説明

工具位置決め装置

【課題】構造が簡単で、かつ、加工精度および作業能率を向上させることができる工具位置決め装置を提供すること。
【解決手段】中空円筒状のリング8A1〜8A3は、軸線O方向の中心部に工具に嵌合する孔8aを備え、工具に装着されて工具の先端を位置決めするようにしている。リング8A1〜8A3には、軸線O方向の上端面8Auが軸線Oに対して垂直な面に形成されている。また、リング8A1〜8A3は、軸線O方向の下端から上方に拡大する傾斜面8Adを有している。この場合、傾斜面8Adを、軸線Oに対する角度が5〜85度のテーパ面としてもよいし、孔8aの外縁に接する接線の軸線Oに対する角度が5〜85度の曲面としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線方向の中心部に工具に嵌合する孔を備え、工具に装着されて工具の先端を位置決めするようにした中空円筒状の工具位置決め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来のプリント基板加工機の要部正面図、図8は工具保持装置の正面断面図である。
【0003】
図7において、プリント基板加工機100のテーブル1には、プリント基板2と、工具としてのドリル3を保持するドリル保持装置50と、が載置されている。テーブル1は、図示を省略する案内装置に支持されている。テーブル1の下面に固定されたナット4は、送りねじ5に螺合している。送りねじ5は、図示を省略するサーボモータによって回転駆動され、テーブル1を図面に垂直な前後方向に移動させる。
【0004】
スライダ23は、図示を省略する案内装置に支持されている。スライダ23の背面に固定されたナット24は、送りねじ25に螺合している。送りねじ25は、サーボモータ26によって回転駆動され、スライダ23を図の左右方向に移動させる。
【0005】
主軸頭27は、スライダ23に支持されている。主軸頭27の背面に固定されたナット28は、送りねじ29に螺合している。送りねじ29は、サーボモータ30によって回転駆動され、主軸頭27を図の上下方向に移動させる。サーボモータ30には、エンコーダ60が設けられている。エンコーダ60は、主軸頭27の現在位置を正確に測定する。
【0006】
主軸31は、主軸頭27に回転自在に支持され、図示を省略するモータによって回転駆動される。コレットチャック32は、主軸31に支持され、図示を省略する駆動手段により開閉自在に駆動される。
【0007】
ドリル3は、コレットチャック32に着脱可能に保持されている。一対のエアシリンダ33は、ブラケット34を介して主軸頭27に支持されている。エアシリンダ33には、圧力が一定のエアが常時供給されている。プレッシャフット35は、エアシリンダ33のロッドに取り付けられている。
【0008】
図8に示すように、ドリル保持装置50のベース51は、ホルダ52を上下方向移動自在に支持している。ばね53は、ホルダ52を上方に付勢している。ホルダ52の中心部には、ドリル3のシャンク3aよりも僅かに大径の穴52aが設けられている。また、ホルダ52は上面52uがテーブル1の表面から予め定める高さになるように構成されている。
【0009】
リング8は、ドリル3の工具位置決め装置である。リング8は、例えば硬質の合成樹脂で形成されており、中心部に設けられた孔8aの孔径はシャンク3aの外径よりも僅かに小さく形成されている。この結果、孔8aにシャンク3aを圧入されたリング8は、弾性により、ドリル3と一体になる。リング8を装着したドリル3は、リング8を介してホルダ52に支持される(特許文献1参照)。なお、リング8の外径は7〜8mm、厚さは4〜8mm程度であり、シャンク3aの外径は3mm程度である。
【0010】
次に、従来のプリント基板加工機100の動作を説明する。始めに、主軸31にドリル3を保持させる手順について説明する。なお、ドリル3は、リング8に挿入された状態でホルダ52に支持されている。また、リング8は、下面8dからドリル3の先端3pまでの距離が距離kになるようにしてドリル3に固定されている。従って、リング8の上下方向高さhが定まっているので、リング8の上面8uからドリル3の先端3pまでの距離が定まる。
【0011】
テーブル1とスライダ23を移動させ、主軸31(すなわちコレットチャック32)の軸線を穴52aの軸線に一致させた後、コレットチャック32を開いた状態で主軸頭27を下降させ、ばね53に抗してコレットチャック32の先端32aを図8の2点鎖線の位置Nに位置決めする。この状態で、コレットチャック32を閉じると、ドリル3はコレットチャック32の先端32aとリング8の上面8uとが接触した状態で保持される。
【0012】
以下、主軸31(すなわち、ドリル3)の軸線を加工しようとする孔の中心に位置決めした後、主軸頭27を下降させ、ドリル先端3pを予め定められた深さまでプリント基板2に切り込ませる。
【0013】
このように、リング8を用いるとドリル先端3pの高さ方向の位置を精度よく管理することができるので、加工時、切り込み深さを必要最小限の値にすることができ、加工能率を向上させることができる。また、ドリル3の切り込み不足が発生することもない。さらに、加工中に先端3pの位置を確認する必要もない。
【0014】
【特許文献1】特開2006−116639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、電子部品の小型化の要求に伴い、1枚のプリント基板における直径が0.3mm以下である小径の孔の割合が増加している。
【0016】
図9は、加工時のドリル近傍の様子を示す外観図である。
【0017】
ドリル3により孔を加工する場合、加工に伴って切粉が発生する。切粉の質量が大きい場合、発生した切粉はドリル3の溝に沿って上昇するが、溝を上昇中に溝から外れて切れる場合がほとんどであり、溝の上端まで上り詰めた場合も、溝の上端から外れた時点で切れる。
【0018】
しかし、例えば、直径が0.2mmのドリル3の場合、同図に示すように、ドリル3の溝に沿って上昇した切粉9が溝から外れた後もシャンク3aに沿って上昇し、リング8の下面8dの下側で、ドリル3に巻き付いてしまう場合がある。切粉9がドリル3に巻き付くと、ドリル3のバランスがくずれるため、先端3pが振れて加工精度が低下する。また、新たな切粉9の排出性が低下し、ドリル折れが発生する場合がある。さらに、切粉9がドリル3に巻き付いていると、ドリル保持装置50に保持させた時に切粉9の高さがリング8の厚みに加算されるので、リング8の見かけ上の厚みが増加する。このため、加工深さが浅くなり、加工不良が発生する場合があった。
【0019】
本発明の目的は、上記した課題を解決し、構造が簡単で、かつ、加工精度および作業能率を向上させることができる工具位置決め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は(例えば、図1、図3、図4及び図5参照)、軸線(O)方向の中心部に工具に嵌合する孔(8a)が形成され、前記工具に装着されて前記工具の先端を位置決めするようにした中空円筒状の工具位置決め装置において、
前記軸線(O)方向の上端が前記軸線に対して垂直な面(8Au,8Bu,8Cu)に形成され、
前記軸線(O)方向の下端から上方に拡大する傾斜面(8Ad,8Bd,8Cd)を有する、
ことを特徴とする工具位置決め装置(8A1〜8A5,8B1〜8B5,8C1〜8C5)にある。
【0021】
また、上記工具位置決め装置において(例えば、図1参照)、
前記傾斜面(8Ad)は、前記軸線(O)に対する角度(θ)が5〜85度のテーパ面である、
ことを特徴とするものである。
【0022】
また、上記工具位置決め装置において(例えば、図3及び図4参照)、
前記傾斜面(8Bd,8Cd)は、該傾斜面の下端に接する接線の前記軸線に対する角度(α,β)が5〜85度の曲面である、
ことを特徴とするものである。
【0023】
また、上記工具位置決め装置において(例えば、図1,図3及び図4参照)、
前記傾斜面(8Ad,8Bd,8Cd)の上方に形成され、前記傾斜面の上端よりも外側に突出するフランジ部(8Af,8Bf,8Cf)を有する、
ことを特徴とするものである。
【0024】
また、上記工具位置決め装置において(例えば、図5参照)、
前記傾斜面には、溝(8m)が形成されている、
ことを特徴とするものである。
【0025】
また、上記工具位置決め装置において(例えば、図5参照)、
前記溝(8m)は、前記工具に形成されている溝のねじれ方向と逆向きの螺旋状に形成されている、
ことを特徴とするものである。
【0026】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に係る本発明によると、切粉が工具に巻き付くのを防止でき、加工精度および作業能率を向上させることができる。
【0028】
請求項2に係る本発明によると、切粉がテーパ面に沿って上昇し、遠心力により破断して飛ばされやすくなるので、切粉が工具に巻き付くのを効果的に防止でき、加工精度および作業能率を向上させることができる。
【0029】
請求項3に係る本発明によると、切粉が曲面に沿って上昇し、遠心力により破断して飛ばされやすくなるので、切粉が工具に巻き付くのを効果的に防止でき、加工精度および作業能率を向上させることができる。
【0030】
請求項4に係る本発明によると、フランジ部の下面を支持することで、工具の軸線が傾くのを効果的に防止できる。
【0031】
請求項5に係る本発明によると、切粉が溝に案内されることにより、切粉が傾斜面を上昇しやすくなり、切粉に遠心力を効果的に作用させることができ、切粉を効果的に破断することができる。
【0032】
請求項6に係る本発明によると、切粉が工具の溝に沿う帯状となる場合に、工具位置決め装置の螺旋状の溝は切粉のねじれ方向と逆向きとなるので、切粉は、螺旋状の溝にねじれを解消する方向に案内されることとなり、これにより螺旋状の切粉の径が広がり、切粉には遠心力が効果的に作用する。したがって、切粉を効果的に破断して飛ばすことができ、切粉が工具に巻き付くのを効果的に防止できる。したがって、加工精度および作業能率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図であり、(a)は、リングの正面一部断面図、(b),(c)はリングの変形例の正面図である。図2は、リングを装着したドリルがコレットチャックに保持されている状態を示す説明図である。
【0035】
本第1実施形態に係るリング8A1は、図1に示すように、軸線O方向の中心部に工具としてのドリル3(図2)に嵌合する孔8aが形成された中空円筒状であり、ドリル3に装着されてドリル3の先端3pを位置決めするようにした工具位置決め装置である。リング8A1は、例えば硬質の合成樹脂で形成されており、中心部に設けられた孔8aの孔径はドリル3のシャンク3a(図2)の外径よりも僅かに小さく形成されている。この結果、孔8aにドリル3のシャンク3aを圧入されたリング8A1は、弾性により、ドリル3と一体になる。
【0036】
リング8A1の軸線O方向の上端には、コレットチャック32の先端32a(図2)に当接する平坦面となる上端面8Auが形成されており、この上端面8Auは、孔8aの軸線Oに垂直に形成されている。また、リング8A1の軸線O方向の下端は、孔8aの外縁であり、先細りとなって尖っている。リング8A1の側面は、軸線O方向の下端である孔8aの外縁に接し、孔8aの外縁から上方に拡大する傾斜面8Adと、傾斜面8Ad上端から上方に延びる軸線Oと平行な周側面8Asと、を有している。この傾斜面8Adは、テーパ面に形成されている。そして、リング8A1の下端の直径は孔8aの直径と略等しい。傾斜面8Adの軸線Oに対する角度θは、5〜85度(すなわち、テーパ角としては10〜170度)である。傾斜面8Adは、図1(a)に示すように、軸線Oに平行な周側面8Asと交差している。
【0037】
次に、リング8A1を装着したドリル3により加工する際の動作を説明する。
【0038】
加工に伴って発生した切粉の一部は、ドリル3の溝に沿う帯状となり、ドリル3の不図示の溝に沿って上昇した後、シャンク3aに沿ってさらに上昇し、さらに傾斜面8Adに沿って上昇する。
【0039】
傾斜面8Adは徐々に大径になっているので、切粉は傾斜面8Adを上昇するに従い、軸線Oからの距離(すなわち半径r)が大きくなり、軸線Oを中心とする切粉の周速度vは、徐々に増加する。
【0040】
切粉に加わる遠心力は周速度vの2乗に比例し、半径rに反比例するので、例えば、図2中、矢印B−B線における半径rが矢印A−A線におけるシャンク3aの直径の2倍であるとすると、矢印B−B線に到達した単位長さあたりの切粉に加わる遠心力は、矢印A−A線にある単位長さあたりの切粉に加わる遠心力の8倍である。
【0041】
この結果、切粉は傾斜面8Adの上端に到達する前にその遠心力により破断して飛ばされる。これにより、切粉がドリル3に巻き付くのを防止でき、加工精度および作業能率を向上させることができる。
【0042】
なお、傾斜面8Adの軸線Oに対する角度θは5〜85度とすることができるが、角度θを20〜45度とするのが好ましく、この範囲とするのが実用的であり、また、この範囲とすることで、効果的に切粉を傾斜面8Adに沿って上昇させることができ、効果的に切粉を破断させることができる。したがって、効果的に切粉がドリル3に巻き付くのを防止できる。
【0043】
ところで、リング8A1の高さhは、ドリル3の刃先径に応じて変える必要がある。図1(b)に示すリング8A2は、図1(a)に示すリング8A1の変形例である。
【0044】
このリング8A2においては、リング8A1における周側面8Asの長さを0として、傾斜面8Adを直接、上端面8Auに接続している。これにより、例えば、高さhを大きくできない場合に、このようなリング8A2の形状とすることで、有効に切粉がドリル3に巻き付くのを防止できる。
【0045】
また、図1(c)に示すリング8A3は、図1(b)とは別のリング8A1の変形例である。
【0046】
リング8A3は、図1(c)に示すように、傾斜面8Adの上方であって周側面8Asの上端に形成され、傾斜面8Adの上端よりも外側に突出し、傾斜面8Adの上端の径よりも大径のフランジ部8Afを有する。例えば、高さhを大きくしても差し支えない場合、フランジ部8Afを設けることができる。したがって、フランジ部8Afの下面を図8に示すドリル保持装置50の上面52uに当接させることができるので、保持させたドリル3の軸線が傾くのを効果的に防止できる。
【0047】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図であり、(a)は、リングの正面一部断面図、(b),(c)はリングの変形例の正面図である。
【0048】
なお、図3における(a),(b),(c)は、それぞれ図1における(a),(b),(c)と対応させてある。
【0049】
リング8B1の軸線O方向の上端には、コレットチャック32の先端32a(図2)に当接する平坦面となる上端面8Buが形成されており、この上端面8Buは、孔8aの軸線Oに垂直に形成されている。リング8B1の軸線O方向の下端は、孔8aの外縁であり、リング8B1の側面は、軸線O方向の下端である孔8aの外縁に接し、孔8aの外縁から上方に拡大する傾斜面8Bdと、傾斜面8Bd上端から上方に延びる軸線Oと平行な周側面8Bsと、を有している。
【0050】
このリング8B1の傾斜面8Bdは、軸線O側(内側)に凹んだ凹状の曲面に形成されている。この傾斜面8Bdは、孔8aの外縁(傾斜面8Bdの下端)における傾斜面8Bdの接線の角度αが5〜85度に設定されている。なお、角度αを20〜45度とするのが好ましく、この範囲とするのが実用的であり、また切粉を効果的に破断することができる。
【0051】
このような形状にすることで、リング8B1の高さが、上記第1実施形態のリング8A1と同じである場合、角度αをリング8A1の角度θよりも小さくすることが可能となる。すなわち、切粉が傾斜面8Bdの下端で案内され易くなり、傾斜面8Bdが上端に向かって外側に拡大するので、上記第1実施形態のリング8A1以上の切粉破断効果を持たせることができる。したがって、効果的に切粉がドリル3に巻き付くのを防止できる。
【0052】
図3(b)に示すリング8B2は、図3(a)に示すリング8B1の変形例であり、また、図3(c)に示すリング8B3は、図3(b)とは別のリング8B1の変形例である。
【0053】
リング8B2は、上記第1実施形態のリング8A2と同様に、周側面8Bsの長さを0として、傾斜面8Bdを直接、上端面8Buに接続している。これにより、例えば、高さhを大きくできない場合に、このようなリング8B2の形状とすることで、有効に切粉がドリル3に巻き付くのを防止できる。
【0054】
また、リング8B3は、上記第1実施形態のリング8A3と同様に、傾斜面8Bdの上方であって周側面8Bsの上端に形成され、傾斜面8Bdの上端よりも外側に突出し、傾斜面8Bdの上端の径よりも大径のフランジ部8Bfを有する。例えば、高さhを大きくしても差し支えない場合、フランジ部8Bfを設けることができる。これにより、フランジ部8Bfの下面を図8に示すドリル保持装置50の上面52uに当接させることができるので、保持させたドリル3の軸線が傾くのを効果的に防止できる。
【0055】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図であり、(a)は、リングの正面一部断面図、(b),(c)はリングの変形例の正面図である。
【0056】
なお、図4における(a),(b),(c)は、それぞれ図3における(a),(b),(c)と対応させてある。
【0057】
リング8C1の軸線O方向の上端には、コレットチャック32の先端32a(図2)に当接する平坦面となる上端面8Cuが形成されており、この上端面8Cuは、孔8aの軸線Oに垂直に形成されている。リング8C1の軸線O方向の下端は、孔8aの外縁であり、リング8C1の側面は、孔8aの外縁に接し、軸線O方向の下端から上方に拡大する傾斜面8Cdと、傾斜面8Cd上端から上方に延びる軸線Oと平行な周側面8Csと、を有している。
【0058】
このリング8C1の傾斜面8Cdは、軸線Oとは逆側(外側)に膨らむ凸状の曲面に形成されている。この傾斜面8Cdは、孔8aの外縁(傾斜面8Cdの下端)における傾斜面8Cdの接線の角度βが5〜85度に設定されている。なお、角度βを20〜45度とするのが好ましく、この範囲とするのが実用的であり、また切粉を効果的に破断させることができる。このような形状とすることにより、上記第1実施形態のリング8A1と同様に、切粉を破断することができ、切粉がドリル3に巻き付くのを防止できる。
【0059】
図4(b)に示すリング8C2は、図4(a)に示すリング8C1の変形例であり、また、図4(c)に示すリング8C3は、図4(b)とは別の図4(a)に示すリング8C1の変形例である。
【0060】
リング8C2は、上記第1実施形態のリング8A2と同様に、周側面8Csの長さを0として、傾斜面8Cdを直接、上端面8Cuに接続している。これにより、例えば、高さhを大きくできない場合に、このようなリング8C2の形状とすることで、有効に切粉がドリル3に巻き付くのを防止できる。
【0061】
また、リング8C3は、上記第1実施形態のリング8A3と同様に、傾斜面8Cdの上方であって周側面8Csの上端に形成され、傾斜面8Cdの上端よりも外側に突出し、傾斜面8Cdの上端の径よりも大径のフランジ部8Cfを有する。例えば、高さhを大きくしても差し支えない場合、フランジ部8Cfを設けることができる。これにより、フランジ部8Cfの下面を図8に示すドリル保持装置50の上面52uに当接させることができるので、保持させたドリル3の軸線が傾くのを効果的に防止できる。
【0062】
リング8C1〜8C3をこのような形状にしても、第1実施形態のリング8A1〜8A3と同等の機能を持たせることができる。
【0063】
[第4実施形態]
図5は、本発明の第4実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図であり、(a)は、リングの正面図、(b),(c),(d),(e),(f)はリングの変形例の正面図である。
【0064】
リング8A4は、図5(a)に示すように、傾斜面8Adに溝8mが形成されている。つまり、第1実施形態のリング8A1に溝8mを追加したものである。このように溝8mを形成することで、切粉は、溝8mに案内され、傾斜面8Adをスムーズに上昇する。したがって、切粉は、溝8mを設けない場合に比べて、傾斜面8Adの下端(ドリル3の刃先側)で切断されやすくなり、リング8A4から外れやすくなる。この場合、溝8mはドリル3に形成されている螺旋状の溝のねじれ方向と逆向きの螺旋状に形成することで、切粉は、効果的に破断されやすくなり、効果的にリング8A4から外れやすくなる。
【0065】
つまり、ドリル3の螺旋状の溝に沿う帯状の切粉が発生した場合、この帯状の切粉が上昇しリング8A4を上昇するが、リング8A4の傾斜面8Adには、溝8mが形成されているので、切粉の先端は、螺旋状の溝8mに案内されながら、上昇することとなる。そして、溝8mは、螺旋状の切粉のねじれ方向とは逆向きとなる螺旋状に形成されているので、切粉の先端が溝8mに案内されて上昇する際にねじれを解消する方向に案内される。
【0066】
これにより、螺旋状の切粉の径が傾斜面8Adの径よりも大きく広がり、切粉には傾斜面8Adに沿って接触しながら上昇する場合よりも、大きな遠心力が作用する。そして、帯状の切粉は、リング8A4の傾斜面8Adの下端において破断しやすくなり、切粉を効果的に破断して飛ばすことができ、切粉がドリル3に巻き付くのを効果的に防止できる。したがって、加工精度および作業能率を向上させることができる。
【0067】
また、リング8A5は、図5(b)に示すように、傾斜面8Adに溝8mが形成されている。つまり、第1実施形態のリング8A2に溝8mを追加してもよい。同様に、図示は省略するが、第1実施形態のリング8A3に溝8mを追加形成してもよい。
【0068】
同様に、リング8B4、8B5は、図5(c),(d)に示すように、傾斜面8Bdに溝8mを形成したものであり、リング8C4,8C5は、図5(e),(f)に示すように、傾斜面8Cdに溝8mを形成したものである。更に、図示は省略するが、第2実施形態のリング8B3及び第3実施形態のリング8C3に溝を追加形成してもよい。
【0069】
なお、上述した実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
上述した実施形態では、傾斜面が、テーパ面又は曲面で一様に形成される場合について説明したが、傾斜面として、上記テーパ面と曲面とを組合せたものであってもよい。
【0071】
図6は、傾斜面の変形例を示す図である。すなわち、図6(a)に示すように、点Qから下側をテーパ面(傾斜面8Ad)とし、点Qから上側を軸線O側に凹む凹状の曲面(傾斜面8Bd)とを組合せてもよいし、図6(b)に示すように、点Rから下側を軸線O側に凹む凹状の曲面(傾斜面8Bd)とし、点Rから上側をテーパ面(傾斜面8Ad)としてもよい。
【0072】
また、図6(c)に示すように、点Sから下側を第1のテーパ面(傾斜面8Ad1)、点Sから上側を第1のテーパ面とは異なる角度の第2のテーパ面(傾斜面8Ad2)にしてもよい。
【0073】
また、図示を省略するが、軸線Oに対して外側に膨らむ凸状の曲面(傾斜面8Cd)とテーパ面(傾斜面8Ad)とを組合せる等、テーパ面(傾斜面8Ad)と、曲面(傾斜面8Bd)と、曲面(傾斜面8Cd)とを任意に組合せることができる。
【0074】
また、上述した実施形態では、工具がドリル3の場合について説明したが、本発明は工具がエンドミルの場合にも同様に適用することができ、更に他の工具にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図である。
【図2】リングを装着したドリルがコレットチャックに保持されている状態を示す説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る工具位置決め装置としてのリングの構成図である。
【図6】傾斜面の変形例を示す図である。
【図7】従来のプリント基板加工機の要部正面図である。
【図8】工具保持装置の正面断面図である。
【図9】加工時のドリル近傍の様子を示す外観図である。
【符号の説明】
【0076】
3 工具(ドリル)
3p 先端
8A1〜8A5,8B1〜8B5,8C1〜8C5 工具位置決め装置(リング)
8Ad,8Bd,8Cd 傾斜面
8Af,8Bf,8Cf フランジ部
8Au,8Bu,8Cu 上端(上端面)
8a 孔
8m 溝
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向の中心部に工具に嵌合する孔が形成され、前記工具に装着されて前記工具の先端を位置決めするようにした中空円筒状の工具位置決め装置において、
前記軸線方向の上端が前記軸線に対して垂直な面に形成され、
前記軸線方向の下端から上方に拡大する傾斜面を有する、
ことを特徴とする工具位置決め装置。
【請求項2】
前記傾斜面は、前記軸線に対する角度が5〜85度のテーパ面である、
ことを特徴とする請求項1に記載の工具位置決め装置。
【請求項3】
前記傾斜面は、該傾斜面の下端に接する接線の前記軸線に対する角度が5〜85度の曲面である、
ことを特徴とする請求項1に記載の工具位置決め装置。
【請求項4】
前記傾斜面の上方に形成され、前記傾斜面の上端よりも外側に突出するフランジ部を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の工具位置決め装置。
【請求項5】
前記傾斜面には、溝が形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の工具位置決め装置。
【請求項6】
前記溝は、前記工具に形成されている溝のねじれ方向と逆向きの螺旋状に形成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の工具位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−105132(P2010−105132A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280375(P2008−280375)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000233332)日立ビアメカニクス株式会社 (237)
【Fターム(参考)】