説明

廃棄物のメタン発酵処理システム

【課題】メタン発酵に支障をきたすアンモニアを薬品を使用することなく除去し、これによってメタン発酵効率を高めることができるメタン発酵処理システムを提供すること。
【解決手段】有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽2と、有機性廃棄物をメタン発酵槽2に供給するための廃棄物供給ライン系4と、メタン発酵槽2にてメタン発酵処理された処理汚泥の一部を返送汚泥として廃棄物供給ライン系4に返送するための返送ライン系8と、返送ライン系8に配設された可溶化槽20と、可溶化槽20にて分離されたアンモニアを吸収するためのアンモニア吸収塔22とを具備する廃棄物のメタン発酵処理システム。可溶化槽20は、返送汚泥をパドル攪拌するためのパドル攪拌手段と、パドル攪拌された返送汚泥を曝気するための曝気手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物をメタン発酵処理するためのメタン発酵処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物をメタン発酵処理するシステムは、メタン発酵菌によって有機性廃棄物をメタン発酵処理するメタン発酵槽を備え、メタン発酵により生成されるメタンガスはガスホルダに貯留される。このメタン発酵を利用したシステムでは、高濃度のアンモニアがメタン発酵に阻害をきたすことが知られている。このようなことから、メタン発酵槽の上流側に可溶化槽を設け、この可溶化槽にて有機性廃棄物を可溶化するとともに、可溶化した有機性廃棄物に含有されたアンモニアを除去するようにしたシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、可溶化槽内に生石灰(CaO)を添加してアルカリ化するものであり、このようにアルカリ化することによって、有機性廃棄物を脱水して減容化するとともに、有機性廃棄物に含まれるアンモニアをアルカリ化して除去する。このようにアンモニアを除去することによって、メタン発酵槽内のアンモニア濃度を低く抑えることができ、その結果、メタン発酵を促進してその発酵効率を高めることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−188392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したメタン発酵処理システムでは、アンモニアを除去するために生石灰を必要とし、この生石灰の使用によりシステムの稼動コストが上昇するという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、メタン発酵に支障をきたすアンモニアを薬品を添加することなく除去し、これによってメタン発酵効率を高めることができる有機性廃棄物のメタン発酵処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載のメタン発酵処理システムは、有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽と、有機性廃棄物を前記メタン発酵槽に供給するための廃棄物供給ライン系と、前記メタン発酵槽にてメタン発酵処理された処理汚泥の一部を返送汚泥として前記廃棄物供給ライン系に返送するための返送ライン系と、前記返送ライン系に配設された可溶化槽と、前記可溶化槽にて分離されたアンモニアを吸収するためのアンモニア吸収塔とを具備し、前記可溶化槽は、嫌気性の雰囲気に保たれ、返送汚泥をパドル攪拌するためのパドル攪拌手段と、パドル攪拌された返送汚泥を酸素を含まない気体により曝気するための曝気手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に記載のメタン発酵処理システムでは、前記可溶化槽内の返送汚泥のpHは7.0〜9.0であり、その温度は70〜90℃であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に記載のメタン発酵処理システムでは、前記可溶化槽が横置きの筒状であり、前記パドル攪拌手段は、横方向に延びる回転軸と、前記回転軸上に間隔を置いて枝状に配設された複数のパドルとから構成されており、前記複数のパドルにより、前記可溶化槽内の返送汚泥を混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に記載のメタン発酵処理システムによれば、メタン発酵槽にてメタン発酵処理された処理汚泥の一部を返送汚泥として廃棄物供給ライン系に返送する返送ライン系に可溶化槽が配設され、この可溶化槽では、嫌気性の微生物の働きによって、返送汚泥中の固形物を分解、可溶化して、メタン発酵を促進する。可溶化槽はパドル攪拌手段及び酸素を含まない気体による曝気手段を備えているので、返送汚泥から生成されるアンモニアを生石灰などの薬品を使用することなくガス中に効率よく放散し、返送汚泥中のアンモニア濃度をより低くすることができる。また、曝気用気体には酸素を含まないので、嫌気性雰囲気が損なわれることはない。その結果、メタン発酵槽におけるメタン発酵処理の処理効率を高めることができる。即ち、曝気手段は曝気用ガスを可溶化槽内に送給し、送給された曝気用ガスは気泡となって可溶化槽内の返送汚泥中に分散して流れるので、少ないガス量でもってアンモニアをガス中に効率よく放散することができる。また、パドル攪拌手段は可溶化槽内の返送汚泥を混合し、これによって偏った気泡の通路を機械的に破壊して曝気用ガスのチャンネリングを防止し、曝気用ガスの気泡を可溶化槽内の全域にほぼ均一に行き渡せることができる。特に、メタン発酵槽におけるメタン発酵処理を乾式(投入固形物濃度を10%以上とする乾式)で行う場合、気泡が有機性廃棄物の隙間を通して流れる傾向にあり、これにより曝気用ガスのチャンネリングが生じ易くなるが、上述したようにパドル攪拌することによって気泡の通路が機械的に破壊されるようになり、それ故に、乾式のメタン発酵処理の場合、曝気方式とパドル攪拌方式を組み合わせて適用することが好ましく、これらの方式を組み合わせることによって、アンモニアをガス中に効率よく放散することができ、その結果、返送汚泥中のアンモニア濃度をより低くすることができる。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載のメタン発酵処理システムによれば、可溶化槽内の返送汚泥のpHは7.0〜9.0であり、その温度は70〜90℃であるので、ややアルカリ性で、高温であることによって、アンモニアは揮発しやすくなる。これによって、この返送汚泥中のアンモニアをガス中に効率よく放散することができる。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載のメタン発酵処理システムによれば、パドル攪拌手段が横軸式で回転軸に設けられたパドルが返送汚泥を表面的にも効果的に混合する。従って、返送汚泥のかき上げ、落下による攪拌効果もあり、これによって、可溶化槽内での返送汚泥の停滞部分が少なくなるとともに、曝気用のガスのチャンネリングが発生しても、パドルの動きにより、これを横から破壊し、解消することができる。これらにより、気泡による曝気効果をより確実に得ることができる。また、返送汚泥のかき上げ、落下により可溶化槽内の消泡効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うメタン発酵処理システムの一実施形態について説明する。図1は、一実施形態のメタン発酵処理システムの全体を簡略的に示すシステム図であり、図2は、図1のメタン発酵処理システムにおける可溶化槽を簡略的に示す断面図である。
【0013】
図1において、図示のメタン発酵処理システムは、有機性廃棄物、例えば生ゴミをメタン発酵処理するためのものであり、メタン発酵処理するメタン発酵槽2と、このメタン発酵槽2に有機性廃棄物を供給するための廃棄物供給ライン系4と、メタン発酵槽2にて発酵処理された処理汚泥を処理するための処理汚泥処理ライン系6と、処理汚泥の一部を返送汚泥として廃棄物供給系4に返送する返送ライン系8とを備えている。
【0014】
廃棄物供給ライン系4には有機性廃棄物(例えば、生ゴミ)を小さく切断する切断装置10が設けられ、切断された有機性廃棄物がメタン発酵槽2に供給される。この切断装置10は、切断機、回転破砕機などを用いることができる。
【0015】
メタン発酵槽2は、メタン発酵菌を用いて有機性廃棄物をメタン発酵処理し、一般的にメタン発酵菌として嫌気性のものが用いられる。有機性廃棄物としての生ゴミを発酵処理する場合、乾式(所謂、投入固形物濃度を10%以上とする乾式)の処理方式を採用することによって効率良くメタン発酵処理することができ、この実施形態において乾式の処理方式が適用されている。このメタン発酵槽2に関連してガスホルダ12が設けられ、メタン発酵槽2内でのメタン発酵処理にて発生したメタンガスがガスホルダ12に収集されて貯えられる。
【0016】
処理汚泥処理ライン系6には、メタン発酵槽2にて発酵処理された処理汚泥を固体と液体とに分離する固液分離装置14が配設されている。この実施形態では、メタン発酵槽2にて発行された処理汚泥の50〜60%程度が固液分離装置6に送られ、処理汚泥の残りの40〜50%が返送汚泥として返送ライン系8に返送される。固液分離装置14にて分離された固体は、焼却装置16にて焼却処理される。焼却処理することなく、堆肥などに利用するようにすることもできる。また、固液分離装置14にて分離された液体は、排水処理装置18にて送られて排水処理され、所要の通りに処理された後に排水される。
【0017】
また、返送ライン系8には、返送汚泥を可溶化するための可溶化槽20が設けられ、この可溶化槽20に関連してアンモニア吸収塔22が設けられている。後に詳述するように、可溶化槽20はパドル攪拌手段24及び曝気手段26を備え(図2参照)、パドル攪拌手段24及び曝気手段26の作用によって返送汚泥の可溶化が行われるとともに、返送汚泥に含まれるアンモニアが放散され、放散されたアンモニアはアンモニア吸収塔22にて吸収される。
【0018】
可溶化槽20にてアンモニアが除去された返送汚泥は、有機性廃棄物供給ライン系4(具体的には、切断装置10の下流側)に戻され、切断装置4にて切断された有機性廃棄物と混合されてメタン発酵槽2に供給される。このように返送汚泥に含まれたアンモニアを除去して返送するので、メタン発酵槽2中のアンモニア濃度が上昇することがなく、これによって、メタン発酵菌の活性化の阻害が抑えられ、メタン発酵槽2におけるメタン発酵の発酵効率を高めることができる。
【0019】
次に、主として図2を参照して、上述したメタン発酵処理システムにおける可溶化槽20について説明する。図示の可溶化槽20は、略円筒状で横置き槽本体25を備え、この槽本体25の両端壁26,28間にパドル攪拌手段24が装着されている。パドル攪拌手段24は、横軸式のものであり、両端壁26,28間に回転自在に支持された回転軸30と、この回転軸30に軸方向に間隔をおいて取り付けられ複数(図2では4つ)のパドル32とから構成されている。回転軸30は端壁26,28間に水平方向に延び、各パドル32は、回転軸30から径方向に延びる支持部34と、この支持部34から水平方向に延びるパドル部36とを備えている。回転軸30は駆動用モータ38に駆動連結され、この駆動用モータ38が作動すると、パドル攪拌手段24、即ち回転軸30及びパドル32が所定方向に回転駆動される。
【0020】
また、この槽本体25には、更に、曝気手段26が設けられている。図示の曝気手段26は槽本体25の底部に横方向(図2において左右方向)に間隔をおいて設けられた複数の噴出ノズル38を備えている。酸素を含まない曝気用ガスを供給するためのガス供給流路40が配設され、このガス供給流路40から分岐する分岐流路42が対応する噴出ノズル38に接続されている。このように構成されているので、ガス供給流路40から供給される曝気用ガスは分岐流路42を通して噴出ノズル38から可溶化槽20内に噴出され、かく噴出されたガスが槽本体25の底部のほぼ全体から気泡となって返送汚泥中を上昇して流れる。曝気手段25としては、曝気用ガスを気泡として可溶化槽20内に送入するものであれば、周知の他の形態のものでよい。
【0021】
この実施形態では、更に、次のように構成されている。槽本体25の一端側(図2において左端側)上端部には投入口44が設けられ、メタン発酵槽2からの返送汚泥がこの投入口44を通して可溶化槽20内に投入される。また、槽本体25の他端側(図2において右端側)底部には排出口46が設けられ、この排出口46を通して排出される返送汚泥(可溶化槽20にて処理された汚泥)が廃棄物供給ライン系4に送給される。更に、槽本体25の他端側上端部には排出口48が設けられ、この排出口48を通して排出されたガスはアンモニア吸収塔22に送給され、アンモニア吸収塔22にてアンモニアが吸収された後のガスが曝気用ガスとしてガス供給流路40に供給される。尚、曝気用ガスは、メタン発酵槽から発生するガスであってもよい。
【0022】
この可溶化槽20においては、分解により生成したアンモニアは、次のようにして放散されてアンモニア吸収塔22にて吸収される。即ち、ガス供給流路40からの曝気用ガスが噴出ノズル38から可溶化槽20内に噴出され、かく噴出されたガスが気泡となって可溶化槽20内の返送汚泥50の液中に分散して上方に流れるので、少ないガス量でもってアンモニアを効率よく放散することができる。また、駆動用モータ38によってパドル攪拌手段24(即ち、回転軸30及びパドル32)が所定方向に回転駆動され、パドル32は可溶化槽20内の返送汚泥50を横方向及び上下方向にも効果的に混合し、これによって曝気用ガスの気泡が可溶化槽20内の全域にほぼ均一に行き渡るようになり、これによってアンモニアをより効率よくガス中に放散することができ、返送汚泥50中のアンモニアの濃度を著しく低減することができる。また、この実施形態では、パドル攪拌手段が横軸式であるので、パドルにより返送汚泥がかき上げ、落下されて攪拌混合され、これによって、曝気効果が寄り確実に得られ、これによってもアンモニアの放散を高めることができる。
【0023】
このようにガスの気泡を利用してアンモニアを放散させる場合、可溶化槽20内の返送汚泥のpHは7.0〜9.0程度に保たれており、このような状態においては、その温度を70〜90℃に保つのが好ましく、このような温度範囲にたもつことによって、返送汚泥50中のアンモニアの放散を高効率で行うことができる。また、有機性廃棄物を乾式でメタン発酵させる場合、この乾式の方が希釈水をより多く用いる湿式に比して窒素濃度が高くなり、このように窒素濃度が高くなるほうが返送汚泥中のアンモニア除去の観点から有利となり、従って、上述した可溶化槽20は、乾式のメタン発酵処理に非常に適したものとなる。
【0024】
以上、本発明に従うメタン発酵処理システムの一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態のメタン発酵処理システムの全体を簡略的に示すシステム図。
【図2】図1のメタン発酵処理システムにおける可溶化槽を簡略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
2 メタン発酵槽
4 廃棄物供給ライン系
6 処理汚泥処理ライン系
8 返送ライン系
20 可溶化槽
24 パドル攪拌手段
26 曝気手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物をメタン発酵させるメタン発酵槽と、有機性廃棄物を前記メタン発酵槽に供給するための廃棄物供給ライン系と、前記メタン発酵槽にてメタン発酵処理された処理汚泥の一部を返送汚泥として前記廃棄物供給ライン系に返送するための返送ライン系と、前記返送ライン系に配設された可溶化槽と、前記可溶化槽にて分離されたアンモニアガスを吸収するためのアンモニア吸収塔とを具備し、前記可溶化槽は、嫌気性の雰囲気に保たれ、返送汚泥をパドル攪拌するためのパドル攪拌手段と、パドル攪拌された返送汚泥を酸素を含まない気体により曝気するための曝気手段とを備えていることを特徴とする廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項2】
前記可溶化槽内の返送汚泥のpHは7.0〜9.0であり、その温度は70〜90℃であることを特徴とする請求項1に記載の廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項3】
前記可溶化槽が横置きの筒形であり、前記パドル攪拌手段は、横方向に延びる回転軸と、前記回転軸上に間隔を置いて枝状に配設された複数のパドルとから構成されており、前記複数のパドルにより、前記可溶化槽内の返送汚泥を混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃棄物のメタン発酵処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−112904(P2009−112904A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286504(P2007−286504)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(591027444)大阪ガスエンジニアリング株式会社 (18)
【Fターム(参考)】