説明

微生物株を用いた消臭剤、及びそれを用いた悪臭の消臭方法

【課題】 本発明は、イサチェンキア属微生物、ラクトバチルス属微生物及びその用途に関する。
【解決手段】 本発明は、Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)または、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)及びこれを含む生菌剤及び消臭剤を提供する。本発明の両菌株は、空気中の悪臭物質を分解する消臭効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イサチェンキア属微生物またはラクトバチルス属微生物、及びその用途に関し、具体的には、米粕とブドウ粕等の発酵液から単離同定されたイサチェンキアオリエンタリス(Issatchenkia orientalis)、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及び、その生菌剤及び消臭剤としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、社会生活において不快な臭気を除去する努力がなされてきたが、その多くは強い芳香を利用し、不快臭を人に感じさせないという方法を採用するものであった。また、活性炭のように固形物による臭気の吸着作用を利用した方法が採用されていた。さらには、イサチェンキア属を悪臭低減に用いる方法(例えば、特許文献1)、ラクトバチルスパラカゼイの培養生菌体及び生菌剤により悪臭を除去する方法(例えば、特許文献2)、乳酸菌および酵母を利用した消臭剤(例えば、特許文献3)、各種植物について葉、実、樹皮などの部位から有機溶媒により抽出された成分を利用した消臭材が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−346761号公報
【特許文献2】特表2005−512591号公報
【特許文献3】特開平11−104222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの方法は必ずしも満足できる方法ではなく、また、活性炭を利用する方法では、臭気を除去する対象である気体または液体を活性炭に接触させなければならず、これらの流体を自然または強制的に対流させる必要があり、臭気を除去しようとする対象によっては使用できないか、または即効性や効率が低い場合が少なくない。ファブリーズ(商標;プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製)に代表されるような市販品の消臭剤に関しては、臭い成分をカプセル化することによって一時的に消臭効果は確認されるものの、臭い成分そのものを低減する技術の報告は少ない。さらには、人、家畜および家禽の糞尿などのように臭気の強いものに対する消臭効果をもつものは見出されていなかった。
【0005】
本発明は臭い成分を生化学的に分解して消臭し、しかもそれ自体は異味、異臭を有さず、有害残留物質を有さず、安全性の高い耐熱性にも優れた消臭剤の成分となる発酵液及びその発酵液を得るための微生物株を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためにさらに検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の構成を有する。
【0007】
Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及びLactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株。
【0008】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株を用いて得る発酵液。
【0009】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を含有することを特徴とする消臭剤。
【0010】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の共生培養によって得られた発酵液を含有することを特徴とする消臭剤。
【0011】
前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)、及び酵母の共生培養によって得られた発酵液を含有することを特徴とする消臭剤。
【0012】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を無機物及び/又は有機物からなる担体に担持させることを特徴とするバイオリアクター。
【0013】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を用いる消臭方法。
【0014】
カゼイン含有培地に、前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)を接種し、該培地を温度範囲25〜40℃で嫌気的に発酵させた後、培地中のpHが3.0〜6.0に達するまで培養することを特徴とする発酵液の製造方法。
【0015】
カゼイン含有培地に、前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)、及び酵母を接種し、該培地を温度範囲25〜40℃で嫌気的に発酵させた後、培地中のpHが3.0〜6.0に達するまで培養することを特徴とする請求項8に記載の発酵液の製造方法。
【0016】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を無機物及び/又は有機物からなる担体に担持させることを特徴とするバイオリアクターの製造方法。
【0017】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株の発酵液を、分画分子量10〜10の透析膜を用いて分画精製する方法。
【0018】
前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)、及び酵母の発酵液を、分画分子量10〜10の透析膜を用いて分画精製する方法。
【発明の効果】
【0019】
特許生物寄託株である、Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)及び、Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)を用いた悪臭低減技術である。該微生物を、単独または共生培養した培養液を用いて、消臭材として利用することが好ましい。この際、得られた消臭材をヤシグズやアルギン酸ナトリウムに担持させてバイオリアクターとして安定化させて用いてもよい。
【0020】
本発明に係るイサチェンキア属微生物株、及びラクトバチルス属微生物株の単離及び同定は、次の方法によって行うことができる。まず、米粕、ブドウ粕等を合わせて発酵処理して得られる発酵液を段階的に希釈した後、酵母菌及び乳酸菌選別培地で各々培養する。そして、酵母菌及び乳酸菌のみを単離し、同培地を用いて、両微生物株を純化し、その中でも消臭能に優れた微生物を最終的に単離する。本微生物株は、農作物や発酵利用物に由来する点でも安全性の高い微生物株である。
【0021】
単離された微生物の同定は、形態学的、培養学的、生理学的特性に基づいてバージーマニュアル(Bergey’s manual)の分類及び基準に応じて行うことができる。
例えば、グラム染色、酸素要求性、栄養要求性、資化性、代謝による生成物、酵素反応、抗生物質抵抗性といった生理的特性などを使用して分類することができ、またDNA塩基組成、23SrRNA(ribosomal RNA)もしくは16SrRNA構造分析を用いる分子遺伝学的方法、細胞壁構成成分、電子伝達系のキノン型、菌体脂肪酸組成(MIDI)などの化学分類法、及び免疫学的方法を使用することができる。
【0022】
本発明者は、単離されたイサチェンキア属微生物株及びラクトバチルス属微生物株の糖利用性の様相及び23SrRNA・16SrRNAの塩基配列を分析して同定し、2007年12月19日に同微生物を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、寄託番号酵母株、乳酸菌株をそれぞれFERM AP−21473、FERM AP−21474として寄託した。
【0023】
本発明のイサチェンキア属微生物株及び、ラクトバチルス属微生物株は人体に安全な特性がある。本発明に係るラクトバチルス属微生物株の発酵液は、固有の色沢と香味を有し、異味、異臭がなく、大腸菌群が陰性である。また、タール色素が検出されず、有害残留物質(Pb、Cd、Hg、As、Cr16)が検出されないため、人体に安全である。
【0024】
また、臭い成分を生化学的に分解して消臭することができ、しかも耐熱性にもすぐれている。
【0025】
本発明のイサチェンキア属微生物株及び、ラクトバチルス属微生物株は、通常の微生物の培養方法によって大量培養することができる。培養培地としては、炭素源、窒素源、ビタミン及びミネラルからなる培地を使用することができ、例えばMRSブロス(de Man−Rogosa−Sharp broth)及び牛乳入りのブロスを使用することができる。該微生物株の培養は、通常の培養条件で行うことが可能であり、例えば温度範囲15℃〜45℃で10時間〜40時間培養することができる。両微生物株は通性嫌気性細菌であり、振とう培養でも静置培養でも培養することができる。培養液中の培養培地を除去し、濃縮された微生物株のみを回収するために、遠心分離または濾過の過程を経ることができ、このような処理は当業者が必要に応じて行うことができる。濃縮された微生物株は、一般的な微生物保存方法によって凍結し、或いは凍結乾燥することにより、その活性を失わずに保存することができる。
【0026】
本発明に係る微生物株は、好ましくは培養または発酵溶液を濃縮処理し、遠心分離または濾過した後、凍結乾燥、噴霧乾燥などの安定化処理、またはカプセル化して貯蔵することができる。例えば、培養または発酵溶液は、遠心分離または濾過による液体除去によって1次段階で濃縮し、或いは好ましくは充填剤または担体物質、例えば珪酸アルミニウム、珪藻土、シリカ、ガラスビーズ、炭水化物、糖アルコール、澱粉、ミルク及び乳漿粉末、及び蛋白質加水分解物を添加しながら、発酵溶液から直接的に安定化を行う。このような担体または充填剤の添加により、後続の安定化段階、特にペレット化物の凍結乾燥、噴霧乾燥や、カプセル化段階で取り扱いやすい固形生成物を収得することが可能である。
【0027】
本発明は、本発明に係るイサチェンキア属微生物株及びラクトバチル属微生物株、または該微生物株とその発酵液を含み、動物の糞尿の悪臭低減のための生菌剤を提供する。該生菌剤は、一般的な方法で錠剤化し、あるいは飼料等に混入して、経口投与させ、効果を発揮することができる。なお、ここで言う動物とは、主に人を含む哺乳類、鳥類、爬虫類であり、特に牛、馬、豚などの家畜、犬、猫などのペットを指す。
【0028】
また、本発明は、本発明に係るイサチェンキア属微生物株及びラクトバチルス属微生物株、または該微生物株とその発酵液を含む消臭剤を提供する。該消臭剤の示す機能は、悪臭を除去することであり、その作用機序はマスキング及び感覚中和による方法、酸とアルカリの中和反応、化学反応による化学的方法、吸着活性炭、植物抽出エキスによる物理的方法及び酵素分解による生物学的方法などがあるが、本発明の消臭剤は生物学的方法で悪臭を除去する機能を有する。本発明の消臭剤は、好ましくは、カゼイン等を含有する培地に本発明に係るイサチェンキア属微生物株及びラクトバチルス属微生物株、または本発明に係るラクトバチルス属微生物株及び酵母を接種して培養し、残っている微生物株及び沈殿物を除去した発酵液を含有する。必要に応じて発酵液を透析し、培地由来の臭いや栄養物を除いてもよい。なお、ここで言う悪臭とは、人、家畜および家禽の糞尿、タバコの臭い、カビの臭い、飲食店などの油脂類の臭い、体臭、腐敗臭など多くの人が不快と感じる臭気を指す。
【0029】
本発明に係る消臭剤は、清涼感の提供のために、香料を選択的に添加し或いは香料の添加なしで無臭消臭剤を提供することができる。香料としては、例えばリンゴ香、花梨香、レモン香、オレンジ香、バニラ香などの果物香を添加し、或いはバラ、ジャスミン、ライラック、フリージアなどの花香、香水、及びパインツリー、胡瓜、ミントなどの植物香を含む。
【0030】
本発明に係る消臭剤は、容器に充填して使用し、或いは通常の脱臭剤使用方法による剤型に製造できる。例えば、本発明の消臭剤を、スプレー容器に一定量(例えば、一般用:90mL、商業用:500mL)充填させて使用することができ、大気中に直接噴霧し或いは悪臭源に直接撒布することができる。
【0031】
本発明の消臭剤は、強力な悪臭除去効果を有するため、広範囲な目的に適用可能である。すなわち、狭い密閉空間(例えば、冷蔵庫、お手洗い、自動車等の車内)だけでなく、開放空間の悪臭除去にも効果的である。本発明の消臭剤は、各種の悪臭、例えば、冷蔵庫内の悪臭、人間、動物、タバコ等による室内悪臭、家庭又は公衆化粧室の悪臭、家庭のゴミ容器又は動物の排泄物による悪臭の除去だけでなく、環境衛生にたびたび問題を起こす養鶏場、養豚場及びゴミ焼却場の悪臭の除去に有用である。また、本発明の消臭剤は、人体に無害な構成要素からなっており、人体、家畜、植物に接触しても毒性を示さないという特徴がある。
【0032】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。但し、これらの実施例は本発明を例示するものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
[イサチェンキア属微生物株の単離及び同定]
<発酵液からのイサチェンキア属微生物の単離>
米粕500g、ブドウ粕1kg、麹菌、醸造用酵母及びミネラル水3Lを混ぜ合わせ、30℃で1ヶ月間発酵処理させた。発酵後の発酵液のpHはpH3.45±0.2であった。該発酵液1mLを滅菌生理食塩水で10−1〜10−7まで段階的に希釈した後、各希釈液0.1mLを、パールコアポテトデキストロース寒天培地(栄研化学(株)製)39gとクロラムフェニコール0.1gを蒸留水1Lに添加してなる寒天培地に接種し、37℃で24時間培養した。培養された微生物株を、同培地を用いてさらに純粋単離し、生育能に優れた微生物株を1次的に単離した。
次に、各々のコロニーから純粋培養後、微生物株からゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR法により、23SrRNA遺伝子約607bpを増幅し、塩基配列を決定し、近隣結合法を用い分子系統解析した結果、Issatchenkia orientalisであると判断された。従って、微生物株を独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2007年12月19日付で寄託(寄託番号FERM AP−21473)した。
【0034】
<解析結果の詳細>
本微生物株の23SrRNA配列を、NCBIのGeneBankに対し、BLASTによる相同性検索を行ったところ、Issatchenkia orientalis gene for large subunit rRNA (AB363785.1)
及びIssatchenkia orientalis WL2002 23SrRNA(AY707865.1)の遺伝子データと100%の相同性が確認できた。なお、( )内はアクセッション番号を示す。
【0035】
<生化学試験結果>
本微生物株は、簡易形態観察の結果、胞子嚢および子嚢胞子の形成は認められなかったが、栄養細胞は楕円形から長楕円形であり、栄養増殖は多極出芽により、偽菌糸を形成することが確認され、Issatchenkia orientalisの形態学的特徴と一致した。また、本微生物株はブドウ糖発酵性を示し、硝酸塩資化性を示さず、液体培地において沈殿を生じ、産膜性を示すなど、23SrRNA塩基配列の結果において帰属すると推定されたIssatchenkia orientalisの性質と一致した。さらに、炭素源としてD−グルコサミンおよびグリセロールを資化し、ビタミン欠乏培地での生育性を示し、10%NaCl/5%ブドウ糖混合浸透培地での生育性を示し、37℃および40℃下での生育性を示した。培地にカゼインを添加することにより、増殖が良好になることも確認できた。
【実施例2】
【0036】
[ラクトバチルス属微生物株の単離及び同定]
<ラクトバチルス属微生物株の単離>
実施例1で得たものと同一の発酵液を滅菌生理食塩水で10−1〜10−7まで段階的に希釈した後、各希釈液0.1mLをBCP(brom cresol purple)プレート(酵母エキス2.5g、ペプトン5g(以上、Difco社製)、ブドウ糖1g、ポリソルベート1g、システイン1g、ブロムクレゾールパープル0.04g、寒天15g/蒸留水1L)に接種し、37℃で72時間培養した。培養された微生物株を、乳酸生成によって培地の色が紫色から黄色に変わる乳酸菌測定用培地であるBCP寒天培地で培養し、乳酸生成に優れた微生物株を1次的に単離した。
単離された微生物株の中から桿菌の微生物を選抜するためにグラム染色し顕微鏡検査を行った。次に、各々のコロニーから純粋培養後、微生物株からゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR法により、16SrRNA遺伝子約1500bpを増幅し、塩基配列を決定し、近隣結合法を用い分子系統解析した結果、Lactobacillus paracaseiであると判断された。従って、微生物株を独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2007年12月19日付で寄託(寄託4番号FERM AP−21474)した。
【0037】
<解析結果の詳細>
本菌株の16SrRNA配列を、NCBIのGeneBankに対し、BLASTによる相同性検索を行ったところ、Lactobacillus paracasei (DQ199664.1)、及びLactobacillus paracasei strain DJ1 (DQ462440.1)の遺伝子データと100%の相同性が確認できた。なお、( )内はアクセッション番号を示す。
一方、BL2認定の微生物との配列の相同性についても、同様に検討したところ、Lactobacillus catenaformis (AJ621549.1);相同性83%、Lactobacillus gasseri (NC_008530.1);相同性68%、Lactobacillus rhamnosus (DQ256750.1);相同性96%、Lactobacillus uli (AF292375.1);相同性86%であった。よって、安全性が高いと推測された。
【0038】
<生化学試験結果>
運動性を有さないグラム陽性桿菌で、ブドウ糖を発酵し、カタラーゼ反応およびオキシダーゼ反応は共に陰性を示した。APIキットを用いた結果、リボース、マンニトール、ソルビトールおよびアミグダリンなどを発酵し、グリセロール、D−アラビノース、アドニトールおよびソロボースなどを発酵しなかった。また10℃および40℃で生育を示した。培地にカゼインを添加することにより、増殖が良好になることも確認できた。
【実施例3】
【0039】
[イサチェンキア属微生物株の培養液の調製]
Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)を液体培地(酵母エキス2.5g、トリプトン5g(以上、Difco社製)、ブドウ糖10g/蒸留水1L)に摂取し、37℃で72時間静置培養を行った。その後、400mLの遠心チューブに得られた培養液を入れ、3500rpmで遠心分離を行った。遠心分離後、上清を回収して、さらに該培養液をフィルター(CAS9004−70−4;MILLIPORE社製)で濾過して、培養液上清を回収した。該培養液上清を消臭剤Aとした。
【実施例4】
【0040】
[ラクトバチルス属微生物株の培養液の調製]
Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)を液体培地(酵母エキス2.5g、トリプトン5g(以上、Difco社製)、ブドウ糖10g/蒸留水1L)に摂取し、振とう培養装置に設置し、37℃で36時間培養を行った。その後、得られた培養液をフィルター濾過により、微生物株と培養液上清を分離した。該培養液上清を消臭剤Bとした。
【実施例5】
【0041】
[イサチェンキア属微生物株とラクトバチルス属微生物株の共生培養液の調製]
Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及びLactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)を液体培地(酵母エキス2.5g、トリプトン5g(以上、Difco社製)、ブドウ糖10g/蒸留水1L)に同時に摂取し、37℃で72時間静置培養を行った。その後、得られた培養液をフィルター濾過により、微生物株と培養液上清を分離した。培養液上清を消臭剤Cとした。
【実施例6】
【0042】
[ラクトバチルス属微生物株とパン酵母の共生培養液の調製]
Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)とパン酵母を液体培地(酵母エキス2.5g、トリプトン5g(以上、Difco社製)、ブドウ糖10g/蒸留水1L)に同時に摂取し、37℃で72時間静置培養を行った。その後、得られた培養液をフィルター濾過により、微生物株と培養液上清を分離した。培養液上清を消臭剤Dとした。
【実施例7】
【0043】
[培養液上清の透析]
分画分子量14000の透析膜(型番548−00033、和光純薬(株)製)に上記に記載した消臭剤Dを約10mL添加し、外液を1Lのリン酸緩衝液(リン酸水素2ナトリウム9.46gを溶解した水溶液を、リン酸2水素カリウム水溶液でpH7.0に調整し、1Lに調製)を5℃に保ちながらマグネチックスターラーで攪拌し12時間透析を行った。透析後、透析膜中の試料を回収し、消臭剤D’とした。
【実施例8】
【0044】
[ガス検知管による消臭効果の確認]
1L容ガラス製容器(遮光性)内を空気とトリメチルアミンで満たした後、該容器内に消臭剤A〜D’を1mL添加した。この時のトリメチルアミンの容器内濃度は70ppm(v/v)であった。温度を25±1℃に保持し、10分後、1時間後、3時間後、5時間後、24時間後に容器内から直接、気体50mLをアミン類検知管(No.180;(株)ガステック製)に通し、容器内のトリメチルアミン濃度を測定した。このアミン類検知管には、アミン類と反応して変色(紫色→黄色)する試薬が充填されており、色の変化によって目的ガス濃度を測定でき、検知限度は0.5ppm(v/v)である。
【0045】
アミン類検知管による、消臭剤A、B、C、D及びD’のトリメチルアミンに対する消臭効果の測定結果を表1に示す。なお、消臭剤を調製したものと同一で、微生物株を接種していない培地を対照とした。本発明の消臭剤A、B、C、D及びD’を噴霧された容器内のトリメルアミン濃度が急速に低下しており、該消臭剤がトリメチルアミンに対して優れた消臭機能を有していることがわかる。
【0046】
【表1】

【実施例9】
【0047】
[官能試験による消臭効果の確認]
ペットショップより提供された、犬の糞尿を拭き取ったバスタオル(木綿製)を10Lの水道水に浸し、糞尿を該バスタオルに均一となるように分散させて1日乾燥させ、10cm×15cmに切り分けてタオル片とした。該タオル片の両面に、被験物20mLを霧吹きで万遍なく行き渡るように噴霧し、また対照として何も噴霧しないタオル片も用意し、いずれも1日室温に放置し、その後はスナップ付ビニール袋(25cm×25cm)に入れて臭いの変化を測定した。各測定日において、対照タオル片から官能試験者の鼻までの距離を60cmにして感じた糞尿臭の強さを基準(100)とし、30cmの距離で同様の糞尿臭を感じたと判断した場合の臭いの強さを60、5cmの距離で同様の糞尿臭を感じたと判断した場合の臭いの強さを30、1cmの距離で同様の糞尿臭を感じたと判断した場合の臭いの強さを10として、測定を行った。試験は2名の官能試験者で行い、1日毎に糞尿臭の程度を測定した。
【0048】
官能試験による、消臭剤C・D・D’のトリメチルアミンの消臭効果を表1に示す。対照に比べ、本発明の消臭剤を噴霧されたタオル片の糞尿臭が急速に低下しており、該消臭剤が糞尿臭に対して優れた消臭機能を有していることがわかった。
【0049】
【表2】

【実施例10】
【0050】
[オートクレーブによる処理]
消臭剤Cをオートクレーブ処理(120℃、20分間)し、実施例9と同じ官能試験を実施した結果、未処理のものと同等の消臭効果が確認された。
【実施例11】
【0051】
[プロテアーゼ活性の測定]
精製水1Lにスキムミルク10gと寒天15gを加え、加熱溶解させシャーレに分注し固まらせた後、扇形に切り取った濾紙を固まった寒天に乗せ消臭剤C・D・D’を濾紙に数滴垂らす。その後、37℃で48時間保温し、濾紙をはがして該寒天の色を観察した。濾紙を乗せていた部分の寒天が、無色透明になっていれば、被検物にプロテアーゼ活性有りとした。消臭剤C・D・D’のいずれもプロテアーゼ活性を示した。
【実施例12】
【0052】
[アミラーゼ活性試験]
0.5%のデンプン水溶液7mLに消臭剤C・D・D’を0.6mL加え攪拌混合し、40℃のウォーターバスで60分間保温した。その後、ヨウ素液(イソジン;明治製菓(株)製)を1.2mL加え色の変化を観察した。該デンプン水溶液が呈色せず透明であれば、アミラーゼによりデンプンが分解されヨウ素デンプン反応が起きなかったと判断し、被検物にアミラーゼ活性有りとした。消臭剤C・D・D’のいずれもアミラーゼ活性を示した。
【実施例13】
【0053】
[リパーゼ活性試験]
反射式光度計RQフレックス(型番1.16970.0001;メルク社製)を使用し測定した。リパーゼテストキットの試験紙(型番1.05851.0001;メルク社製)を消臭剤C・D・D’に浸し余分な水分を拭取った後、付属の反応試薬に浸し変色(白色→紫色)するか否かを確認した。該試験紙が変色すれば、被検物にリパーゼ活性有りとした。消臭剤C・D・D’のいずれもリパーゼ活性を示した。
【0054】
以上の実験により、Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及びLactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)から選ばれる1種または2種を培養し、培養液を消臭剤として調製すれば、消臭効果が発揮されることが確認できた。また、本消臭剤は、プロテアーゼ等の酵素活性を示し、また、各培養液から微生物株を除去し、分画分子量14000の透析膜で処理し各種低分子化合物を除去したものでも消臭効果が見られたことから、本消臭剤の消臭機能にこうした酵素活性が関与している可能性が示された。なお、消臭剤Cをオートクレーブ処理しても、官能試験で消臭効果が確認されたため、本発明の消臭剤の消臭機能の熱安定性が高いとともに、該消臭機能に酵素が関与している場合、該酵素は耐熱性酵素であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の菌株を含む生菌剤を用いれば、空気中の悪臭物質を分解する消臭剤及びペットの糞尿の消臭剤としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及びLactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株。
【請求項2】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株を用いて得る発酵液。
【請求項3】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を含有することを特徴とする消臭剤。
【請求項4】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)の共生培養によって得られた発酵液を含有することを特徴とする消臭剤。
【請求項5】
前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)、及び酵母の共生培養によって得られた発酵液を含有することを特徴とする消臭剤。
【請求項6】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を無機物及び/又は有機物からなる担体に担持させることを特徴とするバイオリアクター。
【請求項7】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を用いる消臭方法。
【請求項8】
カゼイン含有培地に、前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)を接種し、該培地を温度範囲25〜40℃で嫌気的に発酵させた後、培地中のpHが3.0〜6.0に達するまで培養することを特徴とする発酵液の製造方法。
【請求項9】
カゼイン含有培地に、前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)、及び酵母を接種し、該培地を温度範囲25〜40℃で嫌気的に発酵させた後、培地中のpHが3.0〜6.0に達するまで培養することを特徴とする請求項8に記載の発酵液の製造方法。
【請求項10】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株及び/又はその発酵液を無機物及び/又は有機物からなる担体に担持させることを特徴とするバイオリアクターの製造方法。
【請求項11】
前記Issatchenkia orientalis HAK−Nione(FERM AP−21473)、及び前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)のうちから選択された1種または2種の微生物株の発酵液を、分画分子量10〜10の透析膜を用いて分画精製する方法。
【請求項12】
前記Lactobacillus paracasei HAK−Niotwo(FERM AP−21474)、及び酵母の発酵液を、分画分子量10〜10の透析膜を用いて分画精製する方法。

【公開番号】特開2010−11782(P2010−11782A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174081(P2008−174081)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【出願人】(508201765)東北レヂボン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】