説明

工作機械のドア装置

【課題】加工時の主軸台からの飛散物を防止するため、主軸台側方から移動しても自ら主軸台側方に戻り、常に主軸台側方及び上方を保護することが可能なドア装置を提供する。
【解決手段】主軸台の側方及び上方を保護するために、主軸側方に移動可能な主軸側ドアを設置した。またその主軸側ドアには、制御装置を備えた空気圧シリンダのロッド又はシリンダ本体の何れか一方を固定し、その他方は工作機械の固定部に固定した。したがって、主軸側ドアが主軸側方から移動させられた場合でも、空気圧シリンダによって自動で主軸側方へ復帰させられるため、常に主軸側方及び上方を保護することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
工作機械の安全対策としてのドア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、作業者側への切粉や切削液の飛散を防止するために、全閉カバーではなく左右にスライドするドアを設置したものがある。それに加えて、特許文献1に示すような、スライドドアを設置するだけでなく、スライドドアをサドルと連結させたドア(サドル側ドア)にすることで、サドル側ドアがサドルの移動に伴って一緒に移動し、サドル上に搭載された刃物台からの切粉・切削液等の飛散を防止するドア装置もある。
【0003】
しかしながら、特許文献1のサドル側ドアは、主軸回転時にサドルが主軸から遠ざかると、主軸及びチャックが露出してしまい、主軸及びチャックから切粉・切削液やグリスなどが飛散し機械周囲の床面などを汚してしまう可能性がある。そこで、このような工作機械への対策案として、図4に示すような主軸台側方へのスライドドアの設置が考えられる。
【0004】
図4におけるX軸、Y軸、及びZ軸は直交する3軸であって、Z軸方向を主軸軸線方向である前後とし、X軸方向を左右方向とし、Y軸方向を上下方向としている。旋盤41は、ベッド48と、サドル46と、刃物台49と、主軸台40とから構成されている。ベッド48はZ軸方向に向けて水平に床面設置されており、サドル46がそのベッド48に沿って、図示しないモータの駆動によりZ軸方向に移動する。そして、サドル46上には刃物台49が搭載され、サドル46のX軸方向の案内に沿って移動位置決めされるとともに、サドル46のベッド48上のZ軸方向の案内に沿って移動位置決めされる。
【0005】
その旋盤41において、サドル46の側方には、加工時に刃物台49の側方及び上方を覆い、切粉等の飛散を防止するサドル側ドア45が設けられている。サドル側ドア45は、その下部に車輪45b,45bが設けられているとともに、サドル側ドア45に設けられたサドル連結ピン45aを、サドル46に設けられたドア孔46aへ押し込むことで、サドル46に連結されている(図4(b))。したがって、サドル側ドア45は、サドル46がZ軸方向へ移動すると、サドル46と共にZ軸方向へ移動する。一方、主軸台40の側方には、加工時に主軸の側方及び上方を覆い、切粉等の飛散を防止する主軸側ドア43が設けられている。また主軸側ドア43の下部には、サドル側ドア45同様に、車輪43b,43bが設けられている。
以上のようなドア装置42においては、加工に際してサドル46が、図5(a)〜(c)のように、主軸台40側へフルストローク移動すると、サドル側ドア45が主軸側ドア43を押圧してZ軸方向へ前進させ、主軸や刃物台49はサドル側ドア45によって覆われるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公昭48−43959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、旋盤41では、図5(d)に示すように、サドル46が後退すると、その後退によって主軸が露出してしまうことがある。また、作業者による作業によって主軸側ドア43が移動させられた場合にも、主軸側ドア43を移動させたまま放置してしまい、主軸を露出させたまま加工が開始されるケースも考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、主軸台40側方から移動しても自ら主軸台40側方に戻り、常に主軸台40側方及び上方を覆い切粉や切削液などの飛散を防止することが可能なドア装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、主軸を備えた工作機械に設けられるドア装置であって、前記主軸をカバーするカバー位置と前記主軸が露出する退避位置との間を移動可能な第1ドア体と、前記第1ドア体が前記カバー位置から前記退避位置側へ移動すると、前記第1ドア体を前記カバー位置へ復帰させる移動手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明に加えて、前記移動手段が、シリンダ本体に対して伸縮自在なロッドを有する空気圧シリンダと、前記空気圧シリンダ内の空気圧を所定圧に保つ制御手段とからなり、前記空気圧シリンダは、前記ロッド又は前記シリンダ本体の何れか一方を前記第1ドア体に、他方を前記工作機械の固定部に固定され、前記制御手段による制御のもと前記ロッドを伸縮させ、前記第1ドア体を移動させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明に加えて、前記工作機械が、前記主軸に対して相対移動して前記主軸と共に加工を行う移動台を有し、前記移動台に、該移動台と共に前記主軸に対して相対移動する第2ドア体を連結しており、加工時には、前記第2ドア体が前記カバー位置にある前記第1ドア体に接触し、更に当該接触状態のまま該第1ドア体が退避位置側へ移動するまで、前記移動台を前記主軸側へ相対移動させ、前記接触状態にある前記第1ドア体と前記第2ドア体とにより加工空間を閉塞するとともに、前記移動手段は、前記第1ドア体に対して常に前記カバー位置へ復帰させる側へ負荷をかけることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、主軸をカバーするドア体と、そのドア体を主軸のカバー位置まで復帰させる移動手段とを設けることで、ドア体は自動的に主軸側方に復帰しカバーするため、主軸からの飛散物を防止することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1ドア体の移動手段として空気圧シリンダを選択し、またその制御手段を設けたことで、空気圧シリンダへの圧縮空気の供給量を調節することで、第1ドア体の移動を容易に調節することが可能である。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、加工時に移動台が主軸へ接近し、第2ドア体によって第1ドア体が主軸側方から退避させられる際には、第1ドア体は第2ドア体と接した状態で移動する。逆に、移動台が主軸から後退する際には、第1ドア体は第2ドア体と接した状態で主軸側方に復帰する。よって、主軸側方及び上方に常時隙間を設けることがなく、主軸側方及び上方をカバーすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明のスライドドアを設置した旋盤の全体図である。(b)(a)の側面図である。
【図2】本発明のドア装置の構成を説明した図である。
【図3】本発明のドア装置の動作説明図である。
【図4】(a)従来のスライドドアを設置した旋盤の全体図である。(b)(a)の側面図である。
【図5】従来のドア装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態となる主軸側ドア4を設置した旋盤1について、図1及び図2を基に詳細に説明する。尚、図1の旋盤1において、図5と同じ構成のサドル6,ベッド8,刃物台9,主軸台10については詳細を省く。
旋盤1には、本発明の要部である、主軸側ドア4と、空気圧シリンダ11と、その制御手段7とからなるドア装置2が設けられ、それに加えてサドル側ドア5が設けられている。
主軸側ドア4は、主軸の側方及び上方を覆うためのへの字形状をしており、その下部に車輪4b,4bを有し移動可能で、その頂壁部分4aの前端部には空気圧シリンダ11取付用のブラケット12を備えている。
サドル側ドア5は、主軸側ドア4と同じ形状で、その下部に車輪5b,5bを有して移動可能であるとともに、サドルピン5aを介してサドル6のドア孔6aに連結されている。
【0017】
空気圧シリンダ11は、筒状の本体11dと、本体11dに対して伸縮自在に取り付けられたピストンロッド11cとからなり、本体11d内には、第1空気室11aと第2空気室11bとが設けられている。第1空気室11aには、空気圧シリンダ11の制御手段7である精密レギュレータ14、ミストセパレータ15、エアフィルタ16、及びコンプレッサ17が連結され、また第2空気室11bには、その空気圧の調節を行うためのサイレンサー付の自動調節バルブ13が連結されている。
【0018】
上記空気圧シリンダ11は、ピストンロッド11cを前方へ向けた姿勢で、本体11dが旋盤1の固定部18に固定され、ピストンロッド11cがブラケット12を介して主軸側ドア4に連結された状態で設置されている。そして、第1空気室11a内へ圧縮空気が充満すると、ピストンロッド11cが縮退し、主軸の側方を覆うカバー位置に主軸側ドア4を位置させる。
【0019】
ここで、以下に、加工時における主軸側ドア4の動作に関して、図2及び図3を用いて説明する。
加工作業が開始すると、制御手段7が作動し、コンプレッサ17から、エアフィルタ16、ミストセパレータ15、及び精密レギュレータ14を介して第1空気室11aに圧力空気の供給が行われる。そして第1空気室11a内に圧力空気が充満すると、ピストンロッド11cが縮退し、図3(a)のように、ピストンロッド11cに連結した主軸側ドア4は主軸台10側方まで移動する。尚、旋盤1の加工時には、コンプレッサ17から常時圧力空気が供給されているため、ピストンロッド11cが最も縮退した状態で維持され、主軸側ドア4は主軸台10側方で待機することになる。そして、主軸側ドア4がこのように主軸台10の側方に位置している時は、加工中の主軸台10の回転による飛散物を防止可能なため、この主軸台10側方の位置を主軸側ドア4におけるカバー位置とする。
【0020】
そして、加工作業の進行にともない、サドル側ドア5が主軸台10方向へ前進し、主軸側ドア4に接触する(図3(b))。主軸側ドア4はサドル側ドア5によって前方に押し出され、カバー位置からずれてしまい、主軸台10側方には主軸側ドア4の代わりにサドル側ドア5が位置することになる(図3(c))。尚、主軸側ドア4がサドル側ドア5の押圧によって退避位置まで移動した場合、ピストンロッド11cが伸びて第1空気室11a内の圧力空気は高圧になる。その際、圧力が所定圧以上になると、精密レギュレータ14が圧力空気を大気開放し、圧力を低下させる。
【0021】
また、加工作業中もしくは加工終了時に、サドル側ドア5が後退する場合には、主軸側ドア4に連結する空気圧シリンダ11には、コンプレッサ17から圧縮空気が常時供給されているため、ピストンロッド11cがスライドドア5の後退に追従して縮退し、主軸側ドア4は自動的にカバー位置に復帰する(図3(d))。
【0022】
本実施例において、主軸側ドア4は、カバー位置に戻るための移動手段を備えている。したがって、仮に主軸側ドア4が主軸台10側方から移動させられた場合でも、移動手段によって自動的にカバー位置に復帰できるため、再び主軸からの飛散物を防止することができる。
本実施例における主軸側ドア4の移動手段は、その動力がサドル側ドア5の押圧よりも弱く、且つ主軸側ドア4をカバー位置に戻す程度には強くなければならない。よって、本実施例では移動手段として空気圧シリンダ11を採用することで、空気圧シリンダ11に供給する圧力空気の量を調節するだけで、主軸側ドア4の移動を容易に調節することができる。また、気圧シリンダ11にはレギュレータ14が備わっているため、ピストンロッド11cが伸びて第1空気室11aの圧力が上昇した場合でも、レギュレータ14が圧力空気を大気開放し、高圧になる危険はない。
本実施例では、主軸側ドア4に加えて、サドル側ドア5を設置することで、サドル側ドア5が主軸側ドア4を移動させる時には、カバー位置にサドル側ドア5が位置し、サドル側ドア5が後退する時には、サドル側ドア5に追従して主軸側ドア4がカバー位置に復帰するため、常時主軸台10側方及び上方の飛散物を防止することができる。
【0023】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および設計の変更が可能である。
本実施例では、非加工時または機械停止時には空気圧の供給を停止することにより作業者による主軸側ドアの開閉を容易にするよう、移動手段として空気圧シリンダ11を採用しているが、主軸側ドア4への押圧にうまく対応し、主軸側ドア4をカバー位置に戻すことが可能であれば、バネなどによる他の移動手段でもよい。
また、本実施例では、1台の旋盤1に対して2枚のスライドドアを設置しているが、さらにスライドドアの数を増加させることも可能である。
さらに、旋盤1に主軸側ドア4の移動を検知するセンサーを配置し、主軸側ドア4が移動した時のみ、空気圧シリンダ11に圧縮空気が供給される制御装置を設けることで、エネルギーの節約に効果がある。
またさらに、本実施例では、旋盤1に対して新たにサドル側ドア5及び主軸側ドア4を設置したが、元々サドル側ドア5のみを有する旋盤に対しても、本発明のドア装置2のみを設置することが可能である。
加えて、本実施例では、ピストンロッド11cに連結したブラケット12を主軸側ドア4に固定しているが、必ずしも固定する必要はなく、ピストンロッド11cが主軸側ドア4をカバー位置に移動させることが可能であれば、単に当接した状態にするだけでもかまわない。
【符号の説明】
【0024】
1・・旋盤、2・・ドア装置、4・・主軸側ドア(第1ドア体)、5・・サドル側ドア(第2ドア体)、6・・サドル(移動台)、7・・制御手段、10・・主軸台、11・・空気圧シリンダ、18・・固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸を備えた工作機械に設けられるドア装置であって、
前記主軸をカバーするカバー位置と前記主軸が露出する退避位置との間を移動可能な第1ドア体と、
前記第1ドア体が前記カバー位置から前記退避位置側へ移動すると、前記第1ドア体を前記カバー位置へ復帰させる移動手段とを備えたことを特徴とする工作機械のドア装置。
【請求項2】
前記移動手段が、シリンダ本体に対して伸縮自在なロッドを有する空気圧シリンダと、前記空気圧シリンダ内の空気圧を所定圧に保つ制御手段とからなり、
前記空気圧シリンダは、前記ロッド又は前記シリンダ本体の何れか一方を前記第1ドア体に、他方を前記工作機械の固定部に固定され、前記制御手段による制御のもと前記ロッドを伸縮させ、前記第1ドア体を移動させることを特徴とする請求項1に記載の工作機械のドア装置。
【請求項3】
前記工作機械が、前記主軸に対して相対移動して前記主軸と共に加工を行う移動台を有し、
前記移動台に、該移動台と共に前記主軸に対して相対移動する第2ドア体を連結しており、
加工時には、前記第2ドア体が前記カバー位置にある前記第1ドア体に接触し、更に当該接触状態のまま該第1ドア体が退避位置側へ移動するまで、前記移動台を前記主軸側へ相対移動させ、前記接触状態にある前記第1ドア体と前記第2ドア体とにより加工空間を閉塞するとともに、
前記移動手段は、前記第1ドア体に対して常に前記カバー位置へ復帰させる側へ負荷をかけることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械のドア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36947(P2011−36947A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185931(P2009−185931)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】