説明

導電性高分子コンデンサ用電解質の形成方法

【課題】低ESR、低い漏れ電流および高容量の全てを満足する導電性高分子電解質の形成方法およびその電解質を備えた導電性高分子コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】次の(1a)工程および(2a)工程を含み、(1a)工程および/または(2a)工程はイオン液体存在下で行なわれる、導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法:(1a)導電性高分子モノマーをin situ重合する工程、(2a)前記(1a)工程後、導電性高分子分散液(B)を含浸させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低ESR、低い漏れ電流、大容量を兼ね備えた導電性高分子コンデンサ用電解質の形成方法及び前記電解質を備えた導電性高分子コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性高分子を電解質として用いた固体電解コンデンサは、その優れたESR特
性により市場を拡大しつつある。固体電解コンデンサは、典型的には、固体であるポリピロールあるいはポリチオフェン誘導体等の導電性高分子を電解質として用いたものであり、これらの導電性高分子は、従来の液体を電解質として用いた電解コンデンサと比べてその電気伝導度(すなわち電子伝導性)がはるかに高く、特に高周波回路用コンデンサとして優れた特性を発揮する。また固体電解コンデンサには、上記の低ESRに加え、漏れ電流の低減や大容量化の特性が併せて要求されている。
【0003】
これらの問題解決の取り組みとして、特許文献1においては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、EDOTと略す。)の化学重合によって得られるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOTと略す。)を固体電解質に適用し、外層被覆にポリマー粒子を含む分散物を適用することで、低ESRと漏れ電流の低減が実現するとの報告がなされている。また特許文献2においては、特許文献1における固体電解質の形成条件に関してさらなる検討が行なわれ、電解質と外層被覆ポリマーの接着性向上により特性向上がなされている。続いて特許文献3、特許文献4においては、特許文献2に関してさらなる検討により外層被覆に適用するポリマー粒子径の検討が行なわれ、外層のポリマーによる被覆率を向上させることで、特性向上がなされている。
【0004】
しかしながら、何れの方法においても、電解質として使用するポリマーが固体であるため、電極細孔部への電解質の充填が不十分であり、結果として容量向上に関しては、市場要求に満足する特性が得られておらず、低ESR、低い漏れ電流、高容量の全てを満足する電解質の形成方法ならびに、その製法で得られるコンデンサが切望されている。
【0005】
また特許文献1〜4の取り組みは、タンタルやニオブの焼結体素子を意図した取り組みであり、アルミなどに代表される捲回型素子への適用に関しては触れられておらず、捲回型素子においては焼結体で得られた結果が再現しない可能性が指摘されていた。
【0006】
この様な課題を解決するために、本発明者らはイオン液体が従来の電解液と同様に振る舞う事を期待し、既にイオン液体と導電性高分子とからなる電解質を用い、捲回型の導電性高分子コンデンサに関しても、容量発現率を向上させられることを明らかにしている(特許文献5)。しかしながら低ESR、低い漏れ電流、高容量を満足するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−123630号公報
【特許文献2】特開2005−322917号公報
【特許文献3】特開2006−295184号公報
【特許文献4】特開2007−27767号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/088033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は低ESR、低い漏れ電流および高容量の全てを満足する導電性高分子電解質の形成方法およびその電解質を備えた導電性高分子コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記に鑑み鋭意検討を行った結果、導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成において、導電性高分子モノマーをin situ重合する工程およびin situ重合後に導電性高分子分散液を含浸させる工程の少なくとも一方をイオン液体存在下で実施すると、低ESR、低い漏れ電流および高容量の全てを満足する電解質を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] 次の(1a)工程および(2a)工程を含み、(1a)工程および/または(2a)工程はイオン液体存在下で行なわれる、導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法:
(1a)導電性高分子モノマーをin situ重合する工程、
(2a)前記(1a)工程後、導電性高分子分散液(B)を含浸させる工程、
[2] さらに、(1b)洗浄を行う工程を、前記(1a)工程および前記(2a)工程の間に、含む、上記[1]に記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
[3] in situ重合が化学重合および/または電解重合である、上記[1]又は[2]に記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
[4] 導電性高分子モノマーが、チオフェン、チオフェンの誘導体、ピロール、ピロールの誘導体、アニリンおよびアニリンの誘導体からなる群から選ばれるすくなくとも一種である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
[5] 導電性高分子分散液(B)に含まれる導電性高分子(D)が、チオフェン、チオフェンの誘導体、ピロール、ピロールの誘導体、アニリンおよびアニリンの誘導体からなる群から選ばれるすくなくとも一種の重合による生成物である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
[6] イオン液体のアニオン成分がカルボキシレートアニオンである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法、
[7] イオン液体のカチオン成分が、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピロリニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、トリアゾニウムイオン、トリアジニウムイオン、トリアジンイオン、キノリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、インドリニウムイオン、キノキサリニウムイオン、ピペラジニウムイオン、オキサゾリニウムイオン、チアゾリニウムイオン、モルフォリニウムイオン、ピペラジンイオン及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法、
[8] 上記[1]〜[7]のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法を含む、導電性高分子アルミ電解コンデンサの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製法によれば、導電性高分子アルミ電解コンデンサに適した、低ESR、低い漏れ電流および高容量の全てを満足する電解質を得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インピーダンス測定に用いた水銀セルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
まず、本発明の(1a)工程、すなわち、導電性高分子モノマーを含む溶液(A)を用いたin situ重合について説明する。
【0015】
本発明の(1a)工程は、コンデンサ素子内に電解質を形成する第一段階の手法であり、電解質である導電性高分子を電極の細孔内に充填させることを目的に行なう。
【0016】
本発明においては、(1a)工程はイオン液体存在下で実施されることがある。
【0017】
イオン液体は、常温溶融塩ともいわれ、イオンのみから構成されているにも関わらず常温で液体であるものを指し、イミダゾリウムなどのカチオンと適当なアニオンの組み合わせから構成される。イオン液体は、通常の有機溶媒のように一部がイオン化・解離しているのではなく、イオンのみから形成され100%イオン化していると考えられている。上述のように、通常イオン液体は常温で液体であるものをいうが、本発明で用いるイオン液体は必ずしも常温で液体である必要はなく、コンデンサのエージング処理、または熱処理時に液体となって電解質全体に広がり、誘電酸化皮膜修復時にその発生するジュール熱によって液体となるものであればよい。
【0018】
本発明において使用できるイオン液体としては、特に制限されるものではないが、アニオンがカルボキシレートアニオン、スルホン酸アニオン、アルコキシスルホン酸アニオン、フルオロ臭素アニオン、フルオロホウ素アニオン等であるイオン液体が挙げられる。中でも寿命特性、容量特性の観点から、アニオンがカルボキシレートアニオンであるイオン液体を好ましく用いることができる。より具体的には、ギ酸アニオンを有するイオン液体および/または一般式(1);
【0019】
【化1】

【0020】
で表されるアニオンを有するイオン液体を用いることができる。前記式(1)で表されるアニオンは後述するカチオンと対になって常温で液体の塩、すなわちイオン液体を形成する。
【0021】
前記式(1)においてR1およびR2は、それぞれ独立に水素原子、保護または無保護の水酸基、保護または無保護のアミノ基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよく置換基を有していてもよいC1〜C20のアルキル基、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよく置換基を有していてもよいC2〜C20のアルケニル基、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよく置換基を有していてもよいC2〜C20のアルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜C20のアリール基、置換基を有していてもよいC4〜C20のヘテロアリール基、置換基を有していてもよいC7〜C20のアラルキル基、置換基を有していてもよいC4〜C20のヘテロアラルキル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよく、また一緒になって環を形成してもよい。
【0022】
なお、本発明において「置換基を有していてもよい」とは、他の原子あるいは置換基によって置換されていてもよいことを示す。「置換基」とは、反応に悪影響を与えない限り特に限定されるものではなく、具体的には、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0023】
直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよく置換基を有していてもよいC1〜C20のアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えばメチル基、ヒドロキシメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、などを挙げることができ、またこれらのアルキル基の水素原子が任意の数だけフッ素原子で置換されたものを挙げることができる。
【0024】
直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよく置換基を有していてもよいC2〜C20のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、スチリル基、イソプロペニル基、シクロプロペニル基、ブテニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
【0025】
直鎖または分岐もしくは環を形成していても良く置換基を有していてもよいC2〜C6のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、フェニルエチニル基、シクロプロピルエチニル基、ブチニル基、ペンチニル基、シクロブチルエチニル基、ヘキシニル基などが挙げられる。
【0026】
置換基を有していても良いアリール基としては、例えば、フェニル基,ナフチル基,アントリル基、フェナントリル基、テルフェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0027】
置換基を有していても良いヘテロアリール基としては、例えば、ピロリニル基、ピリジル基、キノリル基、イミダゾリル基、フリル基、インドリル基、チエニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、2−フェニルチアゾリル、2−アニシルチアゾリル基などが挙げられる。
【0028】
置換基を有していても良いアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、サリチル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェネチル基、α−ヒドロキシフェネチル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基、3,5−ジフルオロベンジル基、トリチル基などが挙げられる。
【0029】
置換基を有していても良いヘテロアラルキル基としては、ピリジルメチル基、ジフルオロピリジルメチル基、キノリルメチル基、インドリルメチル基、フルフリル基、チエニルメチル基などが挙げられる。
【0030】
1とR2が一緒になって環を形成していてもよく、シクロヘキシル基、フェニル基などが例示される。
【0031】
1または/およびR2が水酸基あるいはアミノ基である、または置換基として水酸基またはアミノ基を有する場合には、水酸基またはアミノ基は保護されていても無保護でもよく、保護されている場合には保護基は特に制限されるものではないが、例えば一般的な保護基を使用すればよく、例えば「PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS THIRD EDITION」(17ページ WILEY−INTERSCIENCE)記載のものが挙げられる。水酸基の保護基としては、具体的には、メチル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのエーテル系保護基や、アセチル基、クリロアセチル基などのエステル系保護基を挙げることができる。またアミノ基の保護基としてはベンジル基、トリチル基、ホルミル基、アセチル基、クロロアセチル基、テトラクロロアセチル基、テトラフルオロアセチル基、ベンゾイル基、フェニルアセトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。導入及び脱保護の容易さの観点から、上記の群の中で好ましくは、ベンジル基、トリチル基、ホルミル基、アセチル基、クロロアセチル基、テトラクロロアセチル基、テトラフルオロアセチル基、ベンゾイル基、フェニルアセトキシ基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基である。
【0032】
イオン液体のカチオン成分としては、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよび誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジンおよびその誘導体、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体が挙げられるが、アミノ酸とから得られるイオン液体が比較的低いTgを示すことから、イミダゾリウム誘導体が好ましく、イミダゾリウム誘導体としてはジエチルイミダゾリウム、エチルブチルイミダゾリウム、ジメチルイミダゾリウムが好ましく、特に好ましくはエチルメチルイミダゾリウム、メチルブチルイミダゾリウムである。
【0033】
本発明においては、これらイオン液体を一種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0034】
イオン液体は、イオン伝導性はあるが電子伝導性を有さないため、コンデンサ電解質においては絶縁体として振舞う。よって、あまりに多くのイオン液体を添加するとESR特性が悪化する傾向があるため、使用されるイオン液体の総量は導電性高分子モノマーに対して5モル当量以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.01モル当量以上3モル当量以下である。さらに、容量向上を考慮に入れると、好ましくは導電性高分子モノマー:イオン液体=1:0.1〜2(モル比)であり、イオン液体が0.1以上であると容量向上に関して効果が顕著となり始め、添加量が増えるに従い効果は顕著となる場合がある。一方1以上であればESR特性の悪化が大きくなる場合があるので、イオン液体/導電性高分子モノマーの比は、容量向上の観点から好ましくは0.1以上、低ESRの観点から、好ましくは1以下である。
【0035】
本発明において用いられる導電性高分子モノマーとしては、特に制限されるものではないが、ポリマー形成時の導電性が高く、かつ空気中で安定であることから、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、アニリンまたはその誘導体、キノンまたはその誘導体、キノリンまたはその誘導体、フランまたはその誘導体から選ばれることが好ましい。これら導電性高分子モノマーは一種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
チオフェンの誘導体としては、例えば、EDOT、3−アルキルチオフェン(アルキル基としてはブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基など)、3−フルオロフェニルチオフェン、3−アリールチオフェンなどを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
ピロールの誘導体としては、ピロール骨格を有し、水酸基、カルボキシル基、アルキル基等の置換基を持つものなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
アニリンの誘導体としては、アニリン骨格にアルキル基、シアノ基、スルホン基、カルボキシル基を有するものなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
キノンの誘導体としては、置換基を有するベンゾキノンや、置換基を有するナフトキノンや、置換基を有するアントラキノンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明においては、チオフェン誘導体およびピロールが好ましく、特に、EDOTまたはピロールが導電性、耐熱性の点で好ましく用いられる。
【0039】
本発明におけるin situ重合とは、化学重合と電解重合を指す。
【0040】
まず化学重合による方法について説明する。化学重合法は、適切な酸化剤の存在下で、例えばピロールなどの導電性高分子モノマーを重合し合成する方法である。
【0041】
本発明において用いられる酸化剤としては、例えばパラトルエンスルホン酸第二鉄、ナフタレンスルホン酸第二鉄、n−ブチルナフタレンスルホン酸第二鉄、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄、過硫酸塩、過酸化水素、ジアゾニウム塩、ハロゲン及びハロゲン化物、あるいは鉄、銅、マンガン等の遷移金属塩が使用できる。化学重合により合成された導電性高分子は、酸化剤のアニオンがドーパントとして重合過程でポリマー中に取り込まれることにより、一段階の反応で導電性を有するポリマーを得る事ができることから、ドーパントとしての移動度の高いパラトルエンスルホン酸イオンを含むパラトルエンスルホン酸第二鉄を酸化剤として用いることが好ましい。
【0042】
化学重合の場合、導電性高分子モノマー及びイオン液体を含有する溶液に酸化剤を加えることが好ましい。イオン液体存在下で化学重合を行うと、液体成分が細孔内に充填され易くなり、容量発現率が向上する。
【0043】
化学重合の重合条件は公知の重合条件で良く、温度範囲は−50℃〜200℃で、特に好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、1分〜24時間であり、特に好ましくは1分〜5時間である。また、該重合は複数回繰り返してもよい。
【0044】
次に導電性高分子モノマーを含む溶液(A)を用いたin situ重合を電解重合で行う方法について説明する。電解重合法とは、導電高分子モノマーを溶媒に溶解し、陽極酸化することにより導電性高分子を脱水素重合する方法である。電解重合は、例えば、ピロールモノマーを支持電解質と共に溶媒に溶解し、陽極酸化する事により脱水素重合する方法で、陽極上に導電性高分子であるポリピロールを析出させることができる。一般的に、ポリマーの酸化還元電位はモノマーに比べて低いため、重合過程でさらにポリマー骨格の酸化が進み、それに伴って支持電解質のアニオンがドーパントとしてポリマー中に取り込まれる。電解重合においては、こうしたメカニズムにより、後でドーバントを加えなくても、導電性を有するポリマーが得られるという利点がある。本発明に用いられる支持電解質としては、アンモニウム塩、アミン塩、四級アンモニウム塩、三級アミンおよび有機酸、イミダゾリウム塩、などが好ましい。
【0045】
イオン液体存在下で電解重合を行うと、イオン液体が細孔内に導入された状態でポリマー形成がなされるため、イオン液体を含まない場合に比べ、容量発現率向上が期待できる。そのためイオン液体を添加することが好ましい。電解重合法で導電性高分子を合成する場合には、弁金属上の酸化皮膜が誘電体なので、その誘電体上にあらかじめ導電性の皮膜を形成して導電化しておき、給電電源から電流または電圧を印加して電解重合を行う。この様な目的に用いられる導電性皮膜としては化学重合により合成された導電性高分子や熱分解二酸化マンガンなどを用いる事ができる。
【0046】
重合溶媒としては公知のもので良く、特に限定されるものではない。例えばメタノール、エタノール、ブタノール、ジエチレングリコール、2−プロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、THF、DMF、アセトニトリル、DMSO、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ヘキサン、トルエン、クロロホルムなどが挙げられ、イオン液体および導電性高モノマー分子との相溶性の観点から、特に好ましくはブタノールである。
【0047】
次に、導電性高分子分散液(B)を含浸させ電解質を形成させる工程について説明する。
【0048】
(2a)工程は、(1a)工程のin situ重合、電解質表面の平滑化、電極のエッジを密に被覆するために行なう。
【0049】
導電性高分子分散液(B)に含まれる材料としては、導電性高分子(D)、導電性高分子(D)のドーパントアニオン、結合剤、分散溶媒、イオン液体を挙げることができる。
【0050】
導電性高分子(D)としては、特に限定されないが、チオフェン、チオフェンの誘導体、ピロール、ピロールの誘導体、アニリンおよびアニリンの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種の重合による生成物であることが好ましい。中でも、安定性及び耐熱性の観点からチオフェンの誘導体の重合物が好ましく、PEDOTが、導電性ポリマーとして最も好ましい。ここで、チオフェンの誘導体、ピロールの誘導体およびアニリンの誘導体としては、上記導電性高分子モノマーと同一のものが使用できる。
【0051】
導電性高分子(D)のドーパントアニオンは、導電性高分子(D)の対アニオンとして導電率確保のために不可欠な材料である。ポリマー性アニオン、モノマー性のアニオンが使用できるが、耐熱性および導電率の観点からポリマー性アニオンが好ましく、その中でもポリマーカルボン酸、またはポリマースルホン酸のアニオンが好ましく、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと略す。)が最も好ましい。
【0052】
結合剤はin situ重合で形成された電解質層とポリマー外層が効果的に接着されるために重要となる。好ましい材料として有機結合剤であるポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミドや架橋剤であるメラミン化合物、官能性シランや架橋性ポリマーであるポリウレタン、ポリアクリレートがあげられる。導電性高分子分散液(B)中の結合剤の量は、接着性を考慮すると数%〜10%程度が好ましい。
【0053】
分散溶媒としては、水またはメタノール、エタノール、ブタノールに代表されるアルコール、水とこれらアルコールとの混合物を用いる事ができ、特に好ましい分散溶媒は水である。
【0054】
工程(2a)はイオン液体存在下で実施されることがある。例えば、導電性高分子分散液(B)にイオン液体を含ませると、固体である導電性高分子よりもイオン液体の方が前工程のin situ重合で形成された電解質層の隙間から内部に入り電解質の空隙や素子細孔部に侵入しやすいので、容量が高くなる利点がある。
【0055】
使用されるイオン液体の量は特に制限されるものではないが、多くのイオン液体を添加するとESR特性が悪化する傾向がある。そのため、導電性高分子分散液(B)にイオン液体を添加する形態では、添加されるイオン液体の総量は、導電性高分子分散液(B)およびイオン液体の総量100重量%に対して20重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.01重量%以上10重量%以下である。さらに、容量向上を考慮に入れると、導電性高分子分散液(B)におけるイオン液体の量は、好ましくは導電性高分子分散液(B)の0.05重量%以上5重量%以下である。イオン液体が0.05重量%以上であると容量向上に関して効果が顕著となり始め、添加量が増えるに従い効果は顕著となる傾向がある。一方、5重量%以上であればESR特性の悪化が大きくなる傾向があるので、導電性高分子分散液(B)に対するイオン液体の重量は、容量向上の観点から好ましくは0.05重量%以上、低ESRの観点から、好ましくは5重量%以下である。
【0056】
当該工程はチップ型、捲回型の何れの素子にも適用可能である。チップ型についてはエッジ面の被覆や、焼結体外面の平滑化により低ESR、低い漏れ電流が期待できる。一方で捲回型については、エッジ面の被覆、電極表面の平滑化に加え、洗浄で発生した空隙内へのポリマーの充填がチップ型よりも顕著となるため低ESR、低い漏れ電流に加え、高容量化が期待できる。
【0057】
本発明では、工程(1a)と工程(2a)との間に、(1b)洗浄工程を行なっても良い。洗浄工程とは、化学重合及び/または電解重合によって得られた電解質を水及び/又は有機溶媒で洗浄する工程を指す。ここで言う洗浄とは、特に限られないが、水及び/又は有機溶媒中に、室温〜80℃の間で1分間〜1時間浸漬させ撹拌することが好ましい方法として挙げられる。使用する有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、アルコール系、エーテル系、二トリル系、ケトン系、アミド系、カーボネート系、エステル系、硫黄含有溶剤、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素系溶媒が挙げられ、これらの溶媒を二種以上用いてもよい。洗浄効果の観点からアルコール系を用いることが好ましく、特に好ましくはメタノール、エタノール、n−ブタノールである。
【0058】
洗浄工程では、重合工程で得られた電解質を水及び/又は有機溶媒で洗浄することで導電性高分子中に取り込まれていた導電性高分子モノマー及び/又は酸化剤の成分及び/又はイオン液体を溶出させることができる。本工程は低ESR特性や長寿命特性や高耐圧に障害となる鉄塩を除去できる効果が期待できる。これらが抜け出たために生じる空隙は、次に行なう(2a)工程の導電性高分子分散液(B)の含浸により埋められる。
【0059】
当該方法はチップ型、捲回型の何れの素子にも適用可能であるが、従来の製法において洗浄が適用されていない捲回型素子においては、特性向上に及ぼす影響が大きいため、大きな意味を持つ。この洗浄工程で得られた電解質を再度、導電性高分子モノマーを含む溶液(A)を用いてさらに電解質層を形成させても良い。
【0060】
次に本発明の電解質形成方法についてより詳細に説明する。尚、下記においての従来技術とはin situ重合の溶液(A)かつ導電性高分子分散液(B)の何れにもイオン液体を含まない溶液を用いて、電解質を形成する技術を指す。
【0061】
第一の製法として、in situ重合の溶液(A)にイオン液体を含まず、導電性高分子分散液(B)にイオン液体を含む実施形態が挙げられる。第一の製法では、in situ重合には従来技術との違いはないが、導電性高分子分散液(B)にイオン液体が入っていることにより、分散液(B)を用いての電解質の形成時に、固体である導電性高分子よりも、液体であるイオン液体がin situ重合により形成された電解質層の隙間に進入し易く、従来技術よりも容量が向上する。
【0062】
第一の製法において、in situ重合の後に洗浄工程を加えると、洗浄により鉄塩を含む絶縁物が除去され、電解質内に空隙が発現する。その後の導電性高分子分散液(B)での電解質形成において、絶縁物の替わりに導電性高分子及びイオン液体が充填される。充填された導電性高分子により、ESR特性が向上する。また発現した空隙や、素子細孔部には固体である導電性高分子よりも、液体であるイオン液体の方が進入し易いので、従来技術に洗浄を加えた製法よりも容量が向上する。このように第一の製法においては、洗浄工程を加えた場合がより好ましい。
【0063】
第二の製法として、in situ重合の溶液(A)にイオン液体を含み、導電性高分子分散液(B)にイオン液体を含まない実施形態が挙げられる。第二の製法では、in situ重合においてイオン液体を含む溶液を用いることで、電極との濡れ性が向上するため電極表面の細孔内まで重合溶液が含浸されるので、従来技術よりも容量が向上する効果が発現すると推定している。
【0064】
第二の製法において、in situ重合の後に洗浄工程を加えると、洗浄により鉄塩を含む絶縁物が除去され、電解質内に空隙が発現する。その後の導電性高分子分散液(B)での電解質形成において、絶縁物の替わりに導電性高分子が充填されるので、ESR特性が向上する。このように第二の製法においても、洗浄工程を加えた場合がより好ましい。
【0065】
第三の製法として、in situ重合の溶液(A)にイオン液体を含み、導電性高分子分散液(B)にもイオン液体を含む実施形態が挙げられる。第三の製法では、in situ重合においてイオン液体を含む溶液を用いることで、電極との濡れ性が向上するため電極表面の細孔内まで重合溶液が含浸されると推定している。また、導電性高分子分散液(B)にもイオン液体が入っており、導電性高分子分散液(B)を用いての電解質の形成時に、固体である導電性高分子よりも、液体であるイオン液体がin situ重合により形成された電解質層の隙間に進入し易いので、従来技術よりも容量が向上する。
【0066】
第三の製法において、in situ重合の後に洗浄工程を加えると、洗浄により鉄塩を含む絶縁物が除去され、電解質層に空隙が発現する。その後の導電性高分子分散液(B)での電解質形成において、絶縁物の替わりに導電性高分子及びイオン液体が充填される。充填された導電性高分子により、ESR特性が向上する。また発現した空隙や、素子細孔部には固体である導電性高分子よりも、液体であるイオン液体の方が進入し易いので、従来技術に洗浄を加えた製法よりも容量が向上する。
【0067】
第三の製法に関しては、in situ重合の溶液(A)および導電性高分子分散液(B)に共にイオン液体が含まれているため、in situ重合後の洗浄において過剰にイオン液体が流出した場合においても、その後の導電性高分子分散液(B)を使用する際に、イオン液体の充填が可能であり、第一の製法、第二の製法と比較して容量発現率向上の面で安定した効果が期待されるので好ましい。しかしながら、イオン液体量が多すぎると、ESR増大を招く恐れがあり、上述の通り配合に注意する必要がある。
【0068】
本発明の形成方法で製造される電解質が適用される、導電性高分子アルミ電解コンデンサは、高イオン伝導性領域を設けた電解質層を用いて形成され、電解質層と、該電解質層を挟んで対向するように配置される陽極及び陰極と、を少なくとも備える。本発明の電解質は、捲回型、積層型の導電性高分子アルミ電解コンデンサに形成され得る。捲回型の導電性高分子アルミ電解コンデンサは、典型的には、表面に誘電体膜が形成された陽極、セパレータ、陰極を捲回した素子に、電解質として導電性高分子を充填した構成である。一方、積層型の導電性高分子アルミ電解コンデンサは、誘電体膜が形成された陽極表面に電解質を充填した陽極を例えばグラファイト層、銀ペースト層をこの順に重ね、銀ペースト層より陰極を引き出した構造である。
【0069】
本発明の導電性高分子アルミ電解コンデンサの陽極としては、導電性高分子コンデンサにおいて従来公知のものが好ましく使用でき、例えば陽極金属として、アルミニウムの電極箔の表面にエッチングを施してエッチング孔を形成したものを用い、該陽極金属の表面に陽極酸化等の方法によって形成された酸化被膜からなる誘電体膜を組合せることにより、陽極金属と誘電体膜とからなる陽極を形成できる。上記の陽極酸化は、陽極金属を例えばアジピン酸アンモニウム水溶液等に浸漬して化成電圧を印加することにより行うことができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は捲回型コンデンサを模擬した素子での結果であるが、これらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0071】
(イオン液体)イオン液体および塩の合成法または入手先を以下に述べる。
【0072】
・[emim][AcO](1−エチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート、アルドリッチ社製)
【0073】
【化2】

【0074】
・[emim][LA](1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ラクテート、アルドリッチ社製)
【0075】
【化3】

【0076】
・[emim][MA](1−エチル−3−メチルイミダゾリウム マンデレート)
【0077】
【化4】

【0078】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロジェンカーボネート 50%水溶液(6000mg、17.42mmol)0℃に冷却した。その後、マンデル酸(2615mg、17.42mmol)の水溶液をゆっくり滴下し、室温で1時間攪拌した。反応溶液をそのまま濃縮して溶媒を減圧下留去し、得られた残渣にジクロロメタンを加え、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去することで、目的化合物を薄褐色の油状物として4560mg得た。(収率100%)
1H NMR(CDCl3、300MHz)δ1.38(t、3H)、3.81(s、3H)、4.16(q、2H)、4.39(s、1H)、7.11−7.22(m、2H)、7.33−7.36(m、3H)、7.69(s、1H)、7.77(s、1H)、9.24(s、1H)
・[bmim][TFA](1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロアセテート、メルク社製)
【0079】
【化5】

【0080】
・[bmim][CA](1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム カプリレート)
【0081】
【化6】

【0082】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロジェンカーボネート 50%水溶液(5.00g、12.48mmol)0℃に冷却した。その後、カプリル酸(1.80g、12.48mmol)の水溶液をゆっくり滴下し、室温で1時間攪拌した。反応溶液をそのまま濃縮して溶媒を減圧下留去し、得られた残渣にジクロロメタンを加え、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去することで、目的化合物を黄色の油状物として2.20g得た。(収率62%)
1H NMR(CDCl3、300MHz)δ0.83−0.92(m、7H)、1.21−1.29(m、11H)、1.38(m、2H)、1.73−1.78(m、2H)、3.85(s、3H)、4.17(t、2H)、7.72(s、1H)、7.79(s、1H)、9.39(s、1H)
・[bmim][PA](1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム フェニルアセテート)
【0083】
【化7】

【0084】
クロマトカラム管にAmberlite IRA400(OH)(140mL)を加え、1NNaOH水溶液(2.5L)を流しAmberlite IRA400(OH)を活性化させた後、ろ液が中性になるまで純水(1.5L)を流した。1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(5.0g、28.63mmol)に純水(50mL)を加えて溶解させた後、これを先ほど活性化したAmberlite IRA400(OH)に通し、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液を得た。フェニル酢酸(3.9g、28.63mmol)に純水(200mL)とTHF(100mL)を加え、均一溶液にした後、これに1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液をゆっくり滴下し、0℃で12時間攪拌した。反応溶液をそのまま濃縮し、得られた残渣にアセトニトリル(90mL)とメタノール(10mL)を加えて0℃で30分間攪拌した。ろ液を濃縮して減圧加熱乾燥することで、目的化合物を薄黄色の油状物として8.0g得た。(収率100%)
1H NMR(DMSO−d6、300MHz)δ0.89(t、3H)、1.21−1.28(m、2H)、1.70−1.77(m、2H)、3.23(s、2H)、3.83(s、3H)、4.15(t、2H)、7.09−7.19(m、5H)、7.70(s、1H)、7.77(s、1H)、9.29(s、1H)
【0085】
<容量測定方法>
図1に示す水銀セルを用いて、容量の測定を行なった。装置には、日置電気社製のLCRメータ3522−50を用い、120Hzの容量値をデータとした。
【0086】
<ESR測定方法>
初期容量測定後、図1に示す水銀セルを用いて、ESRの測定を行った。日置電気社製のLCRメータ3522−50を用い、100kHzのESR値をデータとした。
【0087】
<漏れ電流測定方法>
ESR測定後、105℃雰囲気下において、100mV/secの条件で19Vまで昇電圧後、19Vにて1時間保持させた。続いて室温雰囲気において、100mV/secの条件で16Vまで昇電圧した後の2分後の電流値を測定し、当該データを漏れ電流と定義した。
【0088】
(実施例1)
アルミの酸化皮膜上にEDOT(H.C.Starck−V TECH社製)モノマーを含む溶液(A)の化学重合よって得られた導電性高分子電解質を形成し、洗浄後、イオン液体を含む導電性高分子分散液(B)中に浸漬させることで、導電性高分子アルミ電解コンデンサの作製を行った。
【0089】
すなわち、有効面積が10mm×10mmのアルミニウムエッチド箔を、1%アジピン酸アンモニウム水溶液に浸漬し、まず20mV/secの速度で0から45Vまで上げ、つづけて45Vの定電圧を40分間印加し、アルミニウムエッチド箔の表面に誘電体皮膜を形成した。次に、誘電体皮膜が形成されたアルミニウムエッチド箔を脱イオン水の流水により3分洗浄してから120℃で1時間乾燥を行った。この時得られたアルミエッチド箔の液中容量は25μFであった。電解質形成に用いるモノマー組成物は、乾燥されたガラス容器にEDOT0.3gを用いて、EDOTとイオン液体[bmim][AcO]をモル比=1:0.3となるように配合し10分間攪拌し、調整した。次に酸化剤としてパラトルエンスルホン酸鉄の40wt%1−ブタノール溶液を用い、上記EDOT/[emim][AcO]からなるモノマー組成物にパラトルエンスルホン酸鉄がEDOTに対し2モル当量となる量を加え、化学重合溶液を調製した。
【0090】
次に化学重合溶液中に得られたアルミエッチド箔を浸漬し、引き上げ後120℃で1時間加熱処理を行い、箔の表面に電解質を形成させた。
【0091】
次いで、水性ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)分散体(シグマアルドリッチ社製高導電率コーティングタイプ 分散物濃度1.3〜1.7重量%)90重量部、[emim][AcO]2重量部、DMSO 4重量部、ポリビニルアルコール4重量部からなる水性導電性高分子分散液中に浸し、80℃で15分間乾燥させた。この水性導電性高分子分散液中への浸漬、乾燥を3回行い電解質の形成を行った。
【0092】
その後、日本黒鉛商事社製のカーボンペースト「エブリオームT−30PLB」を塗布し150℃で30分乾燥後、デュポン社の銀ペースト「4922N」を塗布し150℃で30分乾燥させ、銅箔により陰極リードを取り出し、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。
【0093】
こうして得られた導電性高分子アルミ電解コンデンサを用いて容量、ESRおよび漏れ電流を測定した。結果を表1に示す。容量発現率は、コンデンサ容量を液中容量に対して規格化して換算した。なお結果はいずれも10個の電極の平均値である。結果を表1に示す。
(実施例2)
化学重合溶液(A)中にイオン液体を含まないようにした以外は、実施例1と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
(実施例3)
導電性高分子分散液(B)中にイオン液体を含まないようにした以外は、実施例1と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
(実施例4、7、10)
分散液(B)中のイオン液体を表1に示すイオン液体に変更し、さらにin situ重合の後にメタノール中に60分間浸漬させ、120℃で1時間加熱処理を行う洗浄工程加えた以外は、実施例1と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例5、8、11、13〜15)
導電性高分子分散液(B)中のイオン液体を表1に示すイオン液体に変更し、さらにin situ重合の後にメタノール中に60分間浸漬させ、120℃で1時間加熱処理を行う洗浄工程加えた以外は、実施例2と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例6、9、12)
化学重合溶液(A)中のイオン液体を表1に示すイオン液体に変更し、さらにin situ重合の後にメタノール中に10分間浸漬させ、120℃で1時間加熱処理を行う洗浄工程加えた以外は、実施例3と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
化学重合溶液(A)中のイオン液体を用いないようにした以外は、実施例3と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例2)
化学重合溶液(A)中のイオン液体を用いないようにした以外は、実施例6と同じ方法で、導電性高分子アルミ電解コンデンサを作製した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1a)工程および(2a)工程を含み、
(1a)工程および/または(2a)工程はイオン液体存在下で行なわれる、導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
(1a)導電性高分子モノマーをin situ重合する工程、
(2a)前記(1a)工程後、導電性高分子分散液(B)を含浸させる工程。
【請求項2】
さらに、(1b)洗浄を行う工程を、前記(1a)工程および前記(2a)工程の間に、含む、請求項1記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
【請求項3】
in situ重合が化学重合および/または電解重合である、請求項1又は2に記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
【請求項4】
導電性高分子モノマーが、チオフェン、チオフェンの誘導体、ピロール、ピロールの誘導体、アニリンおよびアニリンの誘導体からなる群から選ばれるすくなくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
【請求項5】
導電性高分子分散液(B)に含まれる導電性高分子(D)が、チオフェン、チオフェンの誘導体、ピロール、ピロールの誘導体、アニリンおよびアニリンの誘導体からなる群から選ばれるすくなくとも一種の重合による生成物である、請求項1〜4のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
【請求項6】
イオン液体のアニオン成分がカルボキシレートアニオンである、請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
【請求項7】
イオン液体のカチオン成分が、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピロリニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、トリアゾニウムイオン、トリアジニウムイオン、トリアジンイオン、キノリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、インドリニウムイオン、キノキサリニウムイオン、ピペラジニウムイオン、オキサゾリニウムイオン、チアゾリニウムイオン、モルフォリニウムイオン、ピペラジンイオン及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性高分子アルミ電解コンデンサ用電解質の形成方法を含む、導電性高分子アルミ電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−9568(P2011−9568A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152806(P2009−152806)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)