説明

強化ガラスのくり抜き加工方法

【課題】加工時にカレットを発生せず、かつ、マイクロクラックの少ない滑らかな加工面を得ることができる、強化ガラスのくり抜き加工方法の提供。
【解決手段】板状ガラス部材の表面に圧縮応力層が形成された強化ガラスのくり抜き加工方法であって、前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側に初期クラックを形成した後、前記強化ガラスの初期クラックを形成した部位を始点として前記強化ガラスの内部加熱を開始し、前記強化ガラスの内部加熱される部位を前記強化ガラスのくり抜き予定線に沿って移動させることにより、前記強化ガラスにくり抜き孔を形成する、強化ガラスのくり抜き加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ガラス部材の表面に圧縮応力層が形成された強化ガラスのくり抜き加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等の板状ガラス部材にくり抜き孔を形成するくり抜き加工方法としては、ドリルにより穿孔して板状ガラス部材に小孔を形成した後、該小孔を始点として、板状ガラス部材を研削することによって、該板状ガラス部材にくり抜き孔を形成する方法がある(特許文献1参照)。
また、特許文献2の図6に示すように、レーザ光照射によって、貫通孔46として示されるマイクロクラックを走査線42に沿ってガラス板に形成し、同文献の図8に示すように、レーザ光の走査を多重に繰り返すことでくり抜き孔を形成する方法がある。
【0003】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法のような、切削工具を用いる方法や、レーザ光照射によりマイクロクラックを形成し、これを多重に走査する方法は、加工時にカレットと呼ばれる小破片が発生し、くり抜き孔の加工面に付着するため、カレットの除去のため洗浄などの後工程が必要になる。
また、これらの方法の場合、くり抜き孔の加工面にマイクロクラックが多く存在するため、くり抜き孔を形成したガラス板の曲げ強度が低下し、携帯電話のカバーガラスのような、曲げ強度が要求される用途に使用するうえで問題となる。
特に、ガラス板の表面に圧縮応力層が形成された強化ガラスの場合、くり抜き孔の形成による曲げ強度の低下が問題となる。
したがって、これらの方法の場合、加工面のマイクロクラックを減少させるために、くり抜き孔の加工面の研磨などの後工程が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−345号公報
【特許文献2】特開2009−269057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、加工時にカレットを発生せず、かつ、マイクロクラックの少ない滑らかな加工面を得ることができる、強化ガラスのくり抜き加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するため、本発明は、板状ガラス部材の表面に圧縮応力層が形成された強化ガラスのくり抜き加工方法であって、
前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側に初期クラックを形成した後、前記強化ガラスの初期クラックを形成した部位を始点として前記強化ガラスの内部加熱を開始し、前記強化ガラスの内部加熱される部位を前記強化ガラスのくり抜き予定線に沿って移動させることにより、前記強化ガラスにくり抜き孔を形成する、強化ガラスのくり抜き加工方法を提供する。
【0007】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、前記強化ガラスの内部加熱にレーザ光の照射を用いることが好ましい。
また、本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、前記強化ガラスの内部加熱に放電を用いることが好ましい。
【0008】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも1mm以上内側に初期クラックを形成することが好ましい。
【0009】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、前記強化ガラスのくり抜き予定線に進入する際の、前記強化ガラスの内部加熱手段の進入角度が、前記強化ガラスのくり抜き予定線に対して、実質0度であることが好ましい。
【0010】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、前記強化ガラスの内部加熱手段は、曲率半径2mm以上の曲線の軌跡に沿って、前記強化ガラスのくり抜き予定線に進入することが好ましい。
【0011】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、前記強化ガラスの内部加熱の終了後、前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側の部位を、前記くり抜き予定線よりも外側の部位よりも低温にすることで、前記強化ガラスにくり抜き孔を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カレットを発生することなしに強化ガラスをくり抜き加工することができ、マイクロクラックの少ない滑らかな加工面が得られる。
このため、カレットを除去するための加工面の洗浄や、マイクロクラックを減少させるための加工面の研磨などの後工程が不要であり、くり抜き加工後の強化ガラスが曲げ強度に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、強化ガラスの一構成例を示した模式図である。
【図2】図2は、本発明によるくり抜き加工手順の一例を示した図である。
【図3】図3は、放電による強化ガラスの内部加熱、および、それによる強化ガラスの加工を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、強化ガラスの一構成例を示した模式図である。図1に示すように、強化ガラス10では、板状ガラス部材の両主表面11a,11bに圧縮応力層12a,12bが形成されている。ここで、圧縮応力層とは、化学処理または熱処理によって、圧縮応力を残留させた層である。強化ガラス10の両主表面11a,11bに存在する圧縮応力層12a,12bでは、表面付近に残留する圧縮応力が最も高く、内部に向けて徐々に小さくなる傾向にある。圧縮応力層12a,12bよりも強化ガラスの内部側13では、圧縮応力に対する反作用として、引張応力が残留している。
【0015】
圧縮応力層12a,12bにおける最大残留圧縮応力S1,S2は、通常の化学強化ガラスの場合、100〜1200MPaであり、好ましくは、400〜1000MPaであり、より好ましくは500〜900MPaである。
圧縮応力層12a,12bの厚さD1,D2は、通常の化学強化ガラスの場合、5〜100μmであり、好ましくは、10〜90μmであり、より好ましくは20〜80μmである。
【0016】
強化ガラス10の両主表面に圧縮応力層12a,12bを形成する方法としては、風冷強化法および化学強化法が挙げられる。
風冷強化法は、強化ガラス10をなす板状ガラス部材を、軟化点付近の温度に保持した状態で、その両主表面11a,11bを急冷して、両主表面11a,11bと内部側13との間に温度差をつけることで、圧縮応力層12a,12bを形成する。風冷強化法は、厚さが大きい板状ガラス部材に圧縮応力層を形成するのに好適である。
【0017】
化学強化法は、強化ガラス10をなす板状ガラス部材の両主表面11a,11bをイオン交換し、ガラスに含まれる小さなイオン半径のイオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、大きなイオン半径のイオン(例えば、Kイオン)に置換することで、圧縮応力層12a,12bを形成する。化学強化法は、アルカリ金属元素を含むソーダライムガラスからなる板状ガラス部材に圧縮応力層を形成するのに好適である。
【0018】
強化ガラス10をなす板状ガラス部材の厚さは、強化ガラス10の用途などに応じて適宜設定される。例えば、強化ガラス10の厚さは、0.1〜2.0mmである。化学強化ガラスの場合、厚さが0.1mm未満になると、板状ガラス部材に化学強化処理を施すことが難しい。一方で、強化ガラス10の厚さを2.0mm以下とすることで、強化ガラス10を十分に薄板化・軽量化することができる。強化ガラス10の厚さは、好ましくは0.3〜1.8mm、より好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0019】
強化ガラス10の組成は、その用途に応じて選定される。例えば、酸化物基準で下記組成の強化ガラスが例示される。
(組成1:モル百分率表示)SiO2を50〜74%、Al23を1〜10%、Na2Oを6〜14%、K2Oを3〜15%、MgOを2〜15%、CaOを0〜10%、ZrO2を0〜5%含有し、SiO2およびAl23の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計Na2O+K2Oが12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計MgO+CaOが7〜15%。
(組成2:モル百分率表示)SiO2を61〜66%、Al23を6〜12%、MgOを7〜13%、Na2Oを9〜17%、K2Oを0〜7%含有し、ZrO2を含有する場合その含有量が0.8%以下。
(組成3:質量百分率表示)SiO2を75.5〜85.5%、MgOを1〜8%、CaOを0〜7%、Al23を0〜5%、Na2Oを10〜22.5%を含有し、MgOの含有量がCaOの含有量より多く、MgOおよびCaOの含有量の合計(MgO+CaO)が8%以下、MgO、CaOおよびNa2Oの含有量の合計が24.5%以下、MgOおよびCaOの含有量(MgO+CaO)をNa2Oの含有量で除して得られた比が0.45以下。
【0020】
図2は、本発明によるくり抜き加工手順の一例を示した図である。後述する実施例では、図2に示す手順で強化ガラスのくり抜き加工を実施した。
図2において、強化ガラスのくり抜き予定線を破線で示している。図中の一点鎖線は、くり抜き予定線の寸法線である。
【0021】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法では、強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側に初期クラックを形成する。図2において、部位P0に初期クラックを形成した。
強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側に初期クラックを形成する理由は以下の通り。
【0022】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、初期クラックの形成方法は特に限定されず、カッターホイール等を用いて強化ガラスの表面に初期クラックを形成する方法、回転ドリル(リュータ)等を用いて強化ガラスを貫通する初期クラックを形成する方法、レーザ照射により強化ガラスの表面に初期クラックを形成する方法、レーザ照射により強化ガラスの内部に初期クラックを形成する方法を用いることができる。
上記のいずれの方法を用いた場合でも、くり抜き予定線上に初期クラックを形成すると、続いて実施する強化ガラスの内部加熱によって形成されるくり抜き孔の加工面に初期クラックに起因するマイクロクラックが生じる。
【0023】
これらの理由から、くり抜き予定線上に初期クラックを形成することは望ましくない。本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法では、後述するように、強化ガラスの内部加熱される部位の移動に沿ってクラックが進展するため、初期クラックを形成した部位から内部加熱手段がくり抜き予定線に進入するまでの部分(すなわち、図2における部位P0から部位P1を経て部位P2に到る部分)にもクラックが進展することになる。
くり抜き予定線よりも外側に初期クラックを形成すると、この部分に相当するクラックがくり抜き加工後の強化ガラスに残存するため、くり抜き予定線よりも内側に初期クラックを形成する必要がある。
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法において、強化ガラスのくり抜き予定線よりも1mm以上内側に初期クラックを形成することが好ましい。
【0024】
次に、強化ガラスの初期クラックを形成した部位P0を始点として、強化ガラスの内部加熱を開始する。詳しくは後述するが、本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法では、強化ガラスの内部加熱する方法としては、放電を用いる方法、あるいは、レーザ光を照射する方法が好ましく用いられる。これらの方法による強化ガラスの内部加熱手段は、図2の部位P0から部位P1を経て部位P2へと移動して強化ガラスのくり抜き予定線に進入し、くり抜き予定線に沿って移動する。すなわち、部位P2から部位P3へとくり抜き予定線に沿って一周する。
ここで、強化ガラスのくり抜き予定線に進入する際の、強化ガラスの内部加熱手段の進入角度が強化ガラスのくり抜き予定線に対して実質0度であること、すなわち、部位P1および部位P2間の曲線と、強化ガラスのくり抜き予定線と、が、部位P2においてなす角度が実質0度であることが、くり抜き孔の形状精度が向上するので好ましい。
【0025】
本発明の強化ガラスのくり抜き加工方法では、後述するように、強化ガラスの内部加熱される部位の移動に沿ってクラックが進展するため、クラックの変曲部には不連続点が生じないようにする必要がある。そのため、強化ガラスの内部加熱手段は、曲率半径2mm以上の曲線の軌跡に沿って、強化ガラスのくり抜き予定線に進入することが好ましい。ここで、図2では、部位P1および部位P2間の曲線が曲率半径10mmの曲線をなしている。
なお、クラックの変曲部に不連続点が生じないようにする必要がある点については、強化ガラスのくり抜き予定線についても同様であり、くり抜き予定線の変曲部においては曲率半径2mm以上の曲線をなす必要がある。なお、図2では、強化ガラスのくり抜き予定線が真円をなしているが、くり抜き予定線の変曲部が曲率半径2mm以上の曲線をなしている限り他の形状であってもよく。例えば、楕円形状や、角部に丸みを持たせた多角形に形状であってもよい。
なお、図2では、くり抜き予定線が曲率半径30mmの曲線をなしている。
【0026】
次に、内部加熱による強化ガラスのくり抜き加工の原理について、放電による強化ガラスの内部加熱を例に説明する。
図3は、放電による強化ガラスの内部加熱、および、それによる強化ガラスの加工を示した模式図である。理解を容易にするため、くり抜き加工ではなく、直線状の加工を示している。
図3において、放電電極100および対向電極200が所定の間隔を開けて離隔されている。加工対象である強化ガラス10は、放電電極100と、対向電極200と、の間に配置されている。放電電極100および対向電極200は交流電源300に接続されている。但し、対向電極200はなくてもよい。
交流電源300から高周波交流電流を印加すると、放電電極100と、該放電電極100と対向する強化ガラス10の主表面11aと、の間に放電400が形成される。対向電極200を使用している場合には、対向電極200と、該対向電極200と対向する強化ガラス10の主表面11bと、の間にも放電が形成される。放電電極100は強化ガラス10の加工予定線30の上方に位置しており、加工予定線30に沿って矢印方向に移動する。但し、ここで言う移動とは、放電電極100と強化ガラス10との相対的な移動であり、放電電極100ではなく強化ガラス10が矢印と反対方向に移動したのでもよい。
なお、内部加熱の開始時においては、放電電極100は強化ガラス10に形成された初期クラック(図示せず)の上方に位置する。
【0027】
強化ガラス10の放電400が形成された部位、すなわち、放電電極100の直下の部位は、放電によって内部加熱されて、その温度が周囲に比べて高温になるので、熱膨張により圧縮応力(熱応力)が作用する。その反作用として、放電電極100の移動方向後方では、加工予定線30と直交する方向に引張応力が作用し、強化ガラス10にクラック40が形成される。放電電極100は強化ガラス10の加工予定線30に沿って矢印方向に移動させると、強化ガラス10の内部加熱される部位も加工予定線30に沿って移動し、クラック40が強化ガラス10の長手方向に進展する。
【0028】
上記の加工原理を図2に当てはめると、図3の放電電極100が図2の部位P0の上方に位置する状態から内部加熱を開始し、図3の放電電極100を部位P1の上方を経て部位P2の上方へと移動させて、強化ガラスのくり抜き予定線の上方へと移動させる。そして、くり抜き予定線に沿って放電電極100を移動させて、部位P2から部位P3へとくり抜き予定線の上方を一周させる。これにより、クラック40も部位P0からP1を経て部位P2から強化ガラスのくり抜き予定線へと進入し、部位P2から部位P3へとくり抜き予定線に沿って一周し、くり抜き孔が形成される。
上記の加工原理によれば、くり抜き加工時にカレットが発生せず、マイクロクラックの少ない滑らかな加工面が得られる。
【0029】
図3に示した構成において、放電電極100および対向電極200としては、導電性に優れ、高融点であり、酸化されにくい材料であることが好ましい。このような材料の具体例としては、金、白金、パラジウムのような貴金属もしくはその合金が挙げられ、特に白金もしくはパラジウム、またはそれらの合金が好ましい。
【0030】
放電電極100と、強化ガラス10の主表面11aと、の間隔は、放電電極100と強化ガラス10の主表面11aとの間に放電400を形成することができる限り特に限定されないが、0mm〜10cmであることが好ましく、0mm〜10mmであることがより好ましく、0.05mm〜5mmであることがさらに好ましい。ここで、0mmとは、放電電極100と強化ガラス10の主表面11aとが接触している状態を意味する。
対向電極200と、強化ガラス10の主表面11bと、の間隔についても上記と同様である。
【0031】
交流電源300は、放電400を形成可能な高周波の交流電流を発生できる限り特に限定されない。具体例としては、たとえば、テスラ変圧器、フライバック変圧器、高出力高周波発生器、高周波半導体チョッパのような共振変圧器を用いた高周波交流電源が挙げられる。
交流電源300は、電圧が10V〜107V、より好ましくは100V〜106V、さらに好ましくは100V〜105Vで、周波数が1kHz〜10GHz、より好ましくは10kHz〜1GHz、さらに好ましくは100kHz〜100MHzの高周波交流電流を発生することが好ましい。
【0032】
なお、放電400を形成するため、放電電極100および対向電極200、および、両者の間に位置する強化ガラス10は、圧力1Pa〜100MPa、より好ましくは1kPa〜1MPaの、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気または六フッ化硫黄雰囲気下に置くことが好ましい。
【0033】
一方、レーザ光を照射して強化ガラスを内部加熱する場合、図3に示した構成では、該放電電極100と強化ガラス10の主表面11aと、の間に放電400が形成しつつ、該放電電極100を強化ガラス10の加工予定線30に沿って矢印方向に移動させることによって、強化ガラス10の内部加熱される部位も加工予定線30に沿って移動させるのに対して、強化ガラス10の主表面11a上、具体的には、該主表面11aの加工予定線30上にレーザ光を照射することによって、強化ガラス10を内部加熱しつつ、レーザ光の照射部位を加工予定線30に沿って矢印方向に移動させることによって、強化ガラス10の内部加熱される部位を加工予定線30に沿って移動させる。
【0034】
強化ガラス10の内部加熱に使用するレーザ光は、照射により強化ガラス10を内部加熱できるものである限り特に限定されない。レーザ光の波長としては、250〜5000nmであることが照射による強化ガラス10を内部加熱するのに好ましい。レーザ光の波長は、より好ましくは300〜4000nm、さらに好ましくは800〜3000nmである。上記の波長域のレーザ光の光源としては、例えば、UVレーザ(波長:355nm)、グリーンレーザ(波長:532nm)、半導体レーザ(波長:808nm、940nm、975nm)、ファイバーレーザ(波長:1060〜1100nm)、YAGレーザ(波長:1064nm、2080nm、2940nm)などが挙げられる。レーザ光の発振方式に制限はなく、レーザ光を連続発振するCWレーザ、レーザ光を断続発振するパルスレーザのいずれも使用可能である。また、レーザ光の強度分布に制限はなく、ガウシアン型であっても、トップハット型であっても良い。
【0035】
強化ガラスの内部加熱の終了後、強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側のくり抜き加工された部位を冷却すると、当該部位が収縮して、くり抜き予定線よりも外側の部位と、の間隙が広がるので、くり抜き加工された部位の除去が容易になる。くり抜き予定線よりも外側の部位を加熱した場合も、当該部位が膨張して、くり抜き加工された部位と、の間隙が広がるので、くり抜き加工された部位の除去が容易になる。ここで、冷却時の収縮量、あるいは、加熱時の膨張量は、強化ガラスの組成やくり抜き加工された部位の表面積によって異なるが、上記した組成1〜3の強化ガラスの場合、両者の温度差が、典型的には100℃以上になるように、くり抜き予定線よりも内側の部位の冷却、または、くり抜き予定線よりも外側の部位の冷却加熱を行うことが好ましい。
【0036】
近年、携帯電話やPDAなどの携帯機器において、ディスプレイ(タッチパネルを含む)の保護や美観などを高めるため、カバーガラス(保護ガラス)を用いることが多くなっている。また、ディスプレイの基板として、ガラス基板が広く用いられている。
一方、携帯機器の薄型化・軽量化が進行しており、携帯機器に用いられるガラスの薄板化が進行している。ガラスが薄くなると強度が低くなるので、ガラスの強度不足を補うため、圧縮応力が残留する表面層および裏面層を有する強化ガラスが開発されている。強化ガラスは、自動車用窓ガラスや建築用窓ガラスとしても用いられている。
このような幅広い用途に用いられる強化ガラスのくり抜き加工に本発明は好適である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0038】
本実施例において、くり抜き加工の対象とした強化ガラスは以下の通り。
寸法:縦100mm×横100mm×厚さ0.8mm
組成(質量%表示):SiO2 64.5%、Al23 6.0%、MgO 11.0%、Na2O 12.0%、K2O 4%、ZrO2 2.5%
圧縮応力層:最大残留圧縮応力726MPa、層厚37.4μm
(実施例1)
本実施例では、図2に示す手順で強化ガラスのくり抜き加工を実施した。図2中、部位P0にリュータを用いてφ3mm程度の初期クラック(貫通クラック)を形成した。部位P0は破線で示すくり抜き加工線よりも2mm内側に位置している。
次に、部位P0を始点として、レーザ光照射による強化ガラスの内部加熱を開始した。強化ガラスの内部加熱には下記のレーザ光の照射を用いた。
光源:ファイバーレーザ(中心波長帯:1070nm)
ビーム径:0.1mm
走査速度:2.5mm/sec(部位P0から部位P1を経て部位P2へと移動して強化ガラスのくり抜き予定線に進入し、部位P2から部位P3へとくり抜き予定線に沿って一周させた。ここで、部位P1−P2間は曲率半径10mmの曲線をなしており、くり抜き予定線が曲率半径30mmの曲線をなしていた。また、部位P2において、部位P1−P2間の曲線と、くり抜き予定線と、がなす角度は実質0度であった。)
出力:40W
強化ガラスの内部加熱の終了後、強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側のくり抜き加工された部位を冷却して除去して、強化ガラスにφ60mmのくり抜き孔を形成した。くり抜き孔の加工面を目視により観察したが、カレットやマイクロクラックの存在は確認されず、加工面は鏡面状態となっていた。
【符号の説明】
【0039】
10 :強化ガラス
11a,11b:主表面
12a,12b:圧縮応力層
13 :内部側
20a,20b:初期クラック
30 :割断予定線
40 :クラック
100 :放電電極
200 :対向電極
300 :高周波交流電源
400 :放電

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ガラス部材の表面に圧縮応力層が形成された強化ガラスのくり抜き加工方法であって、
前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側に初期クラックを形成した後、前記強化ガラスの初期クラックを形成した部位を始点として前記強化ガラスの内部加熱を開始し、前記強化ガラスの内部加熱される部位を前記強化ガラスのくり抜き予定線に沿って移動させることにより、前記強化ガラスにくり抜き孔を形成する、強化ガラスのくり抜き加工方法。
【請求項2】
前記強化ガラスの内部加熱にレーザ光の照射を用いる、請求項1に記載の強化ガラスのくり抜き加工方法。
【請求項3】
前記強化ガラスの内部加熱に放電を用いる、請求項1に記載の強化ガラスのくり抜き加工方法。
【請求項4】
前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも1mm以上内側に初期クラックを形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の強化ガラスのくり抜き加工方法。
【請求項5】
前記強化ガラスのくり抜き予定線に進入する際の、前記強化ガラスの内部加熱手段の進入角度が、前記強化ガラスのくり抜き予定線に対して、実質0度である、請求項1〜4のいずれかに記載の強化ガラスのくり抜き加工方法。
【請求項6】
前記強化ガラスの内部加熱手段は、曲率半径2mm以上の曲線の軌跡に沿って、前記強化ガラスのくり抜き予定線に進入する、請求項1〜5のいずれかに記載の強化ガラスのくり抜き加工方法。
【請求項7】
前記強化ガラスの内部加熱の終了後、前記強化ガラスのくり抜き予定線よりも内側の部位を、前記くり抜き予定線よりも外側の部位よりも低温にすることで、前記強化ガラスにくり抜き孔を形成する、請求項1〜6のいずれかに記載の強化ガラスのくり抜き加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−53019(P2013−53019A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190477(P2011−190477)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】