説明

工作機械および複合型の工作機械

【課題】省スペースかつ省エネルギー型のワークの搬送装置を備えた工作機械。
【解決手段】複数の工具Tを収納するマガジンMと、マガジンMから任意の工具Tを選択し、選択した工具Tと主軸11に装着された工具Tとの間で交換可能な工具交換機構と、ワークWを加工する際にワークWを保持する保持装置(5,51)と、主軸11とワークWとを相対移動させるための移動機構(2,3,4)と、を有する工作機械(1)であって、工作機械(1)に着脱可能に設けられ、ワークWを搬送方向に搬送するための搬送装置(6)と、マガジンMに収納され、工具交換機構により主軸11に着脱可能に装着されるワーク移送手段8と、を備え、ワーク移送手段8は、主軸11による回転力および移動機構(2,3,4)による移動力を利用してワークWを搬送方向へ搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械および複合型の工作機械に関し、特にワークの搬入搬出を行なうための搬送装置を備えたコンパクトな工作機械および加工ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の複雑な加工を要するワークに対して、複数の工作機械でラインを構成し、さらに、ワークの搬送装置を設けて各工程間の搬入搬出を行なうことで、生産性を高める加工ラインが知られている(特許文献1,2)。
例えば、特許文献1に開示された技術では、ワークの搬送を搬送方向の主軸の移動機構(X軸移動機構)を利用して行なうことで、特別な搬送装置を設ける必要がないため、簡易な構成を実現している。
また、特許文献2に開示された技術では、マシニングセンタのオートツールチェンジャを利用して、加工ツールとワークの把持具とを交換することで、工程間の仮置き場を不要にしてコンパクト化を実現している。
【特許文献1】特開平5−301140号公報、図5
【特許文献2】特開2005−46917号公報、明細書の段落0022〜0026
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、主軸ヘッドにワークの搬送具を固定しているため、主軸ヘッドを搬送方向のX軸方向に移動しなければならない。このため、ワークを加工するために必要な移動距離以上に、ワークを搬送するための移動距離を確保する必要が生じる。したがって、ワークを保持するテーブルの大きさに比較して、X軸方向の移動距離が大きくなり、搬送方向に対するスペース効率が悪くなるという問題点があった。
特許文献2に記載の技術においても、特許文献1と同様に主軸にワークの把持具を装着している。このため、各工程間を搬送する搬送ロボットをマシニングセンタの外側に別途配置しているため、マシニングセンタないし加工ラインの大型化を招き、設備費を増大させるおそれがある。
また、加工設備の大型化は、切り粉やクーラントによる汚染、およびその回収処理等の付帯設備の大型化を招くだけではなく、クーラント等の消耗品の使用量が増大し、環境保護および衛生面でも弊害が危惧されていた。
【0004】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、省スペースかつ省エネルギー型のコンパクトなワークの搬送装置を備えた工作機械および加工ラインを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る工作機械は、複数の工具を収納するマガジンと、このマガジンから任意の工具を選択し、選択した工具と主軸に装着された工具との間で交換可能な工具交換機構と、ワークを加工する際にこのワークを保持する保持装置と、前記主軸と前記ワークとを相対移動させるための移動機構と、を有する工作機械であって、この工作機械に着脱可能に設けられ、前記ワークを搬送方向に搬送するための搬送装置と、前記マガジンに収納され、前記工具交換機構により前記主軸に着脱可能に装着されるワーク移送手段と、を備え、このワーク移送手段は、前記主軸による回転力および前記移動機構による移動力を利用して前記ワークを前記搬送方向へ搬送することを特徴とする。
【0006】
このように、本発明の請求項1に係る工作機械は、主軸に着脱可能なワーク移送手段を装着して、このワーク移送手段によりワークを搬送することで、ワークの搬送ストロークを拡大している。つまり、例えば、ワークを前後方向または左右方向に搬送する場合において、前後方向の移動機構および左右方向の移動機構の移動ストロークに加えて、主軸に装着した前記ワーク移送手段のストロークを併用することで、搬送ストロークを確保することができる。このため、ワークを搬送するために前後方向の移動機構および左右方向の移動機構の移動ストロークを拡大する必要がないので、搬送方向の省スペース化を実現することができる。
【0007】
さらに、主軸の回転力を利用して、工作機械の中心部である主軸側からワークを搬出方向に押し出すように搬送することで、省スペースかつ省エネルギー化を実現している。つまり、工作機械の外側にロボット等の搬送装置を設ける必要がないので、加工設備の省スペース化を実現することができる。そして、ワーク移送手段の駆動力は、主軸の回転力を利用しているため、別途駆動装置を設ける必要がないので、工作機械のコンパクト化および省エネルギー化をも実現することができる。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の工作機械であって、前記保持装置は、前記ワークを載置するテーブルと、このテーブルに前記ワークを固定するクランプ装置と、を備え、前記テーブルを前記工作機械の前部に配置するとともに、前記搬送装置を前記テーブルの後方に配置し、前記ワークを前後方向に搬送するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
ここで、工作機械の前とは、作業者と対面する主軸ないしテーブル側をいい、「左右」とは、作業者が工作機械の前に対面した状態における「左右」をいう。したがって、ワークの搬送方向とは、区別される。
【0010】
本発明の請求項2に係るによれば、テーブルを前記工作機械の前部に配置し、搬送装置をテーブルの後方に配置して、ワークを前後方向に搬送することで、搬送ストロークを縮小して、装置全体の省スペース化を実現することができる。
【0011】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の工作機械であって、前記搬送装置の後端部には、前記ワークを搬入搬出する開口部が設けられていることを特徴とする。
かかる構成によれば、搬送装置の後端部にワークを搬入搬出する開口部を設けたことで、ワークの前後方向の搬入搬出を容易に行なうことができる。
【0012】
ここで、「ワークの搬入搬出」とあるが、ワークの搬入および搬出の少なくとも一方を意味し、ワークの「搬入または搬出」、ないし「搬入および搬出」のように限定的な意味で使用するものではないことを確認的に記載する。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の工作機械であって、前記ワーク移送手段は、前記ワークに係合可能な移送用アームであり、この移送用アームを前記ワークに係合させた状態で、前記主軸を回転または移動させて前記ワークを搬送することを特徴とする。
かかる構成によれば、主軸の回転または移動により、移送用アームを回転させてワークを搬送することで、主軸の外側に別途搬送装置を設ける必要がないので、コンパクトな搬送機構を実現することができる。
また、ワークの搬送のために、搬送方向に沿った移動機構の移動距離を長くする必要がないので工作機械のコンパクト化を実現することができる。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の工作機械であって、前記搬送装置は、動力伝達機構を備えた搬送コンベアであり、この搬送コンベアの駆動手段は、前記マガジンに収納され、このマガジンから前記主軸に装着されたアタッチメントであり、このアタッチメントおよび前記動力伝達機構により、前記主軸の回転を前記搬送コンベアの駆動力に変換することを特徴とする。
かかる構成によれば、前記主軸の回転を前記搬送コンベアの駆動力に変換し、主軸から駆動力を得て搬送コンベアを駆動することで、新たな駆動源を設ける必要がないため、コンパクトな搬送機構を実現することができる。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の工作機械を前記ワークの搬送方向に少なくとも2台隣接して並べて配置していることを特徴とする加工ラインである。
本発明の請求項6に記載の加工ラインによれば、ワークの搬送方向に沿って本発明に係る工作機械を並べて配置することで、工程間の搬送装置を別途設けることなく、複数の工作機械を隣接させて加工ラインを構成することができるため、省スペース化を実現して、設備費用を削減することができる。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、請求項6に記載の加工ラインであって、前記ワークの加工に伴って排出される排出物を回収するための回収装置が前記各工作機械の下部に一体として設けられていることを特徴とする。
かかる構成によれば、各工程ごとに排出物を回収するための回収装置を設けるのではなく、全体を一体化することで、全体として省スペース化を図ることができ、切り粉や潤滑油、クーラント等の回収を効率よく行なうことができる。このため、切り粉や潤滑油、クーラント等による汚染、およびその回収処理等の付帯設備の大型化を回避して、クーラント等の消耗品の使用量を削減し、環境保護および衛生面でも優れた効果が期待される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る工作機械および加工ラインによれば、省スペースかつ省エネルギー型のコンパクトなワークの搬送装置を備えた工作機械および加工ラインを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
参照する図面において、図1は本発明の実施形態に係るマシニングセンタの全体構成を説明するための側面から見た断面図である。図2は搬送用アームの構成を説明するための模式図であり、(a)は側面図を示し、(b)は平面図を示す。
【0019】
なお、本実施形態においては、本発明に係る工作機械の一例として、立形のマシニングセンタについて説明するが、これに限定されるものではなく、横形のマシニングセンタであっても同様である。また、マシニングセンタでなくても、トランスファマシン、NC旋盤、その他の汎用または専用加工機に適用することもできる。
また、3軸方向の取り方は種々あるが、本実施形態においては、図1に示すように、左右方向をX軸とし、前後方向をY軸とし、上下方向をZ軸とする。ただし、工作機械の種類等により異なるものであることを確認する。
【0020】
本発明の実施形態に係るマシニングセンタ1は、図1に示すように、工具Tを収納するマガジンMと、マガジンMから工具Tを選択して主軸11に着脱する工具交換機構である自動工具交換装置ATCと、ワークWを加工する際に保持する保持装置であるテーブル5およびクランプ装置51と、主軸11をワークWに対して、左右方向に移動するX軸移動機構2と、前後方向に移動するY軸移動機構3と、上下方向に移動するZ軸移動機構4と、ワークWの搬入搬出を行なう搬送装置であるローラコンベア6および移送用アーム8(図2参照)と、を備えている。
そして、マシニングセンタ1の後部には開口部であるワークWの搬入口18が設けられ、マシニングセンタ1の前部は搬出口として開放されている。つまり、ワークWの搬送方向は、マシニングセンタ1の前後方向であって、ワークWはマシニングセンタ1の後部側(図1における右側)から前部側(図1における左側)へ向かって搬送される。
【0021】
なお、本実施形態においては、マシニングセンタ1の後側から前側に搬送するように搬送方向を設定したが、これに限定されるものではなく、マシニングセンタ1の前側から後側へ搬送するものであってもよい。
また、本実施形態においては、マシニングセンタ1の外部を覆う筐体を設けていないが、筐体を設けることもできる。
【0022】
マガジンMは、マシニングセンタ1の後部側に設置されたローラコンベア6の上方に配置され、マシニングセンタ1で使用される加工工具および移送用アーム8等の工具Tが収納されている。そして、図示しない制御部に格納された制御プログラムによりワークWの加工工程に対応して、自動工具交換装置ATCでマガジンMから必要な工具Tを取り出して、主軸11に装着し、所定の加工が行なわれる。
【0023】
なお、マガジンMの収納方式は、チェーンタイプのものや円盤タイプのもの等種々の方式があるが、収納する工具Tの形状や数量、搬送コンベア等との位置関係、スペース効率等を考慮して適宜設定される。
【0024】
テーブル5は、図示しないベース部材に固定され、マシニングセンタ1の前部下方に配置されている。テーブル5には、ワークWを固定するクランプ装置51が配設されている。
クランプ装置51は、ワークWがテーブル5の所定の位置に載置された状態で固定されるように図示しない制御部で制御されている。クランプ装置51は、一例として、エア等を駆動源としてテーブル5上で回動および上下動可能に制御できるように構成されている。
【0025】
なお、本実施形態においては、テーブル5にワークWを載置して固定するように構成されているが、これに限定されるものではなく、パレットのような形状でもよいし、ローラコンベア6から搬送されたワークWの位置を検出してストッパを設け、クランプできるように構成されたものであればよい。要するに、ワークWを基準位置で確実に保持できるような構成であれば、マシニングセンタ等の加工機械の種類、機械の特性、ないしワークWの形状等により適宜設定することができる。
【0026】
搬送コンベアは、図1に示すように、一例として、ローラコンベア6を採用し、テーブル5の高さとローラコンベア6の送り高さとを合わせて、テーブル5の後端部にローラコンベア6の前端部(本図上の左側)が接合するように配置されている。そして、ローラコンベア6には、搬送方向に向けてガイドフレーム61が設けられており、ワークWの搬送方向を規制している(図2(b)参照)。ガイドフレーム61は、ワークWの形状に適合できるようにエアシリンダ等の位置調整機構62が設けられている。
ローラコンベア6の後端部(本図上の右側)は、マシニングセンタ1の後端部まで達するように延設されている。このようにローラコンベア6を配置することで、ローラコンベア6からテーブル5に円滑にワークWを移動することができる。そして、マシニングセンタ1の後方に隣接して他のマシニングセンタを連結して配置した場合にも、他のマシニングセンタのテーブルからこのマシニングセンタ1のローラコンベア6への受け渡しを円滑に行なうことができる(図4を併せて参照)。
【0027】
なお、本実施形態においては、テーブル5の高さとローラコンベア6の送り高さとを合わせて、テーブル5の後端部に接合するように配置したが、これに限定されるものではなく、ワークWの形状や搬送コンベアの種類、後記する駆動手段である移送用アーム8の保持の仕方等により、適宜設定されるものである。
そして、本実施形態においては、ローラコンベア6を使用しているが、これに限定されるものではなく、ベルトコンベアでもよく、エアシリンダ等の移動手段を使用してもよい。また、モータ等の駆動源を備えていてもよい。
【0028】
移送用アーム8は、図2(a)に示すように、主軸11に装着されるシャンク81と、ワークWと係合される円柱形状のローラタイプの係合爪83と、この係合爪83とシャンク81とを連結する本体部82と、を備えている。
なお、本実施形態においては、一例として、円柱形状のローラタイプの係合爪83を使用しているが、これに限定されるものではなく、ワークWの形状に合わせて適宜選定することができる。
また、ワークWを掴んで保持できるフィンガタイプのものを使用することもできる。この場合には、ワークWを掴んで持ち上げることができるので、ローラコンベア6とテーブル5との間に高低差や隙間がある場合にも適用できる。
【0029】
移送用アーム8は、主軸11に着脱可能に装着されている。具体的には、図1に示すように、マシニングセンタ1でワークWを加工しているときには、自動工具交換装置ATCにより主軸11から取り外してマガジンMに収納され、加工が終了しワークWを搬送する際には、自動工具交換装置ATCによりマガジンMから取り出して主軸11に装着することができる。
【0030】
そして、移送用アーム8を主軸11に装着した状態で、主軸11を回転させれば、移送用アーム8を必要な角度だけ回転させることができる。さらに、移送用アーム8の回転動作とともに、主軸11をX軸、Y軸、およびZ軸方向に移動することで、ワークWと係合される係合爪83は、様々な軌跡を描いて移動させることができる。例えば、移送用アーム8を回転しながら主軸11をX軸方向に移動させることで、係合爪83をY軸方向に沿って平行に移動させることもできる(図2(b)の矢印F参照)。
【0031】
続いて、主軸11を3軸方向に移動させるための移動機構であるX軸移動機構2、Y軸移動機構3、およびZ軸移動機構4について、図1を参照しながらマシニングセンタ1の概略構成とともに説明する。
マシニングセンタ1は、工具Tを装着する主軸11と、主軸11を回転自在に支持しモータ11aを内蔵した主軸ヘッド12と、主軸ヘッド12を上下方向に移動自在に支持するZ軸移動機構4を構成するX軸サドル13と、X軸サドル13を左右方向に移動自在に支持するX軸移動機構2と、X軸移動機構2およびZ軸移動機構4を前後方向に移動自在に支持するY軸移動機構3と、を備えている。
そして、X軸移動機構2、Y軸移動機構3、およびZ軸移動機構4は、一例として、ボールねじによるナットの送り機構と、可動部をガイドする直線移動ガイドとを組み合わせて構成されている。
【0032】
具体的には、Z軸移動機構4は、X軸サドル13に固定されボールねじ41を回転する駆動装置44と、ボールねじ41に螺合されボールねじ41に沿って移動するナット42と、ナット42に固定された主軸ヘッド12と、主軸ヘッド12を上下方向に移動自在に支持する直線移動ガイド43と、を備えて構成されている。
X軸移動機構2は、Y軸サドル3aに固定され図示しないボールねじを回転する駆動装置34と、前記ボールねじに螺合されこのボールねじに沿って移動する図示しないナットと、このナットに固定されたX軸サドル13と、X軸サドル13を左右方向に移動自在に支持する直線移動ガイド33と、を備えて構成されている。
Y軸移動機構3は、フレーム14に固定されボールねじ21を回転する駆動装置24と、ボールねじ21に螺合されボールねじ21に沿って移動するナット22と、ナット22に固定されたY軸サドル3aと、Y軸サドル3aを前後方向に移動自在に支持する直線移動ガイド23と、を備えて構成されている。
【0033】
なお、本実施形態においては、直交する3軸方向に移動する移動機構として、ボールねじによるナットの送り機構と、可動部をガイドする直線移動ガイドとを組み合わせて構成したが、これに限定されるものではなく、油圧機構やリニアモータによる移動機構を採用することもできる。
また、本実施形態においては、直交する3軸方向に移動する移動機構を備えたマシニングセンタ1について説明したが、3軸に限定する趣旨ではなく、少なくとも3軸を備えたものであればよく、直交する3軸方向に移動する移動機構の他に、テーブルが回転するものや主軸ヘッドの首振り機構を備えたものでもよく、この首振り動作を併用してワークを搬送するようなものも含まれる。
【0034】
続いて、本発明の実施形態に係るマシニングセンタ1の動作について、主として図2を参照しながら説明する。
前工程で加工が終了したワークWが搬入口18(図1)からローラコンベア6上の所定の基準位置に搬入される。この間、自動工具交換装置ATCにより、マガジンMに収納された移送用アーム8を取り出して主軸11に装着し、主軸11をX軸、Y軸、およびZ軸方向に移動して、移送用アーム8を所定の位置に移動させる。
この位置から、図2(a)に示すように、主軸11をさらに回転させながら移送用アーム8の角度および位置を調整して、係合爪83をワークWに係合させる。
そして、主軸11に装着された移送用アーム8をワークWに係合させた状態で、図2(b)に示すように、主軸11をさらに回転させながら移送用アーム8を回転移動させることで、ワークWを搬送方向Fに移動させることができる。この際に、主軸11をX軸方向に沿ってテーブル5から遠ざかる方向に移動させることで、係合爪83とガイドフレーム61との干渉を防止することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、移送用アーム8を回転させながらワークWをテーブル5上まで移動し、所定のクランプ位置まで搬送しているが、Y軸方向の移動はY軸移動機構3(図1参照)による移動を併用することもできる。
【0036】
以上のように構成されたマシニングセンタ1の効果について説明する。
マシニングセンタ1においては、主軸11に着脱可能な移送用アーム8を装着して、この移送用アーム8によりワークWを搬送することで、ワークWの搬送ストロークを拡大している。つまり、このようなワークWをY軸方向に搬送する場合において、Y軸移動機構3の移動ストロークに加えて、主軸11に装着した移送用アーム8の回転による搬送ストロークを併用することで、搬送ストロークを拡大することができる。このため、ワークWを搬送するためにY軸移動機構3の移動ストロークを拡大する必要がないので、搬送方向(Y軸方向)の省スペース化を実現することができる。
【0037】
また、主軸11の回転力を利用して、マシニングセンタ1の中心部である主軸11側からワークWを搬出方向に押し出すように搬送することで、省スペースかつ省エネルギー化を実現している。つまり、マシニングセンタ1の外側にロボット等の搬送装置を設ける必要がないので、加工設備の省スペース化を実現することができる。
そして、移送用アーム8の駆動力は、主軸11の回転力を利用しているため、ローラコンベア6には別途駆動装置を設ける必要がないので、マシニングセンタ1のコンパクト化および省エネルギー化をも実現することができる。
【0038】
本実施形態に係るマシニングセンタ1において、X軸移動機構2、Y軸移動機構3、およびZ軸移動機構4は、ワークWに対して主軸11を移動できるように構成されている。
このため、ワークWに対して主軸をX軸、Y軸、およびZ軸方向に移動させることで、ワークWと係合される係合爪83を様々な軌跡を描いて自在に移動させることができる。しかも、主軸11側を移動させて、テーブル5を固定することができるため、テーブル5が移動するスペースを確保する必要がないので、装置全体のコンパクト化を実現することができる。
【0039】
また、本実施形態に係るマシニングセンタ1において、マガジンMをローラコンベア6の上方のスペースに配置している。このようなコンパクトなレイアウトを採用することで、全体として省スペース化を実現している。
【0040】
続いて、本発明に係るマシニングセンタの第2実施形態について説明する。
第2実施形態に係るマシニングセンタは、前記したマシニングセンタ1に対して、移送用アームと搬送コンベアが相違するものである。したがって、以下の説明において、前記した第1実施形態に係るマシニングセンタ1と同じ構成要素については、同一の符号を使用して、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の第2実施形態に係るコンベアの動力伝達機構を模式的に示す正面図である。
【0041】
第2実施形態においては、搬送コンベアは、動力伝達機構を介して駆動源により駆動されるローラコンベアを採用している点で第1実施形態と相違する。第2実施形態に係るローラコンベア6′は、駆動源から回転力が伝達されると搬送ローラ6a′が回転してワークWを搬送することができる形式を採用している。
具体的には、第2実施形態に係るローラコンベア6′は、図3に示すように、搬送ローラ6a′がチェーン6b′で連結され、図示しないスプロケットを介して搬送ローラ6a′を回転することができるように構成されている。スプロケットには動力伝達機構である駆動ギア6c′が結合されており、この駆動ギア6c′に主軸11に装着され駆動源となるアタッチメントであるギアアタッチメント8′を噛合して搬送ローラ6a′を回転する。
【0042】
ギアアタッチメント8′は、前記したマシニングセンタ1における移送用アーム8と同様に、主軸11に着脱可能に装着される。すなわち、ギアアタッチメント8′は、マシニングセンタ1によるワークWの加工開始時には、自動工具交換装置ATCにより主軸11から取り外してマガジンMに収納され、加工が終了しワークWを搬送する際には、自動工具交換装置ATCによりマガジンMから取り出して主軸11に装着できるように構成されている。
そして、ギアアタッチメント8′を主軸11に装着した状態で主軸11を回転させれば、ギアアタッチメント8′を回転駆動させることができるため、このギアアタッチメント8′をローラコンベア6′のスプロケットに結合された駆動ギア6c′に噛合させることで、搬送ローラ6a′を回転させてワークWを搬送することができる。
【0043】
かかる構成によれば、主軸11に着脱可能に装着されるギアアタッチメント8′を設けて、主軸11から駆動力を得てローラコンベア6′を駆動することで、新たな駆動源を設ける必要がないため、コンパクトな搬送機構を実現することができる。
【0044】
なお、第2実施形態においては、搬送ローラ6a′がチェーン6b′で連結され、スプロケットを介して搬送ローラ6a′を回転するように構成したが、これに限定されるものではなく、ラック&ピニオンで搬送ローラ6a′を回転することもできる。すなわち、図示は省略するが、例えば搬送ローラ6a′をラックに連結して、このラックに主軸11に装着されたギアアタッチメントのピニオンを噛合させて搬送ローラ6a′を回転させることもできる。
【0045】
続いて、本発明に係る第3実施形態であるマシニングセンタ1を前後方向に3台隣接して並べて構成された加工ライン1′について、図4を参照しながら説明する。以下の説明において、前記した実施形態1,2に係るマシニングセンタ1と同じ構成要素については、同一の符号を使用して説明する。図4は、本発明の第3実施形態に係る前後方向における加工ラインを示す側面から見た断面図である。
【0046】
加工ライン1′は、図4に示すように、前記した第1または第2実施形態に係るマシニングセンタ1(図1参照)を前後方向に3台並べて構成されている。そして、マシニングセンタ1に敷設されていた回収装置としてのオイルパン15を取り外して、3台のマシニングセンタ1,1,1の下部を一体としてカバーするオイルパン15′を加工ライン1′の下部に敷設するとともに、切り粉の飛散を防止する保護カバー16を設けて、自動工具交換装置ATCおよびマガジンMに切り粉が付着することを防止している。
また、保護カバー16は、3台のマシニングセンタ1,1,1分を一体として連結されており、巻取りができるように配設されている。
加工ライン1′を構成する3台のマシニングセンタ1,1,1は、図1において前記したように主軸11に装着できる移送用アーム8でワークWを搬送することができるため、マシニングセンタ1の外側に搬送装置を設ける必要がないので、3台のマシニングセンタ1,1,1を隣接して配置することができる。
このため、加工ラインをコンパクトに構成することで、省スペース化を実現して、設備費用を削減することができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、3台のマシニングセンタ1,1,1を密接ないし近接させた状態で隣接させているが、これに限定されるものではなく、人が通ることができるメンテナンス用のスペースを確保したり、搬送装置等を設けるスペースを設けたりして隣接させることもできるし、3台のマシニングセンタ1,1,1を密着させることもできる。
【0048】
なお、本発明の第3実施形態においては、マシニングセンタ1を前後方向に3台並べて構成したが、これに限定されるものではなく、図5に示すように、左右方向に隣接して並べることもできる。左右方向における加工ライン1a′においては、テーブル5の左右方向にローラコンベア6を配置し、マシニングセンタの左右方向にワークを搬送するように構成することもできる。図5は、本発明の第3実施形態の変形例に係る左右方向における加工ラインを示す側面から見た断面図である。
【0049】
また、本発明の第3実施形態においては、3台のマシニングセンタ1を隣接して並べる構成としたが、これに限定されるものではなく、2台あるいはそれ以上のマシニングセンタ1を前後左右の4方向に適宜配置してL字型やU字型等の加工ラインを構成することもできる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した各実施形態に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。
例えば、マシニングセンタ1のテーブル5を固定して主軸11をX軸、Y軸、およびZ軸方向に移動するそれぞれの移動機構2,3,4を設けているが、これに限定されるものではなく、例えば、X軸方向に搬送する場合であれば、Y軸方向の移動はテーブル5を移動させてもよい。同様に、Y軸方向に搬送する場合であれば、X軸方向の移動はテーブル5を移動させてもよい。このように、搬送方向および搬送装置と各移動機構との関係は様々なバリエーションが設定される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係るマシニングセンタの全体構成を説明するための側面から見た断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る移送用アームの構成を説明するための模式図であり、(a)は側面図を示し、(b)は平面図を示す。
【図3】本発明の第2実施形態に係るコンベアの動力伝達機構を模式的に示す正面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る前後方向における加工ラインを示す側面から見た断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態の変形例に係る左右方向における加工ラインを示す側面から見た断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 マシニングセンタ(工作機械)
1′ 前後方向における加工ライン
1a′ 左右方向における加工ライン
2 X軸移動機構(移動機構)
3 Y軸移動機構(移動機構)
4 Z軸移動機構(移動機構)
5 テーブル(保持装置)
6 ローラコンベア(搬送装置、搬送コンベア)
8 移送用アーム(ワーク移送手段)
11 主軸
12 主軸ヘッド
13 X軸サドル
14 フレーム
15,15′ オイルパン(回収装置)
18 搬入口(開口部)
51 クランプ装置(保持装置)
61 ガイドフレーム
ATC 自動工具交換装置(工具交換機構)
M マガジン
T 工具
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工具を収納するマガジンと、このマガジンから任意の工具を選択し、選択した工具と主軸に装着された工具との間で交換可能な工具交換機構と、
ワークを加工する際にこのワークを保持する保持装置と、
前記主軸と前記ワークとを相対移動させるための移動機構と、を有する工作機械であって、
この工作機械に着脱可能に設けられ、前記ワークを搬送方向に搬送するための搬送装置と、
前記マガジンに収納され、前記工具交換機構により前記主軸に着脱可能に装着されるワーク移送手段と、を備え、
このワーク移送手段は、前記主軸による回転力および前記移動機構による移動力を利用して前記ワークを前記搬送方向へ搬送することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記保持装置は、前記ワークを載置するテーブルと、このテーブルに前記ワークを固定するクランプ装置と、を備え、
前記テーブルを前記工作機械の前部に配置するとともに、
前記搬送装置を前記テーブルの後方に配置し、
前記ワークを前後方向に搬送するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記搬送装置の後端部には、前記ワークを搬入搬出する開口部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記ワーク移送手段は、前記ワークに係合可能な移送用アームであり、
この移送用アームを前記ワークに係合させた状態で、前記主軸を回転または移動させて前記ワークを搬送することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の工作機械。
【請求項5】
前記搬送装置は、動力伝達機構を備えた搬送コンベアであり、
この搬送コンベアの駆動手段は、前記マガジンに収納され、このマガジンから前記主軸に装着されたアタッチメントであり、
このアタッチメントおよび前記動力伝達機構により、前記主軸の回転を前記搬送コンベアの駆動力に変換することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の工作機械。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の工作機械を前記ワークの搬送方向に少なくとも2台隣接して並べて配置していることを特徴とする加工ライン。
【請求項7】
前記ワークの加工に伴って排出される排出物を回収するための回収装置が前記各工作機械の下部に一体として設けられていることを特徴とする請求項6に記載の加工ライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−860(P2008−860A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174865(P2006−174865)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000152675)株式会社日平トヤマ (218)
【Fターム(参考)】