説明

導電性材料の製造方法

【課題】画像と機能性層との接着性が良好な導電性材料であり、かつ支持体と画像との接着性が良好な金属パターンを有する導電性材料の製造方法を提供することにある。
【解決手段】支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体を像様に露光し、その後、現像処理により金属銀を析出させる導電性材料の製造方法において、該導電性材料前駆体が支持体と物理現像核層との間に実質的にタンパク質を含有しない下引き層を有し、現像処理後に酵素処理することを特徴とする導電性材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路、アンテナ回路、電磁波シールド材、タッチパネル等の用途に用いることができる導電性材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化が強く求められる中、プリント基板を始めとする電気回路は益々高密度化、高精細化が求められてきている。
【0003】
電気回路を製造する方法としては例えば、1)銅、金、ITO、酸化スズなどの導電性材料で被覆された絶縁性基板に、2)感光性樹脂などのフォトレジスト剤を塗りつけ、3)所望のパターンのマスクをかけて紫外線などを照射して、4)フォトレジスト剤を硬化させ、5)未硬化部分を取り除いた後、6)化学エッチングなどによって不要な銅箔部分を除去し電気回路を形成する方法(サブトラクティブ法)が知られている。この方法では工程が煩雑で、かつ高精細な画線を描くことは金属のエッチング工程を有している為困難であった。
【0004】
高精細な画線を描く方法としては1)絶縁性基板に無電解めっき触媒を付与し、2)フォトレジスト剤を塗布し、露光及び現像し、3)無電解めっきを施し、導電パターンを形成し、4)めっきレジストを除去する方法(フルアディティブ法)、あるいは1)絶縁性基板に無電解めっき触媒を付与し、無電解めっきを施し、2)フォトレジスト剤を塗布し、露光及び現像し、3)電解めっきを施し、導電パターンを形成し、4)めっきレジスト等を剥離にする方法(セミアディティブ法)なども知られている。しかしこれらの方法も工程が煩雑で、サブトラクティブ法もそうであるが使用したフォトレジスト剤全てを最終的に廃棄せざるを得ないという問題も有していた。
【0005】
簡易な工程で電気回路を製造する方法としては金属ペーストを基板上にスクリーン印刷法やインクジェット印刷法等で印刷し、焼結等させることで電気回路を形成する方法が知られている。しかしながら、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法では50μm以下の高精細な画線を描くことは困難であった。更にスクリーン印刷の場合、高精細な画線を連続して描こうとした場合、高精細な紗を使用しなければならないが、逆にその紗が詰まりやすいという問題を有している。インクジェット法の場合は特に電気回路を製造する場合だけでなく、民生用のインクジェットプリンタを含め、固形分を含有するインク組成物を印刷する場合には常にインクジェットノズルが詰まるという問題を有している。従って、印刷法を用いて電気回路を製造する場合には、その安定性に問題を有していた。
【0006】
均一で高精細なパターンを簡易に、かつ安定に作ると言う観点において、近年導電性材料前駆体としてハロゲン化銀乳剤層を有する銀塩写真感光材料を使用する方法が提案されている。例えば国際公開第01/51276号パンフレット、特開2004−221564号公報では銀塩写真感光材料を1)像露光、現像処理した後、2)金属めっき処理を施すことで導電性材料を製造する方法の提案がなされている。同じく銀塩感光材料を使う方法として銀塩拡散転写法を用いる方法も提案されており、例えば特開2003−77350号公報(特許文献1)などがある。これらの方法で得られた導電性材料は銀塩写真法を用いているため、高精細な画線を描くことは容易であり、安定性も高く、工程も簡易で、非常に良好な特性を示す。
【0007】
導電性材料を例えばプラズマディスプレイパネルの電磁波シールドフィルムとして用いる場合には、反射防止性、防眩性、ハードコート性、紫外線吸収性等の性能を持つ機能性フィルムと併せて、プラズマディスプレイパネル前面にフィルターとして設置される。例えば、紫外線吸収フィルムは、透明フィルムやその他材料の紫外線による劣化を防ぐために用いられる。紫外線吸収フィルムは、透明フィルム上にベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系等有機系の紫外線吸収剤等を分散剤に分散、或いは適当な溶剤に溶解して塗設し、紫外線吸収層を透明フィルム上に形成することにより得られる。更に、プラズマディスプレイパネル用フィルターは、画質向上や軽量化の観点から、可能な限り薄層化することが求められている。このため、プラスティックフイルムの枚数を少なくすることを目的として、電磁波シールドフィルムに、上記の様な機能性フィルムを用いずに紫外線吸収層等の機能性層を直接塗設することなどが求められている。
【0008】
しかしながら、前述の銀塩写真感光材料を像露光、現像処理した後、金属めっき処理を施して製造される導電性材料では、ゼラチンを始めとする水溶性高分子が得られた導電性材料の表面に残っている場合があった。この為、この方法で得られた導電性材料の表面は極性の低い物質との親和性が非常に低く、極性の低い物質との接着性が弱いという問題が存在していた。前述の特許文献1の銀塩拡散転写法を用いて製造される導電性材料では、その導電性材料前駆体を構成するハロゲン化銀乳剤層などの水溶性高分子を含有する親水性コロイド層は現像時に除去されるので、銀塩拡散転写法を利用しない導電性材料前駆体に比べ、前述の接着の問題は軽微になるが、導電性材料の上に塗設した機能性層との接着性が不十分であり、僅かな力でも場合によっては画像自身も剥離してしまうことがあった。
【0009】
銀塩拡散転写法を用いて製造される導電性材料において、特開2005−250169号公報(特許文献2)に導電性を高めることなどを目的に物理現像核層及び支持体と物理現像核層との間の下引き層にゼラチンを含有させない方法が開示されている。しかしながら、このようにして得られた導電性材料においても、上記のような機能性層との接着性は、十分満足できるものではなかった。
【0010】
一方、銀塩拡散転写法を利用する技術ではなく、化学現像法にて得られた導電性材料前駆体をある条件下で酵素処理することにより、導電性材料の銀に対するバインダー(ゼラチン)の比率を相対的に下げ、導電性を高めることを目的にハロゲン化銀乳剤層を有する導電性材料前駆体を酵素処理する技術が特開2007−12404号公報(特許文献3)に開示されているが、機能性層との接着性は十分満足できるものではなかった。また、特開2007−127946号公報(特許文献4)には銀塩拡散転写法や硬化現像法を用いて現像処理し、金属めっき処理を施す前に酵素処理しても良いことが記載されているが同じく上記のような機能性層との接着性は、十分満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開2003−77350号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2005−250169号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2007−12404号公報(第1頁)
【特許文献4】特開2007−127946号公報(第11頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、画像と機能性層との接着性が良好な導電性材料であり、かつ支持体と画像との接着性が良好な金属パターンを有する導電性材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の発明によって達成された。
支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体を像様に露光し、その後、現像処理により金属銀を析出させる導電性材料の製造方法において、該導電性材料前駆体が支持体と物理現像核層との間に実質的にタンパク質を含有しない下引き層を有し、現像処理後に酵素処理することを特徴とする導電性材料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、機能性層との接着性が良好な導電性材料であり、かつ支持体との接着性が良好な金属パターンを有する導電性材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いる導電性材料前駆体は支持体上に物理現像核層、ハロゲン化銀乳剤層を少なくともこの順に有する。さらに本発明において物理現像核層に接し、かつ前記物理現像核層よりも支持体に近い側に設けられる層を下引き層と呼び、本発明の導電性材料前駆体は少なくとも1層の下引き層を有する。また、本発明の導電性材料前駆体は必要に応じて支持体のハロゲン化銀乳剤層を有する側の反対側の面に裏塗り層を設けることも可能であり、またハロゲン化銀乳剤層と物理現像核層の間やハロゲン化銀乳剤層の上層に非感光性層を設けることができる。さらに本発明の導電性材料前駆体においては裏塗り層と支持体との間に帯電防止層などを必要に応じて設けることもできる。
【0015】
本発明に用いる導電性材料前駆体の支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、セロハン、セルロイド等のプラスチック樹脂フィルム、ガラス板などが挙げられる。
【0016】
本発明に用いる導電性材料前駆体において、下引き層は1層もしくは複数層有することができる。本発明において下引き層は実質的にタンパク質を含まないことを特徴とする。ここで実質的にタンパク質を含まないとは下引き層の全固形分量に対してタンパク質の含有量が10質量%以下であり、好ましくは6質量%以下であることを意味する。タンパク質を実質的に含まないことによって、後述する銀画像形成後の酵素処理を実施しても、支持体と銀画像との接着力が劣化しない。
【0017】
本発明に用いる導電性材料前駆体の下引き層はタンパク質を実質的に含有せずポリマーラテックスや水溶性高分子等の水膨潤性の被膜形成可能な高分子化合物を含有する層である。
【0018】
下引き層に用いることのできるポリマーラテックスや水溶性高分子は特に限定されないが、例えばポリマーラテックスとしては単独重合体や共重合体など各種公知のラテックスを用いることができる。単独重合体としては例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メタクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン重合体などがあり、共重合体としては例えばエチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・p−メトキシスチレン共重合体、スチレン・酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル・マレイン酸ジエチル共重合体、メチルメタクリレート・アクリロニトリル共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、メチルメタクリレート・酢酸ビニル共重合体、メチルメタクリレート・塩化ビニリデン共重合体、メチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、メチルアクリレート・ブタジエン共重合体、メチルアクリレート・スチレン共重合体、メチルアクリレート・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸・ブチルアクリレート共重合体、メチルアクリレート・塩化ビニル共重合体、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ポリエーテル系ウレタン、ポリエステル系ウレタン、ポリカーボネート系ウレタンなどが挙げられる。また、水溶性高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ニトロセルロースなどやこれらの混合物などを挙げることができる。
【0019】
その中でも本発明における特に好ましい下引き層の形態を示す。以下、特に好ましい形態の下引き層を下引き層Aと称する。下引き層Aは物理現像核層に接する位置に設けられる。下引き層Aは、下引き層の全固形分量に対して60質量%以上のポリマーラテックスを含有し、かつ1級若しくは2級アミノ基を有する水溶性高分子を含有するものである。
【0020】
下引き層Aに用いられる1級若しくは2級アミノ基を有する水溶性高分子としては、これらの基を有していれば何れでも使用可能である。このような1級アミノ基もしくは2級アミノ基を有する水溶性高分子としては下記のような水溶性高分子が挙げられる。ヒアルロン酸などムコ多糖類、「高分子の化学反応」(大河原 信著 1972、化学同人社)2.6.4章記載のアミノ化セルロース、ポリエチレンイミン、アミノ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを単独で重合して成るホモポリマー、アミノ基およびエチレン性不飽和二重結合を有する複数種のモノマーを共重合して成るコポリマー、例えば酢酸ビニル、ビニルピロリドンなどの1級もしくは2級アミノ基を有さない他のモノマーと、アミノ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合して成るコポリマー等が挙げられる。ホモポリマーとしては例えばポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリ−4−アミノスチレンなど、アミノ基とエチレン性不飽和の二重結合とを有する複数種のモノマーを共重合してなるコポリマーとしては例えばアリルアミンとジアリルアミンの共重合体など、アミノ基およびエチレン性不飽和二重結合を有さないモノマーと、アミノ基およびエチレン性不飽和の二重結合を有するモノマーとを共重合して成るコポリマーとしては例えばジアリルアミンと無水マレイン酸との共重合体、ジアリルアミンと二酸化硫黄との共重合体などが挙げられる。なお、下引き層Aにおいて1級もしくは2級アミノ基を有さない他のモノマーと、アミノ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合して成るコポリマーを用いる場合、アミノ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの比率は少なくとも2質量%以上、好ましくは10質量%以上有するコポリマーを用いる。下引き層Aに好ましく用いられる水溶性高分子としては、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0021】
下引き層Aに含有される1級もしくは2級アミノ基を有する水溶性高分子は単一種類のものでも良く、また複数種類を混合させて用いても良い。また公知の1級もしくは2級アミノ基を有さない水溶性高分子、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などを、1級もしくは2級アミノ基を有する水溶性高分子と併用して用いることができるが、その含有量は1級もしくは2級アミノ基を有する水溶性高分子の30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0022】
下引き層Aに用いられるポリマーラテックスとしては、前述した各種公知のラテックスを用いることができるが、中でもウレタンラテックス、さらにはポリカーボネート系ウレタンラテックスもしくはポリエーテル系ウレタンラテックスが高い導電性及び下引き層と金属パターンの強い接着力を得られる点で好ましい。
【0023】
ウレタンはポリオールとポリイソシアネートから合成され、それに用いるポリオールとしてポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。下引き層Aにおいてポリエーテル系ウレタンとはポリオールとしてポリエーテルを用いたもの、ポリエステル系ウレタンとはポリオールとしてポリエステルを用いたもの、ポリカーボネート系ウレタンとはポリオールとしてポリカーボネートを用いたものを意味する。ポリカーボネートポリオールは、例えば炭酸エステルとジオールとを反応させることにより得ることができる。炭酸エステルの例としてはエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどを挙げることができ、ジオールの例としては1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトンジオール、1,4−ブタンジオール、ビスフェノールAなどが挙げられる。また、ポリカーボネートジオールとジカルボン酸あるいはポリエステルとの反応で得られるポリエステルポリカーボネートであってもよい。
【0024】
ポリエーテルポリオールとしては、脂肪族ポリエーテルポリオールおよび芳香族環含有ポリエーテルポリオールが挙げられる。脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、脂肪族低分子量活性水素原子含有化合物(水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコール、および活性水素原子含有基として1級もしくは2級アミノ基を含有する化合物)のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物が使用できる。AOが付加される脂肪族多価アルコールには、直鎖もしくは分岐の脂肪族2価アルコール[(ジ)エチレングリコール、(ジ)プロピレングリコール、1,2−、1,3−、2,3−および1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールおよび1,12−ドデカンジオールなど]および脂環式2価アルコール[環状基を有する低分子ジオール、たとえば特公昭45−1474号公報記載のもの]、脂肪族3価アルコール[グリセリン、トリメチロールプロパン、トリアルカノールアミンなど]、および脂肪族4価以上のアルコール[ペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、ソルバイドなど]が挙げられる。AOが付加される1級もしくは2級アミノ基を含有する化合物としては、アルキル(炭素数1〜12)アミン、および(ポリ)アルキレンポリアミン(アルキレン基の炭素数2〜6、アルキレン基の数1〜4、アミンの数2〜5)などが挙げられる。芳香族環含有ポリエーテルポリオールとしては芳香族低分子量活性水素原子含有化合物(水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価またはそれ以上の、フェノール類および芳香族アミン)のAO付加物が使用できる。AOが付加されるフェノール類としては、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、芳香族アミンとしてはアニリンおよびフェニレンジアミンなどが挙げられる。AO付加物の製造に用いるAOとしては、炭素数2〜12またはそれ以上のAO、例えばエチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,2−、2,3−および1,3−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(THF)、α−オレフィンオキサイド、スチレンオキサイド、エピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)、およびこれらの2種以上の併用(ランダムおよび/またはブロック)が挙げられる。脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリオキシエチレンポリオール[ポリエチレングリコールなど]、ポリオキシプロピレンポリオール[ポリプロピレングリコールなど]、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。芳香族環含有ポリエーテルポリオールとしては、ビスフェノール骨格を有するポリオール、例えばビスフェノールAのEO付加物[ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物、ビスフェノールAのEO20モル付加物等]およびビスフェノールAのPO付加物[ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物、ビスフェノールAのPO5モル付加物等]、並びにレゾルシンのEOもしくはPO付加物などが挙げられる。
【0025】
下引き層Aに好ましく用いられるポリカーボネート系ウレタンラテックスおよびポリエーテル系ウレタンラテックスの原材料たるポリイソシアネートとしては芳香族系ポリイソシアネート類と脂肪族・脂環族系ポリイソシアネート類が挙げられるが、その中でもヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートなどの脂肪族・脂環族系ポリイソシアネート類を用いることが好ましい。
【0026】
下引き層Aに用いられるポリマーラテックスの平均粒子径は0.01〜0.3μmであることが好ましく、更に好ましくは0.02μm以上0.1μm未満である。またそのガラス転移温度は40℃以下であることが好ましい。これらポリマーラテックスは単独で、あるいは複数の種類のポリマーラテックスを混合させて用いても良いが、特に好ましいポリマーラテックスであるポリカーボネート系ウレタンとポリエーテル系ウレタンの割合は全ポリマーラテックスの固形分量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上である。
【0027】
下引き層Aにおけるポリマーラテックスの固形分含有量は下引き層の全固形分量に対して60質量%以上、好ましくは70〜97質量%である。また1級もしくは2級アミノ基を有する水溶性高分子はポリマーラテックスの1〜60質量%、好ましくは3〜30質量%含有させる。
【0028】
下引き層の固形分塗設量としては0.01〜5g/m2が好ましく、更に好ましくは0.1〜1.0g/m2である。
【0029】
下引き層は架橋剤により架橋されている事が望ましい。特に好ましい架橋剤としては、例えばクロム明ばんのような無機化合物、ホルムアルデヒド、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンの様なアルデヒド等価体、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクリロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基を二個以上有する化合物、エポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物等あるいはこれら以外に「高分子の化学反応」(大河原 信著 1972、化学同人社)の2・6・7章、5・2章、9・3章など記載の架橋剤等の公知の高分子架橋剤を含有させることもできる。
【0030】
下引き層における架橋剤の添加量は物理現像核層に接する下引き層中のポリマーラテックスと水溶性高分子の合計量に対して1〜10質量%が好ましく、更に好ましくは3〜7質量%が好ましい。
【0031】
下引き層には必要に応じてResearch Disclosure Item 17643(1978年12月)および18716(1979年11月)、308119(1989年12月)に記載されているような公知の写真用添加剤を含有させることもできる。
【0032】
本発明における導電性材料前駆体において、下引き層を多層設ける場合は、下引き層と支持体との間にさらに別の下引き層を設ける。この場合、支持体側の下引き層に用いることのできるポリマーラテックスや水溶性高分子は特に限定されないが、タンパク質は前述のように実質的に含有しない。
【0033】
本発明に用いる導電性材料前駆体において、物理現像核としては、重金属あるいはその硫化物からなる微粒子(粒子サイズは1〜数十nm程度)が用いられる。例えば、金、銀等のコロイド、パラジウム、亜鉛等の水溶性塩と硫化物を混合した金属硫化物等が挙げられる。これらの物理現像核の微粒子層は、コーティング法または浸漬処理法によって、前記下引き層を形成させた支持体上に設けることができる。生産効率の面からコーティング法が好ましく用いられる。物理現像核層における物理現像核の含有量は、固形分で1m2あたり0.1〜10mg程度が適当である。
【0034】
本発明に用いる物理現像核層には、水溶性高分子を含有することもできる。水溶性高分子を用いる場合の添加量は、物理現像核に対して0〜500質量%程度が好ましい。水溶性高分子としては、アラビアゴム、セルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとビニルイミダゾールの共重合体等を用いることができる。
【0035】
本発明に用いる物理現像核層は架橋剤を含有することもできる。該架橋剤としては、例えばクロム明ばんのような無機化合物、ホルムアルデヒド、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンの様なアルデヒド類、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクリロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の一種もしくは二種以上を用いることができる。これらの架橋剤の中でも、好ましくは、グリオキザール、グルタルアルデヒド、3−メチルグルタルアルデヒド、サクシンアルデヒド、アジポアルデヒド等のジアルデヒド類であり、より好ましい架橋剤は、グルタルアルデヒドである。架橋剤は、物理現像核層に含まれる水溶性高分子に対して、0.1〜30質量%を物理現像核層に含有させるのが好ましく、特に1〜20質量%が好ましい。
【0036】
物理現像核層や下引き層の塗布には、例えばディップコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、バーコーティング、エアーナイフコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティングなどの塗布方式で塗布することができる。
【0037】
本発明に用いる導電性材料前駆体においては光センサーとしてハロゲン化銀乳剤層が設けられる。ハロゲン化銀に関する銀塩写真フィルムや印画紙、印刷製版用フィルム、フォトマスク用エマルジョンマスク等で用いられる技術は、そのまま用いることもできる。
【0038】
ハロゲン化銀乳剤層に用いられるハロゲン化銀乳剤粒子の形成には、順混合、逆混合、同時混合等の、Research Disclosure Item 17643(1978年12月)および18716(1979年11月)、308119(1989年12月)で記載されていような公知の手法を用いることができる。なかでも同時混合法の1種で、粒子形成される液相中のpAgを一定に保ついわゆるコントロールドダブルジェット法を用いることが、粒径のそろったハロゲン化銀乳剤粒子が得られる点において好ましい。本発明の導電性材料前駆体においては、好ましいハロゲン化銀乳剤粒子の平均粒径は0.25μm以下、特に好ましくは0.05〜0.2μmである。本発明に用いられるハロゲン化銀乳剤のハロゲン化物組成には好ましい範囲が存在し、塩化物を80モル%以上含有するのが好ましく、特に90モル%以上が塩化物であることが好ましい。
【0039】
ハロゲン化銀乳剤の製造においては、必要に応じてハロゲン化銀粒子の形成あるいは物理熟成の過程において、亜硫酸塩、鉛塩、タリウム塩、あるいはロジウム塩もしくはその錯塩、イリジウム塩もしくはその錯塩などVIII族金属元素の塩、若しくはその錯塩を共存させても良い。また、種々の化学増感剤によって増感することができ、イオウ増感法、セレン増感法、貴金属増感法など当業界で一般的な方法を、単独、あるいは組み合わせて用いることができる。また本発明の導電性材料前駆体においてハロゲン化銀乳剤は必要に応じて色素増感することもできる
【0040】
また、ハロゲン化銀乳剤層に含有するハロゲン化銀量とゼラチン量の比率は、ハロゲン化銀(銀換算)とゼラチンとの質量比(銀/ゼラチン)が1.2以上、より好ましくは1.5以上である。
【0041】
ハロゲン化銀乳剤層には、さらに種々の目的のために、公知の写真用添加剤を用いることができる。これらは、Research Disclosure Item 17643(1978年12月)および18716(1979年11月)、308119(1989年12月)に記載、あるいは引用された文献に記載されている。
【0042】
前述の通り、本発明の導電性材料前駆体にはハロゲン化銀乳剤層と物理現像核層の間やハロゲン化銀乳剤層の上の層に非感光性層を設けることができる。これらの非感光性層は、水溶性高分子を主たるバインダーとする層である。ここでいう水溶性高分子とは、現像液で容易に膨潤し、下層のハロゲン化銀乳剤層、物理現像核層まで現像液を容易に浸透させるものであれば任意のものが選択できる。
【0043】
具体的には、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、ポリビニルアルコール等を用いることができる。特に好ましい水溶性高分子は、ゼラチン、アルブミン、カゼイン等のタンパク質である。本発明の効果を十分に得るためには、この非感光性層のバインダー量としては、ハロゲン化銀乳剤層の総バインダー量に対して20〜100質量%の範囲が好ましく、特に30〜80質量%が好ましい。
【0044】
これら非感光性層には、必要に応じてResearch Disclosure Item 17643(1978年12月)および18716(1979年11月)、308119(1989年12月)に記載されているような公知の写真用添加剤を含有させることができる。また、処理後のハロゲン化銀乳剤層の剥離を妨げない限りにおいて、架橋剤により硬膜させることも可能である。
【0045】
本発明の導電性材料前駆体にはハロゲン化銀乳剤層の感光波長域に吸収極大を有する非増感性染料又は顔料を、画質向上のためのハレーション、あるいはイラジエーション防止剤として用いることは好ましい。ハレーション防止剤としては、好ましくは上記した下引き層あるいは物理現像核層、あるいは物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間に必要に応じて設けられる中間層、または支持体を挟んで設けられる裏塗り層に含有させることができる。イラジエーション防止剤としては、ハロゲン化銀乳剤層に含有させるのがよい。添加量は、目的の効果が得られるのであれば広範囲に変化しうるが、たとえばハレーション防止剤として裏塗り層に含有させる場合、1m2あたり、約20mg〜約1gの範囲が望ましく、好ましくは、極大吸収波長における吸光度として、0.5以上である。
【0046】
本発明において、導電性材料前駆体を用いて、導電性材料を作製するための方法について説明する。導電性材料として、例えば、網目状パタンの銀薄膜が挙げられるが、この場合、導電性材料前駆体を露光後、現像処理し、その後、酵素処理を行い網目状パタンの銀薄膜の形成する。以下に、本発明における、露光、現像処理、酵素処理について順に説明する。
【0047】
本発明における導電性材料前駆体の露光について説明する。導電性材料前駆体のハロゲン化銀乳剤層は網目状パタンに露光されるが、露光方法として、網目状パタンの透過原稿とハロゲン化銀乳剤層を密着して露光する方法、あるいは各種レーザー光を用いて走査露光する方法等がある。上記したレーザー光で露光する方法においては、例えば400〜430nmに発振波長を有する青色半導体レーザー(バイオレットレーザーダイオードとも云う)を用いることができる。
【0048】
本発明における導電性材料前駆体の現像処理について説明する。上記のように露光された導電性材料前駆体のハロゲン化銀乳剤層は、銀塩拡散転写現像液で処理することにより物理現像が起こり、未露光部のハロゲン化銀が溶解されて銀錯塩となり、物理現像核上で還元されて金属銀が析出し網目状パターンの銀薄膜を得ることができる。一方、露光された部分はハロゲン化銀乳剤層中で化学現像されて黒化銀となる。現像後、不要になったハロゲン化銀乳剤層及び中間層、保護層等は除去されて、未露光部の形状パターンの銀薄膜が表面に露出する。
【0049】
現像処理後のハロゲン化銀乳剤層等の物理現像核層の上に設けられた層の除去方法は、水洗除去あるいは剥離紙等に転写剥離する方法がある。水洗除去は、スクラビングローラ等を用いて温水シャワーを噴射しながら除去する方法や温水をノズル等でジェット噴射しながら水の勢いで除去する方法がある。また、剥離紙等で転写剥離する方法は、ハロゲン化銀乳剤層上の余分なアルカリ液(銀錯塩拡散転写用現像液)を予めローラ等で絞り取っておき、ハロゲン化銀乳剤層等と剥離紙を密着させてハロゲン化銀乳剤層等をプラスチック樹脂フィルムから剥離紙に転写させて剥離する方法である。剥離紙としては吸水性のある紙や不織布、あるいは紙の上にシリカのような微粒子顔料とポリビニルアルコールのようなバインダーとで吸水性の空隙層を設けたものが用いられる。
【0050】
本発明における導電性材料前駆体の現像処理において使用する、銀塩拡散転写現像の現像液について説明する。現像液は、可溶性銀錯塩形成剤及び還元剤を含有するアルカリ液である。可溶性銀錯塩形成剤は、ハロゲン化銀を溶解し可溶性の銀錯塩を形成させる化合物であり、還元剤はこの可溶性銀錯塩を還元して物理現像核上に金属銀を析出させるための化合物である。
【0051】
現像液に用いられる可溶性銀錯塩形成剤としては、チオ硫酸ナトリウムやチオ硫酸アンモニウムのようなチオ硫酸塩、チオシアン酸ナトリウムやチオシアン酸アンモニウムのようなチオシアン酸塩、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸水素カリウムのような亜硫酸塩、オキサゾリドン類、2−メルカプト安息香酸及びその誘導体、ウラシルのような環状イミド類、アルカノールアミン、ジアミン、特開平9−171257号公報に記載のメソイオン性化合物、米国特許第5,200,294号明細書に記載のようなチオエーテル類、5,5−ジアルキルヒダントイン類、アルキルスルホン類、他に、「The Theory of the photographic Process(4th edition,p474〜475)」、T.H.James著に記載されている化合物が挙げられる。
【0052】
これらの可溶性銀錯塩形成剤の中でも特に、アルカノールアミンが好ましい。アルカノールアミンを含有した処理液で現像を行った導電性フィルムの表面抵抗は比較的低い値が得られる。
【0053】
アルカノールアミンとしては、例えばN−(2−アミノエチル)エタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エタノールアミン、4−アミノブタノール、N,N−ジメチルエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
【0054】
これらの可溶性銀錯塩形成剤は単独で、または複数組み合わせて使用することができる。
【0055】
現像液に用いられる還元剤は、Research Disclosure Item 17643(1978年12月)および18716(1979年11月)、308119(1989年12月)に記載されているような写真現像の分野で公知の現像主薬を用いることができる。例えば、ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール、メチルハイドロキノン、クロルハイドロキノン等のポリヒドロキシベンゼン類、アスコルビン酸及びその誘導体、1−フェニル−4,4−ジメチル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4−メチル−4−ヒドロキシメチル−3−ピラゾリドン等の3−ピラゾリドン類、パラメチルアミノフェノール、パラアミノフェノール、パラヒドロキシフェニルグリシン、パラフェニレンジアミン等が挙げられる。これらの還元剤は単独で、または複数組み合わせて使用することができる。
【0056】
可溶性銀錯塩形成剤の含有量は、現像液1Lあたり、0.001〜5モルが好ましく、より好ましくは0.005〜1モルの範囲である。還元剤の含有量は現像液1Lあたり0.01〜1モルが好ましく、より好ましくは0.05〜1モルの範囲である。
【0057】
現像液のpHは10以上が好ましく、更に11〜14が好ましい。所望のpHに調整するために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ剤、リン酸、炭酸などの緩衝剤を単独、または組み合わせて含有させる。また、本発明の現像液には、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸カリウム等の保恒剤を含むことが好ましい。
【0058】
本発明における酵素処理において用いる酵素はハロゲン化銀乳剤層等を構成するゼラチンのようなタンパク質に作用できるタンパク質分解酵素を用いる。タンパク質分解酵素は、植物性または動物性酵素で公知のものが用いられる。例えば、ペプシン、レンニン、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン、パパイン、フィシン、トロンビン、レニン、コラゲナーゼ、ブロメライン、細菌プロテアーゼ(例えば、長瀬産業社製のビオプラーゼ)等が挙げられる。この中でも特に、トリプシン、パパイン、フィシン、細菌プロテアーゼが好ましい。
【0059】
本発明における酵素処理において酵素処理液には上記酵素単独で用いても良いし、複数を混合して使用しても良い。酵素処理液中の酵素の含有量は、0.5〜50g/L程度が適当である。酵素処理液のpHは使用する酵素に応じて異なり、例えば細菌プロテアーゼの中でもアルカリ性プロテアーゼを用いる場合その最適pHは8〜10であるのに対し、中性プロテアーゼを用いると6〜7となる。従って、酵素の最適pHに応じた緩衝剤を酵素処理液に含有させることが好ましい。また酵素処理液はその他にも界面活性剤、消泡剤、防カビ剤、キレート剤、酵素の活性を維持させるためのタンパク質や糖類、増粘剤、凝集剤などを含有させることができる。本発明における酵素処理の温度も酵素に応じて異なるが、あまり温度が高いと連続処理で酵素処理液の蒸発濃縮などの問題が発生するので30〜45℃が好ましい。処理時間は5〜180秒、好ましくは30〜60秒である。
【0060】
本発明における酵素処理は導電性材料前駆体を酵素処理液に浸漬、あるい塗布するなどして処理する事ができる。あるいは酵素処理液をジェット方式で吹き付ける方法、または処理液を吹き付けながらスクラブローラで導電性材料前駆体を擦る方法などを用いる事も可能である。
【0061】
本発明における酵素処理は前述の現像処理後のいかなる時期に実施しても良い。例えば、現像処理後、物理現像核層上の層を水洗除去などした後、酵素処理することができる。また、現像処理後、酵素処理液で物理現像核層上の層を除去しながら、同時に酵素処理することもできる。更に、後述するめっき処理や後処理を施した後、酵素処理することもできる。
【0062】
本発明における酵素処理が終った導電性材料は洗浄される。導電性材料の洗浄は水洗のみでも良いし、さらには酵素の阻害物質、例えば重金属イオン、キレート剤、4級アミン類など、酵素を失活させる洗浄液を用いる事もできる。あるいは酵素が失活するだけの温度の水で洗浄する事も好ましい。
【0063】
前記露光、現像処理により形成された導電性材料の銀画像部にさらに高い導電性を得るためや、あるいは銀画像の色調を変えるためなどの種々の目的でめっき処理を行うことが可能である。本発明におけるめっき処理としては、無電解めっき(化学還元めっきや置換めっき)、電解めっき、又は無電解めっきと電解めっきの両方を用いることができる。めっき処理は、現像処理後、物理現像核層上の層を水洗除去などした後であれば、酵素処理の前に実施しても良いし、酵素処理の後に実施しても良い。
【0064】
また、前記導電性材料の銀画像は後処理を施すこともできる。後処理液としては例えば還元性物質、水溶性リンオキソ酸化合物、水溶性ハロゲン化合物などの水溶液が一例としてあげられる。このような後処理液により50〜70℃、更に好ましくは60〜70℃で10秒以上、好ましくは30秒〜3分処理することで、銀画像パターンのX線回折による2θ=38.2°での半値幅が0.35以下となるようにすれば、非常に高い導電性を得ることができ、また高温高湿下でもその抵抗値が変動しなくなるので好ましい。後処理は、現像処理後、物理現像核層上の層を水洗除去などした後であれば、酵素処理の前に実施しても良いし、酵素処理の後に実施しても良い。
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、無論この記述により本発明が制限されるものではない。
【実施例1】
【0066】
導電性材料前駆体を作製するために、透明支持体として、厚み100μmで塩化ビニリデンを主体とする易接着層を有するポリエチレンテレフタレートベースを用いた。この支持体の上に下記組成の下引き処方に従い塗液を作製し、ポリエチレンテレフタレートベース上に塗布、乾燥した後、50℃で1日加温し、下引き層塗布済みベースを得た。
【0067】
<下引き処方1/1m2あたり>
ハイドランWLS210(大日本インキ化学工業社製ポリカーボネート系ウレタンラテックス)
1.6g(固形分0.56g)
エポミンSP−200(日本触媒社製ポリエチレンイミン)
0.2g
デナコールEX614(ナガセケムテックス社製ソルビトールポリグリシジルエーテル/架橋剤) 5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【0068】
【化1】

【0069】
次に、硫化パラジウムゾル液を下記の様にして作製し、得られたゾルを用いて物理現像核液を作製した。
【0070】
<硫化パラジウムゾルの調製>
A液 塩化パラジウム 5g
塩酸 40mL
蒸留水 1000mL
B液 硫化ソーダ 8.6g
蒸留水 1000mL
A液とB液を撹拌しながら混合し、30分後にイオン交換樹脂の充填されたカラムに通し硫化パラジウムゾルを得た。
【0071】
<物理現像核液組成/1m2あたり>
前記硫化パラジウムゾル 0.4mg
2質量%のグルタルアルデヒド溶液 0.08mL
【0072】
この物理現像核層塗液を前記下引き層塗布済みベースの下引き層上に塗布し、乾燥した。
【0073】
続いて、上記物理現像核層を塗布した側と反対側の面に下記組成の裏塗り層を塗布した。
<裏塗り層組成/1m2あたり>
ゼラチン 2g
不定形シリカマット剤(平均粒径5μm) 20mg
染料1 200mg
界面活性剤(S−1) 400mg
【0074】
【化2】

【0075】
続いて、支持体に近い方から順に下記組成の中間層、ハロゲン化銀乳剤層、及び最外層を上記物理現像核層の上に塗布した。ハロゲン化銀乳剤は、写真用ハロゲン化銀乳剤の一般的なダブルジェット混合法で製造した。このハロゲン化銀乳剤は、塩化銀95モル%と臭化銀5モル%で、平均粒径が0.15μmになるように調製した。このようにして得られたハロゲン化銀乳剤を定法に従いチオ硫酸ナトリウムと塩化金酸を用い金イオウ増感を施した。こうして得られたハロゲン化銀乳剤は銀1gあたり0.5gのゼラチンを含む。
【0076】
<中間層組成/1m2あたり>
ゼラチン 0.5g
界面活性剤(S−1) 5mg
【0077】
<ハロゲン化銀乳剤層組成/1m2あたり>
ゼラチン 0.5g
ハロゲン化銀乳剤 3.0g銀相当
1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール 3.0mg
界面活性剤(S−1) 20mg
【0078】
<最外層組成/1m2あたり>
ゼラチン 1g
不定形シリカマット剤(平均粒径3.5μm) 10mg
界面活性剤(S−1) 10mg
【0079】
このようにして得た導電性材料前駆体を、水銀灯を光源とする密着プリンターで400nm以下の光をカットする樹脂フィルターを介し、細線幅20μmで格子間隔300μmの網目パタンの透過原稿を密着させて露光した。
【0080】
その後、先に露光した導電性フィルム前駆体を下記現像液中に20℃で60秒間浸漬した後、続いてハロゲン化銀乳剤層、中間層、最外層および裏塗り層を40℃の温水で水洗除去し、乾燥処理した。露光したサンプルからは網目パタン状に銀薄膜が形成された導電性材料を得た。
【0081】
<拡散転写現像液組成>
水酸化カリウム 25g
ハイドロキノン 18g
1−フェニル−3−ピラゾリドン 2g
亜硫酸カリウム 80g
N−メチルエタノールアミン 15g
臭化カリウム 1.2g
全量を水で1000mLとする。
pH=12.2に調整する。
【0082】
得られた導電性材料を下記酵素処理液に40℃30秒浸漬して酵素処理し、その後40℃の温水で10秒水洗した。
【0083】
<酵素処理液処方>
トリエタノールアミン 20g
りん酸 5g
ビオプラーゼAL−15(中性プロテアーゼ:タンパク質分解酵素、長瀬産業社製)
1g
水を加えて全量を1000mLに調整する。pHは7.4に調整した。
【0084】
上記のようにして得られた網目パターン状銀薄膜が形成された導電性材料を下記の評価を実施した。
【0085】
(1)表面抵抗率
JIS−K7194に準拠し、ダイアインスツルメンツ社製、ロレスターGP/ESPプローブを用いて測定した。この結果を表1に示す。
【0086】
(2)支持体と画像との接着性
導電性材料の網目パターン状に銀薄膜が形成された面に、日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31を金属メッシュ面に気泡の入らないように貼り付け、その後勢いよくテープを剥がし剥離テストを行った。剥離テストの評価は目視で行い5段階で評価した。全く剥離しないものを○、全面剥離したものを×、その中間を3段階に分割し、良い方から○△、△、△×とした。この結果を表1に示す。
【0087】
(3)機能性層(紫外線吸収層)と画像との接着性
(2)で△以上の評価が得られた試料のみ試験を実施した。((2)で△×以下の試料は画像と支持体との接着性が不十分なため、機能性層と画像との接着性が確認できなかった。)導電性材料の網目パターン状に銀薄膜が形成された面に、紫外線吸収剤(日本触媒社製、ハルスハイブリッドUV−G101)を、#8ワイヤーバーを用いて塗布し、50℃で2分間乾燥し溶剤を除去し、厚み3μmの紫外線吸収層を有する導電性材料を得た。紫外線吸収層と導電性材料との接着性を確認するために、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて、紫外線吸収層を貫通して支持体に達する100個のマス目状の切り傷を紫外線吸収層面につける。次いで、セロハン粘着テープ(ニチバン社製、405番:24mm幅)をマス目状の切り傷面に貼り付け、消しゴムでこすって完全に付着させる。その後、垂直にセロハン粘着テープを紫外線吸収層面から引き剥がして、導電性材料の紫外線吸収層面から剥がれたマス目の数を目視で数え、10マス以下は○、11〜30マスは○△、31〜50マスは△、51〜70マスは△×、71マス以上は×とした。表面抵抗率、支持体と画像との接着性、機能性層(紫外線吸収層)と画像との接着性の結果を表1に示す。
【実施例2】
【0088】
下引き処方1を下記の下引き処方2に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0089】
<下引き処方2/1m2あたり>
ハイドランWLS210 1.6g
エポミンSP−200 0.2g
ゼラチン 0.03g
デナコールEX614 5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【実施例3】
【0090】
下引き処方1を下記の下引き処方3に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0091】
<下引き処方3/1m2あたり>
ハイドランWLS210 1.6g
エポミンSP−200 0.2g
ゼラチン 0.07g
デナコールEX614 5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【0092】
(比較例1)
下引き処方1を下記の下引き処方4に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0093】
<下引き処方4/1m2あたり>
ハイドランWLS210 1.6g
エポミンSP−200 0.2g
ゼラチン 0.11g
デナコールEX614 5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【実施例4】
【0094】
下引き処方1を下記の下引き処方5に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0095】
<下引き処方5/1m2あたり>
ハイドランWLS210 1.6g
PVA235(クラレ社製88%部分ケン化PVA、重合度3500)
0.2g
デユラネートWB40−100(旭化成社製イソシアネート型架橋剤)
5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【実施例5】
【0096】
下引き処方1を下記の下引き処方6に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0097】
<下引き処方6/1m2あたり>
モビニール880(ニチゴー・モビニール社製スチレンアクリル共重合体)
1.2g(固形分0.56g)
PVA235 0.2g
ゼラチン 0.03g
デユラネートWB40−100 5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【実施例6】
【0098】
下引き処方1を下記の下引き処方7に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0099】
<下引き処方7/1m2あたり>
ビニゾール1083(大同化成工業社製アクリル共重合体)
3.3g(固形分0.56g)
ゼラチン 0.03g
デナコールEX614 5mg
界面活性剤(S−1) 3mg
【0100】
(比較例2)
酵素処理を実施しなかった以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【実施例7】
【0101】
酵素処理後の導電性材料を水洗に引き続き、5質量%に希釈したクリーナー160(メルテックス社製脱脂液)で60℃1分脱脂処理し、その後Cu5100番無電解銅めっき液(メルテックス社製)で50℃12分無電解めっきを施した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0102】
(比較例3)
下引き処方1を下引き処方4に変更した以外は、実施例7と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【実施例8】
【0103】
現像処理後、物理現像核層上の層を水洗除去した後、5質量%に希釈したクリーナー160(メルテックス社製脱脂液)で60℃1分脱脂処理し、その後Cu5100番無電解銅めっき液(メルテックス社製)で50℃12分無電解めっきを施し、引き続いて酵素処理、水洗処理を行った以外は、実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【実施例9】
【0104】
酵素処理液中のりん酸量の減量でpHを9.0に調整し、タンパク質分解酵素をオリエンターゼ22BF(アルカリ性プロテアーゼ:タンパク質分解酵素、エイチビィアイ社製)に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し評価を実施した。この結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
以上の結果から、画像と機能性層との接着性が良好な導電性材料であり、かつ支持体と画像との接着性が良好な金属パターンを有する導電性材料の製造方法である本発明の有効性が理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体を像様に露光し、その後、現像処理により金属銀を析出させる導電性材料の製造方法において、該導電性材料前駆体が支持体と物理現像核層との間に実質的にタンパク質を含有しない下引き層を有し、現像処理後に酵素処理することを特徴とする導電性材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−87615(P2009−87615A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253514(P2007−253514)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】