説明

射出成形方法

【課題】 射出成形型に作用する型内圧のピーク値を低減することができ、射出成形型に必要とされる耐圧圧力を低減することができる技術を提供する。
【解決手段】 成形型2に型締め力を加えて成形型2を閉じる工程と、成形型2に型締め力を加えた状態で成形型内のキャビティ2aに溶融樹脂を充填する充填工程と、キャビティ2aに充填した溶融樹脂を冷却する冷却工程と、成形型2aを開けて成形型2から射出成形品40を取りだす工程を備え、充填工程で成形型2に加える型締め力は、溶融樹脂の充填圧力に抗して成形型2を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力よりも低く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品を成形するための射出成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形方法は、射出成形型に型締め力を加えて射出成形型を閉じる工程と、射出成形型に型締め力を加えた状態で射出成形型内のキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、キャビティに充填した溶融樹脂を冷却する工程と、射出成形型を開けて射出成形型から射出成形品を取りだす工程を備えている。
キャビティに溶融樹脂を充填する工程では、溶融樹脂に圧力を加えることによって、キャビティに溶融樹脂を充填する。溶融樹脂の充填圧力は、射出成形型を開ける力となる。溶融樹脂の充填圧力によって射出成形型が開いてしまうことを防止するために、射出成形型に型締め力を加えた状態で射出成形型内のキャビティに溶融樹脂を充填する。
射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力は、溶融樹脂の充填圧力に起因して生じる型の内圧によって決定される。型の内圧(キャビティを画定するキャビティ面に作用する圧力)は、位置によって変化する。型の内圧のうちの型が開けられる向きの分圧をキャビティ面を型締め方向に投影した面積に亘って積分することによって、溶融樹脂の充填圧力に抗して射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力を計算することができる。
従来の技術では、溶融樹脂の充填圧力に抗して射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力よりも大きな型締め力を射出成形型に加えた状態で、充填工程を実施する。
なお、薄肉製品を射出成形する場合、間隔が狭いキャビティに溶融樹脂を充填しなければならない。間隔が狭いキャビティに溶融樹脂を充填するためには、高い充填圧力が必要とされる。充填圧力が高いために、それに抗して射出成形型を閉じておくのに必要な型締め力も大きくなる。薄肉製品を射出成形する場合には、高い充填圧力に耐えられる高強度の射出成形型と、それを閉じておく大型の型締め機構が必要とされる。
【0003】
キャビティに溶融樹脂を充填すると、今度は溶融樹脂を冷却して凝固させる。溶融樹脂は凝固する際に収縮する。収縮に対して対策しないと、凝固した射出成形品はキャビティ形状に一致しない。キャビティ形状よりも収縮した「ひけ」が生じてしまう。そこで、キャビティに溶融樹脂を充填した後も、キャビティに充填する溶融樹脂に圧力を加え続ける保圧工程が必要とされる。保圧工程を実施すると、キャビティ内で溶融樹脂が収縮する分を補充するように溶融樹脂が追加充填され、射出成形品に「ひけ」が生じるのを防止できる。
射出成形型には、保圧工程で加える圧力に耐えられる強度と、保圧工程で射出成形型を閉じておく型締め力が必要とされる。
【0004】
図9は、射出成形型に加えておくことが必要な型締め力と、キャビティ面に作用する圧力(型内圧)の変化する様子を示す。型内圧は、充填工程終了時にピークとなり、保圧工程中は一定のレベルに管理される。
図9の型内圧は、溶融樹脂を充填するゲートに向かいあう位置のキャビティ面に作用する圧力を示す。充填工程終了時にピーク値となるが、型内圧が高い範囲はゲートに向かいあう位置の近傍に限られる。射出成形型を閉じておく型締め力までピークとなるわけでない。保圧工程では、充填工程終了時のピーク圧力よりも低い圧力が作用するが、キャビティ面の広い範囲に圧力が加えられる。したがって、保圧工程が開始されてからしばらくの間は、射出成形型を閉じておくのに必要な型締め力は増大する。
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、溶融樹脂を充填する工程が終了した後に必要とされていた保圧工程を省略している。この技術では、溶融樹脂の充填工程が終了すると、保圧工程を実施する代わりに、射出成形品の裏面を成形するキャビティ面に開口する流路から射出成形品の裏面とキャビティ面の間に加圧流体を注入して射出成形品を表面(意匠面)側キャビティ面に向けて加圧する。射出成形品の裏面がキャビティ面から剥離した状態を作り出すと、溶融樹脂が収縮しても射出成形品の意匠面はキャビティ面に密着した状態を維持する。射出成形品の意匠面がキャビティ面に密着した状態で冷却されると、射出成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができる。この技術によると、射出成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能となる。しかしながら、この技術では、射出成形品の裏面とキャビティ面の間に注入する流体に高い圧力をかける必要があり、キャビティ面に加わる圧力を低減したり、射出成形型を閉じておくのに必要な型締め力を低減することはできない。
特許文献2には、射出成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができる射出成形技術であり、キャビティ面に加わる圧力を低減し、射出成形型を閉じておくのに必要な型締め力を低減することができる射出成形技術が開示されている。特許文献2の技術は、本出願の出願時点ではまだ公開されていないことに留意されたい。
この技術では、溶融樹脂を充填する工程が終了した後に、保圧工程と、射出成形品の裏面とキャビティ面の間に加圧流体を注入する工程を同時に実施する。保圧工程と加圧流体注入工程を同時に実施すると、射出成形品の意匠面を意図した形状に仕上げるために必要な保圧力(キャビティに追加補充する溶融樹脂に加える圧力)と、射出成形品の裏面とキャビティ面の間に注入する流体にかける圧力を低減することができる。特許文献2の技術によると、キャビティ面に加わる圧力を低減することができ(溶融樹脂に加える保圧力と流体に加える圧力の両者がキャビティ面に作用するが、それでも低減することができる)、射出成形型を閉じておくのに必要な型締め力を低減することができる。
図10は、特許文献2の技術によるときの射出成形型に加えておくことが必要な型締め力と、キャビティ面に作用する圧力の変化の様子を示す。保圧工程でキャビティに追加補充する溶融樹脂に加えておく圧力を低減することができ、保圧工程中に必要な型締め力を低減することができる。
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【特許文献2】特願2004−373751号の明細書と図面
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の技術によって、保圧工程でキャビティに追加補充する溶融樹脂に加えておく圧力を低減することができ、保圧工程で必要な型締め力を低減することができる。必要な型締め力の最大値については、図10に示したように、従来の技術で必要とされていた最大値よりも低減することに成功している。
しかしながら、特許文献2の技術によっても、キャビティ面に作用する圧力のピーク値を低減することができない。キャビティ面に作用する圧力のピーク値は、充填工程終了時の値となる。特許文献2の技術では、保圧工程で必要な型内圧を低減することはできても、充填工程終了時に作用する型内圧のピーク値を低減することはできない。
射出成形型は、型内圧のピーク値に耐え得る強度を持たせる必要があり、ピーク値を低減することができないと、射出成形型に必要とされる耐圧圧力を低減することができず、射出成形型の小型化が図れない。
本発明は、上記の問題点を解決するために創案された。本発明では、射出成形型に作用する型内圧のピーク値を低減することができ、射出成形型に必要とされる耐圧圧力を低減することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1に記載の発明)
本発明の射出成形方法は、射出成形型に型締め力を加えて射出成形型を閉じる工程と、射出成形型に型締め力を加えた状態で射出成形型内のキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、キャビティに充填した溶融樹脂を冷却する工程と、射出成形型を開けて射出成形型から射出成形品を取りだす工程を備えている。充填工程で射出成形型に加える型締め力が、溶融樹脂の充填圧力に抗して射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力よりも低く設定されている。
射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力は、計算によって求めてもよい。型内圧のうちの型が開けられる向きの分圧をキャビティ面を型締め方向に投影した面積に亘って積分することによって、射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力を計算することができる。あるいは、実験して求めてもよい。
【0008】
本発明の射出成形方法では、充填工程で射出成形型に加える型締め力が、充填圧力に抗して射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力よりも低い。このために、充填工程では、溶融樹脂の充填圧力によって射出成形型が若干開く。
前記したように間隔が狭いキャビティに溶融樹脂を充填するためには高い充填圧力が必要とされる。逆にいうと、キャビティの間隔が広ければキャビティに充填するためには必要な充填圧力は低下する。本発明では、この現象を利用して充填圧力を低下させる。充填工程で射出成形型が若干開けば、キャビティの間隔が広げられる。この結果、キャビティに充填するために必要な充填圧力を低下させることができる。
本発明の射出成形方法によると、充填圧力を低下させることができる。従って、キャビティ面に作用する型内圧を低下させることができ、充填工程終了時に発生する型内圧のピーク値を低下させることができる。これにより、射出成形型に必要とされる耐圧圧力を低減することができ、射出成形型に必要な強度を低減することができる。そして、射出成形型を小型化することができ、射出成形型の生産コストを低減することができる。ひいては、射出成形品の生産コストを低減することができる。
【0009】
(請求項2に記載の発明)
充填工程で射出成形型に加える型締め力は、溶融樹脂の充填圧力によって、射出成形品にバリを生じさせない間隔だけ射出成形型が開く力に設定しておくことが好ましい。
バリを生じさせない間隔は、充填圧力や樹脂の特性や射出成形型の温度等によって変動する。実験によって、求めておくことができる。
本発明の射出成形方法によれば、射出成形品にバリが発生しない範囲で、キャビティの間隔を広げて必要な充填圧力を低下させることができる。これにより、品質のよい射出成形品を簡易な射出成形型で成形することができる。
【0010】
(請求項3に記載の発明)
充填工程で射出成形型に加える型締め力は、充填工程で射出成形型が0.1〜0.15mmだけ開く力に設定しておくことが好ましい。
一般的に、射出成形型が0.15mmよりも開くと、射出成形品にバリが発生しやすい。射出成形型が開いても、その間隔が0.15mm以下であれば、その間隔に溶融樹脂が入り込まない。射出成形品にバリが発生し難いことが確認されている。この場合、工程が進んで型内圧が減少することにより型開き量は0となり、充填時に射出成形型が開いても、射出成形品の厚みに影響しないことが確認されている。
一般的に、射出成形型が0.1mm以上開くと、キャビティの間隔が広がってキャビティに充填するために必要な充填圧力が低下する現象が顕著となる。
したがって、充填工程で射出成形型に加える型締め力は、充填工程で射出成形型が0.1〜0.15mmだけ開く力に設定しておくことが好ましい。
【0011】
(請求項4に記載の発明)
充填工程に続けて、射出成形型に型締め力を加えた状態で、キャビティに充填する溶融樹脂に圧力を加え続けて溶融樹脂をキャビティに追加充填する保圧工程を実施することが好ましい。
本発明の射出成形方法を用いれば、キャビティ内で溶融樹脂が収縮した分を補充することができる。これにより、射出成形品にヒケやボイドが発生することを防止することができる。
【0012】
(請求項5に記載の発明)
射出成形型が、射出成形品の意匠面を成形する型と、射出成形品の裏面を成形する型を備えている場合、裏面を成形する型とキャビティに充填した樹脂の間に、加圧流体を注入する注入工程を実施することが好ましい。
本発明の射出成形方法によれば、溶融樹脂が収縮しても射出成形品の表面(意匠面)はキャビティ面に密着し続ける。これにより、射出成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができる。
【0013】
(請求項6に記載の発明)
射出成形型が、射出成形品の意匠面を成形する型と、射出成形品の裏面を成形する型を備えている場合、充填工程に続けて、射出成形型に型締め力を加えた状態でキャビティに充填する溶融樹脂に圧力を加え続けて溶融樹脂をキャビティに追加充填する保圧工程と、裏面を成形する型とキャビティに充填した樹脂の間に加圧流体を注入する注入工程の両者を同時に実施することが好ましい。
加圧流体を注入する工程を実施することで、保圧工程で必要とされる保圧力を低下させることができる。保圧工程を実施することで、射出成形品の裏面に向けて注入する流体の圧力を低下させることができる。溶融樹脂を充填する段階では、キャビティの間隔を広げることによって、充填圧力を低下させることができる。これらが総合的に組み合わされ、キャビティ面に加わる圧力(型内圧)のピーク値を低下させることができ、射出成形型に加える型締め力の最大値を低下させることができる。
射出成形型に必要な強度を低減することができ、射出成形型を小型化できる。また、型締め力を低減することができ、型締め機構を小型化できる。射出成形装置を小型化できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融樹脂の充填圧力を低下させることができ、キャビティ面に加わる圧力(型内圧)のピーク値を低下させることができる。射出成形型に必要な強度を低減することができ、射出成形型を小型化できる。これにより、射出成形型の生産コストが低下する。また、射出成形型の交換作業等が容易化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。
(第1形態)
射出成形品型は、充填工程で、0.1〜0.15mmだけ開き、保圧工程終了時には完全に閉じるように条件設定されている。
【実施例】
【0016】
本発明の射出成形方法に係る一実施例を、図1〜図8を参照しながら説明する。本実施例では、本発明の射出成形方法によって、自動車のバンパーを射出成形する。
図1は、本実施例で用いる射出成形装置1の、成形型2を閉じる前の状態を示す。図2は、射出成形装置1の成形型2を閉じ、溶融樹脂を射出する射出シリンダ30を固定型12の溶融樹脂射出用のゲート12aに当接させた状態を示す。図3は、成形型2を閉じることで確保されたキャビティ2aに射出シリンダ30から溶融樹脂を射出している状態を示す。図4は、成形型2を開き、射出成形品40を取り出した状態を示す。図5は、キャビティ2aに充填された樹脂の裏面側に、加圧空気を注入する装置50を説明する図である。図6は、本実施例の射出成形方法の工程図を示す。図7は、型締め力と、実際の型内圧の関連を説明する図である。図8は、射出成形品40の厚み(型締め方向の寸法)が大きいほど、溶融樹脂を射出する圧力は小さくてよいことを実験して確認した結果を示す。
【0017】
射出成形装置1は、図1に示すように、基台3と、基台3に配設された固定側装置10と、可動側装置20と、溶融樹脂を射出する射出シリンダ30が設けられた射出装置(図示していない。)を備えている。
固定側装置10には、固定側プラテン11が設けられている。固定側プラテン11は、水平に配置した基台3に対して垂直に固定されている。固定側プラテン11は、射出シリンダ側(図1に示す右側)に凹部11aを有している。凹部11aの窪みの中心には、射出シリンダ30のノズルヘッド31が当接する部分に溶融樹脂の供給口11bが設けられている。凹部11aの反対側(図1に示す左側)には、固定型12が取り付けられている。固定型12には、射出シリンダ30から溶融樹脂が供給されるゲート12aが設けられている。固定型12は、ゲート12aの一方側の開口部が、前述した固定側プラテン11の溶融樹脂供給口11bと連通するように取り付けられている。
また、固定側プラテン11には、厚み方向(図1に示す左右方向)に貫通する穴13b〜16bが設けられている。各穴には、ピストン軸43〜46が挿通されている。なお、ピストン軸43〜46の径は、穴13b〜16bの径よりも小さい。したがって、ピストン軸43〜46は、固定側プラテン11に対して、図1に示す左右方向に移動可能な構成となっている。固定側プラテン11の各穴13b〜16bの射出シリンダ30側には、型締めシリンダ13〜16が取り付けられている。ピストン軸43〜46の一端は型締めシリンダ13〜16のシリンダ内13a〜16aに収容されている。
【0018】
可動側装置20には、可動側プラテン21が設けられている。可動側プラテン21は、水平に配置した基台3に対して垂直に配置されている。なお、可動側プラテン21は、基台3に対して図1に示す左右方向にスライド移動可能に配置されている。可動側プラテン21には、型閉じシリンダ17のピストン軸17aが接続されている。可動側プラテン21の固定側プラテン11側(図1に示す右側)には、可動型22が取り付けられている。また、可動側プラテン21には、厚み方向(図1に示す左右方向)に貫通する穴23b〜26bが設けられている。各穴の内周面にはネジ山が設けられている。各穴には、型締めシリンダ13〜16のピストン軸43〜46端部に設けられたネジ山が螺合される。また、ピストン軸43〜46は、其々がハーフナット23c〜26cで可動側プラテン21に固定される。
【0019】
射出シリンダ30は、図示省略してある射出装置に、図1に示す左右方向にスライド移動可能に支持されている。射出シリンダ30には、固定側プラテン11の凹部11aに当接するノズルヘッド部31が設けられている。射出シリンダ30の中空部32には、中空部32内をスライド移動可能なスクリュー33が設けられている。中空部32の内部には、溶融樹脂が蓄えられる。そして、中空部32のスクリュー33が図1に示す左方向にスライド移動することにより、溶融樹脂はノズルヘッド31、凹部11aに設けられた溶融樹脂供給口11bを介して、固定型12のゲート12aに射出可能な構成となっている。
【0020】
また、図1では省略してあるが、可動型22には、図5に示すように、流路27と流路28が形成されている。流路27,28は、その一端が第2キャビティ面22bに開口するとともに、他端が外部に開口している。流路27,28の開口部には、其々ベント部材27a,28aが挿入されている。ベント部材27a,28aは、キャビティ2aに溶融樹脂が充填された際に、溶融樹脂が流路27,28に入り込まないように構成されている。
【0021】
また、流路27,28には、加圧エアー注入装置50が接続されている。加圧エアー注入装置50には、フィルタ51、レギュレータ52、バルブ53が設けられている。フィルタ51、レギュレータ52、バルブ53は、流体配管54の一端54aの側から、フィルタ51、レギュレータ52、バルブ53の順に流体配管54に介装されている。バルブ53の出口側に接続された流体配管54は二又に分岐されている。そして、一方が流路27に接続され、他方が流路28に接続される。
なお、流体配管54の一端54aには、高圧な工場エアーが供給されている。
加圧エアー注入装置50のバルブ53が開かれると、フィルタ51により異物が除去され、レギュレータ52により圧力が所定値(例えば、0.5MPa)に調圧されたエアーが流路27,28に供給される。
【0022】
このように構成された射出成形装置1を用いて射出成形品40を成形する各工程について、図6を参照して説明する。
射出成形品40を成形するときには、まず成形型2を型閉じする工程を実行する(併せて図2参照)。射出成形装置1の制御装置(特に図示していない。)により型閉じシリンダ17が駆動され、ピストン軸17aが図2に示す右方向に駆動される。これにより、ピストン軸17aに固定されている可動側プラテン21が、図2に示す右方向にスライド移動する。可動側プラテン21に取り付けられた可動型22が固定型12方向に移動し、可動型22と固定型12が組み合わされる。すなわち、成形型2が閉じた状態となる。成形型2が閉じた状態では、固定型12の第1キャビティ面12bと、可動型22の第2キャビティ面22bによって、キャビティ2aが形成される。キャビティ2aの形状は、射出成形品40(併せて、図4参照)のそれに対応している。固定型12の第1キャビティ面12bは、射出成形品40の意匠面を成形する。可動型22の第2キャビティ面22bは、射出成形品40の裏面と端面を成形する。なお、射出成形品40の意匠面は意図した表面形状に仕上げる必要がある面である。裏面は表面形状が重視されない面である。この型閉じ工程を開始する時刻を、図6に示す時刻t0とする。
【0023】
図6に示す時刻t1で型閉じ工程が終了すると、続いて溶融樹脂の充填工程が実行される(併せて、図3参照。)。充填工程では、溶融樹脂を射出することによりキャビティ2aの内圧が高まるので、型締めシリンダ13、14、15、16を用いて成形型2を型締めしながら溶融樹脂をキャビティ2aに射出する。充填工程での型締め力に関しては、詳細を後述する。充填工程が実行されると、射出シリンダ30から射出された溶融樹脂がゲート12aを通過してキャビティ2aに充填されてゆく。
そして、溶融樹脂が流路27,28に設けられているベント部材27a,28aを通過した直後のタイミング(図6に示す時刻t2)で、加圧エア注入装置50(併せて図5参照)のバルブ53が開かれる。これにより、流路27,28に加圧エアーが供給される空気注入工程が開始される。流路27,28に供給されたエアーは、キャビティ2aに注入される。流路27,28は第2キャビティ面22b側に設けられているので、キャビティ2aに充填された樹脂は第2キャビティ面22bから剥離し、第1キャビティ面12bに密着する。この際、充填された樹脂と第2キャビティ面22bとの間には隙間ができている。同時に、キャビティ2aに充填された樹脂は、温度が低下して収縮しはじめる。
【0024】
図6に示す時刻t3で、充填工程が終了したら、保圧工程及び冷却工程が開始される。保圧工程では、ゲート12aからキャビティ2aに加えられる圧力がほぼ一定に維持され、キャビティ2aで収縮した分の溶融樹脂が補充される。保圧工程では、溶融樹脂を補充することによりキャビティ2aの内圧が高まるので、型締めシリンダ13、14、15、16を用いて成形型2を型締めしながら溶融樹脂を補充する。保圧工程での型締め力に関しては、詳細を後述する。冷却工程では、固定型12と可動型22を通過している冷却配管(図示省略)を通過している冷却水によって、キャビティ2a内の溶融樹脂が冷却されて凝固する。
そして、図6に示す時刻t4で保圧工程を終了する。また、時刻t5で、冷却工程を終了するとともに、加圧エア注入装置50のバルブ53を閉じて空気注入工程を終了する。次に、時刻t5で、型開き工程に移行することによって、成形型2が開かれる。図6に示す時刻t6で、製品取出工程を実行して射出成形品40を成形型2から取り出す(併せて、図4参照)。
【0025】
ここで、前述したように、時刻t1で充填工程を開始するときから、時刻t4で保圧工程を終了するまでの期間は、溶融樹脂の射出(充填工程)や補充(保圧工程)に伴い、キャビティ2a内に相応の内圧(型内圧)が発生する。したがって、成形型2を相応の圧力をもって型締めしておく必要がある。図7に、この期間の型締め力(算出値)と、射出シリンダ30のスクリュー33の速度と、実際の型内圧(キャビティ2a内の圧力)の一例を示す。
図7の最上段のグラフに点線で、成形型2を完全に閉じている状態を維持するのに必要な必要型締め力を示す。必要型締め力は、射出成形品40の形状、溶融樹脂の種類、キャビティ2aに溶融樹脂を射出するゲート12aの位置等に基づいて予め算出される。本実施例では、必要型締め力は、時刻t1から時刻t3(充填工程の終了時)までの間では時間に比例して増加し、時刻t3でf2(N)と算出されている。そして、保圧工程が開始されるとf1(N)まで減少し、時刻s1(保圧工程の途中)までは、f1(N)を維持するように算出されている。そして、時刻s1から時刻t4(保圧工程の終了時)までの間、時間に比例して減少し、時刻t4で0(N)となるように算出されている。
【0026】
本実施例では、時刻t1〜時刻t3の充填工程において、実際の型締め力(図7の最上段のグラフに実線で示した圧力)は、上記した必要型締め圧(図7の最上段のグラフに点線で示した圧力)よりも、低い値に設定する。すなわち、時刻t1から時刻t3(充填工程)では時間に比例して増加し、時刻t3では、f1(N)に設定される。そして、時刻t3から時刻s1(保圧工程の途中)までは、f1(N)を維持するように設定される。そして、時刻s1から時刻t4(保圧工程の終了時)までの間、時間に比例して減少し、時刻t4で0(N)となるように設定される。この型締め力が出るように型締めシリンダ13〜16を制御して型締めを実施すると、充填工程では、成形型2が0.1〜0.15mm程度故意に開かれた状態となるる。この寸法であれば、成形型2が開かれた状態であっても、溶融樹脂が開かれた型の間隔に入り込むことにより射出成形品40にバリが発生する虞が少ない。
【0027】
そして、射出シリンダ30は、充填工程では、射出シリンダ30のスクリュー33が図7に示すように段階的に速度制御される。スクリュー33の速度は、時刻t1で充填工程が開始されてから、時間に比例して増加され、途中ピーク値に達してから段階的に減少されている。なお、保圧工程では、スクリュー33は圧力制御されるので、小さい速度に維持されている。そして、時刻t4で保圧工程が終了した時に0となっている。
【0028】
これにより、実際の型内圧(キャビティ2a内のゲート12直下の圧力)は、時刻t1から時刻t3(充填工程)では時間に比例して増加し、充填工程終了時の時刻t3で、ピークのp1(MPa)となり、保圧工程に入って少し減少してp2(MPa)で安定し、時刻s1で型締め力が減少するとともに減少し、時刻t4で0(MPa)となる。
型締めシリンダ13〜16を制御して型締めを実施する際に、必要型締め力(図7の最上段のグラフで点線で示す圧力)が出るように制御すると、充填工程時の型内圧のピーク値(図7の最下段のグラフで点線で示す圧力)が大きくなる。本発明の射出成形方法では、充填工程では、成形型2を故意に0.1〜0.15mm程度開いた状態で維持している。これは、充填工程時には、射出成形品40でいえば厚みに相当するキャビティ2aの間隔が0.1〜0.15mm広い状態を維持していると言える。図8には、射出成形品の厚みが厚い程(キャビティ2aの間隔が広い程)、キャビティ2a内の溶融樹脂の通路が広くなり、溶融樹脂は低めの充填圧力でも充填され易いという実験結果が示されている。したがって、本実施例によれば、射出成形品40にバリを発生させることなく、溶融樹脂の充填圧力を低減化することができる。これにより、成形型2の内圧を低減化することができる。
また、保圧工程時の型内圧p2(MPa)を型締め方向に積分した値は、保圧工程時の型締め力f1(N)よりも小さくなるように、型締め力f1(N)が設定されるのが好ましい。これにより、保圧工程中、型内圧がp2(MPa)で安定した状態の時には、型は完全に閉じ、充填工程時に成形型2が若干開いていても射出成形品40の完成品の厚みには影響しない。
【0029】
本実施例の射出成形方法によれば、充填工程で成形型2に加える型締め力が、充填圧力に抗して成形型2を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力よりも低い。このために、充填工程では、溶融樹脂の充填圧力によって成形型2が若干開く。前記したように間隔が狭いキャビティ2aに溶融樹脂を充填するためには高い充填圧力が必要とされる。逆にいうと、キャビティ2aの間隔が広ければキャビティ2aに充填するために必要な充填圧力は低下する。充填工程で成形型2が若干開けば、キャビティ2aの間隔が広げられる。この結果、キャビティ2aに充填するために必要な充填圧力を低下させることができる。従って、キャビティ面12b,22bに作用する型内圧を低下させることができ、充填工程終了時に発生する型内圧のピーク値を低下させることができる。これにより成形型2に必要とされる耐圧圧力を低減することができ、成形型2に必要な強度を低減することができる。そして、成形型2を小型化することができ、成形型2の生産コストを低減することができる。ひいては、射出成形品40の生産コストを低減することができる。
【0030】
本実施例の射出成形方法では、充填工程で成形型2に加える型締め力は、溶融樹脂の充填圧力によって成形型2が0.1〜0.15mmだけ開く力に設定されている。一般的に、成形型2が0.15mmよりも開くと、射出成形品40にバリが発生しやすい。成形型2が開いても、その間隔が0.15mm以下であれば、その間隔に溶融樹脂が入り込まない。射出成形品40にバリが発生し難いことが確認されている。この場合、工程が進んで型内圧が減少することにより型開き量は0となり、充填時に成形型2が開いても、射出成形品40の厚みに影響しないことが確認されている。一般的に、成形型2が0.1mm以上開くと、キャビティ2aの間隔が広がってキャビティ2aに充填するために必要な充填圧力が低下する現象が顕著となる。したがって、射出成形品40にバリが発生しない範囲で、キャビティ2aの間隔を広げて必要な充填圧力を低下させることができ、品質のよい射出成形品40を簡易な成形型2で成形することができる。
【0031】
また、本実施例の射出成形方法では、保圧工程を実施するので、キャビティ2a内で溶融樹脂が収縮した分を補充することができる。これにより、射出成形品40にヒケやボイドが発生することを防止することができる。
また、本実施例の射出成形方法では、加圧流体を注入する工程を実施するので、溶融樹脂が収縮しても射出成形品40の表面(意匠面)は第1キャビティ面12bに密着し続ける。これにより射出成形品40の意匠面を意図した形状に仕上げることができる。
また、加圧流体を注入する工程を実施することで、保圧工程で必要とされる保圧力を低下させることができる。保圧工程を実施することで、キャビティ2aに充填した樹脂に向けて注入する流体の圧力を低下させることができる。溶融樹脂を充填する段階では、キャビティ2aの間隔を広げることによって、充填圧力を低下させることができる。これらが総合的に組み合わされ、キャビティ面12b,22bに加わる圧力(型内圧)のピーク値を低下させることができ、成形型2に加わる型締め力の最大値を低下させることができる。そして、成形型2に必要な強度を低減することができ、成形型2を小型化できる。また、型締め力を低減することができ、ピストン軸43,44,45,46や型締めシリンダ13〜16等で構成される型締め機構を小型化できる。そして、射出成形装置1を小型化できる。
【0032】
本実施例では、加圧流体が加圧空気の場合について説明したが、加圧流体は、空気以外の気体や液体等でもよい。
また、本実施例では、充填工程で、故意に0.1〜0.15mm型が開くように型締め力が設定される場合について説明した。しかしながら、型締め力は、少なくともキャビティ2aが確保されていれば(少なくともキャビティに溶融樹脂を充填することができれば)、型が完全に閉じている状態を維持するための必要型締め力よりも低く設定されていればよい。これは、射出成形品によっては、バリが発生することが許容される製品もあることによる。
また、本実施例では、保圧工程時に型内圧がp2(MPa)で安定した状態の時に成形型2が完全に閉じる場合について説明したが、成形型2は、保圧工程時に型内圧の低下に伴って閉じ、保圧工程終了時までに完全に閉じていればよい。
【0033】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、溶融樹脂の充填圧力が高いとともに型締め力が大きく、保圧工程での型内圧や型締め力が低くなくてもよい場合には、保圧工程と空気注入工程の両方を実施することは必ずしも必要ではない。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施例で用いる射出成形装置1について、成形型2を閉じる前の状態を示す。
【図2】射出成形装置1の成形型2を閉じ、溶融樹脂を射出する射出シリンダ30を固定型12の溶融樹脂射出用のゲート12aに当接させた状態と示す。
【図3】キャビティ2aに射出シリンダ30から溶融樹脂を射出している状態を示す。
【図4】成形型2を開き、射出成形品40を取り出した状態を示す。
【図5】キャビティ2aに充填された溶融樹脂の、成形品裏面側に加圧空気を注入する装置50を説明する図である。
【図6】本実施例の射出成形方法の工程図を示す。
【図7】型締め力と、型内圧の関連を説明する図である。
【図8】射出成形品40の厚みが大きいほど、溶融樹脂を射出する圧力は小さくてよいことを実験した結果を示す。
【図9】従来技術を示す図である。
【図10】空気注入工程を実施する従来技術を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 射出成形装置
2 射出成形型
2a キャビティ
3 基台
10 固定側装置
11 固定側プラテン
11a 凹部
12 固定型
12a ゲート
12b 第1キャビティ面
13,14,15,16 型締めシリンダ
13a,15a シリンダ内
13b,14b,15b,16b 貫通孔
17 型閉じシリンダ
17a ピストン軸
20 可動側装置
21 可動側プラテン
22 可動型
22b 第2キャビティ面
23b,24b,25b,26b 孔
23c,24c,25c,26c ハーフナット
27,28 流路
27a,28a ベント部材
30 射出シリンダ
31 ノズルヘッド部
32 中空部
33 スクリュー
40 射出成形品
43,44,45,46 ピストン軸
50 加圧エア注入装置
51 フィルタ
52 レギュレータ
53 バルブ
54 流体配管
54a 流体配管の一端


【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形型に型締め力を加えて射出成形型を閉じる工程と、
射出成形型に型締め力を加えた状態で射出成形型内のキャビティに溶融樹脂を充填する充填工程と、
キャビティに充填した溶融樹脂を冷却する冷却工程と、
射出成形型を開けて射出成形型から射出成形品を取りだす工程を備えており、
前記充填工程で射出成形型に加える型締め力が、溶融樹脂の充填圧力に抗して射出成形型を完全に閉じている状態に維持するために必要な型締め力よりも低く設定されていることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記充填工程で射出成形型に加える型締め力は、溶融樹脂の充填圧力によって、射出成形品にバリを生じさせない間隔だけ射出成形型が開く力に設定されていることを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項3】
前記充填工程で射出成形型に加える型締め力は、前記充填工程で射出成形型が0.1〜0.15mmだけ開く力に設定されていることを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項4】
前記充填工程に続けて、射出成形型に型締め力を加えた状態で、キャビティに充填する溶融樹脂に圧力を加え続けて溶融樹脂をキャビティに追加充填する保圧工程を実施することを特徴とする請求項1〜3の射出成形方法。
【請求項5】
前記射出成形型は、射出成形品の意匠面を成形する型と、射出成形品の裏面を成形する型を備えており、
裏面を成形する型とキャビティに充填した樹脂の間に、加圧流体を注入する注入工程を実施することを特徴とする請求項1〜3の射出成形方法。
【請求項6】
前記射出成形型は、射出成形品の意匠面を成形する型と、射出成形品の裏面を成形する型を備えており、
前記充填工程に続けて、射出成形型に型締め力を加えた状態で、キャビティに充填する溶融樹脂に圧力を加え続けて溶融樹脂をキャビティに追加充填する保圧工程と、裏面を成形する型とキャビティに充填した樹脂の間に加圧流体を注入する注入工程の両者を同時に実施することを特徴とする請求項1〜3の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−83685(P2007−83685A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278561(P2005−278561)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】