説明

導電性ペースト

【課題】 シート溶解性が低く、しかも、乾燥密度が高く適度な粘性を有する導電性ペーストを提供する。
【解決手段】 導電性ペーストは、2位に炭素数1のアルキル基すなわちメチル基が2つ備えられると共に、4位に炭素数3のプロピル基が、5位に炭素数2のエチル基が、それぞれ備えられ、4〜6位の置換基の合計の炭素数が5である環式ケタールが溶剤として用いられているので、適度な粘性を有し、しかも、ポリビニルブチラール樹脂が用いられているセラミックグリーンシートに導体層を印刷する場合にも、そのシートの溶解性が極めて低く、更に、導電性ペーストを調製する際に金属酸化物粉末および導体粉末の分散性に優れているので形成される印刷膜の乾燥密度が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ(Multi Layer Ceramic Capacitor:MLCC)の内部電極等の形成に好適な導電性ペーストの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、図1に断面構造を示すMLCC10を製造するに際しては、その誘電体層12を構成するための未焼成のセラミックグリーンシートの表面に、耐熱性を有する金属を導電性成分として含む導電性ペーストを用いて厚膜スクリーン印刷法等によって印刷膜を形成し、これを多数枚積層して圧着した後、焼成処理を施すことにより、グリーンシートから誘電体層12を生成すると同時に印刷膜から内部電極を構成する導体層14を生成する。なお、図において16はその内部電極(導体層14)に通電するための外部電極である。
【0003】
上記のセラミックグリーンシートは、一般に、セラミック粉末と、バインダーと、溶剤等とを混合したスラリーからドクターブレード法等によってシート成形される。上記バインダーとしては、例えばブチラール樹脂やアクリル樹脂等の有機化合物が用いられる。また、溶剤としては、例えばトルエン等の有機溶剤が用いられる。
【0004】
一方、上記の導電性ペーストは、例えば、導体粉末と、バインダーと、溶剤等とから構成され、導体粉末としては、誘電体層12の焼成温度に応じた耐熱性を有する金属材料、例えばPt,Pd,Ag-Pd,Ag,Ni,Cu等が用いられる。また、バインダーとしては、焼成過程で容易に焼失させられ且つ灰分の少ない有機化合物、例えばアルキド樹脂やエチルセルロース等が用いられる。また、溶剤としては、ペーストに適度な粘性を与え且つグリーンシートに塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発させられる有機化合物、例えばターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ケロシン等が一般に用いられる。また、これらに代えてジヒドロターピニルアセテートを用いることも提案されている。また、導電性ペーストには、通常、前記グリーンシートを構成するセラミック原料の微粉末も添加される。
【0005】
ところで、上記のような溶剤は、セラミックグリーンシートに含まれるブチラール樹脂やアクリル樹脂等の有機バインダーを溶解し、そのグリーンシートの厚さ寸法や密度等を変化させるシートアタックを引き起こす。セラミックグリーンシートが比較的薄い場合には、このシートアタックによる厚さ寸法等の変化が無視できない程度に大きくなるため、誘電体層12を薄くすることの妨げとなっていた。導電性ペーストにはグリーンシートに対する親和性が要求されることから、誘電体層12が比較的厚い従来においては、溶解性を有する溶剤を用いて親和性を確保していたのであるが、誘電体層12が薄くなるとこのような特性が不都合をもたらすのである。
【0006】
因みに、携帯型電子機器等の小型化や高性能化等のためにMLCCには静電容量を保ちつつ小型化および薄型化することが望まれており、外形寸法が1.0×0.5(mm)のもの(1005)が主流で、外径寸法が0.6×0.3(mm)のもの(0603)の製造量も増えつつあるが、それらの厚さ寸法は例えば0.5(mm)或いは0.3(mm)程度に過ぎない。また、これよりも外径寸法が大きいものにおいても、その大きさを保ったまま一層の高容量化の要求がある。そのため、何れにしても、誘電体層12の厚さ寸法を可及的に薄くして積層数を増すことが望まれている。ジヒドロターピニルアセテートを溶剤とする導電性ペーストはターピネオール等に比較すればバインダーを溶解し難いが、0603のような特に小型のMLCCにおいては、高い印刷精度を得ることが困難であると共に、連続して多量に印刷した場合の印刷バラツキが未だ大きく、また、一層の厚さ寸法が3(μm)未満のものではシート溶解性の問題があるため高い製造歩留まりを得ることができなかった。
【0007】
印刷精度が得られないのは、スクリーンに形成されたパターン寸法に対してグリーンシート上における印刷寸法がペーストのダレや滲み等に起因して大きくなるためと考えられる。また、連続印刷時のバラツキが大きくなるのは、温度上昇に起因して、或いはそれによって促進される溶剤の揮発に起因して、ペースト性状が変化するためと考えられる。ジヒドロターピニルアセテートを用いた場合には、印刷寸法はパターン寸法に対して107(%)程度の大きさであって、ターピネオールが用いられる場合の110(%)程度に比較すればやや小さいが、上記のような極小寸法に対しては不十分であった。このように印刷寸法がパターン寸法に対して大きくなると、その拡大率を考慮して設計する必要が生じるので、電子部品を設計する上で大きな制約となるのである。また、ジヒドロターピニルアセテートを用いた場合の連続印刷時のバラツキは上記印刷寸法を中心にして±4(%)程度であって、このバラツキの大きさも電子部品設計を一層困難にする。
【0008】
なお、このような問題は、MLCCに限られず薄いセラミックグリーンシート上に導体ペーストを塗布して導体層を形成する積層体であれば同様に生じ、また、グリーンシートが比較的厚い場合やシート形状以外の未焼成セラミックスに導体ペーストを塗布する場合においても、その厚さ寸法精度や導体層の寸法形状精度を要求される場合には同様に生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−134726
【特許文献2】特開2008−156244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これに対して、ジヒドロターピネオールに炭素数が3以上の側鎖が縮合されたジヒドロターピネオール誘導体、例えば、ジヒドロターピネオールをエステル化した下記構造式1のメンタノールプロピオネート(1-(4-メチルシクロヘキシル)-1-メチルエチルプロパノエートともいう。)を溶剤として用いた導電性ペーストが提案されている(前記特許文献1を参照。)。このようなジヒドロターピネオール誘導体によれば、グリーンシートのバインダーであるブチラール樹脂等を一層溶解し難いため、シートアタックが一層抑制されるが、前述したような極小寸法のMLCC等には未だシートアタック抑制が十分ではなかった。
構造式1:
【化1】

【0011】
また、前述したような導電性ペーストに好適な溶剤として、特定の環式ケタール、例えば、エチレングリコールと2-オクタノンを反応させる事によって得られる下記構造式2の2-メチル-2-ヘキシル-1,3-ジオキサシクロペンタン(2-オクタノンエチレンケタールともいう。以下、2-OEKと称す。)並びに、プロピレングリコールと2-オクタノンを反応させる事によって得られる下記構造式3の2,4-ジメチル-2-ヘキシル-1,3-ジオキサシクロペンタン(2-オクタノン-1,2-プロピレンケタールともいう。以下、2-OPKと称す。)が提案されている(前記特許文献2を参照。)。これらの環式ケタールは、エチルセルロースを溶解するが、ブチラール樹脂は凝集させて殆ど溶解しないので、極小寸法のMLCCに用いてもシートアタックが生じない利点がある。また、同様な作用効果を有するものとして、上記2-OPKの5員環を6員環に変更した下記構造式4の2,4-ジメチル-2-ヘキシル-1,3-ジオキサシクロヘキサン(以下、2-OJKと称す。)が挙げられる。
構造式2:
【化2】

構造式3:
【化3】

構造式4:
【化4】

【0012】
しかしながら、上記構造式2〜4の環式ケタールを用いた導電性ペーストは、Ni等の導体粒子やBaTiO3等のセラミック原料微粉末の分散性が前記メンタノールプロピオネートに比べて劣り、乾燥密度が低くなる問題があった。セラミック微粉末が凝集すると空隙が生じ易くなるので密度が低下するのである。また、導電性ペーストの粘度が低くなる問題もあった。
【0013】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、シート溶解性が低く、しかも、乾燥密度が高く適度な粘性を有する導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、導体粉末と、金属酸化物粉末と、有機バインダーと、有機溶剤とを含む導電性ペーストであって、前記有機溶剤は下記構造式5で示されるケタールを含むことにある。
構造式5:
【化5】

[但し、R1〜R3はそれぞれ水素または炭素数1〜8のアルキル基でR1〜R3の炭素数の合計が3〜10。]
【発明の効果】
【0015】
このようにすれば、導電性ペーストは、上記構造式5で表されるように2位に炭素数1のアルキル基すなわちメチル基が2つ備えられると共に4〜6位に炭素数が8以下で合計の炭素数が3〜10のアルキル基が備えられた環式ケタールを溶剤として含むので、適度な粘性を有し、しかも、ターピネオールに可溶なブチラール樹脂等が用いられているセラミックグリーンシートに印刷膜を設ける場合にも、そのシートの溶解性が極めて低く、更に、前記構造式5で示される有機溶剤は導電性ペーストを調製する際に導体粉末や金属酸化物粉末の分散性に優れているので形成される印刷膜の乾燥密度が高くなる利点がある。
【0016】
上記のようにブチラール樹脂等の溶解性が低くなるのは、上記環式ケタールが弱い極性をもつ構造を備えているためであると考えられる。6員環を基本構造とする上記環式ケタールは、エチルセルロースやアルキド樹脂等に対しては、その6員環による高い溶解力が作用するため、導電性ペーストの調製時には好適な溶解性を示し、その一方、セラミックグリーンシートへの塗布時にはブチラール樹脂等に対する溶解性が低いためシートアタックが好適に抑制される。
【0017】
また、前記構造式5に示される有機溶剤の金属酸化物粉末の分散性は、溶解パラメータ SP値に起因するものと推察する。SP値(δ)の算出には種々方法が挙げられるが、Fedorの算出法によればSP値(δ)は凝集エネルギー(Ecoh)とモル分子容(V)とから次式で表される。
δ=(ΣEcoh/ΣV)1/2
ここで、凝集エネルギー(Ecoh)とモル分子容(V)は構造式中の官能基固有の値であり、例えば「SP値 基礎・応用と計算方法(山本秀樹著、(株)情報機構 平成17年3月31日発行)」に値が示されている。これによりSP値を計算すると、従来から用いられている有機溶剤では、2-OPKが8.20(J/cm3)1/2、2-OJKが8.23(J/cm3)1/2であるのに対し、前記構造式5で示される有機溶剤ではこれらよりも低く、その一例を挙げると2,2-ジメチル-5-エチル-4-プロピル-1,3-ジオキサシクロヘキサン(以下、ASKという)は8.06(J/cm3)1/2である。分散質である金属酸化物のSP値は不明であるが、分散質と分散媒のSP値が近似するほど分散性に優れることは経験的に知られるところであるから、従来に比較してSP値の低いことが金属酸化物粉末の分散性を高めているものと考えられる。
【0018】
なお、前記構造式5において、R1〜R3の炭素数の合計が少ないと、有機溶剤の分子量が小さくなり揮発し易くなるため、乾燥温度が低下し延いては印刷安定性が低下する傾向がある。逆にR1〜R3の炭素数の合計が大きいと有機溶剤の分子量が大きいため乾燥温度が高くなり乾燥し難くなる。このような観点からR1〜R3の合計は3〜10が好ましく、4〜7であることが一層好ましい。
【0019】
ここで、好適には、前記ケタールは、下記構造式6のASK、下記構造式7の4-(1-メチルエチル)-2,2,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサシクロヘキサン(以下、ANKという)、および下記構造式8の5-ブチル-2,2-ジメチル-5-エチル-1,3-ジオキサシクロヘキサン(以下、ABKという)である。これらの環式ケタールは金属酸化物粉末の分散性に優れ且つ乾燥温度も適切な温度になるため特に好ましい。
構造式6:
【化6】

構造式7:
【化7】

構造式8:
【化8】

【0020】
また、前記導体粉末は特に限定されず、導電性ペーストの用途に応じて適宜のものが用いられるが、例えば、MLCCの内部電極形成用途では、電極形成に一般に用いられるNi,Ag,Pd,Cu,Ag/Pd,Pt等が挙げられる。
【0021】
また、前記R1〜R3は、例えば直鎖型炭化水素であるが、分枝を有するものであっても差し支えない。
【0022】
また、好適には、前記導電性ペーストは、DBP(ジブチルフタレート)、TOP、TEEP等の可塑剤を含むものである。
【0023】
なお、前記構造式5で一般式が示される環式ケタールは新規な化合物であり、例えば、ケトンとジオールを酸触媒の存在下に反応させることによって得ることができる。使用するケトンは、例えばアセトンである。また、使用し得る酸触媒は、ブレンステッド酸であり、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、活性白土などが挙げられる。
【0024】
上記ジオールは、合成しようとするケタールの炭素数に応じて6員環を形成し得る適宜のものを用いることができる。例えば、合計の炭素数が3〜10のケタールを合成する場合には炭素数6〜13のジオールを用いることができ、炭素数4〜7のケタールを合成する場合には炭素数7〜10のジオールを用いることができる。これらは、例えば、1,3-ジオール等の1つ炭素を隔てたジオール構造を持つアルカンジオールであり、具体的には、2,4,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ノナンジオール等が挙げられる。これらのうち炭素数7〜10のジオールとしては、2,4,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールが挙げられる。
【0025】
また、ケタールを合成する際のケトンとジオールの比は、例えば1:1〜5:1、好ましくは1:1〜3:1、より好ましくは1:1〜2:1のモル比である。反応圧力は、加圧下、常圧下、および減圧下の何れでもよい。反応温度は、60〜120(℃)、好ましくは75〜115(℃)、より好ましくは90〜110(℃)である。反応時間は、条件次第で異なるが、通常は数時間以内、例えば6時間以内に終了する。
【0026】
また、合成の際に溶媒は用いなくてよいが、必要に応じて反応に関与しない少量の有機溶媒を用いてもよい。この目的に使用しうる有機溶媒は、水と共沸させる溶媒、例えば、ベンゼン、酢酸エチルなどである。一般に、酸触媒下のケトンとジオールの反応は可逆反応である。この反応において望ましくない逆反応を防止するために、生成した水をベンゼンなどと共沸させて除去することが行われる。しかし、ベンゼンは環境にも人体にも悪影響を与える。したがって、生成する水を減圧下に除去しながら反応を行うことが望ましい。
【0027】
減圧条件下での反応中に、水が先に溜去され、次いで未反応の出発物質であるケトンおよびジオールが溜去される。このケトンおよびジオールは、次回反応に用いてもよい。最後に、反応生成物であるケタールを減圧下に蒸溜して回収する。このようにして製造したケタールは、通常、99%以上の純度を有する。
【0028】
このように製造されたケタールは、エチルセルロース、水添ロジン、アクリル樹脂等を溶解するが、ブチラール樹脂、ロジン、エポキシ樹脂は擬集させ殆ど溶解しないので、本発明の導電性ペーストの溶剤に用い得るのである。
【0029】
また、本発明の導電性ペーストは、有機溶剤として、上述した環式ケタールの他にターピネオール、ジヒドロターピネオール、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート等の他の溶剤を含んでもよい。これら他の溶剤は、有機溶剤中に合計40(重量%)以下、好ましくは20(重量%)以下、より好ましくは10(重量%)以下、最も好ましくは5(重量%)以下の範囲(有機溶剤全体を100(重量%)とする)で含むことができる。
【0030】
また、本発明の導電性ペーストの各成分の割合は構成材料や用途に応じて適宜定められるが、好ましい調合割合は、例えば、導体粉末を30〜70(重量%)、金属酸化物粉末を5〜20(重量%)、残部をビヒクルすなわち有機バインダー、有機溶剤、および可塑剤として、合計100(重量%)である。また、ビヒクルの調合割合も所望の印刷特性が得られるように適宜定められるものであるが、例えば、有機バインダーを1.5〜40(重量%)、有機溶剤を60〜98.5(重量%)、可塑剤を0〜4(重量%)で、合計100(重量%)である。なお、上記構成材料に加えて、ガラス粉末等が更に添加される場合には、粉末の合計量が35〜90(重量%)程度になるように適宜調整すればよい。
【0031】
また、前記導電性ペーストは、上記のようにして合成した溶剤を適当な有機バインダーに加えて加熱溶解し、金属酸化物粉末と混合した後、フィルターで濾過することにより製造することができる。上記有機バインダーおよび金属酸化物粉末の種類や加熱溶解条件は、調製しようとする導電性ペーストの種類や使用条件等に応じて適宜定められるもので、例えば40〜100(℃)程度の温度範囲であり、加熱した溶剤を攪拌しながら有機バインダーを徐々に添加して溶解すればよい。例えば、上記有機バインダーとしては、例えば従来から一般に用いられているエチルセルロース等が好適に用いられるが、この場合の加熱溶解条件は、例えば、110(℃)で3〜24時間程度が好適である。また、混合は例えば三本ロールミル等で行うことができる。
【0032】
また、本発明の導電性ペーストはその構成成分に応じて種々の印刷膜形成用途に好適で、例えば、導体粉末を含む場合には導体層を形成するために用い得る。例えば、セラミック電子部品、特に積層型セラミック電子部品、例えばMLCCの内部導体形成等に用いられる。本発明の導電性ペーストは、誘電体層等のセラミック層が極めて薄く、且つ極めて高いパターン精度が要求される場合に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例の導電性ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミックコンデンサーの構造を説明するための断面構造を模式的に示す図である。
【図2】図1の内部電極形成に用いた導電性ペーストの製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0035】
図2は、本発明の一実施例の導電性ペーストの製造方法を説明するための工程図である。以下、この図2に従って、環式ケタールの一例であるASKを溶剤として含む導電性ペーストの製造方法を説明する。まず、以下の合成例1に従ってASKを合成する。
【0036】
(合成例1)
まず、加熱合成工程P1では、例えば加圧式合成装置のフラスコにアセトン 13.92(g)(=0.24mol)と2-エチル-1,3-ヘキサンジオール 29.2(g)(=0.2mol)、触媒として硫酸水素カリウムを0.02(g)を仕込み、0.5(MPa)の圧力下、120(℃)で4時間加熱する。反応中の圧力は0.8〜0.9(MPa)まで上昇した。その後、常温に戻し開封し、炭酸マグネシウムを加えて触媒を濾去する。
【0037】
次いで、蒸溜工程P2では、これをウィットマー式蒸留装置に仕込み、徐々に加温・減圧を行い、アセトンと水を除去する。更に減圧し、80(℃)条件下、10(hPa)まで減圧すると、生成物であるASKが蒸留された。このようにして得られたASKの量は、7.49(g)であり、その純度は99.41(%)であった。なお、この状態では未反応の2-エチル-1,3-ヘキサンジオールがフラスコ内に残存しているが、これを回収して次回反応の原料としても良い。
【0038】
上記のようにASKを合成した後、以下の工程においては、合成されたASKを用いて導電性ペーストを調製する。すなわち、加熱溶解工程P3では、例えばエチルセルロース(例えば、ダウケミカル(株)製エチルセルロースSTD-100)に上記の溶剤を加え、加熱溶解してビヒクルを作製する。混合割合は、エチルセルロースが3〜10(wt%)程度で、残る97〜90(wt%)程度が溶剤である。また、加熱条件は、例えば加熱温度が70(℃)で、加熱時間が16〜24時間程度である。
【0039】
次いで、混練工程P4では、例えばNi粉等の導体粉末と、金属酸化物粉末と、上記のビヒクルとを混合し、例えば三本ロールミルを用いて、導体粉末および金属酸化物粉末を十分に分散させる。金属酸化物粉末は、例えば導電性ペーストを塗布しようとするグリーンシートの構成材料、例えばチタン酸バリウムである。また、これらの混合割合は、例えば、導体粉末が40〜60(wt%)程度、金属酸化物粉末が5〜20(wt%)程度で、残る45〜20(wt%)程度がビヒクルである。このようにして十分に混練した後、濾過工程P5においてフィルターで濾過することにより、本実施例の導電性ペーストが得られる。
【0040】
前記の図1に示されるMLCC10を製造するに際しては、例えばポリビニルブチラール樹脂等をバインダーとして含む別途作製したグリーンシートに、例えば厚膜スクリーン印刷法を用いて上記の導電性ペーストを所定のパターンで塗布し、複数枚を積層して厚み方向に加圧することにより圧着させ、更に、所定の雰囲気および温度において焼成処理を施す。
【0041】
このとき、本実施例においては、導電性ペーストを調製する際に、導体粉末および金属酸化物粉末が溶剤中に容易に分散して凝集の無い導電性ペーストが得られ、しかも、グリーンシートに塗布した際にシート溶解性が殆ど認められなかった。したがって、本実施例によれば、特性のバラツキの小さいMLCC10を歩留まり良く製造することができる。
【0042】
すなわち、導電性ペーストは、2位に炭素数1のアルキル基すなわちメチル基が2つ備えられると共に、4位に炭素数3のプロピル基が、5位に炭素数2のエチル基が、それぞれ備えられ、4〜6位の置換基の合計の炭素数が5である環式ケタールが溶剤として用いられているので、適度な粘性を有し、しかも、ポリビニルブチラール樹脂が用いられているセラミックグリーンシートに導体層を印刷形成する場合にも、そのシートの溶解性が極めて低く、更に、導電性ペーストを調製する際に金属酸化物粉末および導体粉末の分散性に優れているので形成される印刷膜の乾燥密度が高くなるのである。
【0043】
(合成例2)
なお、上記の実施例中の合成例1では、ASKを減圧下で合成したが、合成条件は上述したものに限られず、例えば常圧下で合成することもできる。例えば、蒸留装置として、温度計および冷却管を取り付けた2Lのフラスコ仕込みのディーンスターク型蒸留塔を用意した。この蒸留塔の理論段数は35段であり、蒸留装置の加熱はマントルヒーターによって行った。
【0044】
上記のフラスコに、アセトン 295.8(g)(=5.1mol)と2-エチル-1,3-ヘキサンジオール 657(g)(=4.5mol)を仕込み、常圧下、90(℃)で30分間加熱した。この間、アセトンと共に水の共沸を得、ディーンスターク型による水の除去とアセトンの還流を行いながら反応させた。
【0045】
次いで、90(℃)に保ったまま、徐々に減圧しながら未反応のアセトンを回収し、更に減圧し、最終的に20(hPa)まで減圧すると、生成物であるASKが蒸留された。このようにして得られたASKの量は、309.6(g)であり、その純度は99.84(%)であった。なお、フラスコ内に残存する未反応の2-エチル-1,3-ヘキサンジオールは、前記実施例と同様に回収して次回反応の原料とできる。
【0046】
(合成例3)
次に、原料に異なるジオールを用いた合成例を説明する。蒸留装置としては上述したディーンスターク型蒸留塔を用い、そのフラスコに、アセトン 406.0(g)(=7.0mol)と2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール 876(g)(=6.0mol)を仕込み、常圧下、90(℃)で30分間加熱した。この間、アセトンと共に水の共沸を得、ディーンスターク型による水の除去とアセトンの還流を行いながら反応させた。
【0047】
次いで、99(℃)に加熱して、徐々に減圧しながら未反応のアセトンを回収し、更に減圧し、最終的に18(hPa)まで減圧すると、生成物であるANKが蒸留された。このようにして得られたANKの量は、408.7(g)であり、その純度は97.59(%)であった。なお、フラスコ内に残存する未反応の2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールは、前記実施例と同様に回収して次回反応の原料とできる。
【0048】
(合成例4)
次に、原料に更に異なるジオールを用いた合成例を説明する。蒸留装置としては上述した合成例2,3と同様なディーンスターク型蒸留塔を用い、そのフラスコに、アセトン 290(g)(5.0mol)と2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール 480(g)(3.0mol)を仕込み、常圧下、90(℃)で30分間加熱した。この間、アセトンと共に水の共沸を得、ディーンスターク型による水の除去とアセトンの還流を行いながら反応させた。
【0049】
次いで、90(℃)に保ったまま、徐々に減圧しながら未反応のアセトンを回収し、更に減圧し、最終的に10(hPa)まで減圧すると、生成物であるABKが蒸留された。このようにして得られたABKの量は、6.11(g)であり、その純度は98.82(%)であった。
【0050】
以下、溶剤の評価試験について説明する。下記の表1は、上述したようにして調製したASKおよびANKを溶剤として含む導電性ペーストを用いて、セラミックグリーンシートに導体ペースト層を形成して評価した結果を、溶剤としてメンタノールプロピオネートおよび2-OJKを用いた比較例と併せて示したものである。なお、表1においてはメンタノールプロピオネートを「メンタP」と表示した。また、グリーンシートは、例えば誘電体材料であるチタン酸バリウム粉末にポリビニルブチラール樹脂およびトルエンを添加してドクターブレード法を用いてシート成形したものを用いた。
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1において、「溶解力」については、各溶剤に樹脂(ブチラール樹脂或いはエチルセルロース)を混ぜ、90(℃)で10時間加熱した後、常温まで自然冷却し、24時間後に観察して評価した。樹脂が溶剤に完全に溶解したものを「○」、樹脂が底に溜まっているが溶剤に濁りが認められるものを「△」、樹脂が底に溜まっており溶剤が透明なものすなわち溶解しないものを「×」とした。
【0053】
また、「シートアタック」は、シート表面の状態を目視にて判断し、グリーンシートが溶解していないものを「○」、若干の溶解が認められるものを「△」とした。
【0054】
また、「乾燥密度」は、印刷形成した膜の乾燥密度の測定値である。金属酸化物粒子が金属粒子の間に偏り無く分散していれば乾燥密度が高くなるため、値が十分に大きいものは分散性も良好と言える。
【0055】
上記表1の評価結果に示されるように、メンタノールプロピオネートを用いた比較例では、分散性は良好で高い乾燥密度が得られるものの、ブチラール樹脂に対する弱い溶解性が認められ、シートアタックが十分に抑制されていない結果となった。また、2-OJKを用いた他の比較例では、ブチラール樹脂は溶解せず、シートアタックも十分に抑制されていることが認められたが、分散性が低く、印刷膜の乾燥密度が5.41(g/cm3)程度と低い結果となった。すなわち、これらの溶剤を用いた比較例では、シートアタックを十分に抑制すると同時に高い乾燥密度を得ることができないことが明らかとなった。
【0056】
これらに対して、ASKおよびANKを溶剤として用いた実施例では、エチルセルロースの溶解性が保たれたまま、ブチラールを全く溶解しないことから、シートアタックが十分に抑制されると共に、分散性も高いことから、印刷膜の乾燥密度が5.49〜5.51(g/cm3)と高い結果が得られた。すなわち、本実施例によれば、シート溶解性が低く、しかも、乾燥密度が高く適度な粘性を有する導電性ペーストが得られるので、極小寸法のMLCC10を製造する場合にも、電極形成用に好適に用い得る。
【0057】
なお、上記ASK、ANK、およびABKの樹脂に対する溶解性を評価した結果を下記の表2に示す。溶解性の評価は、溶剤に樹脂を10(重量%)の割合で混合し、前記表1に示した場合と同様にして行った。表2において、樹脂が完全に溶解されたものを「○」、樹脂が膨潤して凝集、あるいは分散などした状態となり不溶であるものを「×」とした。表2に示されるように、ASK、ANK、ABKの何れの溶剤を用いた場合にも、エチルセルロース、水添ロジン、およびアクリル樹脂が完全に溶解され、ブチラール樹脂、ロジン、およびエポキシ樹脂は溶解されない結果となった。この評価結果によれば、ASK、ANK、ABKは、何れもエチルセルロース、水添ロジン、アクリル樹脂を特異的に溶解するので、ブチラール樹脂、ロジン、或いはエポキシ樹脂をバインダーとするグリーンシートに対して用いることができる。
【0058】
【表2】

【0059】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0060】
10:MLCC、12:誘電体層、14:導体層、16:外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体粉末と、金属酸化物粉末と、有機バインダーと、有機溶剤とを含む導電性ペーストであって、
前記有機溶剤は下記構造式1で示されるケタールを含むことを特徴とする導電性ペースト。
構造式1:
【化1】

[但し、R1〜R3はそれぞれ水素または炭素数1〜8のアルキル基でR1〜R3の炭素数の合計が3〜10。]
【請求項2】
前記ケタールは、下記構造式2で示される2,2-ジメチル-5-エチル-4-プロピル-1,3-ジオキサシクロヘキサン、下記構造式3で示される4-(1-メチルエチル)-2,2,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサシクロヘキサン、および下記構造式4で示される5-ブチル-2,2-ジメチル-5-エチル-1,3-ジオキサシクロヘキサンの何れかである請求項1の導電性ペースト。
構造式2:
【化2】

構造式3:
【化3】

構造式4:
【化4】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−38630(P2012−38630A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179126(P2010−179126)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(505033950)日本香料薬品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】