説明

引戸装置

【課題】走行レールに壁側に向けた屈曲レール部分を必要とせず、取り付け作業が簡単で、引戸の閉鎖位置における壁面への十分な密着を確保することができる引戸装置を提供すること。
【解決手段】出入り口に配置される引戸4と、引戸4上部の戸先側と戸尻側に取り付けられた走行車輪6、7を載置し、引戸4を吊り下げる走行用レール5とを備えた引戸装置1において、走行車輪6、7に引戸4を、引戸4閉鎖位置近傍から引戸4を室壁W側に旋回させる旋回機構8を介して取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸装置に関し、特に出入り口に配置される引戸と、引戸上部の戸先側と戸尻側に取り付けられた走行車輪を載置し、引戸を吊り下げる走行用レールとを備えた引戸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6〜図10に、本出願人が先に特願2003−345575号として提案した引戸装置50を示す。
この引戸装置50は、室壁Wに取り付けられる引戸枠部材2と、該引戸枠部材2の一側に形成される戸袋3内に収納される引戸4と、この引戸4にコ字状の取付アーム4c、4dを介して取り付けられる走行車輪51、52を吊り下げて移行を案内する走行用レール53、53とを備える。
【0003】
走行用レール53、53は、前後の走行車輪51、52用に前後に2基備えるようにし、図10に示すように、室壁Wと平行な平行レール部分53aと、室壁W側に所定の角度θ向けて屈曲させた屈曲レール部分53bとからなり、それぞれの傾斜角度β、γを、例えば、1/100(0.6°)程度に設定するようにしている。
両走行用レール53、53は、引戸4の戸先側が下、戸尻側が上となるようにして傾斜させているので、引戸4は自重力で付勢されて走行用レール53上を閉じ側に走行する。
引戸4は、走行車輪51、52が両屈曲レール部分53b、53bを走行し、引戸4に閉じ動作と室壁W側への押付動作が付与される。
図10(d)は、屈曲レール部分53bの傾斜度を壁平行レール部分53aより緩くした例を示している。
図10(d)に示す場合には、引戸4を自重によって室壁Wに押し付ける力が、図10(c)に示す場合よりも小さくなるものの、閉鎖位置の引戸4を静姿勢から動姿勢に開方向作動させる初期開放作動力を一層少なくすることができる。
【0004】
屈曲レール部分53bは、吊下した引戸4が閉鎖状態のときに引戸4が引戸枠部材2に配備した気密材9(図8〜図9参照)に密着される位置まで走行車輪51、52を室壁W側に移行させる長さLと角度θをもって構成する。
【0005】
走行車輪51、52(以下、代表して走行車輪51について説明する。)は、車輪部51aと逆L字状のフランジ51bからなり、引戸4に取り付けるコ字状の取付アーム4c、4dとの間に回動機構12を配備し、走行車輪51が平行レール部分53aから屈曲レール部分53bに移行する際に、走行車輪51の鍔部によってレールに沿って案内され、走行車輪51が水平面内でフランジ51bに配設された回動機構12によって回動することによって引戸4の移行をスムーズに行うようにしている。
そして、閉鎖位置の引戸枠部材2の下方に配備する調整機構10によって引戸4の下部戸先側の室壁W側への移行を補助するとともに、閉鎖位置における引戸4の下端部に定置されているローラ15に、引戸4の下面に形成されているカム16が当接することによって、引戸4の下部戸尻側の室壁W側への移行を補助し、閉鎖位置における引戸4を外側より気密材9に向けて押圧させることができる。
【0006】
しかし、この引戸装置は、走行用レールの先端を壁W側に屈曲させる必要がありレール加工に手数を要するとともに、走行用レールを前後の走行車輪用に前後に2基備えるように構成するもので、それぞれの走行用レールの壁平行レール部分と屈曲レール部分が同期するように調整せねばならず、走行用レールを戸枠に取り付ける際の調整に手数を要するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の引戸装置の有する問題点に鑑み、走行用レールに、室壁側に向けた屈曲レール部分を必要とせず、取り付け作業が簡単で、引戸の閉鎖位置における室壁面への十分な密着を確保することができる引戸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の引戸装置は、出入り口に配置される引戸と、引戸上部の戸先側と戸尻側に取り付けられた走行車輪を載置し、引戸を吊り下げる走行用レールとを備えた引戸装置において、走行車輪に引戸を、引戸閉鎖位置近傍から引戸を室壁側に旋回させる旋回機構を介して取り付けたことを特徴とする。
【0009】
この場合において、旋回機構を、略L字状のアームと、該アームの屈曲部と揺動可能に連結する走行車輪から延設した軸部と、アームの一端部に枢着した引戸上部から延設した軸部と、アームの他端部に配設した係止体と、引戸枠部材に配設した前記係止体が当接する係止部材とから構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の引戸装置によれば、走行用レールの形状は平面視直線状のものを使用することができ、その製作と取り付けが簡単である。また引戸は、引戸閉鎖位置近傍から旋回機構によって室壁側に旋回されるから、引戸の閉鎖位置において、走行用レールが室壁側に屈曲していなくても、引戸全体を室壁側に移行させることができる。
【0011】
また、旋回機構を、略L字状のアームと、該アームの屈曲部と揺動可能に連結する走行車輪から延設した軸部と、アームの一端部に枢着した引戸上部から延設した軸部と、アームの他端部に配設した係止体と、引戸枠部材に配設した前記係止体が当接する係止部材とから構成するときは、旋回機構のアームの他端部に配設した係止体が、引戸枠部材に配設した係止部材に当接することによってその移行が阻止され、アームが、走行車輪から延設した軸部を中心に回動し、アームの一端部に連結された引戸が壁側へスムーズに移動できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の引戸装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1〜図5に、本発明の引戸装置の一実施例を示す。なお、従来装置と同様の構造については同一の符号、一連の符号を付し説明を省略する。
この引戸装置1は、引戸枠部材2と、該引戸枠部材2の一側に形成される戸袋3内に収納される引戸4と、この引戸4を吊り下げて移行を案内する走行用レール5とを備える。
引戸4の上部前後には、走行車輪6、7を回動自在に配設したL字状の取付アーム4a、4bを、旋回機構8を介して取り付けるようにしている。
【0014】
走行用レール5は、図1に示すように、1本のレールで、前後の走行車輪6、7を載置するように構成したもので、戸先側も先の提案例とは異なり、室壁W側に屈曲させることのない平面視直線状に構成する。
引戸4は、通常時、閉鎖側に位置するように走行用レール5を閉鎖側に傾斜して取り付けるものであるが、錘とワイヤーを用いたり、モータの駆動力を利用して、引戸を閉じ方向に移動させるようにしている場合には、走行用レール5は、水平に取り付けても構わない。
また、走行用レール5を水平に取り付けるときは、閉鎖位置で引戸4を偏位させるために、走行用レールを前後の走行車輪用に前後に2基備え、閉鎖位置近傍から端部までのみを下方に傾斜させた走行用レール5を利用しても構わない。
なお、いずれの場合も本発明の引戸装置1では走行用レール5を室壁W側に屈曲させる必要はない。
【0015】
そして、本発明の引戸装置1は、走行車輪6、7を回動自在に配設したL字状の取付アーム4a、4bに引戸4を、引戸4の閉鎖位置近傍から引戸4を室壁W側に旋回させる旋回機構8を介して取り付けるようにしている。
【0016】
この旋回機構8は、略L字状のアーム80と、該アーム80の屈曲部80aと揺動可能に連結する走行車輪6、7を配設したL字状の取付アーム4a、4bの下面から延設した軸部82と、アーム80の一端部に枢着した引戸4上部から延設した軸部83と、アーム80の他端部に配設した係止体81と、引戸枠部材2に配設した前記係止体81が当接する係止部材84とから構成する。
軸部82と軸部83との位置関係は、旋回機構8が機能していないとき、換言すると、引戸4が、閉鎖位置から若干離れた位置から、開放位置までの開閉時においては、図3(a)に示すように、走行用レール5に対して直角方向に並ぶように配備する。これにより、旋回機構8が機能していないときの引戸4の開閉時に、室壁W側へ荷重が加わっても、旋回機構8が容易に旋回することはなく、引戸4が、室壁W側に移行することはない。
また、軸部82からアーム80が脱落しないように支持する押さえ板82’は、突起部分82aを有する円板状部材からなり、図示のように、軸部82とは相対回転しないように、偏心位置にピン82bを嵌入し、かつ、ビス、ナット等の固着手段で、アーム80の屈曲部分80aに嵌入した軸部82を下面から固定する。
アーム80の下面から突出するピン80dは、突起部分82aに当接し、引戸4の室壁W側からの離反(図3(a)の状態から矢符Yの反対方向の旋回限度位置)を規制する。
また、図3(c)に示すように、ねじりバネSによって突起部分82aと、アーム80の下面を連結し、引戸4の開閉時に、引戸4、アーム80及び車輪6それぞれの相対姿勢を一定に維持する相対姿勢維持手段を付加することができる。
さらに、この相対姿勢維持手段は、図3(d)及び(e)に示すように、突起部分82aにボールストッパ挿入孔を形成し、ボール82cを、アーム80の下面に形成したくぼみ80eに付勢するスプリング等の弾性体82dを配設する構成としてもよい。
そして、アーム80の他端部80cには、引戸枠部材2に配設した係止部材84に当接する係止体81を揺動可能に配設する。
【0017】
引戸枠部材2に配設した係止部材84は、吸着部材として、例えば、磁石を表面に配備し、磁性材料からなる係止体81を吸着させる。これにより、引戸4が閉鎖位置近傍まで閉じられたときに、係止体81は、引戸枠部材2に配設した係止部材84に当接し(図3(a)参照)、そこからさらに、引戸4を閉鎖方向に移行したとき、アーム屈曲部80aを中心にアーム80が矢符Y方向に旋回し、引戸4を室壁W側にLだけ移行させる。
このとき、係止体81は、係止部材84の表面を室壁Wに対して垂直方向にMだけ移動するが、係止部材84に磁石を配備するときは、磁性面に対して垂直方向への移動には、磁力によって十分に吸着するものの、磁性面に対して平行な動きは大きな力を加えることなく移行することができるため、引戸4の移行に大きな負荷がかかることはない。
【0018】
そして、引戸4を開放するときは、図3(b)の閉鎖位置から図示右側に力を加えることとなるが、係止体81と係止部材84とが離反するには、磁性面に対して垂直方向の力に打ち勝つだけの負荷をかける必要があるため、引戸4の開放側の移行に伴って、係止体81は、係止部材84の表面を室壁Wに対して垂直方向に移行しつつ、アーム80が矢符Yの反対方向に旋回し、引戸4をLだけ室壁W側より離間させ、その後、係止体81が係止部材84から離れて引戸4を開放する。
【0019】
次に、図4に示す係止体と係止部材の別の実施例を説明する。
この係止体81と係止部材84は、引戸4を開放位置から閉鎖する際に、係止体81が係止部材84に当接した後、係止体81(アーム他端部80c)の室壁Wに対して垂直な移行運動(図3における距離M)を許容するためのもので、図4(a)に示す係止体81は、ゴム環81b等によって周面を覆った軸部81aをバー81cを介し、捩りバネなどを利用して、一定力以上の作用力を受けたとき揺動し、また、作用力が解除されたときに原状復帰するように、アーム他端部80cに配設する。そして、係止部材84は、前記軸部81aの嵌入を許容する嵌入口84cと、嵌入口84cの開口部に設けた軸部81aの抜けを一定の負荷が生じるまで防止する爪部84d、84dからなる止め金84bとし、係止体81が係止部材84に当接した後に、引戸4を閉鎖側へ移行する際に生じる係止体81の室壁Wに対して垂直な移行は、図4(a)の一点鎖線に示すように許容されるようにする。
【0020】
また、図4(b)に示す係止体81は、ゴム環81b等によって周面を覆った軸部81aをアーム他端部80cに配設する。そして、係止部材84は、前記軸部81aの嵌入を許容する嵌入口84cと、嵌入口84cの開口部に設けた軸部81aの抜けを一定の負荷が生じるまで防止する爪部84d、84dからなる止め金84bとし、引戸枠部材2に室壁Wに対して垂直方向に移動可能に配設する。
この際、通常は引戸4が、開放位置から閉鎖位置に向かうときに、係止体81の軸部81aが、止め金84bの嵌入口84cに嵌入するようにゴムやバネなどの弾性部材84eによって、止め金84bを室壁W側に付勢しておくことが好ましい。
これにより、係止体81が、係止部材84に当接した後に、引戸4を閉鎖側へ移行する際に生じる、係止体81の室壁Wに対して垂直な移行は、図4(b)の一点鎖線に示すように許容される。
【0021】
図4に示す爪部84d、84dの突起量は、閉鎖位置から引戸4を開放位置に向けて動かす際に、アーム80が、一点鎖線の位置から実線の位置に旋回するまで離反しない程度の負荷が係るように調整するものである。
【0022】
次に、図5に、係止体81を戸先側又は戸尻側の走行車輪6、7のいずれかの側にのみに配設(図例では戸先側走行車輪6)し、他方とは、リンク機構20を介して、旋回機構8を旋回させるようにした実施例を示す。
これにより、戸先側にのみ旋回機構8を配設するときは、戸先側の走行車輪6に配設する旋回機構8(特に係止体81)が、引戸4の開放時に戸尻側の引戸枠部材2に配設した係止部材84と干渉することがなく、軸部82、83を、干渉を避けるために長くする必要がなくなる。
【0023】
以上、本発明の引戸装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の引戸装置は、平面視直線状の走行用レールで、引戸の取り付け時における調整が容易にできるという特性を有していることから、新規の引戸装置に用いることができるほか、例えば、既設建造物の引戸装置の改造の用途にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の引戸装置の一実施例を示す一部切り欠きの正面図で、引戸を閉鎖位置に移動させた図である。
【図2】同引戸装置の旋回機構の要部を示す説明図で、(a)は一部切り欠きの正面図、(b)は(a)のX−X断面矢視図である。
【図3】同引戸装置の旋回機構の動作を説明する平面図で、(a)は係止体が係止部材に当接したところを、(b)は引戸が閉鎖位置まで移行したところを示し、(c)、(d)はアームの移行規制説明する一部断面図を、(e)は、(d)のa−a断面図を示す。
【図4】本発明の引戸装置の係止体と係止部材の別の実施例を示す平面図で、(a)はアーム他端部から突出させたクランク軸で距離Mを吸収する例を、(b)は係止部材を移動するようにして距離Mを吸収する例を示す。
【図5】本発明の引戸装置の旋回機構の別の実施例を示す一部切り欠きの平面図である。
【図6】本出願人が先に提案した引戸装置を示す一部切り欠きの正面図で、引戸を閉鎖位置に移動させた図である。
【図7】同引戸装置を示す一部切り欠きの正面図で、引戸を開放位置に移動させた図である。
【図8】同引戸装置の走行車輪の構造を示す側面図で、(a)は図6のF−F断面図を、(b)は図7のG−G断面図を示す。
【図9】同引戸装置を示す一部切り欠きの平面図で、図6のH−H断面図を示す。
【図10】同引戸装置の走行車輪の走行用レールの構成を示す説明図で、(a)は走行車輪の回動機構による走行車輪の回動を示す斜視図で、(b)は走行用レールの屈曲部を示す平面図で、(c)、(d)は走行用レールの傾きを示す正面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 引戸装置
2 引戸枠部材
3 スライドレール
4 引戸
5 走行用レール
6 戸先側走行車輪
7 戸尻側走行車輪
8 旋回機構
80 アーム
80a アーム屈曲部
80b アーム一端部
80c アーム他端部
81 係止体
84 係止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入り口に配置される引戸と、引戸上部の戸先側と戸尻側に取り付けられた走行車輪を載置し、引戸を吊り下げる走行用レールとを備えた引戸装置において、走行車輪に引戸を、引戸閉鎖位置近傍から引戸を室壁側に旋回させる旋回機構を介して取り付けたことを特徴とする引戸装置。
【請求項2】
旋回機構を、略L字状のアームと、該アームの屈曲部と揺動可能に連結する走行車輪から延設した軸部と、アームの一端部に枢着した引戸上部から延設した軸部と、アームの他端部に配設した係止部材と、引戸枠部材に配設した前記係止部材が当接する係止体とから構成したことを特徴とする請求項1記載の引戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−274637(P2006−274637A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94017(P2005−94017)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】