説明

建物内植物生育システム、及び建物内植物生育システムの制御方法

【課題】建物内部で植物が十分に生育できるようにする。
【解決手段】建物内植物生育システム1は、建物の外壁に設けられた窓の少なくとも一部と、当該建物の内部に当該建物の外壁に対向して設けられた仕切り部とにより仕切られた空間の内部に設けられた植物の栽培室と、前記栽培室と前記仕切り部を介して隣り合う居室と、前記栽培室の温度と前記居室の温度とをそれぞれ検知する手段と、前記検知された前記栽培室と前記居室とのそれぞれの温度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する換気手段と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内植物生育システム、及び建物内植物生育システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、建物の環境負荷を小さくすることが求められている。そこで、下記の特許文献1に示されるように、建物の窓に内窓を付けてエアーフローウィンドウとしたり、建物にダブルスキン構造を用いたりすることで、建物内の換気を効率的に行い、建物内の空調負荷を低減させる技術が提案されている。また、特許文献2に示されるように、建物に植物栽培用の温室を設けて、内部で植物を栽培することができる建物も提案されている。
【特許文献1】特開2007−197922号公報
【特許文献2】特表2000−504588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術では、建物内で植物を栽培しようとすると、温室を別途設ける必要があった。また、植物の生長のために温室内を暖房したり、植物に二酸化炭素を供給するためにボイラーを稼働させたりすることで、エネルギーを消費してしまうなど非効率なところもあった。
【0004】
本発明の目的の一つは、建物内部の既存の空間を効率的に活用しつつ、植物が好適に生育するように制御することを可能とした建物内植物生育システム、及び建物内植物生育システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の建物内植物生育システムの発明は、窓が設けられた建物の外壁の少なくとも一部と、前記建物の内部に前記外壁に対向して設置された仕切り部とにより仕切られた空間に設けられた植物の栽培室と、前記栽培室と前記仕切り部を介して隣り合う居室と、前記栽培室の温度と前記居室の温度とをそれぞれ測定する手段と、前記測定された前記栽培室と前記居室とのそれぞれの温度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する換気手段と、を含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の建物内植物生育システムにおいて、前記換気手段は、前記居室の温度の方が前記栽培室の温度よりも前記植物の生育に適した所定の温度に近い場合に、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する、ことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の建物内植物生育システムにおいて、前記建物の外気の温度を測定する手段と、前記測定された外気の温度と、前記栽培室の温度とに応じて、前記外気と前記栽培室の間で空気を換気する外気換気手段と、をさらに含む、ことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の建物内植物生育システムにおいて、前記外気換気手段は、前記外気の温度の方が前記栽培室の温度よりも前記植物の生育に適した所定の温度に近い場合に、前記外気と前記栽培室の間で空気を換気する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の建物内植物生育システムにおいて、前記栽培室の二酸化炭素濃度を測定する手段をさらに含み、前記換気手段は、前記測定された二酸化炭素濃度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の建物内植物生育システムにおいて、前記測定された二酸化炭素濃度に応じて、前記栽培室と外気との間で空気を換気する手段をさらに含む、ことを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の建物内植物生育システムにおいて、前記栽培室の内部に設けられた人工照明と、前記栽培室への光合成有効放射量を測定する手段と、をさらに含み、所定の期間において前記測定された光合成有効放射量の合計が、前記植物の生育に適した光合成有効放射量の予め定められた範囲に満たない場合に、前記人工照明を点灯する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の建物内植物生育システムにおいて、前記栽培室を構成する、前記外壁に設けられた窓から前記栽培室に入射する太陽光を遮光する手段をさらに含み、前記測定された光合成有効放射量が所定の閾値を上回る場合には、前記遮光手段により前記太陽光を遮光する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の建物内植物生育システムにおいて、前記栽培室は、前記外壁をダブルスキン構造にして構成される空間の内部に設けられる、ことを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の建物内植物生育システムにおいて、前記仕切り部は、前記外壁に設けられた窓の内窓であり、前記栽培室は、前記外壁に設けられた窓のペリメータ部に前記内窓を配置することにより構成される、ことを特徴とする。
【0015】
請求項11に記載の建物内植物生育システムの制御方法の発明は、窓が設けられた建物の外壁の少なくとも一部と、前記建物の内部に前記外壁に対向して設置された仕切り部とにより仕切られた空間に設けられた植物の栽培室の温度を検知するステップと、前記栽培室と前記仕切り部を介して隣り合う居室の温度を検知するステップと、前記検知された前記栽培室と前記居室とのそれぞれの温度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気させるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、栽培室と居室との室内温度の変化に応じて、相互に換気を行うことにより、建物内部の既存の空間を効率的に活用しつつ、植物が好適に生育するように制御することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、栽培室を植物の適温近くに保つことにより、建物内部で植物が好適に生育できるように制御することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、栽培室の温度と屋外温度との変化に応じて、相互に換気を行うことにより、建物内部で植物が好適に生育できるようにすることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、栽培室を植物の適温近くに保つことにより、建物内部で植物が好適に生育できるように制御することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、栽培室と居室との空気を換気して栽培室内の二酸化炭素濃度を調整することで、建物内部で植物が好適に生育できるように制御することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、栽培室の空気と外気とを換気して栽培室内の二酸化炭素濃度を調整することで、建物内部で植物が好適に生育できるように制御することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、栽培室内への光合成有効放射量が不足している場合に人工照明で不足分を補うことにより、建物内部で植物が好適に生育できるように制御することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、栽培室内へ入射する太陽光が過剰である場合には、栽培室に入射する太陽光を遮光することにより、建物内部で植物が好適に生育できるように制御することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、栽培室をダブルスキン構造の内部に設けることで、建物内部で植物が好適に生育できるようにするとともに、建物のスペースを有効に活用しつつ、エネルギー消費を抑えることができる。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、栽培室をペリメータ部に設けた内窓との内部に設けることで、建物内部で植物が好適に生育できるようにするとともに、建物のスペースを有効に活用しつつ、エネルギー消費を抑えることができる。
【0026】
請求項11に記載の発明によれば、栽培室と居室との室内温度の変化に応じて、相互に換気を行うことにより、建物内部の既存の空間を効率的に活用しつつ、植物が好適に生育するように建物内植物生育システムを制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0028】
図1には、本実施形態に係る建物内植物生育システム1の全体構成を示す。図1に示されるように、建物内植物生育システム1は、建物において窓が設けられる外壁部をダブルスキン構造としたダブルスキン部10を有し、ダブルスキン部10の内部に植物を栽培する栽培装置26を配置している。ここで、ダブルスキン構造とは、建物の外壁に対向する仕切り部を建物内部に設けて二重構造にするとともに、その二重構造の内部を換気するようにして、建物内の温度変化を低減させる外壁構造である。なお、図1において、左側に示されている図は、建物内植物生育システム1が適用された建物の居室40側から栽培室50を眺めた場合の正面図であり、右側に示されている図は、居室40と栽培室50との側面図である。
【0029】
ダブルスキン部10は、天井部12、外側ガラス部14、底面部16、居室40との境界部18、そして図示していない側壁により区切られた空間である。ダブルスキン部10では、外側ガラス部14の下部に設けられた換気用ダンパー20aから外気を取り込み、天井部12の一部に設けられた換気用ダンパー20bからダブルスキン部10の空気を屋外に排出できるようになっている。
【0030】
本実施形態では、ダブルスキン部10の内部には、栽培装置26を配置する配置部24が設けられている。配置部24は、例えばキャットウォークや格子状の床として構成することとして、ダブルスキン部10の空気が上下に換気しやすくするようにしてもよい。本実施形態では、ダブルスキン部10の内部空間の少なくとも一部を、栽培装置26を配置する栽培室50として用い、栽培室50内の換気や植物への日射等を制御することにより植物の生育を最適化しようとするものである。
【0031】
居室40は、居室天井42、居室床面44、境界部18、そして図示していない側壁により囲まれた人の居室空間である。上述したように、居室40は、境界部18を介して栽培室50と接している。また、境界部18のうち、居室40と接する一部には窓ガラス28が設けられており、居室40から栽培室50の内部を見通すことができるようにされている。そして、境界部18において、窓ガラス28の上部には、栽培室50と居室40との空気を相互に換気する給排気装置30が設置されている。給排気装置30は、ファンを含み、居室40から栽培室50、そして栽培室50から居室40への双方向に換気を行う換気装置である。
【0032】
栽培室50の内部にはさらに、温度、二酸化炭素濃度をそれぞれ測定する各種のセンサ群32、人工照明34、遮光カーテン36、および波長制御カラーロールフィルム38が設置される。また、建物内植物生育システム1にはさらに、居室40に温度センサや二酸化炭素濃度測定センサを含むセンサ群46と、屋外に面して温度センサ48が設けられ、居室40の室温と屋外の気温とをそれぞれ測定することができる。センサ群32及びセンサ群46,温度センサ48により測定された温度、二酸化炭素濃度等の測定データは、図2に示される植物生育制御装置100に伝送される。植物生育制御装置100は、各センサから伝送された測定データを解析し、その解析結果に基づいて給排気装置30の動作や換気用ダンパー20の開閉、及び人工照明34の点灯等を制御する。
【0033】
図2には、本実施形態に係る植物生育制御装置100の機能ブロック図を示す。図2に示されるように、植物生育制御装置100は、測定情報取得部102、換気制御部110、及び人工照明制御部112を備える。測定情報取得部102はさらに、温度取得部104、二酸化炭素濃度取得部106、及び光合成有効放射量取得部108を含み、各部により取得された測定データを植物生育制御装置100に取り込むインターフェースとして機能する。
【0034】
温度取得部104は、栽培室50に設置されたセンサ群32に含まれる温度センサ、居室40の温度を測定する温度センサを含むセンサ群46、および外気温度を測定する温度センサ48によりそれぞれ測定された温度データの出力を受ける。温度取得部104は、有線又は無線によるデータ伝送により、予め定められた時間間隔毎に各温度センサから温度データを取得することとしてよい。
【0035】
二酸化炭素濃度取得部106は、栽培室50に設置されたセンサ群32に含まれる二酸化炭素濃度センサにより測定された二酸化炭素濃度データの出力を受ける。また、二酸化炭素濃度取得部106はさらに、居室40に設置されたセンサ群46に含まれる二酸化炭素濃度センサにより測定された二酸化炭素濃度データの出力を受けることとしてもよい。二酸化炭素濃度取得部106は、有線又は無線によるデータ転送により、予め定められた時間間隔毎に二酸化炭素濃度センサから温度データを取得することとしてよい。
【0036】
光合成有効放射量取得部108は、建物への光合成有効放射量を取得する。光合成有効放射量は、日射量の所定割合、例えば45%として算出することとしてよい。ここで、日射量(W/m)は、建物に設置された日射量測定センサから取得することとしてもよいし、気象庁等の外部データベースから日射量を取得することとしてもよい。また、栽培室50に設置されるセンサ群32の中に光合成有効放射量を計測する光合成有効放射量計が含まれることとしてもよく、光合成有効放射量取得部108は、当該設置される光合成有効放射量計により光合成有効放射量を取得することとしてもよい。
【0037】
換気制御部110は、温度取得部104により取得された温度と、二酸化炭素濃度取得部106により取得された二酸化炭素濃度とが所定の条件を満たすか否かを判断し、その判断結果に基づいて給排気装置30及び換気用ダンパー20の動作を制御する。換気制御部110は、給排気装置30および換気用ダンパー20にそれぞれの動作を制御する制御信号を伝達し各部を制御する。以下、換気制御部110による給排気装置30及び換気用ダンパー20の制御の詳細について説明する。
【0038】
ここで、換気制御部110において温度取得部104により取得された温度に基づく換気制御について、図3(A)を参照しつつ具体的に説明する。図3(A)には、栽培室50の温度θg、及び居室40の温度θiの比較に基づいて給排気装置30を動作させて、居室40と栽培室50との間で換気を行う場合の動作条件が示されている。
【0039】
栽培室50の温度は、例えば栽培する植物の適温を18度から20度とした場合には、この温度範囲を目標温度範囲として換気を行うこととする。適温の範囲は、植物が光合成量により生成した糖の量が、植物が呼吸により消費する糖の量よりも大きくなる温度範囲として設定することとしてよい。そして、換気制御部110は、θgが18度未満であって、居室40の方が栽培室50よりも室温が高ければ、すなわち、θg<θiであれば、給排気装置30を動作させて居室40と栽培室50との間で換気を行い。θg≧θiであれば給排気装置30を動作させないようにする。また、θgが目標温度範囲内、すなわち18≦θg≦20であれば、給排気装置30を動作させない。そして、θgが目標温度範囲を上回る場合であって、居室40の方が栽培室50よりも室温が低い、すなわちθg>θiであれば、給排気装置30を動作させて居室40と栽培室50との間で換気を行い、θg≦θiであれば給排気措置30を動作させないこととする。
【0040】
また、図3(B)には、栽培室50の温度θgと、外気温θoとの関係に応じた換気用ダンパー20による栽培室50と外気との換気を行う場合の動作条件を示す。換気用ダンパー20が開けられる条件は、上記の給排気装置30による換気と同様に、θgが目標温度範囲外にある場合であって、外気温θoの方がθgよりも目標温度範囲に近いことである。
【0041】
次に、図4を参照しつつ、栽培室50の二酸化炭素濃度Φgに応じた換気について説明する。図4には、Φgの濃度範囲に応じた、給排気装置30と換気用ダンパー20の動作条件が示されている。
【0042】
本実施形態において、例えば植物が最適に光合成を行うために必要な二酸化炭素濃度(目標濃度範囲)を350〜1000ppmとすると、栽培室50の二酸化炭素濃度Φgが350ppmに満たない場合には、給排気装置30を動作させて、居室40からの空気を取り入れる。これは、居室40には人がおり、二酸化炭素濃度が栽培室50よりも高いためである。一方で、Φgが1000ppmを上回る場合には、換気用ダンパー20を開いて、栽培室50に外気を取り入れる。これは、外気の方が建物内よりも二酸化炭素濃度が低いためである。そして、二酸化炭素濃度Φgが目標濃度範囲にある場合には、給排気装置30も換気用ダンパー20も動作させずに換気を行わないこととする。また、二酸化炭素濃度に基づく換気の動作条件は、上記のものに限られない。例えば、栽培室50の二酸化炭素濃度Φgが所定の濃度範囲に満たない場合においては、Φgが居室40の二酸化炭素濃度よりも薄い場合にのみ、居室40と栽培室50との間で換気を行うこととしてもよい。また、栽培室50の二酸化炭素濃度Φgが所定の濃度範囲よりも大きい場合において、Φgが居室40の二酸化炭素濃度よりも小さければ、居室40と栽培室50との間で換気を行うこととしてもかまわない。
【0043】
もちろん、上記の給排気装置30と換気用ダンパー20による換気とをそれぞれ組み合わせて、栽培室50内の換気を行うこととしてよい。その場合には、室温を適正にするための換気と、二酸化炭素濃度を適正にするための換気とのどちらを優先するかを予め定めておくこととしてもよい。また、居室内の余剰空気の量に応じて、給排気装置30によるファンの風量を変更することとしてもよい。
【0044】
人工照明制御部112は、光合成有効放射量取得部108により取得された光合成有効放射量データに基づいて、人工照明34の点灯を制御する。以下、図5を参照しつつ、人工照明制御部112により行われる、栽培室50に入射する日射量に応じた人工照明34の照射制御について具体的に説明する。
【0045】
図5は、人工照明34の制御を説明する図である。図5に示されるように、人工照明制御部112は、光合成有効放射量取得部108により取得された日毎の光合成有効放射量の合計値(MJ/m)を測定し、直近の所定日数分(本実施形態では4日分)の光合成有効放射量を合計して、その合計値が基準の積算光合成有効放射量に達しているか否かを判断する。なお、基準の積算光合成有効放射量は、統計データに基づく月毎の平均日射量における4日分の50%に設定することとしてもよい。そして、人工照明制御部112は、図5(A)のように、光合成有効放射量の合計値が基準の積算光合成有効放射量に達していないと判断すると、人工照明34を点灯させて、不足している光合成有効放射量を植物に供給する。一方で、図5(B)のように、光合成有効放射量が基準の積算光合成有効放射量に達していると判断される場合には、光合成有効放射量が十分足りているため、人工照明34を点灯させない。
【0046】
また、人工照明34の動作条件は上記のものに限られるものではなく、例えば、過去の日射量の合計量が基準の積算光合成有効放射量を下回ることに加えて、現時点での日射量が季節毎に予め定められた基準値よりも下回った場合に、人工照明34を点灯させることとしてもよい。なお、人工照明34の点灯時間は、不足している光合成有効放射量に応じて決定することとしてよい。
【0047】
次に、図6(A)を参照しつつ、栽培室50内に設けられた遮光カーテンを開閉する際の基準について説明する。本実施形態では、栽培室50内の温度と、栽培室50内への光合成有効放射量とに基づいて遮光カーテンをどの程度開閉するかが決定される。ここで、遮光カーテンを「開く」状態とは、栽培室50へ入射する太陽光を遮光カーテンにより遮らない状態を意味し、遮光カーテンを「閉じる」状態とは、栽培室50への入射光を遮光カーテンにより遮る状態を意味する。
【0048】
図6(A)に示されるように、栽培室50内の温度θgが35度以内である場合には、遮光カーテンは「開く」状態とする。一方で、θgが35度を超える場合には、光合成有効放射量Sgが200W/m未満である場合には、遮光カーテンは開いておくこととし、また、Sgが200W/m以上250W/m以下である場合には、遮光カーテンを70%閉じることとし、さらに、Sgが250W/mを超える場合には遮光カーテンを90%閉じることとする。遮光カーテンをSgに応じてどれだけ閉じるかは適宜変更することとしてももちろん構わない。
【0049】
また、植物はその成長段階に応じて、最適な成長を促す光の波長が決まっていることが知られている。そこで、本実施形態においては、栽培室50内に設けられた波長制御カラーロールフィルム38を用いることで、植物の成長時期に合わせて、植物に照射する光の波長を変更することとする。そして、図6(B)には、植物の成長段階に合わせてどのような波長の光を植物に照射するのかを示している。
【0050】
図6(B)に示されるように、成長の初期段階、すなわち、苗植えから数日間は、波長域が400〜500nmの青の波長制御カラーロールフィルム38により植物に青色の光を照射する。そして、成長の生育段階、すなわち、果実がなるような時期では、波長域が650〜700nmの赤の波長制御カラーロールフィルム38により植物に赤色の光を照射する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る建物内植物生育システム1によれば、栽培室50、居室40、外気の温度変化や二酸化炭素濃度に応じて相互に換気を行い、また、植物に照射される日射量や光の波長を適宜変更することにより、建物内部で植物が十分に生育できるようにすることができる。その他にも、建物内で植物栽培が可能となるため、季節を問わず植物を栽培することができ、都市農園を実現することができる。また、植物の蒸散作用により冷えた空気を居室40に供給したり、空気に適度な湿度を保つことができるほか、植物の光合成により建物内の二酸化炭素を吸収したりすることで、居室40内の空気を過ごしやすい状態に保つことができる。また、オフィスから栽培室50を眺めることができるため、潤いのあるオフィス環境を構築することもできる。
【0052】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、例えば、図7に示す建物内植物生育システム2のように、居室140の窓のペリメータ部210に外窓114に対向するように内窓128を設けてできた空間を栽培室150として用いることとしてもよい。内窓128は、栽培室150内から植物の出し入れが容易なように、居室140側に開閉可能なように構成することとしてよい。
【0053】
上記の建物内植物生育システム2によれば、居室内に容易に温室を設けることができ、また、空きスペースを有効に利用することができるほか、室内への直射日光を軽減することができ強い日差しによる室内温度の上昇を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】建物内植物生育システムの全体構成を示す図である。
【図2】植物生育制御装置の機能ブロック図である。
【図3】温度に応じて換気を行う場合の動作条件を示す図である。
【図4】二酸化炭素濃度に応じて換気を行う場合の動作条件を示す図である。
【図5】人工照明の制御を説明する図である。
【図6】遮光カーテンを開閉する際の基準、及び植物の成長段階に合わせて照射する光の波長を説明する図である。
【図7】建物内植物生育システムの変形例に係る全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 建物内植物生育システム、2 建物内植物生育システム、10 ダブルスキン部、12 天井部、14 外側ガラス部、16 底面部、18 境界部、20,20a、20b 換気用ダンパー、24 配置部、26 栽培装置、28 窓ガラス、30 給排気装置、32 センサ群、34 人工照明、36 遮光カーテン、38 波長制御カラーロールフィルム、40 居室、42 居室天井、44 居室床面、46 センサ群、48 温度センサ、50 栽培室、100 植物生育制御装置、102 測定情報取得部、104 温度取得部、106 二酸化炭素濃度取得部、108 光合成有効放射量取得部、110 換気制御部、112 人工照明制御部、210 ペリメータ部、114 外窓、128 内窓、140 居室、150 栽培室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓が設けられた建物の外壁の少なくとも一部と、前記建物の内部に前記外壁に対向して設置された仕切り部とにより仕切られた空間に設けられた植物の栽培室と、
前記栽培室と前記仕切り部を介して隣り合う居室と、
前記栽培室の温度と前記居室の温度とをそれぞれ測定する手段と、
前記測定された前記栽培室と前記居室とのそれぞれの温度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する換気手段と、
を含むことを特徴とする建物内植物生育システム。
【請求項2】
前記換気手段は、前記居室の温度の方が前記栽培室の温度よりも前記植物の生育に適した所定の温度に近い場合に、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する、
ことを特徴とする請求項1に記載の建物内植物生育システム。
【請求項3】
前記建物の外気の温度を測定する手段と、
前記測定された外気の温度と、前記栽培室の温度とに応じて、前記外気と前記栽培室の間で空気を換気する外気換気手段と、をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物内植物生育システム。
【請求項4】
前記外気換気手段は、前記外気の温度の方が前記栽培室の温度よりも前記植物の生育に適した所定の温度に近い場合に、前記外気と前記栽培室の間で空気を換気する、
ことを特徴とする請求項3に記載の建物内植物生育システム。
【請求項5】
前記栽培室の二酸化炭素濃度を測定する手段をさらに含み、
前記換気手段は、前記測定された二酸化炭素濃度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の建物内植物生育システム。
【請求項6】
前記測定された二酸化炭素濃度に応じて、前記栽培室と外気との間で空気を換気する手段をさらに含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の建物内植物生育システム。
【請求項7】
前記栽培室の内部に設けられた人工照明と、
前記栽培室への光合成有効放射量を測定する手段と、をさらに含み、
所定の期間において前記測定された光合成有効放射量の合計が、前記植物の生育に適した光合成有効放射量の予め定められた範囲に満たない場合に、前記人工照明を点灯する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の建物内植物生育システム。
【請求項8】
前記栽培室を構成する前記外壁に設けられた窓から前記栽培室に入射する太陽光を遮光する手段をさらに含み、
前記測定された光合成有効放射量が所定の閾値を上回る場合には、前記遮光手段により前記太陽光を遮光する、
ことを特徴とする請求項7に記載の建物内植物生育システム。
【請求項9】
前記栽培室は、前記外壁をダブルスキン構造にして構成される空間の内部に設けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の建物内植物生育システム。
【請求項10】
前記仕切り部は、前記外壁に設けられた窓の内窓であり、
前記栽培室は、前記外壁に設けられた窓のペリメータ部に前記内窓を配置することにより構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の建物内植物生育システム。
【請求項11】
窓が設けられた建物の外壁の少なくとも一部と、前記建物の内部に前記外壁に対向して設置された仕切り部とにより仕切られた空間に設けられた植物の栽培室の温度を検知するステップと、
前記栽培室と前記仕切り部を介して隣り合う居室の温度を検知するステップと、
前記検知された前記栽培室と前記居室とのそれぞれの温度に応じて、前記栽培室と前記居室の間で空気を換気させるステップと、
を含むことを特徴とする建物内植物生育システムの制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−247274(P2009−247274A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98764(P2008−98764)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】