め決定した場所でのみその効果を発揮するのを確実にするために使用される。従って、カプセル化の通常の目的は、貯蔵に安定で、可搬型で、且つ容易に加工可能な形の香味を提供することであり、それは好ましくは消費の間およびその直前にも放出することを可能にすることである。
【0004】
香味剤へのカプセル化の使用は詳細に記載されている。例えば、US5,759,599号は、香味をコアセルベーションによってカプセル化し、引き続き調理される食材、例えば食肉あるいは魚に添加することによる食物の香味付け方法を開示する。コアセルベーションによる香味剤のカプセル化について報告している他の文献は、WO89/04714号、US5,952,007号およびUS6,592,916号である。
【0005】
上述の先行技術、特にUS5,759,599号において、記載された発明の目的は、肉に香味を注入することによって香味を付与し、コアセルベート型の系内でのカプセル化によって劣化から保護することである。しかしながら、香味の代わりに、最終製品に他の特徴、例えば口当たりおよび/または多汁性を付与したい場合もある。
【0006】
従って、本発明の課題は、食物の官能特性を香味の添加以外の方法で改善することである。当然、食物の官能特性を容易に利用可能で低価格の材料を用いて改善することは有利である。
【0007】
より具体的には、本発明の課題は、一般的な食肉、魚およびシーフードの官能特性および口当たりを改善することである。作り方次第で、食肉は調理中に乾燥し、その初期の柔らかさを失う。その場合、一般に咀嚼すると堅く、無味に感じ、その消費を魅力的でないものにする。従って特に本発明の課題は、消費中の食肉の多汁性を増加させることである。
【0008】
本発明のさらなる課題は、廃材を含む、食肉産業の材料を利用し、且つその価値、味、口当たりおよび全般的な官能特性を改善することである。従って、1つの課題は、好ましい風味を有するとは思われていない材料である獣脂を、全般的な官能特性の見地で食品に追加的な利益を提供する材料に変換することである。
【0009】
発明の要約
特筆すべきことに、本発明者らは、熱処理を含む工程に油脂ベースの材料をさらすことによって、前記油脂をマイクロカプセル内にカプセル化することによって、且つカプセル化した油脂を食肉、魚および/またはシーフード製品に添加することによって、食物の全般的な官能特性が明瞭に改善できることを見出した。驚くべきことに、消費者は増加した多汁性および/または口当たりのために、マイクロカプセルを含む食肉製品を高く評価した。
【0010】
従って、第一の側面において本発明は、カプセル壁とカプセル化された材料とを含み、
− 前記カプセル壁は、コアセルベートされ、架橋されたコロイドタンパク質材料、および随意に非タンパク質コロイドを含み、且つ
− 前記カプセル化された材料は、30〜100質量%の動物性油脂を含む、熱処理された組成物、および随意に0〜10質量%の添加された香味剤を含む
マイクロカプセルを提供する。
【0011】
第二の側面において本発明は、前記マイクロカプセルを含む食品を提供する。
【0012】
第三の側面において本発明は、0.2〜5質量%の本発明のマイクロカプセルを食物に添加する工程を含む、食物の官能特性を改善する方法を提供する。
【0013】
第四の側面において本発明は、本発明のマイクロカプセルを食肉および/または魚ベースの食物に添加する工程を含む、食肉および/または魚ベースの食物の多汁性を改善する方法を提供する。
【0014】
第五の側面において本発明は、
− 30〜100質量%の動物性油脂を含む組成物を熱処理し、
− 随意に0.10質量%の香味剤を組成物に添加し、
− 水中のタンパク質、随意に非タンパク質コロイド溶液を製造し、且つ該溶液中で組成物の粒子および/または液滴を懸濁あるいは乳化し、
− 組成物の液滴および/または粒子周りにタンパク質を含むコロイド壁を形成し、
− コロイド壁を架橋する
工程を含む、コアセルベーションによるマイクロカプセルの製造方法を提供する。
【0015】
第六の側面において本発明は、
動物性油脂、水、アミノ酸および糖類を含む混合物を製造し、
前記組成物を90〜150℃で0.5〜3時間熱処理し、そして
随意に1つあるいはそれより多くの疎水性、揮発性香味剤を添加し、添加した揮発性香味剤が組成物の疎水材料の0〜10質量%を占める
工程を含む、動物性油脂の官能特性を改善する方法を提供する。
【0016】
本発明の目的では、用語"含む"あるいは"含んでいる"は、"包含する"を意味すると意図している。それは"それだけから成る"を意味するという意図ではない。
【0017】
本発明は、多数の予想外の利点を提供する。第一に、消費者は本発明による食物を従来のように香味付けられただけの食物よりも好んだ。コアセルベート化された壁を含む、本発明のマイクロカプセル内への動物性油脂のカプセル化が、室温あるいは作業温度でカプセル化されていない形態でのそれらの成分の特性のために、それらの温度で注入できなかった成分の注入を可能にすることも利点である。
【0018】
さらには、本発明は廃材、例えば獣脂を含む、油脂ベース材料の新規の使用を提供する。熱処理を含む工程で廃材を変換することによって、それは食物の官能特性の改善、例えば食肉の多汁性の増加に有用になる。
【0019】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は熱処理された動物性油脂をカプセル化したマイクロカプセルを提供する。熱処理は動物性油脂の官能特性を改善するのに有用であり、そうでなければそれは廃材として処分されるかもしれない。
【0020】
従って、改善した官能特性を有する動物性油脂が、熱処理を含む工程によって得られる。この工程は、混合物の成分が互いに作用し合い、従って、動物性油脂の官能特性を修正できる反応工程を指すこともある。
【0021】
動物性油脂は、例えば牛、鹿、羊、豚、らくだ、鳥、魚、軟体動物を含む、任意の動物由来の油脂であってよい。好ましい実施態様によれば、動物性油脂は、牛脂、豚脂、鶏脂、羊の脂、随意に加水分解した魚脂およびそれらの組み合わせから選択される油脂を含む。1つの実施態様によれば、前記動物性油脂は、50〜100質量%の飽和脂肪酸を含む。好ましくは、前記動物性油脂は、獣脂であり、より好ましくは、それは牛脂である。
【0022】
好ましい実施態様によれば、前記動物性油脂は15〜25℃の範囲の融解温度を有する。
【0023】
第一の工程において、水、アミノ酸、糖類、元の動物性油脂、および随意に他の脂質を含む混合物が製造される。典型的には、この混合物は:
− 動物性油脂を含む、50〜95質量%の脂質
− 1.5〜10質量%の水
− 0.3〜5質量%の糖類
− 0.01〜1質量%のアミノ酸
を含む。
【0024】
熱処理に使用し得る糖類の例は、ショ糖、キシロース、ブドウ糖、果糖、リボース、麦芽糖、乳糖、等である。任意のこれらの糖類を、単独あるいは2つまたはそれより多くの先述の糖類を含む組み合わせ、あるいは先述の糖類の1つと随意に1つまたはそれより多くの他の糖類を含む組み合わせの形態で使用してよい。
【0025】
任意のアミノ酸を前記の反応混合物の製造に使用し、熱処理できる。従って、必須アミノ酸および非必須アミノ酸を反応混合物に添加できる。例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンが使用できる。
【0026】
好ましくは、スレオニン、セリン、リシン、ヒスチジン、アラニン、グリシン、システイン、グルタミン、グルタミン酸、プロリンおよびアルギニンから、1つあるいはそれより多くのアミノ酸が選択される。
【0027】
さらなる成分が、熱処理の前に混合物中に存在してよく、一般に少量(<2質量%)で、例えば酵母、酵母エキス、香味強化剤および香味剤が存在してよい。
【0028】
動物性油脂は一般に、脂質の混合物の30〜100質量%、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは55〜80質量%を占める。動物性油脂は任意の動物性油脂、好ましくは上述の動物性油脂あるいはそれらの油脂の組み合わせであってよい。
【0029】
添加できる他の脂質は、例えば油および脂肪、および脂肪酸を含む。短鎖のトリグリセリド、中鎖のトリグリセリド、並びに短鎖の脂肪酸および中鎖の脂肪酸も従って添加できる。好ましくは、脂肪酸は一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、および飽和脂肪酸から選択される。好ましくは、もし存在すれば、C8〜C18脂肪酸が好ましくは混合物に添加される。
【0030】
一般に、動物性油脂は、混合物の全ての脂質の主成分を提供する。しかしながら、熱処理される混合物の脂質は、動物性油脂のほかに、上述の脂肪酸、および/または植物性油および/または脂肪を含んでよい。従って、他の脂質、例えば脂肪酸、およびまたは植物は脂質の混合物の10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜60質量%を提供してよい。植物性油および/または脂肪酸は、例えばキャノーラ油および/またはオレイン酸、ヒマワリ油から選択されてよい。
【0031】
一般に、熱処理の前に、加熱した水(45〜75℃)中で水溶性成分を最初に溶かし、続いて、動物性油脂を含む脂質を添加する。
【0032】
さらなる工程において、熱処理は、前記混合物を80〜180℃で0.3〜4時間加熱することによって行われる。この工程は、好ましくは、気密閉鎖され、且つ高圧に耐え得る容器あるいは反応釜の中で行う。好ましくは、熱処理を90〜150℃で0.5〜3時間、より好ましくは100〜140℃で0.75〜2.5時間行う。好ましくは、温度を熱処理の間、指定した範囲に保ち、より好ましくは温度を全熱処理の間中、実質的に一定の値に保つ。従って本発明の目的では、熱処理は本段落で指定した温度での処理を指す。
【0033】
上に示したように、熱処理の間、反応混合物は好ましくは高圧、好ましくは20〜40psi(1psi≒0.0689bar≒6895Pa)、より好ましくは25〜35psiに晒される。この圧力は、熱処理の容器の内部に存在する。
【0034】
熱処理の後、混合物を好ましくは脂質の融点より高い温度に冷却し、そして残留成分を含む水を好ましくは除去し、本発明のマイクロカプセルの製造にさらに使用し得る疎水組成物を得る。前記疎水組成物は一般に30〜100質量%の動物性油脂を含む。
【0035】
前記疎水組成物を、好ましくは濾過によってさらに浄化する。
【0036】
動物性油脂を含む疎水組成物に直ちにさらなる処理をしないのであれば、さらなる使用をするときまで、それを室温以下、好ましくは0〜10℃で保存してよい。
【0037】
随意の工程において、疎水組成物に香味剤を添加してもよい。一般に、ほんの少量の風味剤を疎水組成物に添加する。
【0038】
風味剤は、高い揮発性あるいは蒸気圧のために、飲食の前あるいは最中に、鼻の嗅覚の受容体に届く化合物である。このようにして、風味剤は食品の臭気あるいは香味に作用する。本発明の目的では、香味剤は25℃での蒸気圧が0.01Pa以上であることによって特徴付けられる化合物である。ほとんどの香味剤がこの値を上回る蒸気圧を有しており、一方で、脂質、例えば動物性油脂、オレイン酸等は一般にそれよりも低い蒸気圧を有している。
【0039】
本発明の目的および利便性の目的で、蒸気圧は計算によって決定される。従って、"EPI suite";2000 米国環境保護庁内に開示される方法を使用して、特定の化合物あるいは材料の成分の蒸気圧の具体的な値を決定する。このソフトウェアは無料で使用可能であり、且つ様々な科学者の種々の方法によって得られた蒸気圧の平均値に基づいている。
【0040】
好ましくは、動物性油脂ベースの疎水組成物は、上で定義した香味剤の0〜10質量%、好ましくは0.5〜7質量%、あるいは1〜6質量%を含む。
【0041】
疎水組成物は2つあるいはそれより多くの個々に熱処理された疎水組成物の混合物、および/または熱処理された組成物と上の方法による熱処理をされていない脂質、例えば油あるいは脂肪との混合物であってよい。これら全ての場合において、動物性油脂は好ましくは疎水組成物の30〜100質量%を占める。
【0042】
本発明は前記組成物を含むマイクロカプセル、およびコアセルベーション法によるマイクロカプセルの製造方法に関する。該マイクロカプセルは一般に水溶性であり、それは湿性の食品内における安定性を改善する。
【0043】
任意のコアセルベーションカプセル化工程を使用でき、例えば単純および複合コアセルベーション法であり、両者は当該技術分野でよく知られている。単純コアセルベーションにおいては、1つのタンパク質を使用し、相分離(即ち、"コアセルベーション")が起こることでカプセル壁を形成する。複合コアセルベーションは一般に逆に帯電した非タンパク質ポリマーとタンパク質ポリマーとが一緒にカプセル壁を形成する方法を指す。複合コアセルベーションの原理によって、本発明の方法は、逆に帯電した非タンパク質ポリマー、好ましくは多糖類のコロイド溶液への随意の追加的な添加を提供する。
【0044】
従って、本発明によるマイクロカプセルの好ましい製造方法においては、水中でタンパク質コロイド、および随意に非タンパク質コロイドを含む溶液を製造する。
【0045】
その後、上記で得られた動物性油脂を含む熱処理された疎水組成物を、懸濁された粒子、あるいは懸濁または乳化された液滴の形態で、コロイド溶液内に懸濁あるいは乳化する。好ましくは、疎水組成物はコロイド溶液に添加される時に液体で、従って懸濁あるいは乳化される液滴のサイズを、例えば攪拌によるかき混ぜによって容易に調節できる。
【0046】
好ましくは、乳化あるいは懸濁された疎水組成物の平均液滴サイズを、150〜500μm、好ましくは250〜350μmに調節する。
【0047】
マイクロカプセルの製造方法は、さらなる工程:組成物の液滴および/または粒子周りにタンパク質を含むコロイド壁を形成する工程を含む。この工程は、相分離の誘発、即ち高コロイド相(コアセルベート相)を残りの水溶液から分離することで実施され、後者はその後、コロイドの乏しい相になる。
【0048】
相分離は、当業者に公知のように誘発できる。好ましくは相分離を、タンパク質の等電位点へと、あるいはそれより下にpHを修正、好ましくは下げることで達成する。非タンパク質ポリマー、例えば多糖類が存在する場合、pHを好ましくはタンパク質上の正電荷が非タンパク質上の負電荷を中和するように調節する。
【0049】
マイクロカプセルのコロイド壁は、一度コアセルベート相の形成工程が誘発されれば、自発的に形成される。
【0050】
本発明のマイクロカプセルの製造方法は、好ましくはコロイド壁の架橋工程を含む。架橋は任意のやり方、例えば充分な量のホルムアルデヒド、および/またはグルタルアルデヒドの添加あるいは酵素によって実施されてよい。酵素による架橋は、酵素トランスグルタミナーゼで実施する。一般に、架橋工程を、例えば5〜26℃で4〜30時間、好ましくは6〜20時間、より好ましくは8〜15時間継続してよい。
【0051】
好ましい実施態様によれば、本発明はマイクロカプセルを溶液から分離し、随意にそれらを乾燥させる工程を含む。
【0052】
乾燥の好ましい方法は噴霧乾燥である。例えば、キャリア材料、例えば炭水化物等をマイクロカプセルおよびコアセルベーションカプセル化工程の残りの水に添加してよい。キャリア、水およびマイクロカプセルの混合物を、その後噴霧乾燥する。
【0053】
高融点、例えば牛脂の場合で25℃より上を有する動物性油脂のカプセル化の重要な利点は、食品への注入が可能になることである。室温より高い融点を有する動物性油脂がカプセル化されなければ、食物内への注入は、注射針の目詰まりのために可能ではない。
【0054】
好ましい実施態様によれば、マイクロカプセルは150〜500μmの範囲、より好ましくは250〜350μmの範囲の平均粒度を有している。
【0055】
粒度は、実験誤差が最大で5%以内、好ましくは1%より小さい精度で測定が可能な、任意のよく確立されている方法によって測定できる。適した、よく確立されている前記の方法は、レーザー回折測定および装置の使用に頼っている。
【0056】
用語"平均"は、算術的な意味を指す。粒度は、顕微鏡を用いた検査によって測定してよい。マイクロカプセルの直径の測定の目的では、カプセル壁は考慮しない。この理由は、カプセル壁は常に完全な球状ではなく、典型的には卵形であることである。カプセル壁の均一ではない形成は、カプセル化中に行っている、液滴に回転を起こす攪拌のためである。対して、カプセル化された疎水組成物は、カプセル壁に囲まれたほぼ球状の液滴を形成し、従ってその平均直径は容易に測定できる。
【0057】
本発明者らは、驚くべきことに、上に示した粒度範囲内で、増加した多汁性及び口当たりが特に観察されることを見出した。これは、マイクロカプセルがより小さい場合、それらは咀嚼の間につぶされず、動物性油脂を含む組成物が放出されないからであり、一方、マイクロカプセルはより大きい場合、それらがあまりに早く、例えば食肉の取り扱いおよび調理中に崩壊してばらばらになるからである。さらに、直径500μmより大きいマイクロカプセルは注射針が詰まるために、食肉に注入するのが難しく、従ってそれらの産業上の加工性に悪影響がある。
【0058】
例えばベーカリー食品、インスタント食品、冷蔵及び冷凍食品、および生鮮食品を含む、食品においてマイクロカプセルを使用し得る。マイクロカプセルが水不溶性であるために、高含水率あるいは高水分活性を有する食品にも添加できる。マイクロカプセルは食品の製造に用いられる原材料内、あるいは食品のコーティング内に存在してもよい。例えば、冷凍あるいは生のピザにおいて、調理に先立ち、有効量のマイクロカプセルがピザ生地内に存在する。
【0059】
本発明のマイクロカプセルは、人間が摂取するように意図していない食物中にも存在できる。前記食物は、例えば動物の飼料、家畜の飼料、および/またはペットフードであってよい。
【0060】
好ましい実施態様によれば、マイクロカプセルを含む食品は食肉あるいはシーフードを含む食物である。本発明の目的では、食肉は赤肉、例えば牛肉、豚肉、羊肉、ラム肉、野生動物肉、家禽肉、例えば鶏肉、七面鳥肉、ガチョウ肉およびカモ肉を包含する。シーフードは、例えば魚、甲殻類、軟体動物類を包含する。好ましくは、本発明の食物は、牛肉、家禽肉および豚肉から選択される食肉である。
【0061】
マイクロカプセルは、随意にキャリア材料とともに、例えば注射、真空タンブリング、吹き付け、あるいは押出による製造に先だって食物と混合することによる、任意の適したやり方で食物に添加できる。
【0062】
マイクロカプセルを、挽肉に添加するのであれば、それらを単純にその中に混合できる。好ましい実施態様によれば、マイクロカプセルを注射によって食物に添加する。注射のために、マリネードを食肉に注入するのに使用される典型的な注射器を使用して良い。産業レベルでは、注射器は例えばMEPSCO、West Chicago、USから購入できる。本発明のマイクロカプセルを食品および特に食肉内に包含させるための他の技術は、真空タンブリングによる。
【0063】
食物がペットフードの場合、マイクロカプセルは他のペットフード成分と一緒に混合して単純に添加できる。ペットフードは、好ましくは乾燥ペットフード(Aw<0.3)であり、それはキブル(粒)の形態で存在する。この場合、マイクロカプセルを乾燥ペットフードに例えばコーティングあるいは噴霧法で添加してよい。
【0064】
マイクロカプセルは噴霧によってペットフード、特にウェットチャンクの形態で存在するペットフードに添加してよい。
【0065】
選択的に、マイクロカプセルおよびペットフード材料を混合し、その後、押し出してキブルあるいはウェットチャンクを得る。
【0066】
好ましくは、前記ペットフードはドッグフードである。
【0067】
好ましくは、前記食物は0.2〜5質量%のマイクロカプセルを含む。従って、食物の官能特性改善のための方法は0.2〜5質量%、好ましくは0.5〜3.5質量%および最も好ましくは1〜3質量%のマイクロカプセルを食品に添加する工程を含む。
【0068】
以下の実施例を用いて本発明のさらなる詳細を説明するが、本発明をそれに限定すると解釈するものではないと理解すべきである。
【0069】
実施例
実施例1
口当たり特性改善のための牛脂の調整
米国のTyson Inc.から入手した牛脂に、官能特性および口当たり改善のために、下記に示すように調整処理を行った。調整に使用した成分を表1に示す。
【0070】
表1:調整のための成分
【表1】

【0071】
水を外装付き圧力釜に添加し、60℃に加熱する。全ての乾燥成分を釜に添加し、その全体をそれらが完全に溶解するまで混合する。最後に、残りの液体成分(牛脂、オレイン酸)を添加し、その後、再度完全に混合する。釜を密閉し、130℃に加熱する。この温度をその後1.5時間保持する。反応中の釜内部では約30psi(207kPa)の圧力が観測された。反応の最後に、釜を50〜65℃に冷却し、攪拌を停止して中身を6時間分離させる。その後、茶色の油性の液体が観察されるまで、下部の水相を排出する。排出された量は、一般にはバッチ全体の5質量%より少ない。脂肪を濾過し、それを適した容器あるいは袋に充填して冷蔵下で貯蔵する前に、生成物を、さらに40〜55℃に冷却する。
【0072】
実施例2
官能特性および口当たり特性改善のための鶏脂の調整
鶏脂に実施例1と同様の反応を受けさせるが、それぞれの工程の油性生成物を1:1の比で混合する前に2つの反応を独立して行う点で異なる。表2および3に、調整のための成分を示す。
【0073】
表2:調整のための成分、その1
【表2】

【0074】
その1では、熱処理工程は実施例1と同一であるが、下記が異なる:乾燥成分を溶解する前に、最初に水を65℃に加熱する。鶏脂が最後に添加される液体成分を構成する。熱処理を120℃で45分間行い、その後、攪拌を停止して相分離をさせる前に、冷水で50℃に冷却した。
【0075】
表3:調整のための成分、その2
【表3】

【0076】
その2の熱処理工程は、実施例1と同一であるが、下記が異なる:オレイン酸およびキャノーラ油が最後に添加される液体成分を構成する。熱処理を105℃で45分間行い、その後、攪拌を停止して相分離をさせる前に、冷水で50℃に冷却した。
【0077】
冷蔵下で貯蔵する前に、脂肪質の液体その1およびその2を質量比1:1で混合する。
【0078】
実施例3
官能特性および口当たり特性改善のための豚脂の調整
豚脂に実施例1と同様の反応をさせた。成分を表4に示す。
【0079】
表4:豚脂調整のための成分
【表4】

【0080】
熱処理工程は、最後に添加される液体成分が、オレイン酸および豚のラードで構成されている以外は、実施例1と同一である。熱処理を125℃で120分間行い、その後、攪拌を停止して相分離をさせる前に、冷水で45℃に冷却した。
【0081】
実施例4
コアセルベーションによる鶏脂を含むマイクロカプセルの製造
鶏ゼラチン(Junca提供)およびアラビアガム(CNI製のEfficacia(登録商標))を親水コロイドとして使用する。ゼラチンの貯蔵液(溶液A)を、180gの脱イオン温水と20gのゼラチンとを容器内でそれが完全に溶解するまで混合して製造し、溶液をその後、40℃で保持する。アラビアゴムの貯蔵液(溶液B)を、180gの脱イオン冷水と20gのアラビアゴムとを容器内でそれが完全に溶解するまで混合して製造し、溶液をその後、暖めて40℃に保つ。
【0082】
105.4gの溶液Aを70.3gの溶液Bと容器内でゆるく攪拌しながら混合する(ゼラチン/アラビアゴム比は1.5:1)。50質量%の乳酸水溶液でpHを4.6に調整する。
【0083】
70.3gの溶解した鶏脂(実施例2で製造された、1:1の組成物)をゼラチンとアラビアゴムとの混合物にゆっくりと添加し、攪拌機で5分間、350RPMで均一化し、平均液滴サイズを300μmに到達させる。
【0084】
前記の系をその後、354.1gの脱イオン温水の添加によって希釈し、合計の親水コロイド濃度を3.4質量%にする。前記の混合物を0.5℃/分の速度で、最終的に20℃に冷却する。混合物に、攪拌速度をわずかに落とし、pHを4.0に調整し、50%のグルタルアルデヒドの水溶液0.45gを添加する。前記溶液を1.5時間ゆっくりと攪拌し、20℃で夜通し架橋させる。
【0085】
前記混合物をその後、流動床乾燥(Aeromatic MPI)で、入り口温度80℃、出口温度40℃および気流70m3/hを使用して穏やかに乾燥させた。前記混合物を、低圧2流体ノズル(内径1mm)を使用して穿孔下板の底から噴霧化した。生成物をさらに乾燥させ、最大含水率8%にし、その後、裏打ちした容器内に吐出した。
【0086】
このように得られたマイクロカプセルを顕微鏡で検査し、平均直径300μmを有していることをレーザー回折で確認した。
【0087】
実施例5
コアセルベーションによる牛脂を含むマイクロカプセルの製造
14gの牛ゼラチン(Knox Gelatine Inc、Chery Hill、New Jersey)を175mlの水に40℃で溶かした。55gの官能的に改善された溶解牛脂(実施例1)を、40℃で攪拌してゼラチン溶液内で乳化した。エマルジョンに、135mlの水中の9.3gのアラビアゴム溶液(G−85、MCB Chemicals、Norwood、Ohio)を添加し、それをその後3時間、継続的に撹拌しながら18℃に冷却した。希釈した酢酸でpHを4.0に調整し、そして水中の50容量%のグルタルアルデヒドを735マイクロリットル添加する。前記溶液を1.5時間、ゆっくりと撹拌し、20℃で夜通し架橋させる。
【0088】
実施例4に示したように、乾燥工程を行い、含水率が最大で8質量%のマイクロカプセルを得た。
【0089】
このようにして得られたマイクロカプセルは平均直径300μmを有している。
【0090】
実施例6
コアセルベーションによる豚脂を含むマイクロカプセルの製造
等電位点8.2を有する、6部の酸処理された豚皮ゼラチンおよび6部のアラビアゴムを30部の温水に40℃で溶解した。その後、30部の改善された溶解豚ラード(実施例3)を、乳化のために力強く撹拌しながら上述のコロイド溶液に添加し、o/w型のエマルジョンを形成した。油滴のサイズが300〜400マイクロメートルになったところで攪拌を停止した。200部の40℃の温水をそこに添加した。攪拌を継続しながら、20%の酢酸水溶液をそこに滴下し、pHを4.4に調整した。油滴の周りに蓄積したコロイド壁を、攪拌を継続しながら容器の外から冷却することによって、ゲル化した。1.3部のトランスグルタミナーゼ酵素(180UI/g)を添加した。前記溶液を2時間、ゆっくりと撹拌し、そして20℃で夜通し架橋させる。
【0091】
実施例4に示したように、乾燥工程を行い、含水率が最大で8質量%のマイクロカプセルを得た。
【0092】
このようにして得られたマイクロカプセルは平均直径350μmを有している。
【0093】
実施例7
増加した多汁性を有する牛肉ステーキの製造
82.5質量%の水、3.5質量%の塩化ナトリウム、3質量%のSTTP(三リン酸ナトリウム、Na5310)および11質量%の実施例5のマイクロカプセルを含むマリネードを製造した。対照のマリネードにおいては、マイクロカプセルを水で置き換えた(従って、対照は93.5質量%の水を含有する)。従って、塩およびホスフェートを高剪断で水に溶解し、その後、マイクロカプセルを軽い攪拌の下で10分間添加した。
【0094】
冷凍牛肉を冷蔵庫で2日間解凍し、整えて1インチ(2.54cm)厚のステーキに切った。その後、回転フィルターを有するAuvistick(登録商標)130機で、10質量%のマリネードおよび90質量%のステーキで、マリネードをステーキ内に注入した。前記製品を真空パックし、2週間冷凍した。
【0095】
2週間後、ステーキを冷蔵庫で再解凍し、フライパンで約160゜F(76℃)で焼き、続いてオーブンで165゜F(74℃)で完成させた。
【0096】
各ステーキの中心を切り出し、官能分析に使用し、そこで以下の特性を、1〜10の尺度によって評価した:(a)牛肉の匂い、(b)牛肉の味、(c)柔らかさ、(d)口当たり、(e)全般的な受容性。
【0097】
消費者はマイクロカプセルを含むステーキを高く評価し、特にそれらのステーキの増加した多汁性および口当たりに気付いた。対照のステーキは、多汁性および口当たりがより低く、従って本発明のマイクロカプセルを含むステーキよりも低い全体的な受容性を有していた。
【0098】
実施例8
マイクロカプセルを含むペットフード
実施例5のマイクロカプセルを市販のペットフード"コロッケ(croquette)"上に、1%のキャリア材料とともに吹き付けた。
【0099】
そのようにして得られたペットフードキブルは、実施例5のマイクロカプセルを1質量%含有していた。犬での嗜好試験において、全ての犬は未処理のキブルよりも前記のマイクロカプセルを含むキブルを好んだ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロカプセルにおいて、
カプセル壁とカプセル化された材料とを含み、
− 前記カプセル壁はコアセルベートされ、架橋したコロイドタンパク質材料、および随意に非タンパク質コロイドを含み、且つ
− 前記カプセル化された材料は
30〜100質量%の動物性油脂を含む熱処理された組成物および随意に0〜10質量%の添加された香味剤を含む
マイクロカプセル。
【請求項2】
平均直径150〜500μm、好ましくは250〜350μmを有する、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
10質量%より少ない香味剤を含む、請求項1あるいは2のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
動物性油脂が、50〜100質量%の飽和脂肪酸を含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
動物性油脂が、15〜60℃の融点を有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
動物性油脂が、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、随意に加水分解された魚の油脂およびそれらの組み合わせの群から選択される油脂を含む、請求項1から5までのいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のマイクロカプセルを含む食品、好ましくは食肉あるいはシーフード、ペットフード、好ましくはドッグフードあるいは飼料製品。
【請求項8】
0.2〜5質量%の、請求項1から6までのいずれか一項に記載のマイクロカプセルを含む、請求項7に記載の食品、ペットフードあるいは飼料製品。
【請求項9】
食品、ペットフードあるいは飼料製品の官能特性の改善方法において、0.2〜5質量%の請求項1から6までのいずれか一項に記載のマイクロカプセルを、前記食品、ペットフードあるいは飼料製品に添加する工程を含む方法。
【請求項10】
マイクロカプセルを食品、ペットフードあるいは飼料製品に、注射、真空タンブリング、随意にキャリア材料を用いた吹き付け、あるいは押出による製造前に食品と混合することによって添加する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
食肉および/または魚ベースの食品の多汁性および/または口当たりの改善方法において、請求項1から8までのいずれか一項に記載のマイクロカプセルを食肉および/または魚ベースの食品に添加する工程を含む方法。
【請求項12】
コアセルベーションによるマイクロカプセルの製造方法において、
− 水中のタンパク質コロイドおよび随意に非タンパク質コロイドの水溶液を製造し、そして
− 前記溶液内で疎水組成物の粒子および/または液滴を懸濁あるいは乳化し、前記疎水組成物は30〜100質量%の熱処理された動物性油脂を含み、
− 前記組成物の液滴および/または粒子周りにタンパク質を含むコロイド壁を形成し、
− コロイド壁を架橋させる
工程を含む方法。
【請求項13】
動物性油脂の官能特性を改善する方法において、
− 動物性油脂、好ましくは牛脂を含む脂質、水、アミノ酸および糖類を含む混合物を製造し、
− 前記混合物を80〜180℃で0.3〜4時間熱処理し、改善した官能特性を有する組成物を得て、そして
− 随意に、香味剤が組成物の約0〜10質量%を占めるように、1あるいはそれより多くの香味剤を添加する
工程を含む方法。

【公表番号】特表2009−539398(P2009−539398A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514948(P2009−514948)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052093
【国際公開番号】WO2008/007234
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】