説明

建設機械の動力伝達装置

【課題】装置全体をコンパクト化することができる建設機械の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】ケース21内に一対の軸受23,24を介して駆動軸22を回転可能に支持し、その駆動軸22の端部には駆動ギヤ25を設ける。モータ20により遊星ギヤ減速機構26を介して駆動軸22が回転されたとき、駆動ギヤ25と噛合する被動ギヤ17が回転されて、建設機械の構造体が旋回される。一対の軸受23,24のうち、駆動ギヤ25側に位置する一方の軸受24を円錐コロ軸受で構成し、その円錐コロ軸受におけるテーパ状のインナレース24aを駆動軸22と一体に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧ショベル等の建設機械における旋回装置等に使用される動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の建設機械の旋回装置における動力伝達装置としては、例えば、特許文献1に開示されるような構成のものが提案されている。すなわち、この従来装置においては、図6に示すように、建設機械の下部構造体41上に上部構造体42が旋回軸受装置43により旋回可能に支持されている。なお、例えば油圧ショベルにおいては、下部構造体41は履帯(図示しない)有し、上部構造体42は運転席等を有する。
【0003】
前記旋回軸受装置43は、下部構造体41に固定されたインナレース44と、上部構造体42に固定されたアウタレース45と、両レース44,45間に介在された複数のボール46とを備えている。インナレース44の内周面には内歯ギヤよりなる被動ギヤ47が形成されている。上部構造体42上には油圧モータ49を有する動力伝達装置48が固定されている。
【0004】
前記動力伝達装置48のケース50内に駆動軸51が上下一対の軸受52,53を介して回転可能に支持され、その駆動軸51の下端部には前記被動ギヤ47に噛合する駆動ギヤ54が形成されている。前記各軸受52,53はそれぞれ自動調心コロ軸受で構成され、インナレース52a,53aと、内周面を球面状に形成したアウタレース52b,53bと、両レース間に介在された複数のバレル状をなすコロ52c,53cとを備えている。そして、油圧モータ49の回転により、減速機構55を介して駆動軸51,つまり駆動ギヤ54が減速回転されて、同ギヤ54と被動ギヤ47との噛合を介して上部構造体42が旋回される。
【特許文献1】特開2002−97668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような動力伝達装置において、駆動軸51は出力トルク伝達の際のねじり強度を確保するために軸径を大きく設定する必要があるのに対して、駆動軸51を支持する各軸受52,53の外径はケース50内への収容スペースの制約を受けるために小さく設定することが好ましい。
【0006】
また、前記各軸受52,53はインナレース52a,53aと、アウタレース52b,53bと、コロ52c,53cとに分離構成されている。このような構成の場合、両レース52a,53a,52b,53bはその剛性や強度を確保するために、ある程度の肉厚が必要である。その結果、コロ52c,53cとしてその外径寸法の大きなものを用いることができず、各軸受52,53の軸受容量が限定される。これによって、以下に説明するような問題が生じる。
【0007】
すなわち、図6において、動力の伝達時において、駆動軸51の下端部の中心点P1に作用する負荷荷重をF、その負荷荷重Fに基づいて下側軸受53に対応する駆動軸51の中心点P3に反力として作用する1次荷重をR2、その1次荷重R2に基づいて上側軸受52に対応する駆動軸51の上端部の中心点P2に反力として作用する2次荷重をR1とする。また、中心点P2,P3間の距離をL1、中心点P1,P3間の距離をL2とする。
【0008】
ところで、前記距離L1,L2が短いほど駆動軸51の長さを短くすることができて装置全体をコンパクトに構成できる。
しかしながら、下部側の距離L2を短くするためには、下側の軸受53としてその軸方向の寸法が短いものを使用する必要があるが、このようにすれば、コロ53cの長さも短くなり、軸受53の容量が小さくなって荷重の担持が困難になる。従って、距離L2の短縮化は実現困難である。
【0009】
また、下部側の軸受53の容量を大きくし、軸受53として大型のものを用いれば、前記負荷荷重Fに対して下部側の軸受53によって担持可能な1次荷重R2を大きくすることができる。従って、このような場合、上部側中心点で担持すべき2次荷重が小さくなり、前記距離L2を短縮化できる。
【0010】
しかしながら、このように構成した場合は、下部側の軸受53が大型化するとともに、軸受53の大型化にともない前記距離L2も長くなって距離L1の短縮化分と相殺してしまい、結果として装置全体の小型化を達成できない。
【0011】
以下に、その関係を詳述する。すなわち、以上に述べた関係について次の式が成立する。
【0012】
[数1]
F+R1=R2・・・・・(1)
F×L2=R1×L1・・(2)
前記の(1)式と(2)から、中心点P3における1次荷重R2を求めると、次式のようになる。
【0013】
[数2]
R2=F+(F×L2/L1)・・・(3)
R2=F×(1+L2/L1)・・・(4)
この(4)式によれば、中心点P1における負荷荷重Fを一定とした場合、中心点P1,P3間の距離L2が短いほど、中心点P3の1次荷重R2を小さくすることができて、下側軸受53の軸受容量の低減または中心点P2,P3間の距離L1の短縮が可能になることが示されている。
【0014】
また、前記の(2)式から、上部側の中心点P2における2次荷重R1を求めると、次式のようになる。
【0015】
[数3]
R1=F×(L2/L1)・・・(5)
前記の(4)式及び(5)式によれば、中心点P2,P3間の距離L1が短縮すると、上部側の中心点P2の2次荷重R1及び下部側の中心点P3の1次荷重R2が増加することになる。2次荷重R1及び1次荷重R2の増加は、軸受52,53の容量増大に直結する。言い換えれば、軸受52,53の容量を大きく設定すれば、中心点P2,P3間の距離L1の短縮が可能となる。
【0016】
しかしながら、一般には、動力伝達装置の要求寸法から、前記のように両軸受52,53の軸受容量が限定されて、その軸受容量を大きく設定することができないため、中心点P2,P3間の距離L1を長く形成することは回避できず、装置全体が大型化する。
【0017】
一方、駆動軸51として、軸径の大きなものを用いれば、その駆動軸51だけではなく、軸受52,53も大径化して、軸受容量を増加できて、駆動軸51の長さの短縮化できる。しかし、このようにすれば、動力伝達装置の径方向寸法が大きくなって、装置全体がやはり大型化することになる。
【0018】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、装置全体をコンパクト化することができ、しかも、軸受部分の構成を簡素化できる建設機械の動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、この発明は、ケースと、そのケース内に軸受を介して回転可能に支持され、端部に駆動ギヤを有する駆動軸とを備え、前記駆動軸がモータにて回転されることにより、前記駆動ギヤと噛合する被動ギヤが回転されて、建設機械の構造体が旋回されるようにした建設機械の動力伝達装置において、前記軸受を円錐コロ軸受で構成し、その円錐コロ軸受におけるテーパ状のインナレースを前記駆動軸に一体に形成したことを特徴としている。
【0020】
また、前記の構成において、前記軸受を駆動軸の軸線方向に離隔した2箇所に設け、前記駆動ギヤ側に位置する一方の軸受を円錐コロ軸受で構成するとよい。
この構成によれば、駆動ギヤ側の円錐コロ軸受のインナレースを駆動軸と一体に形成したことで、別体の厚いインナレースが不要になり、軸受の内外径を変更することなく、コロの外径寸法を大きく設定することができて、軸受容量を増大させることができる。また、駆動ギヤ側の軸受を円錐コロ軸受で構成したことにより、その軸受と対応する駆動軸の中心点を駆動ギヤと対応する駆動ギヤ側に移動させることができ、結果として駆動軸の長さを短縮できる。しかも、この駆動ギヤ側の軸受における軸受容量の増大により、前記両中心点間の距離も短縮でき、その結果、装置全体の高さを低くしてコンパクト化することができる。
【0021】
さらに、前記の構成において、前記駆動ギヤと反対側に位置する他方の軸受を円錐コロ軸受で構成し、その円錐コロ軸受におけるテーパ状のインナレースを前記駆動軸とモータとの間に介在された遊星ギヤ減速機構のキャリアに一体に形成するとよい。このように構成した場合には、駆動ギヤと反対側の軸受においても、その内外径を変更することなく、コロの外径寸法を大きく設定することができて、軸受容量を増大させることができる。従って、高い2次荷重に耐えることができるため、両軸受間の距離を短くすることが可能になる。また、駆動ギヤ側と反対側の円錐コロ軸受のインナレースを遊星ギヤ減速機構のキャリアと一体に形成したことにより、その軸受とキャリア及び駆動軸間を連結するためのスプライン等の係合部とを駆動軸の軸線の直交方向から見て重ねることができる。従って、駆動軸の軸線方向に位置をずらせて配置する必要がなくて、駆動軸をさらに短くできる。その結果、装置全体の高さを一層低くして、大幅なコンパクト化を図ることができる。
【0022】
加えて、前記の構成において、前記駆動軸とキャリアとの間にインナレースの軸線方向における位置を調整して同インナレースとコロとの接触圧を調整するための調整手段を設けるとよい。このようにすれば、インナレースとコロとの接触圧だけではなく、同時にアウタレースとコロとの接触圧も調整されるため、駆動軸を軸受によってガタなく円滑に支持することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、この発明によれば、駆動軸を支持する軸受の内外径を変更することなく、軸受容量を増大させることができ、その結果、装置全体の高さを低くしてコンパクトに構成することができ、しかも構成を簡素化できるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、この発明を建設機械としての油圧ショベルの旋回装置における動力伝達装置に具体化した第1実施形態を、図1〜図3に基づいて説明する。
【0025】
図1に示すように、この実施形態の油圧ショベルにおいては、履帯11aを有する構造体としての下部走行体11上に、同じく構造体としての上部旋回体12が旋回軸受装置13を介して旋回可能に支持されている。そして、この上部旋回体12には、運転室12aや作業アーム12b等が設けられている。
【0026】
図2及び図3に示すように、前記旋回軸受装置13は下部走行体11に固定されたインナレース14と、上部旋回体12に固定されたアウタレース15と、そのインナレース14とアウタレース15と間に介在された複数のボール16とを備えている。前記インナレース14の内周面には、内歯ギヤよりなる被動ギヤ17が形成されている。
【0027】
図3に示すように、前記上部旋回体12上にはこの実施形態の動力伝達装置18がボルト19により固定され、その動力伝達装置18の上部には駆動源としての油圧モータ20が装設されている。そして、この油圧モータ20の回転により、動力伝達装置18を介して、上部旋回体12が旋回軸受装置13の軸線を中心に旋回されるようになっている。
【0028】
前記動力伝達装置18のケース21は、上部ケース21aと、中間部ケース21bと、下部ケース21cとから構成され、上部ケース21aは油圧モータ20のケースを兼用している。下部ケース21c内には駆動軸22が軸線方向へ離隔した2箇所において、上下一対の軸受23,24により回転可能に支持され、その駆動軸22の下端部には前記被動ギヤ17に噛合する駆動ギヤ25が形成されている。中間部ケース21b内において、油圧モータ20のモータ軸20aと駆動軸22との間には複数のギヤを含む遊星ギヤ減速機構26が介在されている。
【0029】
前記遊星ギヤ減速機構26は、中間部ケース21bの内周面に一体に形成された内歯ギヤ27と、前記モータ軸20aに固定された第1太陽ギヤ28と、その第1太陽ギヤ28と内歯ギヤ27との間に介在された第1遊星ギヤ29と、その第1遊星ギヤ29を支持する第1キャリア30と一体回転されるように、駆動軸22上に相対回転可能に配設された第2太陽ギヤ31と、その第2太陽ギヤ31と内歯ギヤ27との間に介在された第2遊星ギヤ32とから構成されている。
【0030】
前記第2遊星ギヤ32を支持する第2キャリア33は、上下一対の支持板部33a,33bと、支柱部33cとから構成されている。そして、この第2キャリア33には両支持板部33a,33b間において複数の第2遊星ギヤ32が両持ち状態で回転可能に支持されている。第2キャリア33の下部には連結筒34が突出形成され、その連結筒34が同連結筒34及び駆動軸22に形成したスプライン同士のスプライン係合部35を介して駆動軸22の上端部に一体回転可能に連結されている。また連結筒34は、押さえ板36がボルト37により第2キャリア33の上端部の凹部34dに固定されることにより保持されている。押さえ板36と前記第2太陽ギヤ31との間には隙間Cが設けられている。
【0031】
そして、油圧モータ20のモータ軸20aの回転により、遊星ギヤ減速機構26の第1太陽ギヤ28、第1遊星ギヤ29、第1キャリア30、第2太陽ギヤ31、第2遊星ギヤ32及び第2キャリア33をそれぞれ介して、駆動軸22が減速回転されるようになっている。
【0032】
次に、前記駆動軸22を支持する軸受23,24及びその関連構成について詳細に説明する。図3に示すように、前記駆動ギヤ25と反対側に位置する上側軸受23は自動調心コロ軸受で構成され、インナレース23aと、内周面を球面状に形成したアウタレース23bと、両レース23a,23b間に介在された複数のバレル状のコロ23cとを備えている。そして、インナレース23aが前記スプライン係合部35よりも下方位置において、駆動軸22の上端外周に外嵌めされるとともに、アウタレース23bが下部ケース21cの上端内周に内嵌めされている。
【0033】
これに対して、前記駆動ギヤ25側に位置する下側軸受24は円錐コロ軸受で構成され、外周面を下端側ほど大径となるテーパ状に形成したインナレース24aと、内周面を上端側ほど小径となるテーパ状に形成したアウタレース24bと、両レース24a,24b間に介在されるとともに、リテーナ24dに保持された複数の円錐状のコロ24cとを備えている。そして、前記インナレース24aが駆動ギヤ25の上部において駆動軸22の下端外周に一体に形成されるとともに、アウタレース24bが下部ケース21cの下端内周に内嵌めされている。さらに、この実施形態では、丸棒状の鋼材よりなる駆動軸22の下端部に駆動ギヤ25及びテーパ状のインナレース24aを加工形成した後、駆動軸22に焼き入れ等の熱処理を施すことによって、駆動ギヤ25及びインナレース24aの部分を含む駆動軸22の硬度及び対摩耗性が高められている。
【0034】
さて、この動力伝達装置18において、油圧モータ20のモータ軸20aが回転されると、遊星ギヤ減速機構26の各ギヤ及びキャリア28〜33をそれぞれ介して、駆動軸22が減速回転される。そして、この駆動軸22の回転により、駆動ギヤ25及び被動ギヤ17の噛合を介して、上部旋回体12が下部走行体11上で旋回軸受装置13の軸線T(図2に図示)を中心に旋回される。
【0035】
そして、この実施形態の動力伝達装置18においては、駆動軸22を支持する上下一対の軸受23,24のうちで、駆動ギヤ25側に位置する下側軸受24が円錐コロ軸受で構成され、その円錐コロ軸受のインナレース24aが駆動軸22の外周に一体に形成されている。そのため、駆動軸22とは別体のインナレースが不要になり、そのインナレースの肉厚を省略できて、その分だけ円錐状のコロ24cの外径寸法を大きく設定することができ、その下側軸受24の軸受容量を増加させることができる。つまり、インナレースを駆動軸22と別体に形成して、駆動軸22の外周に嵌着するように構成した場合には、インナレース自体を所定以上の肉厚に形成して、所定の強度を確保する必要がある。このため、結果としてコロの外径寸法が小さくなって、軸受容量が低減するが、この実施形態においては、このような不都合を回避できる。
【0036】
また、この実施形態の動力伝達装置18では、下側軸受24が円錐コロ軸受で構成されている。これによって、下側軸受24と対応する駆動軸22の中間部の中心点P3がインナレース24aを構成するテーパ面の直交線上に位置する。このため、図6に示す自動調心コロ軸受で構成した従来装置の構成と比較して、駆動軸22の中間部の中心点P3が、駆動ギヤ25と対応する駆動軸22の下端部の中心点P1側に接近移動される。従って、その接近移動の量だけ、上部側の中心点P2の位置を下方へ位置させることができる。そして、前記下側軸受24の軸受容量の増加により、中心点P3においてより高い1次荷重R2に耐えることができる。このため、軸受寿命が従来と同様であれば、中心点P2,P3間の距離L1の短かくできて、駆動軸22を短縮できる。
【0037】
以上に述べた第1実施形態の効果を列挙すれば、以下の通りである。
(1) 下側軸受24が円錐コロ軸受で構成されるとともに、そのインナレース24aが駆動軸22の外周に一体に形成されているため、円錐状のコロ24cの外径寸法を大きく設定することができて、中心点P2,P3間の距離L2の短かくできて、駆動軸22を短縮でき、動力伝達装置18の高さHを低くすることができて、装置全体をコンパクトに構成することができる。
【0038】
(2) 駆動軸22の中間部の中心点P3が、図6の従来構成と比較して駆動軸22の下端部の中心点P1側に移動されるため、その分だけ中心点P2の位置を下方側に位置させることができる。その結果、駆動軸22を短縮化できて、装置全体をコンパクトに構成することができる。
【0039】
(3) 下側軸受24のインナレース24aが駆動軸22の外周に一体に形成されているため、別体のインナレースが不要になり、部品点数が少なくなって、構成を簡素化できる。
【0040】
(4) 駆動ギヤ25の焼き入れと同時にインナレース24aを焼き入れすることができるため、耐磨耗性に優れたインナレース24aを簡単に形成することができる。
(5) 動力伝達装置全体をコンパクトにできるため、油圧ショベル等の建設機械において動力伝達装置のレイアウト上の制約を低減でき、新規な機構やデザインの具体化が可能になる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第2実施形態においては、図4に示すように、下側軸受24に加えて上側軸受23も円錐コロ軸受で構成されている。そして、この上側軸受23は、外周面を上端側ほど大径となるテーパ状に形成したインナレース23dと、内周面を下端側ほど小径となるテーパ状に形成したアウタレース23eと、両レース23d,23e間に介在されるとともに、リテーナ23gによって保持された複数の円錐状のコロ23fとを備えている。
【0042】
また、遊星ギヤ減速機構26の第2キャリア33がほぼ平板状に形成され、その第2キャリア33の上面に第2遊星ギヤ32の軸が片持ち式で支持されている。そして、前記円錐コロ軸受のインナレース23dが第2キャリア33の下部に突設した連結筒34の外周面に一体に形成されている。この場合、前記第1実施形態と同様に、第2キャリア33全体を鋼材により一体に成形した後、その第2キャリア33に焼き入れ等の熱処理を施すことによって、連結筒34上のインナレース23dの部分の硬度及び対摩耗性が高められている。
【0043】
そして、この第2実施形態では、前記第1実施形態と同様に、前記第2キャリア33を駆動軸22に固定するための押さえ板36が設けられ、その押さえ板36と駆動軸22の上端面との間に隙間Cが形成されている。そして、押さえ板36上から駆動軸22の上端部にボルト37を締め付けて、その締め付け量を調整することにより、連結筒34の外周に形成されたテーパ状のインナレース23dが上下位置が調整されて、そのインナレース23dとコロ23fとの間、及びコロ23fとアウタレース23eとの間の接触圧が調整されるようになっている。この実施形態においては、押さえ板36やボルト37等により、インナレース23dとコロ23fとの接触圧を調整するための調整手段が構成されている。
【0044】
従って、この第2実施形態においては、前記第1実施形態に記載の効果に加えて、次のような効果を得ることができる。
(6) この第2実施形態では、下側軸受24と同様に上側軸受23においても、その内外径を変更することなく、コロ23fの外径寸法を大きく設定することができて、軸受容量を増加させることができる。よって、上側軸受23において、すなわち中心点P2の位置において2次荷重R1に対して高い抗堪性を付与することができ、このため駆動軸22をさらに短くできて、動力伝達装置18をさらにコンパクト化できる。
【0045】
(7) 前記上側軸受23のインナレース23dを遊星ギヤ減速機構26の第2キャリア33の連結筒34と一体に形成したことにより、さらに部品点数を少なくして、構成を簡素化できる。
(8) 駆動軸22とキャリア33との間にインナレース23dの軸線方向における位置を調整して同インナレース23dとコロ23fとの接触圧を調整するようし構成されているため、インナレース23dとコロ23fとの接触圧だけではなく、同時にアウタレース23eとコロ23fとの接触圧も調整されるため、駆動軸22を軸受23によってガタなく円滑に支持することができる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態を、前記第2実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第3実施形態においては、図5に示すように、駆動軸22を支持する上側軸受23及び下側軸受24が前記第2実施形態の場合と同様にそれぞれ円錐コロ軸受で構成され、それらの軸受23,24のインナレース23d,24aが第2キャリア33の連結筒34または駆動軸22に一体に形成されている。この場合、第2キャリア33が第2実施形態の平板状構造に代えて、第1実施形態の場合と同様に上下一対の支持板部33a,33bと、両支持板部33a,33b間に形成された支柱部33cとから構成され、両支持板部33a,33b間において第2遊星ギヤ32を両持ち式で回転可能に支持するようになっている。そして、この第2キャリア33の製造に際しても、全体を鋼材により一体に成形した後に焼き入れ等の熱処理を施すことにより、連結筒34上のインナレース23dの部分の硬度が高められている。
【0047】
従って、この第3実施形態においても、前記第2実施形態に記載の効果と同様な効果を得ることができる。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0048】
・ 前記各実施形態において、遊星ギヤ減速機構26を、例えば太陽ギヤや遊星ギヤの配列、組み合わせ等が異なった別の構成に変更すること。
・ 前記各実施形態において、駆動源として、油圧モータ20に代えて電気モータを用いること。
【0049】
・ 前記各実施形態の動力伝達装置18を、油圧ショベルとは異なった建設機械、例えばトラッククレーン等に用いること。この場合、発明の主旨を逸脱しない範囲内で、各部の構成を必要に応じて任意に変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の動力伝達装置を実施した建設機械としての油圧ショベルを示す概略図。
【図2】図1の円Sの部分における動力伝達装置の第1実施形態を示す要部拡大断面図。
【図3】第1実施形態の動力伝達装置を示す部分断面図。
【図4】第2実施形態の動力伝達装置を示す要部断面図。
【図5】第3実施形態の動力伝達装置を示す要部断面図。
【図6】従来構成の動力伝達装置を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0051】
11…構造体としての下部走行体、12…構造体としての上部旋回体、13…旋回軸受装置、17…被動ギヤ、18…動力伝達装置、20…油圧モータ、21…ケース、22…駆動軸、23…上側軸受、23c…コロ、23d…インナレース、23e…アウタレース、23f…コロ、24…下側軸受、24a…インナレース、24b…アウタレース、24c…コロ、25…駆動ギヤ、26…遊星ギヤ減速機構、33…キャリア、36…調整手段としての押さえ板、37…調整手段としてのボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
そのケース内に軸受を介して回転可能に支持され、端部に駆動ギヤを有する駆動軸とを備え、
前記駆動軸がモータにて回転されることにより、前記駆動ギヤと噛合する被動ギヤが回転されて、建設機械の構造体が旋回されるようにした建設機械の動力伝達装置において、
前記軸受を円錐コロ軸受で構成し、その円錐コロ軸受におけるテーパ状のインナレースを前記駆動軸に一体に形成したことを特徴とする建設機械の動力伝達装置。
【請求項2】
前記軸受を駆動軸の軸線方向に離隔した2箇所に設け、前記駆動ギヤ側に位置する一方の軸受を前記円錐コロ軸受で構成したことを特徴とする請求項1に記載の建設機械の動力伝達装置。
【請求項3】
前記駆動ギヤと反対側に位置する他方の軸受を円錐コロ軸受で構成し、その円錐コロ軸受におけるテーパ状のインナレースを前記駆動軸とモータとの間に介在された遊星ギヤ減速機構のキャリアに一体に形成したことを特徴とする請求項2に記載の建設機械の動力伝達装置。
【請求項4】
前記駆動軸とキャリアとの間にインナレースの軸線方向における位置を調整して同インナレースとコロとの接触圧を調整するための調整手段を設けたことを特徴とする請求項3に記載の建設機械の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−75411(P2008−75411A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258611(P2006−258611)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】