説明

定着装置および画像形成装置

【課題】定着回転体における抵抗発熱層が局部的に加熱されることを防止することによって、定着回転体が異常高温になることを防止して、定着回転体を長寿命化する。
【解決手段】抵抗発熱層31bが全周にわたって設けられた発熱ベルト31の外周面に加圧ローラ32が圧接されて定着ニップNが形成されており、定着ニップNの軸方向の両外側において抵抗発熱層31bに給電するための電極部31gがそれぞれ全周にわたって設けられている。各電極部31gにおける定着ニップN側に位置する側縁に連続したそれぞれの端部領域と抵抗発熱層31bの外周面および内周面とのそれぞれの間に、体積抵抗率が各電極部31gよりも高い外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kが電流密度を調節する抵抗体層として設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録シート上に形成された未定着画像を加熱して記録シートに定着させる定着装置、および、当該定着装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機等の電子写真方式の画像形成装置では、通常、画像データに対応したトナー画像を記録紙、OHPシート等の記録シートに転写した後に、定着装置で定着する構成になっている。定着装置は、記録シート上のトナー画像を加熱して記録シートに加圧することにより定着するが、加熱方式の一つに抵抗発熱式のものがある。
特許文献1には、通電によって発熱する抵抗発熱体を有する発熱ベルトを用いた定着装置が開示されている。この定着装置では、抵抗発熱体を備えた発熱ベルトの周回移動域内に弾性体ロールが設けられており、発熱ベルトが弾性体ロールと加圧ローラとによって挟まれた状態で周回移動する構成になっている。発熱ベルトと加圧ローラとの間には、記録シートが通過する定着ニップが形成されている。
【0003】
発熱ベルトに設けられた抵抗発熱体には、発熱ベルトの周回移動方向とは直交する幅方向(軸方向)の両側の端部に交流電流が供給されるようになっている。抵抗発熱層は、交流電流が供給されることによってジュール熱を発生する。抵抗発熱層において発生した熱は、定着ニップを通過する記録シートに与えられる。これにより、記録シート上のトナー画像が定着される。
【0004】
図8は、このような定着装置において使用される発熱ベルトの一般的な構成を示す横断面図である。発熱ベルト70は、ポリイミド(PI)等によって構成された補強層71を有しており、補強層71の外周面に抵抗発熱体層72が積層されている。抵抗発熱体層72には、幅方向(軸方向)における両側の各端部を除いて、弾性層73および離型層74が順番に積層されている。抵抗発熱体72は、例えば、カーボンナノ材料、フィラメント状金属粒子等が分散されたポリイミド樹脂によって構成されている。
【0005】
抵抗発熱層72における軸方向の各端部の外周面上には、抵抗発熱層72に給電するための電極部75が、全周にわたってそれぞれ積層されている。各電極部75には、給電部材76がそれぞれ圧接されており、それぞれの給電部材76によって、各電極部75を介して、抵抗発熱層72に、例えば交流電流が供給される。これにより、抵抗発熱層72の一方の端部に供給された電流が他方の端部にまで流れて、抵抗発熱層72が発熱する。
【0006】
このような発熱ベルト70は、熱容量が小さいために昇温性能が高く、少ない発熱量によって短時間で高温になる。従って、消費電力を低減することができ、しかも、ウォーミングアップを短縮することができる。その結果、定着装置は、高速での定着動作を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示す発熱ベルト70では、電極部75が、体積抵抗率の小さな導電性材料によって構成されているのに対して、抵抗発熱体層72が、電極部75の体積抵抗率よりも大きくなっている。このために、一方の電極部75に供給された電流は、抵抗値の低い部分を最短経路で流れようとする。これにより、当該電極部75における軸方向の内側の端部(他方の電極部75に近接した端部、図8においてAで示す部分)付近で電流が集中する。
【0009】
他方の電極部75においても、同様に、抵抗発熱体層72を流れる電流の上流側の端部(図8においてBで示す部分)から集中的に電流が流入する。
抵抗発熱体層72は昇温性能に優れているために、各電極部75における軸方向の内側の端部(他方の電極部75に近接した端部)が積層された抵抗発熱体層72のそれぞれの部分に電流が集中すると、それぞれの部分が局部的に過熱された状態になる。
【0010】
図9は、図8に示した発熱ベルト70を、50℃、100℃、150℃のそれぞれの温度になるように加熱制御したウォームアップ時において、発熱ベルト70の幅方向(軸方向)に沿った温度分布を示すグラフである。いずれの場合にも、抵抗発熱体層72における各電極部75では、軸方向の内側の端部(他方の電極部75に近接した端部)の積層部分が制御温度よりも高温になっている。
【0011】
このように、抵抗発熱体層72において局部的に電流が集中すると、その電流集中部分が異常高温になり、発煙等が生じるおそれがある。また、抵抗発熱体層72は、異常高温になった部分が、他の部分よりも劣化が促進されることによって、抵抗発熱体層72を長期にわたって安定的に使用することができず、発熱ベルト70の寿命が低下するおそれもある。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗発熱層に設けられた電極部の一部に電流が集中することを抑制することにより、抵抗発熱層が局部的に過熱されることを防止して、発熱ベルトを長期にわたって安定的に使用することができる定着装置を提供することにある。本発明の他の目的は、そのような定着装置を有する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の定着装置は、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が全周にわたって設けられた定着回転体と、当該定着回転体の外周面に圧接して定着ニップを形成する加圧部材と、を有し、前記定着ニップの両側において前記抵抗発熱層に給電するための電極部が当該抵抗発熱層の全周にわたって積層状態でそれぞれ設けられており、前記各電極部と前記抵抗発熱層との層間に、少なくとも前記定着ニップに近い側縁から、当該層間内に進入した状態で抵抗体層が設けられており、当該抵抗体層体積抵抗率が前記電極部よりも高いことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る画像形成装置は、前記定着装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の定着装置では、電極部における定着ニップに近接した端部と、抵抗発熱層との間に、絶縁体でない抵抗体層が設けられていることから、電極部の当該端部に集中する電流の一部が、抵抗体層を通って抵抗発熱層に流れることになる。この場合、抵抗体層の体積抵抗率が電極部よりも高くなっているために、抵抗体層内を流れる電流が分散された状態で電極部から抵抗発熱層へ、または、抵抗発熱層から電極部へ流れる。
【0016】
このように、電極部における定着ニップに近接した側縁部に連続した端部に集中する電流が、抵抗体層によって分散された状態で抵抗発熱層へ流れるために、抵抗発熱層において電流が局部的に集中することによって過熱されることを抑制することができ、抵抗発熱層での局部的な劣化の促進を緩和できる。その結果、発熱ベルトを長期にわたって安定的に使用することができ、定着装置を高寿命化することができる。
【0017】
好ましくは、前記抵抗体層は、前記抵抗発熱層よりも低い体積抵抗率であることを特徴とする。
好ましくは、前記各電極部は、前記定着ニップとは遠い側の側縁を含む領域が、前記抵抗発熱層に直接接触していることを特徴とする。
好ましくは、前記抵抗体層は、前記各電極部と前記抵抗発熱層との層間から、前記定着ニップ側に延出していることを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記抵抗体層は、前記抵抗発熱層における両側の各端面から離れるにつれて、厚さが順次増加していることを特徴とする。
好ましくは、前記抵抗体層は、前記抵抗発熱層上に積層されたフィルムであることを特徴とする。
好ましくは、前記定着ニップの両側における前記各電極部は、前記抵抗発熱層における外周面および内周面のそれぞれに積層されており、前記抵抗体層が、前記抵抗発熱層における外周面および内周面と、それぞれに積層された各電極層との間に設けられていることを特徴とする。
【0019】
好ましくは、前記各電極部は、前記抵抗発熱層における軸方向の両側の各端面に接していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る定着装置を備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタの構成を説明するための模式図である。
【図2】そのプリンタに設けられた定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図である。
【図3】そのプリンタに設けられた定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な横断面図である。
【図4】その定着装置に設けられた発熱ベルトの周回移動方向とは直交する方向である軸方向の一方の端部の横断面図である。
【図5】(a)は、その発熱ベルトに設けられた抵抗発熱層をモデル化してその発熱分布について数値解析を行った結果を示す模式図、(b)は、比較例のモデル化された抵抗発熱層における発熱分布について数値解析を行った結果を示す模式図である。
【図6】図5(a)および(b)にそれぞれ示された発熱分布における単位面積当たりの最大発熱量を示すグラフである。
【図7】(a)〜(d)は、それぞれ、本発明の他の例における発熱ベルトの主要部の横断面図である。
【図8】従来の一般的な発熱ベルトの構成の一例を示す横断面図である。
【図9】図8に示す発熱ベルトを、50℃、100℃、150℃のそれぞれの温度になるように加熱制御したウォームアップ時における幅方向の温度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る定着装置および画像形成装置の実施の形態について説明する。
<画像形成装置の概略構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る定着装置を備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタ(以下、単に「プリンタ」という)の構成を説明するための模式図である。このカラープリンタは、ネットワーク(例えばLAN)を介して外部の端末装置等から入力される画像データ等に基づいて、周知の電子写真方式により、フルカラーあるいはモノクロの画像を記録用紙、OHPシート等の記録シートに形成する。
【0022】
このプリンタは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによるトナー画像を記録シート上に形成する画像形成部Aと、画像形成部Aの下側に配置された給紙部Bとを備えている。給紙部Bは、記録シートSが内部に収容された給紙カセット22を備えており、給紙カセット22内の記録シートSが画像形成部Aに供給される
画像形成部Aには、プリンタのほぼ中央部において一対のベルト周回ローラ23および24に水平状態で巻き掛けられて周回移動可能になった中間転写ベルト18が設けられている。中間転写ベルト18は、図示しないモータによって、矢印Xで示す方向に周回移動するようになっている。
【0023】
中間転写ベルト18の下方には、プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kが設けられている。プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の周回移動方向に沿ってその順番で配置されており、それぞれが、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによって中間転写ベルト18上にトナー画像を形成する。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成部Aに対して着脱可能になっている。
【0024】
中間転写ベルト18の上方には、中間転写ベルト18を介して、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの上方に位置するように、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kが配置されている。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kには、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kのそれぞれに収容されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色のトナーが供給される。
【0025】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の下方において中間転写ベルト18に対向した状態で回転可能に配置された感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kをそれぞれ有しており、それぞれの感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kから供給されるY、M、C、Kのそれぞれのトナーを用いて画像を形成する。
【0026】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、使用されるトナーの色のみがそれぞれ異なっていること以外は、概略同様の構成になっている。このために、以下においては、主としてプロセスユニット10Yの構成のみを説明して、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの構成の説明は省略する。
プロセスユニット10Yに設けられた感光体ドラム11Yは、矢印Zで示す方向に回転されるようになっている。また、プロセスユニット10Yには、感光体ドラム11Yの下方において、感光体ドラム11Yの表面を一様に帯電する帯電器12Yが設けられている。帯電器12Yは、感光体ドラム11Yに対向して配置されている。
【0027】
プロセスユニット10Yには、帯電器12Yに対して感光体ドラム11Yの回転方向下流側であって、感光体ドラム11Yに対して垂直方向の下方に配置された露光装置13Yと、露光装置13Yによる感光体ドラム11Yの表面の露光位置よりも、感光体ドラム11Yの回転方向下流側に配置された現像器14Yとが設けられている。
露光装置13Yは、帯電器12Yによって一様に帯電された感光体ドラム11Yの表面にレーザ光を照射して静電潜像を形成する。現像器14Yは、感光体ドラム11Yの表面に形成された静電潜像を、Y色のトナーによって現像する。
【0028】
プロセスユニット10Yの上方には、中間転写ベルト18を挟んで感光体ドラム11Yに対向する1次転写ローラ15Yが設けられている。1次転写ローラ15Yは、画像形成部Aに取り付けられている。1次転写ローラ15Yは、転写バイアス電圧が印加されることによって、感光体ドラム11Yとの間に電界を形成するようになっている。
なお、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの上方にも、中間転写ベルト18を挟んで各感光体ドラム11M、11C、11Kに対向する1次転写ローラ15M、15C、15Kがそれぞれ設けられている。
【0029】
感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像は、1次転写ローラ15Y、15M、15C、15Kと、感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kとの間にそれぞれ形成される電界の作用によって、中間転写ベルト18上に1次転写される。トナー画像が一次転写された感光体ドラム11Yは、クリーニング部材16Yによってクリーニングされる。
【0030】
なお、フルカラー画像を形成する場合には、各感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像が中間転写ベルト18上の同じ領域に多重転写されるように、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの画像形成動作タイミングがずらされる。
これに対して、モノクロ画像を形成する場合には、選択された1つのプロセスユニット(例えばKトナー用のプロセスユニット10K)のみが動作されることにより、当該プロセスユニットの感光体ドラム(例えば感光体ドラム11K)上にトナー画像が形成されて、形成されたトナー画像が、当該プロセスユニットに対向して配置された1次転写ローラ(例えば1次転写ローラ15K)によって、中間転写ベルト18における所定領域上に転写される。
【0031】
トナー画像が形成された中間転写ベルト18は、周回移動により、一方のベルト周回ローラ23が巻き掛けられた端部(図1において右側の端部)へと搬送される。ベルト周回ローラ23に巻き掛けられた中間転写ベルト18には、シート搬送経路21を挟んで2次転写ローラ19が対向して配置されている。2次転写ローラ19は、中間転写ベルト18に圧接されており、両者の間に転写ニップが形成されている。2次転写ローラ19には転写バイアス電圧が印加されるようになっており、転写バイアス電圧が印加されることにより、2次転写ローラ19と中間転写ベルト18との間に電界が形成される。
【0032】
2次転写ローラ19と中間転写ベルト18とによって形成される転写ニップには、給紙部Bの給紙カセット22からシート搬送経路21に繰り出された記録シートSが搬送される。中間転写ベルト18上に転写されたトナー画像は、2次転写ローラ19と中間転写ベルト18との間に形成される電界の作用により、シート搬送経路21を搬送される記録シートSに2次転写される。
【0033】
転写ニップを通過した記録シートSは、2次転写ローラ19の上方に配置された定着装置30に搬送される。定着装置30では、記録シートS上の未定着のトナー画像が加熱および加圧されることによって定着される。トナー画像が定着された記録シートSは、排紙ローラ24によって、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kの上方に配置された排紙トレイ23上に排出される。
【0034】
<定着装置の構成>
図2は、定着装置30における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図、図3は、その模式的な横断面図である。なお、定着装置30では、図1に示すように、記録シートは、下方から上方に向って通過するが、図2においては、記録シートの通過方向が、紙面の手前側から奥側になるように、図3においては、紙面の右側から左側になるように、定着装置30をそれぞれ示している。
【0035】
図2および図3に示すように、定着装置30は、加圧部材としての加圧ローラ32と、加圧ローラ32に圧接された状態で回転(周回移動)可能に配置された発熱ベルト31と、発熱ベルト31の内周面に圧接されるように発熱ベルト31の回転域(周回移動域)の内部に配置された定着ローラ33とを備えている。発熱ベルト31は、加圧ローラ32に圧接されて回転するとともに、給電されることによって発熱する抵抗発熱層31b(図4参照)を備えている。発熱ベルト31は、定着ローラ33等とともに定着回転体を構成している。
【0036】
発熱ベルト31は、例えば、周回移動方向と直交する方向(軸方向)の長さが、加圧ローラ32の外周面における軸方向長さよりも若干長く、また、加圧ローラ32の直径よりも若干大きな直径を有する円筒形状になっている。発熱ベルト31と加圧ローラ32とは、それぞれの回転軸同士が平行な状態で、発熱ベルト31の外周面と加圧ローラ32の外周面とが相互に圧接されるように配置されている。発熱ベルト31と加圧ローラ32とは、相互に圧接されることによって、記録シートSが通過する定着ニップNを形成している。
【0037】
図2に示すように、発熱ベルト31は、周回移動方向に対して直交する軸方向の両側の各端部に、抵抗発熱層31b(図4参照)に電流を供給するための電極部31gがそれぞれ設けられている。各電極部31gは、発熱ベルト31(抵抗発熱層31b)の端部において、発熱ベルト31の端面を介して、外周面から内周面にわたって連続してそれぞれの全周を覆うように、発熱ベルト31の周方向に沿って形成されており、各電極部31gの外周側部分に、給電部材37がそれぞれ導電状態で圧接されている。
【0038】
各給電部材37には、商用の交流電源34から供給される交流電流が、ハーネスを介して供給されるようになっている。各給電部材37は、例えば、カーボン粉と、銅粉等の粉体を混合して焼成した導電ブラシによって構成されている。各給電部材37は、発熱ベルト31が回転することによって、それぞれが圧接された各電極部31gに摺接する。これにより、相互に圧接された給電部材37および電極部31gの導電状態が維持される。
【0039】
なお、給電部材37としては、導電ブラシに限るものではなく、電極部31gとの摺接によって導電状態を維持できる構成になっていればよい。例えば、給電部材37を、金属等の導電体で構成してもよく、また、絶縁体等の表面にCu、Ni等をメッキした構成とすることも可能である。さらに、給電部材37は、周回移動する電極部31gに接触した状態で回転するローラ等のような回転体としてもよい。
【0040】
なお、発熱ベルト31における幅方向の中央部に対向して、発熱ベルト31の外周面の温度を検出する温度センサ36が設けられている。温度センサ36によって検出される発熱ベルト31の温度は、交流電源34から各給電部材37に供給される電流量を制御するために使用される。交流電源34から各給電部材37に供給される電流量を制御するための構成については省略している。
【0041】
発熱ベルト31の周回移動域内に設けられた定着ローラ33は、軸心部に設けられた芯金33aと、芯金33aの外周面に積層された弾性層33bとを有している。芯金33aの両側の各端部は、弾性層33bの両側の端部からそれぞれ外側に突出した状態になっている。
芯金33aは、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体(中実体または中空体)によって構成されている。弾性層33bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性に優れた弾性材料によって構成されている。弾性層の軸方向長さは、発熱ベルト31の軸方向長さにほぼ等しくなっている。
【0042】
加圧ローラ32は、芯金32aと、芯金32aの外周面に積層された弾性層32bと、弾性層32bの外周面に積層された離型層32cとを有しており、加圧ローラ32の外径は、20〜100mm程度になっている。
加圧ローラ32の芯金32aは、定着ローラ33の芯金33aと平行であり、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体(中実体または中空体)によって形成されている。弾性層32bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって、1〜20mm程度の厚さになっている。
【0043】
離型層32cは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等の記録シートに対する離型性を有する材料によって構成されており、例えば、5〜100μm程度の厚さになっている。なお、離型層は、導電性であってもよい。
【0044】
加圧ローラ32は、図示しない付勢手段(例えば引っ張りバネ)によって、発熱ベルト31に向って付勢されている。これにより、加圧ローラ32の外周面が、発熱ベルト31の外周面に圧接されて、発熱ベルト31が定着ローラ33に押し付けられている。発熱ベルト31と加圧ローラ32との圧接部には、記録シートSが通過する定着ニップNが形成されている。
【0045】
加圧ローラ32は、図示しないモータによって、図2に矢印Zで示す方向に回転駆動されるようになっている。発熱ベルト31は、加圧ローラ32と定着ローラ33とに圧接されていることにより、加圧ローラ32の回転に追従して、図2に矢印Yで示す方向に回転(周回移動)する。発熱ベルト31に圧接された定着ローラ33は、発熱ベルト31の回転に追従して同じ方向に回転する。
【0046】
なお、定着装置30は、加圧ローラ32を回転駆動させる構成に代えて、定着ローラ33を回転駆動させる構成としてもよい。あるいは、加圧ローラ32および定着ローラ33の両方を回転駆動させる構成としてもよい。
図3に示すように、定着ニップNに対して記録シートSの搬送方向下流側(同図の左側)には、定着ニップNを通過した記録シートSを発熱ベルト31から剥離するための分離爪35が設けられている。
【0047】
定着ニップNには、加圧ローラ32および発熱ベルト31が回転された状態で、しかも、交流電源34から供給される電流によって発熱ベルト31が加熱された状態で、記録シートSが搬送される。記録シートSは、定着ニップNを通過する間に、加熱状態になった発熱ベルト31によって加圧および加熱されることにより、当該記録シートS上の未定着のトナー画像が定着される。定着ニップNを通過した記録シートは、分離爪35(図3参照)によって発熱ベルト31から剥離される。
【0048】
図4は、発熱ベルト31の周回移動方向とは直交する方向である軸方向の一方の端部の横断面図である。発熱ベルト31は、例えば、ポリイミド(PI)によって一定の厚さの円筒形状に構成された補強層31aと、補強層31aの外周面上に全周にわたって積層された抵抗発熱層31bとを有している。抵抗発熱層31bは、電流が流れることによってジュール熱を発熱する抵抗発熱材料によって構成されている。
【0049】
抵抗発熱層31bは、軸方向の両側の端部が、補強層31aにおける両側の端部から、それぞれ外側に突出するように、補強層31aよりも軸方向に長くなっている。抵抗発熱層31bにおける補強層31aから延出したそれぞれの端部には、電極部31gがそれぞれ設けられている。各電極部31gは、それぞれ、定着ニップNよりも軸方向の両側(外側)に配置されている。
【0050】
抵抗発熱層31bの外周面における両電極部31gの間の領域には、弾性層31cが積層されており、この弾性層31cの外周面上に離型層31dが積層されている。
各電極部31gは、抵抗発熱層31bのそれぞれの端部外周面を覆う電極外周部31xと、抵抗発熱層31のそれぞれの端部内周面を覆う電極内周部31yと、電極外周部31xおよび電極内周部31yのそれぞれを、抵抗発熱層31bの軸方向の各外側において連結する電極連結部31zとを有している。電極連結部31zは、抵抗発熱層31bの軸方向の両外側に位置する端面に密着している。
【0051】
各電極部31gにおける電極外周部31xおよび電極内周部31yは、それぞれの軸方向長さが等しく、通常、10〜15mm程度になっている。電極外周部31xには、図2に示すように、給電部材37が圧接されている。電極外周部31x、電極内周部31y、電極連結部31zは、同じ体積抵抗率を有する材料によって一体的に形成されている。
電極外周部31xにおける定着ニップ側に位置する側縁に連続する環状の端部領域と、抵抗発熱層31bの外周面との層間には、両者の間を流れる電流の密度を調整するために、電極外周部31xの体積抵抗率よりも高く、抵抗発熱層31bの体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有する外周側抵抗フィルム31hが、電流密度を調整する抵抗体層として設けられている。
【0052】
また、電極内周部31yにおける定着ニップ側に位置する側縁に連続する環状の端部と、抵抗発熱層31bの内周面との層間にも、電極外周部31xの体積抵抗率よりも高く、抵抗発熱層31bの体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有する内周側抵抗フィルム31kが、電流密度を調整する抵抗体層として設けられている。
外周側抵抗フィルム31hは、一定の厚さになっており、抵抗発熱層31bの端面から適当な間隔(2〜5mm程度)をあけた位置から、電極外周部31xにおける定着ニップNに近接した側縁(軸方向の内側の端面)31sにまで、抵抗発熱層31bの外周面上に密着状態で全周にわたって積層されている。外周側抵抗フィルム31hは、全体にわたって一定の体積抵抗率になっている。
【0053】
外周側抵抗フィルム31hを覆う電極外周部31xの外周面は、一定の外径の平坦面になっており、また、内周側抵抗フィルム31kを覆う電極内周部31yの内周面も、一定の内径の平坦面になっている。従って、外周側抵抗フィルム31hおよび電極外周部31xのそれぞれは、電極外周部31xおよび電極内周部31yのそれぞれと、抵抗発熱層31bとの層間に、定着ニップNに近接した側縁から当該層間内にそれぞれ進入した状態になっている。
【0054】
外周側抵抗フィルム31hおよび電極外周部31xのそれぞれは、定着ニップNに近接した側縁が同一平面上に位置しており、従って、外周側抵抗フィルム31hにおける定着ニップNに近接した端部領域は、抵抗発熱層31bの外周面に接触しない状態になっている。
内周側抵抗フィルム31kも、同様に、一定の厚さであって、全体にわたって一定の体積抵抗率になっており、抵抗発熱層31bの端面から適当な間隔(2〜5mm程度)をあけた位置から、電極内周部31yにおける定着ニップNに近接した側縁(軸方向の内側の端面)まで、抵抗発熱層31bの外周面上に密着状態で積層されている。また、内周側抵抗フィルム31kおよび電極内周部31yのそれぞれは、定着ニップNに近接した側縁が、同一平面上に位置している。内周側抵抗フィルム31kは、全体にわたって一定の体積抵抗率になっている。
【0055】
抵抗発熱層31bは、耐熱性樹脂に、導電性フィラーおよび高イオン導電体粉末を一様に分散させて所定の円筒形状に成型されたものであり、全周にわたって一様な電気抵抗率に調整されている。
抵抗発熱層31bを構成する耐熱性樹脂としては、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等が使用されるが、PIが最も耐熱性に優れているために好ましい。なお、本実施形態では、PIを用いている。
【0056】
導電性フィラーとしては、電気抵抗率が低い(導電性が高い)金属材料の粉末と、電気抵抗率が高い(導電性が低い)炭素化合物粉末とを用いることが好ましい。高イオン導電体粉末としては、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI)等の無機化合物中の高イオン導電体粉末を用いることが好ましい。金属材料の粉末としては、Ag、Cu、Al、Mg、Ni等の金属材料の微粒子が好適である。炭素化合物粉末としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが好適である。
【0057】
高イオン導電体粉末は、抵抗発熱層31bの機械的強度を低下させるおそれはないが、高イオン導電体粉末および高抵抗の炭素化合物粉末だけでは、抵抗発熱層31bの電気抵抗率を、商用電源を用いた500〜1500W程度の電力の定着装置を所定の発熱量になるように調整することが容易でない。このために、低抵抗の金属粉末も用いられている。このように、金属粉末と、炭素化合物粉末と、高イオン導電体粉末とを用いることにより、機械的強度を低下させることなく、抵抗発熱層31bを所定の電気抵抗率に容易に調整することができる。
【0058】
なお、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、2種類以上の材料によって構成してもよい。
また、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、繊維状になっていることが好ましい。金属粉末、炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれが繊維状になっていることによって、それぞれが接触する確率が高くなり、パーコレーションしやすくなるためである。
【0059】
高抵抗フィラーを構成する炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末のそれぞれは、温度が上昇すると体積抵抗率が低下する負の抵抗変化率(NTC)を有する材料である。NTCを有する材料を用いることによって、抵抗発熱層31bに負の抵抗変化率(NTC)を付与することができる。
抵抗発熱層31bがNTC特性を有していることによって、定着ニップNを小サイズの記録シートSが通過する際に、当該記録シートが通過しない通過領域(以下非通紙領域とする)における過昇温を抑制することができる。すなわち、小サイズの記録シートSが定着ニップNを通過する際に、非通紙領域の温度が上昇して所定温度に達すると、抵抗発熱層31bがNTC特性を有していることから、非通紙領域における抵抗値が低下する。これにより、非通過領域の発熱量は、記録シートが通過する領域に比べて低下し、非通過領域における過昇温を抑制することができる。
【0060】
高イオン導電体粉末としてヨウ化銀(AgI)またはヨウ化銅(CuI)を用いると、抵抗変化率が大きく変化して急激に抵抗値が低下する温度(相転移点)が存在するために、非通紙領域における過昇温を防止する効果は顕著になる。AgIの場合、相転移点は、通常147℃であるが、AgIの粒径に依存するために、粒径が小さいほど低温にすることができる。CuIの場合も同様である。
【0061】
従って、定着温度に応じて、AgIまたはCuIとして混合する材料の粒径を適宜選択することにより、所定の相転移点とすることができる。特に、材料の粒径が小さい場合には、硝酸銀(AgNO3)水溶液、ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液および銀イオン伝導性の有機ポリマーであるPVP(Poly-N−vinyl-2-pyrrolidone)の水溶液を、常温および常圧下において混合、ろ過、乾燥するという簡便な方法によって、AgIまたはCuIを合成することができる。また、溶液の濃度、混合手順を変更することによって、10nm〜50nmの範囲で、異なるサイズのナノ粒子とすることができる。
【0062】
金属粉末の粒径は、0.01〜10μm程度が好ましく、このような粒径とすることにより、高抵抗である炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、全体にわたって線状に絡み合い、全体として均一な電気抵抗率を有する抵抗発熱層31bとすることができる。
耐熱性樹脂中に分散される導電性フィラーは、耐熱性樹脂に対して、低抵抗の金属粉末が、50〜300重量%、高抵抗の炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、5〜100重量%であることが好ましい。金属粉末、炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、いずれも、300重量%よりも多くなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が低下しすぎるおそれがあり、50重量%よりも少なくなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が高くなりすぎるおそれがある。このように、300重量%よりも多くなる場合および50重量%よりも少なくなる場合のいずれにおいても、所定の体積抵抗率に調整することは容易ではないので、50〜300重量%とすることが好ましい。
【0063】
抵抗発熱層31bの厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が好ましい。
抵抗発熱層31bの電気抵抗率は、抵抗発熱層31bに供給される電力、印加される電圧、抵抗発熱層31bの厚さ、定着ローラ33の直径および軸方向長さ等に基づいて、任意に設定されるが、好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度、より好ましくは、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・m程度である。
【0064】
なお、抵抗発熱層31bの体積抵抗率を調整するために、金属合金、金属間化合物等の導電性粒子を適宜混入してもよい。また、抵抗発熱層31bの機械的強度を向上させるために、ガラスファイバー、ウィスカ(金属の針状単結晶)、酸化チタン、チタン酸カリウム等を混入してもよい。
さらに、抵抗発熱層31bの熱伝導率を向上させるために、窒化アルミニウム、アルミナ等を混入してもよい。
【0065】
また、抵抗発熱層31bを安定的に製造するために、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤等を混入してもよい。
抵抗発熱層31bは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で重合して得られるポリイミドワニスに導電性フィラーを均一に分散させた状態で、円柱形状の金型に塗布してイミド転化させることによって製造することができる。
【0066】
発熱ベルト31の弾性層31cは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって構成されている。本実施形態では、弾性層31cとしてシリコーン(Si)ゴムを用いている。
発熱ベルト31の離型層31dは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等によって、離型性が付与されている。離型層31dの厚さは、5〜100μm程度が好ましい。フッ素系チューブとしては、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の商品名「PFA350−J」、「451HP−J」、「951HP Plus」等が好適である。
【0067】
離型層31dは、定着ニップNを通過する際に接触した記録シートSが容易に剥離されるような剥離性を有している。
この離型層31dは、例えば、水との接触角が90°以上、好ましくは110°以上であって、表面粗さRaが0.01〜50μm程度が好ましい。離型層31dは、導電性であってもよい。本実施形態では、離型層31dとしてPFAを用いている。
【0068】
補強層31a、抵抗発熱層31b、弾性層31cおよび離型層31dのそれぞれは、所定の厚さになっており、これらによって構成された発熱ベルト31は、加圧ローラ32が圧接されていない状態で、所定の直径の円筒形状を維持する剛性を有している。発熱ベルト31は、加圧ローラ32が圧接されることによる定着ローラ33の変形に追従して、加圧ローラ32の外周面に沿った状態に変形する。
【0069】
なお、発熱ベルト31は、上述したような4層構造に限るものではなく、抵抗発熱層31bと離型層31dとの2層構造であってもよい。また、いずれの場合にも、絶縁のためにPI、PPS等の樹脂層をさらに設ける構成であってもよい。なお、いずれの場合にも、抵抗発熱層31bは、離型層31dよりも内周側に位置していればよい。
各電極部31gを構成する導電体は、例えば、Cu、Al、Ni、真鍮、リン青銅等の金属を、抵抗発熱層31bに対して直接、化学メッキあるいは電気メッキすることによって形成することができる。この場合、抵抗発熱層31bの両側の各端部領域における外周面および内周面の所定位置に、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kをそれぞれ配置した状態で化学メッキあるいは電気メッキが行われる。
【0070】
なお、電極部31gを金属のメッキによって形成する場合は、2種類の金属によってメッキすることが好ましい。例えば、抵抗発熱層31bに対して、Cuを、直接、化学メッキした後に、Cu上にNiを電気メッキすることによって電極部31gを形成する。
また、電極部31gは、このような構成に限定されず、Cu、Ni等の金属箔を、導電性接着剤により、抵抗発熱層31b上と、外周側抵抗フィルム31h上および内周側抵抗フィルム31k上とに接着することによって形成してもよい。
【0071】
さらには、抵抗発熱層31b上と、外周側抵抗フィルム31h上および内周側抵抗フィルム31k上に、導電性インク、導電性ペーストを塗布することによって電極部31gを形成してもよい。また、導電性テープを、抵抗発熱層31bと、外周側抵抗フィルム31h上および内周側抵抗フィルム31kとにわたって貼り付けることによっても、電極部31gを形成することもできる。
【0072】
外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kは、体積抵抗率が、電極部31gよりも大きくなっていればよいが、体積抵抗率が抵抗発熱層31bよりも小さくなっていることが好ましい。外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kとしては、例えば、抵抗発熱体31bと同様に、PI等に導電性フィラーを分散させて体積抵抗率を調整したフィルムを用いることができる。このようなフィルムは、体積抵抗率の調整が容易であるために、好適である。また、このようなフィルムに限らず、SUS等の金属によって構成してもよい。
【0073】
外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kの厚さは、特に限定されるものではない。外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kは、厚さが変化することによって体積抵抗率が変化するために、調整または管理しやすい厚さとすればよい。
さらには、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kに代えて、抵抗発熱層31bの端部領域における外周面および内周面に一体に積層された抵抗体層を電流密度調整体として用いる構成としてもよい。
【0074】
<定着装置の動作>
このような構成の定着装置では、一方の給電部材37に電流が供給されると、当該給電部材37に圧接された電極部31gから抵抗発熱層31bを通って他方の電極部31gに電流が流れ、さらに電流は、当該他方の電極部31gから、この電極部31gに圧接された他方の給電部材37へと流れる。抵抗発熱層31bは、電流が流れることによって発熱する。
【0075】
この場合、一方の電極部31gが抵抗発熱層31bの端部領域の外周面から内周面にわたって連続した形状になっているために、電極外周部31x、電極連結部31z、電極内周部31yのそれぞれに電流が分散されて、それぞれから抵抗発熱層31bへ、直接または外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれを介して、電流が流れる。
【0076】
電極外周部31xおよび電極内周部31yのそれぞれにおける定着ニップNに近接した側縁に連続する領域と抵抗発熱層31bとの間に介在された外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kは、体積抵抗値が、電極部31gの電極外周部31xおよび電極内周部31yのそれぞれよりも大きいために、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31k内において電流が分散された状態で抵抗発熱層31bに流入する。
【0077】
この場合、電極部31gと、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれにおける電流経路を考慮すると、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれでは、定着ニップNから離れた端部から定着ニップNに近接した端部にかけて、電流密度が順次増加する傾向になる。従って、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれを通って抵抗発熱層31bに流れる電流の密度は、定着ニップNに近接した端部領域において高く、定着ニップNに近接した端部領域から離れるにつれて低下する。
【0078】
これにより、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kによって抵抗発熱層31b内に流入する電流の密度も定着ニップNに近接した端部において高く、定着ニップNに近接した端部から離れるにつれて低下することになる。
その結果、抵抗発熱層31bが局部的に過熱されることが確実に抑制されて、抵抗発熱層31bが異常高温になることを防止することができ、発煙等が生じることを防止することができる。また、抵抗発熱層31bにおいて局部的に劣化が促進されることも抑制されるために、抵抗発熱層31bを長期にわたって安定的に使用することができ、発熱ベルト31を高寿命化することができる。
【0079】
また、電極部31gが、電極外周部31x、電極連結部31z、電極内周部31yに分散されることによっても、抵抗発熱層31bに流れる電流が局部的に集中することをさらに緩和することができる。
なお、他方の電極部31gにおいては、抵抗発熱層31bから当該電極部31gに電流が流入することになるために、電流の流れる方向が反対になること以外は、前述した一方の電極部31gと同様になる。
【0080】
本実施形態の発熱ベルト31において、抵抗発熱層31bをモデル化して、発熱分布について数値解析を行った。以下、その数値解析について説明する。数値解析のモデルとして、厚さ40μm、幅(軸方向長さ)340mmの抵抗発熱層31bにおける両側の端部領域の外周面および内周面に、厚さが15μm、幅(軸方向長さ)が13mmの外周側抵抗フィルム31h上および内周側抵抗フィルム31kを、抵抗発熱層31bにおける両側の端面から2mm離して積層して、電極外周部31xおよび電極内周部31yを外周側抵抗フィルム31h上および内周側抵抗フィルム31k上において5μmの厚さになるように電極部31gを形成した。
【0081】
抵抗発熱層31bの体積抵抗率を9.4×10−5Ωm、電極部31gの体積抵抗率を1.72×10−8Ωmとし、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kの体積抵抗率をそれぞれの中間の値(1.0×10−5Ωm)として、各電極部31g間に100Vの交流電圧を印加したところ、図5(a)に示すように、抵抗発熱層31bは、電極部31gが設けられた端部では、抵抗発熱層31bの軸方向の外側の端面近傍から離れるにつれて順次高温になる温度分布になっていることが確認された(図5(a)において、濃度が薄いほど高温になっている)。
【0082】
このことから、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kでは、抵抗発熱層31bの軸方向の外側の端面から離れるにつれて、順次、電流密度が減少していることは明らかである。
この場合の抵抗発熱層31bにおける軸方向の両側の端部における単位面積当たりの最大発熱量は、電極部31gにおける定着ニップNに近接した端部に対応する部分において測定され、その測定値は、1.56×10(W/m)であった。この最大発熱量を、図6のグラフに示す。
【0083】
なお、比較のために、上記のモデルにおいて、抵抗発熱層31bの各端部に、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kを設けることなく、電極部31gを設けた構成として、同様の条件で交流電圧を印加したところ、図5(b)に示すように、電極部31gにおける電極外周部31xおよび電極内周部31yのそれぞれの定着ニップNに近接した端部領域に対応する抵抗発熱層31bの局部においてのみ高温状態になり、それぞれの部分において電流が集中していることが確認された。
【0084】
また、この場合の抵抗発熱層31bにおける単位面積当たりの最大発熱量を測定したところ、4.17×10(W/m)であった。この最大発熱量を、図6のグラフに併記する。
<変形例>
図7(a)は、電極部31gを導電性テープによって形成した場合の発熱ベルト31の一方の端部の横断面図である。電極部31gを構成する導電性テープは、抵抗発熱層31bの端面、当該端面に連続した抵抗発熱層31bの外周面および内周面、外周側抵抗フィルム31hの外周面および内周側抵抗フィルム31kの内周面を覆った状態で、外周側抵抗フィルム31hの外周面および内周側抵抗フィルム31kの内周面および抵抗発熱層31bの外周面および内周面一部に、導電性接着剤によってそれぞれ接着されている。
【0085】
その他の構成は、図4に示された構成と同様になっている。
このような構成によっても、電極部31gから抵抗発熱層31bに流れる電流が局部的に集中するおそれがなく、抵抗発熱層31bが局部的に過熱されることを抑制することができる。従って、抵抗発熱層31bが異常高温になることを防止することができ、しかも、抵抗発熱層31bの劣化が促進されることを防止することができるために、発熱ベルト31を長期にわたって安定的に使用することができる。
【0086】
なお、図7(a)では、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれの定着ニップNに近接した側縁は、電極部31gにおける定着ニップNに近接した側縁と同一平面上に位置する構成になっているが、このような構成に限るものではなく、例えば、図7(b)に示すように、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれが、電極部31gから、定着ニップN側に向って延出した構成であってもよい。
【0087】
このような構成とすることによって、電極部31gにおける電極外周部31xおよび電極内周部31yの定着ニップN側の端部に達した電流は、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kにおける定着ニップN側に向って突出した部分からも抵抗発熱層31b内に流入することになり、抵抗発熱層31bにおいて集中的に電流が流れることを、さらに緩和することができる。なお、図4に示された構成においても、同様の構成とすることができる。
【0088】
さらに、図7(c)に示すように、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれを、抵抗発熱層31bの外周面および内周面にそれぞれ積層された第1フィルム31pおよび31qと、第1フィルム31pおよび31qのそれぞれと電極部31gにおける定着ニップN側の端部との間に介在された第2フィルム31rおよび31sとの積層構造としてもよい。なお、この場合も、第2フィルム31rおよび31sは、電極部31gから、定着ニップN側に突出している。
【0089】
このように、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれを、複数のフィルムの積層構造として、定着ニップN側から抵抗発熱層31bの端部にかけて、段階的に枚数を減少させることにより、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれの抵抗が、抵抗発熱層31bの端部において小さく、定着ニップN側の端部において大きくなる。
【0090】
これにより、電極外周部31xおよび電極内周部31y内を流れる電流は、抵抗発熱層31bの端部において多く、定着ニップNに近接した端部において低下する。その結果、電極部31gにおける電極外周部31xおよび電極内周部31yの定着ニップN側の端部に到達する電流量をさらに低減することができ、抵抗発熱層31bにおいて集中的に電流が流れることを、さらに確実に緩和することができる。
【0091】
なお、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kを構成するフィルムを3枚以上のフィルムの積層構造としてもよい。
また、図4に示された構成においても、同様の構成とすることができる。
さらには、図7(d)に示すように、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれを、抵抗発熱層31bにおける端面側の端部が最も薄く、定着ニップN側になるにつれて順次厚くなる構成として、最も薄くなったそれぞれの端部を抵抗発熱層31bにおける端面に近接させた状態としてもよい。
【0092】
このような構成でも、外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kのそれぞれの抵抗値が、抵抗発熱層31bの端部において小さく、定着ニップNに接近するにつれて連続的に増加しており、従って、電流密度が連続的に増加する。これにより、抵抗発熱層31bにおいて集中的に電流が流れることを、さらに確実に緩和することができる。なお、図4に示された構成においても、同様の構成とすることができる。
【0093】
<他の変形例>
上記の説明では、抵抗体層である外周側抵抗フィルム31hおよび内周側抵抗フィルム31kの体積抵抗値は、抵抗発熱層31bよりも小さくする構成であったが、抵抗発熱層31bの体積抵抗値よりもある程度大きくなっていてもよい。この場合にも、抵抗発熱層31bが絶縁体でないために、各電極部31gにおける定着ニップN側の端部に集中する電流が、抵抗発熱層31bによって分散された状態で、抵抗発熱層31b内に流れることになり、抵抗発熱層31bに対して局部的に電流が集中することを緩和させることは可能である。
【0094】
また、上記の説明では、電極部31gは、抵抗発熱層31bにおける両側の各端面と、それぞれの端面に連続する抵抗発熱層31bの外周面および内周面とをそれぞれ全周にわたって覆う構成であったが、このような構成に限らず、電極部31gが、抵抗発熱層31bの外周面および内周面のいずれか一方を全周にわたって覆うように構成して、電極部31gが覆う抵抗発熱層31bの外周面または内周面との間に、抵抗フィルム等の抵抗体層を設ける構成であってもよい。
【0095】
さらに、定着ローラ33の外周面に発熱ベルト31を嵌合させる構成に限らず、定着ローラ33の外周面に抵抗発熱層31bを設ける構成として、抵抗発熱層31bの軸方向の両側の端部における外周面にのみ電極部31gを設ける構成としてもよい。
また、上記の説明では、定着装置30の電源として、商用の交流電源を用いる構成であったが、直流電源を用いる構成であってもよい。
【0096】
さらに、発熱ベルト31に加圧手段としての加圧ローラ32を圧接させて定着ニップNを形成する構成であったが、定着ニップNを形成するための加圧手段は、加圧ローラ32に限らず、加圧ベルトを用いてもよい。また、加圧手段としては、加圧ローラ32、加圧ベルト等のように回転している必要がなく、固定的に設けられた加圧部材等を用いてもよい。
【0097】
さらに、本発明に係る画像形成装置は、タンデム型カラーデジタルプリンタに限るものではなく、モノクロ画像を形成するプリンタであってもよい。さらには、プリンタに限らず、複写機、MFP(Multiple Function Peripheral)、FAX等(いずれの場合にも、カラー画像用、モノクロ画像用のいずれであってもよい)にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が設けられた定着回転体が異常高温になることを防止して長寿命化する技術として有用である。
【符号の説明】
【0099】
30 定着装置
31 発熱ベルト
31a 補強層
31b 抵抗発熱層
31c 弾性層
31d 離型層
31g 電極部
31h 外周側抵抗フィルム
31k 内周側抵抗フィルム
31p、31q 第1フィルム
31r、31s 第2フィルム
32 加圧ローラ
33 定着ローラ
34 交流電源
37 給電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が全周にわたって設けられた定着回転体と、
当該定着回転体の外周面に圧接して定着ニップを形成する加圧部材と、を有し、
前記定着ニップの両側において前記抵抗発熱層に給電するための電極部が当該抵抗発熱層の全周にわたって積層状態でそれぞれ設けられており、
前記各電極部と前記抵抗発熱層との層間に、少なくとも前記定着ニップに近い側縁から、当該層間内に進入した状態で抵抗体層が設けられており、
当該抵抗体層体積抵抗率が前記電極部よりも高いことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記抵抗体層は、前記抵抗発熱層よりも低い体積抵抗率であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記各電極部は、前記定着ニップとは遠い側の側縁を含む領域が、前記抵抗発熱層に直接接触していることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記抵抗体層は、前記各電極部と前記抵抗発熱層との層間から、前記定着ニップ側に延出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記抵抗体層は、前記抵抗発熱層における両側の各端面から離れるにつれて、厚さが順次増加していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記抵抗体層は、前記抵抗発熱層上に積層されたフィルムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記定着ニップの両側における前記各電極部は、前記抵抗発熱層における外周面および内周面のそれぞれに積層されており、前記抵抗体層が、前記抵抗発熱層における外周面および内周面と、それぞれに積層された各電極層との間に設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項8】
前記各電極部は、前記抵抗発熱層における軸方向の両側の各端面に接していることを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−103401(P2012−103401A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250704(P2010−250704)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】