説明

微細表面形状切削加工装置及び微細切削加工方法

【課題】精密な微細凹凸を創成することのできる微細表面形状切削加工装置を提供すること。
【解決手段】被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置であって、第1のスライド機構の正方向の運動時に位置検出器から発生するパルス信号に同期して工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、第1のスライド機構の逆方向運動時には切削工具を待避させ、かつ、第1のスライド機構が一往復する毎に第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成するので、精密な微細凹凸を創成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工によって被加工物の表面に精密な微細凹凸形状を創成する微細表面形状切削加工装置および微細切削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の微細な凹凸を被加工物の表面に創成する微細表面加工装置、或いは加工方法では、半導体製造工程と同様のレジスト材にパターン露光をし、特定の部位をエッチングにより除去する装置や、収束イオンビームなどのエネルギビームを用いた除去加工装置が広く用いられている。
例えば、特開2004−219494には、回折光学部品の金型を切削加工にて安価かつ高精度に製造する方法が開示されている。ここでは工具は、固定された単刃工具ではなく、回転する単刃工具(単結晶ダイヤモンド工具)を使用しており、回転する工具を工作物に対して相対的に走査して溝を形成するものである。
【0003】
また、一般にプレーナ、シェーパ、あるいはへール加工とよばれる加工装置が固定単刃工具で工作物表面を走査して加工面を得る方法に該当する。こららの加工装置は、通常1回の工具走査の最中は切り込み量を固定しているので、3次元的な加工表面形状は得られなかった。更に、これと類似の加工動作を数値制御工作機械を使ってさせることもでき、さらに数値制御機能を使って走査方向に切り込み量変化を持たせ、3次元的な表面形状を創成することも一般には可能である。しかし、その場合、工具先端の運動軌跡はあらかじめ走査方向(X)と切り込み方向(Z)で成す面内の軌跡としてプロプラムされ、両方の運動軸(X軸とZ軸)に指令が分配されて運動が実現される。
また、電極自体を微細化した放電加工装置や、微細なエンドミル工具によって切削加工する装置等が現在までに提案され、実用化されている。
【特許文献1】特開2004−219494
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これら従来の微細表面形状を創成する装置または微細加工方法のうち、パターン露光とエッチングを用いるもの、およびビーム加工によるものでは、非常に微細な表面形状が得られる反面、被加工物の材質や基板の形状や創成できる表面形状の形態や創成領域に制限があった。つまり、切り込み量を固定して走査しているので、加工面は送り方向に高さ変化を付けることができなかった。
また、微細放電加工は金属に応用でき、加工形状の自由度がある程度あるものの、加工能率が低く、加工領域が実質的に制限されていた。また、十分高い加工面形状精度が得られないという欠点が存在した。
これに対し機械加工であるボールエンドミル切削加工装置は、創成形状の自由度と加工形状精度が高いという特質をもつものの、微細な凹凸を加工表面に創成するためには、工具先端半径は十分に小さくなければならないが、実質的には限度があり、高い空間分解能を持ちかつ十分微細な表面形状は得られなかった。
また、間欠切削であるために、十分に滑らかな表面を得るためには工具送り速度をきわめて低く設定しなければならず、加工時間が非常に長くかかるといった欠点が存在した。
【0005】
この発明は、上記に鑑み提案されたもので、広い加工領域にわたって自由度の高い精密な微細凹凸形状を迅速に切削加工によって創成する微細表面形状切削加工装置及び微細切削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為に、本発明の微細表面形状切削加工装置は、被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、該第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、前記第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、前記第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置であって、前記第1のスライド機構の正方向の運動時に前記位置検出器から発生するパルス信号に同期して前記工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、前記第1のスライド機構の逆方向の運動時には切削工具を待避させ、かつ、前記第1のスライド機構が一往復する毎に前記第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成することを特徴としている。
【0007】
また、本発明において、前記工具切込み機構の運動軸と垂直に設置した基準平面と、前記第2のスライド機構を一定量送る毎に前記基準平面を用いて第2のスライド機構の切込み方向の運動誤差を検出する誤差検出手段とを備え、該誤差検出手段により検出された運動誤差と創成すべき表面凹凸量との和を前記工具切込み機構に指令し、微細表面形状を創成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明において前記工具切込み機構は、互いに平行な運動軸をもつ、大きな変位を得る粗動機構と、高速かつ微細に変位させ得る微動機構の両方を備えるとともに、前記粗動機構の運動軸に垂直に設置された基準平面に対する粗動機構の変位を検出する検出手段を備え、前記粗動機構の変位誤差と創成すべき表面凹凸量との和を前記工具切込み機構に指令し、微細表面形状を創成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の微細切削加工方法は、被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、該第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、前記第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、前記第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置を用い、前記第1のスライド機構の正方向の運動時に位置検出器から発生するパルス信号に同期して前記工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、前記第1のスライド機構の逆方向運動時には切削工具を待避させ、かつ、前記第1のスライド機構が一往復する毎に前記第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は上記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0011】
本発明の微細表面形状切削加工装置は、被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、該第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、前記第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、前記第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置であって、前記第1のスライド機構の正方向の運動時に前記位置検出器から発生するパルス信号に同期して前記工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、前記第1のスライド機構の逆方向の運動時には切削工具を待避させ、かつ、前記第1のスライド機構が一往復する毎に前記第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成するので、従来のボールエンドミルではできないほどの微細な表面形状を機械加工によって形成することができる。また、本発明は、従来のボールエンドミルによる加
工よりも加工時間を短縮できる。更に、精密なスライド機構と、精密に切込み量を制御できる工具切込み機構があればよく、その他のスライド機構には高い精度が必要ない。
【0012】
また、本発明は、前記工具切込み機構の運動軸と垂直に設置した基準平面と、前記第2のスライド機構を一定量送る毎に前記基準平面を用いて第2のスライド機構の切込み方向の運動誤差を検出する手段を備え、検出された運動誤差と創成すべき表面凹凸量との和を工具切込み機構に指令し、微細表面形状を創成するので、微細な表面形状を短時間で形成することができる。
【0013】
また、本発明は、前記工具切込み機構は、互いに平行な運動軸をもつ、大きな変位を得る粗動機構と、高速かつ微細に変位させ得る微動機構の両方を備え、前記粗動機構の運動軸に垂直に設置された基準平面に対する粗動機構の変位を検出する手段を備え、前記粗動機構の変位誤差と創成すべき表面凹凸量との和を工具切込み機構に指令し、微細表面形状を創成するので、切削加工により微細形状を形成可能である。
【0014】
また、本発明の微細切削加工方法は、前記被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、該第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、前記第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、前記第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置を用い、前記第1のスライド機構の正方向の運動時に位置検出器から発生するパルス信号に同期して前記工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、前記第1のスライド機構の逆方向運動時には切削工具を待避させ、かつ、前記第1のスライド機構が一往復する毎に前記第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成するので、微細な表面形状を短時間で形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1のスライド機構の正方向の運動時に発生するパルス信号に同期して、工具切込み量を高速に変化させるとともに、逆方向の運動時には切削工具を待避させ、第1のスライド機構が一往復する毎に第2のスライド機構を一定量送ることにより、微細な表面形状を切削加工により形成するという目的が達成できる。
【実施例】
【0016】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態を実現する加工装置の概念図である。ここで、微細表面形状切削加工装置10は、被加工物11を搭載してX軸方向に往復運動をする第1のスライド機構12と、これに直交配置されY軸方向へ移動する第2のスライド機構13と、前記両スライド機構の運動軸に対してそれぞれ直交して配置されるとともに、前記第2のスライド機構13上に設置された工具切込み機構14とを備えている。また、工具切込み機構14は、先端に単刃の切削工具15を備え、指令に応じて切削工具15の被加工物11に対する位置を変化させることにより、切込み量を調節する。更に、第1のスライド機構12には、その運動に従って位置信号、例えば、パルス信号を発生する位置検出器16が取り付けられている。また、微細表面形状切削加工装置10に取り付けられた第1のスライド機構12と、第2のスライド機構13と、工具切込み機構14および位置検出器16とは、これらを制御する制御装置20に接続され、加工装置全体の運動が制御される。
【0017】
図2は、本発明の微細表面形状切削加工装置に使用される制御装置の一例を示す構成図である。制御装置20は、加工形成についての各種データを格納する形状データ格納部21と、X軸、Y軸、Z軸方向についての第1のスライド機構12、第2のスライド機構13、工具切込み機構14を制御する運動制御装置22と、切削工具15を具体的に駆動す
る第1駆動装置23、第2駆動装置24、工具切込み機構駆動装置25及び同期制御装置26等から構成されている。ここで、運動制御装置22は、加工装置の運動制御全般を司る。第1駆動装置23と第2駆動装置24は、それぞれ第1のスライド機構12と第2のスライド機構13に対する位置指令信号を運動制御装置22から受け、両スライド機構へ駆動動力を供給する。
【0018】
工具切込み機構駆動装置25は、工具切込み機構14の精密な運動を制御する。形状データ格納部21は、後に記述する創成すべき被加工物11の表面形状のデータを2次元配列状の数値データとして格納している。また、同期制御装置26は、第1のスライド機構12に取り付けられた位置検出器16から送られてくる同期信号を受け、そのデータにしたがって、運動制御装置22へ新たなデータを要求し、運動制御装置22から逐次送出される位置指令信号を、同期信号と同期して、工具切込み量制御信号27として工具切込み機構駆動装置25へ送出する。
【0019】
図3は、制御されるべき切削加工における切削工具15の被加工物11に対する相対運動を示すものである。第1のスライド機構12、第2のスライド機構13および工具切込み機構14の運動軸をそれぞれX軸、Y軸およびZ軸とする。第1のスライド機構12が、切削工具15を被加工物11に切り込ませた状態でX軸の正方向Xpに移動するとき、すなわち切削工具15が加工を行うとき、創成すべき表面形状100の、あるY座標(Y1)におけるX軸方向の断面曲線101に相当する変位指令を、第1のスライド機構12の運動に同期して工具切込み機構14に与えることにより、工具軌跡に沿って所望の断面曲線101が切削により創成される。
【0020】
図4は、本発明における被加工物から見た切削工具15の運動を示す説明図である。切削工具は、上記のように断面曲線101に沿った切削を行った後、退避パス102を経て被加工物から離れ、戻りパス103を通って切削開始点107の上方に戻る。次にY方向にわずかな一定量Δyだけ送り、Y座標がY2になる。切込みパス105に続いて上記のように、創成すべき表面形状100のY座標(Y2)におけるX方向の断面曲線108に相当する連続的な切込み量制御を第1のスライド機構12の運動に同期して工具切込み機構14に与えることにより、新しい細線状の加工面が創成される。このように第1のスライド機構12と第2のスライド機構13および工具切込み機構14の運動を繰り返すことによって平面である加工面上に、曲面100が創成される。
【0021】
創成される表面形状は、X方向から見た断面が、X方向から見た切削工具15の切れ刃形状の包絡面となるように形成される。例えば、工具の切れ刃形状を半径Rの円弧とした場合、図5に示すようにY方向の送り量Δyを周期とするうねりをもつ形状となる。Y方向の送り量Δyを工具の切れ刃形状の半径Rよりも十分小さく取ることによって十分滑らかな断面形状を得ることが出来る。
【0022】
図6〜図8において、第1のスライド機構12の運動に同期して工具切込み機構14に指令値を与えることは、以下の方法により実現できる。すなわち、第1のスライド機構12に取り付けられた位置検出器16は、例えばリニアエンコーダで構成され、第1のスライド機構12が等速運動をするとき、X座標の一定の増分Δxごとに同期パルス信号34を発生するものとする。その信号が発生される毎に工具切込み機構駆動装置25への指令値(工具切込み量制御信号)27、すなわち切り込み量の指令値を更新すればよい。より具体的には、断面曲線101に沿って増分Δxの間隔をもつサンプリング点上の、基準高さHからの差の値Δhn、すなわち工具切込み機構14の指令値をあらかじめバッファメモリ37に格納しておき、同期パルス信号34が入るたびに読み出しポインタ36を移動させ、格納された指令値を順次、工具切込み機構駆動装置25に送出すればよい。切削工具15が工作物表面を離れ、X軸の負方向Xnに移動する最中に、メモリの内容を、あら
かじめ用意され、大容量メモリ35に格納された、隣の断面曲線108に沿った一連の指令値に更新し、その後、断面曲線108が切削により創成される。
【0023】
工具切込み機構14の応答特性が十分に速く、断面曲線に沿った一連の指令値を急峻に変化させるような値としておけば、切削工具15は急峻な切込み量変化を発生させ、結果としてX軸方向に微細な高さ変化をもった表面形状を創成することが出来る。逆に、一連の指令値を滑らかな変化をするものとすれば、滑らかな高さ変化をもった表面形状を創成することが出来る。
【0024】
図9は、本発明に使用される工具切込み機構14の一実施の形態を示すものである。ここで、工具切込み機構14は、圧電アクチュエータ141によって微小かつ高速な変位を発生させ、ダイアフラム143を介して支持された切削工具144を駆動する。一般に精密な変位制御を実現するために、圧電アクチュエータ141の中心に変位センサ142を配設し、この変位センサ142用いた閉ループ制御が用いられる。また、アクチュエータとしては、圧電アクチュエータ141に限ることなく、電歪アクチュエータ、電磁アクチュエータ、電磁石機構などを利用することができる。なお、工具切込み機構14の制御に関しては、例えば、特許第2615392号(工具微動台)に詳細な記述がある。
【0025】
図10は、本発明における工具切込み機構駆動装置25の一例を示す説明図である。ここで、工具切込み機構駆動装置25は、工具切込み量制御信号27と変位センサからの変位信号43との差をもとにサーボ信号44を出力するサーボ回路39と変位センサーからの出力を増幅する変位センサーアンプ40、ピエゾドライバー41等からなり、ピエゾドライバー41を介して工具切込み機構14に駆動電圧45を印加する。これにより、工具切込み機構14が駆動制御され、先端に支持された切削工具144の変位が制御される。
【0026】
第1のスライド機構12が一往復を終えた後、第2のスライド機構13が一定量送られる時、第2のスライド機構13の運動には一般にZ方向成分の運動誤差を生じる。この運動誤差は工具の切込み量に直接影響し、得られる加工表面形状に誤差を招く。この誤差は以下の方法によって排除される。図11、12において工具切込み機構14の運動軸に垂直に十分高い平面度をもった基準平面28を設ける。第2のスライド機構13が基準位置Y1から位置Y2へ移動した時のZ軸方向の運動誤差Zeは、基準平面28を基準に変位センサ29によって検知される。この運動誤差Zeは、既定の工具切込み量が増大する方向に作用する。そこで、図12に示されるように、同期制御装置26の後に新たに追加した減算器30によって、位置Y2において工具切込み機構駆動装置25を通じて工具切込み機構14に与える工具切込み指令値を位置Y1における値62よりZeだけ減じた値63とすれば第2のスライド機構13の運動誤差の影響を排除することができる。
【0027】
ここで変位センサ29は、基準平面28に対する第2のスライド機構13の僅かな真直運動誤差を検知すればよいので、作動範囲の狭い既存の光学式または静電容量型または渦電流式などの非接触変位計や、接触式変位計を利用することができる。このようにして、第1のスライド機構12、第2のスライド機構13および工具切込み機構14の3つの動作を組み合わせた一連の走査動作において、第2のスライド機構12が一定量送られたときに生じたZ軸方向の運動誤差を補償した後、第1のスライド機構12を運動させ、その運動に同期して工具切込み機構14を作動させることによって、第2のスライド機構13には運動精度がそれほど高くない機構、例えば安価な転がり案内機構を採用しても精度の高い加工をすることが出来る。
【0028】
図13は、本発明におけるZ軸に粗動機構と微動機構を設けた構成図である。ここで、工具切込み量を設定する工具切込み機構として互いに平行な軸を持つ2つのスライド機構、すなわち大きな変位を与える粗動機構31と、精密かつ微小な変位を与える微動機構3
2とを備える装置の構成を示す。一般に、大きな変位を与えるスライド機構、例えばねじ送り機構を用いたものは、位置決め精度が低く、精密かつ微小な変位を与える機構、例えば圧電アクチュエータを用いたものはナノメータオーダにおよぶ位置決め分解能を得ることが可能であるが、最大作動範囲は一般に数十μmに制限される。また、変位センサ29は、微動機構32とともに粗動機構31の可動ステージ33上に搭載され、基準平面28と粗動機構31の可動ステージ33との距離関係を検出する。微動機構32は、粗動機構31の可動ステージ33に対する切込み方向(Z軸方向)の工具変位を与える。
【0029】
また、微動機構32の最大変位量を超えた工具切込み量指令値が与えられた時にそれを精密に実現するには以下の方法による。例えば、図14に示すような形状を考えた時、創成すべき表面形状100が第2のスライド機構13の運動方向、すなわちY軸方向にのみ、微動機構31の最大作動範囲を超える高さ変化をもつ形状である場合、これまで記述したような各軸の動作において、Y軸は一定の間隔で間欠的に移動し、位置が固定される。その状態で、第1のスライド機構12の運動方向すなわちX軸方向に切削工具が走査され、切削が行なわれる。切削工具15が一回走査される過程における工具切込み量指令値の平均値に相当するZ軸方向の変位を粗動機構31により与える。このとき、粗動機構31が発生する変位には誤差が含まれているが、その誤差は変位センサ29によって基準平面28を参照として精密に検出される。その検出された誤差は、微動機構32の位置指令値から減算され、切削工具15は正確な高さを走査する。その走査の過程において微動機構32の指令値に、これまで記述した方法で、X軸の位置に同期して微小な切込み量変化をもたらす指令値を加算することによって、図14に示すような形状を創成することが出来る。
この構成においても前述の第2のスライド機構13の運動誤差に起因する加工誤差を排除する方法を併用することは可能である。
【0030】
なお、本発明の他の実施例として、被加工物の代わりに工具側を走査して切削しても良い。このように構成しても当初の実施例と同様の効果を得ることができる。
また、図15に示すように、粗動機構の変位を検出する手段は、2台以上の変位計を組み合わせて構成しても良い。例えば、第1の変位センサ71を第1のスライド機構12側の設置し、基準平面28との相対距離73を検出し、第2の変位センサ72を粗動機構31の可動ステージ33に設置して、粗動機構31に対する可動ステージ33の変位74を検出する。
このように構成した場合、2つの変位センサの出力の合計が可動ステージ33の基準平面28に対する相対距離を与える。したがって、切削工具15の被加工物11に対する位置制御をより精密に行うことができる。
【0031】
また、第2のスライド機構13を移動させる量Δyは、常に一定でなくともよく、目標とする被加工物の表面形状にあわせて、被加工物の表面形状のY軸方向の傾斜が急な部分では小さな値とするのがよい。
【0032】
以上述べたように本発明において、運動軸の制御を記述する数値制御プログラムは、おびただしい数の細かな線分の集合となることなく、単純な運動を記述するのみとなるので、走査方向(X軸方向)には速度変化が無く、滑らかな運動を実現できる。また、走査方向には高い頻度で切り込み量変化を与えることができるので、極めて微細な表面形状が創成できる。例えば、走査速度を50mm/s、切り込み量を毎秒500回変化させた場合、加工表面形状には操作方向に、周期0.1mmの微細形状をもたせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明に係る微細表面形状切削加工装置の全体を示す概念図である。
【図2】図2は、同微細表面形状切削加工装置に使用される制御装置の一例を示す構成図である。
【図3】図3は、同微細表面形状切削加工装置における切削工具の走査による切削加工の様子を示す説明図である。
【図4】図4は、本発明における被加工物から見た切削工具の運動を示す説明図である。
【図5】図5は、本発明における創成される被加工物表面の断面形状を示す説明図である。
【図6】図6は、本発明における同期制御システムの構成図である。
【図7】図7は、本発明における切削工具軌跡に沿ったサンプリング点の配置を示す説明図である。
【図8】図8は、本発明における工具切込み機構の制御データ更新方法を示す説明図である。
【図9】図9は、本発明における工具切込み機構の一例を示す説明図である。
【図10】図10は、本発明における工具切込み機構の制御系の一例を示す説明図である。
【図11】図11は、本発明におけるY軸に運動誤差をもつ場合の補償法を示す説明図である。
【図12】図12は、本発明におけるY軸に運動誤差をもつ場合の補償法を示す説明図である。
【図13】図13は、本発明におけるZ軸に粗動機構と微動機構を設けた構成図である。
【図14】図14は、本発明におけるY軸方向にのみ大きな高さ変化を持つ表面形状の例を示す説明図である。
【図15】図15は、本発明における2台以上の変位計を組み合わせて構成した場合を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10 微細表面形状切削加工装置
11 被加工物
12 第1のスライド機構
13 第2のスライド機構
14 工具切込み機構
15 切削工具
16 位置検出器
20 制御装置
21 形状データ格納部
22 運動制御装置
23 第1駆動装置
24 第2駆動装置
25 工具切込み機構駆動装置
26 同期制御装置
27 工具切込み量制御信号
28 基準平面
29 変位センサ
30 減算器
31 粗動機構
32 微動機構
33 可動ステージ
34 同期パルス信号
35 大容量メモリ
36 ポインタ
37 バッファメモリ
39 サーボ回路
40 変位センサーアンプ
41 ピエゾドライバー
43 変位信号
44 サーボ信号
45 駆動電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、
該第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、
前記第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、
前記第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置であって、
前記第1のスライド機構の正方向の運動時に前記位置検出器から発生するパルス信号に同期して前記工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、前記第1のスライド機構の逆方向の運動時には切削工具を待避させ、かつ、前記第1のスライド機構が一往復する毎に前記第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成する微細表面形状切削加工装置。
【請求項2】
前記工具切込み機構の運動軸と垂直に設置した基準平面と、
前記第2のスライド機構を一定量送る毎に前記基準平面を用いて第2のスライド機構の切込み方向の運動誤差を検出する誤差検出手段とを備え、該誤差検出手段により検出された運動誤差と創成すべき表面凹凸量との和を前記工具切込み機構に指令し、微細表面形状を創成することを特徴とする請求項1に記載の微細表面形状切削加工装置。
【請求項3】
前記工具切込み機構は、互いに平行な運動軸をもつ、大きな変位を得る粗動機構と、高速かつ微細に変位させ得る微動機構の両方を備えるとともに、
前記粗動機構の運動軸に垂直に設置された基準平面に対する粗動機構の変位を検出する検出手段を備え、
前記粗動機構の変位誤差と創成すべき表面凹凸量との和を前記工具切込み機構に指令し、微細表面形状を創成することを特徴とする請求項1または2に記載の微細表面形状切削加工装置。
【請求項4】
被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、
該第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、
前記第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、
前記第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えた微細表面形状切削加工装置を用い、
前記第1のスライド機構の正方向の運動時に位置検出器から発生するパルス信号に同期して前記工具切込み機構により工具切込み量を高速に変化させ、前記第1のスライド機構の逆方向運動時には切削工具を待避させ、
かつ、前記第1のスライド機構が一往復する毎に前記第2のスライド機構を一定量送ることによって加工面上に微細表面形状を創成する微細切削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−123085(P2006−123085A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314821(P2004−314821)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】