説明

往復運動工具

【課題】
簡便かつ安価な構成にて騒音を低減可能な往復運動工具を提供すること。
【解決手段】
回転駆動源たるモータ2と、モータ2の回転運動を先端工具の往復運動に変換する往復運動変換機構を有する往復運動工具1において、往復運動変換機構は、偏心して回転する偏心回転部材(7)と、偏心回転部材と係合して往復運動する往復運動部材(8)を有し、偏心回転部材と往復運動部材の間に弾性部材20を配設する。往復運動部材(8)の内側には中間部材9を介在させて、弾性部材20を中間部材9と往復運動部材(8)の間に介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の回転運動を先端工具の往復運動に変換し、切削等の作業を行う往復運動工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端工具を往復方向に移動させて、切削等の作業を行う往復運動工具が広く用いられている。その往復運動工具の一例としてジグソーが知られている。従来の往復運動工具におけるモータ等の回転運動を先端工具の往復運動に変換する機構について、ジグソーの例を元に図7を用いて説明する。
【0003】
図7は従来のジグソー101の部分断面図である。ジグソー101は、ハウジング115内に図示しないモータが収容され、モータの出力軸109にはピニオン113が設けられる。ピニオン113と噛合うギヤ107にはバランスウェイト108を往復運動させるための偏心カム107aが設けられる。さらに、ギヤ107にはプランジャ112を往復運動させるための偏心ピン111が設けられる。上記のように回転駆動源たるモータの回転運動を往復運動変換機構を用いてプランジャ112の往復運動に変換し、プランジャ112の下端側に取り付けられたブレード114によって被切断材の切断作業を行う。また、プランジャ112の往復運動に合わせてバランスウェイト108をプランジャ112と逆位相で往復運動させることでプランジャ112の往復運動に起因する振動を相殺している。このようなジグソー101として特許文献1に記載の技術が知られているが、その技術ではギヤホルダ105(往復運動変換機構の一部)とハウジング115の間に弾性部材121を介装することにより、ブレード114にて発生した振動のハウジング115への伝達を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−175524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のジグソーにおいては、ハウジング115への振動伝達を効果的に低減できるものの、さらなる振動低下を図るには次のような解決課題があることが発明者の検討によって判明した。即ち、往復運動の上死点及び下死点において、ギヤ107に設けた偏心カム107aとバランスウェイト108の間の微小な隙間により偏心カム107aとバランスウェイト108が衝突し、これらの表面からわずかながら騒音が発生する。さらに、作業者が把持するハンドル部を有するハウジング115とギヤホルダ105の間に介装される弾性部材121の効果により、ハウジング115に対してギヤホルダ105が変位可能なため、弾性部材121の選定によっては切断作業時のブレードの横振動が増大してしまい切断精度に影響する恐れがある。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は更なる騒音の低減を可能とした往復運動工具を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、ブレードの往復により生じる本体の振動を低減し、使い勝手の良い往復運動工具を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、弾性部材を介在させて往復運動変換機構の振動や衝撃を低減させる際に、弾性部材の寿命を向上させて耐久性を向上させた往復運動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0010】
本発明の一つの特徴によれば、回転駆動源と、回転駆動源の回転運動を先端工具の往復運動に変換する往復運動変換機構を有する往復運動工具において、往復運動変換機構は、偏心して回転する偏心回転部材と、偏心回転部材と係合して往復運動する往復運動部材を有し、偏心回転部材と往復運動部材の間に弾性部材を設けるように構成した。また、偏心回転部材と往復運動部材との間に中間部材を配置し、往復運動部材と中間部材の間に弾性部材を配置した。さらに、弾性部材の過大変形を防止する変形規制部を、中間部材あるいは往復運動部材の少なくともいずれか一方に設けた。弾性部材はゴム製の部材であり、変形規制部は、中間部材又は往復運動部材の対向する面のいずれかに形成される凹部であり、弾性部材を凹部に配置する。弾性部材は、往復運動部材の運動方向に弾性を有するように構成すると好ましい。
【0011】
本発明の他の特徴によれば、偏心回転部材は円形の外周面を有し円形の中央から偏心させた位置に回転軸を有する偏心カムを含む。往復運動部材は中央に開口部を有し偏心回転部材の回転軸方向と垂直方向に移動するバランスウェイトを含み、中間部材は中央に開口部を有して往復運動部材の開口部内に配置され、偏心カムは中間部材の開口部の内部に接しながら回転することによりバランスウェイトを往復移動させる。弾性部材は中間部材とバランスウェイトの間に設けられる。
【0012】
本発明のさらに他の特徴によれば、偏心回転部材は回転軸と偏心する位置に固定されたスピンドルに軸支されるスリーブを有する。往復運動部材はスリーブと転支して先端工具を固定するプランジャを有し、弾性部材はスリーブとプランジャの間に設けられる。また、往復運動部材は更にプランジャを移動させるコネクタを有し、弾性部材はスリーブとコネクタの間に設けられる。弾性部材は例えばゴム製のOリングであり、Oリングはスリーブの外周面であってコネクタと滑合する面に形成された凹部に設ける。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、往復運動変換機構は、偏心して回転する偏心回転部材と、偏心回転部材と係合して往復運動する往復運動部材を有し、偏心回転部材と往復運動部材の間に弾性部材を設けたので、往復運動部材の運動方向が反転する際に偏心回転部材と接触することにより発生する振動或いは騒音を低減することが可能となる。
【0014】
請求項2の発明によれば、偏心回転部材と中間部材を接触させることにより偏心回転部材が弾性部材と接触しないので、弾性部材の摩耗を防止し、長寿命化を図ることが可能となる。
【0015】
請求項3の発明によれば、弾性部材の過大な変形を防止する変形規制部を、中間部材あるいは往復運動部材の少なくともいずれか一方に設けたので、弾性部材の過大変形を防止でき、往復運動工具の長寿命化を図ることが可能となる。
【0016】
請求項4の発明によれば、変形規制部を凹部で形成したので、凹部の加工が比較的容易であり、凹部で弾性部材の位置を確実に保持できると共に、過剰変形を確実に防止することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、往復運動部材が往復運動の方向が反転する際に偏心回転部材と接触することにより発生する振動或いは騒音を低減することが可能となる。
【0018】
請求項6の発明によれば、偏心カムをバランスウェイトの開口部に設けた中間部材に接するように回転させるので、弾性部材を中間部材と偏心カムの摺動面に設ける必要が無く、非回転部材のバランスウェイトと中間部材の間に設けることが可能となる。
【0019】
請求項7の発明によれば、弾性部材は中間部材とバランスウェイトの間に設けられるので、非回転部材の間に弾性部材を設置することが可能となり、弾性部材が摩耗により磨り減ることを防止することができる。
【0020】
請求項8、9の発明によれば、弾性部材をスリーブとプランジャ、具体的にはスリーブとコネクタの間に設けたので、スリーブとコネクタの接触部分において発生する振動或いは騒音を効果的に低減することが可能となる。
【0021】
請求項10の発明によれば、弾性部材としてOリングをスリーブの外周面での凹部に設けたので、汎用品のOリングを用いることができ、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0022】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に係る往復運動工具1の全体形状を示す側面図で、一部を断面図にて示す図である。
【図2】図1のバランスウェイト8付近の要部拡大断面図である。
【図3】図2のA−A部の断面図である。
【図4】図3のB−B部の断面図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る往復運動工具のスリーブ21とコネクタ13の接続状態を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係る往復運動工具のバランスウェイト48付近の要部拡大断面図である。
【図7】従来の往復運動工具の主要部分の構造を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例では往復運動工具1の例としてジグソーを元に説明する。本明細書においては、前後、上下の方向は図1に示す方向であるとして説明する。図1は本実施例に係る往復運動工具1の全体形状を示す側面図であり、その一部を断面図にて示す。
【0025】
往復運動工具1は、電源コード18を介して供給される商用電源によってハウジング3に収容されるモータ2を回転させ、その回転力を用いて所定方向(図1の状態では上下方向)にプランジャ12を往復移動させ、プランジャ12の一端(図1の状態では下端)に取り付けられるブレード14を往復移動させる電動工具であって、図1に図示したような工具はジグソーと呼ばれる。回転駆動源となるモータ2は、例えばACモータであり、その出力軸(回転軸)2aが前後方向に延びるように配置され、出力軸2aの前端にはピニオン4が設けられる。ハウジング3の上方には作業者が把持するためのハンドル部16が設けられ、ハンドル部16の前方下方にはトリガスイッチ17が設けられる。作業者がトリガスイッチ17を引くことにより、その引き量に応じた電力がモータ2に供給され、モータ2が回転することによりピニオン4が回転する。
【0026】
ピニオン4の上方にはギヤ7が位置し、ギヤ7はピニオン4と噛合する。ギヤ7は出力軸2aと平行に配置されるスピンドル6によって回転可能に保持される。スピンドル6の後方はギヤホルダ5によって保持される。ギヤ7の前方側には、偏心回転部材である偏心カム7aが設けられる。本実施例ではギヤ7と偏心カム7aは一体の部材で構成しているが、これらは別体式に構成しても良い。ギヤ7が回転することにより偏心カム7aはスピンドル6を中心に最外周位置が異なる軌跡をたどるように偏心しながら回転する。往復運動部材であるバランスウェイト8は、ギヤホルダ5に固定されたガイドピン24に沿って上下方向に往復運動可能となるようにギヤホルダ5に支持される。バランスウェイト8は上下方向中央付近に、後述する開口部8aが形成され、開口部8a内には偏心カム7aが位置し、偏心カム7aの回転によってバランスウェイト8が偏心カム7aの軸線に直角に交わる直線上において、本実施例の場合は上下方向に往復移動する。
【0027】
バランスウェイト8と偏心カム7aの間には中間部材9が介在される。中間部材9とバランスウェイト8の間には弾性部材であるゴムリング20が配設される。中間部材9は略楕円形状の嵌合部を有し、嵌合部が偏心カム7aを収容するように配置される。尚、ギヤ7、バランスウェイト8、中間部材9は金属材料で構成される。但し、耐摩耗性、潤滑性があるものであればこれらの材質は金属材料でなくても良く、カーボン等でも実現しても良い。スピンドル6から偏心カム7aの偏心量のぶれがバランスウェイト8の往復移動量となる。
【0028】
ギヤ7の本体前方側には、バランスウェイト8を保持するためのウェイトホルダ10がボルト19により固定される。ウェイトホルダ10はギヤ7と共に回転する部材であって、前方側からピン11が圧入され、ピン11によってスリーブ21がウェイトホルダ10に回転可能な状態で保持される。
【0029】
ハウジング3内の前端部付近であって、偏心カム7aの前方側にはプランジャ12が配置される。プランジャ12は、ハウジング3に対して上下方向に往復運動可能に支持される。プランジャ12の一部には、ホルダ23を介して側面視(図1のように見た状態)でコの字状の断面形状のコネクタ13が固着され、コネクタ13にはスリーブ21を介してピン11が摺動可能に係合する。プランジャ12の下端には先端工具であるブレード14が着脱自在に装着され、ブレード14はハウジング3下部に水平に取り付けられたベース15の開口部15aを貫通してベース15下方へと略垂直に延出する。本実施例ではスピンドル6に対するピン11の回転軌跡の直径が、プランジャ12の往復移動量となる。
また、
【0030】
往復運動工具1を動作させるには、作業者が電源コード18を図示せぬ外部電源に接続した後、ハンドル部16を把持し、トリガスイッチ17を操作することによりモータ2に給電してモータ2を回転させる。モータ2の回転はピニオン4を介して減速されてギヤ7に伝達され、ギヤ7はスピンドル6を回転中心として回転する。ギヤ7の前方にはウェイトホルダ10が固定され、スピンドル6に対してギヤ7と同軸で回転する。ピン11がスピンドル6を中心にコネクタ13に沿って摺動しながら回転することで、プランジャ12が上下方向に往復運動し、ブレード14によって図示せぬ被切断材を切断する。
【0031】
図2は図1のバランスウェイト8付近の要部拡大断面図である。バランスウェイト8は、所定の重量を有するように構成して、往復移動するブレード14と逆位相で移動し往復運動による振動を相殺するものである。図2に示す各部品において、バランスウェイト8、中間部材9、ゴムリング20が上下方向に往復移動する部品であり、ピニオン4、ギヤ7、偏心カム7a、ウェイトホルダ10、ピン11、ボルト19がスピンドル6を中心に回転する部材である。スピンドル6は移動も回転もしないが、スピンドル6の外周側にはギヤ7がスムーズに回転できるように軸受22が介在される。本実施例では、バランスウェイト8と偏心カム7aの間に中間部材9を介在させて、その中間部材9の外周面に円周方向に連続する凹部9bが設けられてゴムリング20が嵌め込まれる。従って、偏心カム7aの回転に伴う摩擦抵抗がゴムリング20には直接作用しない。また、バランスウェイト8と中間部材9が上下方向に往復移動する際に、ゴムリング20が中間部材9の外周面から軸方向(前後方向)及び径方向(上下方向)にずれようとしても、凹部9bが形成されているため外れる恐れがないので、ゴムリング20を安定して保持することができる。
【0032】
ウェイトホルダ10は偏心カム7aに取り付けられるものであり、これはオービタルプレート25とともに中間部材9の軸方向(前後方向)の移動を制限し、中間部材が軸方向に抜け落ちないように保持する。ウェイトホルダ10はボルト19によって偏心カム7aに固定され、スピンドル6を中心にしてギヤ7と同速度にて回転する。ウェイトホルダ10の一部には貫通穴10aが形成され、貫通穴10aに圧入されたピン11によって、スリーブ21がピン11を中心に所定の回転軌跡を通るように保持される。
【0033】
図3は図2のA−A部の断面図である。本図からバランスウェイト8の前方から見た形状が理解できるであろう。バランスウェイト8の上方には、ギヤホルダ5から突出するガイドピン24(図1参照)に対して滑合しながらバランスウェイト8の上下動を案内するための案内溝8bが形成される。同様にしてバランスウェイト8の下方には案内溝8cが形成されるが、案内溝8cは左右方向の中央部でなく左側にオフセットした形で設けられる。尚、案内溝8cも案内溝8bと同様、左右方向の中央部でもよい。バランスウェイト8の上下方向中央付近には、正面視で略四角形の開口部8aを有し、開口部8aの内部に、開口部8aの内部形状に対応する外径を有する中間部材9が配置される。中間部材9は偏心カム7aと作用することによって偏心カム7aの回転運動をバランスウェイト8の上下方向の往復直線運動に変換するものであり、内部に長円形の嵌合部9aを有する。偏心カム7aの1回転は、中間部材9及びバランスウェイト8を上下方向に1往復させる。
【0034】
本実施例においては、中間部材9の外周面は開口部8aの内周面に直接接するのではなく、ゴムリング20を介して接するように構成される。図3で見ると中間部材9の大きさ(外周位置)が開口部8aよりも十分小さく、隙間が大きいように見えるが、これは図2のA−A断面位置が中間部材9の外周面に形成される円筒状の凹部9bを通る断面であることに起因するものであることに留意されたい。中間部材9と開口部8aの間の実質的な距離は十分小さいものであって、凹部の側壁部分の外周面の輪郭は図3の9bに示す位置になり、ゴムリング20の弾性作用を得るのに必要十分な程度の間隔となるように、中間部材9の外周形状とバランスウェイト8の開口部8aの形状が設定される。凹部の溝の深さは、ゴムリングの厚さ(直径)aに対して材質によって適切な範囲、例えば1.0〜0.8倍程度とすれば好ましい。
【0035】
偏心カム7aは、その回転中心たるスピンドル6に対して外周面7bの位置が偏心するように形成され、偏心カム7aはスピンドル6を中心に偏心しながら回転する。偏心カム7aの一部にはギヤホルダ5に固定されるスピンドル6が貫通され、スピンドル6の周囲には軸受22が介在されて、回転部材たる偏心カム7aが固定部材たるスピンドル6に対してスムーズに回転できるように構成される。偏心カム7aにはウェイトホルダ10(図1及び後述する図4参照)を固定するためのボルト19が螺合される。このような配置により、バランスウェイト8の往復運動の位相がプランジャ12の往復運動の位相とは逆になるように構成し、ギヤ7の回転に伴って偏心カム7aが偏心して回転すると、バランスウェイト8が案内溝8b、8cに案内されてプランジャ12及びブレード14とは逆位相で上下方向に往復運動する。この結果、プランジャ12及びブレード14の振動を相殺するよう機能する。
【0036】
通常、摺動する部材間には動作をスムーズにするため微小な隙間を設けるが、往復運動工具においては往復方向が反転する際に上記の隙間により部品同士の衝突現象が発生し、振動及び騒音を発生させる恐れがある。本実施例においては、バランスウェイト8と偏心カム7aの間に中間部材9及びゴムリング20を配設することにより、ゴムリング20によって衝突荷重を緩衝することで振動及び騒音を低減するようにした。また、それぞれ金属材料で形成された中間部材9と偏心カム7aを摺動させることでゴムリング20の摩耗を防止し、長寿命化を図ることが可能となった。さらに、弾性部材の変形規制部として中間部材9に凹部9bを設けることにより、ゴムリング20の過大な変形による損傷を防止し、長寿命化を図ることが可能となった。
【0037】
図4は図3のB−B部の断面図である。スピンドル6の前端部分にはウェイトホルダ10の抜け止め用のワッシャ26が設けられ、ワッシャ26が軸方向前方に抜け落ちないように、スピンドル6に形成された鉛管溝に止め輪27が装着される。中間部材9に形成される凹部9bの軸方向の幅は、ゴムリング20の幅(又は直径)よりも大きく、わずかならが軸方向(前後方向)に隙間が生ずる程度のサイズとすることが好ましい。また、凹部9bの径方向(左右方向)の深さは、ゴムリング20の幅(又は直径)よりも大きく、わずかならが径方向(左右方向)に隙間が生ずる程度のサイズとすることが好ましい。このような構成とすることにより、中間部材9がバランスウェイト8に対して上下方向に移動した際に、ゴムリング20がバランスウェイト8と擦れることで摩耗することを抑制することができる。尚、図4のゴムリング20の断面形状は四角形であるが、円形のものを使うようにしても良い。このように中間部材9には凹部9bが形成されて、この内部にゴムリング20が収容されるので、ゴムリング20が軸方向(前後方向)にずれてしまう恐れがない上、必要以上に中間部材9がバランスウェイト8に密着されてもゴムリング20が破損してしまう恐れをなくすことができる。さらに、中間部材9がバランスウェイト8に密着する際にも、弾性部材たるゴムリング20によって衝撃が十分緩衝されるので、衝突音や振動の発生を大幅に低減することができる。
【実施例2】
【0038】
次に図5を用いて本発明の第2の実施例を説明する。図5は図1のスリーブ31とコネクタ13の接続状態を示す要部拡大断面図である。第一の実施例と同様の箇所については同じ参照符号を付して、異なる部分について主に説明する。偏心カム7aにねじ止めされるウェイトホルダ10にはピン11が固定される。ピン11はウェイトホルダ10に対して相対的に回転しないが、ウェイトホルダ10が回転することによりピン11は、前方から見た際にその回転軌跡がスピンドル6に対して偏心するように運動する。ピン11の外周には、中間部材であるスリーブ31が軸受22を介して配設される。スリーブ31は、往復運動部材の一部を形成するプランジャ12に固定され、コネクタ13と滑合するように配置される。コネクタ13は、横方向に所定の長さを有する断面がコの字状のレール部材であって、前方側にはホルダ23を介してプランジャ12が固定される。本実施例ではスリーブ31とプランジャ12の間、具体的にはスリーブ31とコネクタ13の間に、弾性部材であるゴムリング30を配設し、スリーブ31が直接コネクタ13の内側面(上壁面と下壁面)に接触しないように構成した。これにより、プランジャ12及びブレード14の往復に起因して発生する振動及び騒音を低減することが可能となる。
【0039】
第2の実施例においても、第1の実施例と同様にスリーブ31の外周面に円周方向に連続するように形成された凹状の溝部31aが形成されて、その溝部31aにゴムリング30を配置した。図示された溝部31aとゴムリング30の大きさから、溝部31aの深さ(径方向幅)は、ゴムリング30の径方向厚さよりも小さいことがわかるであろう。また、溝部31aの幅(軸方向の幅)は、ゴムリング30の軸方向厚さよりも大きいことがわかるであろう。このため、仮にコネクタ13とスリーブ31に強い力がかかって、それらの間隔が狭められたとしてもゴムリング30は溝部31aの深さ(上下方向の距離)以上に圧縮されることがないので、ゴムリング30の寿命の低下を効果的に防止することができる。この構成は第1の実施例のスリーブ21(図1参照)を、図5で示すスリーブ31及びゴムリング30に置き換えることだけで実現できるので、容易に実現することができ、部品点数の増加やコストの上昇はわずかで済む。
【0040】
以上、第2の実施例においてはプランジャ12(コネクタ13)とスリーブ31の間にゴムリング30が配設したので、この摺動部分付近から発する振動や騒音を大きく低減できる。尚、第二の実施例は第一の実施例と同時に適用しても良いし、いずれかの実施例だけを単独で実施するようにしても良い。
【実施例3】
【0041】
次に、図6を用いて本発明の第三の実施例について説明する。図6は本発明の第3の実施例に係る往復運動工具のバランスウェイト48付近の要部拡大断面図である。第一の実施例と同じ部品を用いている箇所については同じ参照符号を付しており、異なる部分について主に説明する。
【0042】
第一の実施例においては弾性部材としてゴムリング20を用いたが、各種ゴム材料の他、その他の弾性手段、弾性部材にて実現することが可能である。図6に示す例では、弾性手段の例としてコイルばね54を用いた。コイルばね54は、細い金属線を螺旋状に巻いた圧縮バネであり、中間部材49とバランスウェイト48をお互いに離れる方向に付勢する。バランスウェイト48の全体形状は、図3で示したバランスウェイト8とほぼ同様であるが、コイルばね54を収容するための円柱形の溝部48dが形成される。図6の図は、図2のA−A部に相当する位置の断面図であるため、図6からみると溝部48dは四角形又は直方体のように見えるが、溝部48dは開口部48aから上側又は下側に延びる円柱形の溝である。同様にして、中間部材49の外周面であって、溝部48dに相当する位置には溝部49cが形成される。溝部49cも下側又は上側に延びる円柱形の溝で良い。この対向する溝部48d、49cの中にコイルばね54を配置するようにした。コイルばね54は両方の端部が円柱形の溝部48d、49cの内部空間に収容されるため、前後左右方向にずれることがなく安定して保持される。
【0043】
中間部材49の内部に配置される偏心カム7aやスピンドル6等は、第1の実施例で説明した部品と同じである。このような構成において、コイルばね54のばね定数を適切に設計することによって中間部材49とバランスウェイト48の衝突に起因する騒音や振動の低減を図ることができる。本実施例ではコイルばね54を中間部材の上側に1つ、下側に1つの計2個を用いたが、この数だけに限られずに上下にそれぞれ1つ以上のコイルばね54を設けるようにしても良い。バランスウェイト48の往復移動方向から考えて、中間部材の左右の外周部にコイルばね54を設ける必要性は低いが、設けることを排除するものではない。本実施例では中間部材49とバランスウェイト48の間に配置される弾性部材としてコイルばね54を用いたが、その他の弾性部材、例えば板ばねや皿ばね等を用いることによっても同様の効果を得ることができるので、製品仕様に合わせて適宜選択することが好ましい。
【0044】
第3の実施例においても、偏心回転部材たる偏心カム7aと往復運動部材たるバランスウェイト48への動力伝達経路の間に、弾性部材(コイルばね54)を設けたので、往復運動部材の運動方向が反転する際に偏心回転部材と接触することにより発生する振動或いは騒音を低減することが可能となる。
【0045】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では弾性部材として、中間部材9の外周部にゴムリング20を設けたが、Oリング等のリング状の部材だけに限られずに中間部材9の上辺部と下辺部に帯状のゴム部材やその他の弾性部材を介在させるようにしても良い。また、変形規制部として中間部材に凹部9bを設けたが、中間部材とバランスウェイトとの対向部分の断面形状(前後方向の断面)をL字形状とし、これらの上下方向突出部が前後するように配置(片方が90度回転させたL字状なら、他方は270度回転させた形状になるように配置)するようにし、対向させた際にその間にできる空間に弾性部材を挟む構成としてもよい。また、上述の実施例においては、往復運動工具の例としてジグソーを用いて説明したが、例えば、セーバソー等の他の往復運動工具に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 往復運動工具 2 モータ
2a 出力軸 3 ハウジング
4 ピニオン 5 ギヤホルダ
6 スピンドル 7 ギヤ
7a 偏心カム 7b 外周面
8 バランスウェイト 8a 開口部
8b、8c 案内溝 9 中間部材
9a 嵌合部 9b 凹部
10 ウェイトホルダ 10a 貫通穴
11 ピン 12 プランジャ
13 コネクタ 14 ブレード
15 ベース 15a 開口部
16 ハンドル部 17 トリガスイッチ
18 電源コード 19 ボルト
20 ゴムリング 21 スリーブ
22 軸受 23 ホルダ
24 ガイドピン 25 オービタルプレート
26 ワッシャ 27 止め輪
30 ゴムリング 31 スリーブ
31a 溝部 48 バランスウェイト
48a 開口部 48b、48c 案内溝
48d 溝部 49 中間部材
49a 嵌合部 49b 凹部
49c 溝部 54 コイルばね
101 ジグソー 105 ギヤホルダ
107 ギヤ 107a 偏心カム
108 バランスウェイト 109 出力軸
111 偏心ピン 112 プランジャ
113 ピニオン 114 ブレード
115 ハウジング 121 弾性部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と、前記回転駆動源の回転運動を先端工具の往復運動に変換する往復運動変換機構を有する往復運動工具において、
前記往復運動変換機構は、偏心して回転する偏心回転部材と、前記偏心回転部材と係合して往復運動する往復運動部材を有し、前記偏心回転部材と前記往復運動部材の間に弾性部材を設けたことを特徴とする往復運動工具。
【請求項2】
前記偏心回転部材と前記往復運動部材との間に中間部材を配置し、前記往復運動部材と前記中間部材の間に前記弾性部材を配置したことを特徴とする請求項1に記載の往復運動工具。
【請求項3】
前記弾性部材の過大変形を防止する変形規制部を、前記中間部材あるいは前記往復運動部材の少なくともいずれか一方に設けたことを特徴とする請求項2に記載の往復運動工具。
【請求項4】
前記弾性部材はゴム製の部材であり、
前記変形規制部は、前記中間部材又は前記往復運動部材の対向する面のいずれかに形成される凹部であり、
前記弾性部材を前記凹部に配置したことを特徴とする請求項3に記載の往復運動工具。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記往復運動部材の運動方向に弾性を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の往復運動工具。
【請求項6】
前記偏心回転部材は円形の外周面を有し円形の中央から偏心させた位置に回転軸を有する偏心カムであって、
前記往復運動部材は開口部を有し前記偏心回転部材の回転軸方向と垂直方向に移動するバランスウェイトを含み、
前記中間部材は開口部を有して前記往復運動部材の前記開口部内に配置され、
前記偏心カムは前記中間部材の開口部の内部に接しながら回転することにより前記バランスウェイトを往復移動させることを特徴とする請求項5に記載の往復運動工具。
【請求項7】
前記弾性部材は前記中間部材と前記バランスウェイトの間に設けられることを特徴とする請求項6に記載の往復運動工具。
【請求項8】
前記偏心回転部材は回転軸と偏心する位置に固定されたスピンドルに軸支されるスリーブを有し、
前記往復運動部材は前記スリーブと転支して前記先端工具を固定するプランジャを有し、
前記弾性部材は前記スリーブと前記プランジャの間に設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の往復運動工具。
【請求項9】
前記往復運動部材は更に前記プランジャを移動させるコネクタを有し、
前記弾性部材は前記スリーブと前記コネクタの間に設けられることを特徴とする請求項8に記載の往復運動工具。
【請求項10】
前記弾性部材はゴム製のOリングであり、
前記Oリングは前記スリーブの外周面であって前記コネクタと滑合する面に形成された凹部に設けられることを特徴とする請求項7に記載の往復運動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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