説明

微小光導波路分光特性評価装置

【課題】 微小光導波路分光特性評価装置において、光源からの光を光ファイバで試料に導入するときの光ファイバと試料との結合効率を向上することによって、試料からの出力光の強度を増大する。また、測定波長範囲を拡大するためには光源に波長可変レーザに代えて白色光源を用いることが有力な手段であるが、これによって生じる光強度の大幅な低下および試料のセッティング作業の困難という課題を克服する。
【解決手段】 測定試料と光源との光結合に、レンズ状に加工研磨した先球を先端部に有する先球加工光ファイバを用いる微小光導波路分光特性評価装置において、前記先球加工光ファイバの前記先球の曲率が約5μmから約15μmの範囲内の値を有し、より好ましくは、前記先球加工光ファイバの前記先球の曲率が約10μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用部品等に使用される光導波路の波長分光特性を測定する装置にかかわり、とくにフォトニック結晶光導波路などの微小光部品の光導波路分光特性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されている光導波路分光特性評価装置においては、測定試料の光導波路部の断面における寸法が測定波長と同程度かあるいはそれよりも小さい場合には、光源と試料との結合効率が十分に取れないために、強い光強度が得られるレーザを光源に用いても満足なSN比が得られ難いという問題があった。さらに、光源として波長可変レーザを用いているため、測定波長範囲が狭いという問題があった。
【非特許文献】たとえばN.Kawai et al,“Transmission and Time−of−Flight Study of AlGaAs−Based Photonic Crystal Waveguide”,Phys.Rev.B63 No15,p3313
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとしている課題は、第1に、光源からの光を光ファイバで試料に導入するときの光ファイバと試料との結合効率を向上することによって、試料からの出力光の強度を増大することである。
【0004】
また、測定波長範囲を拡大するためには光源に波長可変レーザに代えて白色光源を用いることが有力な手段であるが、これによって生じる光強度の大幅な低下および試料のセッティング作業の困難という新たな課題を解決することが、本発明が解決しようとしている第2の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の微小光導波路分光特性評価装置は、測定試料と光源との光結合に、レンズ状に加工研磨した先球を先端部に有する先球加工光ファイバを用いる構成であり、前記先球加工光ファイバの前記先球の曲率が約5μmから約15μmの範囲内の値を有している。
【0006】
より好ましくは、前記先球加工光ファイバの前記先球の曲率が約10μmである。
【0007】
前記先球加工光ファイバとして、偏波面保存光ファイバを用いてもよい。
【0008】
また、前記光源が白色光源であり、前記試料からの出力光を分光器によって分光した後に高感度マルチチャンネル受光器によって受光する構成を持っていてもよい。
【0009】
前記光源が前記白色光源よりも出力の大なる波長可変レーザをさらに備え、前記試料への入力光として前記白色光源および前記波長可変レーザを切り替える機能を備えていてもよい。
【0010】
前記光源の切替え時に、前記先球加工光ファイバの前記先球を有さない他端にコネクタを装着し、前記光源の出力ポートにこれに前記コネクタに勘合するレセプタクルを備えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、以下に記載されているような効果を有する。
【0012】
微小光導波路に結合する先球加工偏波面保存光ファイバの曲率を約10μmにすることにより、光源と試料との結合効率が高くなる。これによって、測定精度の向上が図られる。
【0013】
光部品の損失波長分布の測定光源として、可視光を中心に広い波長範囲にわたって均一な強度分布を持つ白色光源を用い、且つ、波長可変レーザにくらべて白色光源の強度が弱いという欠点を高感度のマルチチャンネル光検出器と組み合わせることによってカバーする構成とすれば、従来法に比べて約4倍以上の広い波長範囲にわたって測定が可能になり、短時間で測定することが可能になる。
【0014】
測定に先立って試料と偏波面保存光ファイバとの結合を調整する際、白色光源の光強度が弱いために試料からの出力光を赤外線カメラによって視認できず、調整に多大の時間を要することがある。これに対しては、入力側の偏波面保存光ファイバの一端を光コネクタに接続し、白色光源と波長可変光源の双方にコネクタのレセプタクルを設置することによって、切り替えによる光路差の差異を無視できるようになり、これによって調整用波長可変レーザと測定用白色光源の切り替えを容易に行うことが可能になる。これによって、白色光源の出力強度が弱いために波長可変レーザに比較して調整に困難を生じるという欠点をカバーすること可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記の目的を達成するための本発明の実施にあたって、まず測定波長と先球加工ファイバの曲率が結合効率にどのような影響を与えるかについて、理論的および実験的に詳細に検討した。
【0016】
微小光導波路と先球加工した光ファイバとの光結合効率は次の式で表せる。(たとえばJ.SAKAI and T.KIMURA:IEEE J.Quantum Electron.,QW−16,1059(1980)参照)。
【0017】

【0018】
上記の式(1)〜(3)において、ηは結合効率であり、ηηはxy方向それぞれの結合効率、ωは使用している光ファイバのスポットサイズ、ωとωは微小光導波路のx方向とy方向のサイズ、RとRはx方向とy方向の波面の曲率、kは波数、nはレンズの部分の屈折率、rはレンズ部分の曲率半径である。
【0019】
これらの式を用いて測定波長1μmの時の試料からの出射光と先球ファイバとの結合効率を算出した。結果を図1に示す。図1に示されるように、結合効率は先球ファイバの曲率が約6μmで最大になっている。以上から、先球加工ファイバの曲率は6μmであることが望ましい。
【0020】
そこで、ファイバ先端の曲率を5μm、10μm、15μmに研磨した3種類の偏波面保存光ファイバを用いて実験を行い、結合効率を比較した。その結果、曲率10μmを持つファイバを用いたときに最も良い結合効率が得られた。さらに、曲率半径10μmのファイバを4本用意し結合効率を測定したところ、最大で20%程度の個体差が現れた。個体差が大きかったために計算結果と異なった結果になったと考えられる。
【0021】
以上の結果から、上に述べた計算および光ファイバ先端のレンズ加工の精度を考慮して、先球の曲率が10μmのときに最大の結合効率が得られることが明らかとなった。したがって、先球ファイバ先端の曲率半径は、約5μm〜約15μmの範囲に設定することが望ましく、特に約10μmとすることが好ましい。
【0022】
一方、広い波長範囲にわたって損失波長特性を測定するには、可視から赤外光にわたって広い波長スペクトラムを持つハロゲンランプ等の白色光源を用いることが望ましい。しかしながら、フォトニック結晶光導波路のように導波路サイズが波長の数分の1のように微小になると、光源との結合効率が極端に悪くなるため、十分な強度の光強度が得られにくいという問題が生じる。また、これにともなって試料からの出射光を視認出来難くなるため、試料の位置調整が困難になるという問題も生じる。
【0023】
本発明では、前者の問題を、試料からの出力光を分光器によって分光した後に高感度マルチチャンネル受光器によって受光する構成とすることによって解決した。
【0024】
また、後者の問題に関しては、光源として、白色光に加えて位置調整のために光出力の大きなレーザを用意するとともに、光ファイバのレンズ加工していない一端にたとえばFCコネクタを装着して、双方の光源を再現性良く容易に接続できる構成とした。
【0025】
以上に説明したような特徴を有する本発明の構成の一例を、図2を用いて詳細に説明する。
【0026】
波長可変レーザ2から出た光を白色光源1の筐体に取り付けられたレセプタクル3を介して偏波面保存光ファイバ(入射側光ファイバ)4のコネクタに導き、先端を曲率10μmにレンズ加工した偏波面保存光ファイバ4のもう一方の端12から、試料となる2次元スラブフォトニック結晶光導波路(微小光導波路)7に結合した。このとき、使用した2次元スラブフォトニック結晶光導波路7のサイズは、例えば厚み0.25μm、面内方向の幅は0.35μmであるが、この数値に限定されるものではない。光ファイバ4の先端12の位置調整に際しては、好ましくは、試料7の上方に設置した赤外線カメラ5を用いる。試料(2次元スラブフォトニック結晶光導波路7)から出射した光は、入射側光ファイバ4の端12と同様に加工した先端13を持つ偏波面保存光ファイバ(出射側光ファイバ)6を用いて集光し、分光器8によって分光した後に、多チャンネル受光器9、例えば512チャンネルのInGaAs高感度受光器(OMA−V,プリンストンインスツルメンツ社)9で受光する。多チャンネル受光器9からの信号は、コントローラ10を介してPC11に送られ、必要なデータ処理が実施される。なお、PC11は、特定の機種に限定されるものではない。
【0027】
波長可変レーザ2の波長範囲内で出力が最大になるよう入射側ファイバ4および出力側ファイバ6の位置を調整した後、入射側ファイバ4を波長可変光源2から白色光源1(例えば安藤電気AQ−4303B)につなぎ代えて、損失分光特性を測定した。このとき、800nmから1600nmの波長範囲の測定に要した時間は約4分であった。測定結果を図3に示す。なお、比較のために同様の試料をチタンサファイア波長可変レーザ(波長可変範囲850nm〜1050nm)を光源とした従来法で測定した結果を図4に示す。従来法の測定系を用いたときの測定時間は、本発明にくらべて測定波長範囲が約1/4と狭いにもかかわらず、約30分を要した。
【0028】
図3および図4の結果から、本発明の装置を用いることによって、測定波長範囲が約4倍に広がるとともに、測定点のばらつきが大幅に減少し、測定精度が格段に改善されることがわかる。
【0029】
なお、上記の説明では、先球加工された先端12を有する入射側光ファイバ4および同様に加工された先端13を有する出射側光ファイバ6として偏波面保存光ファイバを用いているが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。入射側光ファイバ4および出射側光ファイバ6としては、他のタイプの光ファイバの使用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】先球加工光ファイバの曲率と評価試料との結合効率の関係を表す図である。
【図2】本発明の実施例を示す装置構成図である。
【図3】本発明の装置構成を用いて測定した損失分光特性を示す図である。
【図4】従来法の装置構成を用いて測定した損失分光特性を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 白色光源、2 波長可変レーザ、3 レセプタクル、4 偏波面保存光ファイバ(入射側光ファイバ)、5 赤外線カメラ、6 偏波面保存光ファイバ(出射側光ファイバ)、7 微小光導波路、8 分光器、9 多チャンネル受光器、10 コントローラ、12 先球加工された偏波面保存光ファイバ(入射側光ファイバ)の端部、13 先球加工された偏波面保存光ファイバ(出射側光ファイバ)の端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料と光源との光結合に、レンズ状に加工研磨した球面を先端部に有する先球加工光ファイバを用いる測定装置において、前記先球加工光ファイバの前記先球の曲率が約5μmから約15μmの範囲内の値を有している、微小光導波路分光特性評価装置。
【請求項2】
前記先球加工光ファイバの前記先球の曲率が約10μmである、請求項1に記載の微小光導波路分光特性評価装置。
【請求項3】
前記先球加工光ファイバとして偏波面保存光ファイバを用いる、請求項1に記載の微小光導波路分光特性評価装置。
【請求項4】
前記光源が白色光源であり、前記試料からの出力光を分光器によって分光した後に高感度マルチチャンネル受光器によって受光する構成を持つ、請求項1に記載の微小光導波路分光特性評価装置。
【請求項5】
前記光源が前記白色光源よりも出力の大なる波長可変レーザをさらに備え、前記試料への入力光として前記白色光源および前記波長可変レーザを切り替える機能を備える、請求項4に記載の微小光導波路特性分光評価装置。
【請求項6】
前記光源の切替え時に、前記先球加工光ファイバの前記先球を有さない他端にコネクタを装着し、前記光源の出力ポートに前記コネクタに勘合するレセプタクルを備える、請求項5に記載の微小光導波路分光特性評価装置。
【請求項7】
前記試料の上方に、拡大レンズを有する赤外線カメラが配置されている、請求項1に記載の微小光導波路分光特性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−292707(P2007−292707A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143350(P2006−143350)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(506174980)
【Fターム(参考)】