説明

工作機械における高加速度回転テーブル装置

【課題】ラビリンス構造を有しつつ、低慣性モーメント化を可能にした工作機械における高加速度回転テーブル装置を提供する。
【解決手段】支持部材21と回転テーブル17との間の外周部に、回転テーブル17の接触面27bに摺接可能に接触するリップ部35aを有するシールリング35を配設し、回転テーブル17の周縁部に半径方向外方に突出する鍔部27aを設け、支持部材21にシールリング35を取り囲むとともに回転テーブル17の鍔部27aに微小な隙間を有して対向するラビリンス部37bを半径方向内方に延在させたラビリンスリング37を取付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーラント浸入対策のラビリンス構造を有しつつ、低慣性モーメント化を可能にした工作機械における高加速度回転テーブル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、マシニングセンタのような工作機械においては、工作物を支持する回転テーブルが回転可能に設けられている。このような回転テーブルにおいては、回転テーブル内に設けられたモータ等へのクーラントの浸入や切粉の侵入を防止するために、回転テーブルとこれを支持する支持部材との間にラビリンス構造を有するシール装置が備えられる。例えば、特許文献1には、切粉の侵入を防止するシール装置が記載されている。
【0003】
この種のマシニングセンタにおける回転テーブルにおいては、従来、クーラントの浸入を防止するために、例えば、図4に示すようなラビリンス構造が採用されている。すなわち、同図に示すように、円形の回転テーブル1の外周に、回転テーブル1と同心的なラビリンスリング2を、回転テーブル1の回転軸線方向に沿って支持部材3側に延在させ、このラビリンスリング2の内周部2aを、支持部材3に形成した外周部3aに微小な隙間を有して対向させるとともに、ラビリンスリング2によって取り囲まれた支持部材3の先端部外周にシールリング4を装着し、このシールリング4のリップ部4aを回転テーブル1の接触面1aに摺接可能に接触させ、回転テーブル1と支持部材3の間にクーラントが浸入するのを防止するようになっている。
【特許文献1】実開平6−75633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マシニングセンタ等においては、サイクルタイムの短縮のために高加速化が進められているが、例えば、Z軸方向に移動可能なZ軸テーブル上に1つあるいは2つの回転テーブルを回転可能に設けて、同時4軸制御あるいは同時5軸制御によって回転テーブル上に取付けた工作物(金型等)を高速かつ高精度に加工しようとする場合、直線3軸に比べて回転テーブルの高加速化は、回転テーブルの慣性モーメントによる影響によって実現が難しく、このために、回転テーブルを直線3軸に追従させることができなくなり、高加速化に制約を生ずる問題があった。
【0005】
特に、図4に示すラビリンス構造のように、回転テーブルの外周を覆うようにラビリンスリングを設けた構成にあっては、回転テーブルの慣性モーメントが増加し、回転テーブルの高加速化を阻害する要因となっていた。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を解消するためになされたもので、ラビリンス構造を有しつつ、低慣性モーメント化を可能にした工作機械における高加速度回転テーブル装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、工作機械の支持部材に回転可能に支持される回転テーブルを備えた高加速度回転テーブル装置にして、前記支持部材と前記回転テーブルとの間の外周部に、前記回転テーブルの接触面に摺接可能に接触するリップ部を有するシールリングを配設し、前記回転テーブルの周縁部に半径方向外方に突出する鍔部を設け、前記支持部材に前記シールリングを取り囲むとともに前記回転テーブルの前記鍔部に微小な隙間を有して対向するラビリンス部を半径方向内方に延在させたラビリンスリングを取付けたことである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記ラビリンス部は、前記ラビリンスリングの一端を前記鍔部に沿って半径方向内方に屈曲させて一体形成され、前記回転テーブルの外周および前記鍔部の端面に微小な隙間を有して対向されていることである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記支持部材の内周に、ダイレクトドライブモータのステータが固定され、前記回転テーブルに、前記ダイレクトドライブモータのロータが前記ステータと一体的に連結されていることである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、支持部材と回転テーブルとの間の外周部に、回転テーブルの接触面に摺接可能に接触するリップ部を有するシールリングを配設し、回転テーブルの周縁部に半径方向外方に突出する鍔部を設け、支持部材にシールリングを取り囲むとともに回転テーブルの鍔部に微小な隙間を有して対向するラビリンス部を半径方向内方に延在させたラビリンスリングを取付けたので、回転テーブルの外周部の重量を削減することができ、これによって、回転テーブルの低慣性モーメント化を実現でき、併せてクーラント浸入対策としてのラビリンス構造を維持することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、ラビリンス部は、ラビリンスリングの一端を鍔部に沿って半径方向内方に屈曲させて一体形成され、回転テーブルの外周および鍔部の端面に微小な隙間を有して対向されているので、ラビリンス構造を簡単に構成することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、支持部材の内周に、ダイレクトドライブモータのステータが固定され、回転テーブルに、ダイレクトドライブモータのロータがステータと同軸に一体連結されているので、回転テーブルを高精度に回転制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図2は、一例として5軸同時制御型のマシニングセンタ10を示すもので、当該マシニングセンタ10は、ベッド11と、ベッド11上に設けられたガイドレール12aに沿ってZ軸方向(前後方向)に移動可能に装架された図略のZ軸移動台と、ベッド11上に立設されたコラム13と、コラム13のZ軸移動台に対向する側面に設けられたガイドレール14aに沿ってX軸方向(左右方向)に移動可能に装架されたX軸移動台14と、X軸移動台14に設けられたガイドレール15aに沿ってY軸方向(上下方向)に移動可能に装架されたY軸移動台15と、前記Z軸移動台上にB軸(鉛直軸線)の回りに回転可能に支持されたB軸回転テーブル16と、B軸回転テーブル16上にB軸と直交するA軸の回りに回転可能に支持されたA軸回転テーブル17とを備えている。
【0014】
Y軸移動台15には、Z軸と平行な軸線の回りに回転可能な工具主軸を備えた主軸ヘッド18が設けられている。工具主軸に装着された工具によって、A軸回転テーブル17上に取付けられた工作物が加工される。
【0015】
A軸回転テーブル17は、一例として、図2に示すように、両頭の回転テーブル17a、17bからなり、これら回転テーブル17a、17bが、B軸回転テーブル16上に固定された支持部材21の両端支持部21a、21bにそれぞれA軸軸線の回りに回転可能に支持されている。両頭の回転テーブル17a、17bは同一の構成からなり、これら回転テーブル17a、17bの間には、工作物を取付ける工作物取付台22が設けられている。回転テーブル17a、17bは、後述するモータによって同期して回転される。
【0016】
図1は、B軸回転テーブル16上に支持されたA軸回転テーブル17(17a、17b)の具体的構成を示すもので、B軸回転テーブル16上に固定された前記支持部材21は、円筒中空状をなし、支持部材21の内周には、ダイレクトドライブモータ23(以下、単にモータ23という)のステータ24が固定されている。支持部材21の先端部(図1の左端)の内周には、クロスローラベアリング25の外輪25aが固定されている。クロスローラベアリング25の内輪25bには、A軸回転テーブル17が固定され、A軸回転テーブル17はクロスローラベアリング25により、水平なA軸の軸線の回りに回転可能に支持されている。
【0017】
A軸回転テーブル17は、先端部に円形の大径部27を有し、大径部27の一端にはクロスローラベアリング25の内輪25bを貫通する小径部28が一体的に形成されている。小径部28には連結ブロック29が固定され、連結ブロック29にモータ23のロータ30が、ステータ24内にそれと同軸に配設されている。これにより、A軸回転テーブル17は、モータ23によってA軸の軸線の回りに回転される。
【0018】
なお、連結ブロック29には、A軸回転テーブル17と同軸に連結軸31が結合され、この連結軸31は、支持部材21に設置されたエンコーダ32に挿通され、エンコーダ32の検出軸として機能する。エンコーダ32によって、連結軸31、すなわちA軸回転テーブル17の回転角が検出される。また、エンコーダ32を挿通した連結軸31は、支持部材21に設置されたブレーキ33に連結されている。ブレーキ33は、モータ23の電源が遮断されたとき、ばね力によってメカロックされ、A軸回転テーブル17に結合された連結軸31を停止するものである。
【0019】
A軸回転テーブル17の大径部27の周縁部には、半径方向外方に突出する薄肉の鍔部27aが形成されている。一方、支持部材21の先端部には、シールリング35が装着され、シールリング35は、A軸回転テーブル17の鍔部27aの裏面に形成された接触面27bに摺接可能に接触するリップ部35aを有している。すなわち、大径部27の外周は、大径部27の周縁部に形成される鍔部27aを除いて、図3の網目状部分だけ肉を削ぎ落とした形状をなし、慣性モーメントの低減を図っている。
【0020】
また、支持部材21の先端部外周には、シールリング35を取り囲むようにして薄肉のラビリンスリング37が、A軸回転テーブル17と同軸に固定されている。ラビリンスリング37の先端部は、半径方向内方に直角に屈曲されてラビリンス部37aが形成され、ラビリンス部37aの内周および一端は、A軸回転テーブル17の大径部27の外周および鍔部27aの端面に、微小な隙間を有して対向されている。
【0021】
上記した実施の形態においては、A軸回転テーブル17(17a、17b)がモータ23によって回転されると、工作物を取付けた工作物取付台22がA軸回りに回転される。これとともに、X軸、Y軸およびZ軸の直線3軸と、B軸を同時制御することにより、主軸ヘッド18に装着した工具によって工作物取付台22に取付けた工作物(金型等)が高速かつ高精度に加工される。
【0022】
かかる工作物の加工時には、加工個所にクーラントが供給され、クーラントがA軸回転テーブル17と支持部材21との間に浸入せんとするが、クーラントは、A軸回転テーブル17の大径部27の外周および鍔部27aと、ラビリンスリング37のラビリンス部37aとからなるラビリンス構造によって、A軸回転テーブル17と支持部材21との間への浸入を阻止される。また、仮に、A軸回転テーブル17の大径部27の外周および鍔部27aと、ラビリンスリング37のラビリンス部37aとの微小な隙間より、ラビリンスリング37の内周部にクーラントが浸入しても、シールリング35のリップ部35aと鍔部27aに形成した接触面27bとの接触により、シールリング35の内周側への浸入を防止される。これにより、モータ23やエンコーダ32等にクーラントが浸入することがなく、回転テーブル装置の信頼性を向上することができる。なお、ラビリンスリング37の内周部に浸入したクーラントは、図略のドレーンポートを介してドレーンされる。
【0023】
本発明の実施の形態によれば、上記したラビリンス構造を有しつつ、A軸回転テーブル17の大径部27の外周の肉を削除したので、A軸回転テーブル17の慣性モーメントを低減でき、A軸回転テーブル17の高加速度化を可能にできる。特に、A軸回転テーブル17の大径部27の外周部分の肉を削除したことにより、A軸回転テーブル17の重量を有効に減少させることができ、A軸回転テーブル17の慣性モーメントを効果的に低減できるようになる。
【0024】
しかも、A軸回転テーブル17の周縁部に薄肉の鍔部27aを設け、この鍔部27aに微小な隙間を有して対向するラビリンス部37aを半径方向内方に屈曲させたラビリンスリング37を、A軸回転テーブル17を回転可能に支持する支持部材21に取付けたので、クーラント浸入対策としてのラビリンス構造と低慣性モーメント化を容易に両立できるようになる。
【0025】
なお、A軸回転テーブル17の大径部27の外周および鍔部27aの端面に微小な隙間を有して対向するラビリンス部37aを、ラビリンスリング37の一端を鍔部27aに沿って半径方向内方に屈曲させることにより、ラビリンス部37aを有するラビリンスリング37を一部材で構成でき、ラビリンス構造を簡素化できるが、ラビリンス部37aをラビリンスリング37とは別体に設け、ビス等によって一体結合するようにしてもよい。
【0026】
また、上記した実施の形態によれば、支持部材21の内周に、ダイレクトドライブモータ23のステータ24が固定され、A軸回転テーブル17に、ダイレクトドライブモータ23のロータ30がステータ24と同軸に一体連結されているので、A軸回転テーブル17を高精度に回転制御することができる。
【0027】
上記した実施の形態においては、2つの回転テーブル(16、17)を備えた5軸同時制御型のマシニングセンタ10のA軸回転テーブル17に適用した例について述べたが、本発明は、1つの回転テーブル(16)を備えた4軸同時制御型のマシニングセンタ10に適用することもできる。また、回転テーブルも、実施の形態で述べたように、Z軸移動台(図示せず)上に支持するものに限定されるものではなく、工具と工作物とが相対的に移動および回転されるものであれば、どのような構成であってもよい。
【0028】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、本発明の技術的思想に反しない限り、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る工作機械における高加速度化回転テーブル装置を示す断面図である。
【図2】2つの回転テーブルを備えた5軸同時制御型のマシニングセンタを示す斜視図である。
【図3】ラビリンス構造部分の詳細を示す図である。
【図4】従来の回転テーブル装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10…マシニングセンタ、16、17…回転テーブル、21…支持部材、22…工作物取付台、23…ダイレクトドライブモータ、24…ステータ、25…クロスローラベアリング、27…大径部、27a…鍔部、27b…接触面、30…ロータ、35…シールリング、35a…リップ部、37…ラビリンスリング、37a…ラビリンス部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の支持部材に回転可能に支持される回転テーブルを備えた高加速度回転テーブル装置にして、
前記支持部材と前記回転テーブルとの間の外周部に、前記回転テーブルの接触面に摺接可能に接触するリップ部を有するシールリングを配設し、前記回転テーブルの周縁部に半径方向外方に突出する鍔部を設け、前記支持部材に前記シールリングを取り囲むとともに前記回転テーブルの前記鍔部に微小な隙間を有して対向するラビリンス部を半径方向内方に延在させたラビリンスリングを取付けたことを特徴とする工作機械における高加速度回転テーブル装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ラビリンス部は、前記ラビリンスリングの一端を前記鍔部に沿って半径方向内方に屈曲させて一体形成され、前記回転テーブルの外周および前記鍔部の端面に微小な隙間を有して対向されていることを特徴とする工作機械における高加速度回転テーブル装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記支持部材の内周に、ダイレクトドライブモータのステータが固定され、前記回転テーブルに、前記ダイレクトドライブモータのロータが前記ステータと一体的に連結されていることを特徴とする工作機械における高加速度回転テーブル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−272853(P2008−272853A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117421(P2007−117421)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】