説明

害虫防除ネット、害虫防除方法及び害虫防除ネットの設置方法

【課題】マラリアを媒介する蚊の侵入を防ぎ、家屋内の住民を安全に保護することができ、且つ家屋の住環境を悪化させることが少ない方策を提案する。
【解決手段】害虫防除ネット1は、編み地であって、殺虫剤、共力剤、忌避剤、昆虫成長制御剤、不妊化剤のいずれかを1種又は2種以上が担持されている。家屋10は、人が居住する建物であり、外壁11と屋根部12によって構成されている。土壁部16の上端と、外壁と屋根部との間に開口部26がある。害虫防除ネット1は、居住空間30の上面を全面的に覆う天井覆い部45を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫やダニ類等の有害な虫が媒介する感染症を予防するための害虫防除ネットに関するものである。本発明は人及び家畜の感染症を予防する目的として使用される。特に本発明は、蚊が媒介する感染症の予防に効果が高いものである。
【背景技術】
【0002】
多くの吸血性の害虫が、病原体を人や家畜に媒介させて感染症を引き起こす。特に熱帯地域では、マラリアやデング熱など、蚊が媒介する感染症が、多くの人を死亡させ、経済の発展をも妨げている。これらの疾病媒介害虫を駆除するために、殺虫剤をスプレーする方法や、屋内の壁の表面に接触性の殺虫剤を塗る方法(屋内残留散布法)が用いられてきた。しかし、これらの方法は持続性に乏しく、スプレーでは数時間、屋内残留散布法でも持続期間は、最大6ヶ月であった。近年、ピレスロイド系化合物を繊維に担持させてなる、殺虫剤処理蚊帳が開発された(特許文献1)。この蚊帳は、「Olyset Net」(住友化学株式会社の登録商標)という商標の下で販売されている。
【0003】
この蚊帳の中で就眠することで、人は、疾病媒介害虫や不快害虫の接触が遮断され、疾病の感染を予防することができる。この方法の利点は、繊維に殺虫剤が長期間残効し、5年以上にわたって防除効果を持続することである(非特許文献1)。また、蚊帳に使用されているピレスロイド系化合物は、害虫に対する忌避効果があり、家屋内の害虫の数が減少することが実験で示されている(非特許文献2)。
【0004】
また、マラリアを媒介するハマダラカが家屋内へ侵入する経路として、ドアや窓よりも、外壁上部に設けられた換気用の開口部が重要であることが実験で示されている(非特許文献3)。
【0005】
さらに、家屋内に侵入したハマダラカは、天井によく止まる習性があることが知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−13508号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tami, A. et al. (2004). Evaluation of OlysetTM insecticide-treated nets distributed seven years previously in Tanzania. Malaria Journal 3:19.
【非特許文献2】Dabire, R. K. et al. (2006). Personal protection of long lasting insecticide-treated nets in areas of Anopheles gambiae s.s. resistance to pyrethroids. Malaria Journal 5: 12.
【非特許文献3】Njie, M. et al. (2009). Importance of eaves to house entry by anopheline, but not culicine, mosquitoes. Journal of Medical Entomology 46: 505-510.
【非特許文献4】Roberts, D. R. et al. (1987). The house-frequenting, host-seeking and resting behavior of Anopheles darlingi in southeastern Amazonas, Brazil. Journal of American Mosquito Control Association 3: 433-441.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蚊帳による害虫防除は、就眠時以外の時間帯に、家屋内の住民を疾病媒介害虫から完全に保護できない点に限界がある。また、家族の人数が多い場合に、蚊帳の数や、蚊帳を設置する場所が不足し、家族全員が蚊帳の中で就眠できないことがある。これらの問題により、殺虫剤処理蚊帳による感染症の予防は完全ではなかった。
【0009】
ここで家屋の気密性を向上させれば、屋内に対する蚊の侵入を阻止することができる。しかしながら、マラリア等の多発地域では、家屋の気密性を向上させがたい事情がある。即ちマラリア等の多発地域は、電力事情が悪い場合が多く、且つ所得水準も低いことから、エアコンの普及率が低い。そのため家屋の気密性を高めると、居住空間の温度が過度に上昇してしまい、居住に耐えない。
そのためマラリア等の多発地域では、積極的に外気を室内に取り込む構造の家屋が伝統的に使用されている。
【0010】
例えば、土壁や、レンガ、木材、竹、コンクリートなどで外壁を作り、その上に屋根を載せて内部に居住空間を形成される構造によって家屋が建設されるが、外壁の上端と、屋根の下面との間に故意に隙間を設けて開口部を形成する。または、外壁の上部に換気用の開口部を設けたり、屋根の部分に開口部を設ける場合もある。そして当該開口部から居住空間に外気を取り込む。
この伝統的な構造の家屋では、居住空間の温度環境を良好に維持することができるが、夜間には開口部を経て大量の蚊が居住空間に侵入する。
開口部を粘土や板等で埋めてしまえば蚊の侵入は阻止できるが、前記した様に居住空間の温度が過度に上昇してしまい、居住に耐えない。
また開口部に通常の目の細かい防虫網を張って蚊の侵入を阻止する方策も考えられるが、マラリアの多発地域は、昆虫や蜘蛛等の虫の数がおおびただしく多く、且つ埃も多い。そのため短期間の間に網に虫の死骸や埃が付着し、防虫網が目詰まりしてしまう。その結果、開口部からの風の導入が阻害され、居住空間の温度環境を悪化させてしまう。
【0011】
また牛、馬、羊、山羊等の家畜についても同様のことが言え、蚊等に刺されて、病気に感染することがある。
家畜小屋についても、外壁に開口部が設けられている場合があり、当該開口部から小屋内に風を取り込む構造が採用されているが、夜間には開口部を経て大量の蚊が家畜の居住空間(飼育空間)に侵入する。
【0012】
そこで本発明は、上記した問題点に注目し、家屋内や畜舎内の住民や家畜を疾病媒介害虫からより安全に保護することができ、且つ家屋や畜舎の住環境を悪化させることが少ない方策を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、屋内の害虫密度を低下させるための新しい手段であり、天井設置型の殺虫剤処理ネットである。
本発明は、壁部と屋根部とを有し内部に人または家畜の少なくともいずれかが入る人畜居住空間が存在する建築物の、前記人畜居住空間の上面の全体に設置され、前記人畜居住空間の上面との間に平均して20センチメートル以上の空間が設けられる害虫防除ネットであって、当該害虫防除ネットには害虫に対して何らかのダメージを与える薬剤が担持されており、1平方インチ当たりの網目の数が300個以下であることを特徴とする害虫防除ネットである。
【0014】
好ましい1平方インチ当たりの網目の数は、50〜140個である。
【0015】
本発明の害虫防除ネットは、編構造または、織構造で作成することができる。1平方インチ当たりの網目の数(ホール数)が140個以下であるため、通常の防虫網に比べて網目の大きさ(ホールサイズ)が大きい。ここで「網目」とは、編構造の場合、図10(a)に示す様に、編み線(糸)2で構成された開口3を言い、編み線2自身の隙間ではない。即ち例えば編地で作られたネットは、編み線2どうしをからげて大きな開口3を作る。この開口3が本発明でいう網目である。
以下、人畜居住空間の上面を「天井」と称することがある。
本発明の害虫防除ネットは、網目の大きさ(ホールサイズ)が大きいので、通気性がよい。壁部の上端と屋根部の間に開口部を有する家屋や家畜小屋を想定すると、天井覆い部と天井(人畜居住空間の上面)との間に平均して20センチメートル以上の空間が設けられているから、壁の上端の開口部から吹き込む風を、天井覆い部と天井との間の通気空間に導入することができる。そして当該通気空間から導入された風は、天井覆い部を経て居住空間内に入る。逆に、ドアや窓から導入された風によって屋内の空気が天井覆い部を経て開口部から排出され、屋外に容易に換気される。即ち、壁部の上部に換気口を有する家屋に本発明を適用しても、通気性を損なうことがない。
ここで本発明では、天井覆い部は、人や家畜の居住空間の上面の全体を覆うものであり、面積が極めて大きい。そのため長期間に渡って使用しても網目が目詰まりすることは無い。また全体としての空気の通過面積が大きいので、通気性もよく、居住空間の温度環境を悪化させることがない。
また、本発明の害虫防除ネットには、害虫に対して何らかのダメージを与える薬剤が担持されているから、害虫は網目をくぐり抜けることが出来ない。たとえ網目をくぐり抜ける害虫があったとしても、その害虫は薬剤によって必ずダメージを受ける。また薬剤に忌避性がある場合は、例え網目が、害虫が通過できる大きさであったとしても、害虫が近寄らず、害虫はネットを通り抜けることができない。
即ち、本発明では、害虫防除ネットは、建築物内における人畜居住空間の上面の全体を覆う天井覆い部を有しているため、害虫の居住空間への侵入は天井覆い部によって阻止される。
【0016】
本発明の利点をまとめると次の通りである。
本発明の第一の利点は、就眠時間外も家屋内や畜舎内の住民や家畜を疾病媒介害虫の接触から守ることができることである。従来の様な蚊帳は、その中で就眠する時間帯のみ住民等を害虫の接触から防ぐことができるが、本発明の害虫防除ネットの様な天井設置型の殺虫剤処理ネットは、蚊帳を使用しない時間帯も常に害虫を防除することができる。
【0017】
本発明の第二の利点は、家屋内の気温や湿度の悪化を防ぎ、住民に不快さを感じさせないことである。マラリアなどの感染症が問題となっている熱帯地域では、前記した様に家屋の壁部の上部に換気用の開口部があるため、害虫が侵入しやすい構造である。マラリアを媒介する蚊の侵入を防ぐために開口部を塞ぐと、家屋内の温湿度が悪化して快適さが悪化する。本発明の害虫防除ネットは、網目の大きさ(ホールサイズ)が大きく、天井覆い部全体を通して通気するから、目詰まりを起こすこともなく、屋内と屋外の空気の通気性が確保される。さらに、天井の中央部が高い家屋に設置すると、害虫防除ネットの天井覆い部に傾斜がついて通気性がさらに促進される。
【0018】
本発明の第三の利点は、マラリアを媒介するハマダラカがよく天井に止まる性質を利用している点である。本発明の害虫防除ネットの様な天井設置型の殺虫剤処理ネットを設置しても、窓やドア、または壁に生じた隙間などから害虫が侵入するが、ハマダラカは天井に止まる性質があるため、吸血後等に天井に止まる。本発明の害虫防除ネットは、家屋内における居住空間の上面の全体を覆うから、ハマダラカは、害虫防除ネットの天井覆い部に止まることとなる。そしてハマダラカは害虫防除ネットに担持された薬剤の影響を受けて弱る。又はハマダラカは、薬剤の影響を受けて死ぬ。
【0019】
本発明の第四の利点は、病原体を保有した住民や家畜から吸血した害虫も、天井にとまる性質によって天井設置型ネットに接触し、害虫が引き続いて別の人に病原体を伝播させるのを確実に防ぐことである。
【0020】
本発明の第五の利点は、居住空間で生活する住民、特に子供が、接触しにくい位置に害虫防除ネットが設置されるため、人に対して有害な殺虫剤もネットに担持させることができることである。例えば、蚊帳に処理することをWHOが推奨していない有機リン系化合物やカーバメート系化合物などの殺虫剤をネットに担持される薬剤として使用しても、人に対する実質的な害が少ない。そのため、ピレスロイド系化合物に対して抵抗性を持った害虫個体群にも効果を発揮する薬剤をネットに担持されることもできる。
【0021】
本発明の第六の利点は、設置が簡便であるため、設置のための人手と時間が少なく済むことである。労働力の低減は、感染症が流行する地域内の、より多くの建築物に設置するために、最も重要な要因である。
【0022】
本発明の第七の利点は、天井設置型の害虫防除ネットを感染症が流行する地域内に大規模に適用することで、マス効果が生じ、当該地域全体の害虫個体群密度を全体的に低下させることである。
【0023】
本発明の害虫防除ネットによれば、例えば、有害昆虫類及び有害ダニ類等の害虫を防除できる。そのような害虫としては、具体的には、例えば、次のものが挙げられる。
(1)Anopheles 属の蚊である、An. gambiae, An. arabiensis, An. funestus, An. melas, An. minimus, An. dirus, An. stephensi, An. sinensis, An. anthropophagus
等。
(2)Culex 属の蚊である、Cx. pipiens pipiens, Cx. quinquefasciatus, Cx. pipiens pallens, Cx. pipiens f. molestus, Cx. restuans, Cx. tarsalis, Cx. modestus, Cx. tritaeniorhynchus等。
(3)Aedes 属の蚊である、Aedes aegypti, Ae. albopictus, Ae. japonicus, Ae. vexans等。
(4)アブ類、ハエ類、ブユ類、サシチョウバエ類、ヌカカ類、ツェツェバエ類、ユスリカ類、ノミ類、シラミ類、トコジラミ類、サシガメ類、ゴキブリ類、アリ類、シロアリ類、ダニ類、マダニ類等。
【0024】
前記した様に、本発明の害虫防除ネットは、壁部の上部に換気可能な開口部を有する建築物に適用することが望ましい。即ち建築物は、壁部と屋根部との間の開口部によって、建築物の内部の居住空間が屋外に開放されていることが望ましい。
【0025】
害虫防除ネットは、中央部が人畜居住空間の上面の中央部に取付けられ、周辺部が壁部の内側に取り付けられ、中央部と周辺部の間が人畜居住空間の上面の各部に固定または吊り下げられているものであることが望ましい。
【0026】
害虫防除ネットは、その一部が天井から紐などを使って吊り下げることによって取り付けられるものであることが望ましい。
【0027】
害虫防除ネットの周端の辺部は、換気用の開口部の下部にピンなどによって固定されることが望ましい。
【0028】
害虫防除ネットの周端の辺部は、換気用の開口部の上部に固定されてもよいが、壁部の内側に沿って垂れ下がり、開口部を覆うことが可能であることが望ましい。
【0029】
この構成によると、極めて簡単、かつ短時間に害虫防除ネットを設置することが出来る。
【0030】
害虫防除ネットに担持されている薬剤は、殺虫剤、共力剤、忌避剤、昆虫成長制御剤、不妊化剤のいずれかを1種又は2種以上含むものであることが望ましい。
【0031】
殺虫剤が、ピレスロイド系化合物、カーバメート系化合物、有機リン系化合物、ネオニコチノイド系化合物などから選択される1種又は2種以上を含むものであることが望ましい。
【0032】
共力剤が、ピペロニルブトキシドであることが望ましい。
【0033】
忌避剤が、ジエチルトルアミドであることが望ましい。
【0034】
昆虫成長制御剤が、ピリプロキシフェン又はメトプレンであることが望ましい。
【0035】
ネットの素材が樹脂であることが推奨される。
【0036】
ネットの素材に薬剤が練りこまれていることが推奨される。
【0037】
ネットの素材に薬剤がコーティングされていることが推奨される。
【0038】
ネットの素材に薬剤が練りこまれており、かつコーティングされていることが推奨される。
【0039】
方法に関する発明の一つは、前記した害虫防除ネットを、壁部と屋根部とを有し内部に人または家畜の少なくともいずれかが入る人畜居住空間が存在する建築物に設置することを特徴とする人または家畜を保護するための害虫防除方法である。
【0040】
またもう一つの方法に関する発明は、害虫に対して何らかのダメージを与える薬剤が担持された害虫防除ネットを、壁部と屋根部とを有し内部に人または家畜の少なくともいずれかが入る人畜居住空間が存在する建築物に設置する害虫防除ネットの設置方法であって、建築物内における人畜居住空間の上面の全体を覆い、且つ前記人畜居住空間の上面との間には平均して20センチメートル以上の通気空間が設けられる様に固定または吊り下げると共に、周端近傍を壁部に固定することを特徴とする害虫防除ネットの設置方法である。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、殺虫剤処理蚊帳だけを使用した場合にくらべて家屋内や畜舎内の病原体媒介害虫の個体数を劇的に低下させることができる。その結果、家屋内等で生活する住民や家畜の病原体感染率を低下させることができる。
また本発明によれば、屋内の通気性を確保することができ、住環境を悪化させないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態の害虫防除ネットを取り付けた家屋の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の家屋の分解斜視図である。
【図3】図1の家屋の断面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図1の家屋の壁上部の断面斜視図である。
【図6】害虫防除ネットの他の固定例を示す家屋の断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態の害虫防除ネットを取り付けた家屋の外観を示す斜視図である。
【図8】図7の家屋の断面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施形態の害虫防除ネットを取り付けた家屋の断面図である。
【図10】本発明の実施形態の害虫防除ネットの拡大図であり、(a)は編構造、(b)は織構造の例をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の害虫防除ネットは、薬剤を担持した糸を、多数の網目を形成するように、編んで又は織って形成されたものである。本発明の害虫防除ネットは、編まれて形成された場合には編構造を有し、織られて形成された場合には織構造を有している。図10(a)は、糸2を、多数の網目3を形成するように、編んで形成された、編構造のネットの一例を示し、図10(b)は、糸2を、多数の網目3を形成するように、織って形成された、織構造のネットの一例を示している。なお、本発明の害虫防除ネットは、編構造を有するのが好ましい。
【0044】
薬剤を担持した糸は、ネットの素材に薬剤を、練りこむ及び/又はコーティングし、必要により紡糸することにより得ることができる。
なお、ネットの素材が樹脂である場合には、樹脂に薬剤が、練りこまれている及び/又はコーティングされている樹脂組成物を紡糸することにより得ることができる。
また本発明の害虫防除ネットは、薬剤を担持しない糸を用いて、上記編構造又は織構造のネットを形成した後、薬剤をコーティングすることにより得ることもできる。
【0045】
ネットの素材に用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、又はポリ塩化ビニルなどを、使用できる。
【0046】
なお、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、次の化合物が好ましい。
(i)α−オレフィンの単独重合体:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど。
(ii)エチレン−α−オレフィン共重合体:例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、又はエチレン−ヘキセン共重合体など。
(iii)エチレン性不飽和結合を有する有機カルボン酸誘導体とエチレンとの共重合体:例えば、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル−メチルメタクリレート共重合体など。
【0047】
なお、網目3の大きさ(ホールサイズ)は、防除対象とする害虫の体長に応じて適宜設定され、当該害虫がネットを通過しようとする際にネットに接触するような大きさであるのが好ましい。一般的には、網目3の大きさ(ホールサイズ)は、2〜5mm、好ましくは2〜4mmの範囲である。
【0048】
本発明の害虫防除ネットの、1平方インチ当たりの網目の数(ホール数)は300個以下であり、より好ましくは50〜140個である。
【0049】
次に、害虫防除ネット1が設置される家屋(建築物)10について説明する。家屋10は、人が居住する建物であり、図1,図2の様に外壁11と屋根部12によって構成されている。
外壁11は、図2の様に、4辺を囲むものであって、一部にドア13が設けられている。外壁11は4隅あるいはそれ以上の部位に柱15が立てられ、柱15の間に土等が配置されて土壁部16が構成されている。
柱15の間には、土等が崩れることを防止するために、図示しない小柱や小梁が設けられている。
本実施形態で採用する外壁11は、土壁部16の高さhが、四隅の柱15の高さHよりも低い。
【0050】
屋根部12は、トタン屋根であり、骨組み部20と、トタン部21によって構成されている。骨組み部20は、中心部分に主梁22があり、当該主梁22から放射状かつ斜め下方向に向かって支持梁23が取り付けられている。そのため骨組み部20は、中心部分(主梁22の部位)の高さが高く、周辺部はいずれも下向きに傾斜している。そのため周辺部は中心部分に比べて一様に高さが低い。
【0051】
トタン部21は、骨組み部20にトタン板を打ちつけたものであり、骨組み部20の上面を全面的に覆っている。またトタン部21の形状は、前記した骨組み部20に類似したものとなり、中心部分が高く、周辺部は一定の勾配をもって下向きに傾斜している。
そのためトタン部21は中心部分が高く、周辺部は中心部に比べて低い。
【0052】
屋根部12は、外壁11の隅の4本の柱15によって支持されている。即ち、柱15の先端に骨組み部20の支持梁23の中間部が固定されている。支持梁23は、柱15に対して傾斜姿勢であり、その先端25は、外壁11の領域外にある。
ここで、前記した様に、外壁11は、土壁部16の高さhが、四隅の柱15の高さHよりも低い。そして前記した様に、屋根部12は、外壁11の隅の4本の柱15によって支持されているから、土壁部16の上端と、外壁と屋根部との間に換気用の開口部26が形成されている。なお当該開口部26は、イーブとも称される。
【0053】
家屋10は、外壁11で囲まれた領域が居住空間30となる。また屋根部12のトタン部21の内面側が天井31となる。天井31は居住空間30の上面に相当する。
【0054】
本実施形態の害虫防除ネット1は、図3の様に家屋10の中に設置され、居住空間30の上面を全面的に覆う。
即ち害虫防除ネット1は、一枚の平坦なネットあるいは、ある程度の形状に縫製されたネットであり、一部が屋根部12の骨組み部20から吊り下げられて設置されている。
より詳細には、図3の様に害虫防除ネット1の中心部50が、骨組み部20の主梁22から吊り紐51によって吊り下げられている。また害虫防除ネット1の辺部33の近傍がピン36によって外壁11の内面側に固定されている。
そしてこれらの中間部が骨組み部20の支持梁23から吊り紐52で吊り下げられている。
【0055】
本実施形態の害虫防除ネット1は、中心部が天井側にあり、周辺部が外壁11の内面側にあるから、居住空間30の上面を全面的に覆うこととなる。
即ち害虫防除ネット1は、居住空間30の上面を全面的に覆う天井覆い部45を持つ。また周辺部は、外壁11の内面に沿って垂れ下がる垂下部46となっている。
【0056】
また害虫防除ネット1の中心部50は、家屋10で最も高い主梁22に取り付けられ、辺部33の近傍がそれよりも高さが低い外壁11に取り付けられているから、害虫防除ネット1の姿勢は、裾方向が下にあり、且つ下向きに広がった形状となっている。
そのため害虫防除ネット1の天井覆い部45は、傾斜面である。また害虫防除ネット1は、骨組み部20の主梁22から吊り下げられて設置されているから、天井31と害虫防除ネット1との間には通気空間40となる隙間がある。当該隙間の平均は20cm以上である。また当該隙間の平均の望ましい範囲は、20cm〜150cmである。そして通気空間40は、外壁11と屋根部12との間の開口部26と直接連通している。
即ち本実施形態では、害虫防除ネット1は、直接的には開口部26を覆わない。そのため本実施形態では、開口部26は開放状態である。また開口部26と通気空間40との間には障害物は無く、開口部26は通気空間40に開く。
【0057】
なお前記した様に、害虫防除ネット1の外壁11に対する固定は、図5の様にピン36によって行われているが、ピン36は、害虫防除ネット1の辺部33よりもやや内側に入った位置に取り付けられている。またピン36は、所定の間隔で取り付けられている。そのため害虫防除ネット1の辺部33は自由度を持つ。
【0058】
次に本実施形態の害虫防除ネット1の機能について説明する。
本実施形態の害虫防除ネット1が設置された家屋10は、開口部26が開放されているから、開口部26から屋内に風を取り込むことができる。取り込まれた風は、天井31と、害虫防除ネット1との間の通気空間40に入る。そして本実施形態では、害虫防除ネット1の面が傾斜しているから、風は、図3の矢印の様に害虫防除ネット1の天井覆い部全体の網目3を経て居住空間30側に流れる。即ち本実施形態では、天井31と、害虫防除ネット1との間に十分な通気空間40が確保されているから、外の風は、何ら抵抗なく、家屋内に入る。また残部の空気は、天井31の高い位置まで流れ、天井に滞留する高温の空気と置換される。また本実施形態では、害虫防除ネット1は、居住空間30の上部全体を覆い、且つ裾が広がった形状であって面積が広いから、風の通過抵抗が小さい。また面積が広いから、目詰まりを起こしにくい。
【0059】
またドア13等から入った空気は、居住空間30から通気空間40に抜け、開口部26から排出される。
【0060】
一方、本実施形態では、開口部26が開放されているから、蚊についても、天井31と、害虫防除ネット1との間の通気空間40に入ることとなる。しかしながら、害虫防除ネット1には薬剤が担持されているから、害虫防除ネット1を通過する蚊は少ない。また例え害虫防除ネット1を通過したとしても、蚊は薬剤の影響で弱り、吸血することが少ない。
特にハマダラ蚊は、吸血後に天井に止まる性質があるため、ドアや窓から侵入し、吸血しても、天井に止まった際に薬剤に触れ、弱る。即ち本実施形態では、居住空間30の天井に相当する位置に、害虫防除ネット1があるから、蚊が天井に止まった際に薬剤に触れ、弱る。
そのため居住者が吸血されることは少なく、例え吸血されたとしても、当該蚊は家屋から脱出することができず、マラリアなどを蔓延させない。
【0061】
上記した実施形態では、害虫防除ネット1の中心部50が最も高い主梁22に取り付けられ、天井の中心に固定されているが、天井の中心以外に固定されていてもよい。例えば、図6に示す例では、天井の中心を挟む複数箇所で害虫防除ネット1が固定されており、害虫防除ネット1が天井の中心を跨いでいる。
【0062】
次に、害虫防除ネット1に担持される薬剤について説明する。薬剤については特に限定されるものではないが、例えば、殺虫剤、共力剤、忌避剤、昆虫成長抑制剤、あるいは不妊化剤に属する薬剤を用いることができる。これらの薬剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
殺虫剤としては特に限定はないが、例えば、ピレスロイド系化合物、カーバメート系化合物、有機リン系化合物、あるいはネオニコチノイド系化合物に属する殺虫剤を用いることができる。
ピレスロイド系化合物の例としては、アクリナトリン、アレスリン(allethr
in)、d−アレスリン、dd−アレスリン、ベータ−シフルトリン(beta−cyfluthrin)、ビフェントリン(bifenthrin)、シクロプロトリン(cycloprothrin)、シフルトリン(cyfluthrin)、シハロトリン(cyhalothrin)、シペルメトリン(cypermethrin)、ジメフルトリン(dimefluthrin)、エンペントリン(empenthrin)、デルタメトリン(deltamethrin)、テラレスリン、テフルトリン、エスフェンバレレート(esfenvalerate)、エトフェンプロックス(etofenprox)、フェンプロパトリン(fenpropathrin)、フェンバレレート(fenvalerate)、フルシトリネート(flucythrinate)、フルフェンプロックス(flufenoprox)、フルメトリン(flumethrin)、フルバリネート(fluvalinate)、プロフルトリン(profluthrin)、ハルフェンプロックス(halfenprox)、イミプロトリン(imiprothrin)、ペルメトリン(permethrin)、ベンフルスリン、プラレトリン(prallethrin)、ピレトリン(pyrethrins)、レスメトリン(resmethrin)、d−レスメトリン、シグマ−サイパーメトリン(sigma−cypermethrin)、シラフルオフェン(silafluofen)、テフルトリン(tefluthrin)、トラロメトリン(tralomethrin)、トランスフルトリン(transfluthrin)、テトラメトリン(tetramethrin)、d−テトラメトリン、フェノトリン(phenothrin)、d−フェノトリン、シフェノトリン(cyphenothrin)、アルファシペルメトリン(alpha−cypermethrin)、ゼータシペルメトリン(zeta−cypermethrin)、ラムダシハロトリン(lambda−cyhalothrin)、ガンマシハロトリン(gamma−cyhalothrin)、フラメトリン(furamethrin)、タウフルバリネート(tau−fluvalinate)、メトフルトリン(metofluthrin)、天然ピレトリン等が挙げられる。
【0064】
なお、ピレスロイド化合物としては、ペルメトリン、デルタメトリン、又はアルファシペルメトリンが、好ましい。
【0065】
これらのピレスロイド化合物は、一種のみで、又は、二種以上を組み合わせて使用できる。また、上記化合物の中には、光学異性体、立体異性体、又は幾何異性体等が存在するものもあるが、本発明のピレスロイド化合物には、活性な異性体及びその混合物が、含まれる。
【0066】
カーバメート系化合物の例としては、アラニカルブ(alanycarb)、ベンダイオカルブ(bendiocarb)、ベンフラカルブ(benfuracarb)、BPMC、カルバリル(carbary1)、カルボフラン(carbofuran)、カルボスルファン(carbosulfan)、クロエトカルブ(cloethocarb)、エチオフェンカルブ(ethiofencarb)、フェノブカルブ(fenobucarb)、フェノチオカルブ(fenothiocarb)、フェノキシカルブ(fenoxycarb)、フラチオカルブ(furathiocarb)、イソプロカルブ(isoprocarb:MIPC)、メトルカルブ(metolcarb)、メソミル(methomyl)、メチオカルブ(methiocarb)、NAC、オキサミル(oxamyl)、ピリミカーブ(pirimicarb)、プロポキスル(propoxur:PHC)、XMC、チオジカルブ(thiodicarb)、キシリルカルブ(xylylcarb)、及びアルジカルブ(aldicarb)などが挙げられる。
【0067】
有機リン系化合物の例としては、アセフェート(acephate)、リン化アルミニウム(Aluminium phosphide)、ブタチオホス(butathiofos)、キャドサホス(cadusafos)、クロルエトキシホス(chlorethoxyfos)、クロルフェンビンホス(ch1orfenvinphos)、クロルピリホス(chlorpyrifos)、クロルピリホスメチル(chlorpyrifos−methyl)、シアノホス(cyanophos:CYAP)、ダイアジノン(diazinon)、DCIP(dichlorodiisopropyl ether)、ジクロフェンチオン(dichlofenthion:ECP)、ジクロルボス(dichlorvos:DDVP)、ジメトエート(dimethoate)、ジメチルビンホス(dimethylvinphos)、ジスルホトン(disulfoton)、EPN、エチオン(ethion)、エトプロホス(ethoprophos)、エトリムホス(etrimfos)、フェンチオン(fenthion:MPP)、フエニトロチオン(fenitrothion:MEP)、ホスチアゼート(fosthiazate)、ホルモチオン(formothion)、リン化水素(Hydrogen phosphide)、イソフェンホス(isofenphos)、イソキサチオン(isoxathion)、マラチオン(malathion)、メスルフェンホス(mesulfenfos)、メチダチオン(methidathion:DMTP)、モノクロトホス(monocrotophos)、ナレッド(naled:BRP)、オキシデプロホス(oxydeprofos:ESP)、パラチオン(parathion)、ホサロン(phosalone)、ホスメット(phosmet:PMP)、ピリミホスメチル(pirimiphos−methy1)、ピリダフェンチオン(pyridafenthion)、キナルホス(quinalphos)、フェントエート(phenthoate:PAP)、プロフェノホス(profenofos)、プロパホス(propaphos)、プロチオホス(prothiofos)、ピラクロホス(pyraclorfos)、サリチオン(salithion)、スルプロホス(sulprofos)、テブピリムホス(tebupirimfos)、テメホス(temephos)、テトラクロルビンホス(tetrach1orvinphos)、テルブホス(terbufos)、チオメトン(thiometon)、トリクロルホン(trichlorphon:DEP)、バミドチオン(vamidothion)、フォレート(phorate)、及びカズサホス(cadusafos)などが挙げられる。
【0068】
ネオニコチノイド系化合物の例としては、イミダクロプリド(imidac1opr
id)、ニテンピラム(nitenpyram)、アセタミプリド(acetamiprid)、チアメトキサム(thiamethoxam)、チアクロプリド(thiacloprid)、ジノテフラン(dinotefuran)、及びクロチアニジン(clothianidin)などが挙げられる。
【0069】
共力剤の例としては、α−[2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ]−4,5−メチレンジオキシ−2−プロピルトルエン[ピペロニルブトキシド(PBO)]、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ(2,2,2)オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド [サイネピリン500]、ステアリン酸ブチル、ビス−(2,3,3,3−テトラクロロプロピル)エーテル
[S−421]、N−(2−エチルヘキシル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド[MGK264]などが挙げられる。特に、ピペロニルブトキシド(PBO)が好ましい。
【0070】
忌避剤の例としては、ジエチルトルアミド(DEET)が挙げられる。
【0071】
昆虫成長抑制剤の例としては、ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン、フエノキシカノレブ、エトキサゾール、クロルフルアズロン、フルアズロン、トリアズロン、ノバルロン、ヘキサフルムロン、ジフルベンズロン、シロマジン、フルフェノクスロン、テフルベンズロン、トリフルムロン、フルシクロクスロン、ヒドロプレン、ルフェヌロン、ノビフルムロン、ビストリフルロンなどが挙げられる。特に、ピリプロキシフェンとメトプレンが好ましい。
【0072】
不妊化剤の例としては、ピリプロキシフェンとメトプレンが挙げられる。
【0073】
また害虫防除ネット1として住友化学株式会社製の「Olyset Net」(住友化学株式会社の登録商標)を使用すれば、害虫防除ネット1を一度設置すると害虫の防除効果が5年以上持続することである。したがって感染症を持続的に予防できる。また、1年あたりの防除コストを大幅に削減することができる。
【0074】
以上説明した実施形態では、イーブ(開口部26)を有する家屋10を例に説明したが、他の構造の建築物にも本発明を応用することができる。
例えば、外壁部や屋根部に所定形状の孔や隙間が設けられた家屋(図示せず)にも本発明を適用することができる。
また家屋10の例としてトタン葺きの屋根部12を備えたものを例示したが、本発明は、トタン葺きの屋根部12に限定されるものではない。例えば、板葺き、草葺き、あるいは、コンクリートや煉瓦で作られた屋根部であってもよい。
壁部についても同様であり、板壁、煉瓦壁、コンクリート等、公知の構造の壁が適用可能である。
【0075】
また屋根部自体の構造についても限定されるものではなく、片側にのみ傾斜を有する屋根部や、傾斜を持たない屋根部であってもよい。
図7、図8は、傾斜を持たない屋根部(陸屋根)を備えた家屋70に本発明を適用した例を示す。なお以下の実施形態では、先の実施形態と同一の部材に同一の番号を付して、重複した説明を省略する。
【0076】
家屋70は、人が居住する建物であり、図7の様に外壁11と屋根部71によって構成されている。
外壁11は、図7の様に、4辺を囲むものであって、一部にドア13が設けられている。本実施形態で採用する外壁11には、図8の様に、上部に長方形の換気用の開口部72が設けられている。
【0077】
屋根部71は、コンクリート製であり、傾斜を持たない陸屋根である。
屋根部71は、外壁11によって支持されている。
【0078】
家屋70は、外壁11で囲まれた領域が居住空間30となる。また屋根部71の内面側が天井31となる。
【0079】
本実施形態の害虫防除ネット1は、図8の様に家屋70の中に設置され、居住空間30の上面を全面的に覆う。
即ち害虫防除ネット1は、先の実施形態と同一であり、一枚の平坦なネットあるいは、ある程度の形状に縫製されたネットであり、一部が天井31から吊り下げられて設置されている。
より詳細には、図8の様に害虫防除ネット1の中心部50が、天井31から吊り紐51によって吊り下げられている。また害虫防除ネット1の辺部33の近傍がピン36によって外壁11の内面側であって開口部72の下の位置に固定されている。
そしてこれらの中間部が骨組み部20の支持梁23から吊り紐52で吊り下げられている。
【0080】
本実施形態の害虫防除ネット1は、中心部が天井側にあり、周辺部が外壁11の内面側にあるから、居住空間30の上面を全面的に覆うこととなる。
即ち害虫防除ネット1は、居住空間30の上面を全面的に覆う天井覆い部45を持つ。また周辺部は、外壁11の内面に沿って垂れ下がる垂下部46となっている。
また害虫防除ネット1は、天井31から吊り下げられて設置されているから、天井31と害虫防除ネット1との間には通気空間40がある。当該通気空間40の平均高さは20cm以上である。また当該通気空間40の平均の望ましい範囲は、20cm〜150cmである。そして隙間40は、外壁11に設けられた開口部72によって屋内が屋外に開放している。
即ち本実施形態では、害虫防除ネット1は、直接的には開口部72を覆わない。そのため本実施形態では、開口部72は開放状態である。
【0081】
本実施形態の害虫防除ネット1についても、家屋70は、開口部72が開放されているから、開口部72から屋内に風を取り込むことができる。
【0082】
一方、本実施形態では、換気用の開口部72が開放されているから、蚊についても、天井31と、害虫防除ネット1との間の通気空間40に入ることとなる。しかしながら、害虫防除ネット1には薬剤が担持されているから、害虫防除ネット1の網目をくぐり抜ける蚊は少ない。また例え害虫防除ネット1を通過したとしても、蚊は薬剤の影響で弱り、吸血することが少ない。
【0083】
また図9は、本発明のさらに他の実施形態を示すものであり、前記した開口部26に代えて、別の換気用の開口部75を有する家屋に害虫防除ネット1を設置した例を示している。開口部75の位置は、図3における開口部26の位置の下である。本実施形態では、害虫防除ネット1の中心部50が、天井31から吊り金具51によって吊り下げられている。また害虫防除ネット1の辺部33の近傍がピン36aとピン36bによって外壁11の内面側に固定されている。ピン36aは開口部75の上側に、ピン36bは開口部75の下側にそれぞれ位置している。
本実施形態では、外壁11の内面に沿って垂れ下がる垂下部46によって換気用の開口部75が覆われている。
【0084】
以上説明した実施形態では、人が居住する家屋を例に本発明を説明したが、本発明は、家畜小屋にも設置することができる。
【0085】
また上記した実施形態では、天井(居住空間の上面)が屋根部の一部をもって構成されているが、天井は、屋根部から独立した別の部材で構成されていてもよい。
【0086】
本発明は、他の害虫防除技術と併用して実施してもよい。当該他の害虫防除技術の例としては、殺虫剤処理蚊帳、屋内残留散布法、ウォールライニング法などが挙げられる。
【0087】
上記した実施形態では、害虫防除ネット1が、天井覆い部45と天井31との間に平均して20cm以上の隙間が形成されるように設置されているが、前記隙間が形成されないように害虫防除ネット1を設置することもできる。
【実施例】
【0088】
次に本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
〔試験例1〕
マラリアが流行している地域において、標準的な家屋を3軒選び、そのうち2軒に、特許文献1の製造例1に記載の方法で、1平方インチあたりの網目の数(ホール数)が75個となるように作成した防虫ネットを、上記した実施形態の様に家屋の天井の全体を覆うように設置した(実施例1および実施例2)。残りの1軒は天井設置型ネットを処理しなかった(比較例1)。殺虫剤処理蚊帳などの従来の害虫防除法は、3軒とも引き続き実施した。家屋のサイズは、縦約5.5m、横約6m、高さ約3.5mであった。実施例1及び実施例2では、害虫防除ネット1を設置する前と、設置してから8,31,110日後に家屋内に侵入しているハマダラカの雌成虫を吸虫管で採集した。採集は、1軒につき、3人の専門調査者が20分かけて行った。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
この結果から、本実施例の害虫防除ネット1は、ハマダラ蚊の数を顕著に減少させる効果があることが理解できる。
【0091】
〔試験例2〕
マラリアが流行している、ある地域を、8個のブロックに分割し、そこから4ブロックをランダムに選択し、ブロック内の全ての家屋に前記した害虫防除ネット1を設置する。残りの4ブロックは殺虫剤処理蚊帳などの、従来から行われている害虫防除法だけを適用する。設置1年後と2年後に家屋内のハマダラカの個体数を調査する。また、住民のマラリア感染率を調査する。その結果、天井設置型のネットを適用したブロックは、適用していないブロックに比べて家屋内の害虫数が低下し、住民のマラリア感染率も低下することが確認される。
【符号の説明】
【0092】
1 害虫防除ネット
2 糸
3 開口(網目)
10,70 家屋(建築物)
11 外壁
12 屋根部
15 柱
16 土壁部
20 骨組み部
21 トタン部
26,72,75 開口部
30 居住空間
31 天井
33 辺部
36,36a,36b ピン
40 通気空間
45 天井覆い部
46 垂下部
51,52 吊り紐
71 屋根部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部と屋根部とを有し内部に人または家畜の少なくともいずれかが入る人畜居住空間が存在する建築物の、前記人畜居住空間の上面の全体に設置され、前記人畜居住空間の上面との間に平均して20センチメートル以上の空間が設けられる害虫防除ネットであって、当該害虫防除ネットには害虫に対して何らかのダメージを与える薬剤が担持されており、1平方インチ当たりの網目の数が300個以下であることを特徴とする害虫防除ネット。
【請求項2】
1平方インチ当たりの網目の数が50〜140個であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除ネット。
【請求項3】
壁部の上部に換気可能な開口部が設置されている建築物に設置することを特徴とする請求項1又は2に記載の害虫防除ネット。
【請求項4】
害虫防除ネットは、中央部が人畜居住空間の上面の中央部に取付けられ、周辺部が壁部の内側に取り付けられ、中央部と周辺部の間が人畜居住空間の上面の各部に固定または吊り下げられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の害虫防除ネット。
【請求項5】
害虫防除ネットに担持されている薬剤は、殺虫剤、共力剤、忌避剤、昆虫成長制御剤、不妊化剤のいずれかを1種又は2種以上含むものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の害虫防除ネット。
【請求項6】
殺虫剤が、ピレスロイド系化合物、カーバメート系化合物、有機リン系化合物、ネオニコチノイド系化合物などから選択される1種又は2種以上を含むものであることを特徴とする請求項5に記載の害虫防除ネット。
【請求項7】
共力剤が、ピペロニルブトキシドであることを特徴とする請求項5又は6に記載の害虫防除ネット。
【請求項8】
忌避剤が、ジエチルトルアミドであることを特徴とする請求項5又は6に記載の害虫防除ネット。
【請求項9】
昆虫成長制御剤又は不妊化剤が、ピリプロキシフェン又はメトプレンであることを特徴とする請求項5又は6に記載の害虫防除ネット。
【請求項10】
ネットの素材が樹脂であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の害虫防除ネット。
【請求項11】
ネットの素材に薬剤が練りこまれていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の害虫防除ネット。
【請求項12】
ネットの素材に薬剤がコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の害虫防除ネット。
【請求項13】
ネットの素材に薬剤が練りこまれており、かつコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の害虫防除ネット。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の害虫防除ネットを、壁部と屋根部とを有し内部に人または家畜の少なくともいずれかが入る人畜居住空間が存在する建築物に設置することを特徴とする人または家畜を保護するための害虫防除方法。
【請求項15】
害虫に対して何らかのダメージを与える薬剤が担持された害虫防除ネットを、壁部と屋根部とを有し内部に人または家畜の少なくともいずれかが入る人畜居住空間が存在する建築物に設置する害虫防除ネットの設置方法であって、建築物内における人畜居住空間の上面の全体を覆い、且つ前記人畜居住空間の上面との間には平均して20センチメートル以上の通気空間が設けられる様に固定または吊り下げると共に、周端近傍を壁部に固定することを特徴とする害虫防除ネットの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−153668(P2012−153668A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15340(P2011−15340)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】