説明

射出成形体の製造方法

【課題】 冷却期間の長期化を抑えつつもより設計値に近い形状の射出成形体を製造し得る射出成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 型締状態にある第1金型及び第2金型によって形成されるキャビティに、溶融状態にある熱可塑性樹脂を射出する樹脂射出工程P2と、前記キャビティに加圧気体を注入し、前記加圧気体によって、前記熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成させた後に前記熱可塑性樹脂を突き破らせ、前記キャビティに連絡される経路と前記中空部とを連通させる加圧気体注入工程P3と、前記熱可塑性樹脂が突き破られた時点から所定の期間が経過する以前に前記加圧気体の注入を停止し、前記期間が経過するまで前記経路を閉塞した状態で、前記冷却用媒体の注入を待機する保圧工程P4と、前記期間が経過した以後に、前記経路を開放し、前記中空部に前記冷却用媒体を経由させる冷却工程P6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却期間の長期化を抑えつつもより設計値に近い形状の射出成形体を製造し得る射出成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形体は、溶融状態にある樹脂を金型に射出した後に冷却することによって成形されるが、冷却期間の長期化を抑える等の理由から射出成形体の内部に空間を設ける場合がある。このような中空部を有する射出成形体に関して、例えば、下記特許文献に記載された射出成形方法が提案されている。
【0003】
この射出成形方法では、第1金型と第2金型とを型締めすることによって形成されるキャビティ内に、溶融状態にある樹脂が射出され、その射出後からキャビティ内に加圧流体が導入される。この導入により、溶融状態にある樹脂に中空部が形成される。そして、中空部が形成された後も継続して加圧流体が導入され、その加圧流体によって樹脂が冷却されることで、中空部を有する射出成形体が得られる。なお、このような加圧流体自体を冷却させることが、冷却期間の長期化を抑える観点からより好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−96329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加圧流体によって樹脂を冷却すると、中空部を形成する樹脂の内壁が外壁よりも先に固化する傾向にある。この傾向は、加圧流体自体を冷却させた場合には、顕著となる。そして、中空部を形成する樹脂の内壁が外壁よりも先に固化した場合、その内壁に対して加圧流体によって与えられる圧が外壁に伝わらず、外壁にヒケが生じてしまう。この結果、設計値と異なる形状の射出成形体が得られてしまう場合があった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、冷却期間の長期化を抑えつつもより設計値に近い形状の射出成形体を製造し得る射出成形体の製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明は、射出成形体の製造方法であって、型締状態にある第1金型及び第2金型によって形成されるキャビティに、溶融状態にある熱可塑性樹脂を射出する樹脂射出工程と、前記キャビティに加圧気体を注入し、前記加圧気体によって、前記熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成させた後に前記熱可塑性樹脂を突き破らせ、前記キャビティに連絡される経路と前記中空部とを連通させる加圧気体注入工程と、前記熱可塑性樹脂が突き破られた時点から所定の期間が経過する以前に前記加圧気体の注入を停止し、前記期間が経過するまで前記経路を閉塞した状態で、冷却用媒体の注入を待機する保圧工程と、前記期間が経過した以後に、前記経路を開放し、前記中空部に前記冷却用媒体を経由させる冷却工程とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このような射出成形体の製造方法によれば、熱可塑性樹脂が突き破られた時点以後一定の期間、キャビティ内での加圧気体の流れ(通過)が抑止され、当該期間では、主に金型への熱伝導によって、熱可塑性樹脂の外側が冷却される。このため、溶融状態にある熱可塑性樹脂の外側よりも内側を急速に冷却してしまうことが防止される。したがって、中空部が形成される熱可塑性樹脂の内側が外側よりも先に固化することで外側にヒケが生じるといったことが未然に防止される。また、当該期間が経過した以後には、冷却用媒体によって熱可塑性樹脂が速やかに冷却されるため、冷却期間の長期化が抑えられる。こうして、冷却期間の長期化を抑えつつもより設計値に近い形状の射出成形体を製造することができる。
【0009】
また、前記経路は、前記冷却媒体の注入経路であり、前記冷却工程では、前記注入経路から、前記熱可塑性樹脂が突き破られた部分を介して前記冷却用媒体を注入させることが好ましい。
【0010】
熱可塑性樹脂は、加圧気体注入工程中でも冷却されるため、加圧気体の注入部分における熱可塑性樹脂に比べて、突き破られた部分における熱可塑性樹脂の冷却度合いが低くなるといった冷却ムラが生じ易い傾向にある。この点、熱可塑性樹脂が突き破れた部分から冷却用媒体を注入させ、加圧気体の注入口から冷却媒体を排出させる冷却工程によれば、上記冷却ムラを低減できる。したがって、このような冷却工程を採用しない場合に比べて、キャビティ内の熱可塑性樹脂全体としての冷却期間を短縮することができる。なお、上記冷却ムラが生じ易い傾向は、キャビティが大きいほど顕著となるため、上記冷却ムラを低減できるということは、比較的大きな射出成形体を製造する場合には、特に有用となる。
【0011】
また、前記加圧気体の注入口は、前記加圧気体と前記冷却用媒体との排出口とされることが好ましい。
【0012】
このような成形方法によれば、注入経路から注入される冷却用媒体を熱可塑性樹脂の冷却用のみならず加圧気体の排出用として共用できるのみならず、排出孔から排出先までの経路も共用することができ、加圧気体と冷却用媒体との排出孔を別々に設ける場合に比べて、工程の簡易化及び小型化を図ることができる。また、注入経路から注入された冷却用媒体を金型の割等から排出する場合に比べて、排出面積を大きく確保することができ、より多量の冷却用媒体を中空部に経由させることが可能となる。
【0013】
また、前記保圧工程では、前記期間が経過した時点で前記加圧気体の注入を停止することが好ましい。
【0014】
このような保圧工程によれば、型締状態にある金型の割等から加圧気体が漏洩している場合であっても、加圧気体の圧力によって、溶融状態にある熱可塑性樹脂を金型に押し続けることができる。このため、熱可塑性樹脂から金型への熱伝達効率を向上することができる。
【0015】
また、前記経路は、前記加圧気体注入工程でも閉塞状態にあることが好ましい。
【0016】
このような成形方法によれば、熱可塑性樹脂の突き破りによるキャビティ内の圧力変動を抑制することができる。このため、圧力変動に起因して金型内壁面や加圧気体注入ノズルから溶融樹脂が剥離して加圧気体の漏洩が生じるといったことを未然に防止することができる。
【0017】
また、前記冷却用媒体は、空気であることが好ましい。
【0018】
このような成形方法によれば、水等の液体を用いる場合に比べて、乾燥工程を省略することができるため、製造工程の簡易化を図ることができる。また、他の気体を用いる場合に比べて、安全性を確保するとともに低廉化を図ることが可能となる。さらに、高圧状態の冷却用媒体を用いる場合に比べて、コンプレッサー等の簡易化を図ることも可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、冷却期間の長期化を抑えつつもより設計値に近い形状の射出成形体を製造し得る射出成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】射出成形装置を示す概念図である。
【図2】型締状態にある金型組立体を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係る射出成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】樹脂射出工程後の様子を示す断面図である。
【図5】加圧気体注入開始直後の様子を示す断面図である。
【図6】加圧気体注入途中の様子を示す断面図である。
【図7】熱可塑性樹脂が突き破られる直前の様子を示す断面図である。
【図8】熱可塑性樹脂が突き破られた後の様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る射出成形体の製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法を用いた射出成形装置1は、制御ユニット10、溶融樹脂射出ユニット20、加圧気体注入ユニット30、冷却用空気注入ユニット40、及び、金型組立体50を主な構成要素として備える。
【0023】
制御ユニット10は、射出成形装置1全体の統括的な制御を司るユニットである。この制御ユニット10は、溶融樹脂射出ユニット20、加圧気体注入ユニット30、冷却用空気注入ユニット40又は金型組立体50に適宜指令を与えて各種制御処理を実行する。
【0024】
溶融樹脂射出ユニット20は、制御ユニット10の指令に基づいて、溶融状態にある熱可塑性樹脂(以下、溶融樹脂という)を金型組立体50に射出するユニットである。
【0025】
溶融樹脂射出ユニット20で用いるべき熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン(ポリアセタール,POM)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。
【0026】
なお、熱可塑性樹脂に対して、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、防かび剤、滑剤、着色剤、架橋剤、耐衝撃強化剤、充填剤などのいずれか1つあるいは複数が混合されていても良い。
【0027】
加圧気体注入ユニット30は、制御ユニット10の指令に基づいて、規定値の圧力が加えられた気体(以下、加圧気体という)を金型組立体50に注入するユニットである。この加圧気体注入ユニット30は、金型組立体50との経路に開閉弁31を有しており、この開閉弁31が開放状態にある場合、加圧気体が金型組立体50に注入される。
【0028】
加圧気体注入ユニット30で用いるべき気体は、常温及び常圧の際に気体であれば特に制限されるものではないが、溶融樹脂射出ユニット20で用いられる熱可塑性樹脂と反応や混合しないものが望ましい。具体的には、窒素ガス、炭酸ガス、ヘリウムガス、あるいは、空気等が挙げられるが、安全性や経済性などを考慮すると、窒素ガス、あるいは、ヘリウムガスが好ましい。
【0029】
冷却用空気注入ユニット40は、制御ユニット10の指令に基づいて、例えば0.2MPa以上5MPa以下となる範囲程度の圧力が加えられた冷却用空気を金型組立体50に注入するユニットである。この冷却用空気注入ユニット40は、金型組立体50との経路又は図示しない大気連絡口との経路に切り換え可能な三方弁41を有しており、この三方弁41が冷却用空気注入ユニット40と金型組立体50とを繋ぐ状態にある場合、冷却用空気が金型組立体50に注入される。また、三方弁41が金型組立体50と大気連絡口とを繋ぐ状態にある場合、加圧気体注入ユニット30から注入された加圧気体が金型組立体50を介して大気中に排出される。
【0030】
金型組立体50は、図2に示すように、第1金型51と第2金型52とを有する。これら第1金型51及び第2金型52は、制御ユニット10の指令に基づいて、互いに離れた状態(以下、型開状態という)と、第1金型51の一面と第2金型52の一面とを規定値の圧力で重ね合わした状態(以下、型締状態という)とを相互に移行可能とされる。なお、この図2は、型締状態にある金型組立体50を示している。
【0031】
第1金型51と第2金型52とが型締状態にある場合、これら第1金型51の一面に形成される凹部と、第2金型52の一面に形成される凹部とによって空間が形成される。具体的には、成形目的の成形品を象った空間(以下、成形キャビティという)SPC1、余分な溶融樹脂を貯留させる空間(以下、オーバーフローキャビティという)SPC2、及び、成形キャビティSPC1とオーバーフローキャビティSPC2とを連通する空間(以下、連通キャビティ)SPC3が形成される。
【0032】
成形キャビティSPC1には、溶融樹脂を射出するためのゲート(以下、樹脂射出ゲートという)GTが形成され、この樹脂射出ゲートGTは金型外側と連通される。また、加圧気体を注入するノズル(以下、気体注入ノズル)NLを挿入するための孔(以下、ノズル挿入孔という)HLが形成され、このノズル挿入孔HLも金型外側と連通される。この実施形態の場合、樹脂射出ゲートGT及びノズル挿入孔HLの形成位置は、成形キャビティSPC1において連通キャビティSPC3が形成される末端側とは逆の末端側近傍とされる。
【0033】
気体注入ノズルNLは、制御ユニット10の指令に基づいて、ノズル先端がキャビティ内にある位置(以下、開始位置という)PXと、ノズル先端がキャビティ外にある位置(以下、退避位置)PYとにノズル挿入孔HLを介して移動可能とされる。
【0034】
一方、オーバーフローキャビティSPC2のうち、連通キャビティSPC3から流入する溶融樹脂の流動方向の末端とされる金型内壁には、金型外側に向かって陥入する凹部60が形成される。この凹部60の外形は例えば円錐台状とされ、凹部空間が金型外側に向かって先細りとなっている。このような凹部60の凹部底には管(以下、連通管という)61が連結され、その連通管61によってオーバーフローキャビティSPC2と金型外側とが連通される。
【0035】
次に、本実施形態に係る射出成形体の製造方法について説明する。図3に示すように、本実施形態に係る射出成形体の製造方法は、金型型締工程P1、樹脂射出工程P2、加圧気体注入工程P3、保圧工程P4、加圧気体排出工程P5、冷却工程P6、及び、金型型開工程P7を主な工程として備える。
【0036】
<金型型締工程P1>
この金型型締工程P1では、第1金型51と第2金型52とが型締状態にされ、図2に示したように、成形キャビティSPC1、オーバーフローキャビティSPC2及び連通キャビティSPC3が形成される。また、図2に示したように、気体注入ノズルNLが、退避位置PYからノズル挿入孔HLを通じて開始位置PXに移動され、成形キャビティ内に気体注入ノズルNLの一部が挿入される。
【0037】
<樹脂射出工程P2>
この樹脂射出工程P2では、開閉弁31(図1)が閉塞状態にされ、三方弁41(図1)が金型組立体50と大気連絡口とを繋ぐ状態にされる。この状態において、溶融樹脂射出ユニット20(図1)から樹脂射出ゲートGT(図2)を介してキャビティ内に溶融樹脂が射出され始める。そして、規定射出量の溶融樹脂が射出された時点で溶融樹脂の射出が停止される。こうして、図4に示すように、溶融樹脂がキャビティ内に充填される。
【0038】
なお、三方弁41は閉塞状態にされていても良い。ただし、三方弁41が閉塞状態にある場合、三方弁41が金型組立体50と大気連絡口とを繋ぐ状態にある場合に比べて、各キャビティSPC1〜SPC3における単位時間当たりの大気排出量が少なくなり、キャビティ内圧が溶融樹脂の射出を妨げる可能性がある。したがって、このような可能性を防止する観点では、三方弁41が金型組立体50と大気連絡口とを繋ぐ状態にある場合のほうが好ましい。
【0039】
<加圧気体注入工程P3>
この加圧気体注入工程P3では、三方弁41(図1)が閉塞状態にされる。この状態において、溶融樹脂の射出停止時以降に開閉弁31(図1)が開放状態にされ、気体注入ノズルNL(図2)を介してキャビティ内に加圧気体が注入され始める。これにより図5に示すように、成形キャビティSPC1に射出された溶融樹脂には、キャビティ内に流入する加圧気体によって中空部HWが形成される。そして、この中空部HWは、図6に示すように、溶融樹脂を金型内壁と前方に押して進む。こうして、溶融樹脂は、図7に示すように、金型内壁に沿って、成形キャビティSPC1、連通キャビティSPC3、オーバーフローキャビティSPC2の順に流動し、その後、オーバーフローキャビティ末端の凹部60に流入し始める。続いて、図8に示すように、オーバーフローキャビティ末端の凹部60に流入した溶融樹脂が、凹部底に至るまでに突き破られ(以下、ブローアウトという)、中空部HWと連通管61とが連通状態となる。
【0040】
ところで、ブローアウト時において三方弁41が金型組立体50と大気連絡口とを繋ぐ状態にある場合、各キャビティSPC1〜SPC3での圧力が急速に下がり易く、その圧力変動に起因して、第1金型51又は第2金型52の内壁面や加圧気体注入ノズルから溶融樹脂が剥離する傾向にある。そして、加圧気体注入ノズルから溶融樹脂が剥離すると、その剥離部分から加圧気体が漏れて、キャビティ内圧の制御が困難となる場合があり、この場合にはヒケが生じてしまう。しかしながら、この加圧気体注入工程P3では、ブローアウト時において三方弁41が閉塞状態にあるため、ブローアウトに起因するキャビティ内圧の変動を抑止することができ、この結果、加圧気体の漏洩、ヒケの発生を防止できる。
【0041】
また、凹部60に流入した溶融樹脂が凹部底に至るまでに、その溶融樹脂をブローアウトさせることによって、連通管61が閉塞されることを未然に防止することができる。なお、凹部60に流入した溶融樹脂を凹部底に至るまでにブローアウトさせることは、各キャビティSPC1〜SPC3の体積に応じて、溶融樹脂の射出量や加圧気体の注入タイミングなどを調整することで実現可能である。このことは、既に本発明者らの実験等により確認されている。
【0042】
<保圧工程P4>
この保圧工程P4では、ブローアウト時点から、冷却用空気を注入せずに待機すべき所定期間(以下、待機期間という)が経過するまで、三方弁41が閉塞状態のまま加圧気体の注入が継続され、待機期間が経過した時点で加圧気体の注入が停止される。したがって、キャビティ内を加圧気体が流れる(通過する)ことなく、キャビティ内の圧力が一定に保持される。この保圧工程P4では、キャビティ内を加圧気体が流れる(通過する)ことが抑止されるため、主に第1金型51及び第2金型52への熱伝導によって溶融樹脂が冷却される。
【0043】
なお、待機期間として、溶融樹脂の外側が固化し十分な剛性を持ち始める程度の期間を確保することが望ましく、主に、成形キャビティSPC1における溶融樹脂の厚み(金型内壁と中空部HWとの間の幅)と、溶融樹脂の温度と、金型の温度とを基準として規定される。具体的には、溶融樹脂の厚みが大きいほど、溶融樹脂や金型の温度が高いほど待機期間が長くなるが、例えば、成形キャビティSPC1における溶融樹脂の厚みが3mmであり、溶融樹脂の温度が300℃であり、金型の温度が80℃である場合、待機期間は40秒とされる。
【0044】
<加圧気体排出工程P5>
この加圧気体排出工程P5では、待機期間が経過した以後に三方弁41が金型組立体50と大気連絡口とを繋ぐ状態にされる。これにより各キャビティSPC1〜SPC3にある加圧気体が大気中に排出される。
【0045】
<冷却工程P6>
この冷却工程P6では、気体注入ノズルNLが、開始位置PX(図2)から退避位置PY(図2)に移動される。また、三方弁41(図1)が冷却用空気注入ユニット40と金型組立体50とを繋ぐ状態にされる。これにより冷却用空気は、連通管61から流入し、オーバーフローキャビティSPC2、連通キャビティSPC3、成形キャビティSPC1を順に経由して、ノズル挿入孔HLから排出される。この冷却用空気によるキャビティ内の流動によって、溶融樹脂が速やかに冷却される。
【0046】
<金型型開工程P7> この金型型開工程P7では、第1金型51と第2金型52とが型開締状態にされ、各キャビティSPC1〜SPC3にて成形された成形体が取り出される。そして、この成形体から、不要部分(連通キャビティSPC3及びオーバーフローキャビティSPC2部分)が分断され、成形目的の成形品(成形キャビティSPC1部分)が得られる。
【0047】
以上の説明のとおり、本実施形態の射出成形体の製造方法では、ブローアウト時点以後一定の期間(待機期間)、キャビティ内での気体の流れ(通過)が抑止され、当該待機期間では、主に金型51,52への熱伝導によって溶融樹脂の外側が冷却される。このため、溶融樹脂の外側よりも内側を急速に冷却してしまうことが防止される。したがって、中空部HWが形成される溶融樹脂の内側が外側よりも先に固化することで外側にヒケが生じるといったことが未然に防止される。
【0048】
一方、待機期間が経過した以後には、冷却用空気がキャビティSPC1〜SPC3に経由される。このため、各キャビティSPC1〜SPC3の熱可塑性樹脂が速やかに冷却され、冷却期間の長期化が抑えられる。こうして、冷却期間の長期化を抑えつつもより設計値に近い形状の射出成形体を製造することができる。
【0049】
なお、上記実施形態はあくまで一例であり、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、上記実施形態では、冷却工程P6で用いられる冷却用媒体として空気が適用された。しかしながら、冷却用媒体は空気に限定されるものではない。例えば、窒素ガス、炭酸ガスあるいはヘリウムガス等の気体や、水等の液体、あるいは、ミスト状の水を含んだ気体を冷却用媒体として用いることができる。ただし、溶融樹脂と反応や混合しないものが望ましく、安全性や経済性などを考慮すると、空気、窒素ガス、ヘリウムガスあるいは水などが好ましい。また、冷却用媒体は高圧の状態で注入されても良い。ただし、構成簡易化の観点では、例えば0.2MPa以上5MPa以下の範囲程度の高圧ではない状態で注入したほうが、コンプレッサー等を簡易化できるため好ましい。
【0051】
また、上記実施の形態では、待機期間が経過する時点で加圧気体の注入が停止されたが、待機期間が経過する前の時点で加圧気体の注入が停止されても良い。ただし、待機期間が経過する時点まで加圧気体の注入が継続されているほうが好ましい。これは、型締状態にある金型51と52との境界(金型51及び52の割)等から加圧気体が漏洩している場合であっても、加圧気体の圧力によって、溶融樹脂を金型51及び52に押し続けることができる。このため、熱可塑性樹脂から金型51及び52への熱伝達効率を向上することができるからである。
【0052】
また、上記実施形態では、キャビティ内に注入された加圧気体の排出先が連通管61とされたが、ノズル挿入孔HLとしても良い。具体的には、三方弁41(図1)が閉塞状態にされたままで、気体注入ノズルNLが開始位置PX(図2)から退避位置PY(図2)に移動され、その移動により得られるノズル挿入孔HLから加圧気体が排出される。このようにすれば、連通管61を加圧気体の排出用経路として用いなくても加圧気体の排出が可能となるため、当該連通管61を、専ら冷却用空気の注入用経路として用いることが可能となる。したがって、三方弁41(図1)を、開閉弁21と同様のものに代えて、経路切替工程を省略することができるとともに、金型組立体50(連通管61)と大気連絡口とを繋ぐ経路を省略することができる。また、冷却工程P6にて冷却用空気を流すことで、加圧気体を大気中に排出することが可能となる。このため、上記実施形態のように、加圧気体排出工程P5にて三方弁41を開放して加圧気体を排出した後に、冷却工程P6にて冷却用空気を流す場合に比べて、冷却用空気を溶融樹脂の冷却用のみならず加圧気体の排出用としても共用でき、工程を簡易化できる。この結果、射出成形体の製造方法の簡易化や射出成形装置1の小型化を図ることができる。また、連通管61から注入された冷却用媒体を金型51と52との境界(金型51及び52の割)等から排出する場合に比べて、排出面積を大きく確保することができ、より多量の冷却用媒体を熱可塑性樹脂の中空部に経由させることが可能となる。
【0053】
上記実施形態では、連通管61から冷却用空気が注入されたが、連通管61以外からから冷却用空気が注入されても良い。ただし、熱可塑性樹脂は、加圧気体注入工程中でも冷却されるため、加圧気体注入部分の熱可塑性樹脂に比べて、ブローアウト部分(凹部60)の熱可塑性樹脂の冷却度合いが低くなるといった冷却ムラが生じ易い傾向にある。したがって、冷却ムラを低減させる観点では、凹部60に連絡する連通管61から冷却用媒体を注入させるほうが好ましい。このようにすれば、連通管61以外から冷却媒体を注入する場合に比べて、キャビティSPC1〜SPC3内の熱可塑性樹脂全体としての冷却期間を短縮することができる。なお、冷却ムラが生じ易い傾向は、キャビティSPC1〜SPC3が大きいほど顕著となるため、連通管61から冷却用媒体を注入させることは、比較的大きな射出成形体を製造する場合には、特に有用となる。なお、ノズル挿入孔HLから冷却用空気を注入することも可能である。ただし、気体注入ノズルNLの内径が小さいことなどに起因して気体注入ノズルNLから冷却用空気を流入できない場合がある。また、気体注入ノズルNZから冷却用空気を流すと、気体注入ノズルNZが冷却され、その冷却状態にある気体注入ノズルNZによって、2回目以降にキャビティ内に射出される熱可塑性樹脂が冷却されてノズルとの密着不良が発生し、ガス漏れが生ずる場合がある。このような場合に、ノズル挿入孔HLから冷却用空気を入れようとすると、気体注入ノズルNLを別のノズルに交換する等といった工程が加わるため、ノズルの形状等にかかわらず同じ工程数で冷却用空気を入れる観点では、連通管61から冷却用空気を入れるほうが好ましい。
【0054】
上記実施形態では、加圧気体が注入される前から三方弁41が閉塞状態にされた。しかしながら、三方弁41を閉塞状態とする時期は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、加圧気体の注入時点から、溶融樹脂のブローアウト時点の直前までの期間のいずれかの時点とすることができる。要するに、ブローアウト以前に三方弁41が閉塞状態にあれば、上記実施形態と同様に、ブローアウトに起因する圧力変動を抑止することができる。
【0055】
上記実施形態では、溶融樹脂の射出が停止された時点以後に加圧気体の注入が開始された。しかしながら、加圧気体の注入時期は上記実施形態に限定されるものではなく、溶融樹脂の射出が開始された後から停止される前までの期間のいずれかの時点とすることができる。
【0056】
上記実施形態では、第2金型52に形成される凹部60の外形が円錐台状とされた。しかしながら、凹部60の外形はこの実施の形態に限定されるものではなく、例えば円筒形状などでもよい。ただし、成形品の離型を抑える観点などでは、凹部空間が金型外側に向かって先細りとなっていたほうが望ましい。また、凹部底に対する溶融樹脂の到達を回避する観点では、凹部の開口の直径をD深さをHとしたときH/Dの値が1.2以上、好ましくは2以上、より好ましくは5以上であると良い。なお、凹部60が形成される部位は、第1金型51と第2金型52との割(境界)との距離が長いほど好ましい。これは、凹部60が形成される部位が割に近いと、割から加圧気体が漏洩する可能性を有するからである。
【0057】
上記実施形態では、型締状態にある第1金型51と第2金型52との双方に形成される凹部によって各キャビティSPC1〜SPC3が形成されたが、型締状態にある第1金型と第2金型との一方に形成される凹部によってキャビティが形成されても良い。また、キャビティSPC2又はSPC3が省略されても良い。
【0058】
上記実施形態では、制御ユニット10が、溶融樹脂射出ユニット20、加圧気体注入ユニット30及び冷却用空気注入ユニット40それぞれを制御するものとされたが、これらユニットを別々に制御する複数の制御ユニットが適用されても良い。また、溶融樹脂射出ユニット20を制御するユニットが、加圧気体注入ユニット30及び冷却用空気注入ユニット40それぞれを制御するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、中空部を有する物品を取り扱う分野において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0060】
1・・・射出成形装置
10・・・制御ユニット
20・・・溶融樹脂射出ユニット
30・・・加圧気体注入ユニット
31・・・開閉弁
40・・・冷却用空気注入ユニット
41・・・三方弁
50・・・金型組立体
51・・・第1金型
52・・・第2金型
60・・・凹部
61・・・連通管
SPC1・・・成形キャビティ
SPC2・・・オーバーフローキャビティ
SPC3・・・連通キャビティ
GT・・・樹脂射出ゲート
HL・・・ノズル挿入孔
HW・・・中空部
NL・・・気体注入ノズル
PX・・・開始位置
PY・・・退避位置
P1・・・金型型締工程
P2・・・樹脂射出工程
P3・・・加圧気体注入工程
P4・・・保圧工程
P5・・・加圧気体排出工程
P6・・・冷却工程
P7・・・金型型開工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締状態にある第1金型及び第2金型によって形成されるキャビティに、溶融状態にある熱可塑性樹脂を射出する樹脂射出工程と、
前記キャビティに加圧気体を注入し、前記加圧気体によって、前記熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成させた後に前記熱可塑性樹脂を突き破らせ、前記キャビティに連絡される経路と前記中空部とを連通させる加圧気体注入工程と、
前記熱可塑性樹脂が突き破られた時点から所定の期間が経過する以前に前記加圧気体の注入を停止し、前記期間が経過するまで前記経路を閉塞した状態で、前記冷却用媒体の注入を待機する保圧工程と、
前記期間が経過した以後に、前記経路を開放し、前記中空部に前記冷却用媒体を経由させる冷却工程と
を備えることを特徴とする射出成形体の製造方法。
【請求項2】
前記経路は、前記冷却媒体の注入経路であり、前記冷却工程では、前記注入経路から、前記熱可塑性樹脂が突き破られた部分を介して前記冷却用媒体を注入させる
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧気体の注入口は、前記加圧気体と前記冷却用媒体との排出口とされる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項4】
前記保圧工程では、前記期間が経過した時点で前記加圧気体の注入を停止する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項5】
前記経路は、前記加圧気体注入工程でも閉塞状態にある
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項6】
前記冷却用媒体は、空気である
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−82121(P2013−82121A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223468(P2011−223468)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】