説明

平板印刷液用組成物およびこれを用いた平板印刷液

【課題】 酸化重合乾燥型ビヒクルを用いた平板印刷において、印刷紙面の光沢性の向上、裏移り防止性、耐ブロッキング性、耐指紋付着性の飛躍的向上、加えて撥水性や防水性のさらなる向上を、既存の平板印刷機をもってして、可能とすることを目的とする
【解決手段】 平板印刷液用組成物は、界面活性剤により分散安定化されてなる合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末を含有する。また、平板印刷液は、合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末及びビヒクルを含有する。合成樹脂エマルジョンの樹脂は、ガラス転移温度が−5℃以上であること、アクリル系共重合体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板印刷液、例えば平板印刷用オーバープリントニス(以下、OPニスと略記することもある。)や平板印刷用インキに用いられる組成物、およびこれを用いた平板印刷液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポスター、カタログ、カレンダー、ちらしなどの商業印刷をはじめ、包装印刷、出版印刷、新聞印刷など幅広い分野で、平板印刷がさかんに利用されている。平板印刷とは、親油性の画線部と親水性の非画線部から構成されている殆ど高低差がない版面(通常、平板と称する)に、親油性の平板印刷液と水とを交互に与えながら印刷を行なう方式である。
【0003】
平板印刷液には、樹脂、植物油、高沸点石油系溶剤、場合により、可塑剤やワックスを含有する通称、ビヒクルが含まれている。一般に、ビヒクルは、空気中の酸素を吸収して、ビヒクル中の樹脂の酸化重合が進むことにより乾燥するもので(酸化重合乾燥型ビヒクル)、酸化重合を促進させるべくオクチル酸などの有機酸とコバルトやマンガンなど遷移金属との金属塩ドライヤーが一般には配合される。また、場合により、ビヒクルには熱乾燥方式を加味することが可能である。
【0004】
しかし、金属塩ドライヤーを配合したり、熱乾燥方式を加味したりしても、印刷面の乾燥には、通常、数時間という長い時間を要し、乾燥が完了するまでは次の加工などの作業ができ難いという極めて作業効率の悪いものであった。また、乾燥に時間が掛かるので、印刷したものを重ねて置くと、印刷面の裏面が印刷インキで汚れる、所謂「裏移り」という問題や、場合により印刷面の裏と表で「ブロッキング」する問題が発生することがある。
【0005】
特に昨今は、環境問題によりビヒクル中の高沸点石油系溶剤の比率を減少させる傾向にあるので、植物油として乾性油・半乾性油の使用量が多くなるにつれて、使用する樹脂の溶解性が高まり溶剤離脱が遅くなり、且つ紙への浸透が遅くなることから乾燥性が低下し、ますます「裏移り」や「ブロッキング」の問題が発生し易くなって来ている。
【0006】
これらの防止方法としては、シリコーン処理した加工でんぷんなどの裏移り防止剤をビヒクルに予め練り込んだり、又は、印刷直後にでんぷんなどの微粉末を印刷面に散布する所謂、パウダー散布などの方法が採られている。パウダー散布方式は効果的であるが、印刷機周辺にパウダーが飛散、浮遊し、環境衛生面で問題である。また、印刷面に微粉末が付着すると、印刷面の光沢が低下し、且つ印刷面が粗面化されるなど、商品価値を著しく低下させる問題があった。さらに、溶剤離脱を速くするために、使用する樹脂の溶解性を低下させると、印刷面の光沢が低下するという問題が発生する。
【0007】
この様な問題を解決する方法として、溶解性パラメータが19(MPa)1/2より小さく、かつ、溶剤成分に相溶するポリマーをオフセット印刷インキ組成物中に所定量含有させる方法(特許文献1,2)、植物油成分と流動パラフィンからなる溶剤をオフセット印刷用インキ組成物中に含有させる方法(特許文献3)が提案されている。
【0008】
しかし、特許文献1〜3に記載の方法では、「裏移り」や「ブロッキング」の問題は改善できるが、光沢については元々のレベルを損わない程度であり、重ね印刷した場合にはむしろ著しく低下する問題が生じている。
【0009】
特許文献4には、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを所定量含有する印刷インキ組成物が開示されている。しかし、この方法でも「裏移り」や「ブロッキング」の問題は改善できるものの、光沢については元々のレベルを損わない程度である。
【0010】
酸化重合乾燥型ビヒクルに代わるものとして、紫外線硬化型ビヒクルが近年、提案されている。紫外線硬化型ビヒクルは、極めて短時間で硬化・乾燥し、パウダー散布も必要とせず、印刷面の光沢、耐摩擦性、裏移り防止性、耐ブロッキング性などに優れ、さらに、溶剤を必要としないので、火災、爆発、大気汚染などの問題もなく、無黄変・低臭性などの点でも優れている。
【0011】
しかし、紫外線照射設備が必要になるので、経済性に問題がある。また、紫外線硬化する特殊なモノマー、オリゴマー及び光重合開始剤を必要とするので、価格が高くなる。さらに、低温環境下での保存を要すること、保存期間が制約されること、顔料分散性や印刷適性、印刷基材への接着性が制限されること、顔料などの配合成分による影響や膜厚によって硬化速度が異なること、などの問題が多い。加えて、印刷機の洗浄などには特殊な溶剤を使用しなければならず、まだまだ多くの問題を抱えている。
【0012】
酸化重合乾燥型ビヒクルや紫外線硬化型ビヒクルの夫々の問題を改善するために、これらを併用した所謂、ハイブリッド乾燥タイプが提案されている(例えば、特許文献5〜7を参照)。しかし、ハイブリッド乾燥タイプは、従来の酸化重合乾燥型及び紫外線硬化型を単にブレンドして使用するものであり、得られる性能も夫々の乾燥方式の中間的レベルにすぎず、根本的な解決に至っていない。特に、紙面の光沢については元々のレベルを損わない程度であり、重ね印刷した場合にはむしろ著しく低下する問題が生じている。
【0013】
一方、近年、特に問題化してきているのが、平板印刷されるポスター、カタログ、カレンダー、ちらし、包装紙、週刊誌などの出版物の表紙や写真集などの印刷物に手で触れた際の指紋付着性である。これらの印刷物は、美的感覚・意匠性の向上と相まって高い商品性が求められ、手で触れられる機会が多いので、手の汗に含まれる皮脂や指紋が付き易い。その結果、印刷物の商品価値が損われる場合があり、特に意匠性の高い印刷物、例えば化粧品の紙箱、黒色基調に印刷したショッピングバックやカタログ、写真集などにおいては指紋付着性は重大な問題である。
【0014】
この問題への対策としては、一般的には、これらの印刷物の商品価値を損わない、あるいは高めるために、印刷面にPP(ポリプロピレン)貼り、ビニール引き、ビニルプレス加工などの方法を行なっているが、コストが高くなるという問題がある。
【0015】
また、高湿度の環境や結露が発生するような環境で使用ないし保管される商品、例えば、酒瓶のラベルや酒瓶を入れる箱、冷凍食品の包装においては、印刷紙面に撥水性や防水性を付与するために、印刷紙面にOPニスを塗布する手法が一般に採用されているが、充分満足できる効果が得られていないのが現状である。
【0016】
さらに、印刷市場においては、新たな設備を投資せずに、既存の平板印刷機をそのまま使用して、印刷時の「裏移り」や「ブロッキング」の問題を改善し、光沢性を向上させ、指紋付着性を低減し、加えて撥水性や防水性をさらに向上させることが望まれている。
【特許文献1】特開2002−155227号公報
【特許文献2】特開2003−147253号公報
【特許文献3】特開2002−226754号公報
【特許文献4】特開2006−8845号公報
【特許文献5】特開平11−228899号公報
【特許文献6】特開2001−123100号公報
【特許文献7】特開2003−64288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、このような事情に照らし、酸化重合乾燥型ビヒクルを用いた平板印刷において、印刷紙面の光沢性の向上、裏移り防止性、耐ブロッキング性、耐指紋付着性の飛躍的向上、加えて撥水性や防水性のさらなる向上を、既存の平板印刷機をもってして、可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明者等は、詳細に検討を重ねた結果、酸化重合乾燥型ビヒクルに、界面活性剤により分散安定化されてなる合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末を含有させることにより、既存の平板印刷機による印刷紙面の光沢性の向上、裏移り防止性、耐ブロッキング性、耐指紋付着性の飛躍的向上、加えて撥水性や防水性のさらなる向上が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、界面活性剤により分散安定化されてなる合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末を含有することを特徴とする平板印刷液用組成物に関するものである。また、本発明は、この平板印刷液用組成物及びビヒクルを含有することを特徴とする平板印刷液に関するものである。
【0020】
本発明における平板印刷には、平板印刷液と湿し水とを交互に与えながら印刷を行なう湿式平板印刷、版の表面をシリコーン樹脂でコートし、その面で撥水性を維持することで水を必要としない水なし平板印刷、所謂、乾式平版印刷が含まれる。また、平板印刷の印刷方式には、平板印刷液をインキ着けローラーを経て版へ移動させ、次いで、版からいったんゴムブランケットへ移し、ゴムブランケットから被印刷面へ移して印刷するオフセット方式、版面の平板印刷液を直接被印刷面へ転移させるじか刷り方式が含まれる。なお、大部分の平板印刷はオフセット方式で行なわれるので、平板印刷のことをオフセット印刷と呼んだり、平板印刷インキのことをオフセット印刷インキと呼んだりすることが多い。
【0021】
本発明における平板印刷液には、印刷インキ、印刷面を被覆するOPニスが含まれる。印刷インキは、基本的には黄、紅、藍、墨の4色が用いられ、これらのインキを重ね印刷することにより微妙な色彩を発揮することができる。OPニスとは、印刷面に光沢を着けたり、印刷面を保護して耐摩擦性や裏移り防止性、耐ブロッキング性などを向上させたりすることを目的に、印刷の最後に印刷ないしコーティングして使われている透明又は半透明のニスのことである。印刷インキやOPニスの紙面に対する着量は、一般的に塗布厚みとして1〜2μm程度である。なお、本発明の平板印刷液における「液」は、流動性を有する物質の総称であり、液状やペースト状の物質が含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸化重合乾燥型ビヒクルを用いた平板印刷において、既存の平板印刷機による印刷紙面の光沢性の向上、裏移り防止性、耐ブロッキング性、耐指紋付着性の飛躍的向上、加えて撥水性や防水性のさらなる向上が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
以下の実施形態では、(1)平板印刷液用組成物、(2)平板印刷液について順次説明する。
【0024】
(1)平板印刷液用組成物
本発明の平板印刷液用組成物は、界面活性剤により分散安定化されてなる合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末(以下、エマルジョン樹脂粉末ともいう。)を含有することを特徴とする。まず、合成樹脂エマルジョンの合成樹脂について説明する。
【0025】
本発明で用いられる合成樹脂は、ガラス転移温度が−5℃以上であることが好ましく、より好ましくは30℃以上、更により好ましくは45℃以上である。また、ガラス転移温度の上限は、通常110℃、好ましくは90℃、さらに好ましくは70℃である。ガラス転移温度が低すぎると、耐指紋付着性、裏移り防止性、耐ブロッキング性、さらに撥水性や防水性の効果が小さくなる傾向がある。加えて、樹脂粉末の保存中において発生し易い粒子同士の粘結・凝集によるブロッキングを防止するために、微粉末の炭酸カルシウム等を15〜30重量%程添加してまぶすような状態にしておく等の処置が必要となり、添加された微粉末が印刷紙面をざらつかせる傾向がある。なお、これらのガラス転移温度(Tg値)はFOXの式から算出できる。
【0026】
本発明で用いられる合成樹脂としては、典型的には、アクリル系共重合体が挙げられる。アクリル系共重合体は、アクリル系モノマーや芳香族ビニルモノマーを主たる共重合成分として含有する共重合体である。
【0027】
アクリル系共重合体を構成するアクリル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの脂肪族(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族(メタ)アクリレートの他、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でもメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基を有する脂肪族(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。これらのモノマーのうち1種を使用し、又は2種以上併用しても良い。なお、ここで「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0028】
かかるアクリル系モノマーの含有量は、共重合成分全体に対して好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上であり、上限としては好ましくは90重量%以下、特に好ましくは80重量%以下である。
【0029】
アクリル系共重合体は、芳香族ビニルモノマーを共重合成分として含有することが好ましい。かかる芳香族系ビニルモノマーの含有量は、共重合成分に対して10重量%以上であることが好ましく、特には20重量%以上であることが好ましい。また、芳香族系ビニルモノマーの含有量の上限は、通常70重量%、好ましくは50重量%である。芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられるが、重合のし易さからスチレンがより好ましい。芳香族系ビニルモノマーの共重合量が少なすぎると、平板印刷液において光沢性の向上に寄与し難くなる傾向がある。
【0030】
アクリル系共重合体には、必要ならば、カルボキシル基含有モノマーを導入し、アルカリ中和して、合成樹脂エマルジョン粒子自体の安定性を高めることもできる。カルボキシル基含有モノマーが導入され、中和された合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末は、後述するビヒクルとの練肉・混和安定性、転移性、版上での機械安定性、さらに顔料等の分散性を向上させる点でも好ましい。カルボキシル基含有モノマーとしては、エチレン性モノ及びジカルボン酸が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸などが挙げられる。これらは単独使用又は2種以上の併用が可能である。この中でも、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸がより好ましい。カルボキシル基含有モノマーの使用量は、全モノマーに対して0.05〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%である。使用量が少なすぎると、上述の効果は期待できなくなる傾向があり、使用量が多すぎると、ビヒクルに添加した際に粘度への影響が出る傾向がある。また、酸変性アルキッド樹脂、酸変性アクリル系及びアクリル・スチレン系樹脂の含有により、上記と同様な効果を付与することも可能である。この場合、アクリル系共重合体の重合時に配合しても又は重合後に添加しても良い。
【0031】
また、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記以外の共重合可能なモノマーを併用することができる。例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのカルボン酸ビニル、(メタ)アクリルニトリルなどのニトリル系モノマー、(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマー、メチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテルといったビニル系モノマー、エチレンなどのオレフィン系モノマー、ブタジエンなどのジエン系モノマーなどが挙げられる。これらは単独使用又は2種以上の併用が可能である。また、場合により、上記カルボン酸ビニルとオレフィン系モノマーなどとの共重合体からなる樹脂粉末の使用も可能である。
【0032】
さらに、本発明の目的を阻害しない範囲において、グリシジル基含有モノマー、加水分解性シリル基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー、アリル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、アミド基含有モノマー、カルボニル基含有モノマーなどの官能基含有モノマーなどを併用することができる。
【0033】
上記グリシジル基含有モノマーの具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
上記加水分解性シリル基含有モノマーの具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニルアルキルジアルコキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0035】
上記アセトアセチル基含有モノマーの具体例としては、例えば、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルクロトナート等のアセトアセトキシアルキルクロトナート;2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
上記ヒドロキシル基含有モノマーの具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜10、特に1〜6のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
上記分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマーの具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン;ジアリルフタレート;トリアリルシアヌレート;トリアリルイソシアヌレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
上記アリル基含有モノマーの具体例としては、例えば、トリアリルオキシエチレン、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン等のアリル基を2個以上有するモノマー;アリルグリシジルエーテル;酢酸アリル等が挙げられる。
【0039】
上記スルホン酸基含有モノマーの具体例としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
上記アミド基含有モノマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
上記カルボニル基含有モノマーの具体例としては、例えば、ダイアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
これらの官能基含有モノマーのうち1種を単独で使用し、又は2種以上を併用することができる。
【0040】
これら官能基含有モノマーの使用は、ポリマーのガラス転移温度が高くなるにつれて脆くなってくる共重合体をより強靭な共重合体に改質するのに効果的である。また、練肉・混和時の機械的安定性にも効果的である。さらに、印刷下地に対する密着性にも寄与する効果がある。その使用量は、全モノマーに対して0.05〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%、更に好ましくは0.5〜2重量%である。使用量が少なすぎると、強靭な共重合体が得られにくくなる傾向があり、使用量が多すぎると、共重合時の安定性及び得られた合成樹脂エマルジョンの経時安定性が悪くなる傾向がある。
【0041】
次に、合成樹脂エマルジョンの製造、さらにこのエマルジョンからの樹脂粉末の製造について説明する。
【0042】
本発明で用いる合成樹脂エマルジョンは、界面活性剤を用いて、各種モノマー、例えばアクリル系又はアクリル・スチレン系モノマーを主成分とし、必要に応じて官能基含有モノマーを含む共重合成分を乳化重合して製造することができる。
【0043】
界面活性剤としては、合成樹脂エマルジョンを乳化・分散安定化させるものであれば特に制限はなく、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型構造やプルロニック型構造を持つノニオン性界面活性剤、更に、構造中にラジカル重合性の不飽和結合を有する所謂、反応性界面活性剤を使用することができる。必要ならば、カチオン性界面活性剤も使用することができる。現実的には、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤の組み合わせが望ましい。
【0044】
界面活性剤の使用量は、特に制限はないが、乳化重合をスムーズに進行させ、重合を容易にコントロールでき、且つ重合中に発生する粗粒子やブロック状物の発生を防止することができる量が好ましく、全モノマーに対して、固形分換算で夫々単独使用であればアニオン性界面活性剤で0.03〜5重量%、特には1〜3重量%が好ましく、ノニオン性界面活性剤で2〜10重量%、特には3〜5重量%が好ましい。合成樹脂エマルジョンの最終的な不揮発分にも因るが、界面活性剤の使用量が多すぎると、重合中においてエマルジョン自体の粘度が上がり、安定な状態を保持できなくなる可能性が高まる傾向がある。界面活性剤の使用量が少なすぎると、重合中において粗粒子やブロック状物が起こり易くなり、安定な状態を保持でき難くなる傾向がある。
【0045】
界面活性剤として、上述の乳化重合用の界面活性剤の他に、HLBの低い油溶性乳化剤や鉱油用乳化剤を更に用いることができる。HLBの低い乳化剤を合成樹脂エマルジョンに後添加することにより、合成樹脂エマルジョンを樹脂粉末化し、ビヒクルに添加した際に、ビヒクルに混和し易くすることができる。
【0046】
乳化重合の方法としては、例えば、反応缶に、水や界面活性剤等を仕込み、昇温して水溶液を得た後、モノマーと重合用触媒を滴下するモノマー滴下式乳化重合法、滴下するモノマーを予め界面活性剤と水とで乳化・分散させた後、反応缶内の水溶液に滴下して重合する乳化モノマー滴下式乳化重合法などが挙げられる。重合工程の管理や重合自体のコントロール性などの面から、乳化モノマー滴下式乳化重合法が便利である。
【0047】
更に具体的に乳化モノマー滴下式による乳化重合過程を説明すると、以下の通りである。まず、反応缶に、全水量の45〜50重量%、全界面活性剤量の10〜30重量%、必要に応じてバッファーや保護コロイド等を仕込み、70〜80℃に昇温した後、全モノマーを全水量の45〜50重量%、全界面活性剤量の70〜90重量%にて予め乳化・分散させた乳化モノマーの一部と重合用触媒の一部を加え、初期重合を実施する。次いで、残りの乳化モノマーと重合用触媒を反応缶に滴下しながら重合を進行させる。重合が完了したと判断されたところで反応缶を冷却し、目的とする合成樹脂エマルジョンを取り出す。
【0048】
乳化重合用触媒としては、無機又は有機過酸化物を使用することができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等のペルオキソ酸化合物;過酸化水素;ジ−t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーオクトエート、t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のペルオキシド化合物;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾジイソブチレート、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ系化合物;およびこれらと酸性亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤などが挙げられる。これら重合用触媒は1種を単独使用し、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、乳化重合が容易な点で過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムが好ましい。重合用触媒の使用量は、通常、全モノマーに対して0.1〜2重量%である。
【0049】
通常、乳化重合に際しては、共重合性モノマー、界面活性剤、重合用触媒を用い、必要に応じて他の成分をさらに用いることができる。このような他の成分としては、例えば、保護コロイド、重合調整剤、補助乳化・分散安定化剤、可塑剤等が挙げられる。乳化重合の反応条件は、共重合性モノマーの種類、平板印刷液の用途・目的などに応じて適宜選択することができる。
【0050】
保護コロイドは、合成樹脂エマルジョンの粒子径を調整するなどの目的で使用することができる。保護コロイドとしては、水溶性高分子、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、水溶性アクリル系オリゴマーが挙げられる。水溶性アクリル系オリゴマーとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基、アミド基などの親水性基を有する、重合度が10〜500程度のアクリル系重合体が挙げられる。これらは単独使用又は2種以上の併用が可能である。
【0051】
重合調整剤としては、公知のものの中から適宜選択することができる。このような重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、バッファーなどが挙げられる。
【0052】
連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒドなどのアルデヒド類;および、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチルなどのメルカプタン類などが挙げられる。これら連鎖移動剤のうち1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。連鎖移動剤を用いることにより重合を安定に行わせることができるが、重合度を低下させ、皮膜の強靭性や弾力性などを損うことにもなるので、その使用量をできる限り少なくすることが望ましい。
【0053】
バッファーとしては、例えば、酢酸ソーダ、酢酸アンモニウム、第二リン酸ソーダなどが挙げられる。これらバッファーのうち1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0054】
補助乳化・分散安定化剤としては、例えば、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック重合体の所謂、プルロニック系乳化剤やナフタレンスルホン酸系高分子活性剤等が挙げられる。
【0055】
可塑剤としては、塗料用・接着剤用に汎用的に使用されるアジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤などが使用できる。
【0056】
これら他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に制限はなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0057】
かくして得られる合成樹脂エマルジョンは、その重量平均分子量が10万〜200万であることが好ましく、特に20万〜100万であることがさらに好ましい。かかる重量平均分子量が小さすぎると、本発明の目的を達成し難くなる傾向があり、大きすぎると、特に合成樹脂エマルジョンの不揮発分が高い場合には、重合中にゲル化が起こり易くなる傾向がある。
【0058】
また、合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂の平均粒子径は、0.05〜1μmであることが好ましく、特には0.07〜0.3μmであることがさらに好ましい。平均粒子径が小さすぎると、得られた樹脂粉末の見掛け重量平均粒子径が小さくなるので、取り扱い時に粉塵が舞い上がり易くなり作業環境を悪くする上、この樹脂粉末を含有する平板印刷液を基材に印刷したとき、基材上に成形された印刷層中に存在する樹脂粉末の粒子径が印刷層の厚みに対して小さくなりすぎて、本発明の目的を達成し難くなる傾向がある。一方、平均粒子径が大きすぎると、得られた樹脂粉末の重量平均粒子径が大きくなりすぎるので、この樹脂粉末を平板印刷液中に均一に混ぜ難くなり、印刷層中に存在する樹脂粉末を所望の粒子径に調整し難くなる傾向がある。すなわち、印刷紙面がざらついたり、擦れた場合に傷が付き易くなる傾向がある。
【0059】
さらに、合成樹脂エマルジョンの不揮発分は、30〜60重量%、特には40〜50重量%に調製されることが好ましい。不揮発分が少なすぎると、噴霧乾燥において乾燥熱量を多く必要として生産コストアップになるなど経済的に問題となり、且つ乾燥が十分でなくなる傾向がある。一方、不揮発分が多すぎると、合成樹脂エマルジョンの粘度が高くなりすぎ、噴霧自体がスムーズにならなくなり、目的とする粒子径を有する樹脂粉末が得られ難くなる傾向がある。
【0060】
合成樹脂エマルジョンから樹脂粉末を製造するに際しては、乾燥処理を行なう。合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末を製造する際の乾燥方法としては、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝析後の温風乾燥などが挙げられる。これらの中でも、生産コスト、省エネルギーの観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0061】
噴霧乾燥での噴霧形式としては、例えばディスク式、ノズル式などが挙げられる。噴霧乾燥の熱源としては、例えば、熱風、加熱水蒸気などが挙げられる。噴霧乾燥の条件としては、噴霧乾燥機の大きさ、種類、合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度、流量等に応じて適宜設定することができる。噴霧乾燥の温度は、通常は、80〜150℃程度である。
【0062】
噴霧乾燥処理をさらに具体的に説明する。まず合成樹脂エマルジョン中の不揮発分を調整し、これを噴霧乾燥機のノズルから連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させる。場合により、不揮発分を調整した合成樹脂エマルジョンの噴霧液を噴霧に際して予め加温してノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させることも可能である。噴霧に際して予め加温することで、乾燥スピードが速くなるのみならず、噴霧液の粘度低下に伴って、噴霧液中の不揮発分の増加が可能で、生産コストの低減にも寄与する。
【0063】
噴霧乾燥で得られる樹脂粉末は、噴霧前の合成樹脂エマルジョン中の重合体粒子(粒子径は0.05〜1μm程度)の数十個〜場合により数百個が絡まった形態を採る。エマルジョン樹脂粉末の見掛け重量平均粒子径は、エマルジョン樹脂粉末をビヒクルに配合する際の作業の容易さから判断して、5〜200μm程度が好ましく、より好ましくは20〜100μmである。見掛け重量平均粒子径が小さすぎると、取り扱い時に粉塵が舞い上がり、作業環境が悪化する傾向がある。見掛け重量平均粒子径が大きすぎると、ビヒクルに添加してビーズミルや三本ロールミルなどで練肉・分散を行なうのに時間が多く掛かる傾向がある。すなわち、OPニスやインキの一般的な練肉・分散時間内で十分に練肉・分散するのが難しくなる傾向にある。
【0064】
エマルジョン樹脂粉末の見掛け重量平均粒子径は、通常、フルイを多段に重ねた音波振動式の自動フルイ分け粒度分布測定器などを使用して測定することができる。例えば、(株)セイシン企業製のロボットシフター RPS−85を用い、JIS−Z8801に基づく「目びらき」が20μmから300μmの適宜8段のフルイをセットし、エマルジョン樹脂粉末品を分級することによって、見掛け重量平均粒子径(単位;μm)を求めることができる。
【0065】
エマルジョン樹脂粉末を製造するに際しては、必要に応じて、乾燥処理の前又は後に、各種添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、有機・無機顔料、顔料・フィラーなどを分散させるための分散剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが挙げられる。これらの添加剤が粉末品の場合には、乾燥処理後のエマルジョン樹脂粉末に直接に添加しても良い。酸化防止剤については、乾燥処理前の合成樹脂エマルジョンに添加することが好ましい。
【0066】
紫外線吸収剤は、印刷物紙面が太陽光線などにより黄変して商品価値が低下するのを防止するために添加される。紫外線吸収剤としては、通常、塗料用などに汎用的に使用されるものが使用できる。例えば、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、更にはヒンダードアミン系光安定剤なども使用することができ、これらは単独使用又は2種以上の併用が可能である。
【0067】
酸化防止剤は、エマルジョン樹脂粉末を取り扱う時などにおいて、静電気爆発などを防止するのに効果的である。酸化防止剤としては、通常、汎用的に使用されるものが使用できる。例えば、フェノール系、ビスフェノール系、リン系酸化防止剤などが挙げられる。これらは単独使用又は2種以上の併用が可能であり、粉末化前の合成樹脂エマルジョンに添加することが好ましい。
【0068】
また、本発明においては、必要に応じて抗粘結剤を、噴霧乾燥前の合成樹脂エマルジョンに混合したり、噴霧乾燥後のエマルジョン樹脂粉末に混合したり、噴霧乾燥時に、合成樹脂エマルジョンを噴霧するノズルと別のノズルから噴霧するなどして、併用することができる。
【0069】
抗粘結剤を併用することにより、抗粘結剤でエマルジョン樹脂粉末を塗すような状態になり、貯蔵中などにおいて粒子同士が粘結して凝集しブロッキングするのを防止することが可能となる。
【0070】
抗粘結剤としては、特に制限されず、例えば、公知の不活性な無機微粉末又は有機微粉末を使用することができる。無機微粉末としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、クレーなどが挙げられる。有機微粉末としては、例えば、ガラス転移温度が70℃以上の合成樹脂を含有する合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥して得られる樹脂粉末を使用することができる。抗粘結剤の使用量は、得られるエマルジョン樹脂粉末に対して、好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは5〜12重量%である。抗粘結剤の使用量が多くなると、光沢が低下するのみならず、印刷紙の表面がざらついてきて、商品価値が低下する傾向がある。これら抗粘結剤は単独使用又は2種以上の併用が可能であり、例えば有機微粉末と無機微粉末の併用が可能である。
【0071】
(2)平板印刷液
本発明の平板印刷液は、上述の平板印刷液用組成物及びビヒクルを含有することを特徴とするものであり、上述の平板印刷液用組成物とビヒクルを混合して調製された平板印刷液のみならず、通常用いられる公知の平板印刷液に、上記のエマルジョン樹脂粉末を少なくとも配合したものも包含される。
【0072】
平板印刷液中におけるエマルジョン樹脂粉末の含有量は、全組成物(液全体)に対して好ましくは0.3〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。含有量が少なすぎると、印刷紙面の光沢性の向上、耐指紋付着性、裏移り防止性、耐ブロッキング性、さらに撥水性や防水性の向上が難しくなる傾向があり、含有量が多すぎると、粘度が上昇し、流動性や転移性が悪くなり、所謂、パイリング現象を起こす傾向が出てくる。また、耐指紋付着性、裏移り防止性、撥水性、防水性は良くなる傾向があるが、光沢性はさほど向上しない傾向がある。
【0073】
ビヒクルは、一般には、バインダー、植物油(場合により加工油)及び高沸点溶剤を含有し、さらに必要に応じて可塑剤を含有する。
【0074】
ビヒクルに使用されるバインダーとしては、特に限定されず、例えば、ロジン変性フェノール樹脂類、ロジン変性マレイン酸樹脂類、スチレン・マレイン酸樹脂類、アルキッド樹脂(脂肪酸変性半乾性油タイプのポリエステル樹脂も含む)類及び石油樹脂類などが使用される。また、アクリル系共重合体骨格に共重合性不飽和二重結合を導入した樹脂類等も使用できる。特に、樹脂としての性能のバランスが良好であることから、ロジン変性フェノール樹脂類、アルキッド樹脂類を用いるのが望ましい。これらの樹脂類は1種を単独で使用したり、2種以上を適宜に併用することもできる。平板印刷液におけるバインダーの含有量は通常25〜60重量%であり、好ましくは35〜55重量%である。バインダーの含有量が少なすぎると、バインダーとしての接着・密着効果が出難くなる傾向があり、さらに顔料等の分散性が低下する傾向がある。バインダーの含有量が多すぎると、乾燥が遅れて、耐摩耗性、裏移り防止性、耐ブロッキング性などの物性低下となる傾向がある。
【0075】
ビヒクルに使用される植物油としては、乾性油・半乾性油タイプのものを特に限定なく使用できる。例えば、亜麻仁油、キリ油、大豆油、サフラワー油などの他、これらの植物油を色々の方法で加工して、乾燥性、光沢、耐水性などを改善したり、高粘度化したりする所謂、加工油として使用することもできる。例えば、亜麻仁油を180〜250℃で1〜2時間加熱・重合して粘度を高めたもの、不乾性油のひまし油を触媒の存在下で加熱脱水して脱水ひまし油とし乾性油にしたもの、さらに大豆油などのメチル・エチル・ブチル・プロピルなどのモノエステル化したものなども使用される。これらの植物油は1種を単独で使用したり、2種以上を適宜に併用することもできる。平板印刷液における植物油の含有量は通常20〜60重量%であり、好ましくは35〜55重量%である。植物油の含有量が少なすぎると、耐摩耗性、乾燥性、光沢が十分でない傾向がある。植物油の含有量が多すぎると、セット性、耐ブロッキング性が十分でない傾向がある。
【0076】
ビヒクルに使用される溶剤としては、使用する樹脂に対して、適正な溶解性又は希釈性と所望の蒸発速度を持ち平板印刷液に必要な粘度と流動性を与えるものが望ましく、各種のものを使用できる。そして、環境に適し、臭気と毒性が少なく印刷物に悪影響を与えないものが特に好適に使用できる。例えば、沸点が230〜320℃の石油系溶剤である脂肪族炭化水素系溶剤を蒸留し、約20℃の幅で留分をカットしたものが使われる。具体的には、代表的な脂肪族炭化水素系溶剤である新日本石油(株)の0号、4号〜7号ソルベントが望ましく、特に昨今では環境対策面から、芳香族炭化水素の含有率が1重量%以下で、沸点が200℃以上の新日本石油(株)のAF4号〜7号ソルベントの使用がより望ましい。これらの溶剤は1種を単独で使用し、又は2種以上を適宜に併用することができる。
【0077】
さらに、n−パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系、α−オレフィン類、高級アルコール類、グリコール及びその誘導体、流動パラフィン、ミネラルスピリット、鉱油類など、各種の溶剤を、本発明の目的を阻害しない範囲において、使用することができる。平板印刷液における溶剤の含有量は、平板印刷液の種類や用途等に応じて、適宜設定される。
【0078】
平板印刷液としての平板印刷用OPニスや平板印刷用インキ(以下、総括的に「OPニス/インキ」と表記する。)は、印刷適性は勿論のこと、乾燥性、生産性、光沢、耐摩耗性、裏移り防止性、耐ブロッキング性などの性能・物性が求められることから、一般には、各種添加剤を含有する。例えば、植物油としての乾性油・半乾性油類の酸化重合・乾燥を促進させる金属ドライヤー、印刷したものを重ねて置いた場合に発生する裏移りやブロッキングを防止する裏移り防止剤、皮膜に滑性を与えて耐摩耗性を向上させるワックス類などが主たる添加剤として挙げられる。
【0079】
OPニス/インキを印刷した紙面上などでの乾燥は、通常、酸化重合乾燥である。具体的に説明すると、亜麻仁油などのように分子中に不飽和二重結合を有する乾性油や加工油を含有するOPニス/インキが印刷されて、紙などの表面に薄層となって移されると、OPニス/インキの表面積が拡大され、空気中の酸素を吸収し酸化重合して固化し、皮膜を形成して乾燥する。
【0080】
この酸化重合乾燥を促進するのが金属ドライヤーであり、OPニス/インキ用として市販されているビヒクルには適量の金属ドライヤーが含まれている。金属ドライヤーは、一般的には、オクチル酸、ステアリン酸、ナフテン酸などの有機酸とコバルト、マンガンなどの遷移金属との金属塩である。OPニス/インキ中における金属ドライヤーの含有量は0.3〜3重量%が好ましい。
【0081】
また、必要ならば、酸化重合乾燥を促進する金属ドライヤーに加えて、OPニス/インキ自体の保存性を損ねない量の反応硬化剤を併用することもできる。反応硬化剤としては、例えば、金属アルコキシド類、金属キレート類等が挙げられる。
【0082】
OPニス/インキの紙面上などでの乾燥としては、上述の酸化重合乾燥が一般的であるが、この他に例えば、熱重合乾燥、紫外線硬化(光重合乾燥)を併せて行なうことも可能である。特に、熱重合乾燥は酸化重合乾燥を補完する意味合いがある。紫外線硬化(光重合乾燥)は、アクリル系オリゴマー・アクリル系モノマーと光重合開始剤とを配合したOPニス/インキを印刷した後に、紫外線を照射してラジカルを発生させ、瞬時に連鎖的にラジカル重合を進行させて固化・乾燥させる方式である。しかし、紫外線硬化は、酸化重合乾燥と比べて、顔料分散性、印刷適性、基材への密着性がいずれも低く、また残留モノマーによる臭気発生や価格が高いなどの問題が未だあるので、紫外線硬化の併用は望ましくない。
【0083】
OPニス/インキを最適の印刷条件下で印刷するには、印刷室の温湿度、被印刷体の種類、印刷速度、版模様などを考慮する必要がある。加えて、印刷物を速やかに積み重ねる場合には、印刷物の裏面が印刷インキで汚れる「裏移り」問題、より乾燥が遅い場合には、印刷物の裏/表でひっつく「ブロッキング」の発生などの問題が予想されるので、これらを考慮して、OPニス/インキに添加剤を予め添加する対策を講じるのが望ましい。
【0084】
「裏移り」や「ブロッキング」を防止するための裏移り防止剤としては、シリコーン処理した加工でんぷん、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。裏移り防止剤の添加量は、OPニス/インキに対して5重量%以下、特に3重量%以下が望ましい。添加量が多くなると、版残り、版詰まり、ブランケット残りなどが起こり易くなる傾向がある。ただし、一般には、裏移り防止剤の添加による裏移り防止効果はさほど大きくはなく、現実的には、印刷直後にでんぷんなどの微粉末を印刷面に散布する所謂、パウダー散布が行なわれている。しかし、この方式は微粉末が印刷機周辺に飛散・浮遊し易く、環境衛生上で問題化しているうえ、印刷面に付着して、光沢の低下や印刷面を粗面にするので、艶出し加工などに悪影響を与えかねない。本発明の平板印刷液(例えばOPニス/インキ)によれば、裏移り防止効果が向上するので、パウダー散布を行なわずに、裏移り防止剤の配合のみで充分な効果が得られる。
【0085】
皮膜に滑性を与えて耐摩耗性を向上させるワックス類としては、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィンワックスなどが挙げられ、これらを配合することによって、印刷表面に薄膜が形成され、特に皮膜に滑性を与えて耐摩耗性を向上させることができる。さらに、インキのタックの低下、裏移り防止、ブロッキング防止、撥水性の付与などの効果もある。
【0086】
本発明の平板印刷液が平板印刷用インキである場合には、各種の無機・有機顔料や場合により染料も特に限定なく着色剤として配合される。例えば、二酸化チタン、弁柄、カーボンブラック、酸化鉄などの無機顔料、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの体質顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの有機顔料などが着色剤として使用される。平板印刷用インキ中における着色剤の含有量は3〜40重量%が好ましい。
【0087】
本発明の平板印刷液は、その他の添加剤をさらに含有していても良い。その他の添加剤としては、本発明の目的を阻害しない範囲において、特に限定なく、例えば、有機・無機系分散剤・湿潤剤、界面活性剤、増粘剤、ゲル化剤、チクソトロピー性付与剤、艶消し剤、皮張り防止剤・乾燥抑制剤、UV吸収剤・光安定化剤、可塑剤等が必要に応じて使用される。より具体的には、例えば、着色剤等の分散性を高めること等を目的として、HLB値の低い油用性乳化剤や鉱油用乳化剤等を平板印刷液に配合することができる。なお、これら乳化剤は、合成樹脂エマルジョンを乾燥処理に付す前に配合しても良い。
【0088】
本発明の平板印刷液は、紙等の基材に印刷したとき、基材上に成形されたOPニス層やインキ層等の印刷層中に存在するエマルジョン樹脂粉末の粒子径が、印刷層の厚みに対して2〜20倍、特には3〜15倍、更には5〜12倍の粒子径を有することが、印刷紙面の光沢性の向上、耐指紋付着性、裏移り防止性、耐ブロッキング性、さらに撥水性や防水性の向上という本発明の目的の観点から好ましい。エマルジョン樹脂粉末の粒子径が印刷層の厚みに対して小さすぎると、これら本発明の目的を達成することが難しくなる傾向があり、逆に大きすぎると、これら本発明の目的を達成することができるものの、印刷紙面がざらついてしまい、且つ擦れた場合には傷が付き易くなる傾向がある。
【0089】
OPニス層やインキ層等の印刷層中に存在するエマルジョン樹脂粉末の粒子径を求めるには、電子顕微鏡などでの測定がより望ましいが、簡便法として、平板印刷液(例えばOPニス/インキ)の練肉・分散性を調べるグラインドメーターを用いて測定することができる。
なお、印刷層中に存在するエマルジョン樹脂粉末は、ビヒクルと混合した後、ビーズミルや三本ロールミルなどで練肉・分散が行われるので、熟れて粒子径が小さくなるのである。
【0090】
本発明の平板印刷液を製造する方法としては、例えば公知の方法を採用することができる。例えば、ロジン変性フェノール樹脂などのバインダー、乾性油・半乾性油類及び/又はこれらを加熱重合した加工油などの植物油、高沸点溶剤(さらに可塑剤を含むことがある)などを180〜250℃で1〜2時間加熱重合して、ビヒクルを調製する。あるいは、前記のバインダー、植物油、高沸点溶剤(さらに可塑剤を含むことがある)などを室温下で混合して、ビヒクルを調製する。次いで、高沸点溶剤(ビヒクルの調製で使用したものと同系の溶剤が好ましい)、金属ドライヤー、裏移り防止剤(必要に応じてさらに植物油)、平板印刷用インキの場合にはさらに顔料等の着色剤・顔料分散剤、必要に応じてその他の添加剤などを上記のビヒクルに加え、さらに本発明の平板印刷液用組成物を加えて、ビーズミルや三本ロールミルなどで練肉・分散し、流動性などを調整して、OPニス/インキを製造することができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0092】
合成樹脂エマルジョンの製造例
エマルジョン1
コンデンサー、温度計及び攪拌機を備えた1Lサイズのガラス製4つ口フラスコに、水の245部、酢酸ソーダ・3水塩の1部、界面活性剤としてレベノールWZ(花王石鹸)の8部とエマルゲン1135S(花王石鹸)の3部を仕込み、攪拌下に80℃に昇温・溶解した。同温度に保ち、次に、予め準備しておいたモノマー乳化液(水の250部、界面活性剤としてレベノールWZ(花王石鹸)の28部とエマルゲン1135S(花王石鹸)の3部、モノマーとしてメチルメタクリレートの317部、ブチルアクリレートの105部、アクリル酸の5部(モノマー合計427部))の43部と、重合用触媒として10%過硫酸アンモニウム水溶液の4部を加え、初期重合を30分間行なった。次いで、残りのモノマー乳化液と重合用触媒として10%過硫酸アンモニウム水溶液の10部を3時間にわたって連続滴下して重合を進行させた。同温度で1時間熟成後、室温に冷却した。10%アンモニア水を5部加えてpHを約7に調整し、不揮発分45.1%のエマルジョン1を得た。
この主要モノマー組成(メチルメタクリレート/ブチルアクリレート=317部/105部=75/25(重量%))からなる共重合体の計算上のガラス転移温度(Tg)は、夫々のホモポリマーのTgを+105℃、−52℃とした場合、約+48℃である。
【0093】
エマルジョン2
主要モノマーの組成比をメチルメタクリレート/ブチルアクリレート=380部/42部に変更した以外は、エマルジョン1と同様にして、不揮発分45.0%のエマルジョン2を得た。
この主要モノマー組成(メチルメタクリレート/ブチルアクリレート=380部/42部=90/10(重量%))からなる共重合体の計算上のガラス転移温度(Tg)は、夫々のホモポリマーのTgを+105℃、−52℃とした場合、約+80℃である。
【0094】
エマルジョン3
主要モノマーの組成比をメチルメタクリレート/スチレン/ブチルアクリレート=148部/147部/127部に変更し、且つ官能基含有モノマーとしてアクリル酸に代えてグリシジルメタクリレートの5部を加えた以外は、エマルジョン1と同様にして、不揮発分45.2%のエマルジョン3を得た。
この主要モノマー組成(メチルメタクリレート/スチレン/ブチルアクリレート=148部/147部/127部/=35/35/30(重量%))からなる共重合体の計算上のガラス転移温度(Tg)は、夫々のホモポリマーのTgを+105℃、+100℃、−52℃とした場合、約+37℃である。
【0095】
エマルジョン4
コンデンサー、温度計及び攪拌機を備えた1Lサイズのガラス製4つ口フラスコに、水の255部、酢酸ソーダ・3水塩の1部、界面活性剤としてレベノールWZ(花王石鹸)の1部とエマルゲン1135S(花王石鹸)の8部を仕込み、攪拌下に45℃に昇温・溶解した。同温度に保ち、次に、予め準備しておいたモノマー乳化液(水の250部、界面活性剤としてレベノールWZ(花王石鹸)の6部とエマルゲン1135S(花王石鹸)の26部、モノマーとしてメチルメタクリレートの295部、ブチルアクリレートの127部、メタクリル酸の7部(モノマー合計427部)の43部、重合用触媒として10%過硫酸アンモニウム水溶液の4部と10%酸性亜硫酸ソーダ水溶液の4部を加え、初期重合を30分間行なった。次いで、残りのモノマー乳化液と重合用触媒として10%過硫酸アンモニウム水溶液の10部と10%酸性亜硫酸ソーダ水溶液の10部を別々に3時間に渡って連続滴下して重合を進行させた。同温度で1時間熟成後、室温に冷却した。10%アンモニア水の5部を加えてpHを約7に調整し、不揮発分45.3%のエマルジョン4を得た。
この主要モノマー組成(メチルメタクリレート/ブチルアクリレート=295部/127部=70/30(重量%))からなる共重合体の計算上のガラス転移温度(Tg)は、夫々のホモポリマーのTgを+105℃、−52℃とした場合、約+39℃である。
【0096】
エマルジョン樹脂粉末の製造例
エマルジョン樹脂粉末1
エマルジョン1の不揮発分を40%に調整し、熱源を熱風としてノズル式噴霧乾燥機により、150℃下にて噴霧乾燥させて、エマルジョン樹脂粉末1を得た。この樹脂粉末1の見掛け重量平均粒子径は約45μmであった。
【0097】
エマルジョン樹脂粉末2〜4
エマルジョン1をエマルジョン2〜4に変更した以外はエマルジョン樹脂粉末1と同様にしてエマルジョン樹脂粉末2〜4を得た。これら樹脂粉末2、3、4の夫々の粒子径は約96μm、約75μm、約40μmであった。
以上のエマルジョン樹脂粉末1〜4の組成等を表1にまとめた。
【0098】
【表1】

【0099】
ビヒクルの製造例−1
コンデンサー、温度計及び攪拌機を備えた4つ口フラスコに、ロジン変性フェノール樹脂としてKG−1829(荒川化学工業株式会社製)400部、植物油として大豆白絞油350部、桐油100部、脂肪族炭化水素系溶剤としてAF5 号ソルベント(新日本石油株式会社製)140部を仕込み混合した後、200℃に昇温して1時間加熱重合してビヒクルを得た。
【0100】
実施例1(OPニス−1)
製造例−1で得られたビヒクルを85部、エマルジョン樹脂粉末1を1部、AF5号ソルベント(新日本石油株式会社製)を8部、裏移り防止剤として加工でんぷんを2部、金属ドライヤーとしてナフテン酸マンガンを1部、三本ロールミルで混合、練肉して平板印刷用OPニス(OPニス−1)を得た。
【0101】
実施例2(OPニス−2)
エマルジョン樹脂粉末1を2部に代えた以外は、実施例1と同様にして平板印刷用OPニス(OPニス−2)を得た。
【0102】
実施例3(OPニス−3)
エマルジョン樹脂粉末1を4部に代えた以外は、実施例1と同様にして平板印刷用OPニス(OPニス−3)を得た。
【0103】
実施例4〜6(OPニス−4〜6)
エマルジョン樹脂粉末1をエマルジョン樹脂粉末2〜4に夫々代えた以外は、実施例2と同様にして平板印刷用OPニス(OPニス−4〜6)を得た。
【0104】
比較例1(OPニス−7)
実施例1のエマルジョン樹脂粉末1を除いた以外は、実施例1と同様にして平板印刷用OPニス(OPニス−7)を得た。
【0105】
上記実施例及び比較例で得られたOPニスを用いて、下記の印刷方法にて印刷し、後述の項目について評価した。
【0106】
印刷方法−1
実施例1〜6(OPニス−1〜6)、及び比較例1(OPニス−7)で得られたOPニスを使用し、用紙として特菱アート(三菱製紙株式会社製)、JETスター(日本製紙株式会社製)の2種類を用いてJISK5701基準のRIテスター(石川島製作所製)にて展色・印刷(OPニスの展色盛;0.10ml)した。室温にて1日放置後、試験に供した(下地インキ;GPアプラスSOY墨EX−N/枚葉プロセス墨インキ/内外インキ製造株式会社製、展色盛;0.1125ml)。この結果を表2に示す。
なお、JETスター紙に実施例1〜6(OPニス−1〜6)のOPニスを印刷した際のOPニス層中に存在する、練肉・分散された樹脂粉末の粒子径は、OPニス層の厚みに対して、実施例1が7.7倍、実施例2が9倍、実施例3が14.2倍、実施例4が19.8倍、実施例5が14倍、実施例6が7.8倍であった。
【0107】
印刷方法−2
実施例1〜6(OPニス−1〜6)、及び比較例1(OPニス−7)で得られたOPニスを使用し、用紙としてノート表紙特漉(王子製紙株式会社製)を用いて、リスロン印刷機(小森コーポレーション製)にて印刷した。室温にて1日放置後、試験に供した(印刷スピード;4000〜6000枚/時間)。この結果を表3に示す。
【0108】
印刷方法−3
実施例1〜6(OPニス−1〜6)、及び比較例1(OPニス−7)で得られたOPニスを使用し、用紙としてOKトップコート(王子製紙株式会社製)を用いて、三菱ダイヤ4色機(三菱重工業株式会社)にて印刷した。室温にて1日放置後、試験に供した(印刷スピード;7000〜8000枚/時間)。この結果を表4に示す。
【0109】
光沢性
各用紙の60度光沢をミノルタ製光沢計GM−60にて測定した。光沢の増減率(%)を、エマルジョン樹脂粉末未添加のOPニス−7(比較例1)の光沢値を100として、評価した。
【0110】
耐指紋付着性の試験方法と評価手法
OPニスを印刷した用紙に親指又は人差し指で触れ、指紋の付着レベルを目視にて評価した。エマルジョン樹脂粉末未添加のOPニス−7(比較例1)を最低評価の基準とし、下記の通りに評価した。
評価手法;耐指紋付着性が十分に良い(比較例1よりもかなり良好);◎
耐指紋性が良い(比較例1よりも良好) ;○
耐指紋付着性がやや悪い(比較例1よりも僅かに良好) ;△
耐指紋付着性が悪い(比較例1と同等) ;×
【0111】
裏移り防止性の試験方法と評価基準
印刷方法−2及び3で印刷した用紙を1000枚重ねて、5000枚に相当する加重を掛けて室温で24時間放置後、裏移り防止性を目視にて下記の基準で評価した。
評価基準;裏移り防止性が十分に良い ;◎
裏移り防止性が良い ;○
裏移り防止性がやや悪い ;△
裏移り防止性が悪い ;×
印刷方法−1においては、4×5cm角に切った印刷紙を5枚重ねて、加重を1kg掛けて同様に試験して評価した。
【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
表2〜4に示すように、実施例1〜6による印刷面は、比較例1のものよりも光沢性、耐指紋付着性、裏移り防止性が向上している。特に、芳香族ビニルモノマーであるスチレンを共重合成分として含む共重合体のエマルジョン樹脂粉末3を用いた実施例5による印刷面は、光沢性が顕著に向上している。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の平板印刷液用組成物は、従来の酸化重合乾燥型OPニスやインキに添加する添加剤として利用することができる。また、本発明の平板印刷液によれば、印刷紙面の光沢の向上と裏移り防止性・耐ブロッキング性が改良され、さらに、耐指紋付着性が向上するので、カタログなどの意匠性の高い印刷物の商品価値を高める目的で好適に利用することができる。また、既存の平板印刷機をそのまま使用することができるので、適用性が高い。さらに、本発明の平板印刷液を印刷した印刷紙面の表面撥水性及び防水性が向上するので、高湿度の環境や結露が発生するような環境で使用ないし保管される商品の印刷に適している。例えば、酒瓶のラベルや酒瓶を入れる箱、冷凍食品の包装に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤により分散安定化されてなる合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末を含有することを特徴とする平板印刷液用組成物。
【請求項2】
合成樹脂エマルジョンの樹脂のガラス転移温度が−5℃以上であることを特徴とする請求項1記載の平板印刷液用組成物。
【請求項3】
合成樹脂エマルジョンの樹脂がアクリル系共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の平板印刷液用組成物。
【請求項4】
アクリル系共重合体が芳香族ビニルモノマーを共重合成分として含むことを特徴とする請求項3記載の平板印刷液用組成物。
【請求項5】
芳香族ビニルモノマーが共重合成分全体に対して10重量%以上含有されていることを特徴とする請求項4記載の平板印刷液用組成物。
【請求項6】
合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末の見掛け重量平均粒子径が5〜200μmであることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の平板印刷液用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の平板印刷液用組成物及びビヒクルを含有することを特徴とする平板印刷液。
【請求項8】
合成樹脂エマルジョンの樹脂粉末の含有量が液全体に対して0.3〜10重量%であることを特徴とする請求項7記載の平板印刷液。
【請求項9】
基材に印刷したとき、基材上に成形された印刷層中に存在する樹脂粉末の粒子径が、印刷層の厚みに対して2〜20倍の粒子径を有することを特徴とする請求項7又は8記載の平板印刷液。
【請求項10】
オーバープリントニス又はインキであることを特徴とする請求項7〜9いずれか記載の平板印刷液。

【公開番号】特開2010−24305(P2010−24305A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185441(P2008−185441)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(301042077)内外インキ製造株式会社 (3)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】