説明

建て替え方法

【課題】地下通路の通行を確保しながらも、新規建物の建設工期の短縮を図ることができる。
【解決手段】地下通路1を含む既存建物2を、地下通路1の通行を確保した状態で新規建物3に建て替える建て替え方法において、既存の地下通路1をその幅方向に複数の区画1a,1b,1cに分割すると共に、これら区画1a,1b,1cを作業区画Wと通路区画Rとに区別し、通路区画Rを地下通路1として確保しながら、作業区画Wを新規地下通路5に建て替え、順次、作業区画Wと通路区画Rとを切り替えて、地下通路1の全体の建て替えを完了させるにあたり、各区画の内の少なくとも一つにおいて、地下通路1を貫通する状態に構真柱Pを打設し、その構真柱Pに支持力を確保しながら上方の建設工事を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下通路を含む既存建物を、前記地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の建て替え方法としては、既存建物の基礎補強工事の一貫として、既存建物の下部に作業用のボックスカルバート(地下通路に相当)を形成し、このボックスカルバートを使用して既存建物の基礎補強を行うといったものがあった(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この従来技術によれば、既存建物に備えた地下通路を使用するものではなく、上方の建設工事を実施するのに伴って、わざわざ地下通路を新設する必要があり、工期が長くなり易く、コスト高になり易い問題点がある。
また、当業者の間で広く知られているものの、該当する「建て替え方法」に関して詳しく言及した特許文献などは見あたらないので、先行技術文献を示すことができないが、地下通路を含む既存建物を、地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える場合、広く実施されるのは、次の方法によることが多い。
図8に示すように、地下街等の既存地下通路1を含む敷地内に、その既存地下通路1を含んだ側方範囲にわたって新規建物3を建設する場合、まず、既存地下通路1の平面範囲を除いた第1期新規建物3Aの建設に着手する。第1期新規建物3Aの中には、いずれ地下通路となる新規地下躯体を建設しておく。既存地下通路1の通行を前記新規地下通路5に切り替えた後、既存地下通路1を取りこわし、その跡地に、前記第1期新規建物3Aに隣接させて一体となるように第2期新規建物3Bを建設する。
【0003】
【特許文献1】特開2008−13926号公報(図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8に示した従来の建て替え方法によれば、地下通路1の通行を確保した状態で工事を進めるためには、その既存地下通路1の存在が有る間は第2期新規建物3Bの建設に掛かることができない。従って、新規地下通路5に通行を切り替えて既存地下通路1を取り壊すことができる時期まで、第2期新規建物3Bの建設に着手できないから、全体工期が長くなる問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、地下通路の通行を確保しながらも、新規建物の建設工期の短縮を図ることができる建て替え方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、地下通路を含む既存建物を、前記地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法において、既存の前記地下通路をその幅方向に複数の区画に分割すると共に、これら区画を作業区画と通路区画とに区別し、前記通路区画を地下通路として確保しながら、前記作業区画を新規地下通路に建て替え、順次、前記作業区画と通路区画とを切り替えて、地下通路の全体の建て替えを完了させるにあたり、前記各区画の内の少なくとも一つにおいて、前記地下通路を貫通する状態に構真柱を打設し、その構真柱に支持力を確保しながら上方の建設工事を実施するところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、地下通路の建て替えそのものは、既存の地下通路の作業区画と通路区画とを、順次切替ながら実施することで、地下通路の通行を確保しながら地下通路の建て替えを並行させて行える。
更には、各区画の内の少なくとも一つにおいて、地下通路を貫通する状態に構真柱を打設して、その構真柱に支持力を確保しながら上方の建設工事を実施するから、地下通路の建て替えに並行して、上方の建設工事に着手することができる。
従って、図1に示すように、地下街等の既存地下通路を含む敷地内に、その既存地下通路を含んだ側方範囲にわたって新規建物3を建設するような場合でも、既存地下通路の平面範囲を除いた第1期新規建物3Aの建設工事と、既存地下通路の上方の第2期新規建物3Bの建設工事とを、ほとんど同時に着手することができる。
その結果、地下通路の通行を確保しながらも、従来に比べて新規建物の建設工期の短縮を図ることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記区画は、既存の前記地下通路をその幅方向に3分割して設定されるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、例えば、3分割した区画の内、1区画を作業区画とし、2区画を通路区画とすることができ、通路区画の幅員を、より広く確保することができる。更には、区画変更の手間を少なくでき、効率的に建て替え作業を実施できる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記構真柱は、前記地下通路の幅方向での中央部に設定されている区画に打設するところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、構真柱の両側方に位置する支持スパンを、同じ又はほぼ同じとなるように設計でき、応力的に安定した新規建物を建設できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0013】
図1は、本発明の建て替え方法を実行する前と後との建物状況を示すものであり、建て替えそのものは、地下通路1を含む既存建物2を(図2参照)、前記地下通路1の通行を確保した状態で新規建物3に建て替えるものである。
【0014】
建て替え前の既存建物2は、図2に示すように、地下通路1で構成してある。
建て替え後の新規建物3は、図1に示すように、前記地下通路1を建て替えた新規地下通路5を含んだ両側方範囲にわたって形成された地下部と地上部とを備えた建物で構成してある。
新規建物3の内、既存地下通路1の平面範囲上に形成されている部分を、第2期新規建物3Bといい、既存地下通路1の平面範囲を除いた範囲上に形成されている部分を、第1期新規建物3Aという。
因みに、前記地下通路1や既存建物2や新規建物3の構造は、例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造や、他の構造によって構成してある。
【0015】
次に、既存建物2から新規建物3への建て替え方法について説明する。
[1]既存の前記地下通路1をその幅方向に三つの区画1a,1b,1cに分割すると共に、これら区画1a,1b,1cを、作業区画Wと通路区画Rとに区別する(図3参照)。
当初の区別は、中央部の区画1bを作業区画Wとし、両側の区画1a,1cを通路区画Rとする。
[2]新規建物3の支持杭の打設から、上部へと建設工事を進める。但し、第2期新規建物3Bにおいては、地下通路1の側方における支持杭打設と並行して、中央の区画1bにおいて、地上部から地下通路1を貫通する状態に構真柱Pを打設する(図3参照)。
構真柱Pの打設は、地上部分から、例えば、アースドリル工法やリバース工法によって施工するもので、地下通路内への地下水や泥土の流出を防止する意味で、杭位置の外周にガイドウォールや、スタンドパイプを建て込んで施工に臨む。
また、構真柱Pの打設後には、区画1bに位置している地下通路1部分を新しい新規地下通路5部分に建て替えると共に、前記構真柱Pに支持力を確保しながら上方の建設工事を実施する。
[3]地下通路1においては、区画1bでの建て替えが完了したら、例えば、区画1bを通路区画Rに、区画1aを作業区画Wとして切り替えて、区画1aでの地下通路1部分を新しい新規地下通路5部分に建て替える(図4参照)。また、区画1aでの建て替えが完了したら、同様に、区画1cを作業区画Wとして切り替えて建て替えを進める。
以上の工程によって、地下通路1の通行を確保した状態で、新規建物に建て替えることができる(図5参照)。
【0016】
本実施形態による建て替え方法によれば、地下通路の通行を確保しながら地下通路の建て替えを並行させて行えると共に、地下通路の上方の建設工事も、他の部分の新規建物の建設工事とほとんど同時に着手することができ、従来に比べて新規建物の建設工期の短縮を図ることができる。
又、地下通路の区画を3分割にしてあるから、通路区画の幅員を、より広く確保することができる。更には、区画変更の手間を少なくでき、効率的に建て替え作業を実施できる。
更には、地下通路を貫通する構真柱は、前記地下通路の幅方向での中央部に設定されている区画に打設してあるから、構真柱の両側方に位置する支持スパンを、同じ又はほぼ同じとなるように設計でき、応力的に安定した新規建物を建設できる。
【0017】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0018】
〈1〉 当該建て替え方法の対象となる建物は、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、例えば、建て替え前は、図6(a)に示すように、地下部や地上部を備えた既存建物2の一部に地下通路1を備えたものであったり、図6(b)に示すように、建て替え前は、地下通路1のみで既存建物が構成されているものであってもよい。
また、建て替え後は、図7(a)に示すように、地下通路を含んだ上方にのみ新規建物が形成されるものであったり、図7(b)に示すように、地下通路を含んだ一方側の側方と、上方とに新規建物が形成されるものであってもよい。
当然の事ながら、新規地下通路の下方にも新規建物が建設されるものであってもよい。
〈2〉 地下通路内の区画の設定は、先の実施形態で説明した三分割に限るものではなく、他の複数分割であってもよい。
〈3〉 構真柱を設置する対象の区画は、先の実施形態で説明した地下通路の中央部のものに限るものではなく、端部側であってもよい。
【0019】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】新規建物を示す概念図
【図2】既存建物を示す断面図
【図3】建て替え手順を示す概念図
【図4】建て替え手順を示す概念図
【図5】建て替え手順を示す概念図
【図6】別実施形態の建物を示す正面図
【図7】別実施形態の建物を示す正面図
【図8】従来の建て替え方法を示す正面図
【符号の説明】
【0021】
1 地下通路
1a 区画
1b 区画
1c 区画
2 既存建物
3 新規建物
5 新規地下通路
P 構真柱
R 通路区画
W 作業区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下通路を含む既存建物を、前記地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法であって、
既存の前記地下通路をその幅方向に複数の区画に分割すると共に、これら区画を作業区画と通路区画とに区別し、
前記通路区画を地下通路として確保しながら、前記作業区画を新規地下通路に建て替え、
順次、前記作業区画と通路区画とを切り替えて、地下通路の全体の建て替えを完了させるにあたり、
前記各区画の内の少なくとも一つにおいて、前記地下通路を貫通する状態に構真柱を打設し、その構真柱に支持力を確保しながら上方の建設工事を実施する建て替え方法。
【請求項2】
前記区画は、既存の前記地下通路をその幅方向に3分割して設定される請求項1に記載の建て替え方法。
【請求項3】
前記構真柱は、前記地下通路の幅方向での中央部に設定されている区画に打設する請求項1又は2に記載の建て替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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