説明

床暖房温水マット

【課題】、集合住宅や戸建て住宅などに敷設される温水床暖房に用いられる床暖房温水マットは、ベースボード等に加えられる変形力により放熱シートとその下に位置する放熱管との間に空隙が生じ、床暖房を行うため放熱管に温水を流したり、停止したりする際に音が鳴る問題があった。
【解決手段】敷設放熱管12の上面を除いた外表面を不織布等による緩衝シート7で被覆してシリコングリス或いはシリコンオイル4を充填した放熱管敷設溝11に収嵌するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅や戸建て住宅などに敷設される温水床暖房に用いられる床暖房温水マットに関し、床暖房を行うため放熱管に温水を流したり、停止したりする際に放熱管と放熱シート間に発生する音鳴り現象を防止するようにした床暖房温水マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住居用床暖房温水マットの放熱配管は、配管経路溝を刻設した発泡スチロール(発泡ポリスチレン重合体)のベースボードに耐熱樹脂を素材とした放熱管を嵌装配管し、その上面に放熱シート(アルミシート等)を全面に渡って張設した温水マットを対象室内に敷設し、室内全面にフローリング等の床仕上げ材を固定する工法が行われてきている。
【0003】
床暖房温水マットは、ベースボードに耐熱樹脂を素材とした放熱管を嵌装配管し、その一端から温水が流入し配管経路を回流して他端から流出するものであるが、配管される放熱管は外径6〜10mm,内径4〜6mmの架橋ポリエチレン管が用いられ、複数の分割した並列ベースボードに跨って配管されて搬送し易いように隣接するボード同士を折り曲げて折畳可能に構成されている。
【0004】
並列したベースボードの上面に貼着される放熱シートは、並列したベースボードを折り畳み自在としたことで、放熱シートが谷折りとなる部分では隣接ベースボードの隣接端部において折り畳んだり広げたりする際に放熱シートがベースボードの上面から剥がれる方向に引っ張られ、放熱シートとその下に位置する放熱管との間に空隙が生じ、放熱シートが放熱管を下方に固定する力が低下し、温水の流れや床面の歩行、放熱管の膨縮等による放熱管の動きを放熱シートが抑えることができず、シートと配管が擦れて音鳴りが発生する。
【0005】
従来、このような音鳴りの発生の防止策として、放熱管成型時の押し出し速度を調整してパイプ表面を滑らかにしたり、放熱管敷設溝の屈曲部の溝幅を廣くして曲がりに余裕を持たせるなどの対策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献としては、放熱管を埋没したベースボードの上面に粘着層を介して金属板を固定し、ベースボードと金属板との60℃での接着力が6N/20mm以上であり、且つ、粘着層の粘着材の5℃での粘度が該粘着層の厚みを所定値として一定値以下とする提案(特許文献1)がなされている。
【0007】
また、上面に敷設溝が形成され、並列する小根太とその間に配設された並列ベースボードの側部に直交して側部を固める側部基板を配設して固定する力が低下したベースボード端縁側部を固定する提案(特許文献2)、並列ベースボードの突き合わせ部に臨む短手辺から各々と対向する各ベースボード側に向かって力が加わった時に変形してベースボード同士の接近を許容する凸部などの易変形部を設ける提案(特許文献3)もなされている。
【特許文献1】特開2005−127548号公報
【特許文献2】特開平11−311420号公報
【特許文献3】特開2010−19461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の方法は、何れも隣接ベースボード同士を物理的に緩衝或いは強制固定したり、放熱管敷設溝内に放熱管を固定接着するもので、歩行や素材膨縮など定期的に構成素材に加わる力に対して固定力やイレギュラーな形成部によって対抗するもので、構成素材に対して無理な変形を強いるものである。
【0009】
構成素材、特にベースボードに繰り返し加えられる無理な変形は、素材の疲弊を招き老朽化を早めると共に、故障にも繋がる問題がある。また、音鳴り防止効果としても完全を期しがたい一面を有している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記した課題に対応しようとするものであり、放熱管敷設溝の内壁と敷設放熱管外表の間にシリコングリス或いはシリコンオイルを充填するようにしたものである。
【0011】
即ち、前記従来技術として提案されている放熱管の固定は、接着剤として、アクリル系、ビニルエステル系、天然ゴム系の接着剤を用いて放熱管敷設溝内に放熱管を強固に固定接着するものであるが、本発明においては、流動性のあるシリコングリス或いはシリコンオイルによって繰り返し加えられる変形力を吸収するようにした。
【0012】
シリコングリス或いはシリコンオイルは、比較的重合度の低いケイ素樹脂で、水を弾き、温度が低温から高温まで変化しても粘性の変化が少ないという特徴を有しており、温水の流入と停止を繰り返す床暖房温水マットにおいて、変形力の加わる放熱管敷設溝内に放熱管を無理なく嵌装する素材として最適なものである。
【0013】
更に、シリコングリス或いはシリコンオイルの流動性に対応して、敷設放熱管の上面を除いた外表面を不織布等による緩衝シートで被覆してシリコングリス或いはシリコンオイルを充填した放熱管敷設溝に収嵌するようにして位置的な安定を図ると共に吸音効果を一層高めるようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上のように構成したことにより、温水の流れや床面の歩行、放熱管の膨縮等による放熱管の動きにより発生する音鳴りを防止すると共に、床暖房温水マットの構成素材に加わる変形力を、放熱管敷設溝内における放熱管の相対固定によって吸収して構造的安定を図った。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例を示すもので、ベースボードに刻設された放熱管敷設溝と溝内に嵌装された放熱管の関係を示す床暖房温水マットの全体平面図
【図2】同じく、放熱管敷設溝内に放熱管を嵌装置固定した状態を示すベースボードの放熱管敷設溝刻設部の縦断面側面図
【図3】同じく、放熱管敷設溝内に放熱管を嵌装固定した状態を示す断熱ボードの放熱管敷設溝刻設部の拡大縦断面側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。1は発泡スチロール等による断熱ボード2,2・・を並列し、小根太5を適宜間隔で間装して構成された温水マット本体で、上面には放熱管敷設溝11が熱源機に連絡するヘッダー部6aからマット本体1面回流して6bに還流するように刻設されている。
【0017】
放熱管敷設溝11の幅は放熱管12が溝内に嵌装される幅と放熱管12の頂部外周面が上面に張設される放熱シート3と接触するように、放熱管敷設溝の内壁と敷設放熱管外表の間にシリコングリス或いはシリコンオイル4を充填する深さに調整されて刻設されている。
【0018】
放熱管12は、その下面から両側面に掛けて不織布等による緩衝シート8によって被覆され、これを介してシリコングリス或いはシリコンオイル4が充填或いは塗布された敷設溝11内に嵌装される。従って、溝11内での位置固定は緩衝シート8によって安定すると共に、断熱ボード2や放熱シート3に係る歪みや擦れなどの変形力はシリコングリス或いはシリコンオイル4の流動性によって吸収される。
【0019】
このように構成された温水マット本体1は、設定される室の床面に広げられ、小根太5を介しての釘打ちにより床面に固定され、熱源機から供給される温水を放熱管12によって床面に回流し、放熱された温水は再び熱源機に回流し加熱されて床面暖房を行うものである。
【実施例1】
【0020】
実施例1は、敷設溝11内にシリコングリス4を充填するだけで、緩衝シート8を用いないで放熱管12を嵌装するもので、シリコングリスの粘度が高く放熱管12が敷設溝11にしっかりと嵌着されていれば、緩衝シート8を用いなくとも充分な効果を挙げることができる。
【実施例2】
【0021】
実施例2は、敷設溝11内にシリコンオイル4を充填するもので、シリコングリスよりも安定度は低いが、歩行等による断熱ボード2や放熱シート3に係る歪みや擦れなどの変形力を吸収する。緩衝シート8を用いないで放熱管12を嵌装するもので、放熱管の嵌合度を高くして放熱管12が敷設溝11にしっかりと嵌着されていれば、緩衝シート8を用いなくとも充分な効果を挙げることができる。
【実施例3】
【0022】
実施例3は、放熱管12下面と側腹を緩衝シート8によって被覆し、敷設溝11の溝底と内壁に緩衝シート8を介在させることによって敷設溝11内に放熱管12の位置的安定を図ると共に音鳴り防止の効果を一層高めるものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る床暖房温水マットは、暖房の入切の際に気になる音鳴りを防止すると共に、マット上の歩行や折り畳みにより断熱ボード2等に負荷される変形力を吸収して構成素材の老化や疲弊を防止できるので、温水床暖房産業上の利用価値は極めて高いものである。
【符号の説明】
【0024】
1 温水マット本体
11 放熱管敷設溝
12 放熱管
2 断熱ボード
3 放熱シート
4 シリコングリス若しくはシリコンオイル
5 小根太
6 温水給排ヘッダー
7 緩衝シート8

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小根太を順次並列した所定幅の断熱単位基材により構成したベースボードの表面に、敷設経路パターンに沿って放熱回流する放熱管の放熱管敷設溝を刻設し、該放熱管敷設溝に放熱管を収容敷設し、その上面に放熱シートを張設した床暖房温水マットにおいて、放熱管敷設溝の内壁と敷設放熱管外表の間にシリコングリスを充填するようにしたことを特徴とする床暖房温水マット
【請求項2】
放熱管敷設溝の内壁と敷設放熱管外表の間にシリコンオイルを充填した放熱管敷設溝に放熱管を収嵌するようにした請求項1記載の床暖房温水マット
【請求項3】
敷設放熱管の上面を除いた外表面を不織布等による緩衝シートで被覆して放熱管敷設溝に収嵌するようにした請求項1又は請求項2記載の床暖房温水マット

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−57411(P2013−57411A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194465(P2011−194465)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000201593)前澤給装工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】