説明

平面モータ

【課題】構造が比較的簡単で小型化・低価格が図れ、つなぎ目の位置にスライダが斜め衝突した場合でも本来の衝撃緩衝機能が得られる衝撃緩衝機構を備えた平面モータを実現すること。
【解決手段】水平面に形成されたプラテン上にX,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動できるように位置制御されるスライダが設けられ、前記プラテンの外周に前記スライダの移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構が設けられた平面モータにおいて、前記衝撃緩衝機構は、緩衝材としてエラストマー材料を用いることを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面モータに関し、詳しくは、スライダが衝突した場合の衝撃緩衝構造の改善に関するものである。
【0002】
超精密加工機や検査装置などで被加工物や検査対象物を高速に高精度で所望の位置に位置決めする機構として、水平面に形成されたプラテン上に、X,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動できるように位置制御されるスライダが設けられた平面モータが用いられている。
【0003】
このような平面モータにおいて、スライダの位置制御が不能状態に陥ってしまうと、スライダが暴走することも考えられる。そこで、プラテンの外周には、スライダが暴走してもプラテン領域から飛び出さないように受け止めて停止させるとともに、衝突時の衝撃を緩和するように構成された衝撃緩衝機構が設けられている。
【0004】
図5は、従来の平面モータの一例を示す構成説明図である。水平面に形成されたプラテン1上には、図示しない駆動制御部によりX,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動するように制御されるスライダ2が設けられている。そして、プラテン1の外周には、スライダ2の移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構3が設けられている。
【0005】
図6は衝撃緩衝機構3の一例を示す構成説明図であり、(A)は平面図、(B)は正面図である。衝撃緩衝機構3は、ベース31と、このベース31に複数の直動ガイド32を介して移動可能に取り付けられたストッパーバー33と、ベース31に固定されストッパーバー33に接触するように配置された複数のショックアブソーバー34とで構成されている。
【0006】
ストッパーバー33の主平面33aにスライダ2が衝突すると、ストッパーバー33はベース31に対して移動する。ストッパーバー33がベース31に対して移動することによって、ショックアブソーバー34は軸方向に沿って圧縮される。このショックアブソーバー34の圧縮により、ストッパーバー33に発生する衝突エネルギーは熱エネルギーに変換されて吸収され、スライダ2が受ける衝撃は緩和されてスライダ2の破損を防止できる。
【0007】
特許文献1には平面モータのステージ上に設けられた2個のスライダの衝突を防止する構成が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−198693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の平面モータに設けられている衝撃緩衝機構3は、ベース31と複数の直動ガイド32とストッパーバー33と複数のショックアブソーバー34とで構成されているので、部品点数も多くなって構成が複雑になり、メンテナンス時には全体を分解・再調整しなければならず、相当の作業時間がかかるという問題がある。
【0010】
また、たとえば半導体用露光装置に用いる平面モータの場合は、プラテン1の短辺が1m以上と大型になることから、ストッパーバー33も全長1m程度が必要になるが、このストッパーバー33がたわまないように高剛性化を図らなければならない。これに伴い、直動ガイド32とショックアブソーバー34も大型のものが複数個必要になるため、衝撃緩衝機構3全体が大きくなってしまい、価格も高価になるという問題がある。
【0011】
この結果、衝撃緩衝機構3のための大きな配置スペースが必要となり、別機能のユニットの配置にも影響するという問題がある。
【0012】
また平面モータの大型化に応じて、図5に示すように複数個の衝撃緩衝機構3を連続するように配置した場合、つなぎ目Cの位置にスライダ2が斜めに衝突すると、ストッパーバー33の側面から力が作用することになる。
【0013】
この結果、直動ガイド32は横から荷重を受けることになって本来の衝撃緩衝機構として機能しなくなり、最悪の場合はスライダ2や衝撃緩衝機構3が破壊されてしまうおそれがある。
【0014】
本発明は、これらの課題を解決するものであり、その目的は、構造が比較的簡単で小型化・低価格が図れ、つなぎ目の位置にスライダが斜め衝突した場合でも本来の衝撃緩衝機能が得られる衝撃緩衝機構を備えた平面モータを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、水平面に形成されたプラテン上にX,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動できるように位置制御されるスライダが設けられ、前記プラテンの外周に前記スライダの移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構が設けられた平面モータにおいて、前記衝撃緩衝機構は、緩衝材としてエラストマー材料を用いることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の平面モータにおいて、前記エラストマー材料は、アウトガス環境に対応したガス遮断シートで密閉されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の平面モータにおいて、前記エラストマー材料とガス遮断シートは、アクリル系接着剤で接着されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、水平面に形成されたプラテン上にX,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動できるように位置制御されるスライダが設けられ、前記プラテンの外周に前記スライダの移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構が設けられた平面モータにおいて、前記衝撃緩衝機構は、エラストマー材料よりなる緩衝材と、この緩衝材を保持する保持プレートと、これら緩衝材と保持プレートの一方の端面が固定される背面プレートと、これら保持プレートと背面プレートの底面を固定支持するベースとで構成され、
前記緩衝材の自由端は前記保持プレートの端面から突出して前記スライダの衝突を直接受ける衝突面として機能するように形成され、この緩衝材の保持プレートとの対向面および衝突面は摩擦係数が低くてすべりやすく形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の平面モータにおいて、前記緩衝材の端面は、アクリル系接着剤で背面プレートに接着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、構造が比較的簡単で小型化・低価格が図れ、つなぎ目の位置にスライダが斜め衝突した場合でも本来の衝撃緩衝機能が得られる衝撃緩衝機構を備えた平面モータが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示す構成説明図であり、図5と共通する部分には同一の符号を付けている。図1において、プラテン1の外周には、スライダ2の移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構4が設けられている。
【0022】
図2は衝撃緩衝機構4の具体例を示す構成説明図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は左側面図である。衝撃緩衝機構4は、緩衝材41、この緩衝材41を保持する保持プレート42、これら緩衝材41と保持プレート42の一方の端面が固定される背面プレート43、これら保持プレート42と背面プレート43の底面を固定支持するベース44とで構成されている。
【0023】
緩衝材41の一方の端面41aはスライダ2の衝突を直接受ける衝突面として機能する自由端であり、衝突時の衝撃をたわみで吸収するのに必要十分な所定の長さLで保持プレート42の端面42aから突出するように保持プレート42に保持され、他方の端面41bは背面プレート43に固定されている。保持プレート42の端面42aは、万が一、衝突条件が設計範囲を超えた場合にスライダ2が移動領域から飛出さないように、スライダ2の衝突によって緩衝材41の一方の端面41aが圧縮されて同一面になったときにも、スライダ2を受け止める機械的なストッパ面として機能する。保持プレート42の緩衝材41との対向面は摩擦係数を低くした摺動性の良い平滑面として形成されている。また、緩衝材41を上から挟み込むなどの固定は行わず、スライダ2が衝突した時のたわみ逃げ部分を確保している。
【0024】
ここで、緩衝材41としては、常温でゴム状の弾性を示す高分子物質であって損失係数(tanδ)が大きく、スライダ2が衝突した時の衝撃エネルギーを熱エネルギーに変換できる割合が高くて衝撃吸収効率が優れたエラストマー材料を用いる。ただし、本発明に係る平面モータを露光装置に用いる場合には、製品の歩留まりに大きく影響するシロキサンガスを含む有機物ガスが発生しない材料(アウトガス対応)にすることが絶対条件となり、シリコン材料がわずかでも含まれる材料は使用不可能である。
【0025】
これら2つの条件に適する粘弾性体のエラストマー材料は、たとえばウレタン樹脂(ソルボ:登録商標)があげられる。このウレタン樹脂の硬度、サイズ、固定方法、処理などを最適化することにより、所定の機能を満たすことができる。
【0026】
ところで、ウレタン樹脂などのエラストマー材料は有機材料であることから、シロキサンは含まれなくても有機物ガスの発生は考えられる。そこで緩衝材41に対して、図3に示すような表面処理を施す。図3において、(A)は背面図、(B)は平面図、(C)は右側面図である。
【0027】
まず、適切サイズに仕上げた緩衝材41の4角を覆うようにテフロン(登録商標)(登録商標)シート45〜48を図示しないアクリル系接着剤付き両面テープで接着する。次に、上面・衝突面・背面・両側面を覆うようにテフロン(登録商標)シート49を図示しないアクリル系接着剤付き両面テープで接着する。続いて、底面・衝突面・両側面を覆うようにテフロン(登録商標)シート50を図示しないアクリル系接着剤付き両面テープで接着する。そして最後に、背面にアクリル系接着剤付き両面テープ51を貼りつける。
【0028】
このようにテフロン(登録商標)シート45〜50で緩衝材41を覆う目的は、緩衝材41の稜線のわずかな部分も大気に露出させないようにしてアウトガス対応するためであり、アウトガス対応の目的が達成できればこの表面処理構造に限るものではない。ここで、テフロン(登録商標)シート45〜49は表裏両面が粗面加工されているものを用い、テフロン(登録商標)シート50は表面が摺動面加工されて裏面は粗面加工されているものを用いる。なお、これらテフロン(登録商標)シート45〜50とアクリル系接着剤付き両面テープ51もアウトガス対応品とする。
【0029】
このような表面処理構造にすることにより、緩衝材41としてウレタン樹脂などの有機材料を使用しても、アウトガス試験に規定する条件を満たすことができる。
【0030】
また、緩衝材41の底面をテフロン(登録商標)シート50で覆うことにより、素地のままでは摩擦係数が非常に大きい緩衝材41の摺動性を向上させることができ、衝突時のスライダ2の衝撃加速度を低く抑える効果が得られる。
【0031】
図4は本発明に係る緩衝材41のつなぎ目41cへスライダ2が矢印Aで示すように斜めに衝突した状態を示す。スライダ2が緩衝材41のつなぎ目41cに斜め方向から衝突しても、緩衝材41はエラストマー材料であることから側面に衝突しても変形してたわむことができる。したがって、スライダ2が緩衝材41のつなぎ目41cに斜め方向から衝突することにより緩衝材41がたわみ、スライダ2への衝撃が緩和されてスライダ2は停止する。
【0032】
このような構成によれば、従来に比べ構造が簡単なため、低コスト化が図れる。
【0033】
また、構成部品数が少なく省スペース構造であるため、ベース44間にスペースを確保でき、別機能のユニットを配置することができる。
【0034】
また、緩衝材41の固定方法が簡単であるため、衝突により緩衝材41を破損した場合にも、容易に交換できる。
【0035】
また、緩衝材41のつなぎ目の位置にスライダ2が斜め衝突した場合でも、緩衝材41の側面がたわむことにより、スライダ2が受ける衝撃を緩和することができる。
【0036】
さらに、有機材料であるエラストマー材料をテフロン(登録商標)シートで覆うことにより、アウトガス試験に規定する条件を満たすことができ、半導体デバイス製造環境での使用が可能となる。
【0037】
なお、本発明は、半導体デバイスの製造に用いる露光装置だけでなく、液晶表示素子やプラズマディスプレイの製造に用いる露光装置にも適用でき、さらには、露光装置に限らず、平面モータを使用した基板検査装置やレーザー描画装置などにも広く適用できる。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、構造が比較的簡単で小型化・低価格が図れ、つなぎ目の位置にスライダが斜め衝突した場合でも本来の衝撃緩衝機能が得られる衝撃緩衝機構を備えた平面モータが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例を示す構成説明図である。
【図2】本発明の衝撃緩衝機構の具体例を示す構成説明図である。
【図3】本発明の緩衝材の表面処理の具体例を示す構成説明図である。
【図4】本発明の緩衝材のつなぎ目にスライダが斜め方向から衝突した状態説明図である。
【図5】従来の平面モータの一例を示す構成説明図である。
【図6】従来の衝撃緩衝機構の一例を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 プラテン
2 スライダ
4 衝撃緩衝機構
41 緩衝材
42 保持プレート
43 背面プレート
44 ベース
45〜50 テフロン(登録商標)シート
51 アクリル系接着剤付き両面テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に形成されたプラテン上にX,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動できるように位置制御されるスライダが設けられ、前記プラテンの外周に前記スライダの移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構が設けられた平面モータにおいて、
前記衝撃緩衝機構は、緩衝材としてエラストマー材料を用いることを特徴とする平面モータ。
【請求項2】
前記エラストマー材料は、アウトガス環境に対応したガス遮断シートで密閉されていることを特徴とする請求項1記載の平面モータ。
【請求項3】
前記エラストマー材料とガス遮断シートは、アクリル系接着剤で接着されていることを特徴とする請求項2記載の平面モータ。
【請求項4】
水平面に形成されたプラテン上にX,Yまたはその合成方向に高精度で高速に移動できるように位置制御されるスライダが設けられ、前記プラテンの外周に前記スライダの移動領域を画定するように複数の衝撃緩衝機構が設けられた平面モータにおいて、
前記衝撃緩衝機構は、
エラストマー材料よりなる緩衝材と、
この緩衝材を保持する保持プレートと、
これら緩衝材と保持プレートの一方の端面が固定される背面プレートと、
これら保持プレートと背面プレートの底面を固定支持するベースとで構成され、
前記緩衝材の自由端は前記保持プレートの端面から突出して前記スライダの衝突を直接受ける衝突面として機能するように形成され、この緩衝材の保持プレートとの対向面および衝突面は摩擦係数が低くてすべりやすく形成されていることを特徴とする平面モータ。
【請求項5】
前記緩衝材の端面は、アクリル系接着剤で背面プレートに接着されていることを特徴とする請求項4記載の平面モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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