説明

希土類永久磁石原料

【目的】 本発明の目的は容易に保持力の低下を防止することができると共に原料粉末の特性以上の保持力を発揮することができる新規な希土類永久磁石原料を提供することにある。
【構成】 本発明はNd65〜93wt%,Dy2〜30wt%,Ti0.2〜2wt%,Fe4.8〜13wt%の成分からなる粉末Aを、Nd−Fe−Co−Bからなるアモルファス系の原料粉末B中に、1〜5wt%添加してなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は希土類永久磁石に係り、特に保持力の向上を目的とした新規な希土類永久磁石原料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、モータ、発電機、音響機器等に用いられている永久磁石としては、アルニコ磁石、フェライト磁石の他に、ネオジウム鉄磁石に代表される希土類磁石がある。この希土類磁石は周知の通り、磁石原料中に希土類元素を混入したものであり、ヒステリシスループの減磁曲線(BHカーブ)で示される残留磁束密度(Br)、保持力(Hc)、最大エネルギー積(BHmax)のいずれも大きく、優れた磁気特性を有しているため、現在最も普及しているフェライト磁石に代わり、今後永久磁石の主流となりつつある。この希土類磁石の中でFe−Nd−B系永久磁石原料を固形化する方法の一つとしてアモルファス急冷リボン粉末を原料として焼結する方法がある。これは、冷却されている回転ドラムの表面に、Fe−Nd−Bの溶湯を吹き付けて急冷固化されたリボン状のアモルファス粉末をプラズマ焼結(PAS)して固形化する方法であり、インゴット粉砕粉末を用いた一般的な焼結固化方法に比較して、焼結時間が短縮できること、アモルファス状態であるため磁気配向処理が容易なこと、結晶サイズを小さいまま固化することができるため高い保持力(Hc)が得られること等の優れた長所を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようなアモルファス系の原料粉末のみではプラズマ焼結の際の圧力不足や温度、時間のかけすぎによっては結晶サイズが大きくなってしまい、保持力の低下を引き起こすことがあった。
【0004】そこで、本発明は上記の問題点を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は容易に保持力の低下を防止することができると共に原料粉末の特性以上の保持力を発揮することができる新規な希土類永久磁石原料を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明はNd65〜93wt%,Dy2〜30wt%,Ti0.2〜2wt%,Fe4.8〜13wt%の成分からなる粉末Aを、Nd−Fe−Co−Bからなるアモルファス系の原料粉末B中に、1〜5wt%添加してなるものであり、また、上記原料粉末Bを母粒子とし、該母粒子に上記粉末Aを子粒子として付着させ、カプセル化したものである。
【0006】以下、本発明の補足説明を行う。
【0007】粉末A中のNd(ネオジウム)量は65〜93wt%の範囲とする。すなわち、Nd−Dy(ジスプロシウム)状態図より1000℃以下の融点を有する組成はNdが65wt%以上でなければならないからである。また、Dyは多いほど保持力の向上が期待されるがRT(Rは希土類、Tは遷移金属)の組成比から30wt%以下となるため、2〜30wt%の範囲となる。Ti(チタン)は少量の添加で結晶成長を抑制し、異方性を高める効果があるが、多量に添加すると磁気特性を低下させるため、0.2〜2wt%の範囲が良い。従って、Fe(鉄)はTの残部4.8〜13wt%となる。
【0008】また、この粉末Aの添加量を1〜5wt%の範囲に限定したのは、この範囲が最も良好な効果が得られたためであり、この範囲外では保持力の向上がほとんど見られないからである。
【0009】尚、本発明で用いる固形化手段は周知技術のプラズマ焼結法を用いることが望ましい。すなわち、プラズマ焼結法によれば短時間で焼結固形化することができる上に、プラズマ放電による酸化相の破壊効果が得られ、酸化による特性の低下を未然に防止できるからである。また、異方性化処理は焼結後圧延によって行われる。この際、子粒子としての希土類合金の作用は、母粒子のアモルファス粒界に拡散することで、材料の粘性を下げ、磁気配向を容易にし、かつ成形性も良好にすることになる。また、カプセル化は静電固着法やPVA等の周知のカプセル化技術により容易に達成することができる。
【0010】
【作用】本発明によれば、子粒子中のTiが原料粉末Bの焼結の際の結晶成長を抑制することになるため、保持力の低下が防止されると共に、子粒子中のDyが保持力を向上させることになる。また、子粒子で原料粉末Bをカプセル化することにより、子粒子が原料粉末B粒界に均一に拡散され、これによって原料粉末Bの粘性が下がり、磁気配向が容易になると共に成形性も良好となる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】先ず、Nd67.7wt%、Dy28.9wt%、Fe2.4wt%、Ti1.0wt%を加熱溶融し、これをガスアトマイズにて粉末化して粉末Aを形成し、これを子粒子として、市販されている等方性のNd−Fe−Co−Bのリボン状アモルファス系原料粉末Bからなる母粒子の周囲に、表1に示す添加量で付着させて4種類のカプセル粉末を形成した後、これらカプセル粉末を原料としてそれぞれプラズマ焼結により固形化すると共に、圧延による異方性化処理を行って希土類磁石を形成し、その後、それぞれの保持力を測定した。
【0013】
【表1】


【0014】この結果、表1に示すように、原料粉末Bのみからなる比較例1及び子粒子の添加量が7wt%である比較例2の希土類磁石の場合ではその保持力がそれぞれ14.59KOe、15.05KOeであったのに対し、子粒子の添加量が1〜5wt%の範囲の実施例1〜4の希土類磁石ではいずれも保持力の向上がみられた。特に、添加量が2wt%の実施例2の希土類磁石ではその保持力が17.50KOeであり、その向上が最も顕著であった。尚、子粒子を添加した実施例1〜4、比較例2の場合では比較例1に比較して、圧延による異方性化及び成形性も良好であった。
【0015】このように本発明は、Nd−Fe−Co−Bのアモルファス急冷リボン粉末にDyを含むNd−Dy−Fe−Tiの4元合金をカプセル化することで容易に保持力の低下を防止するばかりでなく最適添加量を選択することで原料粉末以上の保持力を得ることができる。
【0016】
【発明の効果】以上要するに本発明によれば、容易に保持力の低下を防止することができると共に、原料粉末の特性以上の保持力を発揮することができる等といった優れた効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Nd65〜93wt%,Dy2〜30wt%,Ti0.2〜2wt%,Fe4.8〜13wt%の成分からなる粉末Aを、Nd−Fe−Co−Bからなるアモルファス系の原料粉末B中に、1〜5wt%添加してなることを特徴とする希土類永久磁石原料。
【請求項2】 上記原料粉末Bを母粒子とし、該母粒子に上記粉末Aを子粒子として付着させ、カプセル化したことを特徴とする請求項1記載の希土類永久磁石原料。