説明

底生動物の定量採集装置

【課題】 コドラート内に生息する底生動物を確実に且つ容易に採集できるようにし、また底生動物の生息環境を河床材料から判断するための情報を得る。
【解決手段】 採集範囲を規定するために河床10の上に載置されるコドラート12と、その下流側に位置するサーバーネットを備えた捕集部14の組み合わせからなる。コドラートは、立体枠20を有し、その上流側の面は金網26にして水の流れ込みを許容し、両側面はパネル24で塞がれ、残りの面は開放されていて、且つ立体枠の下辺に沿って河床形状に馴染むように変形自在のスカート部22を取り付けて内外を遮断する構造である。捕集部は、下流側ほど網目が小さくなるように連設した複数の篩50と、その最も下流側に設けたサーバーネット52からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川等での生物調査のために用いる底生動物の定量採集装置に関し、更に詳しく述べると、コドラートを立体構造にすると共に下部にスカート部を設けて内外を遮断し、コドラートとサーバーネットとの間に目合い(網目の大きさ)の異なる複数の篩を介在させた構造として、精度よく且つ容易に底生動物を定量的に採集できるようにし、同時に河床材料も採取できるようにした装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川事業、河川管理等を適切に推進するために、河川環境という観点からとらえた定期的、継続的、統一的な河川に関する基礎情報の収集整備が図られており、『河川水辺の国勢調査』として公表されている。調査対象としては生物調査があり、その1項目として底生動物調査がある。
【0003】
底生動物の調査には、一般に、コドラートとサーバーネットを組み合わせた採集装置が用いられている。「コドラート」とは、25cm四方、30cm四方、50cm四方などの大きさを持ち、採集範囲を規定するための枠(ないしはその枠で囲まれた部分)のことである。従来は、方形の平面枠であり、一般的には、針金や金属棒を曲げることによって作製されている。また「サーバーネット」とは、底生動物採集用に作製した目の細かい丈夫な捕集用の網のことである。このような採集装置や取得したデータの解析の手法に関しては、例えば特許文献1などに記載されている。
【0004】
このようなコドラートとサーバーネットを組み合わせた採集装置は、河床上にコドラートを設置し、その下流側にサーバーネットを配置するように用いられる。採集作業者は、コドラートの内部にある石を取り上げ、河川の流れを利用して手で洗って石に付着している底生動物をサーバーネットに流し込むようにして、底生動物を採集している。従って、厳密にはコドラート外の底生動物がサーバーネットに流れ込むこと、あるいはコドラート内の底生動物がサーバーネット外に逃げ出すこともしばしば生じている。
【0005】
また、手作業で石を1個1個操作せざるを得ないため、河川の水深や流速などによる採集作業の難易度の違い、あるいは採集作業者の経験や熟練度など採集技術によっても採集量が異なるなど、定量調査として位置づけられているにもかかわらず、精度が劣る問題があった。
【特許文献1】特開2004−50146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、コドラート内に生息している底生動物のみを確実に且つ容易に採集できるようにすること、また同時に底生動物の生息環境を河床材料から判断するための情報も得ることができるようにすること、などである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、採集範囲を規定するために河床上に載置されるコドラートと、該コドラートの下流側に位置するサーバーネットを備えた捕集部とを組み合わせた採集装置において、前記コドラートは、直方体状の立体枠を有し、その水圧を受ける上流側の面を網目状にして水の流れ込みを許容し、両側面は塞がれ、残りの面は開放されていて、且つ立体枠の下辺に沿って河床形状に馴染むように変形自在のスカート部を取り付けてコドラートの内外を遮断する構造であり、前記捕集部は、下流側ほど網目が小さくなるように連設した複数の篩と、その最も下流側に設けたサーバーネットからなることを特徴とする底生動物の定量採集装置である。
【0008】
ここでスカート部は、立体枠の下部4辺に沿って取り付けた帯状の袋状体(例えば帆布製の袋)と、該袋状体に部分充填した粒状物(例えば砂)からなる。また、篩は、変形可能な構造(例えば蛇腹構造)もしくは材料(例えば帆布)からなる胴部と、その一端部に取り付けられている網板とからなり、立体枠と篩、篩同士、及び篩とサーバーネットは連結具により相互に結合・分離可能に組み合わされている構造が好ましい。篩は、目合いの異なるものを、例えば2〜4段程度連設する。更に、立体枠は、単に河床上に載置するのではなく、固定具により河床に固定することが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る底生動物の定量採集装置は、立体構造のコドラートを河床上に載置して他の周辺部分から隔離するため、従来の平面的な方形枠を用いた装置に見られるような底生動物の枠外からの流れ込みや、枠内からの逃亡を防止することができ、そのため採集精度を高めることができる。また、採集するための操作を統一でき、しかも熟練を必要としない簡単な操作となるため、河川における水流・水深の違いなどがあっても、採集作業者の経験や熟練度による作業の難易度や採集精度に大きな違いは生じない。
【0010】
また本発明によれば、底生動物が生息している河床材料そのものを剥ぎ取るため、石の隙間に隠れている底生動物なども取りこぼし無く採集できる。また、バールなどを用いて河床を掘り起こし、コドラート内の河床材料(礫、砂礫、砂など)をそのまま捕集部に送り込めばよいため、作業者が河川内で手で直接石を洗い流す採集方法よりも、高い精度で採集することが可能である。
【0011】
更に本発明によれば、河床材料も同時に採取することができるため、底生動物の生息場所である河床について、その粒度組成や材質などの生息環境に関する情報も同時に得ることができる。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明に係る底生動物の定量採集装置の一実施例を示す全体構成図である。この採集装置は、採集範囲を規定するために河床10の上に載置されるコドラート12と、該コドラート12の下流側に位置する捕集部14とを一体的に組み上げ可能とした構造である。
【0013】
コドラート12は、直方体状の立体枠20を有し、その水圧を受ける上流側の面は網目状にして水の流れ込みを許容し、両側面は塞がれ、残りの面は開放されていて、且つ立体枠の下辺に沿って河床形状に馴染むように変形自在のスカート部22を取り付けて内外を遮断する構造である。立体枠20は、例えばアルミニウムなどからなり、剛性が高く且つ軽量の構造体とする。その立体枠20の相対向する1組の側面にはパネル24が装着されて完全に塞がれており、残る1組の側面のうち1面には金網26が設けられ、他の1面は完全開放(何も設けられていない)である。即ち、金網26が河川の上流側、開放面が下流側、両パネル24が流れに沿うような向きで設置される。また、立体枠の上下両面も完全開放(何も設けられていない)になっている。
【0014】
更に、立体枠20の上下の四隅近傍には、それぞれ固定用リング28が横方向に突設されている。そして、鉄筋棒30などを、上下対応する固定用リング28に挿通して河床10に打ち込むことにより、コドラート12を河床10に固定できるようにしてある。
【0015】
スカート部22は、図2に示すように、立体枠の下辺20aに沿って取り付けた帯状の袋状体40と、該袋状体40に部分充填した粒状物42からなる。例えば、帯状の帆布を下部中央が弛むように曲げ、立体枠の下辺に沿って一周するように配置し、内部にほぼ半分程度まで砂(粒状物)を入れ、押さえ板44で立体枠の下辺20aに押さえ付け、ネジ止め固定して、部分充填した砂が流出しないように保持する構造とする。このような構造とすると、スカート部22は、それが接する河床面の形状に応じて自由に変形し、岩などの河床構成物に密着してコドラート12の内外を遮断することができる。スカート部22の高さは、10〜15cm程度でよい。
【0016】
捕集部14は、図3にも示されているように、下流側ほど網目が小さくなるように連設した複数(この実施例では3個)の篩50と、その最も下流側に設けたサーバーネット52からなる。このような捕集部14は、コドラート12の立体枠の完全開放の側面(金網26に対向する完全開放の側面)に取り付けられる。
【0017】
各篩50は、変形可能な構造もしくは材料からなる丈夫な胴部54と、その一端部に取り付けられている網板56とからなる。ここでは、方形枠58を2個、間隔をおいて配置し、それらの間を帆布製の胴部54でつなぎ、一方の方形枠に網板56を設けた構造としている。篩50は、その中に河床材料である石などを投入するため、それに耐えうるような強固な材料を使用して作製されている。帆布は、自由度が大きく、水に濡れても丈夫であるため、特に好ましい。この実施例では、目合い(網目の大きさ)の異なる3種類の篩を使用している。例えば、最も大きな網目は64mm、中間の網目は32mm、最も小さな網目は4mmに設定している。網目の大きさは、一般的な砕屑物の粒径区分に応じて定めたものであり、最も大きな網目(64mm)の篩は大礫(256〜64mm)に、中間の網目(32mm)の篩は中礫(64〜4mm)のうちの大きなものに、最も小さな網目(4mm)の篩は中礫(64〜4mm)のうちの小さなものに、それぞれ該当している。これらの篩50は、設置時に下流側に位置する方形枠に網板56が設けられる向きで、網目の大きな篩が上流側(図面右手側)に位置するように、配列される。そして、立体枠と篩、篩同士、及び篩とサーバーネットは、連結具により相互に結合・分離可能に組み合わされる。
【0018】
篩の結合・分離構造の一例を図4に示す。ここでは篩と篩の結合部を示しているが、篩と立体枠、篩とサーバーネットとの結合・分離構造も同様であってよい。隣り合う篩50の方形枠58同士を当接したとき、それらを包み込むような断面U型のチャンネル材を組み合わせた方形枠状の連結具60を用いて結合する。この実施例では、チャンネル材を四方から当てがい、止めネジ62とナット64で締め付けることによって篩同士を結合している。勿論、当接した方形枠の相対向する二辺にチャンネル材を差し込む構造の連結具などでもよいし、その他、クランプ構造の連結具などでもよい。
【0019】
次に、このような採集装置の使用方法について説明する。まず、河川内で設定されている調査場所に、この採集装置を設置する。組み上げられている採集装置を、コドラート12の金網26が上流側、サーバーネット52が下流側を向くように河床10の上に載置する。そして、立体枠20に設けられている固定用リング28に上から鉄筋棒30を差し込み、金槌などで河床10に打ち込むことによりコドラート12を固定する。必ずしも4箇所全てに鉄筋棒を打ち込む必要はなく、河床の状態に応じて選定した(岩などがあると打ち込めない)2箇所に鉄筋棒を打ち込めば十分に固定できる。
【0020】
このとき、立体枠20の下部に設けたスカート部22は、河床の岩石などによる凹凸に沿って密着するように変形し、コドラート12の内部を周辺の河床から隔離する。上流側の金網26の部分から流入した水は、立体枠20の内部、及び捕集部14の篩50を通過し、下流側のサーバーネット52に流れ込む状態となる。
【0021】
このような状態で、立体枠20の上部よりバールなどを差し込んで、コドラート12の内部の岩や礫を掘り起こすなどして一定の厚さとなるようにコドラート内側区域の河床を剥ぎ取り、捕集部14へと河床材料をそのまま流し込む。このとき、立体枠20の両側面はパネル24で仕切られているので、掘り起こした河床材料や底生動物がコドラート12の外部へと出る恐れはないし、底部は全てスカート部22で仕切られているので、掘り起こした河床材料や底生動物が底部からコドラートの外部へと出る恐れもない。逆に、コドラート外の河床材料や底生動物が捕集部14へ送り込まれることもない。つまり、掘り起こした河床材料とそれに依存する全ての底生動物のみを捕集部14へと流し込むことができる。
【0022】
一定の厚さの河床材料を捕集部14に流し込んだ後、コドラート12から捕集部14を分離する。そして、河川敷に用意した樽などの容器(図示せず)の中に、コドラートとの接続部を上に向けた状態で捕集部14を縦に配置する。従って、上方から網目の大きい順に篩50が連結し、一番下にサーバーネット52が位置することになる。樽(容器)の中に水を張り、一段目の(網目の最も大きな)篩から、順次、採取した河床材料を水洗いして、礫に付着している底生動物や砂礫などを洗い流し、下方の篩に落とし込んでいく。
【0023】
一段目の篩の内部に残った河床材料を洗い終わったら、この一段目の篩を二段目の篩から分離し、別に用意したバットなどに一段目の篩に留まっている河床材料を移して、重量や容積の測定を行う。
【0024】
同様の作業を、順次、残りの篩についても実施する。このとき、採取した河床材料は、網目の大きさに応じて篩別され、大きなものは篩に留まり、小さなものは下方に流れ落ちる。そして、最終的には一番下のサーバーネット52に底生動物と細礫や砂などが洗い落とされる。このようにして、コドラート内に生息している底生動物を完全に採集でき、またそれと同時に、河床材料を大きさ(粒径)によって、大礫(64mm以上)、中礫のうちの大きなもの(64〜32mm)、中礫のうちの小さなもの(32〜4mm)、細礫及び砂など(4mm以下)に分類して採取でき、それぞれの重量や容積を求めることができる。
【0025】
この採集装置は、コドラートを立体構造とし、立体枠の上流側の面に設けた金網、両側面に設けたパネル、及び下部に取り付けた変形自在のスカート部によって、コドラートの内部と外部が遮断されているので、コドラート内から外部への底生動物の逃亡やコドラート外から内部への底生動物の入り込みを防止でき、コドラート内に生息する底生動物を高い精度で採集することが可能となる。
【0026】
また、立体枠の上部より差し込んだバールなどを用いて河床の石を掘り起こし、河川内での洗い流し作業を経ずに単に捕集部内に移せばよいため、採集作業者の経験や熟練度に殆ど関係なく、簡単に且つ確実にコドラート内の底生動物を採集することができる。
【0027】
更に、この採集装置によれば、コドラート内の底生動物の採集と同時に河床材料も採取されるため、これらの河床材料を網目の異なる篩で分別することにより、底生動物が生息していた物理的な環境を河床材料から判断するための情報収集を、底生動物の採集と同時に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る底生動物の定量採集装置の一実施例を示す全体構成図。
【図2】スカート部の説明図。
【図3】捕集部の構成を示す説明図。
【図4】篩の結合・分離構造の例を示す説明図。
【符号の説明】
【0029】
10 河床
12 コドラート
14 捕集部
20 立体枠
22 スカート部
24 パネル
26 金網
28 固定用リング
30 鉄筋棒
50 篩
52 サーバーネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採集範囲を規定するために河床上に載置されるコドラートと、該コドラートの下流側に位置するサーバーネットを備えた捕集部とを組み合わせた採集装置において、
前記コドラートは、直方体状の立体枠を有し、その水圧を受ける上流側の面を網目状にして水の流れ込みを許容し、両側面は塞がれ、残りの面は開放されていて、且つ立体枠の下辺に沿って河床形状に馴染むように変形自在のスカート部を取り付けてコドラートの内外を遮断する構造であり、前記捕集部は、下流側ほど網目が小さくなるように連設した複数の篩と、その最も下流側に設けたサーバーネットからなることを特徴とする底生動物の定量採集装置。
【請求項2】
スカート部は、立体枠の下部4辺に沿って取り付けた帯状の袋状体と、該袋状体に部分充填した粒状物からなる請求項1記載の底生動物の定量採集装置。
【請求項3】
篩は、変形可能な構造もしくは材料からなる胴部と、その一端部に取り付けられている網板とからなり、立体枠と篩、篩同士、及び篩とサーバーネットは連結具により相互に結合・分離可能に組み合わされている請求項1又は2記載の底生動物の定量採集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−119050(P2006−119050A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308771(P2004−308771)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(593190434)日本建設コンサルタント株式会社 (1)
【Fターム(参考)】