説明

帯電防止性アクリル系樹脂組成物およびフィルム、シート

【課題】
本発明は帯電防止剤の滲出による被着体の汚染や帯電防止効果の減衰が少なく、物性や成形加工性の優れた帯電防止アクリル系樹脂組成物及びフィルム、シートを提供することを目的とする。
【解決手段】
上記目的を達成するため、本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物は、10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)とからなるアクリル系ポリマー混合物(A)に帯電防止剤として熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)を添加してなる帯電防止性アクリル系樹脂組成物としたことであり(請求項1)、また、アクリル系樹脂組成物の熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)がメルトインデックス(MI)を15g/10min以下としたことであり(請求項2)、さらに、上記の帯電防止性アクリル系樹脂組成物から形成されるフィルムおよびシートとしたことである(請求項3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性能を有するアクリル系樹脂組成物及び該アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルム、シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種高分子材料は一般的に高い電気絶縁性を有するために帯電しやすく、ほこりの付着などの問題があることから、界面活性剤等の低分子量型の帯電防止剤が添加され、帯電によるほこりの付着を防止している。
【0003】
しかし、低分子量型の帯電防止剤は表面に滲出することによってその帯電防止効果を発揮しているが、そのために永続的に帯電防止性能が要求される用途や滲出する低分子量帯電防止剤による被着体への汚染が嫌われる用途では、低分子型帯電防止剤を使用することはできない。
【0004】
上記の要求を満足させる方法して、オレフィンなどの熱可塑性合成樹脂に高分子型帯電防止剤を添加する方法が採用され、高分子型帯電防止剤としてポリエーテルエステルアミドなどが使用されている(特許文献1および2を参照)。しかし、オレフィンなどの熱可塑性合成樹脂とポリエーテルエステルアミドとの相溶性が悪いために、酸変性ポリオレフィンを併用する方法が知られている。しかしこの方法では、ポリエーテルエステルアミドが配向しにくく、効果的に通電回路を形成することが出来ず少量の添加では十分な帯電防止効果が得られなかった。そのため、ポリエーテルエステルアミド等の高分子型帯電防止剤を多量に添加する必要があった。その結果、加工時のロール粘着などの成形加工性の悪化や仕上がったフィルム、シートの機械物性の低下などの問題を招いていた。
【0005】
またアクリル系樹脂に対しても、帯電防止剤として屈折率差が0.01以下であるポリエーテルエステルアミドが使用されている(特許文献3)。しかしこの方法では、透明性は維持できたとしても、成型加工時にロール粘着するなどの問題があった。
【0006】
さらに、アクリル系樹脂に対して熱可塑性ポリアミドエラストマーを添加することで透明性を維持しながら、帯電防止性能を付与する方法が提案されている(特許文献4)。しかし、この方法では、帯電防止性能を得るには熱可塑性ポリアミドエラストマーを多量に添加する必要があり、成型加工時にロール粘着しシート、フィルムを得ることが出来ないといった問題があった。
【0007】
このように、特にカレンダー法にてフィルムおよびシートを成形する際には、カレンダーロールからの剥離性が成形加工上重要となるが、上記のような方法では帯電防止効果が得られる程度の帯電防止剤を添加した組成物をカレンダー法にて成形加工するとカレンダーロール等に粘着し成形加工できないといった致命的な問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平1−016234号公報
【特許文献2】特開平3−290464号公報
【特許文献3】特開平8−120147号公報
【特許文献4】特開平2005−264071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述のような課題を解決しようとするものであって、帯電防止剤の滲出による被着体の汚染や帯電防止効果の減衰が少なく、物性や成形加工性の優れた帯電防止アクリル系樹脂組成物及びフィルム、シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
係る目的を達成するため、本発明者等が鋭意検討の結果、高分子型帯電防止剤を添加したアクリル系樹脂にアクリル系ゴム状粒子を加えることにより、フィルム物性を損なうことなく帯電防止性能と成形加工性が共に優れることを見出し本発明に至った。即ち、本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物は、10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)とからなるアクリル系ポリマー混合物(A)に帯電防止剤として熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)を添加してなることを特徴とする帯電防止性アクリル系樹脂組成物(請求項1)、また、本発明のアクリル系樹脂組成物の熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)がメルトインデックス(MI)15g/10min以下であることを特徴とし(請求項2)、また本発明のフィルムおよびシートが前記の帯電防止性アクリル系樹脂組成物から形成されることを特徴とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電防止性アクリル樹脂組成物によれば、アクリル樹脂とアクリル系ゴム状粒子とからなるアクリル系ポリマー混合物に帯電防止剤として熱可塑性ポリアミドエラストマーを少量添加することで十分な帯電防止性能が得られ、低分子量型帯電防止剤のように滲出による経時での帯電防止性能の低下や、被着体への汚染も防止することができる。
【0012】
ここで熱可塑性ポリアミドエラストマーなどの高分子量帯電防止剤は添加される組成物の中で連続的に接するかごく近い距離に存在することで通電回路を形成し、これをもって帯電防止性能を発揮するものと考えられている。
【0013】
また二相で構成される系に帯電防止剤等の添加剤を添加した場合、その添加剤は二相に均一に分散することはなく、どちらかの相もしくは二相の界面により多く存在するようになる。
【0014】
そこで二相で構成される系に高分子帯電防止剤を添加した場合、高分子帯電防止剤が二相のうち連続相または連続相ともう一相の界面により多く存在できるようにすると少量の高分子帯電防止剤の添加で通電回路を形成し帯電防止性能を発揮するようになると考えられる。
【0015】
本発明のアクリル樹脂とアクリル系ゴム状粒子とからなるアクリル系ポリマー混合物は二相で構成される。このうちアクリル樹脂が連続相でありさらに本発明の熱可塑性ポリアミドエラストマーはアクリル系ゴム状粒子相には存在せずに、連続相であるアクリル樹脂相および二相の界面に多く存在するために、少量の熱可塑性ポリアミドエラストマーの添加であっても通電回路を形成しやすくなり、優れた帯電防止効果を発揮すると考えられる。
【0016】
これによって通常、高分子帯電防止剤の通電回路を形成するのに多くの添加量を要していたのが少量の添加で帯電防止効果を発現できるようになる。そのためにカレンダー加工等において、高分子帯電防止剤の添加により加工性が大きく低下することなく成形加工を行うことが出来る。
【0017】
さらに、本発明のフィルムやシートは、上記帯電防止性アクリル樹脂組成物から形成されるため、物性、成形加工性に優れており、安価に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適実施の態様について詳細に説明する。
本発明で使用するアクリル樹脂(a1)とアクリル系ゴム状粒子(a2)の比率は、10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)からなることが必要で、より少量の帯電防止剤の添加で帯電防止性能が得られるようにするには、10〜50重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜50重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)であることがより好ましい。
【0019】
アクリル系樹脂(a1)が80重量%より大きい場合、少量の添加で帯電防止効果が得られにくくなり、アクリル樹脂(a1)が10重量%未満の場合、成形加工性の低下や仕上ったフィルム、シートの剛性が不足することになる。
【0020】
アクリル系ポリマー混合物(A)と熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)の比率は、特に限定されないが、帯電防止性アクリル系組成物100重量%中に熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)が5重量%以上となるように添加すれば帯電防止性能が十分に得られ、25重量%以下であれば加工性および機械物性への影響も少ないために5重量%〜25重量%が好ましく、より好ましくは7重量%〜20重量%である。
【0021】
本発明で用いられるアクリル系ポリマー混合物(A)中のアクリル樹脂(a1)は、特に限定されないがポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体などの(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキルエステル化合物の単独重合体あるいは共重合体や、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等があげられる。
また、アクリル系ゴム状粒子(a2)は、特に限定されないがアクリル酸エステルとこれと共重合可能な多官能性単量体および他の単官能性単量体からなる単量体混合物によって形成されるゴム弾性を有する層を含む樹脂組成物等が挙げられる。
【0022】
前記アクリル系ゴム状粒子(a2)を形成するアクリル酸エステルの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート等のアクリル酸とC1〜C18の飽和脂肪族アルコールとのエステル; シクロヘキシルアクリレート等のアクリル酸とC5又はC6の脂環式アルコールとのエステル;フェニルアクリレート等のアクリル酸とフェノール類とのエステル;ベンジルアクリレート等のアクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどが挙げられる。
【0023】
前記アクリル系ゴム状粒子(a2)を形成するために用いられる多官能性単量体は、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する単量体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸等の不飽和モノカルボン酸とアリルアルコール、メタリルアルコール等の不飽和アルコールとのエステル;前記の不飽和モノカルボン酸とエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等のグリコールとのジエステル;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸等のジカルボン酸と前記の不飽和アルコールとのエステル等が包含され、具体的には、アクリル酸アリル、アクリル酸メタリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性単量体の中でも、メタクリル酸アリルが特に好ましい。なお、前記の「ジ(メタ)アクリレート」は、「ジアクリレート」と「ジメタクリレート」との総称を意味する。
【0024】
前記アクリル系ゴム状粒子(a2)を形成する、アクリル酸エステル及び多官能性単量体以外に、アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体を併用することができる。該他の単官能性単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート等のメタクリル酸とC1〜C22の飽和脂肪族アルコールとのエステル;シクロヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸とC5又はC6の脂環式アルコールとのエステル;フェニルメタクリレート等のメタクリル酸とフェノール類とのエステル、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどのメタクリル酸エステルが代表的であるが、他にも、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−メチル−3−エチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、3−メチル−1,3−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン等の共役ジエン系単量体等が挙げられる。
【0025】
本発明におけるアクリル系ポリマー混合物(A)のアクリル系ゴム状粒子(a2)の平均粒子径は特には限定されないが、透明性やフィルムの製造時の成形加工性の点から150nm以下が好ましく、さらに好ましくは80nm〜120nmの範囲である。
【0026】
本発明における熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)は、ポリアミドブロック(b1)と、ポリエーテルエステルブロック(b2)から構成される熱可塑性ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体である。
【0027】
前記ポリアミドブロック(b1)は、炭素原子数20〜48の重合脂肪酸及びこれらのエステル誘導体、炭素原子数6〜12の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体を含有するジカルボン酸成分と、脂環族ジアミン及び脂肪族ジアミンからなる群から選ばれるジアミン成分とを反応させて得られるものである。
【0028】
前記ポリエーテルエステルブロック(b2)は、炭素原子数20〜48の重合脂肪酸及びこれらのエステル誘導体と炭素原子数6〜12の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体からなる群から選ばれるジカルボン酸成分と、ポリオキシアルキレングリコール成分とを反応させて得られるものである。
【0029】
前記ポリエーテルエステルブロック(b2)に対する前記ポリアミドブロック(b1)の質量比は、透明性の観点から10/90〜55/45であることが好ましい。より好ましくは20/80〜55/45である。
さらに、前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)の構成成分中に、炭素原子数20〜48の重合脂肪酸及びこれらのエステル誘導体に由来する成分を1質量%〜40質量%含有することは透明性の点から好ましい構成である。
【0030】
前記熱可塑性ポリアミドエラストマーのMI(メルトインデックス)は15g/10min以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜10g/10minである。MIが15g/10minより大きい場合は加工中の粘着性が大きく安定した加工が出来ないばかりか、帯電防止剤の連続層が形成されにくい為に十分な帯電防止性能が得られず好ましくない。
なお、メルトインデックス(MI値)は、メルトインデクサーを用いて、試料を特定温度(190℃)で加熱後、21.18N(2.16kgf)の荷重下で一定時間の間にオリフィスを通過した溶融試料の質量を測定し、これを10分当たりのg数に換算した値である。
【0031】
本発明における熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)の製造方法としては、例えば、まず、ポリアミドブロック(b1)を合成し、これに、ポリエーテルポリエステルブロック(b2)の原料となるジカルボン酸成分とポリオキシアルキレングリコール成分を配合し、減圧下、200℃〜300℃の反応条件で加熱し、エステル化触媒を用いてエステル化反応を進行させてポリエーテルポリエステルブロック(b2)を合成しながらブロック化反応を行う方法、あるいはポリアミドブロック(b1)とポリエーテルポリエステルブロック(b2)を各々合成した後にブロック化する方法などが挙げられる。
【0032】
本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物には、帯電防止性能を向上させる目的でアルカリ金属および、またはアルカリ土類金属であるカチオン、およびイオン解離可能なアニオンとによって構成されている金属塩類を添加しても良い。
【0033】
上記、金属塩類のカチオンとなるアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、Li,Na,Kが好ましく、特に好ましくは、リチウムLiである。また、本発明の金属塩類の構成要素であるイオン解離可能なアニオンとしては、例えば、Cl,Br,F,I,NO,SCN,ClO,CFSO,BF,(CFSO,(CFSOなどが挙げられる。好ましくは、ClO,CFSO,(CFSO,(CFSOであり、さらに好ましくはCFSO,(CFSO,(CFSOである。
【0034】
上記、カチオンおよびアニオンによって構成されている金属塩類は、帯電防止性アクリル樹脂組成物を成形加工するときに添加しても良いが、より高い帯電防止効果を得るためには、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂にあらかじめ添加した方が好ましく、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の重合時に添加することがより好ましい。
【0035】
上記、カチオンおよびアニオンによって構成されている金属塩類の添加量は、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)100重量部に対して、好ましくは0.0001〜0.1重量部、さらに好ましくは0.0001〜0.05重量部である。金属塩類の添加量が0.0001重量部未満であると帯電防止性能の向上効果が見られず、0.1重量部を超えると添加した金属塩類が溶出し汚染の原因となるために好ましくない。
【0036】
更に、本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系などの従来公知の紫外線吸収剤、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラスビーズ、タルクなどの充填剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤などを適宜配合することができる。
【0037】
また、本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物はフィルムやシートのなどの形で使用できる。本発明のアクリル系ポリマー混合物のアクリル樹脂(a1)とアクリル系ゴム粒子(a2)の比率を変えることで様々な硬さに対応することが可能である。さらに、帯電防止性アクリル系樹脂組成物は透明性を有しているために、透明性を要求される用途にも好適に使用できる。
【0038】
本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルムやシートは、マスキングテープやマーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルムやシートに広く使用することができ、低分子量化合物による汚染の少ない熱可塑性ポリアミドエラストマーを少量添加することで十分な帯電防止効果が得られるため、半導体製造用途に好適に使用できる。
【0039】
また本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルムやシートは、単層および多層で使用することができる。単層で要求特性が満足されれば、単層で使用することで製造コストを抑えられ好ましい。単層では要求性能を満足できない時は、多層で使用することも出来る。具体的には帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなる層と合成樹脂組成物からなる層との2層構造や、帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなる層の上下に、1種類以上の合成樹脂組成物からなる層を積層してなる3層構造や帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなる層に異なる2種類の合成樹脂組成物からなら層を積層する3層構造でも使用できる。さらに、これらの3層構造にさらに積層し4層以上の層構造を持つようにしてもよい。
【0040】
ここで使用する上記合成樹脂組成物は特には限定されないが、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ABS、MBS、ポリウレタン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。
【0041】
また本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなるフィルムやシートの成形は、特に限定されないが、押出成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法などの方法が利用できる。
【0042】
多層化フィルムやシートを製造する場合、成形法としては多層のTダイ押出法が利用される。しかし、単層のフィルムやシートで、要求性能が満足できれば、一般的なTダイ押出成形法やカレンダー成形法が適用でき、その中でも、カレンダー成形で生産することができれば、高速生産のメリットを生かし、コスト面でさらに優位となる。カレンダー成形は、溶融樹脂を加熱した金属ロール(カレンダーロール)で圧延することによって所望の厚さのシートやフィルムを作製する成形方法であり、押出成形におけるダイス近傍で発生するトラブルがなく、成形されるフィルムやシートの厚み精度が良好で品質的に優れたものが比較的容易に作製できる。加えて、成形速度が速く生産性に優れているので、同じ規格の製品を多量に生産するのに適した成形法である。
【0043】
また、特にカレンダー成形法でフィルムやシートを作製する場合、酸化防止剤や金属ロールから溶融樹脂が剥離するための離型剤(滑剤)等の添加剤を樹脂に配合すること好ましい。添加する滑剤として特に限定されないが、金属石鹸系化合物、アミド系化合物、エチレンビスアマイド系化合物、ポリエチレンワックスなどが使用できる。好適には、より剥離性が優れるという観点から、例えば、ベヘン酸やモンタン酸などの炭素数が21以上の脂肪酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどのアミド系化合物、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイドなどのエチレンビスアマイド系化合物、モンタン酸とエチレングリコールのジエステル、高分子複合エステルなどのエステル系化合物、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウムなどの金属石鹸、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0044】
また、フィルムやシートを押出成形法により作製する場合、カレンダー成形法に比べて、高温の溶融樹脂が外気に触れることが少なく、しかも溶融樹脂が高温の金属ロールと接触することもないことから、一般には、樹脂ペレットに既に添加されている以上に酸化防止剤を添加することはなく、滑剤を添加することもない。従って、フィルム、シート加工の面ではカレンダー成形法より容易であるが、生産速度がカレンダー成形法に比べて遅くなる。
【0045】
フィルムやシートをカレンダー成形法または押出成形法のいずれで作製する場合でもその厚さについては特に限定されないが、用途に応じた厚みを適時選択すればよいが、20〜2000μmの厚さが好適である。20μm未満や2000μmより厚くなると加工が困難となるため好ましくない。
【0046】
また、本発明のフィルムやシートを作製する際には、樹脂ペレットおよび添加剤を単純に混ぜ合わせたものを材料として用いてもよく、予め混練機で溶融混練したものでもよい。更に、添加剤を樹脂に高濃度で配合した通常、マスターバッチと称される材料を前もって調整し、これらを単純に混合するか、または樹脂ペレットとマスターバッチを溶融混練したものを用いてもよい。ここで使用される混練機としては公知の装置が使用できるが、取り扱いが容易で均一な分散が可能であるロール、1軸または2軸押出機、ニーダー、コニーダー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサーなどが好ましく用いられる。
【実施例】
【0047】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例に使用する熱可塑性ポリアミドエラストマーは以下の合成方法にて製造した。重合釜に、アゼライン酸、Pripol1009(ユニケマ社製)、ビス−4,4′アミノシクロヘキシルメタンを一度に配合した後、窒素ガス下、反応水を留去させながら230℃まで徐々に昇温しポリアミドブロック(b1)を得た。
【0049】
次に、この温度で、上記ポリアミドブロック(b1)を含む反応混合物に、ポリエーテルエステルブロック(b2)の原料としてアゼライン酸とポリエチレングリコール、酸化防止剤としてN,N′−ヘキサメチレンビス(3,3−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)を添加し、250℃まで徐々に昇温した。
250℃に到達した時点から800Paまで徐々に減圧し、1時間この温度に保持した後、エステル化触媒としてテトラブトキシジルコニウムを添加し、再び減圧を開始し、最終的には130〜270Paまで減圧することにより反応を進め、3時間後、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)を得た。
【0050】
<実施例1>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、アクリル系樹脂(a1)20重量%とアクリル系ゴム粒子(a2)80重量%であるパラペットSA−FW001(クラレ社製)(以下、これを[A1]と記す。)を64重量部と、アクリル系樹脂(a1)50重量%とアクリル系ゴム粒子(a2)50重量%であるパラペットGR−F(クラレ社製)(以下、これを[A2]と記す。)16重量部と、帯電防止剤として上記の製造方法によりMIを3.3に調整した熱可塑性ポリアミドエラストマー(以下、これを[B1]と記す。)を20重量部とに、酸化防止剤AO−60(ADEKA社製)0.1重量部および滑剤としてモンタン酸エステルであるリコワックスE(クラリアントジャパン社製)0.3重量部をドライブレンドした後に、バンバリーミキサーで混練し180℃に設定したカレンダー成形機にて厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例1は、帯電防止性能、成形性、引張試験による評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0051】
<実施例2>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、[A1]72重量部と[A2]18重量部にし、帯電防止剤として前記の製造方法と同様にしてMIを13.1に調整した熱可塑性ポリアミドエラストマー(以下、これを[B2]と記す。)を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例2も、帯電防止性能、成形性、引張試験による評価、tanδによる評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0052】
<実施例3>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、[A1]89.5重量部とアクリル系樹脂100重量%のGF(クラレ社製)(以下、これを[A3]と記す。)9.5重量部にし、熱可塑性ポリアミドエラストマー[B2]を5重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例3も、帯電防止性能、成形性による評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0053】
<実施例4>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、[A1]72重量部と[A3]18重量部にし、熱可塑性ポリアミドエラストマー[B1]を10重量部とすること以外は実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例4も、帯電防止性能、成形性による評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0054】
<実施例5>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、[A1]36重量部と[A3]54重量部にし、熱可塑性ポリアミドエラストマー[B1]を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例5も、帯電防止性能、成形性による評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0055】
<実施例6>
アクリル系ポリマー混合物(A)として[A1]19.8重量部と[A2]79.2重量部にし、熱可塑性ポリアミドエラストマー[B1]を1重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
表1から明らかなように、実施例6も、帯電防止性能、成形性による評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0056】
<実施例7>
アクリル系ポリマー混合物(A)として[A1]18重量部と[A2]72重量部にし、帯電防止剤として前記の製造方法と同様にしてMIを19.3に調整した熱可塑性ポリアミドエラストマー(以下、これを[B3]と記す。)を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
表1から明らかなように、実施例7も、帯電防止性能、成形性による評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0057】
各評価項目の良否に関する判定は下記の基準に従った。
[帯電防止性能の評価]
フィルム、シートを100mm角にカットして、温度20℃で63%RHの恒温室にて、超高抵抗計(アドバンテスト社製 R8340A)を用いて、表面固有抵抗値の測定を行い以下の基準にて評価した。
評価基準
◎:表面固有抵抗値が1011Ω未満
○:表面固有抵抗値が1011以上〜1014Ω未満
×:表面固有抵抗値が1014Ω以上
[成形性の評価]
カレンダーロールでの加工において、ロールへの粘着性を以下の基準にて評価した。
評価基準
◎:容易に剥離できる。
○:特に問題なく、剥離できる。
△:粘着傾向はみられるが、剥離できる。
×:ロールに粘着し剥離できない。
【0058】
<比較例1>
アクリル系ポリマー混合物(A)として[A3]90重量部と熱可塑性ポリアミドエラストマー[B1]を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例1では十分な帯電防止性能が得られていないことがわかる。
【0059】
<比較例2>
アクリル系ポリマー混合物(A)として[A2]30重量部と[A3]45重量部と帯電防止剤としてポリアミド系共重合体をベースとしたIRGASTAT P22(以下、これを[B4]と記す。)25重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例2では十分な帯電防止性能は得られているが、ロールに粘着して成形性に問題があった。
【0060】
<比較例3>
アクリル系ポリマー混合物(A)として[A1]9重量部と[A2]81重量部にし、帯電防止剤として[B4]を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例3ではロールに粘着し安定した成型加工が出来ないだけでなく、十分な帯電防止性能が得られていないことがわかる。
【0061】
<比較例4>
アクリル系ポリマー混合物(A)の替わりにオレフィン系樹脂であるEG8003(ダウケミカル社製)(以下、これを[C1]と記す。)90重量部と熱可塑性ポリアミドエラストマー[B1]を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例4ではロールに粘着し安定した成型加工が出来ないだけでなく、十分な帯電防止性能が得られていないことがわかる。
【0062】
【表1】


A1:パラペットSA−FW001(a1/a2=20/80 クラレ社製)
A2:パラペットGR−F(a1/a2=50/50 クラレ社製)
A3:GF(a1が100% クラレ社製)
B1:熱可塑性ポリアミドエラストマー
B2:熱可塑性ポリアミドエラストマー
B3:熱可塑性ポリアミドエラストマー
a1/a2:アクリル樹脂/アクリル系ゴム状粒子

【0063】
【表2】

B4:ポリアミド系共重合体系 IRGASTAT P22(チバスペシャリティー社製)
C1:オレフィン系樹脂 EG8003(ダウケミカル社製)

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明による帯電防止性アクリル系樹脂組成物は、熱可塑性ポリアミドエラストマー(帯電防止剤)の少量添加で十分な帯電防止性能が得られ、さらに帯電防止剤の滲出による帯電防止性能の低下や被着体への汚染がなく、さらに成形性、物性に優れるため、マスキングテープやマーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなど各種のフィルムおよびシート分野に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)とからなるアクリル系ポリマー混合物(A)に帯電防止剤として熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(B)を添加してなることを特徴とする帯電防止性アクリル系樹脂組成物
【請求項2】
請求項1記載の熱可塑性ポリアミドエラストマー(B)のメルトインデックス(MI)が15g/10min以下であることを特徴とする帯電防止性アクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の帯電防止性アクリル系樹脂組成物から形成されることを特徴とするフィルムおよびシート。

【公開番号】特開2008−179707(P2008−179707A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14613(P2007−14613)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】